人事労務担当者は、従業員や会社情報などの機密情報を含む書類を多く取り扱います。
こうした書類の保管や保存も担当者の重要な役割ですが、増える一方の書類をいつまで
管理すべきか悩む場面もよく見受けられます。
今回の記事は、人事労務担当者が取り扱う書類の保存期間や、保存するうえで留意すべき
点について解説します。
書類の保存について
1 保管と保存の違い
人事労務関係の書類は、法令等により保管や保存期間が定められているものが多く
あります。
保管と保存は似ていますが、異なる意味を持ちます。
①保管:ある場所に置いて保持すること。一時的なものであり、必要な時に取り出して
使用したりすることができる
②保存:永続的に保持すること。長期間にわたり保持が見込まれる
この記事では、保管と保存をあわせて「保存」と表現し解説します。
2 法定保存文書とは
書類には、法令等により一定の期間保存することが義務付けられている書類があります。
これを法定保存文書といいます。
人事労務関係の書類は、法定保存文書に該当するものも多くあります。
この後の解説のとおり、法令等により保存期間もさまざまなので、適正に把握しておきましょう。
労働基準法に関する書類
従業員の雇用や退職、労働条件など、労働関係の書類の保存期間は5年
(経過措置として当分のあいだは3年)です。
【2020年3月以前の書類について】
2020年4月1日の法改正により、「完結の日」を起算日とする書類については、この記録に
かかる「賃金支払日」が「完結した日」より遅い場合、賃金支払日を起算日とすることと
なりました。
たとえば、タイムカードなど2020年3月31日以前に完結したものであっても、賃金支払日が
2020年4月1日以後の場合は、賃金支払日から起算して保存することとなるため留意して
ください。
安全衛生に関する書類
健康診断の記録や安全衛生委員会など、安全衛生に関する書類の多くの保存期間は5年も
しくは3年です。
ただし、特殊健康診断など、長期間保存しなければならない書類もあります。
【特定健康診断個人票のイメージ】
労働保険料の徴収等に関する書類
労働保険の保険関係の成立や消滅、労働保険料の徴収等に関する書類の保存期間は
3年です。
ただし、雇用保険被保険者関係届出事務等処理簿のみ保存期間は4年となっています。
労災保険に関する書類
労災保険に関する書類の保存期間は3年です。
労働保険料の徴収等については、「労働保険料の徴収等に関する書類」をご覧ください。)
雇用保険に関する書類
雇用保険に関する書類の保存期間は2年です。
ただし、被保険者に関する書類の保存期間は4年となっています。
社会保険に関する書類
社会保険(健康保険、厚生年金保険)に関する書類の保存期間は2年です。
年末調整、退職金に関する書類
年末調整や退職金の源泉徴収に関する書類の保存期間は7年です。
法定保存文書以外の書類の保存期間
書類の保存が必要なのは法定保存文書だけではありません。それ以外の書類でも、
企業にとって重要な書類は保存しておく必要があります。
あらかじめ書類の保存期限を決めておくことが、適切な管理につながります。
保存期間が過ぎた書類はどうするか
書類の保存期間が経過した場合、速やかに廃棄処分を行います。
ただし、廃棄には十分な注意が必要です。
廃棄を誤ると個人情報の流出や法令等の違反など大きなトラブルにつながる恐れがあります。
①廃棄前の確認
誤って保存期間前に廃棄することのないよう、ダブルチェック体制をつくるなどの対策を
します。
②確実な廃棄
シュレッダーによる裁断など、個人情報などが外部に漏れない確実な方法で廃棄します。
廃棄書類が多い場合は、書類を溶解処分する業者への依頼もおすすめします。
文書管理規程などのルール化
書類の適切な保存を怠ると、法令等の違反や情報漏洩などさまざまな問題が発生する
可能性が生まれます。
文書管理規程など、企業内のルールを定めておくことをおすすめします。
①書類の範囲:法定保存文書やそれ以外の書類など保存する書類の範囲
②書類の保存期間:法定保存文書およびそれ以外の書類の保存期間
③責任の明確化:書類の保存に関する責任者や担当部署など責任所在の明確化
④管理方法:保存場所や施錠の管理、コピーや持ち出しを希望する場合の対応など
⑤廃棄方法:廃棄前の確認や廃棄の方法など
保存期間の定めに違反したとき
法令等により定められた保存期間が過ぎる前の書類廃棄など、法令等に違反した場合、
罰則が課せられる可能性があります。
労働基準法に関する書類の保存期間に違反したとき:30万円以下の罰金 など
書類の保存期間一覧
以下は人事労務関係書類の保存期間をまとめた一覧です。
適正な書類保存や業務の効率化のため、参考にしてください。
参考・ダウンロード|『人事労務にかかる書類の保存期間一覧』
おわりに
e-文書法(正式名称:民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に
関する法律)により、一定の要件を満たした場合、紙だけでなくデータによる書類の保存も
可能となっています。
労働基準法や労働安全衛生法、そのほか労働保険・社会保険に関する法令等で保存が
義務付けられている書類も対象です。
(ただし、緊急時などにすぐに読める状態が必要な書類など一部の書類を除く)
業務の効率化、ペーパーレス化なども図りながら、適切に書類を保存することをおすすめします。
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