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企業が知っておきたい在職老齢年金の仕組み




65歳までの安定した雇用の確保は企業の義務ですが、

70歳までの就業機会の確保についても努力義務となっており

今後は働く高齢者がますます増えることが想定されます。


厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方としては、

44.4%の方が「年金額が減らないように、就業時間を調整しながら働く」と

回答しています。


賃金を貰いながら老齢厚生年金を受給する従業員が増えるため、

労務担当者は賃金が年金の受給に与える影響の理解が求められます。


今回の記事では、高年齢の従業員が働きながら年金を受け取ることができる

在職老齢年金の基本的な仕組みについて解説していきます。



在職老齢年金とは



在職老齢年金とは、厚生年金の受給対象となった60歳以上の従業員が、

会社で働いて賃金を貰いながら年金を受け取れる制度です。


ただし、60歳以上の厚生年金受給者であっても、一定以上の賃金を得ている場合は

厚生年金の一部または全部が支給停止になります。


【在職老齢年金制度の背景】


従来の厚生年金制度では、在職中は年金を支給しないことが原則でした。

しかし、高齢者は低賃金のケースが多く、賃金だけでは生活が困難だったため

在職者にも支給される年金として昭和40年に制度が創設されました。


それ以降、会社で働きながら年金を受給することが不利にならないようにという点と

現役世代とのバランスを調整しながら、都度見直しが行われています。


【在職老齢年金の種類】


在職老齢年金は、従業員の年齢によって以下の2種類に分かれます。


①60歳〜64歳を対象とした「低所得者在職老齢年金(以下、「低在老」という)」

②65歳以上を対象とした「高年齢者在職老齢年金(以下、「高在老」という)」


低在老については、老齢厚生年金の支給開始年齢の段階的な引き上げの完了後

(男性は2025年度、女性は2030年度)は終了するため、今回の記事では

高在老について取り上げます。


年金を受け取りながら働く65歳以上の従業員にとっての関心事項は

どのくらい賃金を貰うと年金が一部または全額支給停止となってしまうのかということです。


労務担当者は、在職老齢年金について従業員から相談を受けることも考えられるため

制度の概要を理解しておく必要があります。



在職老齢年金の計算方法



在職老齢年金の対象者は、会社で働き賃金を貰いながら年金を受給している人です。

在職老齢年金の支給は、年金賃金の合計額を支給停止調整額の基準で判定します。


なお、支給停止調整額は年度によって変動し、2024年度の支給停止調整額は

50万円のため、この記事では50万円を前提に記載していきます。


在職老齢年金の計算方法としては、年金賃金の合計額が50万円を上回る場合

年金の一部または全部が支給停止となります。




在職老齢年金の制度では、年金を「基本月額」、賃金を「総報酬月額相当額」としています。

基本月額と総報酬月額相当額の定義は以下の通りです。


 


基本月額:老齢厚生年金(年額)を12で割った額を指します。

     加給年金額、繰下げ加算額、経過的加算額は除きます。


総報酬月額相当額:毎月の賃金(標準報酬月額)と1年間の賞与(標準賞与額)を

         12で割った額を足したものを指します。


年金の停止額の計算方法は、一部停止の場合と全額停止の場合に分かれます。


【一部停止】


基本月額と総報酬月額相当額の合計額が50万円を超えた場合は

超えた額の2分の1の年金が支給停止となります。


【全額停止】


総報酬月額相当額のみで50万円を超えた場合は、年金の全額が支給停止となります。



停止額の計算については、以下の具体例も参考にしてください。

 




年金の停止額の変更は、総報酬月額相当額が変わった月または退職日の翌月(※)に

変更されます。

※退職して1か月以内に再就職し、厚生年金保険に加入した場合は除きます。


なお、在職老齢年金の計算では、以下の2点に注意してください。


①老齢基礎年金の受給

老齢基礎年金は在職老齢年金の対象となりません。

そのため、総報酬月額相当額の金額にかかわらず、老齢基礎年金は全額支給されます。


②加給年金(※)の受給

在職老齢年金による調整の結果、老齢厚生年金が一部支給停止の場合は加給年金は

全額支給されますが、老齢厚生年金が全額支給停止となった場合は加給年金は

全額不支給となるため、注意が必要です。


※老齢厚生年金の被保険者が65歳に達した際、65歳未満の配偶者や子ども

(18歳到達年度の末日まで、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子)などを

扶養している場合に、老齢厚生年金に追加する形で支給される年金



在職定時改定と退職改定



在職老齢年金の停止額を確認する上で知っておきたい制度に、「在職定時改定」と

「退職改定」があります。


どちらも年金の受給権が発生した後の厚生年金の被保険者期間が厚生年金額に反映される

制度で、基本月額が変更されることで在職老齢年金の停止額の計算結果も変わることが

あります。


そのため、労務担当者は在職定時改定と退職改定についても把握しておく必要があります。


【在職定時改定】

在職定時改定とは、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている65歳以上70歳未満の

従業員が、毎年9月1日(基準日)に被保険者であるとき、翌月の10月分から受給する

老齢厚生年金の金額が見直される制度です。


具体的には、前年9月から当年8月までの被保険者期間が算定され、受給する老齢厚生年金の金額の見直しに反映されます。


【退職改定】

退職改定とは、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている70歳未満の従業員が

70歳に到達したとき、70歳に到達した翌月分から受給する老齢厚生年金の金額が見直される

制度です。


なお、70歳以上の従業員に関しては、厚生年金に加入しないため、受給する老齢厚生年金の

金額の再計算には反映されません。


また、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給している70歳未満の従業員が

退職して1か月を経過したときも、退職した翌月分から受給する老齢厚生年金の金額が

見直されます。


 


【在職老齢年金への影響】

厚生年金の被保険者の期間が厚生年金額に反映されることで在職老齢年金が受ける

影響としては、基本月額が変更となることです。


以下の図のように、年金の停止を回避することを目的に賃金と年金をあわせて

50万円となるように賃金を設定していた場合、在職定時改定により基本月額が変更され、

知らないあいだに年金の一部停止対象になっていたということも考えられます。





労務担当者は、高年齢の従業員から賃金と年金について相談をされた際は

在職定時改定や退職改定も踏まえて回答することが重要です。



おわりに



2025年3月31日をもって、65歳までの雇用確保義務のうち継続雇用制度に設けられていた

経過措置は終了します。


2025年4月からは65歳までの継続雇用の希望者全員を雇用しなければならず、これから

ますます高年齢で働き続ける方が増えていきます。


従業員からも働きながらの年金受給についてや、賃金の調整のための勤務時間などの

相談も増えてくるでしょう。


そのようなときに労務担当者として対応できるように、在職老齢年金の制度について

理解を深めておきましょう。

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