高齢化や定年の引き上げなどにより、病気を抱えながら働く人が増えています。
病気を抱える従業員のなかには、働く意思があっても治療のために仕事を辞めてしまう
人もいますが、そのようなことを防ぐため「治療と仕事の両立支援」が求められています。
治療と仕事の両立支援とは、病気を抱えながらも働く意欲・能力のある労働者が、
仕事を理由として治療機会を逃すことなく、また、治療の必要性を理由として仕事の
継続を妨げられることなく、適切な治療を受けながら生き生きと働き続けられる社会を
目指す取り組みです。
今回の記事では、従業員が安心して治療と仕事を両立できるようにするための
企業でできる取り組みについて解説します。
治療と仕事の両立支援が求められている背景
治療と仕事の両立は、「働く世代」にとっても無関係ではありません。
「平成31年(令和元年) 全国がん登録 罹患数・率 報告」によると、20〜69歳で
がんに罹患した人の割合は全罹患数の約37%を占めています。
診断技術や治療方法の進歩により、かつては不治の病とされていた疾病の生存率が上がり、病気と長く付き合う時代に変化しつつあります。
そのため従業員が病気になったからといって、すぐに離職をしなければならない状況が
必ずしも当てはまらなくなってきました。
がん治療のため、仕事を持ちながら通院している者は約44.8万人いるとされています。
主ながんの平均入院日数は短くなりつつあり、治療の副作用や症状等をコントロール
しつつ、通院で治療を受けながら仕事を続けるケースが増えています。
治療と仕事の両立支援とは
企業にできる治療と仕事の両立支援は、支援が必要な従業員が、業務で疾病を悪化させる
ことがないよう、治療を受けながらも働き続けることができるようサポートすることです。
また従業員が疾病を理由に安易に退職を決めることのないよう、長期的な治療が必要な疾病
に対する理解と、治療と仕事の両立のための環境整備、そして日頃からの従業員との良好な
コミュニケーションが求められています。
支援体制の構築には、従業員自身による取り組みはもちろんのこと、治療の状況に応じた
就業上の措置や配慮をはじめ、産業医との連携や上司・同僚の理解と協力も必要です。
そのため、企業内外の関係者が連携して対応することが重要です。
企業側の両立支援の取り組みによる効果
治療と仕事の両立を図るための企業の取り組みは、支援が必要な従業員だけではなく、
すべての従業員にとって以下のような効果があります。
1 継続的な人材の確保
新しい人材を確保して1から教育をすることは企業にとって大きな負担となります。
そのため自社のノウハウを蓄積している従業員のサポート体制を築き、治療と両立して
働き続けてもらうことは大きなメリットとなります。
2 従業員のモチベーション向上による人材の定着・生産性の向上
両立支援を積極的に行うことは、万が一のサポートが充実している企業だという従業員へのメッセージにもなります。これによって、仕事へのモチベーションの向上、離職率の低下や生産性の向上にもつながります。
3 多様な人材の活用による組織や事業の活性化
高い能力や専門性を持っている人が病気や障害を理由に退職してしまうことは大きな損失
です。
両立支援によりそれぞれが能力を発揮できれば、組織や事業の活性化につながります。
企業の両立支援を円滑に進めるための環境整備とは
治療と仕事の両立支援は、私傷病である疾病によるものであるため、従業員本人から支援を
求める申出がされた場合に支援を始めます。
しかし企業で働く従業員がいつ疾病を抱えることになるか予想ができません。
従業員への両立支援が必要な状態になってから検討を始めても、適切な支援ができない恐れ
があります。
そのため、治療と仕事の両立支援を円滑に進めるために、事前に企業内の仕組みづくりや
意識啓発などの環境整備に取り組むことをおすすめします。
1 企業として両立支援に取り組むことの表明・周知
治療と仕事の両立支援に取り組むに当たっての基本方針や具体的な対応方法などのルールを
作成し、すべての従業員に周知します。
企業として治療と仕事の両立支援に取り組むことが明確になり、従業員の理解・協力が
得られやすくなります。
2 研修などによる両立支援に関する意識啓発
治療と仕事の両立支援は、いつ・だれが当事者になるかわかりません。
また、両立支援を行うためには当事者の従業員からの申出が必要です。
相談しやすい環境づくりのためにも、当事者やその同僚となり得るすべての従業員に
治療と仕事の両立に関する研修などを通じた意識啓発を行うことをおすすめします。
3 相談窓口等の明確化
治療と仕事の両立支援は、定期健康診断などにより企業が把握した場合を除いては、
従業員からの支援の申出を原則としています。
そのため、支援を必要とする従業員が安心して相談・申出を行うことができるよう相談窓口
を明確にしておき、利用方法などを日頃から周知しておくことが重要です。
相談窓口は設置するだけではなく、従業員の利用しやすさのための工夫も必要です。
4 両立支援に関する制度・体制等の整備
①休暇制度、勤務制度の整備
通院治療が定期的に繰り返される場合や、体調面で所定労働時間の勤務が難しい場合、
また満員電車などの通勤による負担軽減のために出勤時間をずらす必要がある場合など、
通常とは異なる働き方が必要になることがあります。
そのときは実情に応じて各種勤務制度の検討と導入を行い、治療のための配慮をすることが
望まれます。
②従業員から支援を求める申出があった場合の対応手順、関係者の役割の整理
従業員から支援を求める申出があった場合に円滑な対応ができるよう、従業員本人、
人事労務担当者、上司・同僚等、産業医や保健師、看護師等の産業保健スタッフ等の関係者
の役割と対応手順をあらかじめ整理しておくことが重要です。
③関係者間の円滑な情報共有のための仕組みづくり
治療と仕事の両立のためには、関係者が本人の同意を得た上で支援のために必要な情報を
共有し、連携することが重要です。
特に就業継続の可否、必要な就業上の措置および治療に対する配慮に関しては、治療の状況
や心身の状態、就業の状況等を踏まえて主治医や産業医等の医師の意見を求め、その意見に
基づいて対応を行う必要があります。
あらかじめ、必要な情報が提供できるように企業で様式を定めておくことをおすすめ
します。
おわりに
現在の社内を見回したとき、健康な人が多いことはとてもよいことです。
しかし病気はいつ、誰に降りかかってくるか分かりません。
現在治療中の従業員がいなくても、すべての企業に起こり得る問題であることを知り、
早めの制度構築を行いましょう。
従業員が病気により働けなくなることは、従業員本人だけでなく企業にとっても大きな
損失です。
また、治療が必要なのに会社に言い出せなかった、ということが起きればトラブルにも
つながってしまいます。
できるところから取り組みを始めてみてください。
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