即戦力の人材がほしい、急な退職者が出てしまったなどの人材不足解消のため
派遣労働者を採用する企業も多いのではないでしょうか。
「派遣」は派遣労働者と派遣会社(いわゆる派遣元)が労働契約を締結しますが、
実際の就業先は派遣先企業(受け入れ先企業)です。
そのため、派遣先企業も労働者派遣について理解しておく必要があります。
派遣には、「登録型派遣」「常用型派遣」「紹介予定派遣」の3種類があります。
派遣の種類など、派遣労働者を受け入れるときに知っておくべき基本情報は
過去の記事をご確認ください。
過去の記事『【保存版】はじめて派遣労働者を受け入れるときのポイント。』
今回の記事では、派遣先企業が登録型の派遣労働者の受け入れ決定後から
受け入れ期間中に求められる対応や、留意すべきポイントについて解説します。
派遣先責任者の選任
派遣先企業は、派遣労働者を受け入れる事業所ごとに、自社の従業員の中から
専属の派遣先責任者を選任しなければなりません。
(ただし、事業所の派遣労働者数と自社の従業員数の合計が5人以下の場合は
選任の必要はありません。)
1 派遣先責任者とは
派遣労働者が適正に就業できるよう、派遣労働者に関する管理を一元的に行います。
派遣契約に基づく就業や環境整備、派遣会社との連絡調整などを担います。
派遣先責任者に必要な資格は特にありませんが、以下の項目に該当する者から
選任するよう努めます。
・労働関係法令に関する知識を有する者
・人事・労務管理などについて専門的な知識または相当期間の経験を有する者
・派遣労働者の就業に関して、一定の決定・変更の権限を有する者 など
なお、派遣先責任者として適切な業務を行うために必要な知識などを身につけることを
目的とした「派遣先責任者講習」も有料で実施されています。
2 派遣先責任者の業務
・指揮命令者※などに対する必要事項の周知
(法令等や派遣契約内容、派遣会社の通知など)
・派遣受入期間の延長通知
・均衡待遇の確保(教育訓練・福利厚生施設・派遣会社に提供した賃金関係資料の把握)
・派遣先管理台帳の作成、保存および記載事項の通知
・派遣労働者からの苦情処理
・安全衛生について派遣会社と連絡調整(健康診断・安全衛生教育・事故時の確認など)
・そのほか派遣会社との連絡調整
※指揮命令者:派遣労働者に指揮命令する立場の者
労働保険・社会保険の適用確認
派遣先企業は、受け入れの決定した派遣労働者が労働保険・社会保険の
加入対象である場合、派遣会社に労働保険・社会保険の加入状況を
確認しなければなりません。
(派遣会社から派遣先企業に提示された被保険者証の写しなどにより確認)
もしも、正当な理由がなく保険に未加入の場合は、派遣会社に対し、派遣労働者を適切に保険加入させてから派遣をするように求める必要があります。
派遣契約の遵守確認
派遣先企業は、派遣労働者の受け入れ期間中に派遣契約が守られているかを
常に確認しておく必要があります。
具体的には、以下の4つの対応を行います。
1 就業条件の周知徹底
指揮命令者などの就業場所の関係者に、派遣契約で定めた就業条件を周知します。
周知方法には、就業条件を記した書面の交付や掲示などがあります。
2 就業場所の巡回
定期的に派遣労働者の就業場所を巡回し、派遣契約に違反した状況ではないか確認します。
3 就業状況の報告
指揮命令者に対し、派遣労働者の就業状況について定期的に報告を求めます。
4 派遣契約の遵守に係る指導
指揮命令者に対し、派遣契約に違反する指示を行うことのないように指導します。
教育訓練・福利厚生施設の提供
2020年、すべての企業に対し、働き方改革の一環として同一労働同一賃金が
適用されました。
これにより、正社員と派遣労働者とのあいだでの、雇用形態の違いを理由とした
待遇差が禁止されました。この待遇差とは賃金はもちろんのこと、
教育訓練や福利厚生施設なども該当します。
【教育訓練の実施】
派遣先企業が自社の従業員に対して業務に関する教育訓練を実施する場合、
同じ業務に従事する派遣労働者に対しても、派遣会社からの求めに応じて
参加できるように対応しなければなりません。
派遣会社が同様の教育訓練を実施する場合はこの限りではありませんが
業務に密接した教育訓練は派遣先企業の方が実施しやすい傾向にあります。
【福利厚生施設の利用】
派遣先企業は、自社の従業員が利用できる福利厚生施設のうち、
休憩室、更衣室、食堂という社内での業務円滑化を目的とした施設においては
派遣労働者にもこれらの施設の利用機会を与えなければなりません。
なお、売店、病院、保養施設などそのほかの施設についても派遣労働者が
利用できるよう配慮する必要があります。
派遣先管理台帳の作成
派遣先企業は、派遣労働者ごとに日々の勤怠内容や教育訓練の実施内容、苦情内容などの
就業実態を把握できるよう「派遣先管理台帳(任意書式)」を作成し、
3年間保存する義務があります。
また、派遣会社に対し、定期的に(1か月に1回以上)、そして派遣会社から
求められたときにも、派遣先管理台帳の記載内容を通知しなければなりません。
派遣先管理台帳の書式について、厚生労働省より記載例が公開されているため
ご活用ください。
参考・ダウンロード|厚生労働省『派遣先管理台帳(例)』
苦情の適切な対応
派遣先企業は、派遣労働者からハラスメントや就業条件と異なる実態、
自社従業員とのトラブルなどの苦情を受けた場合、誠意をもって適切かつ迅速な
対応をしなければなりません。
1 派遣会社へ通知
まずは派遣労働者からの苦情を速やかに派遣会社へ通知します。
ただし、派遣先企業において苦情内容の解決が容易かつ速やかに対応できる場合は、
派遣会社への通知は必要ありません。
2 解決に向けた対応
苦情の原因が派遣先企業に関わることのみである場合、派遣先企業の対応だけで
解決できる可能性が高く、派遣先責任者が中心となって対応します。
一方、原因が派遣会社にも関わる場合、派遣先企業と派遣会社がしっかりと
連絡調整しながら解決を図る必要があります。
3 不利益な取扱いの禁止
派遣先企業は、苦情を申出た派遣労働者に対し不利益な取扱いをしてはいけません。
不利益な取扱いの一例としては、不当に業務量を増やす、苦情の申出を理由として
派遣会社に派遣労働者の交代を求めたり派遣契約の更新を拒否する、などが挙げられます。
派遣先企業の責任について
派遣労働においては、原則、派遣労働者と雇用契約関係にある派遣会社が
責任を負う立場にあります。
しかし、派遣先企業が業務について具体的に指揮命令を行い、また就業場所における設備、
機械などの管理も派遣先企業で行っているため、派遣先企業が一部責任を
負うものもあります。
ここでは、派遣先企業が責任を負う主な項目を挙げます。
1 労働基準法関連
・労働時間・休憩・休日などの管理
・育児時間の管理
・公民権行使の保障 など
派遣労働者の日々の勤怠管理の責任は派遣先企業にあります。
ただし、36協定については派遣会社の36協定が適用されます。
そのため、派遣労働者に時間外労働や休日労働をさせるときは、
派遣会社の36協定の範囲内にとどめるよう注意が必要です。
2 労働安全衛生法関連
・作業環境測定の実施
・危険または健康障害の防止措置
・就業制限
・特殊健康診断の実施
(雇入れ時健康診断および定期健康診断は派遣会社が実施)
・労働者死傷病報告の提出 など
派遣労働者が労働災害により死亡または休業したときは、派遣先企業・派遣会社ともに
労働者死傷病報告の提出が必要です。
なお、派遣先企業は労働者死傷病報告の写しを、遅滞なく派遣会社に送付しなければなりません。
3 男女雇用機会均等法関連
・妊娠・出産などを理由とする不利益な取扱いの禁止
・セクシャルハラスメントに関する雇用管理上の措置 など
差別的な取扱いの禁止の責任は主に派遣会社が負いますが、実際の就業先である
派遣先企業にも責任が課されます。
つまり、派遣先企業と派遣会社ともに責任を負うこととなります。
4 労災保険法関連
労働災害については派遣会社が責任を負いますが、派遣先企業には労働災害の証明などの
対応が求められます。
労働災害が発生したときは、派遣先企業は速やかに派遣会社に発生状況などを
連絡してください。
おわりに
適正な派遣労働者の受け入れのためには、派遣会社だけではなく派遣先企業の協力が
必要不可欠です。
派遣先企業は、労働者派遣法をはじめとした法令等、そして派遣契約に関することなどを
押さえておくことが大切です。
また、派遣労働者の受け入れ前については、本記事に記載している事項以外にも、
派遣契約の締結、派遣受入期間の制限、同一労働同一賃金の対応などの様々な対応が
必要となるため、十分に知識を深めておくことが求められます。
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