従業員は、同じ企業とのあいだで、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)の
通算期間が5年を超えた場合に、希望をすれば期間の定めのない労働契約(無期労働契約)
へ変更することができます。
このルールを「無期転換ルール」といいます。
企業は、無期転換ルールに対応できる制度設計をする必要があります。
なお、大学の教員などは、この無期転換ルールが5年ではなく10年で適用されます。
今回の記事では、無期転換ルールの原則と例外についての概要や、その運用方法を
紹介します。
無期転換ルールの概要
無期転換ルールとは、同一の企業とのあいだで、有期労働契約が1回以上更新されて
通算5年を超えたときに、従業員が希望するだけで無期労働契約に変更できるルールです。
企業は、従業員からの無期労働契約に変更したいという希望を拒むことはできません。
なお、実際に無期労働契約に変更されるのは希望したときではなく、次の更新時に
無期労働契約として新たな契約が締結されます。
ただし契約期間は無期に変更されますが、その他の労働条件(賃金など)については
以前のままです。
【例 契約期間が1年の場合】
【例 契約期間が3年の場合】
なお、同一の企業とのあいだで有期労働契約を締結していない期間、すなわち
「無契約期間」が、一定の長さ以上にわたる場合、それ以前の契約期間は通算対象から
除外されます。これをクーリングと呼びます。契約をリセットするための無契約期間を
「クーリング期間」といいます。
【例 通算契約期間が1年に満たない場合】
無契約期間以前の通算契約期間が1年に満たない場合、以下の期間に該当するときは
無契約期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含めません。
【例 通算契約期間が1年以上の場合】
無契約期間以前の通算契約期間が1年以上の場合、無契約期間が6か月以上であれば、
無契約期間以前の契約期間は、通算契約期間に含めません。
無期労働契約へ転換するメリット
現在働いている有期契約労働者の無期労働契約への変更は、企業と従業員の双方に
以下のようなメリットが期待できます。
1 意欲と能力のある労働力を安定的に確保しやすくなる
企業:自社の実務や事情などに詳しい無期契約労働者を比較的容易に獲得できます。
従業員:雇用の安定性に欠ける有期労働契約から無期労働契約に変更することで、
安定的かつ意欲的に働けるようになります。
2 長期的な人材活用戦略を立てやすくなる
企業:有期労働契約から無期労働契約に変更することで、長期的な視点に立った
社員育成が可能になります。
従業員:長期的なキャリア形成を図ることができます。
無期転換ルールに関する労務管理上の注意点
1 雇止め・契約期間中の解雇などについて
企業が無期転換ルールの適用を意図的に避けることを目的として、無期転換申込権が
発生する前に雇止めや契約期間中の解雇などを行うことは、法律の趣旨に照らして
望ましいものではありません。
有期労働契約の満了前に企業が一方的に更新年限や更新回数の上限などを設けることは、
不当な雇止めとして許されない場合もあります。
また、契約期間途中での解雇は、やむを得ない事由がある場合でなければ認められません。
さらに、契約更新上限を設けたうえでクーリング期間を設定し、期間経過後に再雇用を
約束して雇止めを行うことなどは、法律の趣旨に照らして望ましいものとはいえません。
2 社員区分による処遇について
無期転換ルールで無期労働契約に転換した従業員の労働条件は、就業規則などに別段の
定めがある部分を除き、直前の有期労働契約と同一となります。
しかし、無期転換者と有期契約労働者の労働条件で契約期間以外に差がない場合や、
無期転換者と正社員(一般的に無期契約労働者のことが多い)との役割や責任、処遇の
区分とそれらの根拠が明確になっていない場合には、いずれ従業員の中に不公平感が
生まれ、職場の一体感を損なうなどのトラブルにつながる可能性があります。
また、法律的にも同一労働同一賃金の原則に抵触する可能性があります。
導入の手順
トラブルを未然に防ぐために、無期転換ルールの導入では、以下の手順を参考に
してください。
1 有期契約労働者の就労実態を調べる
現在働いている従業員を、正社員や多様な正社員(勤務地や労働時間などの労働条件に
制約を設けた正社員、限定正社員とも呼ぶ)、有期契約労働者などの社員区分ごとに
分けて人数を記録します。
その場合、有期契約労働者については、通算契約期間や更新回数、無期転換申込権の
発生時期なども把握しましょう。
また、正社員とそれ以外の社員区分が担う職務内容がどの程度異なるかも記録します。
【例 有期契約労働者の現状把握の記録】
2 無期労働契約への転換方法を検討する
無期労働契約への転換方法は、主に以下の3つがあります。
①雇用期間の変更
契約期間のみを変更する転換です。
対象は、無期転換前と比べ、職務や処遇を変更する必要がない従業員です。
労働条件を変更せず、期間の定めが有期から無期になります。
②多様な正社員への転換
正社員と比較して、勤務地や労働時間、職務などの労働条件に制約を設けた多様な
正社員への転換です。
対象は、職務能力や職務内容は正社員と同等でありながらも、家庭の事情などから、
転居・転勤を伴う移動が行えないために勤務地に制約がある、または正社員と同じ
時間だけ働くことができないような従業員です。
登用試験や面接などで的確に能力を見極めたうえで、多様な正社員へ転換します。
③正社員への転換
業務内容に制約がなく、入社後定年に達するまで勤務することを想定した、正社員への
転換です。
対象は、職務能力や職務内容が正社員と同等の従業員です。登用試験や面接などで
的確に能力などを見極めたうえで、正社員へ転換します。
いずれにおいても、処遇の差異とその根拠を明確にしておくことで、トラブル防止に
つながります。実際に無期転換を進める場合には、従業員本人の意向などを踏まえながら、
いずれの転換方法がふさわしいのかについて決定することが大切です。
また、無期転換をして終了ではなく、中長期的な登用のあり方をあらかじめ想定して
おくことも大切です。
【例 中長期的な登用の方法】
3 適用する労働条件を検討し、就業規則を作成する
現状の社員区分において制度や施策が整備されているのか、また、そもそも社員区分を
新設する必要があるのか、それぞれの社員区分の処遇の違いなどを検討します。
そのうえで、就業規則の改定箇所の検討を行います。無期転換者用の就業規則を作成した
場合には、規程の対象となる従業員を、正社員の就業規則の対象から除外しておく必要が
あるため、正社員の就業規則の見直しも検討してください。
4 運用と改善を行う
無期転換をスムーズに進めるうえで大切なことは、制度の設計段階から労使の
コミュニケ―ションを密に取ることです。労働組合との協議を行うことや、労働組合が
ない場合は労働者の過半数代表など従業員との協議を行う場を持ち、労使双方に納得性の
ある制度をつくることが、スムーズな導入・運用につながります。
また、無期転換申込権については、従業員への事前説明があることが望ましいです。
2024年4月から、労働契約の締結・更新のタイミングの労働条件明示事項が追加され、
無期転換申込権が発生する契約の更新時に「無期転換申込機会」と「無期転換後の
労働条件」を明示する必要があります。
無期転換ルールの例外
無期転換ルールには、2つの例外があります。
1 高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者および定年後引き続き雇用される有期雇用労働者に対する特例
専門的な知識を有している、または定年後にも継続して同じ企業に雇用されている
有期契約労働者は、企業が法令上定められている雇用管理を計画し、都道府県労働局長の
認定を受けた場合に、一定の期間、無期転換申込権が発生しなくなります。
【専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法の概要】
2 大学等および研究開発法人等の研究者、教員等に対する特例について
大学等及び研究開発法人の研究者、教員等については、無期転換申込権発生までの
期間(原則)5年を10年とする特例があります。
【特例の対象者】
おわりに
無期転換ルールは、期間を定めて従業員を雇用しているすべての企業に関係のある
ルールです。
無期転換ルールの導入には、人材の確保が容易になることや、社員の育成を長期スパンで
行うことができるなどのメリットがありますが、現在の制度を見直さないままの導入は
トラブルにつながる可能性があります。
無期転換ルールを導入する場合の制度設計は、必ず専門家に相談をしてください。
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