パート・アルバイトをはじめとした短時間労働者に対する社会保険の適用では
2022年10月からの適用範囲の拡大が記憶に新しいところではありますが、
2024年10月には適用がさらに拡大されます。
短時間労働者の中には、配偶者の扶養の範囲内で勤務時間を調整するなど
家庭とのバランスを考慮しながら働く従業員もいます。
そのため、2024年10月からの適用拡大により新たに社会保険に加入することとなる
従業員には、あらかじめ十分に説明しておく必要があります。
今回の記事では、2024年10月からのさらなる社会保険の適用拡大について解説します。
社会保険の被保険者とは
社会保険における被保険者(以下、被保険者)とは、
厚生年金の適用事業所(以下、事業所)に勤務している
70歳未満の従業員を指します。
具体的には、次のいずれかに該当する従業員で、正社員や契約社員、
パート・アルバイトなどの名称は問いません。
➀フルタイムの従業員
②週の所定労働時間および月の所定労働日数がフルタイムの3/4以上の従業員
③上記②の時間数または日数が3/4未満であるが、一定の条件を満たす従業員
この③に該当する従業員を、社会保険上における短時間労働者といいます。
この③の「一定の条件」が以前より段階的に緩和され、
被保険者の適用範囲が拡大されています。
2024年10月から新たに適用対象となる従業員
2024年10月の適用拡大により新たに被保険者となるのは
以下の条件のすべてに該当する短時間労働者です。
1 一定の規模以上の事業所に勤務している
2024年10月から、適用対象となる事業所の規模が「被保険者数51人以上」となります。
この適用事業所のことを「特定適用事業所」といい、その規模は以前より段階を踏んで
範囲が拡大されてきました。
2 週の所定労働時間が20時間以上
雇用契約上の所定労働時間が20時間以上であることが必要です。
(残業時間は含みません。)
ただし、所定労働時間が20時間未満の場合であっても、2か月連続で
実際の労働時間が週20時間を超え、今後も引き続き週20時間を超えると
見込まれる従業員については、3か月目から被保険者となります。
3 所定内賃金の月額が8.8万円以上
所定内賃金とは、基本給および諸手当の合計額のことで、以下のものは含みません。
・割増賃金など時間外や休日、深夜の労働に対する賃金
・賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
・最低賃金に含めない賃金(通勤手当、家族手当、精皆勤手当など)
4 学生ではない
大学や高校、専修学校、各種学校などの学生は適用対象外です。
ただし、以下のいずれかに該当する方は被保険者となります。
・卒業前に就職し、卒業後も同じ事業所に勤務予定の学生
(卒業見込証明書を有すること)
・休学中の学生
・大学の夜間学部や高校の夜間定時制などの学生
5 2か月を超える雇用の見込みがある
雇用期間が2か月以内であっても、有期契約労働者の雇用契約書に
「更新する場合がある」などの明示があるときは、2か月を超えて
雇用が見込まれると判断され、最初の2か月の雇用契約期間から被保険者となります。
適用拡大に向けた準備
社会保険の適用拡大の対象となる特定適用事業所は、適用拡大が開始された当初は
被保険者数が501人以上の事業所、いわゆる大企業が対象でした。
そのためこの制度は、多くの中小企業にとって自社に関係のない制度と
捉える傾向にありました。
しかし、これからはより多くの事業所が、自社に関係する可能性があることを認識し、
今後の適用拡大の対応に向けて理解し、あらかじめ準備をしておくことをおすすめします。
1 新たな社会保険の加入対象者の把握
適用拡大により加入対象となる可能性のある短時間労働者を洗い出します。
2 適用拡大について社内周知
新たに加入対象となる可能性のある短時間労働者に対し
社会保険の適用拡大について周知します。
また、必要に応じて説明会や個人面談などを行い、社会保険の加入メリットをはじめとした制度内容を分かりやすく伝えたり、今後の労働時間について話し合うなど、
十分に理解してもらうための時間が大切です。
3 書類の作成・届出
2024年10月になると、被保険者資格取得届の届出が必要になります。
届出までの流れは以下のとおりです。
①日本年金機構からのお知らせ
新たに特定適用事業所となる事業所については、2024年8~9月頃に「特定適用事業所該当事前のお知らせ」、2024年10月頃に「特定適用事業所該当通知書」が届く予定です。
②「被保険者資格取得届」の作成
新たに被保険者に該当した短時間労働者についての届書を作成します。
③「被保険者資格取得届」の届出
2024年10月になったら届書を事務センターまたは管轄の年金事務所に届出します。
適用拡大後の手続について
社会保険の被保険者となった短時間労働者がいる事業所では、社会保険の手続について
以下のような点を理解しておく必要があります。
1 定時決定、随時改定
定時決定や随時改定は、原則、報酬の支払基礎日数が17日以上ある月を対象月として
確認します。
しかし短時間労働者については、17日以上ではなく11日以上ある月が対象月となります。(あわせて、備考欄の「3.短時間労働者の取得(特定適用事業所等)」を〇で囲む)
これは標準報酬月額の決定に関わる重要なポイントであるため、特に理解が必要です。
2 資格取得
短時間労働者が社会保険に加入するときは、一般の被保険者※と同じく「被保険者資格取得届」を提出します。
(このとき、備考欄の「3.短時間労働者の取得(特定適用事業所等)」を〇で囲む)
※一般の被保険者:正社員または週の所定労働時間・日数が正社員の3/4以上の従業員のこと
3 区分変更
雇用契約の変更などにより被保険者区分が変更となる場合、「被保険者区分変更届」の提出が必要です。
(例)週の所定労働時間が20時間の従業員が30時間(一般被保険者)になった場合
「短時間」→「一般」に被保険者区分を変更
(例)週の所定労働時間が30時間の従業員が20時間(短時間労働者)になった場合
「一般」→「短時間」に被保険者区分を変更
参考・ダウンロード|日本年金機構『健康保険・厚生年金保険 被保険者区分変更届/70歳以上被用者区分変更届』
この被保険者区分は、定時決定や随時改定でも利用される重要な区分です。
そのため、区分変更の届出や上述2の資格取得時での備考欄の記入については
忘れないよう留意してください。
4 複数の事業所勤務
短時間労働者のなかにはダブルワークなど複数の事業所で勤務する従業員がいることも想定されます。
社会保険の加入は、それぞれの事業所において要件を満たすかを判断されるため、
複数の事業所で被保険者となる可能性もあります。
その場合、「所属選択・二以上事業所勤務届」を提出し、主となる事業所を選択します。
なお、この手続は、原則従業員本人が行うため、企業は従業員に対し周知をしておくことが必要です。
また、従業員が「所属選択・二以上事業所勤務届」を提出すると「二以上事業所勤務被保険者決定及び標準報酬決定通知書」が事業主に届きます。
給与計算の際はこの通知書に記載された社会保険料を控除してください。
(この社会保険料は按分した額のため、通常の保険料額表の金額に当てはまりません。)
なお、被保険者証については、後日新しい被保険者証が届きます。
参考・ダウンロード|日本年金機構『健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届』
5 特定適用事業所の該当
2024年10月時点での被保険者数が50人以下の事業所が、その後、
被保険者数が51人以上となった場合は特定適用事業所となり、「特定適用事業所該当届」の提出が必要です。
ただし、適用拡大となる2024年10月時点で、事前に適用拡大の対象となる通知書類が
日本年金機構から届いている事業所については、該当届の提出は不要となる可能性があります。
詳しくは、2024年9月頃に届く通知書類をご確認ください。
【提出先】事務センターまたは管轄の年金事務所
参考・ダウンロード|日本年金機構『健康保険・厚生年金保険 特定適用事業所該当/不該当届』
おわりに
短時間労働者の社会保険適用では、企業には新たな手続やさらなる
社会保険料の負担などが発生します。
一方で、パート・アルバイトなどの従業員にとっては年金保障や
医療保険の充実といったメリットもあります。
この社会保険の適用拡大が、従業員のモチベーションアップやキャリアアップなどに
繋がれば、長期的な就業や優秀な人材の確保、職場の活性化など
長期的な視点でのメリットも期待できます。
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