人材不足、採用コストを抑えたい、育成する環境が整っていない
などの理由から、派遣労働者の受け入れを検討する企業は多いのではないでしょうか。
今回の記事では、派遣先企業がはじめて派遣労働者を受け入れるときの
受け入れから就業開始前までのポイントについて解説します。
派遣とは
派遣労働者を受け入れるにあたって、まずは
「派遣」「直接雇用」「請負」といった契約の違いを理解しておくことが必要です。
【派遣と直接雇用との違い】
「派遣」は派遣労働者と派遣会社(いわゆる派遣元)が労働契約を締結します。
実際の就業先は派遣先企業(受け入れ先企業)ですが、事業主は派遣会社です。
派遣会社は、賃金の支払や研修実施、相談対応など、
派遣労働者に関するさまざまな対応を行います。
一方、「直接雇用」は就業先の企業と労働契約を締結するため、事業主もその企業です。
正社員や契約社員、パート・アルバイトなどが直接契約にあたります。
【派遣と請負の違い】
「派遣」は派遣先企業の指揮命令を受けて業務を行います。
一方、「請負」は企業から発注された業務を完成させることを
目的としており、完成までに発注企業の指揮命令を受けることはありません。
なお、請負であるにもかかわらず、発注企業が業務の進め方の指示を
出したり時間管理などを行った場合は、指揮命令関係があるものとみなされ
偽装請負と指摘される可能性があります。
派遣の種類
派遣には以下の3種類があります。
1 登録型
オフィスワークで「派遣」と呼ばれるときは、一般的にこの登録型派遣を指します。
派遣労働者はあらかじめ派遣会社に登録し、派遣先企業が決まると
派遣会社と期間の定めがある労働契約を締結します。
派遣期間が終わると、この労働契約は終了し、次の派遣先企業が決まると
あらためて労働契約を締結します。
2 常用型派遣
常用型派遣とは、派遣会社に常時雇用される従業員の中から
派遣先企業へ派遣を行うものを指します。
そのため、派遣先企業との派遣期間が終了しても派遣会社との労働契約は
継続します。
なお、この常用型派遣のみ取り扱う特定派遣は
2015年の労働者派遣法改正により廃止されました。
3 紹介予定派遣
紹介予定派遣とは、派遣先企業による直接雇用(正社員、契約社員)を
前提として派遣労働者を最長6か月派遣するものを指します。
派遣契約が終了するタイミングで派遣先企業と派遣労働者双方の合意が
得られると、派遣労働者は派遣先企業に直接雇用されます。
ここからは、派遣先企業が登録型の派遣労働者を受け入れる前に
理解すべき主なポイントを解説します。
派遣労働者を受け入れるまでの流れ
派遣先企業が登録型の派遣労働者を受け入れるまでの
全体の流れは以下のとおりです。
派遣契約の締結
労働者派遣では、派遣会社と派遣先企業が派遣契約を締結します。
派遣先企業は派遣労働者を受け入れる前に派遣契約について
理解しておく必要があります。
1 派遣労働者の特定禁止(事前面接・履歴書送付など)
登録型派遣では、派遣先企業が年齢・性別・経歴などを確認して
派遣労働者を特定すること、つまり選別することは原則禁止されています。
派遣する候補者を選ぶのはあくまで派遣会社です。
派遣先企業が派遣労働者を選別すると、派遣先企業も
事業主のような関係となり、法令等で禁止されている労働者供給事業と
みなされる可能性もあります。
ただし、派遣労働者による就業前の派遣先企業への職場見学や
業務内容の確認などを実施することは可能です。
2 過去1年以内に離職した元従業員の受け入れ禁止
派遣先企業は、離職から1年が経過していない元従業員を
受け入れることはできません。
※60歳以上の定年退職者を除く。
3 労働契約申込みみなし制度
派遣先企業が、以下のような違法派遣であることを知りながら
派遣を受け入れた場合、派遣先企業が派遣労働者に対して
労働契約を申込んだものとみなす制度です。
ただし、派遣先企業が違法であることを知らず、
かつ、過失がない場合は適用されません。
4 派遣契約の中途解除
登録型派遣の場合、派遣契約期間の途中での契約解除は原則できません。
ただし、派遣先企業がやむを得ず中途解除を希望するケースもあります。
契約内容には、契約を解除するときの派遣先企業が対応すべき
派遣労働者の雇用安定措置を定めます。
【中途解除するときの派遣先企業が対応すべき派遣労働者の雇用安定措置 例】
・派遣会社へ契約解除の猶予期間をもって申入れを行う
・派遣先企業の関連会社など派遣労働者の新たな就業機会の確保
・中途解約による派遣会社が生じた損害の賠償
(休業手当、解雇予告手当など)
・中途解約の具体的理由の明示(派遣会社から請求があるとき) など
また派遣先企業には、少しでも長く派遣受け入れができるよう努めたり、
離職後も一定期間は社員寮への入居を可能にするなど
できる限りの配慮が求められます。
なお、派遣契約期間中は派遣労働者からも中途解除は原則できません。
ただし、ケガや病気などで働くことが困難な場合など、
やむを得ない事情により派遣労働者が中途解除を希望するケースもあります。
解除の申入れがあった場合、派遣会社は速やかに派遣先企業に報告し、
締結中の派遣契約の業務を行うことができる他の派遣労働者を
手配するなどの対応を行います。
5 派遣料金について
派遣労働者への賃金は派遣会社が支払います。
派遣先企業は、その賃金額にマージンを加えた料金を派遣会社に支払います。
マージンには、派遣会社の営業利益だけではなく、派遣会社が負担する
社会保険料や教育訓練費なども含まれています。
マージン率は低ければよいと一概にはいえず、たとえば派遣労働者の
スキルアップに力を入れると費用もかかるため、マージン率は上がります。
そのため、マージン率だけではなく教育訓練に関する事項や
派遣労働者の賃金平均額などの派遣実績の情報も考慮しながら、
派遣料金を検討することをおすすめします。
なお、厚生労働省が運営する「人材サービス総合サイト」には
派遣会社の実績などの情報が掲載されていますので参考にしてください。
派遣受入期間の制限
派遣の受け入れは原則3年までという期間制限があります。
この制限には、「事業所単位」「個人単位」の2種類があります。
※一部対象外あり(60歳以上の者、派遣会社で無期雇用されている者など)
1 「事業所単位」の期間制限
同一の派遣先企業の事業所における派遣の受け入れは
原則3年が限度と定められています。
この期限が経過した日の翌日を「抵触日」といい、
派遣先企業は抵触日を超えて派遣労働者を受け入れることはできません。
派遣先企業はこの事業所の抵触日を派遣会社に通知する必要があります。
なお、この期間を延長しようとする場合は、過半数労働組合または
従業員代表(労働者代表)に意見を聴く必要があります。
2 「個人単位」の期間制限
同じ派遣労働者を、派遣先企業の同じ組織単位(「課」など)で
受け入れできる期間は、原則3年が限度と定められています。
同一労働同一賃金の対応
2020年には働き方改革の一環として、すべての企業に同一労働同一賃金が
適用されました。
これにより、正社員と派遣労働者とのあいだで、雇用形態の違いを
理由として賃金などの待遇に差をつけることが禁止されています。
この対応は派遣会社に求められ、以下の2つ方式のどちらかを選択します。
派遣先企業は、派遣会社の選択により、待遇に関する情報の提供内容が変わります。
1 派遣先均等・均衡方式
派遣先企業の正社員と派遣労働者との均等・均衡を図ります。
・均等:「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」が同じであれば同じ待遇であること
・均衡:待遇に差をつける場合、「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」の違いに応じた合理的な差であること
派遣先企業は、派遣労働者の「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」に
最も近い正社員に関する情報を派遣会社に提供しなければなりません。
2 労使協定方式
派遣会社が派遣労働者を含む派遣先企業の過半数労働組合、
または従業員代表と労使協定を結び、派遣労働者の待遇を決定します。
派遣労働者は派遣先企業が変わるごとに賃金水準も変わります。
派遣先企業が変わり、業務の難易度が上がったからといって
賃金が上がるとは限らず、所得が不安定になりがちです。
しかし、この労使協定方式であれば派遣先企業の賃金水準に
影響されないため、能力アップが待遇アップに繋がりやすく
派遣労働者が積極的にキャリアアップを目指すことができるようになります。
派遣先企業は、派遣労働者と同じ業務の正社員に実施する教育訓練や
休憩室・更衣室などの福利厚生施設の情報を、派遣会社に
提供しなければなりません。
助成金の活用
派遣労働者を正社員として派遣先企業が直接雇用した場合、
派遣先企業に助成される制度として「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」があります。
優秀な人材確保や採用後のミスマッチ防止など
長期雇用の促進を図るために活用できる助成金です。
詳しくは、厚生労働省サイトをご覧ください。
おわりに
適正な派遣労働者の受け入れのためには、派遣会社だけではなく
派遣先企業の協力が必要不可欠です。
派遣先企業は、労働者派遣法をはじめとした法令等、
そして派遣契約に関することなどを押さえておく必要があります。
また、派遣労働者の就業開始以降については
本記事に記載している事項以外にも、派遣先企業の責任、
派遣先企業管理台帳の作成、派遣先責任者の選任など
さまざまな対応が必要となるため、十分に知識を
深めておくことが求められます。
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