企業には守らなければならない義務がさまざまありますが、そのなかのひとつに
安全配慮義務があります。
しかし、具体的に何をすべきか理解しづらいと感じる労務担当者も多いかと思います。
今回の記事では、安全配慮義務の概要や事例、企業の対応方法について解説します。
安全配慮義務とは
安全配慮義務とは、従業員の生命や身体の安全、心身の健康などを確保して働けるよう
配慮する義務のことです。
職場での労働災害を未然に防ぐための、安全衛生管理上の義務ともいえます。
企業は雇用契約上、従業員に賃金を支払う義務を負います。
しかし、ただ賃金を支払う義務を負うだけでなく、付随して従業員への安全配慮義務も
負います。
従業員が危険に遭遇し、たとえケガなどの被害がなかったとしても、事前の対策や
予防を怠っていただけで契約違反(債務不履行)となり、損害賠償責任を問われる
ケースもあります。
安全配慮義務違反の事例および防止対策
企業が配慮しなければならない内容について、特定の措置などの定めはありませんが、
従業員の職種や業務内容、就業場所など具体的な状況に応じた必要な配慮が求められます。
以下①〜③は、安全配慮義務違反となった事例です。
①〜③は典型的なケースですが、④⑤は働き方や環境の変化によって、新たに安全配慮義務
違反とならないように気を付けなければならないケースです。
各ケースとその対策例を参考に、安全配慮義務の取り組みに役立ててください。
①事故・災害
製麺会社で働く従業員が製麺機に左手を巻き込まれて骨折した事例です。
製麺機の刃にカバーをかぶせるなどの対策を行っていなかったことや、製麺機の危険性に
ついて十分な教育を行っていなかったことから、安全配慮義務の違反が認められました。
ただし、従業員側にも落ち度があるなどの事情も考慮されたため、従業員の過失割合が
3割と認定され、企業は損害額の7割の賠償責任を負うこととなりました。
なお、厚生労働省のサイトに、業種別の安全対策に関する資料が紹介されています。
参考にしてください。
②過重労働
月100時間を超える時間外労働が長期間行われていた事例です。
実際に体調を崩していない状況にも関わらず、安全配慮義務の違反が認められました。
長期間に渡り長時間労働をさせているにもかかわらず、労働時間の減少のための対策を
講じなかったことによる責任です。
一般的に、過重労働による安全配慮については、従業員に何らかの病気や精神障害などが
発症し、その要因が長時間労働であると判断されたことにより義務違反が認められますが、
この事例は、疾病の発症が判断とはなっていません。
長時間労働が従業員の健康に危険を及ぼすことは周知の事実です。
だからこそ、企業による労働時間の管理や長時間労働などの対策は非常に重要です。
過労死ラインとされる「2~6か月の平均残業時間が80時間」「1か月の残業時間が100時間」の水準を超えていなくても、これに近い残業を行っている場合は義務違反となる
可能性が高くなります。
なお、過重労働は労働時間の長さだけで判断されるものではありません。
長時間労働以外の要因による大きな負荷がかかっていなかったかなども考慮して
判断されます。
③ハラスメント
暴言や暴行などのパワーハラスメントを受けて後遺症が残った事例です。
ある従業員がパワーハラスメントを受けていることを上司が認識しているにもかかわらず、
企業が何の対応も行わなかったことに対して、安全配慮義務の違反が認められました。
④在宅勤務
在宅勤務では直接従業員の様子を確認できないため、労働時間の管理が難しく、労働時間が
長時間になる傾向があります。
労働時間の管理が不完全であったり、長時間労働による心身の不調が見られた場合、安全
配慮義務違反となる可能性もあります。
⑤副業・兼業
従業員の副業や兼業を認めている企業では、副業や兼業先での労働時間も考慮する必要が
あります。
適切な対応を行わなかったことにより従業員が体調を崩してしまった場合など、安全配慮
義務違反となる可能性もあります。
なお、従業員が個人事業主として事業を行っている場合の兼業については注意が必要です。
個人事業主は労働基準法が適用されないため法定労働時間の問題は生じません。
そのため個人事業主として兼業している従業員への配慮は不要と考えられがちです。
しかし、企業はその従業員を雇用している以上、心身の疲労など健康への安全配慮を
行わなければなりません。
個人事業主であっても定期的に勤務状況などを報告させることをおすすめします。
時間の把握を行うとともに、心身の不調などが見られる場合は適切な措置を行う必要が
あります。
安全配慮義務を怠ったときの罰則
①労働契約法
安全配慮義務が定められている労働契約法では、義務を怠ったことによる罰則の定めは
とくにありません。
ただし、安全配慮義務を怠ったことにより何らかの問題が発生した場合など、状況によって
は民事上の責任(債務不履行、不法行為責任、使用者責任など)として多額の損害賠償を
請求される可能性もあります。
②労働安全衛生法
労働安全衛生法には、従業員の安全と健康を守るために企業が取り組まなければならない
義務などが定められています。
義務を怠った場合には罰則があります。
労働安全衛生法はあくまでも最低限守るべき基準です。
この基準を満たすだけで足りるというものではなく、個別の状況に応じた最低基準以上の
必要な対策を行うことが安全配慮義務では求められています。
労働安全衛生法上の罰則を免れられたからといって、必ずしも民事上の損害賠償責任が
ないとはいえません。
おわりに
安全配慮義務違反による罰則が適用されなかったとしても、違反を問われるような状況が
起きれば、従業員だけではなく企業の社会的信頼も失いかねません。
その結果、取引先からの信用失墜、優秀な人材の流出など、大きなダメージを受ける可能性
もあります。
安全配慮義務は、従業員の危険をあらかじめ予測し対策を行うものです。
どのように取り組むべきか分かりにくい場合があるかもしれません。
労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタントなどの、労働安全や労働衛生の専門家に
相談するのもひとつの方法です。
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