2023年4月に、中央労働災害防止協会が作成している
「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」と
「家族による労働者の疲労蓄積度チェックリスト」
(以下、併せて「チェックリスト等」といいます。)が改正されました。
このチェックリストは、本人によるものだけではなく
一緒に住んでいる家族の目からはどう見えるかについての
チェックリストもある点が特徴的で、疲労度が蓄積していることに
気付きやすい工夫がされています。
改正にあたっては、食欲、睡眠、勤務間インターバルに関する項目を
追加するなどし、今まで以上に疲労度の蓄積度を把握しやすいものとなりました。
長時間労働者への医師の面接指導とは
1か月あたりの残業時間数と休日労働の時間数の合計時間数が80時間を超え、
かつ、疲労の蓄積が認められる方が会社に対して医師の面接指導を受けることを
申し出た場合、企業はその従業員に対して医師の面接指導を受けさせることが
法令上定められています。
著しい時間外労働は、脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患を引き起こす可能性があります。
そこで、時間外労働が一定の時間数を超え、心身の健康状態に違和感がある従業員には
医師に面接指導を受けてもらい、働き方の改善や休養の取得を促したり、
企業が就業環境を変えるきっかけにするための制度です。
労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリストとは
従業員が「医師による面接指導を受けたい」と申し出をするための条件のひとつに、
「疲労の蓄積が認められる」という項目があります。
その確認のために、今回改正されたチェックリスト等が使われています。
このチェックリストでは、従業員本人にイライラしているかどうかや、
身体が重たくないかなどの質問に答えてもらい、回答に応じた点数を合算して
合計点を出します。
その合計点数が一定の点数を超えた場合に「疲労の蓄積が認められる」と取り扱われます。
このチェックリストは、従業員本人用だけでなく、家族向けのチェックリストもあります。本人の視点のみだと気付きにくいことであっても、家族の目から見ると変化があるケースもあります。
従業員本人が心身の健康不良に気付くきっかけになり得ることから、
家族用のチェックリストがつくられました。
質問内容は従業員向けのものとおおよそ同じです。
改正の内容
今回のチェックリスト等の改正は以下のとおりです。
1 長時間労働などによる疲労の蓄積度を確認するための質問項目の改正
疲労の蓄積度を確認するために、以下の項目が追加されました。
①食欲の有無に関する項目が追加
②職場・顧客等の人間関係による負担に関する項目が追加
③時間内に処理しきれない仕事の有無に関する項目が追加
④自分のペースでできない仕事の有無に関する項目が追加
⑤勤務時間外においても仕事について意識が向いてしまうかどうかに関する項目が追加
⑥勤務日の睡眠時間に関する項目が追加
⑦終業時刻から次の始業時刻のあいだにある休息時間(勤務間インターバル)に
関する項目が追加
2 総合判定方法の改正
以前は「仕事による負担度」という表現にしていましたが、
今回の改正で「疲労蓄積度」という表現に変わりました。
そのうえで、以前は個人の裁量で改善不可能である場合には
上司や産業医に相談し、勤務の状況を改善するよう「努力してください」と
表現していましたが、今回の改正にあたっては、
「上司や産業医に相談してください」という表現に変わりました。
3 家族の視点に関するチェックリストの改正
家族向けのチェックリストについても、「食事量」に関する質問項目が改正されています。また、働き方と休養に関する質問項目についても、質問の表現が変わりました。
改正のポイント
チェックリスト等にはさまざまな変更点がありますが
なかでも注目すべき点をご案内します。
1 食欲について
本人のチェックリストだけでなく家族用のチェックリストにも
食欲に関する質問項目が加わりました。
これは、精神的な負担が重なった場合の症状に食欲不振があることを踏まえての変更です。
長時間労働は、身体的な不調だけでなく、精神的な不調も招きます。
そこで、精神的な疲労度が重なっていないかどうかの確認のために
食欲に関する質問項目が追加されました。
2 終業時刻から次の始業時刻のあいだにある休息時間について
仕事が終わってから次の日の仕事開始までの時間のことを
「勤務間インターバル」といいます。
勤務間インターバルが短いと、当然ながら十分な休息が取れないことから
近年は「勤務間インターバル」が着目されています。
政府はこの勤務間インターバルについて法令上の規制はしていないものの、
11時間以上の勤務間インターバルを設けることを推奨しています。
3 業務に関するストレスについて
以前のチェックリスト等でも「仕事についての精神的負担」という項目があり、
最高で3点加算されるようなものになっていました。
しかし、今回の改正により、最高点が15点から33点に引き上げられました。
引き上げられた18点のうち、ストレスに関する項目が12点分もあり、
精神的な疲労についても着目されていることがよく分かります。
政府の統計調査によると、仕事のストレスの原因の第1位は「仕事の量」、
第2位は「仕事の失敗、責任の発生等」、第3位は「仕事の質」となっており、
それを踏まえた質問項目として「時間内に処理しきれない仕事」や
「自分のペースでできない仕事」や「勤務時間外でも仕事のことが
気にかかって仕方ない」などの項目が加わりました。
4 人間関係による負担について
先ほど紹介した統計調査によると、仕事のストレスの第4位は「対人関係
(セクハラ・パワハラを含む)」、第5位は「顧客、取引先等からのクレーム」が
あげられています。
ハラスメントが大きなストレスを生む原因になることは既に周知のことですが
近年着目されている「顧客などからのハラスメント(いわゆるカスタマーハラスメント)」も、多くの方のストレス原因になっています。
そのためチェックリスト等の質問項目に、「職場」だけでなく
「顧客」も含められた点が特徴的です。
おわりに
法令では、残業などが80時間を超え、かつ疲労度の蓄積が認められる従業員がいても
申出がない限りは医師による面接指導などをする必要はないとしていますが、
企業には従業員の生命や健康を守るための措置を講じる義務が課されています。
今回のチェックリスト等の改正は、身体的な負担だけでなく、精神的な負担によって
仕事ができなくなってしまう方が多い現状を踏まえたものとなっています。
精神的な負担は長時間労働によっても生じますが、政府の統計結果にもあるように
人間関係に起因して負担が生じる場合もあります。
従業員が健康であり続けることは企業の発展のために必要な要素です。
従業員が知らないあいだに疲労度を蓄積させていないかを把握するため、
残業時間数にかかわらず、3か月に1回など定期的にチェックリスト等を
活用してみるのはいかがでしょうか。
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