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『年収の壁・支援強化パッケージ』企業が押さえておきたいポイント

更新日:1月19日




2023年10月から厚生労働省より「年収の壁・支援強化パッケージ」が開始されました。

これは「年収の壁」の解消に向けた支援策です。


「年収の壁・支援強化パッケージ」の理解と活用は、人手不足の解消や優秀な人材確保に

有効です。


今回の記事では、支援策の内容を中心に、企業が押さえておきたいポイントを解説します。


なお、年収の壁のしくみや課題については前回の記事をご確認ください。



「年収の壁・支援強化パッケージ」の目的と背景



少子高齢化による生産年齢人口の減少や時間外労働の上限規制などにより、

人手不足が慢性化している企業も少なくありません。


対応が急がれるものの、現状は年収の壁を要因とした就業調整が障壁のひとつと

なっています。


2021年の厚生労働省の調査によると、配偶者がいる女性の短時間労働者の21.8%が

就業調整をしており、理由は57.3%が「130万円の壁」、21.4%が「106万円の壁」と

回答しています(複数回答)。


この調査結果からも、年収の壁が就業調整の大きな要因となっていることが伺えます。


そこで、当面の対応として年収の壁を気にせず働けるよう、2023年10月から

「年収の壁・支援強化パッケージ」が実施されています。


ここからは、企業が理解しておくべき支援策の内容を解説します。



事業主の証明による被扶養者認定の円滑化【130万円の壁への対応】



社会保険の被扶養者となるためには年収130万円未満(※1)の収入要件があります。


年収130万円以上になると扶養から外れ、130万円の壁により「社会保険加入(※2)

による手取り額の減少」が発生する場合があります。


※1:60歳以上または障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者は180万円未満

※2:または国民健康保険加入および国民年金第1号被保険者に該当


そのため、人手不足の企業では以下のような状況が見受けられます。


【従業員側】もっと働きたい気持ちはあるが、年収130万円を超えると扶養から

外れてしまうため、これ以上勤務時間は増やせない


【企業側】離職されると困るため、年収130万円以上にならないよう配慮が必要で、

残業させたくてもさせられない


この対応策として、一時的な収入増加(※)により年収130万円以上になったのであれば、

事業主証明の提出により被扶養者として認定されることとなりました。

(この措置は、同一の被扶養者につき原則として連続2回までです。)


※後述③による収入増加であること


この事業主証明が必要であると想定されるのは以下のようなときです。

従業員の家族が勤務する企業に証明書を求める場合と、自社が発行する場合があります。

 


証明書は厚生労働省のサイトからダウンロードできますのでご利用ください。




なお、留意事項は以下のとおりです。


①開始日

2023年10月20日から


②対象者

・新たに扶養の認定を受けようとする従業員

・現在扶養されている従業員(毎年実施される被扶養者資格の再確認を想定)

※継続的に年収130万円以上であることが雇用契約書などで明らな場合は対象外


③対象となる収入

人手不足による労働時間の延長等に伴い一時的に増加した給与収入

※企業と雇用関係がないフリーランスや自営業者などの収入は対象外


④「一時的な収入変動」と認められる上限額

具体的な上限額は定められていません。

上限を設けるとその金額があらたな年収の壁になりかねないためです。


そのため、協会けんぽや健康保険組合などの保険者が、雇用契約書の内容なども

踏まえながら一時的な収入の増加であるかを判断します。


なお、被扶養者の年収(※)が被保険者の年収を上回る場合、一時的な収入増加とは

認められず、被扶養者認定が取り消しになる可能性があるためご注意ください。


※または被保険者が被扶養者へ援助した額



社会保険適用促進手当の創設【106万円の壁への対応】



106万円の壁を要因とした「社会保険加入による手取り額の減少」の対応策として、

社会保険適用促進手当が創設されました。(手当支給は企業の任意)


社会保険適用促進手当の大きな特徴は、社会保険料の計算の基礎である標準報酬月額や

標準賞与額から除外されることです。


つまり、社会保険適用促進手当の支給により、企業と従業員ともに社会保険料の負担が

上がることなく従業員の収入増加を図ることができます。


なお、この措置は特定適用事業所に限らず、すべての事業所が対象です。

 


1 支給要件など


①開始日


2023年10月以降の手当を支給する月から



②算定除外期間


標準報酬月額や標準賞与額からの除外は最大2年間

※2年経過後は、通常の手当と同じく社会保険料に反映されます。



③対象者


あらたに社会保険に加入した標準報酬月額が10.4万円以下の従業員


※すでに社会保険に加入している従業員でも、就業場所や労働条件が同じで、同水準の

社会保険適用促進手当を支給する場合は、従業員間の公平性を考慮して対象者となります。


(ただし、2023年9月以前の社会保険加入者は、後述の「キャリアアップ助成金 

社会保険適用時処遇改善コース」は対象外)



④標準報酬月額や標準賞与額から除外される上限額


上限額は、健康保険、厚生年金保険、介護保険にかかる従業員負担分の社会保険料相当額

です。

そのため、協会けんぽや健康保険組合など加入している保険者、標準報酬月額、介護保険料の負担の有無などによって従業員ごとに上限額が異なります。


※この上限を超えた額は標準報酬月額や標準賞与額に含まれます。

その場合、随時改定に該当する可能性もあります。


【上限額の例】




⑤支給方法


毎月支給や数か月まとめて支給など企業が決めます。



⑥手当の名称


基本的には「社会保険適用促進手当」という名称にしてください。のちに行政機関による

確認が必要となったとき、算定除外できる手当であるか判断しやすくなります。


そのため、④の上限額を超える部分は別の名称で支給してください。


2 将来の年金額に反映されるのか

社会保険適用促進手当は標準報酬月額や標準賞与額から除外するため、従業員の厚生年金の給付額には反映されません。


3 就業規則等の対応

社会保険適用促進手当を支給する場合、就業規則等への定めが必要です。

以下は、厚生労働省のサイトで紹介されている規定例です。参考にしてください。


 


なお、支給している手当の取りやめは原則として不利益変更となります。

しかし、社会保険適用促進手当が標準報酬月額や標準賞与額から除外されるのは

最大2年間です。


そのため、この措置の終了にあわせて社会保険適用促進手当の支給も終了したいと考える

企業もあるかと思います。

この場合、あらかじめ就業規則等に一定期間に限り支給する旨を定めておくことを

おすすめします。


4 実務上、企業が留意すべきこと

企業は、社会保険以外の取扱いについても理解をしておく必要があります。

以下の図を参考にしてください。


 



キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」の新設

【106万円の壁への対応】



2023年10月以降、短時間労働者の新たな社会保険の加入とともに収入増加の取り組みを

行った企業に対し、最大50万円が助成されます。


具体的には、以下の3つのメニューがあります。


①手当等支給メニュー

社会保険適用促進手当の制度を活用し、短時間労働者の収入増加に取り組んだ場合に

助成されます。

(ただし、3年目は社会保険適用後6か月間の基本給と比較して、18%以上の基本給等の

増額が必要)




②労働時間延長メニュー

所定労働時間を延長して短時間労働者に社会保険を適用させた場合に助成されます。

 


③併用メニュー

①と②のメニューを組み合わせたものです。(1年目は①、2年目は②)




配偶者手当への対応



短時間労働者が就業調整をする理由として、106万円の壁や130万円の壁以外に

「配偶者の企業から配偶者手当が支給されなくなる」という回答が挙げられています。


以前は専業主婦の世帯が多くみられましたが、2000年ごろからは共働き世帯が増加し、

その差は広がる一方です。

さらには未婚率の上昇など、過去と比べて従業員の世帯状況が変化しています。


こうした状況から、配偶者を扶養する従業員に限定した配偶者手当を見直し、さまざまな

従業員を対象とした賃金制度に変えていくことは、従業員のモチベーションを高め、

あらたな人材確保にも繋がるため、企業にも大きなメリットがあります。


 


なお、配偶者手当を見直すためのフローチャートや具体例が厚生労働省のサイトで

紹介されています。参考にしてください。



おわりに



短時間労働者の社会保険の加入は、従業員の保障が手厚くなるだけではなく、

従業員の健康保持や労働生産性の向上、さらには優秀で働くことに意欲的な人材の確保に

つながるというメリットが期待できます。


年収の壁の支援策を上手く活用し、短時間労働者が年収の壁を意識せず働ける環境づくりに

取り組むことをおすすめします。










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