随時改定とは、昇給や降給など賃金が大幅に変わったとき、実態に即した社会保険料に
改定するための手続です。
届出する書類の名称「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届」(以下、月額変更届)から「月額変更」や「月変(げっぺん)」と呼ばれることもあります。
今回の記事は、随時改定の基礎知識と手続の流れについて解説します。
なお、今後公開の記事では、随時改定のさまざまな事例を紹介する予定です。
なぜ随時改定が必要なのか
社会保険に加入すると、被保険者である従業員や役員に支給する賃金や役員報酬など
(以下、賃金)から標準報酬月額が決定されます。
そしてこの標準報酬月額にもとづき社会保険料が算出されます。
標準報酬月額は年1回の定時決定で見直しが行われます。
しかし、次の定時決定までのあいだに、昇給や降給、諸手当の金額変更などで賃金が
大幅に変動した場合、標準報酬月額が実態とかけ離れてしまうことがあります。
そのため、一定の要件に該当した場合は、次の定時決定を待たずに標準報酬月額を改定
します。
これを随時改定といいます。
随時改定の要件
以下の3つの要件すべてを満たした場合、随時改定の対象となります。
ここからは、随時改定の要件について詳しく解説します。
1 固定的賃金に変動があった
【固定的賃金とは】
固定的賃金とは、支給額や支給率などが決まっているものをいいます。
固定的賃金は、金銭(通貨)だけでなく食事や住宅、定期券などの現物給与も対象です。
一方、残業手当や夜勤手当など、その月の勤務状況により支給額が変わるものは対象に
なりません。このような賃金を非固定的賃金といいます。
以下の図は、固定的賃金と非固定的賃金の具体例です。
【変動とは】
変動とは、以下の状況などが発生した場合をいいます。
2 3か月間、いずれの月も支払基礎日数が17日以上である
固定的賃金が変動した月以降の3か月間、いずれの月も支払基礎日数が17日以上
あることが必要です。
(ただし、特定適用事業所(※)に勤務するパート・アルバイトなどの短時間労働者は
11日以上)
※特定適用事業所とは、12か月のうち6か月以上、厚生年金保険の被保険者数が101人以上
(2024年10月以降は51人以上)見込まれる企業
【固定的賃金が変動した月とは】
固定的賃金が変動した月とは、金額変更後の固定的賃金が最初に支給された月のことです。
たとえば、月末締め、翌月15日支給の企業の場合、1月に昇給すると2月15日支給分から
昇給後の賃金となります。
この場合、変動した月は2月になります。
【支払基礎日数とは】
支払基礎日数とは、賃金計算の対象となる日数です。完全月給制や日給月給制、週給制の
場合は暦日数、日給制や時給制の場合は出勤日数(年次有給休暇なども含む)が支払基礎
日数となります。
ただし、日給月給制で欠勤があった場合は、就業規則等で定められた日数から欠勤日数を
差し引いた日数になります。
3 標準報酬月額に2等級以上の差が生じた
「変動後の標準報酬月額」と「これまでの標準報酬月額」をくらべて2等級以上の差が
生じたかを確認します。
確認は以下①②の手順で行います。
①「変動後の標準報酬月額」を確認する
(1)変動した月以降3か月間に支給された賃金(非固定的賃金も含む)の平均月額を算出
(2)平均月額を加入する保険者の保険料額表にあてはめ、該当する行の標準報酬月額が「変動後の標準報酬月額」となる
協会けんぽの保険料額表は以下のサイトから確認できます。
健康保険組合に加入の企業は、加入先の組合に確認してください。
②等級の差を確認する
保険料額表で、「変動後の標準報酬月額」と「これまでの標準報酬月額」をくらべます。
2等級以上の差が生じていれば要件に該当します。
【例外:1等級の差でも要件に該当する場合】
標準報酬月額の上限および下限にかかる変動の場合、以下に該当するときは1等級の差でも要件に該当します。
4 随時改定の対象とならない場合
上記で解説した3つの要件をすべて満たした場合、原則として随時改定の対象となります。ただし、以下の場合は随時改定の対象にはなりません。
①固定的賃金は増加したが非固定的賃金が減少したため、標準報酬月額が2等級以上下がった場合
②固定的賃金は減少したが非固定的賃金が増加したため、標準報酬月額が2等級以上上がった場合
以下の表を参考に随時改定の対象になるか確認してください。
随時改定の手続
随時改定の対象者が発生した場合、日本年金機構に届出をします。
1 必要書類や提出方法
①提出時期:速やかに
②届出書類:「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届」
③添付書類:原則必要なし
(ただし、3か月の平均月額と年間の平均月額が著しく乖離する場合の特例を申し立てる
場合、別途添付書類が必要)
④提出先:事務センターまたは管轄の年金事務所
⑤提出方法:電子申請、郵送、窓口持参
2 月額変更届の記入方法
随時改定の対象となる従業員(または役員)ごとに以下の内容を記入します。
①被保険者整理番号:資格取得時に一人ずつ付与された番号(分からない場合は標準報酬
決定通知書などで確認可能)
③生年月日:該当する元号の番号と年月日を記入
【元号】1 明治、3 大正、5 昭和、7 平成、9 令和
【記入例】平成10年4月23日の場合:7-100423
④改定年月:変動後の賃金が支給された月から4か月目の年月
⑤従前の標準報酬月額:現在の標準報酬月額(千円単位で記入)
⑥従前改定月:⑤が適用された年月
⑦昇(降)給:変動後の賃金が最初に支給された月(昇給・降給の区分も〇で囲む)
⑧遡及支払額:遡及分が支給された場合、支給月と遡及差額分を記入
⑨支給月:変動後の賃金を支給した月以降3か月
⑩日数:完全月給制や日給月給制、週給制の場合は暦日数、日給制や時給制の場合は出勤
日数(「随時改定の要件」の支払基礎日数の解説を参照)
⑪通貨:労働の対償として金銭(通貨)で支給された金額
⑫現物:食事、住宅、定期券など、金銭(通貨)以外で支給されたものの額(厚生労働大臣
や都道府県ごとに定められた額など)
⑬合計:⑪と⑫の合計
⑭総計:3か月間の⑬の合計
⑮平均額:⑭÷3で算出した金額(1円未満切り捨て)
⑯修正平均額:さかのぼって昇給したことにより対象月中に差額分が含まれている場合は、
差額分を除いた平均額を記入
⑰個人番号:70歳以上被用者のみ記入(基礎年金番号の記入も可)
⑱備考:「4.昇給・降給の理由」に〇で囲み、固定的賃金の変動内容を記入(そのほか
該当するものがあれば〇で囲む)
3 決定通知書の到着
届出後、手続の完了とともに日本年金機構より「健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬
決定通知書」が届きます。
改定月および給与に反映するタイミング
標準報酬月額が改定される月(改定月)の到来にあわせ、給与システムの社会保険料額の
変更作業を行います。
正しいタイミングで変更するようご注意ください。
1 新しい標準報酬月額の改定月
随時改定の対象となった場合、新しい標準報酬月額は、固定的賃金が変動した月から起算
して4か月目に改定されます。
そして、標準報酬月額の改定により社会保険料が変更されます。
2 いつの給与から反映されるのか
給与から社会保険料を控除する場合、原則として前月分の社会保険料を控除します。
(ただし、月末退職の場合は前月分と当月分の社会保険料の控除が可能)
随時改定の対象者がいる場合、新しい標準報酬月額による社会保険料をいつの給与から控除
するか正しく認識しておく必要があります。
おわりに
随時改定は、手続を間違うと社会保険料や傷病手当金、出産手当金のほか、将来受け取る
年金額にも影響する可能性が出てきます。
そのため実務担当者は、随時改定のしくみを十分に理解しておくことが必要です。
なお、今後公開の記事『随時改定(月額変更届)の実務における事例と対応。』では、
随時改定の実務を行ううえで「誤りやすい事例」「判断に迷いやすい事例」などさまざまな
事例を紹介する予定です。
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