近年、ライフスタイルや家族構成の変化によって、さまざまなケースでの扶養認定が増えています。
2018年10月、健康保険被扶養者の認定手続きが変更になり身分確認や生計維持確認が厳格に行われるようになりました。
また、2020年4月には国内居住要件が加わり、原則日本に住民票がある方のみ扶養が認められるようになっています。
扶養認定が厳しくなる中、従業員への必要書類のアナウンスに悩むこともあります。
今回はさまざまな扶養認定ケースを厳選して10選お伝えします。
従業員から扶養追加の連絡を受けてからの手続と、健康保険証が発行されるまでの基本的な流れは前回の記事で確認ください。
前回の記事 『社会保険の扶養範囲と、健康保険証発行の基本的な流れ。』
【今回ご紹介するケース】
・退職して失業保険を申請中の家族を扶養する
・退職後に健康保険から傷病手当金を受給している家族を扶養する
・住民票が別の同居している配偶者を扶養する
・別居している親を扶養する
・海外留学中の子どもを扶養する
・海外赴任へ帯同する配偶者を扶養する
・海外赴任先で生まれた子どもを扶養する
・姓が異なる子どもを扶養する
・事実婚の相手を扶養する
・夫婦共働きによる共同扶養の場合で子どもを扶養する
①退職して失業保険を申請中の家族を扶養する
扶養認定の多くに、退職した家族を扶養するケースがあります。
退職後、無職・無収入であれば扶養に入れることができます。また、失業保険を申請していても、退職の翌日から受給するまでの待機期間中で収入がないときは扶養に入れることができます。
注意が必要なのは、失業保険の受給が始まったときです。
失業保険の基本手当日額が3,612円以上(60歳以上または障害年金受給者は5,000円以上)となるときは、収入基準である年間収入130万円未満(60歳以上または障害年金受給者は180万円未満)を超えるため、扶養に入れません。
失業保険の受給が終わってから扶養に入れることになります。
失業保険の基本手当日額は、失業保険の雇用保険受給資格者証で確認できます。
また、高年齢求職者給付(一時金)、短期雇用特例被保険者の求職者給付(特例一時金)、再就職手当(一時金)は、扶養対象者の収入にはなりますが、一定の状態が続く収入ではないため年間収入には含めません。
【失業保険の雇用保険受給資格者証 例】
②退職後に健康保険から傷病手当金を受給している家族を扶養する
療養のため退職し、退職後も健康保険から傷病手当金を受給している家族を扶養にするケースです。
傷病手当金は、退職日までに1年以上の被保険者期間があり、退職日に傷病手当金の支給を受けているときは、退職後も引き続き通算して1年6か月分まで支給されます。
退職後に傷病手当金を受給している家族を扶養にするときは、傷病手当金支給決定通知書の支給期間と支給決定金額を確認してください。
日額を算出し、3,612円以上(60歳以上または障害年金受給者は5,000円以上)となるときは、収入基準である年間収入130万円未満(60歳以上または障害年金受給者は180万円未満)を超えるため扶養に入れません。
傷病手当金の受給が終わってから扶養に入れることになります。
③住民票が別の同居している配偶者を扶養する
ケースは少ないですが、さまざまな理由により同居している配偶者と住民票が異なる場合があります。
同居の事実が住民票で証明できないときは、民生委員等に「同居の証明」を書面(任意書式)で発行してもらい、証明します。
民生委員等には、事業主、町内会長、自治会長、大家なども含まれます。
民生委員とは、地域にて住民の相談などを受け行政や専門機関につなぐパイプ役などをしている非常勤の地方公務員です。
地域の民生委員については、市役所・区役所などで確認ができます。
④別居している親を扶養する
実親であれば、別居していても扶養に入れることができます。
義親である場合は同居が扶養の条件になり、別居の場合は扶養に入れることはできません。
また、別居している扶養家族の収入基準は、以下すべてに該当しなければなりません。
・年間収入が130万円未満(60歳以上または障害年金受給者は180万円未満)
・被扶養者の年収が被保険者からの仕送り額未満
そのため、仕送りの事実と仕送り額が確認できる書類の添付が必要です。
たとえば、振込みで仕送りしているときは預金通帳の写し、現金書留で仕送りしているときは現金書留の控えが必要です。
振込元、振込先、振込額(依頼主、届出先、送金額)が確認できるように準備します。
証明が難しいのは、現金の手渡しや現物支援(食料、衣料等)、世帯用のクレジットカードを使用させているなどのケースです。
合理的に認められる証明には、手渡しする現金を口座から引き出したことがわかる預金通帳の写しなどがあげられますが、スムーズに扶養認定をしたいときは、振込みや現金書留に切り替えての証明をおすすめします。
⑤海外留学中の子どもを扶養する
留学している子どもを扶養にするケースです。
国内居住要件により、原則日本に住民票がある方のみ扶養が認められています。
ただし留学生や海外赴任に同行する家族など、日本国内に生活の基礎があると認められるときは、国内居住要件の例外として扶養者の認定が可能となっています。
海外留学中の家族を被扶養者にするときは、以下のいずれかの書類の写しが必要です。
・ビザ(査証)
・学生証
・在学証明証
・入学証明証 など
留学のほか、ボランティア活動など就労以外の目的で一時的に海外渡航する家族など、ケースによって必要な書類が異なります。以下のサイトを参考にしてください。
⑥海外赴任へ帯同する配偶者を扶養する
海外赴任が決まった従業員の配偶者が、退職して帯同するケースがあります。
留学するケースと同様に、国内居住要件の例外として扶養者の認定が可能となっています。
海外赴任に同行する家族を被扶養者にするときは、以下のいずれかの書類の写しが必要です。
・ビザ(査証)
・海外赴任辞令
・海外の公的機関が発行する居住証明書の写し など
また、40歳以上65歳未満の被保険者が海外赴任することになったときは「介護保険適用除外等該当・非該当届」の届出を行います。
帯同する家族も同様の届出が必要です。
同行する家族が40歳以上65歳未満のときは、被保険者と被扶養者と2枚の届出を行います。
海外赴任の場合は、企業が被保険者の代わりに届書を記入して提出することができます。
⑦海外赴任先で生まれた子どもを扶養する
海外赴任している間に子どもが生まれ扶養にするケースです。
生まれた子どもとの続柄確認のため、以下のいずれかの書類の写しが必要です。
・出生を証明する書類
・赴任先の国の公的機関が発行する続柄確認できる公的な証明書 など
上記の書類が外国語で記載されているときは、日本語の翻訳文を添付します。
出生のほか、赴任先で婚姻した配偶者を扶養にするときは、続柄確認以外に生計維持を確認するための収入確認も必要になります。
赴任先の国によって、戸籍謄本や住民票、課税証明書など日本のような公的な証明書が取得できなかったり、時間を要することがあります。
公的な証明書の取得が難しい場合は、お早めに管轄の年金事務所にご相談ください。
⑧姓が異なる子どもを扶養する
結婚や離婚、養子縁組など、姓の変更により姓が異なる子どもを扶養するケースがあります。
被扶養者の範囲内であれば扶養できますが「親子(家族)であることを証明できる書類」を添付する必要があります。
婚姻により、旧姓の父母を扶養にする場合であれば、本人の戸籍謄本の取得により親子関係の証明ができます。
そのほか、離婚により戸籍が別になった子どもを扶養にする場合は、本人(親)の戸籍謄本と子の戸籍謄本、世帯全員の住民票の取得により親子関係の証明ができます。
⑨事実婚の相手を扶養する
事実婚や入籍前の同居から、扶養にするケースがあります。
この場合、「内縁関係であることを証明できる書類」と「同居していることがわかる書類」を添付します。重婚確認をするために、本人と事実婚の相手双方の戸籍謄本および世帯全員の住民票により証明をする必要があります。
⑩夫婦共働きによる共同扶養の場合で子どもを扶養する
2021年8月より、健康保険上の共働き世帯の被扶養者の認定基準の取扱いが明確化されています。
共働きが当たり前になりつつあり、夫婦の年収が同程度となる世帯も増えてきています。
夫婦の年間収入について、年間収入の差額が年間収入の多い方の1割以内であるときは、届出により主に生計維持する方の被扶養者とします。
ここでいう年間収入は、過去・現時点・将来の収入等から今後1年間の収入を見込んだものです。
まとめ
今回は扶養認定について厳選した10選をお伝えしました。
扶養手続は、働き方やライフスタイルの変化に伴い特殊なケースも増えており、ひとつひとつの場合に応じて必要書類を準備した対応が必要です。
扶養認定の最終判断は管轄の年金事務所になりますので、特殊な扶養手続の場合は事前に必要書類についてご相談されることをおすすめします。
また、定年再雇用する従業員の同日得喪手続時の被扶養者異動届の提出忘れが見受けられます。
健康保険証を急がれている年齢の方を扶養家族としているケースも多いので、同日得喪時は扶養家族の手続もセットで覚えておいてください。
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