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- 【2024年度版】被扶養者資格の再確認
毎年度実施されている、全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)の「被扶養者資格の 再確認」が、今年度も行われます。 社会保険の適用拡大により、2024年10月から厚生年金保険の被保険者数51人以上の 企業は特定適用事業所となり、社会保険の適用対象となる短時間労働者の範囲が さらに広がっています。 従業員の家族が短時間労働者として社会保険を取得するケースもあるため、再確認の 際には扶養解除の申出漏れがないように従業員に周知することも大切です。 今回の記事では、協会けんぽに加入している企業の実務担当者が理解しておくべきポイント を解説します。 なお、健康保険組合でも同様に被扶養者資格の再確認が実施されますが、実施時期や 確認方法はご加入の健康保険組合にご確認ください。 被扶養者状況リストの到着 2024年10月上旬から11月上旬にかけて、協会けんぽから企業宛に被扶養者状況リスト などの書類が届いています。 企業はこの被扶養者状況リストをもとに、被扶養者資格の再確認を進めていきます。 再確認ができない状態が続く被扶養者については、法令等により被保険者証が無効となる 可能性もありますので、必ず提出してください。 なお、再確認の対象となる被扶養者がいない事業所には書類は発送されないため、今回の 再確認および提出は不要です。 1 対象となる被扶養者 対象となるのは、 2024年9月14日現在の被扶養者 です。(任意継続被保険者の被扶養者を 除く) ただし、以下の被扶養者は対象外のため再確認は不要です。(被扶養者状況リストの備考 欄に「確認不要」の印字がされています。) ・2024年4月1日時点で18歳未満(2006年4月2日以降生まれ)の被扶養者 ・2024年4月1日以降に被扶養者となった人 2 書類の種類 協会けんぽより書類一式が届いたら、以下の書類が同封されているか確認してください。 ①被扶養者状況リスト(2枚複写) ②被扶養者資格の再確認方法やリストの記入方法等についてのリーフレット ③被扶養者調書兼異動届 ④被扶養者現況申立書 ⑤マイナ保険証利用促進チラシ ⑥返信用封筒 3 提出期限 2024年11月29日(金) 従業員への扶養状況の確認 ここからは、被扶養者資格の再確認の手順について解説します。 まずは、被保険者である従業員に対し、被扶養者ごとの確認区分に応じた認定要件 (今後も継続して被扶養者となるために確認が必要な要件)を満たしているか確認を します。 1 確認区分とは 協会けんぽでは、2024年5月10日〜8月13日に実施したマイナンバー情報の照会で取得した被扶養者情報をもとに、被扶養者を以下の7つの区分に分けています。 この区分を確認区分といい、被扶養者状況リストの「確認区分」欄に記載されています。 (出典) 協会けんぽ『被扶養者資格の再確認とご提出のお願い』P3 確認は文書または口頭で行います。協会けんぽより調査票が紹介されていますので、 参考にしてください。 参考・ダウンロード| 協会けんぽ『被扶養者資格再確認調査票 表(Excel)』 参考・ダウンロード| 協会けんぽ『被扶養者資格再確認調査票 裏(PDF)』 2 確認内容 確認区分によって確認する内容が異なります。 なお、今回の記事において、年収に関して「130万円」とされる部分については、60歳以上 または障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者は「180万円」に読み替えて対応 してください。 ①同居 【確認内容】 被扶養者の今後の見込み年収額が、「130万円未満」かつ「被保険者の年収の1/2未満」であるか ②別居 【確認内容】 被扶養者の今後の見込み年収額が、「130万円未満」かつ被保険者からの「仕送り額より 少ない」か ③要同居 【確認内容】 被保険者と同居が必要な被扶養者について、以下のいずれも満たしているか ・被保険者と同居(同一の世帯または世帯分離)している ・「①同居」の要件を満たしている 世帯分離など、同居していても別世帯である場合は「要同居」として判定されるため、 同居の確認が必要となります。 被保険者と同居が必要であるかは、以下の図を参考にしてください。 ④海外在住 被扶養者は、原則として国内に居住している(日本国内に住民票がある)ことが必要です。ただし、留学生や海外赴任に同行する家族など、海外特例要件を満たし、必要な届出を 行った場合は被扶養者になることができます。 【確認内容】 以下の図の海外特例要件を満たしているか ⑤資格重複 【確認内容】 被扶養者自身が被保険者として健康保険に加入していないか 被扶養者自身が被保険者になった場合は扶養解除となります。 国民健康保険の脱退手続を失念していたなど、現在ほかの健康保険への資格取得をして いない場合は、国民健康保険の脱退手続を行うことで今後も継続して被扶養者となれる 可能性があります。 ⑥収入超過 【確認内容】 以下の2点を確認してください。 ・被扶養者の現時点および今後の見込み年収額 ・収入超過の原因が人手不足による労働時間延長等に伴う一時的なものであるか 確認後、その結果に応じた対応をすることとなります。 【人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入超過への対応】 被扶養者の年収が130万円以上であっても、人手不足による労働時間の延長等により一時的 に収入が増加している場合は、「一時的な収入変動」に係る事業主の証明書を提出すること で被扶養者と認められる場合があります。 以下の証明書を従業員に渡し、被扶養者に勤務先の事業主の証明書を発行してもらうように 伝えてください。 なお、この措置は、あくまで一時的な事情として認定を行うことから、同一の被扶養者に つき原則として連続2回までです。 参考・ダウンロード| 厚生労働省『被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動」に係る事業主の証明書』 ⑦判定不能 被扶養者の現在の状況(収入額、同居または別居かなど)を確認し、どの確認区分に該当 するかを判断します。 次に、その確認区分に従って認定要件の確認を行ってください。 確認結果を被扶養者状況リストに記入 従業員に扶養状況を確認後、その結果を被扶養者状況リストに記入します。 1 正しい確認区分を記入する(現況と相違がある場合のみ) 被扶養者状況リストに記載されている確認区分が現況と相違する場合は、二重線で抹消し 正しい確認区分を記入します。 2 認定要件を満たすとき 継続して被扶養者となります。「変更なし」の欄にチェックを入れてください。 確認区分が「判定不能」の被扶養者が以下に該当する場合は、該当項目にもチェックを 入れます。 【被扶養者が被保険者と別居の場合】 「被保険者と別居している」にチェック 【被扶養者が海外に在住(国内に住民票なし)の場合】 「海外に在住している」にチェック 3 認定要件を満たさなかったとき 扶養を解除しなければなりません。「解除となる」の欄にチェックを入れ、備考欄に解除 理由の番号(①死亡 ②離婚 ③就職 ④収入増加 ⑤75歳到達 ⑥障害認定 ⑦その他)を記入 してください。 【今回扶養から解除となる場合】 「解除となる」欄にある「被扶養者調書兼異動届を添付」欄にチェックし、備考欄に解除 理由の番号を記入 【すでに被扶養者異動届または資格喪失届を提出済の場合】 「解除となる」欄にある「日本年金機構へ届出済」欄にチェックし、備考欄に解除理由の 番号を記入 提出書類の準備および郵送 提出書類は、認定要件の確認結果(「変更なし」または「解除となる」)や被扶養者の確認区分によって異なります。 以下の図を参考に被扶養者ごとに必要な提出書類を準備のうえ、 2024年11月29日(金) までに同封の返信用封筒で協会けんぽに提出してください。 ここからは、各提出書類について解説します。 1 被扶養者状況リスト ここまで解説した手順にしたがって、リストを作成してください。 なお、このリストは2枚複写です。1枚目を提出し、2枚目は事業主控として保管してくだ さい。 2 被扶養者現況申立書 被扶養者が以下に該当するときに、現在の状況を申し立てる書類です。 ・被保険者と別居 ・海外在住 ・世帯分離をしているとき ・確認区分が「収入超過」と判定されているが、扶養を継続するとき 参考・ダウンロード| 協会けんぽ『被扶養者現況申立書』 3 仕送りの事実と仕送り額が確認できる書類 送金者名、受取人名および仕送り額が確認できる書類を提出します。(直近1か月分) なお、学生は省略可能です。 振込の場合:預金通帳等の写し、振込明細書など 送金の場合:現金書留の控えなど 4 被保険者と被扶養者の住民票 世帯分離をしているとき、確認区分が「要同居」と判定されることがあります。 その場合、同じ住所に住んでいることを証明するため、住民票を提出します。 5 海外特例の該当が確認できる書類 該当する海外特例要件ごとに定められた書類を提出します。 6 被扶養者調書兼異動届、健康保険証 確認の結果、扶養解除となる被扶養者がいる場合、被扶養者調書兼異動届を記入のうえ 提出します。 このとき、被扶養者の健康保険証も返却となるため添付してください。(高齢受給者証や 特定疾病療養受療証なども交付されている場合、これらも返却となるため添付) 参考・ダウンロード| 協会けんぽ『被扶養者調書兼異動届』 なお、健康保険証を返却できない場合、健康保険被保険者証回収不能届を添付してくだ さい。 参考・ダウンロード| 協会けんぽ『健康保険被保険者証回収不能届』 おわりに 本来、被扶養者が扶養の要件に該当しなくなったときは、その都度、被保険者である従業員 が企業に報告しなければなりません。 しかし、扶養から外す報告は忘れがちな報告のひとつです。 そのためにも、たとえば卒業・就職などライフスタイルが変わる人の多い4月前後には扶養 の外し忘れがないよう社内周知するなど、従業員の扶養に関する認識を高めることをおすすめします。
- 専門業務型裁量労働制の基礎知識と導入方法
労働時間に縛られず柔軟に働くことのできる制度のひとつとして 「 専門業務型裁量労働制 」があります。 しかし、2021年に厚生労働省が公表した「裁量労働制実態調査」の結果によると、 通常の働き方よりも労働時間が長時間になる傾向が見受けられたため、 2024年4月から制度を適用するときには従業員個人の同意が必要となるなどの改正が行われました。 この記事では、専門業務型裁量労働制の基礎知識や導入方法について解説します。 なお、今後公開の記事では、専門業務型裁量労働制の実務対応や企業が押さえておきたい ポイントを解説する予定です。 専門業務型裁量労働制とは 専門業務型裁量労働制は、従業員の裁量が大きく、企業が業務遂行の方法や時間配分の 決定等を指示することが難しい20の業務について、労使協定の締結と従業員の同意を 得ることであらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。 働いた時間ではなく、仕事の成果や実績などで評価が決まる制度といえます。 制度を導入している企業における業務別割合をみると、情報処理システムの分析・設計や 新商品・新技術の研究開発、大学における教授研究の業務などが高くなっています。 参考| 厚生労働省『「裁量労働制実態調査」の結果を公表します』P11 専門業務型裁量労働制のメリット・デメリット 専門業務型裁量労働制には、メリット・デメリットがあります。 それぞれを理解したうえで導入を検討することをおすすめします。 デメリットの部分については注意が必要です。 特に、従業員の裁量に任せたことで長時間労働が常態化し、従業員の健康が害された 場合などは、企業は安全配慮義務を問われる可能性があります。 そのため従業員が働いた時間は必ず記録し、長時間勤務の傾向が見受けられるときは、 健康・福祉確保措置を含む適切な対応を行ってください。 専門業務型裁量労働制の導入方法 専門業務型裁量労働制の導入は、以下の流れで行います。 ここからは、それぞれの流れについて詳しく解説します。 1 労使協定の締結 まずは、過半数労働組合または過半数代表者と労使協定を結ぶ必要があります。 労使協定で定めなければならない事項は以下の10項目です。 なお、締結した労使協定は、従業員に対して周知する必要があります。 ①対象となる業務 専門業務型裁量労働制の対象となる業務は、法令等で定められた 20種類の業務 です。 以下の20種類の業務の中から、企業が専門業務型裁量労働制の対象とする業務を定める 必要があります。 参考| 厚生労働省『専門業務型裁量労働制の解説』P6~8 なお、対象業務に従事する従業員がいる場合でも、業務遂行の方法や時間配分の決定等の 裁量が従業員にないときには、専門業務型裁量労働制を適用することはできません。 また、対象業務とそうではない業務を掛け持ちで行っている場合、専門業務型裁量労働制を 適用することができない場合があります。 適用できるか判断に迷う場合は労働基準監督署へご相談ください。 以下の厚生労働省のサイトには、具体的な対象業務が記載されています。 参考にしてください。 参考| 厚生労働省『専門業務型裁量労働制の解説』P6~8 ②1日のみなし労働時間 適用される従業員の、1日のみなし労働時間を具体的に定める必要があります。 このとき、フレックスタイム制のように、1週間や1か月といった単位で時間を定めることは できません。 また、みなし労働時間を定めるにあたっては、労使で協議のうえ設定します。 賃金などの処遇についても業務内容などを十分考慮し、相応のものとなるように設定する 必要があります。 ③業務遂行の方法、時間配分などの具体的指示を従業員にしないこと 対象となる業務の遂行方法や時間配分の決定等について、企業が適用される従業員に 具体的な指示をしないことを定める必要があります。 始業や終業時刻を指示してしまうなど、従業員の裁量が失われることがあると、制度の 適用外となってしまいます。 そのため、特に適用される従業員の直属の上司は制度を熟知していることが大切です。 ④健康・福祉確保措置の具体的内容 専門業務型裁量労働制を導入した場合でも、タイムカードやパソコンの使用時間の記録 などの客観的な方法で労働時間を把握する必要があります。 そのうえで、把握した労働時間をもとに、企業は「どの」健康・福祉確保措置を「どのように」実施するのかについて定める必要があります。 実施が望まれる健康・福祉確保措置は以下のとおりです。なお、2024年4月から、健康・ 福祉確保の強化のために措置が追加されています。 ⑤苦情処理措置の具体的内容 適用される従業員の苦情に対応するための措置を企業が実施することと、その措置の 具体的な内容を定める必要があります。 具体的な内容は、苦情を受け付ける窓口や担当者、対応の手順や方法などです。 また、評価制度や賃金制度などに関する苦情も受け付けることが望ましいとされています。 さらに、労務担当者以外の者を窓口にするなど、従業員が苦情を申出しやすい体制の整備も してください。 ⑥従業員の同意を得ること 制度の適用を受けることについて、従業員本人の同意を得ることを定める必要があります。 この同意は、適用対象の従業員一人ひとりと、労使協定の有効期間ごとに得なければ なりません。 ⑦同意をしなかった従業員に不利益取扱いをしないこと 制度の適用に同意をしなかった従業員に対して、解雇やそのほかの不利益な取扱いをしては ならないことを定める必要があります。 ⑧同意撤回の手続き 同意撤回の申出先や方法などの具体的な内容を含む、従業員の同意撤回の手続きについて 定める必要があります。 ※⑥⑦⑧については、2024年4月の法改正により追加された事項です。 「4 従業員の同意」で詳しく解説します。 ⑨労使協定の有効期間 労使協定の有効期間を定める必要があります。 労使協定は一定期間ごとにその内容を見直すことが大切となり、長くても3年程度の 有効期間がおすすめです。 ⑩労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意および 同意の撤回の従業員ごとの記録を協定の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること 企業は、労使協定の有効期間中および期間満了後の3年間は、従業員ごとの記録を保存する ことを定める必要があります。 2 就業規則の整備 労使協定を締結するだけで専門業務型裁量労働制を導入することはできません。 従業員本人から同意を得る前に、 就業規則に制度の規定を定める 必要があります。 従業員数10人未満で就業規則を作成していない企業は、個別の労働契約で定めることも できますが、トラブル防止等のためにも就業規則の作成をおすすめします。 就業規則に定める場合は、以下の規定例を参考にしてください。 (出典) 厚生労働省『専門業務型裁量労働制の解説』P17 就業規則を作成・変更した後は、従業員に対して周知する必要があります。 3 労働基準監督署への届出 締結した労使協定は、管轄の労働基準監督署へ届出が必要です。 また、従業員数10人以上の企業は、整備した就業規則も管轄の労働基準監督署に届出 しなければなりません。 労使協定の届出の記入例とひな形は以下を参考にしてください。 参考| 厚生労働省『専門業務型裁量労働制に関する協定届』(記入例) 参考・ダウンロード| 厚生労働省『専門業務型裁量労働制に関する協定届』(ひな形) 4 従業員の同意 2021年に厚生労働省が公表した「裁量労働制実態調査」の結果によると、裁量労働制 (専門業務型および企画業務型)を適用している企業は、裁量労働制を適用していない 企業に比べ、1か月平均の労働時間と1日平均の労働時間のいずれもが長いという結果 となりました。 こうした背景のもと、2024年4月から、専門業務型裁量労働制を適用するためには 従業員の個別の同意 が必要となりました。 なお、この同意は適用対象の従業員一人ひとりと、労使協定の有効期間ごとに得なければ なりません。 従業員から同意を得るときには、以下の事項を明示しながら、従業員が正しく理解、 納得できるように説明することが大切です。 ①労使協定の内容など制度の概要 ②同意した場合に適用される賃金・評価制度の内容 ③同意をしなかった場合の配置および処遇 【制度に関する説明書 例】 (出典) 厚生労働省『専門業務型裁量労働制の解説』P20 そのうえで、従業員の疑問にすべて対応して同意を得てください。 同意の取得については、書面や電子メール、イントラネットのような電磁的記録などの 確実な方法で行うことをおすすめします。 なお、従業員ごとの同意に関する記録は労使協定の有効期間およびその後3年間保存 しなければなりません。 【制度適用に関する同意書 例】 (出典) 厚生労働省『専門業務型裁量労働制の解説』P21 また、同意した場合でも後で撤回できます。 同意を撤回するときの申出書は以下を参考にしてください。 参考| 福岡労働局『専門業務型裁量労働制に関する同意の撤回申出書』 【雇用契約書の変更・再締結】 通常の労働時間制などから専門業務型裁量労働制へ変更した場合、労働時間などの 労働条件が変更となります。 賃金の変更を伴うケースも多く、書面により変更内容を伝えることはトラブル防止にも なります。そのため、雇用契約書を変更のうえ再締結してください。 (労働条件通知書による明示も可能) 5 制度の実施 ここまでの流れを経て初めて、実際の労働時間ではなくみなし労働時間で就業させることができます。 労使協定で定めた内容に沿って、制度を運用してください。 なお、専門業務型裁量労働制における割増賃金の考え方や適用除外となる者などについては、今後公開の記事を参考にしてください。 6 協定の期間満了 労使協定の有効期間が満了したら、専門業務型裁量労働制をそのまま継続することは できません。 継続したい場合は再び「1 労使協定の締結」から始める必要があります。 おわりに 専門業務型裁量労働制の導入には、メリットとデメリットの理解が大切です。 労使協定で定めなければならない項目は多くありますが、企業と従業員の双方にとって 良い制度となるように、従業員とコミュニケーションを取りながら自社に適したルール 設定を行ってください。 今後公開の記事では、専門業務型裁量労働制の実務対応について解説します。
- 同一労働・同一賃金の基礎知識
2021年4月のパートタイム・有期雇用労働法改正の全面施行から、数年が経過しました。 この改正に伴う同一労働同一賃金は対応が多岐に渡り、一度の見直しで終わらない取り組み といわれています。 そこで今回の記事では、今一度、同一労働同一賃金の対応を行う前に押さえるべき要点を 整理していきます。 なお、今回は直接雇用する短時間・有期契約労働者についての対応を取り上げます。 同一労働同一賃金とは 同一労働同一賃金とは、同じ企業内の正社員やフルタイムの無期契約労働者と短時間・有期 契約労働者を比較して、両者のあいだの不合理な待遇差や差別的取扱いの解消を目指すもの です。 たとえば業績への貢献に応じて支給される賞与について、以下の場合は不合理もしくは差別 的と認識され、問題となる可能性があります。 ・正社員と同程度に貢献した有期契約労働者の賞与額が、正社員の賞与額よりも少ない ・正社員には業績への貢献等にかかわらず全員に対して何らかの賞与を支給しているが、 パート・アルバイトには支給していない など 現在、同一労働同一賃金の対応は、すべての企業の義務となっていますが、パートタイム・ 有期契約労働法には、不合理な待遇差や差別的な取扱いについての罰則規定は定められて いません。 しかし、これらを理由に労働者から損害賠償を求められるケースも少なくありません。 同一労働同一賃金の対応が遅れていたり、再度見直すべき箇所があるなどの場合、企業に とって大きなリスクとなり得るため早急な対応が必要です。 対応前に押さえておきたいポイント 同一労働同一賃金の対応は、まず社内の雇用形態を確認することから始まります。 雇用形態間の待遇差の有無を確認し、待遇差がある場合はそれが不合理ではないかを調べ、 問題がある場合は改善策を検討し取り組みます。問題がない場合は、短時間・有期契約労働 者の求めに応じて「待遇の内容」や「待遇差の理由」を説明できるよう書面等の準備を行い ます。 この一連の流れを実施するにあたり、押さえておきたいポイントは以下の5項目です。 1 対象者となる労働者 同一労働同一賃金の対応では、社内の通常の労働者と、社内の短時間労働者・有期契約労働 者を比較します。 通常の労働者とは、正社員(正規型の労働者)やフルタイムの無期契約労働者のことで、 その中でも、総合職の正社員、一般職の正社員、限定正社員など、複数の区分がある場合は、それぞれの通常の労働者と短時間・有期契約労働者のあいだにおいて不合理な待遇差を 解消する必要があります。 短時間・有期契約労働者については、自社の区分や名称に関わらず「労働契約期間の定め」 と「1週間の所定労働時間」の2つの観点から対象者を確認することがポイントです。 (出典) 厚生労働省『不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル』P26、27 無期転換や定年後の継続雇用を行っているケースでは以下のように考えます。 2 基本となる考え方 通常の労働者と短時間・有期契約労働者のあいだで、個々の待遇ごとに不合理な差を設ける ことは禁止されています。 この対応の基本となる考え方が 均等待遇 と 均衡待遇 です。 3 考慮される要素 「 職務内容 」「 職務内容・配置の変更範囲 」「 その他の事情 」の3要素は、 考慮要素 と 呼ばれています。 これらは主に、各待遇が均等待遇と均衡待遇のどちらの対象になるかを具体的に判断する ときや、待遇差が不合理か否かを判断するときなどに使用します。 4 原則的な取扱いパターン 各待遇の内容を精査したうえで、それをどのように扱うかには、原則的に3つのパターンが あります。 厚生労働省が発行したガイドラインには、上記の原則パターンを軸に、さまざまな待遇の 「問題となる例」「問題とならない例」が記載されています。自社の待遇とまったく同じ 条件はなくとも、対応の方向性を把握するための参考にしてください。 参考| 厚生労働省『同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)』P5~P15 5 待遇差の説明義務 企業は、短時間・有期契約労働者からの求めに応じて、通常の労働者との待遇差や、待遇差 の理由を説明することが義務付けられています。 以下の3点を押さえた説明が必要です。 ①比較する通常の労働者 社員の区分が複数ある場合、すべての区分において不合理な待遇差を解消する必要があり ますが、説明義務においては職務内容等が最も近い通常の労働者を比較対象として 選びます。 ②待遇差の内容と理由 待遇の決定基準、待遇の個別具体的内容、違いが生じている理由などを整理します。 ③説明の方法 就業規則や説明事項をまとめた書面など、資料を用いながら口頭で行うことが一般的です。 おわりに 待遇差が不合理かどうかは、最終的には司法の判断に委ねられます。 しかし、まずは各企業がパートタイム・有期雇用労働法の趣旨に基づき、自社で判断して いくことが必要です。 今回の内容は、いずれも同一労働同一賃金の対応においてカギとなるポイントですので 、しっかりと把握しておくことが求められます。
- 外国人雇用時に知っておきたい在留資格の基礎知識と創設される育成就労制度
厚生労働省の外国人雇用状況(2023年10月時点)によると、外国人労働者は約204万人と 初めて200万人を超え、過去最高となっています。国内では依然として深刻な人手不足が 続いており、今後も外国人労働者の受け入れは増加が予測されます。 今回の記事では、外国人が働くことができる在留資格や、企業が外国人を雇用するときの 基本対応、法改正により新たに創設される「育成就労制度」について解説します。 外国人が働ける在留資格 1 在留資格とは 在留資格とは、外国人が日本に滞在するための資格です。 一定の活動を行えること、あるいは、一定の身分や地位があることを示します。 在留資格は29種類あり(2024年10月1日時点)、資格ごとに活動内容が決まっています。 「一定の範囲で就労が認められている在留資格」「就労が認められない在留資格」 「就労に制限のない在留資格」に大きく分けられます。 参考| 出入国在留管理庁『在留資格一覧表』 2 外国人留学生の「資格外活動許可」と労働時間管理 外国人留学生の在留資格である「留学」は、原則就労ができません。 しかし本来の目的である学業を妨げないことを前提として 資格外活動許可 を取得すると、 週28時間以内(※)で就労ができます(風営法の規制対象は除く)。 ※学校が定める長期休暇中に限り、週28時間を超えての労働(1日8時間、週40時間まで)も可能 外国人留学生を雇用するときは、資格外活動にかかわる誓約書を提出してもらうことも ひとつの方法です。以下を参考にしてください。 参考・ダウンロード| 資格外活動にかかわる誓約書(任意書式) 3 「技能実習制度」と「特定技能制度」の違い 在留資格の中でも「技能実習」と「特定技能」は名称が似ているため混同されがちですが、 制度の目的は大きく異なります。 目的が異なれば当然ながら制度内容も異なります。 たとえば、「技能実習制度」では、技能水準や日本語能力が求められないのに対し (介護職種のみ日本語能力が必要)、「特定技能制度」では、相当程度の知識や経験、日本語能力が必要です。 以下の図は、技能実習(団体監理型)と特定技能(1号)の比較表です。 (出典) 出入国在留管理庁『外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組』P8 なお、法令等の改正により、2027年頃を目途に「技能実習制度」は廃止され、新たな 在留資格として 「育成就労制度」が創設 される予定です。 「育成就労制度」の創設 1 育成就労制度の導入背景 「技能実習」の目的は、人材育成を通じた技能(技術や知識など)の移転による 国際貢献です。 しかし、実態は企業に労働力として利用されている状況も多いとされています。 このほか、技能実習制度では、以下のような問題点が挙げられています。 国内の生産年齢人口(生産活動を中心となって支える15〜64歳の人口)の減少は、一層 加速すると予想されています。 さらに、総人口の減少や高齢化にはますます拍車がかかり、国内の人手不足もより一層深刻になるとみられています。 そのとき外国人労働者は貴重な労働力となるものの、近隣諸国との人材獲得競争も激化 しており、今後は外国人労働者の確保がより難しくなるとも予想されています。 こうした問題を解消するため、「技能実習制度」を廃止し 「育成就労制度」が創設 される こととなりました。 2 育成就労制度とは 育成就労制度とは、対象となる分野において外国人労働者を原則3年間就労させながら 「特定技能1号」レベルに達するよう育成し、その分野で長期的に活躍してもらえる人材の 育成および確保を目的とする制度です。 対象となる分野は特定技能の受け入れ対象分野(以下、特定産業分野)と合わせる予定で あるため、育成就労の後、特定技能へ移行がスムーズになります。 (育成就労の受け入れ対象分野の設定については「3 技能実習生の受け入れ企業が知って おくべきこと」も参考にしてください。) また、激化する近隣諸国との人材獲得競争において、外国人労働者に日本を選んでもらえる 魅力ある制度への見直しも行われます。 なお、育成就労制度の創設に伴い「技能実習制度」は廃止されます。 在留資格も新たに「育成就労」が加わり、「技能実習」は廃止されます。 【施行時期】 施行日は未定ですが、改正法の公布日(2024年6月21日)から起算して3年以内の施行が 決まりました。 そのため、2027年頃に開始される見通しです。 【在留期間】 育成就労による在留期間は原則として3年です。 その後、一定の技能や日本語能力にかかる試験に合格して「特定技能1号」に移行すると プラス最長5年、さらに「特定技能2号」に移行すると在留期間の通算の上限がなくなり ます。 外国人労働者のキャリア形成を支援することにより、日本での長期的な就労が期待され ます。 【育成就労から特定技能1号、2号への移行イメージ】 (出典) 出入国在留管理庁『育成就労制度の概要』P2 特定技能制度では、外国人労働者には一定の専門性や技能を有していることと、即戦力と なることが求められます。 一方、育成就労制度では、技能に関する要件はありません。 ただし、就労開始までに一定の日本語能力を身に付けておくことが求められます。 3 技能実習生の受け入れ企業が知っておくべきこと ①いつまで技能実習生の受け入れが可能か 改正法の施行日時点で受け入れている技能実習生については、認定を受けた計画 (以下、技能実習計画)に基づき、引き続き技能実習を続けることが可能です。 「技能実習1号」から「技能実習2号」への移行も可能とされていますが、「技能実習3号」 への移行については今後省令で示される予定です。 なお、施行日までに技能実習計画の認定申請を行っている場合、施行日から起算して 3か月以内に技能実習を開始するときは、技能実習生として受け入れできる可能性もあります。 ②受け入れ対象分野の設定 育成就労制度により外国人を受け入れる場合は、あらためて受け入れ対象分野 (以下、育成就労産業分野)を設定します。 育成就労産業分野は、原則として特定産業分野と同じ分野になる予定です。 (ただし、国内での育成になじまない分野は対象外となる見込み)詳細は施行日までに決定されます。 ③手続などの詳細 育成就労制度の手続のほか、制度の詳細については現在検討が進められています。 決まり次第公表される予定です。 外国人を雇用するときの基本対応 1 在留カードで在留資格と在留期間を確認する 在留カードを所持していない外国人は原則就労ができません(一部例外あり)。 外国人を雇用するときは、在留カードを確認してください。 外国人留学生を新規採用するときは、「留学」から卒業後の在留資格へ変更手続が必要です。 在留資格の変更が許可されるまでは2か月程度かかり、手続も煩雑です。 変更手続後、入社日までに新しい在留資格の許可が間に合わないときは働かせることが できないため、内定から入社までのあいだに変更ができているか確認してください。 2 労働条件や社会保険・労働保険制度などを説明する 労働関係法令および社会保険関係法令は、国籍にかかわらず適用されます。 しかし、日本では当然とされているルールが外国人労働者にとっては馴染みがなく十分に 理解できていないことも想定されます。 やさしい日本語を使うなどの工夫をしながら、分かりやすく説明することが大切です。 外国人労働者への説明等の支援ツールが、厚生労働省サイトで紹介されています。 参考にしてください。 参考| 厚生労働省『外国人の方に人事・労務を説明する際にお困りではないですか?』 3 ハローワークに雇用状況を届け出る 外国人(外交、公用、特別永住者を除く)の雇入れと退職があったときは、すべての企業に 対し、外国人雇用状況の届出が法令等で義務付けられています。 正社員だけではなく、パート・アルバイト、契約社員など名称にかかわらず、また雇用保険 加入の有無にもかかわらず、すべての外国人労働者が対象となります。 届出方法は、外国人労働者が雇用保険の被保険者となるか否かで異なります。 詳しくは、以下のパンフレットを参考にしてください。 参考| 厚生労働省『外国人雇用はルールを守って適正に』 なお、これらの手続は電子申請で届出を行うこともできます。 ・雇用保険被保険者資格取得届:「e-Gov」から申請可能 ・雇用保険被保険者資格喪失届(および離職証明書):「e-Gov」から申請可能 ・外国人雇用状況届出書 :「外国人雇用状況届出システム」から申請可能 参考| 厚生労働省『外国人雇用状況届出書(様式第3号)による届出はインターネットで登録できます』 4 外国人労働者を常時10人以上雇用するときは「外国人労働者雇用労務責任者」を選任 外国人労働者を常時10人以上雇用するときは、外国人労働者が適切な労働条件や安全衛生の もと能力を発揮して働けるよう、雇用管理の改善等に関する責任者を選任する必要があり ます。 ハローワークなどへの届出の必要はありません。 不法就労者を雇用したときの罰則 「在留資格の有効期限切れ」「就労できない在留資格」「認められた職種以外」などの 就労は不法就労となり、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの両方を 課すと定められています。 罰則は、不法就労をした本人だけでなく、不法就労となる外国人を雇用した企業にも 適用されるおそれがあります。 就労できるかどうかの確認を怠った結果、不法就労があったとされるときは責任を問われる ため注意が必要です。 おわりに 外国人労働者は、人手不足の日本にとって貴重な労働力です。 しかし就労できる職種や働ける時間が異なるなど、在留資格制度は複雑で分かりにくく、 制度を理解せずに雇用を進めた結果、トラブルや早期離職につながるケースも見受けられます。 今回の記事を参考に、法令等違反にならないよう正しく法令等を理解し、外国人労働者の 労務管理にご活用ください。
- 令和6年分年末調整の変更点と定額減税の計算方法(年末調整書き方ガイド付)
企業が給与を支払うときに、役員や従業員(以下、従業員)の給与や賞与(以下、給与等) から所得税を徴収することを 源泉徴収 といいます。 しかし毎月徴収している所得税の額はあくまで概算の金額のため、年末調整により税額を 確定します。 年末調整 とは、年末に本来徴収すべき所得税の一年間の総額を再計算し、既に源泉徴収 している合計額と比較して過不足金額を調整することをいいます。 なお、令和6年6月から実施されている定額減税により、今回の年末調整では例年にはない 対応も必要となります。 今回の記事では、令和6年分の年末調整の変更点や定額減税の対応について解説します。 またマガジンの最後にはダウンロード可能な「年末調整書き方ガイド」もありますので お役立てください。 年末調整の対象となる人 年末調整の対象者は、年末調整を行う日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」 (以下、扶養控除等(異動)申告書)を提出した人です。 年末調整には、12月に行う年末調整と、年の途中で行う年末調整の2種類があります。 令和6年分年末調整について 令和6年9月、国税庁より「令和6年分年末調整のための各種様式等」が発表されました。 【令和6年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書のイメージ】 様式に変更はありません。 以下よりダウンロードしてください。 参考・ダウンロード| 国税庁『令和6年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』 【令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書のイメージ】 様式に変更はありません。 なお、こちらの様式に代えて、源泉徴収事務の簡素化等を図るため、新たに創設された 「簡易な申告書」の対応様式を使用することも可能です。 簡易な申告書については、次章「令和6年分年末調整のポイント(昨年からの変更点)」で 解説します。 以下よりダウンロードしてください。 参考・ダウンロード| 国税庁『令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』 【令和6年分 給与所得者の保険料控除申告書のイメージ】 令和6年分から、以下の続柄にかかる記載欄が削除されました。 ・「生命保険料控除」における「保険金等の受取人」欄にあった「あなたとの続柄」欄 ・「地震保険料控除」における「保険等の契約者の氏名」欄にあった「あなたとの続柄」欄 ・「社会保険料控除」における「保険料を負担することになっている人」欄にあった「あなたとの続柄」欄 以下よりダウンロードしてください。 参考・ダウンロード| 国税庁『令和6年分 給与所得者の保険料控除申告書』 【令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書のイメージ】 定額減税の実施に伴い、定額減税に関する以下の記載欄が追加されました。 ・給与所得者の基礎控除申告書:「本人定額減税対象」欄が追加 ・給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 :「配偶者定額減税対象」欄が追加 令和6年は「配偶者控除等申告書」に「年末調整に係る定額減税のための申告書」を兼ねた 様式となっています。 これにより、令和5年までは「配偶者控除等申告書」への記載が不要とされていた合計所得 金額1,000万円超から1,805万円以下の従業員も、この申告書への記載が必要となります。 (ただし、配偶者の令和6年の合計所得金額が133万円超の場合は記載不要) 合計所得金額が1,000万円超から1,805万円以下の従業員の場合、配偶者控除や配偶者特別 控除の適用を受けることはできませんが、配偶者の令和6年の合計所得金額が48万円以下 であれば、配偶者定額減税の対象となります。 以下よりダウンロードしてください。 参考・ダウンロード| 国税庁『令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書』 令和6年分年末調整のポイント(昨年からの変更点) 令和6年分の年末調整に関するポイントは以下の2つです。 ・定額減税の対応 ・扶養控除等(異動)申告書の簡略化 1 定額減税の対応 令和6年の年末調整における一番のポイントは、定額減税の対応です。 定額減税については、次章の「定額減税に関する事務(年調減税事務)」で詳しく解説します。 2 扶養控除等(異動)申告書の簡略化 源泉徴収事務の簡素化等を図るため、「 簡易な申告書 」が創設されました。 扶養控除等(異動)申告書の記載事項について、前年の申告内容と同じ場合には、 「前年から異動なし」など異動がない旨を余白に記載するだけで、 令和7年分 の扶養控除等 (異動)申告書から「簡易な申告書」としての提出が可能となります。 なお、以下の扶養控除等(異動)申告書は簡易な申告書にも対応している様式です。 この様式を使用すると「前年の申告内容からの異動」欄にチェックを入れて提出することが できます。 (出典)国税庁 『【簡易対応様式】令和7年分扶養控除等(異動)申告書』 簡易な申告書を提出する場合は、次のチェックリストを確認してください。 参考| 国税庁『扶養控除等申告書の提出について』 定額減税に関する事務(年調減税事務) 令和6年の年末調整では、年末調整時点(12月31日時点の見込み)の定額減税額(以下 「年調減税額」)に基づき精算を⾏います。これを年調減税事務といいます。 年調減税事務の流れは以下のとおりです。 1 年調減税の対象従業員の確認 年調減税が適用される従業員を確認します。 原則として、年末調整の対象となる従業員には年調減税が適用されますが、一部対象外と なる場合があります。 詳細については、下記も参考にしてください。 参考| 国税庁『令和6年分所得税の定額減税Q&A』P8 【合計所得金額が1,805万円を超える従業員について】 合計所得金額が1,805万円を超える従業員は、定額減税の対象外のため、年調減税の適用を 受けられません。 しかし、令和6年6月以降に支給された給与等の源泉徴収税額から控除された定額減税 以下、月次減税)を受けているため、年末調整で精算します。 (ただし、主たる給与(※)の収入金額が2,000万円を超える従業員については、年末調整の対象とならないため確定申告で精算を行います。) ※扶養控除等(異動)申告書を提出している従業員(甲欄適用者)に支払う給与等 年末調整では、後述の「年調減税額の計算」「年調減税額の控除」は行わず、 通常の 年末調整 と同じ流れで処理を行います。 ただし、源泉徴収票の記載は通常と異なります。後述の「源泉徴収票への表示」をご覧ください。 なお、合計所得金額が1,805万円を超えるかどうかの確認は「令和6年分 給与所得者の基礎 控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の左側にある「給与所得者の基礎控除申告書」の記載内容 で判断します。 【年末調整の対象とならない従業員について】 年末調整の対象外の従業員のうち、月次減税を受けている人(または途中まで受けていた人)は、確定申告で月次減税額を精算します。 2 年調減税額の計算 年調減税が適用される従業員について、年調減税の計算対象となる同一生計配偶者や扶養 親族がいるかどうかを確認します。 具体的には、 令和6年 の年末調整時に提出された以下の申告書に基づき、年調減税の計算 対象となるかを判断します。 各申告書の確認ポイントは下図のとおりです。確認後、計算対象となる同一生計配偶者や 扶養親族の人数をもとに「 計算対象者の人数✕30,000円 」を算出します。 (計算対象者数は従業員自身も1人としてカウントします。)この金額を 年調減税額 と いい、最終的に確定された定額減税額となります。 このように、年調減税事務では、年末調整時点の従業員の所得や扶養状況などを基に 年調減税額を算出して年間の所得税額との精算を⾏うため、月次減税を行った場合でも 年調減税は必要となります。 【各申告書の確認ポイント】 3 年調減税額の控除 年調減税額の控除は、以下の流れで行います。 ①年調所得税額の算出 住宅借入金等特別控除後の所得税額(以下、年調所得税額)の算出までは、通常の年末調整 と同じ手順で計算します。 ②年調減税額の控除 ①の年調所得税額から、上述「年調減税額の計算」で算出した 年調減税額 を控除します。 ただし、年調減税額が1の年調所得税額を上回る場合、控除できるのは年調所得税額まで が限度です。 ③年調年税額の算出、過不足の精算 年調減税額控除後(上記①-②)の金額に102.1%を乗じ、復興特別所得税を含めた 年調年税額 を算出します。 この年調年税額と、令和6年中に給与等から源泉徴収した所得税との差額を計算し 過不足の精算をします。 (出典) 国税庁『給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた』P 11 【年末調整計算シート】 年末調整計算シートとは、給与等の支給額や扶養親族の人数などの各種情報を入力する ことで、年末調整の税額計算を効率よく行うことができるExcelシートです。 年調減税にも対応した計算シートは、国税庁のサイトからダウンロードできます。 参考| 国税庁『年末調整計算シート』 参考・ダウンロード| 国税庁『年末調整計算シート(令和6年用)』(Excel) (出典) 国税庁『給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた』P12 4 源泉徴収票への表示 年末調整後に作成する「令和6年分 給与所得の源泉徴収票」(以下、源泉徴収票)の 「摘要」欄に年調減税の内容を表示します。 【年調減税額を控除しきれなかった場合】 年調所得税額から年調減税額を控除しきれなかった場合は、源泉徴収票に「控除外額」 として記載します。 (控除外額を、令和7年1月以降に支給される給与等にかかる源泉徴収税額からは控除することのないよう注意してください。) 控除外額は、住民税を課税する自治体からの調整給付のうち、不足額給付の計算に用いられます。 ただし、扶養に該当する場合やそのほかの状況により、控除外額と不足額給付の額が必ず しも一致するとは限りません。 【合計所得金額が1,805万円を超える場合】 定額減税の対象外ではありますが、年末調整の対象の場合は、源泉徴収票への定額減税額に 関する記載が必要であるため、「源泉徴収時所得税減税控除済額0円、控除外額0円」と記載 してください。 年末調整の対象ではない場合は、次の【年末調整を行わない場合】をご覧ください。 【年末調整を行わない場合】 年の途中で退職した場合や主たる給与の収入金額が2,000万円超の場合など、年末調整を 行わないときは、源泉徴収票の「摘要」欄に年調減税の内容を記載する必要はありません。 令和6年分年末調整申告書の書き方ガイド 令和6年の年末調整は定額減税への対応が加わるため、例年以上の注意が必要です。 申告書を配布する際に、書き方ガイドを添えることで、書き方についての問い合わせや 誤りが減り、年末調整担当者の負担を減らすことができます。 こちらの書き方ガイドを配布していただき、スムーズな年末調整を進めてください。 参考・ダウンロード| 『令和6年分 年末調整書き方ガイド』 参考・ダウンロード| 『住宅借入金等特別控除申告書書き方ガイド』
- 厚生労働省発表:厚生労働行政の現状や今後の見通しについて
2024年8月、厚生労働省から2024年版(令和6年版)の厚生労働白書が発表されました。 今回の白書は、第1部では「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる 社会に」をテーマに、こころの健康に関する対策や支援の現状および今後の方向性が 示されており、第2部は厚生労働省の施策をまとめた構成となっています。 このマガジンでは、主に第2部第2章「女性、若者、高齢者等の多様な働き手の参画」を取り上げながら、労務担当者が理解しておくべき雇用の現状、法改正など政府の取組について解説します。 厚生労働白書とは 厚生労働白書は、厚生労働行政の現状や今後の見通しなどについて、広く国民に伝える ことを目的に、厚生労働省が毎年公表しているものです。 そして第1部では、毎年テーマが設定され、掘り下げが行われています。 今年の第1部は、近年精神疾患の外来患者数が増加していることなどを踏まえた、 こころの健康 がテーマとなっています。 【精神疾患を有する外来患者数】 (出典) 厚生労働省『令和6年版厚生労働白書(概要)』P9 ライフステージごとに直面する現代社会のストレス要因の多様さについて考察したうえで、 こころの不調を抱える「当事者の意思の尊重と参加」を理念とした、こころの健康を保つ ための地域や職場、社会の取り組みが紹介されています。 企業にとって、従業員のこころの健康は重要な問題です。 2022年度の精神障害の労災認定件数は710件と、過去最多となりました。 従業員のこころの健康を確保することは、労災のリスクを減らすことにつながるだけでは なく、生産性の向上といった組織の活性化にもつながります。 このように、従業員の健康保持・増進に取り組み、健康管理を経営的な視点から考え、 戦略的に実践することを 健康経営 といいます。 健康に関する講習会や人間ドックの費用負担、社内イベントやワークショップなどの 従業員とのコミュニケーション機会の創出など、健康経営に積極的に取り組むことを おすすめします。 少子高齢化と労働人口の減少 日本では現在少子高齢化が進んでいます。厚生労働省が公表した人口動態統計によると、2023年の合計特殊出生率は1.20となっています。 これは、統計を開始した1947年以降過去最低を記録し、長期的な少子化傾向が続いて います。 【人口ピラミッドの推移】 (出典) 厚生労働省『令和6年版厚生労働白書』P176 また、2030年には65歳以上の人口が全人口の3割を占めると予想され、生産年齢人口の 減少などにより引き起こされる問題、いわゆる2030年問題が懸念されています。 このような労働力の減少で、企業は人材不足や人材獲得競争の激化、人件費の高騰などに 今まで以上に悩まされる可能性があります。 これらの現状を踏まえて、厚生労働省は働く世代の子育て支援や、希望するスタイルで 働けるようにするための改革などの取り組みを行っています。 労務担当者が押さえておきたい政府の取り組み 1 仕事と家庭の両立支援策の推進 仕事と子育てや介護の両立を支援することは、少子高齢化社会における労働者の継続就業や、女性の活躍などを推し進めるだけではなく、日本経済の活力維持の観点からも重要に なるとして、政府は 仕事と家庭の両立支援 に力を入れています。 これまでも育児・介護休業などの制度が整備されてきましたが、男性の育児休業取得率が 女性に比べて伸び悩んでいることや、出産・育児により離職する女性が一定数いること などの現状を踏まえ、さらなる推進が図られています。 2025年4月には、仕事と家庭の両立支援策の一環として、改正育児・介護休業法と改正雇用 保険法の施行が予定されています。 育児・介護休業法と雇用保険法の詳しい改正内容については、以前の記事をご確認ください。 以前の記事 『 【2024年改正】育児・介護休業法ポイント 』 また、厚生労働省は、従業員の育児休業の取得および育児休業後の円滑な職場復帰を支援 するための「育休復帰支援プラン」や、介護離職を防ぐための「介護支援プラン」の普及や 策定の支援も行っています。 さらに、仕事と家庭の両立のための企業の取り組みを促進することを目的に、両立支援等 助成金を支給しています。ぜひご活用ください。 参考| 厚生労働省『両立支援等助成金(令和6年度)』 2 長寿社会に対応した労働環境の整備 政府は、仕事と家庭の両立支援だけではなく、働く意欲のある高年齢者が生涯現役で 活躍できる社会の実現も目指しています。 企業には、高年齢者の雇用の安定を目的に、希望者全員に対し65歳までの雇用を確保する 措置(高年齢者雇用確保措置)を講じることが義務付けられています。 また、70歳までの就業機会を確保するための措置(高年齢者就業確保措置)についても 努力義務とされています。 2023年6月時点で、21人以上規模の企業で高年齢者雇用確保措置を実施している企業は 99.9%にのぼる一方、高年齢者就業確保措置を実施している企業は29.7%に留まって います。 65歳以降の高年齢者の雇用を推進する制度としては、「65歳超雇用推進助成金」があります。 業がこの助成金を活用することによる、高年齢者の雇用推進や企業の人材確保などが期待 されています。 参考| 厚生労働省『令和6年度65歳超雇用推進助成金のご案内』 3 治療と仕事の両立支援の推進 病気を抱え通院しながら働く人は、約3人に1人を占めます。 定年の延長や高齢化で、病気を抱えながら働く人は今後ますます増えると予想されること から、政府は 治療と仕事の両立支援 にも力を入れています。 高年齢者や病気を抱える人であっても、働く意欲や高い能力を持つ人がいます。 そのような人々が定年や病気で離職することは、企業にとって大きな損失となります。 企業は、本人の希望や主治医の意見を聞きながら、希望をすれば働くことができる環境を あらかじめ整えておくことが大切です。 また、ハローワークでは長期間の治療などのために離職を余儀なくされた求職者の就職支援 にも取り組んでいます。 治療と仕事の両立支援の詳しい内容については、以前の記事をご確認ください。 以前の記事 『 企業が知っておきたい、治療と仕事の両立支援と環境整備 』 4 若者が能力を発揮できる環境の整備 在学中に内定に至らない者や未就職のまま卒業する者、学校から社会・職業に円滑に移行できない者など、若者の雇用に関する課題が発生しています。 そのような若者が能力を有効に発揮できる環境を整備するために、厚生労働省はさまざまな 取り組みを行っています。 若者と中小企業とのマッチングを強化するために、若者の採用や育成に積極的で、若者の 雇用管理の状況が優良な中小企業を「ユースエール認定企業」として認定し、認定企業の 情報発信を行っています。 また「わかものハローワーク」ではフリーターの正社員就職の促進を、「地域若者サポート ステーション」ではニート等の職業的自立支援の強化にも取り組んでいます。 若者の雇用は、長期間にわたって就労する人材の獲得と同意です。 少子化が進む現状において、積極的な若者の雇用は大きなメリットとなるでしょう。 5 就職氷河期世代への集中支援 1993年から2004年頃に卒業を迎えた就職氷河期世代は、バブル経済崩壊後の雇用環境が 厳しい時期に就職活動を行った結果、現在でも不本意ながら非正規として雇用されていたり、職に就けていない人もいます。 これを踏まえて、政府は2020年から集中的な支援に乗り出しています。 ハローワークでは、正規雇用への転換を目指す就職氷河期世代の支援を目的に、「就職氷河期世代専門窓口」を設置しています。 また、企業の就職氷河期世代の正社員雇用を促すために、正社員未経験者や正社員経験が 少ない方を正社員として雇用する企業に対して「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期 世代安定雇用実現コース)」の支給を行っています。 参考| 厚生労働省『「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」のご案内』 6 雇用のセーフティーネットの拡充 雇用保険は、働く人が失業したときや育児休業等を取得したときなどに給付を行い、 生活や雇用の安定を図ることが目的とされています。 2024年5月には、多様化する働き方やライフスタイルに対応するために、適用要件の拡大、 教育訓練などの充実、出生後休業支援給付・育児時短就業給付の創設などを含んだ改正雇用 保険法が成立しました。 改正雇用保険法については、以前の記事で適用要件の拡大など企業や従業員への影響が 特に大きい改正内容について解説しています。 以前の記事 『 2024年改正雇用保険法、企業と従業員に与える影響とは? 』 企業に求められる対応策 少子高齢化と労働人口の減少によって懸念される企業の人材不足に対応するためには、 早い段階から対応を行うことが大切です。 国内の現状、そして企業内に生じている、もしくは生じる可能性が高い問題を意識しながら、雇用環境の整備に取り組むことをおすすめします。 雇用環境の整備に積極的な企業イメージは、優秀な人材獲得や人材流出の防止につながる 可能性があります。 おわりに 厚生労働白書では、現在、日本が抱えている問題や政府が力を入れている取り組みが 取り上げられています。 白書を読むことで、今後どのような問題が生じるのか、どのように対応すればよいのかに ついて理解を深めることができます。
- 【2025年4月】継続雇用制度の経過措置終了と高年齢雇用継続給付の縮小
少子高齢化の急速な進展に伴い日本の総人口は減少傾向となり、総人口に占める 65歳以上の割合は上昇しています。 労働力不足が課題となっている中、働く意欲があり豊かな経験やスキルを持つ 高年齢者の労働力は、企業にとって必要性が増していきます。 今回の記事では60歳以降の就業意欲の動向や、2025年4月の「継続雇用制度の 経過措置の終了」と「高年齢雇用継続給付の縮小」について解説していきます。 60歳以降の就業意欲 内閣府が2024年2月に実施した調査によると、 60歳未満の現役世代 では、生涯を通じた 就業意向について全体の7割が60歳以降も働き続けたいと回答しています。 【現役世代の生涯を通じた就業意向(60歳未満)】 (出典) 内閣府 政策統括官『満足度・生活の質に関する調査報告書2024』P9 次に、 60歳以上 の就業意向については、年齢を重ねる程に就労を希望する割合が 低くなるものの、性別に限らず 7割以上 が60歳〜64歳まで、 半数近く が65歳〜69歳までの 就業を希望すると回答しています。 【男女別の就業意向(60歳以上)】 (出典) 内閣府 政策統括官『満足度・生活の質に関する調査報告書2024』P9 以上から、いずれの世代においても多くの人々が60歳以降も働き続ける意向を持っている ことが分かります。 高年齢者を雇用するときの3つのルール 働く意欲がある誰もが、年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が 活躍できる環境整備を図る法律に、「高年齢者雇用安定法(正式名称:高年齢者等の雇用の 安定等に関する法律)」があります。 この法律では「高年齢者」を55歳以上と定義されており、雇用する労働者が充実した 高齢期における職業生活を選択し、実現できるように労働者の多様な特性やニーズを 踏まえ、改正が進められてきました。 高年齢者雇用安定法のうち、企業が押さえておきたい3つのルールをご紹介します。 【60歳未満の定年禁止(義務)】 定年制とは、従業員が就業規則に定められた一定の年齢に達したことを理由に、自動的に 労働契約が終了する制度です。 法令等により、企業には 60歳未満の定年年齢 を設けることが 禁止 されています。 就業規則で定年を定める場合は、定年年齢を60歳以上としなければなりません。 【65歳までの高年齢者雇用確保措置(義務)】 高年齢者雇用確保措置 は、従業員が希望すれば65歳までの雇用が確保されることを 目的としています。 具体的には、定年を65歳未満に定めている企業に対して、次のいずれかの措置を講じる ことが義務付けられています。 当面のあいだ、60歳以上の従業員が発生しない企業であっても、高年齢者雇用確保措置に よるいずれかの措置を講じなければなりません。 なお2023年の高年齢者雇用状況等報告の集計結果によれば、65歳までの高年齢者雇用確保 措置の実施済みの割合は、21人以上規模の企業のうち99.9%となっており、そのうち7割 近くの企業が継続雇用制度を導入しています。 【70歳までの高年齢者就業確保措置(努力義務)】 高年齢者就業確保措置 は、個々の労働者の多様な特性やニーズを踏まえ、70歳までの就業 機会を確保することを目的としています。 具体的には、定年を65歳以上70歳未満に定めている企業および65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く。)を導入している企業は、次のいずれかの 措置を講じることが努力義務とされています。 なお、2023年の高年齢者雇用状況等報告の集計結果によれば、70歳までの高年齢者就業 確保措置の実施済み割合は21人以上規模の企業のうち、3割程度となっています。 継続雇用制度の経過措置の終了 継続雇用制度とは、従業員本人の希望があれば、会社が定める期間は定年後も引き続き 雇用する制度です。おもに再雇用制度と勤務延長制度があります。 今までは 、65歳までの高年齢雇用確保措置で「65歳までの継続雇用制度の導入」を講じて いる企業には、経過措置として 労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を 定めること が認められていました。 しかし、 2025年3月31日をもって 、この経過措置は終了します。 経過措置の終了により65歳までの定年の引上げが義務になるわけではありませんが、 2025年4月1日以降は継続雇用制度の対象者を限定するような基準を設けることはできず、 希望するすべての従業員 の65歳までの雇用を確保するための措置を講じる必要があります。 (出典) 厚生労働省『経過措置期間は2025年3月31日までです 4月1日以降は別の措置により、高年齢者雇用確保措置を講じる必要があります』 現在、経過措置を講じており、経過措置終了前の就業規則において「経過措置終了後には 希望者全員を65歳まで継続雇用する」旨が定められていない場合は、2025年4月1日以降は 別の措置で高年齢者雇用確保措置を講じなければならず、就業規則の変更が必要となり ます。 高年齢雇用継続給付の縮小 高年齢雇用継続給付は、高齢者が働く意欲の維持と、65歳までの雇用継続を支援・促進する ことを目的として、一定の要件を満たす対象者に対して賃金の補助として支給されるもの です。 高年齢雇用継続給付には「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の 2種類があります。 いずれの給付金も、被保険者期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満であるなど、それぞれ の給付金に関する受給資格の要件を満たした労働者が、各月の賃金が60歳時点の賃金額に 比べて75%未満の支給要件を満たした場合、賃金の低下率に応じて支給されます。 今までの 高年齢雇用継続給付は、60歳時点の賃金額を基準に各月の賃金の低下率に応じて 最大15%が給付されていました。 しかし、 2025年4月1日から 新たに60歳を迎える労働者(受給資格要件を満たす方)は、 賃金の低下率に応じて給付率が最大10%へ縮小されます。 【対象者】 2025年4月1日から新たに60歳を迎える労働者(受給資格要件を満たす方) 【給付率】 なお、2025年3月31日までは、賃金の低下率が61%以下の場合に最大の給付率が適用 されますが、2025年4月1日からは賃金の低下率が64%以下の場合に最大の給付率が 適用されます。 高年齢雇用継続給付の縮小に伴い、高年齢者のモチベーションの低下が懸念されます。 高年齢者の就業意欲を高めるためにも、高年齢者の能力、知識、経験などが十分に活かせる 職域の拡大や、高年齢者の職業能力を評価する仕組みや制度の整備を進めることが重要 です。 おわりに 高年齢者が活躍できる職場は、幅広い世代が活躍できる職場の提供にもなり、多様な人材の 活用の促進にもつながります。 また、高年齢者がこれまでのキャリアで蓄積してきた技能や知識などを若い世代に継承し、 教育や指導を行うことは、企業にとっても大きなメリットといえます。 あわせて、働く高年齢者の年齢上昇と身体面や体力面の衰えを踏まえ、職場の安全衛生対策 の強化も求められていきます。 具体的な対策については、以下のガイドラインも参考にしてください。 参考| 厚生労働省『エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)』 65歳以上の人口の増加に伴い、就業を希望する高年齢者の増加が想定されるため、労務担当 者として高年齢者の環境整備に取り組むことが大切です。
- 【2024年度】地域別最低賃金 全国加重平均額が1,055円に
2024年度の最低賃金が改定されます。 すべての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされ、全国加重平均額は1,055円と なりました。 47都道府県で50円〜84円の引上げとなり、全国加重平均額の引上げ額51円は 目安制度が始まった1978年度以降の過去最高額です。 最低賃金には、都道府県ごとの労働者の生計費や賃金、通常の事業の賃金支払能力を 考慮して定められる「地域別最低賃金」と、特定の産業で定められる「特定最低賃金」の 2種類があります。 今回の記事は、毎年10月ごろに改定が行われる地域別最低賃金(以下、最低賃金)について 解説します。 47都道府県の最低賃金額と改定(発効)年月日は以下を確認してください。 参考| 厚生労働省『地域別最低賃金の全国一覧』 なお全国加重平均額とは、都道府県ごとの労働者数×地域別最低賃金で計算した 全国の合計を、総労働者数で割った額です。 最低賃金とは 最低賃金とは、法令等で定められている、労働に対して支払わなければならない 1時間あたりの最低限度の賃金をいいます。 企業は、正社員、パート・アルバイトなどの雇用形態に関係なく、すべての従業員に 最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。 雇用契約書が最低賃金を下回っていたとしてもその部分は無効となり、法令等で定めている 最低賃金が適用されます。 最低賃金を下回る賃金を支払った場合は、50万円以下の罰金が課せられることもあり ます。 最低賃金に含まれる賃金とは 最低賃金の計算に含まれる賃金は、従業員に毎月決まって支払われる基本給や各種手当 です。 ただし、以下の賃金は最低賃金の計算から除外されます。 【最低賃金から除外される賃金】 ①慶弔手当など臨時的に支払われるもの ②賞与など1か月を超える期間ごとに支払われるもの ③所定労働時間を超える時間の労働に対する賃金(残業手当、固定残業代など) ④所定労働日以外の労働に対する賃金(休日手当など) ⑤午後10時から午前5時までのあいだの労働に対する割増賃金(深夜手当など) ⑥精皆勤手当 ⑦通勤手当 ⑧家族手当 1時間あたりの賃金計算は割増賃金の計算にも使用しますが、最低賃金と割増賃金の 基礎となる賃金とでは「含まれる賃金」「除外される賃金」が異なるため注意して ください。 たとえば、割増賃金の計算では、⑥の「精皆勤手当」を含めますが、最低賃金の計算では 除外されます。 一方、割増賃金の計算では除外される「住宅手当」は、最低賃金がその地域における 従業員の生活の安定確保も目的のひとつとなっているため、最低賃金の計算には含まれ ます。 なお、⑥〜⑧については手当の名称にかかわらず実質によって取り扱います。 以下の例のように、従業員への一律支給などその手当の本来の趣旨から外れた運用を している場合は、最低賃金の計算に含めます。 【例】 ・遅刻、早退、欠勤などがあっても一律で精皆勤手当を支給している ・通勤距離や通勤に要した費用にかかわらず一律の金額で通勤手当を支給している ・扶養家族の有無にかかわらず家族手当を支給している など 1時間あたりの賃金の計算方法 支払われる賃金が最低賃金額以上であるかの確認は、1時間あたりの賃金を計算し、 最低賃金額と比較します。 1時間あたりの賃金の計算方法は給与形態によって異なります。 【1時間あたりの賃金の計算方法】 時給制のとき:時給額 日給制のとき:日給額 ÷ 1日の所定労働時間 月給制のとき:月給額 ÷ 1か月平均所定労働時間 歩合給のとき:歩合給 ÷ 1か月の総労働時間 以下のサイトで具体的な計算事例が紹介されています。 参考| 厚生労働省『最低賃金のチェック方法は?』 複数の給与形態によって賃金が支払われる場合、それぞれの給与形態ごとに1時間あたりの 賃金を算出し、合算額が最低賃金を下回っていないか確認します。 【例】 基本給が日給制(1日8,000円/日)、資格手当が月給制(20,000円/月)の場合 (年間所定労働日数:240日、1日の所定労働時間:8時間とする) ・1か月平均所定労働時間:240日✕8時間÷12か月=160時間 ・基本給の時間換算額 :8,000円÷8時間=1,000円 ・資格手当の時間換算額 :20,000÷160時間=125円 ・合計の時間換算額 :1,000円+125円=1,125円 よって、1時間あたりの賃金は1,125円となります。 最低賃金の減額の特例許可制度とは 最低賃金には、特定の従業員について最低賃金を下回る賃金を支払うことができる 減額の特例許可制度が定められています。 申請先は、管轄の労働基準監督署です。減額できる対象者は以下になります。 ・精神または身体の障害により著しく労働能力が低い者 ・試用期間中の者 ・基礎的な技能および知識を習得させるための職業訓練を受ける者 ・軽易な業務に従事する者 ・断続的労働に従事する者 いずれも一定の条件を満たす必要があります。 また、許可は対象となる従業員の労働条件を特定してから行いますが、最低賃金を どこまで減額ができるかはそれぞれ異なります。 以下のサイトに対象ごとのリーフレットがあるため、参考にしてください。 参考・ダウンロード| 厚生労働省『最低賃金の減額の特例許可申請書様式・記入要領』 減額を検討するときは、管轄の労働基準監督署へ相談してください。 企業が対応すべきこと 最低賃金の引上げにより、企業は必要に応じて以下のような対応を行います。 ①最低賃金を下回る従業員の確認および賃金の見直し 最低賃金を下回る従業員がいないか確認します。 下回る従業員は最低賃金以上になるよう賃金の見直しが必要です。 ②人件費の増加額の試算 賃金が上がると、労働保険料(労災保険、雇用保険)、社会保険料(健康保険、厚生年金 保険)の負担も増えます。 最低賃金の引上げにより、人件費がどの程度増加するか試算しておくことをおすすめ します。 ③賃金引上げに対する取り組みなどの検討 厚生労働省では、賃金引上げに向けた取り組み事例や地域・業種・職種ごとの平均的な 賃金を検索できるツールを盛り込んだ特設サイトを公開しています。 中小企業向けの業務改善助成金や補助金、税制などの情報や、最低賃金・賃金引上げ 支援のマニュアルも公開しています。 (出典) 厚生労働省『賃金引き上げ特設ページ』 参考・ダウンロード| 厚生労働省・中小企業庁『最低賃金・賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援施策紹介マニュアル(令和6年8月版)』 よくある質問 1 最低賃金の改定(発効)年月日をまたぐ勤務の最低賃金はどうなるか 3交代勤務制などでは、夜勤シフトの従業員が最低賃金の改定(発効)年月日をまたいで 勤務することがあります。 最低賃金は、都道府県ごとの改定(発効)年月日以降に勤務する賃金から適用します。 そのため、最低賃金の改定(発効)年月日をまたいで勤務をしたときは、0時より新しい 最低賃金の適用となるように賃金を計算してください。 【例】 勤務日 :9月30日 勤務時間 :21:00~翌朝5:00 最低賃金改定日:10月1日 改定前の最低賃金を適用する時間:21:00~0:00 改定後の最低賃金を適用する時間:0:00~5:00 2 複数の都道府県に事業所を持つ企業の最低賃金はどうなるか 複数の都道府県に事業所を持つ企業の場合、それぞれの事業所の所在地の最低賃金が 適用されます。 転勤などにより最低賃金が下回ることのないよう注意が必要です。 例外として、規模が小さく事務機能がないなどひとつの事業所としての独立性がない 事業所については、直近上位の事業所(※)と同一のものとみなされ、直近上位の 事業所の最低賃金が適用されます。 ※直近上位の事業所:組織上、ひとつ上に位置する事業所 【例】 本社Aが大阪府、出張所Bが兵庫県で出張所Bは営業部員が2名のみの場合 →出張所Bは独立性がないとして、本社Aの所在地である大阪府の最低賃金が適用される 3 学生アルバイトも最低賃金が適用されるか 最低賃金は年齢やパート・アルバイトなどの雇用形態によって変わるものではありません。学生アルバイトであっても最低賃金は適用されます。(特例許可制度の対象者を除く) 4 インターンシップも最低賃金が適用されるか インターンシップにおける実習が、見学や体験的なものであり、企業から業務に関する 指揮命令を受けていないなど使用従属関係が認められない場合は、法令等上の「労働者」に 該当しないため最低賃金は適用外となります。 5 派遣労働者は派遣元企業、派遣先企業のどちらの最低賃金が適用されるか 派遣労働者については、派遣元企業の所在地にかかわらず、派遣先企業の所在地の 最低賃金が適用されます。 おわりに 毎年、労働基準関係法令違反での送検や、企業名の公表が行われています。 公表されている中には「賃金が最低賃金以上の金額で支払われておらず、行政指導に 応じない」などの事案もあります。 今回の記事を参考に、最低賃金が適正に支払われるように対応してください。
- 企業が知っておきたい在職老齢年金の仕組み
65歳までの安定した雇用の確保は企業の義務ですが、 70歳までの就業機会の確保についても努力義務となっており 今後は働く高齢者がますます増えることが想定されます。 厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方としては、 44.4%の方が「年金額が減らないように、就業時間を調整しながら働く」と 回答しています。 賃金を貰いながら老齢厚生年金を受給する従業員が増えるため、 労務担当者は賃金が年金の受給に与える影響の理解が求められます。 今回の記事では、高年齢の従業員が働きながら年金を受け取ることができる 在職老齢年金の基本的な仕組みについて解説していきます。 在職老齢年金とは 在職老齢年金とは、厚生年金の受給対象となった60歳以上の従業員が、 会社で働いて賃金を貰いながら年金を受け取れる制度です。 ただし、60歳以上の厚生年金受給者であっても、一定以上の賃金を得ている場合は 厚生年金の一部または全部が支給停止になります。 【在職老齢年金制度の背景】 従来の厚生年金制度では、在職中は年金を支給しないことが原則でした。 しかし、高齢者は低賃金のケースが多く、賃金だけでは生活が困難だったため 在職者にも支給される年金として昭和40年に制度が創設されました。 それ以降、会社で働きながら年金を受給することが不利にならないようにという点と 現役世代とのバランスを調整しながら、都度見直しが行われています。 【在職老齢年金の種類】 在職老齢年金は、従業員の年齢によって以下の2種類に分かれます。 ①60歳〜64歳を対象とした「 低所得者在職老齢年金 (以下、「低在老」という)」 ②65歳以上を対象とした「 高年齢者在職老齢年金 (以下、「高在老」という)」 低在老 については、老齢厚生年金の支給開始年齢の段階的な引き上げの完了後 (男性は2025年度、女性は2030年度)は終了するため、今回の記事では 高在老 について取り上げます。 年金を受け取りながら働く65歳以上の従業員にとっての関心事項は どのくらい賃金を貰うと年金が一部または全額支給停止となってしまうのかということです。 労務担当者は、在職老齢年金について従業員から相談を受けることも考えられるため 制度の概要を理解しておく必要があります。 在職老齢年金の計算方法 在職老齢年金の対象者は、会社で働き賃金を貰いながら年金を受給している人です。 在職老齢年金の支給は、 年金 と 賃金 の合計額を 支給停止調整額 の基準で判定します。 なお、 支給停止調整額 は年度によって変動し、2024年度の支給停止調整額は 50万円 のため、この記事では 50万円 を前提に記載していきます。 在職老齢年金の計算方法としては、 年金 と 賃金 の合計額が 50万円 を上回る場合 年金の一部または全部が支給停止となります。 在職老齢年金の制度では、年金を「 基本月額 」、賃金を「 総報酬月額相当額 」としています。 基本月額と総報酬月額相当額の定義は以下の通りです。 基本月額 :老齢厚生年金(年額)を12で割った額を指します。 加給年金額、繰下げ加算額、経過的加算額は除きます。 総報酬月額相当額 :毎月の賃金(標準報酬月額)と1年間の賞与(標準賞与額)を 12で割った額を足したものを指します。 年金の停止額の計算方法は、一部停止の場合と全額停止の場合に分かれます。 【一部停止】 基本月額と総報酬月額相当額の合計額が50万円を超えた場合は 超えた額の2分の1の年金が支給停止となります。 【全額停止】 総報酬月額相当額のみで50万円を超えた場合は、年金の全額が支給停止となります。 停止額の計算については、以下の具体例も参考にしてください。 年金の停止額の変更は、総報酬月額相当額が変わった月または退職日の翌月(※)に 変更されます。 ※退職して1か月以内に再就職し、厚生年金保険に加入した場合は除きます。 なお、在職老齢年金の計算では、以下の2点に注意してください。 ①老齢基礎年金の受給 老齢基礎年金は在職老齢年金の対象となりません。 そのため、総報酬月額相当額の金額にかかわらず、老齢基礎年金は全額支給されます。 ②加給年金(※)の受給 在職老齢年金による調整の結果、老齢厚生年金が一部支給停止の場合は加給年金は 全額支給されますが、老齢厚生年金が全額支給停止となった場合は加給年金は 全額不支給となるため、注意が必要です。 ※老齢厚生年金の被保険者が65歳に達した際、65歳未満の配偶者や子ども (18歳到達年度の末日まで、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子)などを 扶養している場合に、老齢厚生年金に追加する形で支給される年金 在職定時改定と退職改定 在職老齢年金の停止額を確認する上で知っておきたい制度に、「在職定時改定」と 「退職改定」があります。 どちらも年金の受給権が発生した後の厚生年金の被保険者期間が厚生年金額に反映される 制度で、基本月額が変更されることで在職老齢年金の停止額の計算結果も変わることが あります。 そのため、労務担当者は在職定時改定と退職改定についても把握しておく必要があります。 【在職定時改定】 在職定時改定とは、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている65歳以上70歳未満の 従業員が、毎年9月1日(基準日)に被保険者であるとき、翌月の10月分から受給する 老齢厚生年金の金額が見直される制度です。 具体的には、前年9月から当年8月までの被保険者期間が算定され、受給する老齢厚生年金の金額の見直しに反映されます。 【退職改定】 退職改定とは、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている70歳未満の従業員が 70歳に到達したとき、70歳に到達した翌月分から受給する老齢厚生年金の金額が見直される 制度です。 なお、70歳以上の従業員に関しては、厚生年金に加入しないため、受給する老齢厚生年金の 金額の再計算には反映されません。 また、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給している70歳未満の従業員が 退職して1か月を経過したときも、退職した翌月分から受給する老齢厚生年金の金額が 見直されます。 (出典) 日本年金機構『令和4年4月から在職定時改定制度が導入されました』 【在職老齢年金への影響】 厚生年金の被保険者の期間が厚生年金額に反映されることで在職老齢年金が受ける 影響としては、基本月額が変更となることです。 以下の図のように、年金の停止を回避することを目的に賃金と年金をあわせて 50万円となるように賃金を設定していた場合、在職定時改定により基本月額が変更され、 知らないあいだに年金の一部停止対象になっていたということも考えられます。 労務担当者は、高年齢の従業員から賃金と年金について相談をされた際は 在職定時改定や退職改定も踏まえて回答することが重要です。 おわりに 2025年3月31日をもって、65歳までの雇用確保義務のうち継続雇用制度に設けられていた 経過措置は終了します。 2025年4月からは65歳までの継続雇用の希望者全員を雇用しなければならず、これから ますます高年齢で働き続ける方が増えていきます。 従業員からも働きながらの年金受給についてや、賃金の調整のための勤務時間などの 相談も増えてくるでしょう。 そのようなときに労務担当者として対応できるように、在職老齢年金の制度について 理解を深めておきましょう。
- 【2024年版】台風や豪雨などの自然災害時の企業対応
近年、全国各地で台風や豪雨などの自然災害が増えています。 企業は、従業員が安全かつ健康に働ける職場環境への配慮や対策のための 「安全配慮義務」を負っていますが、これは台風や豪雨などの災害発生時にも 同様に適用されます。 自然災害発生時に、従業員の安全を第一に考え、企業側が休業を指示するケースも 増えてきました。 今回の記事では、自然災害が起きたときの企業対応と、事前の備えについてお伝えします。 自然災害が起きたときの出勤判断と休業手当 自然災害時の出勤では、企業の判断で自宅待機や休業を命じるケースと、 従業員本人の判断で出勤しないケースがあります。 自然災害はいつ発生するか予測できないことも多くあります。 あらかじめ自然災害時の出勤について決めておくことをおすすめします。 なお、状況によっては休業手当の支払が必要になる場合もあります。 1 企業の判断で休業をするとき 自然災害が起き、事業活動が行える状態にもかかわらず会社都合により 休業を命じるときは、それが従業員の安全確保のための措置だとしても 従業員に対して平均賃金の60%以上の休業手当の支払が必要です。 ただし台風や豪雨による事業所の建物倒壊や器物破損など、施設や設備が 直接的な被害を受け出社しても事業活動を行える状態でないときなどは、 天災事変等の不可抗力による休業となり、会社都合の休業とは判断されず 休業手当の支払の必要はありません。 2 本人の判断で出勤しないとき 以下の例のように本人の判断で出勤しないときや、自然災害の影響により 出勤できなかったときは、休業手当の支払の必要はなく欠勤扱いとなります。 (例) ・通信回線の障害などにより、職場と連絡がとれず自主的に自宅にいることにした ・台風や大雨による浸水のため、職場まで行ける状態ではなかった など このようなときに本人に負担なく休んでもらうためにも、有給休暇の取得を推奨したり 振替休日や災害休暇などの特別休暇を就業規則に設けている企業もあります。 給与の非常時払いとは 従業員本人や従業員の家族が被災し、住居の変更を余儀なくされる場合など 災害による急な出費が必要になることがあります。 給与は毎月一回以上、一定の期日を定めて支払をします。 しかし例外として、従業員が非常時の出費を必要とするときは、給与の支払日前であっても すでに労働した分の給与を支払うように法令等で定められています。 非常時のケースには、出産、疾病、結婚、長期帰郷、そして「災害をうけたとき」があり、 災害には、大雨や台風による自然災害も含まれます。 この給与の非常時払いは、 すでに行った労働に対しての給与の支払 であって これから行う予定の労働分に対しての給与(前借り)に応じることを求めるものでは ありません。 企業における事前の災害対策 自然災害が発生したとき、企業は従業員・物・資金・情報・時間・知的財産といった 経営資源を守り、事業を継続あるいは復旧させなければなりません。 そのため、事前に災害対策を講じることが重要です。 事前の災害対策には、「防災対策」と「事業継続」の大きく分けて二つの取り組みが あります。 1 防災対策 企業内の防災対策は、従業員の安全確保や物的被害の軽減を目的とします。 【従業員の安全確保のための対策 例】 ・事業所内の避難経路の確保 ・事業所周辺のハザードマップや防災マップにて被害リスクや避難場所の確認 ・災害時における指揮命令などの体制整備 ・緊急連絡網の作成と更新 ・安否確認のルール作成 ・救急セットの準備 ・非常用品の備蓄(飲料・食料、毛布などの衣料、懐中電灯・電池・トイレットペーパーなどの生活用品、ラジオ など) ・従業員への安全教育、防災訓練等の実施 など 【物的被害の軽減のための対策 例】 ・事業所の耐震化 ・事業所内の機械設備・家具などの転倒防止対策 ・火気使用・危険物などの安全対策 ・電気、ガス、水道、通信など障害発生時の緊急対応(二次災害防止) など 2 事業継続 自然災害が、必ずしも事業が行えないほどの影響を引き起こすとは限りません。 自然災害が起きても少ない人数で事業を継続できるよう、以下のような対策の検討を おすすめします。 【事業継続のための検討 例】 ・災害時の緊急性の高い業務の整理 ・出勤しなくても業務ができる体制づくり(テレワーク、振替休日 など) ・出勤者の災害リスク回避(宿泊場所の確保 など) ・出勤できない可能性のある従業員の業務引継ぎ方法 ・仕入先を複数確保 ・工場など代替生産できる拠点の確保 など テレワーク活用企業の自然災害時の備え 新型コロナ対策で導入が進んだテレワークは、自然災害時の事業継続にも有効な 手段となっています。 しかし、テレワークであっても最悪の事態は起こります。 たとえば台風や大雨、落雷などによる停電、過電流、インターネット接続不良などです。 具体的なケースとして、給与計算業務は停電やインターネット接続不良が起きると 業務がストップしてしまい、振込期日に間に合わない事態が想定されます。 そのため、非常時にもパソコンが稼働できるようにモバイルバッテリーを貸出したり、 インターネットの接続が途切れた場合のために自宅の主回線以外にも別のモバイル回線 (ポケットWi-Fiや会社スマートフォンでのテザリングなど)を用意しておくなど、 テレワーク環境でも業務をスムーズに続けるための備えが必要です。 【テレワーク活用企業の備え 例】 ・非常時のパソコンバッテリーの確保 ・インターネットのバックアップ回線の確保 ・通信状況の急変に対する優先業務の整理 ・データのクラウドバックアップ ・コミュニケーション手段の多様化(チャットツールの導入など) ・会議などの調整 など 自然災害後の業務量増加のときの時間外・休日労働 法令で定められている労働時間の限度時間は、原則1日8時間、週40時間です。 この時間を超える労働を命じる場合は、事前に届け出ている36協定で定めた 時間外・休日労働の範囲内である必要があります。 自然災害直後も、過重労働による健康障害を防止するため、36協定で定めた 時間外・休日労働を遵守します。 しかし 例外 として、企業や被災地域の早期復旧や、施設・設備故障の修理、 システム障害復旧など緊急かつ臨時の必要がある場合は、 労働基準監督署の許可を得て 、 時間外・休日労働の上限規制を超えて働くことが認められるケースがあります。 緊急事態のときは、事後届出も可能です。 例外の認定は、個別かつ具体的に判断され、単なる業務の繁忙などは認められません。 以下のリーフレットを参考のうえ、管轄の労働基準監督署へ相談してください。 参考| 厚生労働省『災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等について』 自然災害による労災保険(業務災害・通勤災害) 自然災害の発生により、従業員が業務中や通勤途中に被災する可能性もあります。 自然災害発生時のケガなどが、業務災害や通勤災害として認められるのかについては 以下を参考にしてください。 ①業務災害 自然災害により被災した場合、原則として業務災害とは認められません。 ただし、作業場所の立地条件や作業条件、作業環境、事業所施設の状況などにより 自然災害を被りやすい事情があると認められたときは、業務災害として認定される ケースもあります。 ②通勤災害 通勤途中に自然災害により被災した場合、原則として通勤災害が認められます。 ただし、企業が休業を命じたにもかかわらず、従業員の独断で出勤しようとしていた ときに被災した場合などは私的行為とみなされる可能性があり、通勤災害に認定されない ケースもあります。 相当な損失を受けたときの労働保険料・社会保険料の納付猶予 自然災害により、財産に 相当な損失 を受けた企業は、申請することにより 労働保険料や社会保険料の納付が猶予される場合があります。 「相当な損失」とは災害による被害額が全財産額のおおむね20%以上といわれています。 要件や申請方法など、詳しくは各行政機関のサイトを確認してください。 【社会保険料】 参考| 日本年金機構『厚生年金保険料等の納付の猶予』 【労働保険料】 参考| 厚生労働省『労働保険料等を一時に納付できない方のための猶予制度について』 おわりに 例年、台風は7月から10月にかけて最も多くなります。 また、地震は全国各地で頻繁に発生しています。 自然災害は、全国各地、いつ、どこで発生するか分かりません。 自然災害時は誰しもが心理的な不安や焦りを感じますが、企業の落ち着いた対応があれば 従業員も安心できるはずです。 今回の記事を参考に、自然災害時の企業対応について検討されることをおすすめします。
- 【2025年1月義務化】労働者死傷病報告などの電子申請
2025年1月より、労働者死傷病報告や定期健康診断結果報告など 労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます。 企業規模に関係なくすべての事業場が対象となるため、労務担当者は 義務化の時期や対象となる手続について理解しておくことが必要です。 また、今回の改正では、労働者死傷病報告の報告事項も一部変更されることとなりました。 今回の記事は、改正による電子申請の義務化および労働者死傷病報告の 報告事項について解説します。 電子申請の義務化の背景 厚生労働省は、社会保険および労働保険分野において、企業が継続的に行う 手続を中心に、オンライン利用(電子申請)の促進に取り組んでいます。 電子申請は時間や場所にとらわれることなく手続が可能なため、企業としては 業務負担の軽減やコストの削減などを図ることができます。 労働安全衛生関係の手続もオンライン化が進められています。 たとえば労働者死傷病報告は、労働災害の発生状況などの統計や分析のための 重要なデータであり、行政機関はその集計作業に一定の時間を要します。 電子申請による手続は、行政機関にとってもメリットがあり、作業時間の大幅な 短縮や統計・分析作業の効率化ができるといえます。 こうした理由から、2025年1月1日より労働安全衛生関係の手続の一部の電子申請が 義務化されることとなりました。 電子申請が義務化となる手続とは 電子申請が義務化となる手続について解説します。 【義務化となる日】 2025年1月1日 【義務化となる事業場】 対象の手続を行うすべての事業場 【義務化となる手続】 以下に続く①〜⑦の手続内容や対象を確認し、自社がどの手続の電子申請の義務化に 対応すべきか確認してください。 ①労働者死傷病報告 (様式第23号、様式第24号のいずれか) 従業員が労働災害により死亡または休業した場合、「労働者死傷病報告」で 労働基準監督署に報告します。 すべての事業場が報告の対象です。 報告の様式は、休業日数などによって変わります。 参考| 厚生労働省『労働者死傷病報告の提出の仕方を教えて下さい。』 (出典) 仙台労働基準監督署『労働者死傷病報告の提出はお済みですか?』 ②総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告 (様式第3号) 事業場の規模や業種などが一定要件に該当する場合、総括安全衛生管理者や安全管理者、 衛生管理者、産業医をそれぞれ選任しなければなりません。 選任したときは、「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」 により労働基準監督署に報告します。(変更手続も同じ様式を使います。) 参考| 厚生労働省『総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告』 なお労働安全衛生法上、事業場の規模を判断をするときの「常時使用する労働者数」は、 正社員だけでなく、契約社員、パート・アルバイト、日雇労働者等の数を含め、 常態として使用する労働者の数をいいます。 【選任しなければならない事業場の規模】 参考| 東京労働局『共通 3 「総括安全衛生管理者」 「安全管理者」 「衛生管理者」 「産業医」のあらまし』 ③定期健康診断結果報告 (様式第6号) 定期健康診断は、1年以内ごとに1回、正社員や正社員以外(パート・アルバイトなど)に かかわらず常時使用する労働者を対象に実施します。 常時使用する労働者が50人以上の事業場で定期健康診断を実施したときは 「定期健康診断結果報告書」により労働基準監督署に報告します。 参考| 厚生労働省『各種健康診断結果報告書』 ④心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告 (様式第6号の3) この検査はストレスチェックとも呼ばれ、従業員がストレスに関する質問に回答し、 その分析結果から従業員がどの程度のストレス状態にあるかを調べる検査です。 事業場の労働者が常時50人以上の場合、1年以内ごとに1回、ストレスチェックを 実施しなければなりません。 実施後は「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」により労働基準監督署 に報告します。(当面のあいだ50人未満の事業場のストレスチェック実施は努力義務) 参考| 厚生労働省『心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書』 ⑤有害な業務に係る歯科健康診断結果報告 (様式第6号の2) 歯科医師による健康診断は、歯等に有害な業務に従事する従業員を対象に 以下の時期に実施します。 (「歯等に有害な業務」とは、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りんその他 歯またはその支持組織に有害な物のガス、蒸気または粉じんを発散する場所における 業務のこと) ・雇入れたとき ・歯等に有害な業務に配置替えしたとき ・その後6か月以内ごとに1回 歯科医師による健康診断を実施したときは、事業場の規模にかかわらず「有害な業務に 係る歯科健康診断結果報告書」により労働基準監督署に報告します。 参考| 厚生労働省『各種健康診断結果報告書』 ⑥有機溶剤等健康診断結果報告 (様式第3号の2) 有機溶剤等健康診断は、屋内の作業場等で有機溶剤業務に従事する従業員を対象に 以下の時期に実施します。 ・雇入れたとき ・屋内の作業場等での有機溶剤業務に配置替えしたとき ・その後6か月以内ごとに1回 有機溶剤等健康診断を実施したときは、事業場の規模にかかわらず「有機溶剤等健康診断 結果報告書」により労働基準監督署に報告します。 参考| 厚生労働省『各種健康診断結果報告書』 ⑦じん肺健康管理実施状況報告 (様式第8号) じん肺健康診断は、粉じん作業に従事する従業員を対象に実施します。 (過去に粉じん作業に従事し、現在は粉じん作業に従事していない従業員も含みます。) じん肺健康診断を実施したときは、事業場の規模にかかわらず「じん肺健康管理実施状況 報告」により労働基準監督署に報告します。 参考| 厚生労働省『各種健康診断結果報告書』 【その他の手続について】 義務化されるもの以外にも多くの手続が電子申請可能となっています。 以下を参考にしてください。 参考・ダウンロード| 厚生労働省『電子申請が可能な労働安全衛生法等の手続一覧』 労働者死傷病報告の報告事項が変わります 電子申請の義務化とともに、労働者死傷病報告の報告事項も2025年1月1日に 改正されます。 1 様式第23号の報告事項 様式第23号は、死亡または休業4日以上の労働災害について報告する様式です。 変更となるのは下図の5項目です。 (出典) 厚生労働省『労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化※されます』 【事業の種類】 (上図の①) 現在はテキスト入力ですが、コード入力方式に変更となります。 (日本標準産業分類の細分類項目を選択) 参考| 総務省『日本標準産業分類(令和5年7月告示)分類項目名、説明及び内容例示』 【職種】 (上図の②) 現在はテキスト入力ですが、コード入力方式に変更となります。 (日本標準職業分類の小分類項目を選択) 【傷病名、傷病部位】 (上図の③) 現在はテキスト入力ですが、コード入力方式に変更となります。 (該当する傷病名、傷病部位をそれぞれ選択) 【災害発生状況及び原因】 (上図の④) 漏れなく報告できるよう、現在の記載欄を以下のように1〜5に分割します。 これにより、災害の発生状況や原因などを的確に把握しやすくなります。 【国籍・地域・在留資格】 (上図の⑤) 現在はテキスト入力ですが、コード入力方式に変更となります。 (該当する国籍・地域・在留資格をそれぞれ選択) 2 様式第24号の報告事項 様式第24号は、休業4日未満の労働災害について報告する様式です。 報告事項を今後さらに活用するため、以下の事項が追加されます。 ・労働保険番号 ・被災者の経験期間 ・国籍・在留資格 ・親事業場等の名称 ・災害発生場所の住所 など 入力支援サービスの利用 入力支援サービス(正式名称:労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る 入力支援サービス)とは、労働安全衛生法関係の帳票作成や労働基準監督署への 届出を支援するサービスです。 画面に必要事項を入力すると簡単に帳票が作成でき、e-Govを介して電子申請を 行うこともできます。 2024年8月1日現在、このサービスの対象は2025年1月より電子申請が義務化となる 手続(上述の「電子申請が義務化となる手続とは」で解説した手続)に限られていますが、今後対象手続が拡大される予定です。 また、以下のような便利な機能もあります。 ・未入力や誤入力に対しエラーメッセージが表示され、入力不備を防ぐことができる ・入力したデータを保存することにより、次回あらたに報告書を作成するときに 共通部分の入力を簡素化できる 事前申請や登録は不要で、以下から利用することができます。 参考| 厚生労働省『労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス』 入力支援サービスを利用した電子申請の流れや操作の説明については、以下のマニュアルに 分かりやすく記載されています。参考にしてください。 参考| 厚生労働省『労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス 電子申請サービス利用方法』 【操作説明イメージ】 (出典) 厚生労働省『労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス 電子申請サービス利用方法』P7 3 スマートフォン等への対応 入力支援サービスは、今後はパソコンだけでなく、スマートフォンからも 電子申請が可能となります。 パソコン、スマートフォン等を所持していない企業については、労働基準監督署に 設置のタブレットを利用して電子申請を行うことができるよう体制の整備が 進められています。 おわりに 電子申請の義務化は、2025年1月以降に労働基準監督署に提出するものから 対象となります。 たとえば「じん肺健康管理実施状況報告」は毎年12月末までの実施状況を 翌年2月末までに報告するため、次回の報告は電子申請をしなければなりません。 電子申請の対応がまだの企業は早めに準備することをおすすめします。
- 【2025年4月】建設業における安全衛生対策に関する保護措置の対象拡大
建設業の労働災害による2023年の死亡者数は、ここ約50年のあいだで過去最少と なりました。 しかし死亡者数は減少しているものの、全産業に占める割合は以前として 最も高いことに変わりはありません。 2025年4月から、建設業における安全衛生対策に関する保護措置の対象が拡大されます。 従業員のみならず、現場で働くさまざまな人々を守るための法改正です。 今回の記事は、建設業における安全衛生対策や法改正の内容、事業者の対応について 解説します。 危険が伴う建設現場での作業 1 死亡者数は全業種の中で最多 建設業の2023年の労働災害による死亡者数は223人で、全業種の約29.5%を占めています。(新型コロナウイルス感染症への罹患による労働災害を除く) 建設現場には、重機などの建設機械を使用したり、山間部や河川などの危険な場所や、 高所など足場の不安定な場所での作業も多くあります。 そこで働く人々の多くは、常に危険と隣り合わせの環境で作業をしているといえます。 2 複数の事業者による現場作業 建設業では、発注者からゼネコンなどに仕事が発注され、その仕事の一部をさらに別の 事業者が請け負うことがしばしば見られます。 そのためひとつの事業者が単独で作業する現場だけでなく、複数の事業者が作業する 現場も多くあります。 発注者から仕事を受けた事業者を元請事業者、元請事業者から仕事を請け負う事業者を 下請事業者といいます。 ときには下請事業者の仕事の一部をさらに別の事業者が請け負い、二次下請事業者、 三次下請事業者等によって作業が行われることもあります。 このような請負関係を「 数次(すうじ)の請負 」といいます。 建設現場での作業は危険度が高いことに加え、こうした数次の請負による施行体制の 複雑化で、施工管理や安全管理面への影響や弊害が生じるおそれもあります。 3 建設現場の安全衛生管理体制 業種や従業員数に応じて、安全や衛生に関する管理者などの選任が法令等によって 定められています。 こうして確立された体制を安全衛生管理体制といいます。 事業者には、安全衛生管理体制の確立のほか、労働災害を防止するための具体的な措置の 実施など、従業員の安全と健康の確保が義務づけられています。 建設現場には、数次の請負により複数の事業者が作業する現場が多くあります。 こうした現場の安全衛生管理体制では、元請事業者が統括安全衛生責任者や元方安全衛生 管理者を選任し、下請事業者が安全衛生責任者を選任します。 作業によっては、下請事業者による作業主任者や作業指揮者、誘導者などの選任も 必要となる場合があります。 建設業における安全衛生対策 1 2024年度の安全衛生対策 建設現場は、「墜落・転落」や「はさまれ・巻き込まれ」などの生死にかかわる重篤な 労働災害が発生しやすい環境にあります。 政府は毎年度、労働災害の未然防止や減少に向け、建設業の安全衛生対策や各対策に 対する事業者の取り組みなどを公表しています。 2024年度の建設業における安全衛生対策は以下のとおりです。 以下のサイトでは、各対策に関する参考資料が紹介されています。 参考| 東京労働局『令和6年度 建設業における安全衛生対策の推進について』 2 2025年4月、保護措置の対象拡大 事業者には雇用する従業員の安全と健康を確保する義務があります。 そして当然ながら、従業員だけではなく、現場で働くすべての人の安全と健康も 最大限尊重しなければなりません。 そのため2025年4月から、事業者には従業員だけではなく同じ現場で働くすべての人に 対し、危険箇所等での作業に対する措置を行うことが義務化されます。 なお、従業員に対する義務については今後も変更ありません。 【改正内容①】保護する対象範囲の拡大 2025年4月からの建設業における安全衛生対策に関する主な改正内容は2つあります。 ひとつ目の改正内容は、危険箇所等での作業に対する措置(退避、危険箇所への立入禁止等、火気使用禁止、悪天候時の作業禁止など)における、 保護の対象範囲の拡大 です。 1 改正後の保護対象 現在は、自社の従業員に対し、危険箇所等での作業に対する措置を行う義務があります。 今後は従業員だけでなく、 同じ現場で働くすべての人 (一人親方や他社の従業員、資材搬入業者、警備員など)に対して措置を行わなければなりません。 2 改正後の事業者対応 保護の対象範囲が拡大されることにより、これまで従業員に対して行っていた措置を、 以下のように同じ現場で働くすべての人を対象に含めて行っていくことになります。 【複数の事業者が作業を行う現場での措置】 事業者は危険箇所等での作業に対する措置を行う義務がありますが、同じ現場で複数の 事業者が作業を行う場合、立入禁止などの表示や掲示をそれぞれの事業者ごとに行う必要は ありません。 共同で行うことも可能です。 【事業者の義務の範囲】 事業者が以下のような措置を適切に行ったにもかかわらず、同じ現場で働く従業員以外の 人がそれを無視した行動を行った場合、事業者にその責任を求めるものではありません。 ・立入禁止や火気の使用禁止を明確に表示等しているにもかかわらず、立ち入ったり 火気を使用したとき ・明確に退避を求めたにもかかわらず、退避しなかったとき 【改正内容②】下請事業者や一人親方への周知の義務化 2つ目の改正内容は、作業の一部を請け負わせる下請事業者や一人親方に対する保護具等の 使用に関する周知の義務です。 立入禁止等の措置を行う危険箇所等では、例外的に作業を行わせるため、従業員に保護具等 を使用させる義務が発生する場合があります。 この作業の一部を下請事業者や一人親方に行わせるとき、事業者は今後、下請事業者や 一人親方に対して保護具等を使用する必要があることを周知しなければなりません。 (事業者は下請事業者や一人親方に対して指揮命令を行うことはできないため「周知」と いう形になります。) 周知方法は以下のとおりです。 (出典) 厚生労働省『2025年4月から事業者が行う退避や立入禁止等の措置について、以下の1、2を対象とする保護措置が義務付けられます』 また、下請事業者や一人親方が適切な保護具等を選択できるよう、事業者は保護具等の 種類や性能などについての情報を提供することが望ましいとされています。 【そのほか推奨すべき周知】 事業者が下請事業者や一人親方に以下の作業を行わせる場合、今後は「保護具等の使用」や 「特定の手順や方法により作業を行うこと」が必要な旨を周知することが推奨されます。 ・従業員に適切な保護具等を使用させることが義務付けられている作業を行わせるとき ・特定の手順や方法が義務付けられている作業を行わせるとき 【周知はどこまでの範囲に対して必要か】 事業者は請負契約の相手方に対して周知を行う必要があります。たとえば、一次から三次 までの下請事業者がいる現場では、一次下請事業者は二次下請事業者に対して周知義務が あるものの、三次下請事業者への周知義務はありません。 三次下請事業者への周知義務は二次下請事業者にあります。 【事業者の義務の範囲】 事業者は、下請事業者や一人親方に対し、保護具等の使用について確実に分かりやすく 周知することが重要です。 そのうえで、下請事業者や一人親方の判断で防護具を使用しなかった場合は、事業者に その責任を求めるものではありません。 おわりに 事業者には、従業員の安全と健康の確保が義務付けられています。 あわせて、自社の従業員だけでなく同じ現場で働くすべての人々の安全と健康を守る意識を 持って行動することは、労働災害の未然防止や減少、労働安全衛生の質の向上につながると 期待されます。