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労災保険の特別加入制度~手続と流れ~



労災保険の特別加入制度とは、一定の要件を満たす中小事業主等や一人親方等を従業員に準じて保護するための制度です。


加入は任意ですが、特別加入することにより、業務や通勤が原因でケガや病気をしたときも治療費の負担はありません。


さらに治療や療養のために働けなくなったときは、その期間の生活の安定を図るための給付金が支給されます。


このほか、障害が残ったときの給付や、死亡したときの遺族への給付などもあり、

万が一に備え、安心して働くことができるのも特別加入のメリットのひとつです。


今回の記事では、特別加入制度の中で加入者が最も多い「中小事業主等」、

それに次ぐ「一人親方等」を中心に、特別加入の手続や保険料、給付基礎日額について解説します。


なお、補償の対象範囲や保険給付等については、以前の記事をご確認ください。




特別加入するための手続



中小事業主等、一人親方等それぞれの加入手続について解説します。


1 労働保険事務組合と特別加入団体

特別加入制度の加入手続は、以下の組合や団体を通じて行います。

・中小事業主等:労働保険事務組合

・一人親方等 :特別加入団体


①労働保険事務組合とは


労働保険事務組合(以下、事務組合)とは、厚生労働大臣の認可を受けた団体です。

中小事業主等に代わり、労働保険事務の手続を行います。

特別加入を希望する場合だけでなく、「人手不足で事務処理に困っている」 「手続の時間が取りにくい」など事務処理が負担になっているときも、事務組合への委託が可能です。


委託する事務組合をお探しの場合は、都道府県労働局または労働基準監督署にお問い合わせください。





②特別加入団体とは


特別加入団体とは、都道府県労働局長の承認を受けた団体です。

一人親方等の特別加入は、「特別加入団体を事業主」 「一人親方等を従業員」とみなして労災保険を適用します。

そのため、一人親方等は特別加入団体の構成員になる必要があります。


なお、特別加入団体ごとに対応できる地域や業種が異なるため、加入の申込前に居住地や業種が対象であるかご確認ください。


お近くの特別加入団体をお探しの場合は、都道府県労働局または労働基準監督署にお問い合わせください。


2 手続の流れ


中小事業主等は事務組合、そして一人親方等は特別加入団体に特別加入の申込をします。(申込方法は、インターネット・郵送・FAXなど組合や団体によって異なります。)

申込を受けた事務組合や特別加入団体は、都道府県労働局(労働基準監督署経由)に特別加入の届出を行います。


 


なお、加入日は、事務組合や特別加入団体が都道府県労働局に届出した日(※)の翌日から30日以内のうち、中小事業主等や一人親方等が希望する日です。


申請日からさかのぼって加入することはできないため、日数に余裕を持って特別加入の申込をしてください。


※中小事業主等や一人親方等が特別加入の申込を行った日ではないためご注意ください。



【特別加入証明書】


特別加入証明書とは、特別加入していることを証明する書類です。

近年、建設現場などで提示を求められる場合が増えています。

万が一の事故に備え、特別加入していない者には業務をさせない方針の元請企業もあり、特別加入証明書がない場合は現場に入場できない可能性もあります。


特別加入証明書は、中小事業主等は事務組合、一人親方等は特別加入団体が発行します。

特別加入の手続完了とともに自動的に発行される場合や依頼しなければ発行されない場合など、発行方法は加入する組合や団体によって異なります。


3 加入時健康診断


中小事業主等や一人親方等が、以下の表にある業務を過去に一定期間従事していた場合、特別加入の申請時に健康診断を受けなければなりません。


この健康診断を加入時健康診断といい、適正な保険給付を行うために実施します。


病気などが発症したとき、発症の要因が特別加入の申請前と申請後のどちらの業務によるものか判断するための大切な診断です。




なお、健康診断を受診した結果、以下に該当する場合は特別加入が認められなかったり、保険給付を受けられない可能性があります。

 




給付基礎日額について



給付基礎日額とは、特別加入の保険料や給付額などを算定するときの基礎となるものです。


給付基礎日額は3,500円~25,000円の中から、中小事業主等や一人親方等が金額を選択します。

給付基礎日額が低いほど保険料が下がりますが、それだけ給付額も低くなります。


保険料と補償内容とのバランスを考慮しながら給付基礎日額を選択することをおすすめします。


1 年間保険料


特別加入の年間保険料は以下の計算により算出されます。



保険料率は事業ごとに定められています。2024年4月より保険料率が改定され、最新の保険料率は厚生労働省のサイトから確認することができます。

(中小事業主等は「第一種特別加入保険料率」、一人親方等は「第二種特別加入保険料率」を適用)



【給付基礎日額・保険料率一覧表】


以下の一覧表は、給付基礎日額に対する年間保険料です。

自身が適用される保険料率をあてはめ、給付基礎日額を選択するときの参考にしてください。


 



2 補償内容(保険給付・特別支給金)


以下の一覧のうち、赤枠で囲まれた保険給付や特別支給金は、給付基礎日額が支給額に反映されます。

 



労働災害の発生から給付手続までの流れ



労働災害が発生した場合、以下のように対応します。


①医療機関を受診し、以下のことを伝える


・業務中または通勤途中の災害であること

・特別加入していること


なお、受診先が労災病院、労災指定病院、労災指定薬局の場合、治療等を無償で受けることができます。


それ以外の医療機関を受診するときは、病院や薬局の窓口で治療費等を立替えて支払い(10割負担)、後日費用の請求手続を行うと立替えた費用が支給されます。



②保険給付の請求書を作成


保険給付の請求手続(特別支給金の申請手続を含む)は、事務組合や特別加入団体が行うことができません。


そのため、中小事業主等や一人親方等が自身で請求手続を行う必要があります。

(一人親方等は特別加入団体の証明が必要)


ただし、請求書の作成サポートなどを行う事務組合や特別加入団体もあるため、まずは加入先の事務組合や特別加入団体にお問い合わせください。


なお、社会保険労務士は請求手続の提出代行が可能です。

日頃から労務管理などを依頼している社会保険労務士がいる場合は、社会保険労務士に請求手続の代行を依頼するのもひとつの方法です。



③保険給付の請求書を提出


保険給付の請求書(特別支給金の申請書を含む)を提出します。

提出先は、医療機関や労働基準監督署など給付の種類により異なります。



その他注意事項



①支給制限


中小事業主等や一人親方等の故意または重大な過失によって発生した災害や、保険料の滞納期間中に生じた災害では、支給制限(全部または一部)が行われる可能性があります。


②【中小事業主等】包括加入および脱退


中小事業主等が特別加入する場合、家族従事者(事業主と同居している家族でその事業に従事している者)や役員(法人の場合)など従業員以外でその事業に従事している者がいるときは、原則として全員が加入することとなります。

これを包括加入といいます。


また、中小事業主等が特別加入から脱退する場合、包括加入した者も全員脱退することとなります。


なお、例外として、以下に該当すると認められた事業主は包括加入の対象から除くことができます。

・就業実態のない事業主(例:病気療養中や高齢など)

・事業主本来の業務のみ行う事業主

(例:株主総会や役員会など会議出席のみ行い、実際の業務執行は他の役員が行っている場合など)


③【中小事業主等】健康保険の特例は対象外


被保険者数が5人未満の企業において、中小事業主等が被ったケガや病気が、従業員と同様の業務を行っていたときの災害によるものと認められたときは健康保険が適用されます。


ただし、特別加入している中小事業主等は労災保険を適用するため対象外です。



よくある質問



中小事業主等や一人親方等の特別加入について、よくあるご質問と回答を紹介します。

 



おわりに



労働災害の備えには、特別加入制度のほか、民間保険(障害保険など)もあります。

民間保険も商品によって内容はさまざまで、特別加入制度より手厚い補償の商品もあります。

ただし、民間保険は特別加入制度とくらべ、保険料が高い傾向にあります。

特別加入制度はコストを抑えつつ、療養や休業、傷病、遺族、介護など幅広く補償される点もメリットのひとつです。

内容を十分に理解したうえで、加入の検討をしてください。

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