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厚生労働省発表:厚生労働行政の現状や今後の見通しについて




2024年8月、厚生労働省から2024年版(令和6年版)の厚生労働白書が発表されました。


今回の白書は、第1部では「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる

社会に」をテーマに、こころの健康に関する対策や支援の現状および今後の方向性が

示されており、第2部は厚生労働省の施策をまとめた構成となっています。


このマガジンでは、主に第2部第2章「女性、若者、高齢者等の多様な働き手の参画」を取り上げながら、労務担当者が理解しておくべき雇用の現状、法改正など政府の取組について解説します。



厚生労働白書とは



厚生労働白書は、厚生労働行政の現状や今後の見通しなどについて、広く国民に伝える

ことを目的に、厚生労働省が毎年公表しているものです。


そして第1部では、毎年テーマが設定され、掘り下げが行われています。


今年の第1部は、近年精神疾患の外来患者数が増加していることなどを踏まえた、

こころの健康がテーマとなっています。


【精神疾患を有する外来患者数】


 


ライフステージごとに直面する現代社会のストレス要因の多様さについて考察したうえで、

こころの不調を抱える「当事者の意思の尊重と参加」を理念とした、こころの健康を保つ

ための地域や職場、社会の取り組みが紹介されています。


企業にとって、従業員のこころの健康は重要な問題です。

2022年度の精神障害の労災認定件数は710件と、過去最多となりました。

従業員のこころの健康を確保することは、労災のリスクを減らすことにつながるだけでは

なく、生産性の向上といった組織の活性化にもつながります。


このように、従業員の健康保持・増進に取り組み、健康管理を経営的な視点から考え、

戦略的に実践することを健康経営といいます。


健康に関する講習会や人間ドックの費用負担、社内イベントやワークショップなどの

従業員とのコミュニケーション機会の創出など、健康経営に積極的に取り組むことを

おすすめします。



少子高齢化と労働人口の減少



日本では現在少子高齢化が進んでいます。厚生労働省が公表した人口動態統計によると、2023年の合計特殊出生率は1.20となっています。

これは、統計を開始した1947年以降過去最低を記録し、長期的な少子化傾向が続いて

います。


【人口ピラミッドの推移】


 


また、2030年には65歳以上の人口が全人口の3割を占めると予想され、生産年齢人口の

減少などにより引き起こされる問題、いわゆる2030年問題が懸念されています。


このような労働力の減少で、企業は人材不足や人材獲得競争の激化、人件費の高騰などに

今まで以上に悩まされる可能性があります。


これらの現状を踏まえて、厚生労働省は働く世代の子育て支援や、希望するスタイルで

働けるようにするための改革などの取り組みを行っています。



労務担当者が押さえておきたい政府の取り組み



1 仕事と家庭の両立支援策の推進


仕事と子育てや介護の両立を支援することは、少子高齢化社会における労働者の継続就業や、女性の活躍などを推し進めるだけではなく、日本経済の活力維持の観点からも重要に

なるとして、政府は仕事と家庭の両立支援に力を入れています。


これまでも育児・介護休業などの制度が整備されてきましたが、男性の育児休業取得率が

女性に比べて伸び悩んでいることや、出産・育児により離職する女性が一定数いること

などの現状を踏まえ、さらなる推進が図られています。


2025年4月には、仕事と家庭の両立支援策の一環として、改正育児・介護休業法と改正雇用

保険法の施行が予定されています。




育児・介護休業法と雇用保険法の詳しい改正内容については、以前の記事をご確認ください。



また、厚生労働省は、従業員の育児休業の取得および育児休業後の円滑な職場復帰を支援

するための「育休復帰支援プラン」や、介護離職を防ぐための「介護支援プラン」の普及や

策定の支援も行っています。


さらに、仕事と家庭の両立のための企業の取り組みを促進することを目的に、両立支援等

助成金を支給しています。ぜひご活用ください。





2 長寿社会に対応した労働環境の整備


政府は、仕事と家庭の両立支援だけではなく、働く意欲のある高年齢者が生涯現役で

活躍できる社会の実現も目指しています。


企業には、高年齢者の雇用の安定を目的に、希望者全員に対し65歳までの雇用を確保する

措置(高年齢者雇用確保措置)を講じることが義務付けられています。


また、70歳までの就業機会を確保するための措置(高年齢者就業確保措置)についても

努力義務とされています。


2023年6月時点で、21人以上規模の企業で高年齢者雇用確保措置を実施している企業は

99.9%にのぼる一方、高年齢者就業確保措置を実施している企業は29.7%に留まって

います。


65歳以降の高年齢者の雇用を推進する制度としては、「65歳超雇用推進助成金」があります。

業がこの助成金を活用することによる、高年齢者の雇用推進や企業の人材確保などが期待

されています。





3 治療と仕事の両立支援の推進


病気を抱え通院しながら働く人は、約3人に1人を占めます。

定年の延長や高齢化で、病気を抱えながら働く人は今後ますます増えると予想されること

から、政府は治療と仕事の両立支援にも力を入れています。


高年齢者や病気を抱える人であっても、働く意欲や高い能力を持つ人がいます。

そのような人々が定年や病気で離職することは、企業にとって大きな損失となります。


企業は、本人の希望や主治医の意見を聞きながら、希望をすれば働くことができる環境を

あらかじめ整えておくことが大切です。


また、ハローワークでは長期間の治療などのために離職を余儀なくされた求職者の就職支援

にも取り組んでいます。


治療と仕事の両立支援の詳しい内容については、以前の記事をご確認ください。




4 若者が能力を発揮できる環境の整備


在学中に内定に至らない者や未就職のまま卒業する者、学校から社会・職業に円滑に移行できない者など、若者の雇用に関する課題が発生しています。


そのような若者が能力を有効に発揮できる環境を整備するために、厚生労働省はさまざまな

取り組みを行っています。


若者と中小企業とのマッチングを強化するために、若者の採用や育成に積極的で、若者の

雇用管理の状況が優良な中小企業を「ユースエール認定企業」として認定し、認定企業の

情報発信を行っています。


また「わかものハローワーク」ではフリーターの正社員就職の促進を、「地域若者サポート

ステーション」ではニート等の職業的自立支援の強化にも取り組んでいます。


若者の雇用は、長期間にわたって就労する人材の獲得と同意です。

少子化が進む現状において、積極的な若者の雇用は大きなメリットとなるでしょう。


5 就職氷河期世代への集中支援


1993年から2004年頃に卒業を迎えた就職氷河期世代は、バブル経済崩壊後の雇用環境が

厳しい時期に就職活動を行った結果、現在でも不本意ながら非正規として雇用されていたり、職に就けていない人もいます。


これを踏まえて、政府は2020年から集中的な支援に乗り出しています。


ハローワークでは、正規雇用への転換を目指す就職氷河期世代の支援を目的に、「就職氷河期世代専門窓口」を設置しています。


また、企業の就職氷河期世代の正社員雇用を促すために、正社員未経験者や正社員経験が

少ない方を正社員として雇用する企業に対して「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期

世代安定雇用実現コース)」の支給を行っています。



6 雇用のセーフティーネットの拡充


雇用保険は、働く人が失業したときや育児休業等を取得したときなどに給付を行い、

生活や雇用の安定を図ることが目的とされています。


2024年5月には、多様化する働き方やライフスタイルに対応するために、適用要件の拡大、

教育訓練などの充実、出生後休業支援給付・育児時短就業給付の創設などを含んだ改正雇用

保険法が成立しました。


改正雇用保険法については、以前の記事で適用要件の拡大など企業や従業員への影響が

特に大きい改正内容について解説しています。




企業に求められる対応策



少子高齢化と労働人口の減少によって懸念される企業の人材不足に対応するためには、

早い段階から対応を行うことが大切です。


国内の現状、そして企業内に生じている、もしくは生じる可能性が高い問題を意識しながら、雇用環境の整備に取り組むことをおすすめします。

雇用環境の整備に積極的な企業イメージは、優秀な人材獲得や人材流出の防止につながる

可能性があります。



おわりに



厚生労働白書では、現在、日本が抱えている問題や政府が力を入れている取り組みが

取り上げられています。


白書を読むことで、今後どのような問題が生じるのか、どのように対応すればよいのかに

ついて理解を深めることができます。

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