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仕事と介護の両立を支援するために、企業ができること



従業員から「家族の介護をすることになった」という申出を受けたとき、

企業によっては体制がまだととのっていないことも多いのではないでしょうか。


仕事と介護の両立には「介護休業を取得する」という方法が浮かびますが、

それ以外にも支援制度は数多く存在します。

介護離職をなくすためにも、企業の担当者が介護に関する知識を持っておくことは

これからの時代において重要です。


今回は介護者となった従業員が安心して仕事と介護を両立できるようにするための

企業でできる取り組みについて解説します。


※介護休業については、過去の記事で詳しく解説しています。

合わせてお役立てください。


過去の記事『企業が知っておきたい、介護休業の基本。



介護を行うための社会資源



企業による仕事と介護の両立支援は重要ですが、介護者本人・企業の

取り組みだけでは限界があります。

そのため従業員の仕事と介護の両立支援を考えるうえでも、

どのような社会資源があるのかの理解が必要です。


社外には、下記のような社会資源があります。


【相談機関】

地域包括支援センター、市(区)役所・町村役場、居宅介護支援事業所 など


【医療機関】

病院・診療所


【生活支援】

介護事業所(訪問看護、通所介護、介護老人保健施設、介護老人福祉施設) など


介護者である従業員は、家族・親族、介護事業者等、行政、企業と連携をはかり

チームとして介護体制を作っていきます。

企業も、介護体制をつくるという点ではそのチームの一員です。

介護者本人にどのような制度を提供できるかを念頭に置き

連携を取っていく必要があります。


介護はいつ発生するか予測ができず、かつ緊急であることが多いです。

介護に直面する従業員がまだいなくても、あらかじめ両立支援の取り組みを

行っておくことで、実際に介護者となる従業員がでた際には

上司や同僚の理解・協力を得ながら仕事と介護の両立体制を

スムーズにつくることができます。



介護保険制度の基本



介護保険の被保険者が要介護認定を受けた場合、介護保険制度による

介護サービスを利用することができます。

企業で手続が発生することはありませんが、介護保険制度の基本や

介護保険サービス利用の流れを知っておくことで、介護を行う従業員が

どのような状況で仕事と介護を両立しようとしているかの理解を深めることができます。


【介護保険被保険者】

・第1号被保険者(65歳以上の人)

原因を問わず介護や日常生活の支援が必要となったときは

市区町村の認定を受け、介護サービスを利用できます。


・第2号被保険者(40歳以上65歳未満で医療保険に加入している人)

加齢が原因とされる病気(特定疾病)により介護や日常生活の支援が

必要となったときは、市区町村の認定を受け、介護サービスを利用できます。


【介護保険サービス利用の流れ】

1 要介護(要支援)の申請

市区町村の介護保険課の担当窓口で申請をします。

地域包括支援センターや、居宅介護支援事業所などに申請を

代行してもらうこともできます。


2 要介護(要支援)認定

訪問調査と主治医の意見をもとに、審査・認定が行われ、

要介護・要支援の程度が決定します。調査には、状況に応じて家族が

立ち会うこともできます。


要介護・要支援度は、要支援1・2、要介護1~5の7段階に分かれており、

段階によって利用できるサービスや月々の利用限度額が異なります。


3 ケアプラン作成

要介護者本人の意向や家族の意向、専門職の助言をふまえ、

どのようなサービスをどのくらい利用するかなどを決めるケアプランを

原則ケアマネジャーが作成します。

ケアプランの作成は、10割保険給付され、自己負担はありません。

介護者が仕事をしている場合は、日頃の働き方やどのように介護に携わりたいかなど、

仕事と介護の両立の希望をケアマネジャーに伝えることが大切です。


4 サービスの利用

介護保険サービスを提供する事業者(訪問看護、通所介護など)と契約を結び、

サービスを利用します。

利用にあたっては、費用の1~3割や居住費・食費などが自己負担となります。

サービスの契約にあたっては、要介護者は要介護状態によっては正常な判断が

できないこともあります。

介護者が立ち会うことをおすすめします。


5 更新手続

要介護・要支援認定には有効期間(※)があります。継続してサービスを利用するためには、有効期間が終了する前に、更新の手続が必要となります。

※有効期間は原則として初回認定6か月、更新認定12か月となります。


【利用できるサービス】

介護保険は、利用者が事業者を選択して介護保険サービスを利用する仕組みです。

企業としてどのような介護サービスがあるかを知っておくことで、

従業員の介護問題に寄り添い、より適切に対応することができます。



法定の支援制度



家族の介護を行う従業員の仕事との両立を支援する法律として

育児・介護休業法があります。

ここでは、法律で定められている制度についてご紹介します。

企業によって法律を上回る内容の制度を整備している場合は

自社の制度を優先させてください。


【介護休業】

従業員からの申出により、要介護状態にある対象家族1人につき通算93日まで

3回を上限として、介護休業を分割して取得できます。


【介護休暇】

要介護状態にある対象家族が1人であれば年に5日まで、2人以上であれば年に10日まで、

1日単位または時間単位で取得できます。


【所定労働時間の短縮等の措置】

介護休業とは別に、利用開始から3年間で2回以上の利用が可能で

以下の4つの中から企業がどの措置を講じるかを選択します。

・所定労働時間の短縮措置(短時間勤務)

・フレックスタイム制度

・始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(時差出勤の制度)

・介護サービスを利用する場合、従業員が負担する費用を助成する制度


【所定外労働の制限】

所定外労働の制限を請求することができます。

請求できる回数に制限はなく、介護終了までの必要な時に利用することが可能です。

(1回の請求につき1か月以上1年以内の期間)


【時間外労働の制限】

1か月に24時間、1年に150時間を超える時間外労働の制限を請求することができます。

請求できる回数に制限はなく、介護終了までの必要な時に利用することが可能です。

(1回の請求につき1か月以上1年以内の期間)


【深夜業の制限】

深夜業(午後10時~午前5時までの労働時間)の制限を請求することができます。

請求できる回数に制限はなく、介護終了までの必要な時に利用することが可能です。

(1回の請求につき1か月以上6か月以内の期間)


【転勤に対する配慮】

事業主は、就業場所の変更を伴う配置転換を行う場合、その就業場所の変更によって

介護が困難になる従業員に対して、介護の状況に配慮しなければなりません。


【不利益取扱いの禁止】

介護休業などの制度の申出や取得を理由として、解雇・雇止め・降格などの不利益な

取扱いを行ってはいけません。


【ハラスメントの防止】

介護休業などの制度利用や申出に関して、従業員の就業環境が害されることがないよう、

ハラスメント防止対策を行うことは企業の義務です。



法定制度と合わせて企業が活用できる取り組み例



法定の支援制度だけではなく企業独自で制度導入を行うことで、より一層の仕事と介護の

両立支援ができます。


【取り組み例1】休暇制度の見直しや勤務時間の調整を行う

介護においては、通院への付き添いや、介護保険サービスの契約、ケアマネジャーの

面談など、平日に介護者が対応しないといけないケースが多くあります。

必要な時間は1~2時間程度となり、休みを丸1日取らなくてもよい場合が多いため、

有給休暇(半日単位、時間単位)の導入や中抜けの取得を認めるといった勤務時間の

調整を行えば、両立しやすい環境をつくることができます。


【取り組み例2】在宅勤務(テレワーク)制度の導入

在宅介護は家事の手伝いや通院の援助が容易になり、事故やケガの心配をすることが

ないというメリットがあります。

また、実家など遠方の介護が必要となった場合の介護離職の防止にも役立ちます。


ただし、介護中の在宅勤務(テレワーク)にはデメリットもあり、要介護者が

目の前にいることにより仕事に集中できなかったり、要介護者が就寝した夜中や休日に

仕事をすることになってしまう場合があります。


在宅勤務(テレワーク)制度を導入する際には、メリット・デメリットを把握のうえ

検討されることをおすすめします。



おわりに



「2023年には団塊の世代の7割が後期高齢者となる」といわれてきました。

その年を迎え、今後は特に働き盛りの団塊ジュニアが介護の問題を抱える時代に

突入します。

そのとき職場環境がととのっていなければ、介護離職という選択をする従業員も

増えていくでしょう。


望まない介護離職を減らすためにも、企業としてできることを検討する必要が出てきます。ただし介護の状況は人によって違い、介護者本人にも予測不可能なことがほとんどです。

個別の事情を理解し、最適な支援を行うためにも、企業側の理解を深めておくことを

おすすめします。

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