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【2023年度版】暑さに強い⾝体をつくる熱中症対策



熱中症のピークは8月です。

しかし近年では、5月や6月など気温が高くない時期から

熱中症患者が発生しています。


梅雨明けから一気に高温多湿な天候に変化し、多くの人が十分に暑さに

慣れていないことから、熱中症による救急搬送者や死亡者数が急増します。



熱中症は野外だけでなく室内でも発症するため、熱中症リスクは

すべての従業員が持っています。

この記事では、企業が事前に実施できる従業員の熱中症予防と

労災になったときの手続について解説しています。



熱中症とは



熱中症とは、高温多湿な環境に身体が慣れずに体内の水分や塩分の

バランスが崩れ、体内の調整機能が破綻し発症する症状の総称です。

一般的な症状に、めまい、吐き気、意識障害などがあります。


熱中症の重症度は、Ⅰ度からⅢ度に分かれています。

Ⅰ度は軽度の症状とされており、現場での適切な対応があれば

重症化が防げ、症状改善ができる段階です。

症状が改善しないⅡ度以降は医療機関への搬送が必要です。




暑さに慣れる暑熱順化



気密性の高いビルや製造業の工場や工事現場など

高温多湿で風が弱く、輻射源(熱を発生するもの)が

近くにあるような環境では、体外へ熱が逃げにくくなり発汗も不十分となります。

そのため、体に熱が溜まって体温が上昇し、熱中症が発生しやすくなります。


人間は、多少ですが、暑さに慣れることができます。

身体の機能が暑さに適応することを「暑熱順化(しょねつじゅんか)」といいます。

暑さに慣れるための期間を設けることで、熱中症の予防に繋がると考えられます。

暑熱馴化には個人差があり数日から2週間程度かかるため

梅雨が明けて本格的に暑くなる今の時期から、暑さに強い⾝体をつくることの

従業員への呼びかけをおすすめします。


暑熱順化のポイントは、汗をかくことです。

適度な運動や入浴などを日常生活にうまく取り入れることで対応ができます。

暑さに慣れた身体になると、早く汗が出るようになり、体温の上昇を

⾷い⽌められるようになります。



ただし、暑熱順化の効果に持続性はなく、数⽇間でも暑い作業から離れると

暑熱順化の効果は減少します。

長期休暇明けの従業員などは、改めて暑さに慣れることが重要です。

熱中症対策が特に必要な9月頃までは、従業員へ暑熱順化の声掛けをしてください。



職場での熱中症予防対策



熱中症は屋内や屋外に関係なく、暑ければどこでも発症する可能性があるため、

職場での熱中症対策はすべての業種・職種で重要です。

以下、職場での熱中症予防策をまとめましたので、参考にしてください。


1 作業時間の短縮や休憩所の設置


簡易な屋根の設置、通風または冷房設備やミストシャワーなどの設置により

WBGT値を下げる方法を検討し、作業場所の近くに冷房を備えた休憩場所や

日陰などの涼しい休憩場所を確保してください。

WBGT値が高いときは、単独作業を控え、WBGT値に応じた作業の中止や

こまめな休憩などの工夫を行ってください。


厚生労働省によると、熱中症による死傷者数が多い時間帯は

14時、15時台となっており、その時間帯は屋外の作業をできるだけ避けたり、

休憩時間の工夫などもおすすめします。


【WBGT値(暑さ指数)とは】

熱中症予防を目的として、1954年にアメリカで提案された指標です。

WBGT値(暑さ指数)は人体と外気との熱のやりとりに着目した指標で

人体の熱収支に与える影響の大きい


①湿度

②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境

③気温

の3つを取り入れています。


WBGT値(暑さ指数)が、28℃を超えるときは熱中症にかかりやすくなります。

以下のサイトでは、作業に対応したWBGT値や実測の仕方などが記載されています。



2 通気性の良い服装の着用


通気性のよい作業着を準備し、冷却機能をもつ服の着用の検討を行ってください。



3 汗で不足しがちな塩分と水分の補給


休憩場所に飲料水や塩飴などを用意します。

大量に発汗すると、体内の塩分が消失するため水分補給のみでは不十分です。

水分と塩分を補給してください。

こまめな休憩とともに、喉が渇いていなくても水分と塩分を定期的に

補給するように促してください。


スポーツ飲料や経口補水液の塩分は、製品によって成分量が異なりますが

「栄養成分表示」を確認するとよいでしょう。



4 マスク着用の熱中症リスク周知


2023年3月よりマスク着用は個人判断となっていますが

場面に応じてマスク着用を従業員に推奨している企業も多くあります。

個人の判断で着用をしている方もいます。


マスクを着けると皮膚からの熱が逃げにくくなったり

気付かないうちに脱水になるなど、体温調整が難しくなります。

そのため、屋外ではマスクをはずすことや、屋内であっても熱中症リスクが

高まることを周知し、意識的に水分補給をするよう促してください。


5 従業員の異変に気付く観察


熱中症は身近な災害です。

普段から従業員同士で声をかけ合い、現場管理者や部署のマネージャーが

異変に気付けるように、今の時期から従業員の健康観察や

安全確保に努めてください。


初期症状が出ていても「仕事を一旦止めて休む」ことを選択せず、

無理をして仕事を続けて重度化するケースがあります。

いつもと違うと感じたら熱中症を疑ってみることも大切です。



普段から自身や周囲の異変に気付けるように、熱中症「応急手当」カードなども

ご活用ください。



6 熱中症に関する健康状態自己チェックシートの利用

業務中に熱中症の症状が起きたときは、労災を申請することになりますが、

労災の認定要件のひとつに、本人の身体の状況があります。

熱中症は、体調不良や不摂生、睡眠不足などがあると発症リスクが高まります。

発症の原因が本人の体調等による要素が大きい場合、

労災認定されない場合もあるため、従業員は日常的に自身の体調管理に

努める必要があります。


また、持病のある従業員は、熱中症リスクも高まります。

定期健康診断や持病確認などを行い、必要に応じて産業医や主治医に

対応を確認してください。


朝礼時や作業前に健康状態を確認したり、厚生労働省の職場における

健康状態チェックシートなども活用ください。



7 高齢の従業員の体調管理

高年齢者の熱中症にも注意が必要です。

高年齢者は、暑さや喉の渇きを感じにくく、体温を下げるための身体反応が

弱くなっていることがあります。

エアコンがなくても平気だった昔と比べ、昨今は異常な暑さです。

高齢の従業員の体調変化を観察し、体調確認や水分補給など積極的な声掛けを

してください。




熱中症の労災申請


職場で熱中症が発生した場合は、労災保険を申請します。

法令等では、暑熱な場所における業務による熱中症は業務に起因する

疾病のひとつで、労災となる可能性があります。


熱中症の労災認定は、作業環境、作業内容、労働時間、本人の身体の状況などを

総合的に勘案し、業務上疾病として補償対象となるかどうかを

管轄の労働基準監督署が確認調査し判断します。


労働基準監督署に認められると従業員は給付を受けることができます。

申請から給付までの流れは以下のとおりです。


1 職場での熱中症発生


業務中に熱中症の症状が発生したときは、本人もしくは現場にいた従業員から

以下の状況を確認します。


①症状の確認

②病院への搬送の必要性

③従業員への家族へ連絡の必要性

④熱中症が起きた状況


2 医療機関の受診


労災保険により治療費が支払われます。

そのため医療機関に対し、熱中症が発症した本人もしくは付き添っている従業員

(または家族)から業務中に発生した熱中症であることを伝えてもらう必要があります。

すべての医療機関が労災保険に対応しているわけではありません。

労災保険対応の医療機関なのかを確認し、治療費に関する労災保険の書類を作成します。

労災保険に対応している医療機関かどうかで、書類の様式が異なります。


3 休業中の補償に関する労災保険の書類を作成し、労働基準監督署へ提出する


業務中の熱中症で休業が必要なときは、休業4日目から休業補償が支給されます。

休業中の補償に関する労災保険の書類申請時には、直近3か月の賃金台帳や

タイムカードなどの添付が必要です。

また、休業3日目までは、企業が平均賃金の60%以上の休業補償を

支払わなければなりません。


4 業務中に労災が発生したことを労働基準監督署へ報告する


業務中に労災が発生したら、労働基準監督署へ報告する必要があります。

労災による休業が4日以上と4日未満のときで、報告書の様式と報告する

タイミングが異なります。


5 提出した労災申請の労働基準監督署の審査結果を待つ


労働基準監督署は、保険給付の決定のため申請書類の審査を行います。

審査期間は申請内容によって異なりますが、2か月から6か月程度です。


6 労災保険の支給・不支給の決定が行われ、給付が行われる


労災保険の認定・不認定の決定が行われたあと、従業員本人に対し

支給(不支給)決定通知が送付されます。

認定されると給付が行われます。


労災の認定要件のひとつに、本人の身体の状況があります。

熱中症は、体調不良や不摂生、睡眠不足などがあると発症リスクが

高まりますが、発症した原因が本人の体調等による部分が大きいときは

労災認定されないケースもあります。



おわりに


企業側が熱中症対策を怠ってはいけないのはもちろんですが、

暑熱順化や体調管理には従業員自身の意識向上も必要です。

暑熱順化のポイントは汗をかくこととお伝えしましたが、

始業前にラジオ体操を行うだけでも汗をかくことができます。


危険性や、簡単にできる自衛方法などを周知して

全社の熱中症リスクを防ぎましょう。

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