2025年1月より、労働者死傷病報告や定期健康診断結果報告など
労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます。
企業規模に関係なくすべての事業場が対象となるため、労務担当者は
義務化の時期や対象となる手続について理解しておくことが必要です。
また、今回の改正では、労働者死傷病報告の報告事項も一部変更されることとなりました。
今回の記事は、改正による電子申請の義務化および労働者死傷病報告の
報告事項について解説します。
電子申請の義務化の背景
厚生労働省は、社会保険および労働保険分野において、企業が継続的に行う
手続を中心に、オンライン利用(電子申請)の促進に取り組んでいます。
電子申請は時間や場所にとらわれることなく手続が可能なため、企業としては
業務負担の軽減やコストの削減などを図ることができます。
労働安全衛生関係の手続もオンライン化が進められています。
たとえば労働者死傷病報告は、労働災害の発生状況などの統計や分析のための
重要なデータであり、行政機関はその集計作業に一定の時間を要します。
電子申請による手続は、行政機関にとってもメリットがあり、作業時間の大幅な
短縮や統計・分析作業の効率化ができるといえます。
こうした理由から、2025年1月1日より労働安全衛生関係の手続の一部の電子申請が
義務化されることとなりました。
電子申請が義務化となる手続とは
電子申請が義務化となる手続について解説します。
【義務化となる日】
2025年1月1日
【義務化となる事業場】
対象の手続を行うすべての事業場
【義務化となる手続】
以下に続く①〜⑦の手続内容や対象を確認し、自社がどの手続の電子申請の義務化に
対応すべきか確認してください。
①労働者死傷病報告(様式第23号、様式第24号のいずれか)
従業員が労働災害により死亡または休業した場合、「労働者死傷病報告」で
労働基準監督署に報告します。
すべての事業場が報告の対象です。
報告の様式は、休業日数などによって変わります。
②総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告(様式第3号)
事業場の規模や業種などが一定要件に該当する場合、総括安全衛生管理者や安全管理者、
衛生管理者、産業医をそれぞれ選任しなければなりません。
選任したときは、「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」
により労働基準監督署に報告します。(変更手続も同じ様式を使います。)
なお労働安全衛生法上、事業場の規模を判断をするときの「常時使用する労働者数」は、
正社員だけでなく、契約社員、パート・アルバイト、日雇労働者等の数を含め、
常態として使用する労働者の数をいいます。
【選任しなければならない事業場の規模】
③定期健康診断結果報告(様式第6号)
定期健康診断は、1年以内ごとに1回、正社員や正社員以外(パート・アルバイトなど)に
かかわらず常時使用する労働者を対象に実施します。
常時使用する労働者が50人以上の事業場で定期健康診断を実施したときは
「定期健康診断結果報告書」により労働基準監督署に報告します。
④心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告(様式第6号の3)
この検査はストレスチェックとも呼ばれ、従業員がストレスに関する質問に回答し、
その分析結果から従業員がどの程度のストレス状態にあるかを調べる検査です。
事業場の労働者が常時50人以上の場合、1年以内ごとに1回、ストレスチェックを
実施しなければなりません。
実施後は「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」により労働基準監督署
に報告します。(当面のあいだ50人未満の事業場のストレスチェック実施は努力義務)
⑤有害な業務に係る歯科健康診断結果報告(様式第6号の2)
歯科医師による健康診断は、歯等に有害な業務に従事する従業員を対象に
以下の時期に実施します。
(「歯等に有害な業務」とは、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りんその他
歯またはその支持組織に有害な物のガス、蒸気または粉じんを発散する場所における
業務のこと)
・雇入れたとき
・歯等に有害な業務に配置替えしたとき
・その後6か月以内ごとに1回
歯科医師による健康診断を実施したときは、事業場の規模にかかわらず「有害な業務に
係る歯科健康診断結果報告書」により労働基準監督署に報告します。
⑥有機溶剤等健康診断結果報告(様式第3号の2)
有機溶剤等健康診断は、屋内の作業場等で有機溶剤業務に従事する従業員を対象に
以下の時期に実施します。
・雇入れたとき
・屋内の作業場等での有機溶剤業務に配置替えしたとき
・その後6か月以内ごとに1回
有機溶剤等健康診断を実施したときは、事業場の規模にかかわらず「有機溶剤等健康診断
結果報告書」により労働基準監督署に報告します。
⑦じん肺健康管理実施状況報告(様式第8号)
じん肺健康診断は、粉じん作業に従事する従業員を対象に実施します。
(過去に粉じん作業に従事し、現在は粉じん作業に従事していない従業員も含みます。)
じん肺健康診断を実施したときは、事業場の規模にかかわらず「じん肺健康管理実施状況
報告」により労働基準監督署に報告します。
【その他の手続について】
義務化されるもの以外にも多くの手続が電子申請可能となっています。
以下を参考にしてください。
参考・ダウンロード|厚生労働省『電子申請が可能な労働安全衛生法等の手続一覧』
労働者死傷病報告の報告事項が変わります
電子申請の義務化とともに、労働者死傷病報告の報告事項も2025年1月1日に
改正されます。
1 様式第23号の報告事項
様式第23号は、死亡または休業4日以上の労働災害について報告する様式です。
変更となるのは下図の5項目です。
【事業の種類】(上図の①)
現在はテキスト入力ですが、コード入力方式に変更となります。
(日本標準産業分類の細分類項目を選択)
【職種】(上図の②)
現在はテキスト入力ですが、コード入力方式に変更となります。
(日本標準職業分類の小分類項目を選択)
【傷病名、傷病部位】(上図の③)
現在はテキスト入力ですが、コード入力方式に変更となります。
(該当する傷病名、傷病部位をそれぞれ選択)
【災害発生状況及び原因】(上図の④)
漏れなく報告できるよう、現在の記載欄を以下のように1〜5に分割します。
これにより、災害の発生状況や原因などを的確に把握しやすくなります。
【国籍・地域・在留資格】(上図の⑤)
現在はテキスト入力ですが、コード入力方式に変更となります。
(該当する国籍・地域・在留資格をそれぞれ選択)
2 様式第24号の報告事項
様式第24号は、休業4日未満の労働災害について報告する様式です。
報告事項を今後さらに活用するため、以下の事項が追加されます。
・労働保険番号
・被災者の経験期間
・国籍・在留資格
・親事業場等の名称
・災害発生場所の住所 など
入力支援サービスの利用
入力支援サービス(正式名称:労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る
入力支援サービス)とは、労働安全衛生法関係の帳票作成や労働基準監督署への
届出を支援するサービスです。
画面に必要事項を入力すると簡単に帳票が作成でき、e-Govを介して電子申請を
行うこともできます。
2024年8月1日現在、このサービスの対象は2025年1月より電子申請が義務化となる
手続(上述の「電子申請が義務化となる手続とは」で解説した手続)に限られていますが、今後対象手続が拡大される予定です。
また、以下のような便利な機能もあります。
・未入力や誤入力に対しエラーメッセージが表示され、入力不備を防ぐことができる
・入力したデータを保存することにより、次回あらたに報告書を作成するときに
共通部分の入力を簡素化できる
事前申請や登録は不要で、以下から利用することができます。
入力支援サービスを利用した電子申請の流れや操作の説明については、以下のマニュアルに
分かりやすく記載されています。参考にしてください。
【操作説明イメージ】
3 スマートフォン等への対応
入力支援サービスは、今後はパソコンだけでなく、スマートフォンからも
電子申請が可能となります。
パソコン、スマートフォン等を所持していない企業については、労働基準監督署に
設置のタブレットを利用して電子申請を行うことができるよう体制の整備が
進められています。
おわりに
電子申請の義務化は、2025年1月以降に労働基準監督署に提出するものから
対象となります。
たとえば「じん肺健康管理実施状況報告」は毎年12月末までの実施状況を
翌年2月末までに報告するため、次回の報告は電子申請をしなければなりません。
電子申請の対応がまだの企業は早めに準備することをおすすめします。
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