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専門業務型裁量労働制の基礎知識と導入方法



労働時間に縛られず柔軟に働くことのできる制度のひとつとして

専門業務型裁量労働制」があります。


しかし、2021年に厚生労働省が公表した「裁量労働制実態調査」の結果によると、

通常の働き方よりも労働時間が長時間になる傾向が見受けられたため、

2024年4月から制度を適用するときには従業員個人の同意が必要となるなどの改正が行われました。


この記事では、専門業務型裁量労働制の基礎知識や導入方法について解説します。

なお、今後公開の記事では、専門業務型裁量労働制の実務対応や企業が押さえておきたい

ポイントを解説する予定です。



専門業務型裁量労働制とは



専門業務型裁量労働制は、従業員の裁量が大きく、企業が業務遂行の方法や時間配分の

決定等を指示することが難しい20の業務について、労使協定の締結と従業員の同意を

得ることであらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。


働いた時間ではなく、仕事の成果や実績などで評価が決まる制度といえます。

制度を導入している企業における業務別割合をみると、情報処理システムの分析・設計や

新商品・新技術の研究開発、大学における教授研究の業務などが高くなっています。




専門業務型裁量労働制のメリット・デメリット



専門業務型裁量労働制には、メリット・デメリットがあります。

それぞれを理解したうえで導入を検討することをおすすめします。


 



デメリットの部分については注意が必要です。

特に、従業員の裁量に任せたことで長時間労働が常態化し、従業員の健康が害された

場合などは、企業は安全配慮義務を問われる可能性があります。


そのため従業員が働いた時間は必ず記録し、長時間勤務の傾向が見受けられるときは、

健康・福祉確保措置を含む適切な対応を行ってください。



専門業務型裁量労働制の導入方法



専門業務型裁量労働制の導入は、以下の流れで行います。

 

ここからは、それぞれの流れについて詳しく解説します。



1 労使協定の締結


まずは、過半数労働組合または過半数代表者と労使協定を結ぶ必要があります。

労使協定で定めなければならない事項は以下の10項目です。

なお、締結した労使協定は、従業員に対して周知する必要があります。




①対象となる業務


専門業務型裁量労働制の対象となる業務は、法令等で定められた20種類の業務です。

以下の20種類の業務の中から、企業が専門業務型裁量労働制の対象とする業務を定める

必要があります。




なお、対象業務に従事する従業員がいる場合でも、業務遂行の方法や時間配分の決定等の

裁量が従業員にないときには、専門業務型裁量労働制を適用することはできません。


また、対象業務とそうではない業務を掛け持ちで行っている場合、専門業務型裁量労働制を

適用することができない場合があります。

適用できるか判断に迷う場合は労働基準監督署へご相談ください。


以下の厚生労働省のサイトには、具体的な対象業務が記載されています。

参考にしてください。




②1日のみなし労働時間


適用される従業員の、1日のみなし労働時間を具体的に定める必要があります。


このとき、フレックスタイム制のように、1週間や1か月といった単位で時間を定めることは

できません。


また、みなし労働時間を定めるにあたっては、労使で協議のうえ設定します。

賃金などの処遇についても業務内容などを十分考慮し、相応のものとなるように設定する

必要があります。



③業務遂行の方法、時間配分などの具体的指示を従業員にしないこと


対象となる業務の遂行方法や時間配分の決定等について、企業が適用される従業員に

具体的な指示をしないことを定める必要があります。


始業や終業時刻を指示してしまうなど、従業員の裁量が失われることがあると、制度の

適用外となってしまいます。

そのため、特に適用される従業員の直属の上司は制度を熟知していることが大切です。



④健康・福祉確保措置の具体的内容


専門業務型裁量労働制を導入した場合でも、タイムカードやパソコンの使用時間の記録

などの客観的な方法で労働時間を把握する必要があります。


そのうえで、把握した労働時間をもとに、企業は「どの」健康・福祉確保措置を「どのように」実施するのかについて定める必要があります。


実施が望まれる健康・福祉確保措置は以下のとおりです。なお、2024年4月から、健康・

福祉確保の強化のために措置が追加されています。


 


⑤苦情処理措置の具体的内容


適用される従業員の苦情に対応するための措置を企業が実施することと、その措置の

具体的な内容を定める必要があります。


具体的な内容は、苦情を受け付ける窓口や担当者、対応の手順や方法などです。

また、評価制度や賃金制度などに関する苦情も受け付けることが望ましいとされています。

さらに、労務担当者以外の者を窓口にするなど、従業員が苦情を申出しやすい体制の整備も

してください。



⑥従業員の同意を得ること


制度の適用を受けることについて、従業員本人の同意を得ることを定める必要があります。

この同意は、適用対象の従業員一人ひとりと、労使協定の有効期間ごとに得なければ

なりません。



⑦同意をしなかった従業員に不利益取扱いをしないこと


制度の適用に同意をしなかった従業員に対して、解雇やそのほかの不利益な取扱いをしては

ならないことを定める必要があります。



⑧同意撤回の手続き


同意撤回の申出先や方法などの具体的な内容を含む、従業員の同意撤回の手続きについて

定める必要があります。


※⑥⑦⑧については、2024年4月の法改正により追加された事項です。

「4 従業員の同意」で詳しく解説します。



⑨労使協定の有効期間


労使協定の有効期間を定める必要があります。

労使協定は一定期間ごとにその内容を見直すことが大切となり、長くても3年程度の

有効期間がおすすめです。



⑩労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意および

同意の撤回の従業員ごとの記録を協定の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること


企業は、労使協定の有効期間中および期間満了後の3年間は、従業員ごとの記録を保存する

ことを定める必要があります。



2 就業規則の整備


労使協定を締結するだけで専門業務型裁量労働制を導入することはできません。

従業員本人から同意を得る前に、就業規則に制度の規定を定める必要があります。

従業員数10人未満で就業規則を作成していない企業は、個別の労働契約で定めることも

できますが、トラブル防止等のためにも就業規則の作成をおすすめします。


就業規則に定める場合は、以下の規定例を参考にしてください。




就業規則を作成・変更した後は、従業員に対して周知する必要があります。



3 労働基準監督署への届出


締結した労使協定は、管轄の労働基準監督署へ届出が必要です。

また、従業員数10人以上の企業は、整備した就業規則も管轄の労働基準監督署に届出

しなければなりません。


労使協定の届出の記入例とひな形は以下を参考にしてください。




4 従業員の同意


2021年に厚生労働省が公表した「裁量労働制実態調査」の結果によると、裁量労働制

(専門業務型および企画業務型)を適用している企業は、裁量労働制を適用していない

企業に比べ、1か月平均の労働時間と1日平均の労働時間のいずれもが長いという結果

となりました。


こうした背景のもと、2024年4月から、専門業務型裁量労働制を適用するためには

従業員の個別の同意が必要となりました。


なお、この同意は適用対象の従業員一人ひとりと、労使協定の有効期間ごとに得なければ

なりません。


従業員から同意を得るときには、以下の事項を明示しながら、従業員が正しく理解、

納得できるように説明することが大切です。


①労使協定の内容など制度の概要

②同意した場合に適用される賃金・評価制度の内容

③同意をしなかった場合の配置および処遇


【制度に関する説明書 例】




そのうえで、従業員の疑問にすべて対応して同意を得てください。

同意の取得については、書面や電子メール、イントラネットのような電磁的記録などの

確実な方法で行うことをおすすめします。

なお、従業員ごとの同意に関する記録は労使協定の有効期間およびその後3年間保存

しなければなりません。


【制度適用に関する同意書 例】

 


また、同意した場合でも後で撤回できます。

同意を撤回するときの申出書は以下を参考にしてください。



【雇用契約書の変更・再締結】


通常の労働時間制などから専門業務型裁量労働制へ変更した場合、労働時間などの

労働条件が変更となります。


賃金の変更を伴うケースも多く、書面により変更内容を伝えることはトラブル防止にも

なります。そのため、雇用契約書を変更のうえ再締結してください。

(労働条件通知書による明示も可能)



5 制度の実施


ここまでの流れを経て初めて、実際の労働時間ではなくみなし労働時間で就業させることができます。

労使協定で定めた内容に沿って、制度を運用してください。


なお、専門業務型裁量労働制における割増賃金の考え方や適用除外となる者などについては、今後公開の記事を参考にしてください。



6 協定の期間満了


労使協定の有効期間が満了したら、専門業務型裁量労働制をそのまま継続することは

できません。

継続したい場合は再び「1 労使協定の締結」から始める必要があります。



おわりに


専門業務型裁量労働制の導入には、メリットとデメリットの理解が大切です。

労使協定で定めなければならない項目は多くありますが、企業と従業員の双方にとって

良い制度となるように、従業員とコミュニケーションを取りながら自社に適したルール

設定を行ってください。


今後公開の記事では、専門業務型裁量労働制の実務対応について解説します。

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