国は、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」にて副業・兼業を希望する労働者の
健康確保や労働時間管理のルールを明確にし、副業・兼業の普及を促進しています。
厚生労働省が公開している統計によると、全面禁止している企業も多いですが、条件付きも含め半数近くは認めていることがわかります。
副業・兼業を行う従業員は、複数の収入源を得られるだけでなく、一つの仕事では
出会えなかった人や、本業以外での経験から得た広い視野を持って仕事に取り組めるようになります。企業側も、副業・兼業で得られた経験やスキルを本業へ活用してもらう期待が持てます。
今回の記事では、企業が副業・兼業を検討するときに知っておくべき、労働時間管理や
健康管理のポイントについてお伝えします。
副業・兼業は認めないといけないのか
従業員が、労働時間以外の時間をどのように利用するかは従業員の自由です。
そのため従業員の希望に応じ、原則副業・兼業を認める方向での検討が望ましいとされています。
しかし、企業には副業・兼業を認めるうえで懸念もあるはずです。そのため副業・兼業が本業にどのような支障をもたらすかを今一度精査した上で副業・兼業を認めない、条件付きで認める等の判断をする必要があります。
【副業・兼業を認めない・認めるときは条件付きとする理由】
・本業の仕事への支障
・働きすぎによる心身の健康負荷
・業務上の秘密などの情報漏えい
・競業による自社利益の侵害
・企業の名誉や信頼を損なう行為 など
企業の方針が決定したら、トラブルやリスク対策のため、就業規則の規程整備や
労務管理上の仕組みづくりを検討します。
副業・兼業に関する就業規則の規定や社内様式は、以下のサイトを参考にしてください。
参考|厚生労働省『副業・兼業』
副業・兼業に関する情報の公表
2022年7月、副業・兼業の促進に関するガイドラインが改定されています。
今までのガイドラインでは、安心して副業・兼業に取り組めるように、副業・兼業を
行うときの労働時間管理や健康管理等について示されていました。
今回の改定で、多様なキャリア形成など副業・兼業を希望する労働者が、職業選択の参考にできるよう、企業サイトや会社案内、採用パンフレットなどでの副業・兼業に関しての
情報公開の推奨が追加されました。
情報公開するときの記載例です。
【副業・兼業を認めている(条件なし)】
【副業・兼業を認めている(条件付き)】
副業・兼業する従業員の労働時間
副業・兼業での労務管理では、労働時間に注意する必要があります。
法令等では、自社と副業・兼業先の労働時間を通算するものと通算しないものがあります。
【労働時間を通算するもの】
法令で定められている労働時間の限度時間は、原則1日8時間、週40時間です。
このルールは複数の事業場で働く従業員にも適用されるため、自社と副業・兼業先の労働時間を通算します。
さらに、従業員個人の実労働時間を規制する目的の「時間外労働の上限規制(時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内)」も適用されるため
自社と副業・兼業先の労働時間を通算します。
そのため、副業・兼業を行う従業員においては、副業・兼業先の労働時間も確認したうえで労働時間管理をする必要があります。
【労働時間を通算しないもの】
事業場ごとに締結される36協定の延長できる限度時間は、事業場ごとに延長時間の範囲内であるか確認するため、労働時間は通算しません。
また労働基準法が適用されない役員やフリーランス、労働基準法が適用されるが労働時間規制の適用除外となっている業種や管理監督者などの場合は通算しません。
どのように労働時間管理を行うのか
副業・兼業をする従業員の労働時間は、自社の労働時間と従業員の申告により把握した
副業・兼業先の労働時間を通算して計算します。
自社の労働時間と副業・兼業先の労働時間を通算して1日8時間、週40時間(特例措置対象事業場のときは44時間)を超える部分が時間外労働となります。
原則的な労働時間管理と、簡便な労働時間管理の2通りをご紹介します。
1 原則的な労働時間管理の方法
所定労働時間と時間外労働となる部分の2段階で通算を行います。
給与計算期間ごとに従業員に副業・兼業先の労働時間を申告してもらって労働時間の通算を確認します。
ステップ1 所定労働時間を労働契約を締結した先後の順番で通算する
ステップ2 時間外労働の発生した順番で時間外労働時間を通算する
例1)A事業場と先に労働契約を締結後、B事業場と新たに労働契約を締結し副業している
A事業場の所定労働時間:1日8H
B事業場の所定労働時間:1日2H
→先に労働契約しているA事業場は、法定労働時間内のため割増賃金の支払はありません。B事業場は、A事業場での労働時間が1日の法定労働時間に達しているため、B事業場で
働く時間はすべて法定外労働時間となります。
B事業場で働く2時間は割増賃金の支払が必要です。
労働契約を締結した先後の順番で通算するため、以下の図のように1日の中での労働時間の順番が前後しても割増賃金の支払は、後に労働契約をしたB事業場となります。
例2)A事業場と先に労働契約を締結後、B事業場と新たに労働契約を締結し副業しており、A事業場は所定労働時間を超え5時間働いた
A事業場の所定労働時間:1日4H
B事業場の所定労働時間:1日4H
A事業場で行った時間外労働時間:1H
→A事業場とB事業場で労働契約のとおり労働した場合、1日の労働時間は8時間なので
法定労働時間内の労働となります。
A事業場とB事業場の所定労働時間を通算して8時間に達しているため、いずれの事業場も
所定労働時間を超えて働いた時間は、すべて法定外労働時間となります。
A事業場で行った時間外労働時間は、割増賃金の支払が必要です。
2 簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)
原則的な労働時間管理は、従業員にとっては毎月複数の事業場へ労働時間の申告、
事業場にとっては労働契約や毎月の労働時間の通算管理が必要となり、双方にとって負担となります。
厚生労働省は副業・兼業の促進に関するガイドラインで、簡便的な労働時間管理として
「管理モデル」という考え方を示しています。
管理モデルは、副業・兼業の開始前にあらかじめ「自社の法定外労働時間の上限」と
「副業・兼業先の所定労働時間・時間外労働時間の上限」を設定し、その範囲内で
働くことで、自社以外の労働時間を把握しなくても法令等違反にならない仕組みです。
労働時間の上限は、自社と副業・兼業先の合計が
単月100時間未満、複数月平均80時間を超えない範囲で設定します。
管理モデルは、従業員と副業・兼業先に導入を求め、応じてもらう必要があります。
導入後のトラブル防止のため、管理モデル実施のための書面を自社、副業・兼業先、従業員の三者間で共有することをおすすめします。
※割増賃金の支払義務の考え方が、原則的な労働時間管理の通算のステップとは異なるため
注意ください。
ステップ1 先に労働契約を締結した事業場の所定労働時間と時間外(所定外・法定外)
労働時間の上限を通算する
ステップ2 ステップ1で通算した労働時間に、後に労働契約を締結した事業場の
所定労働時間と時間外労働時間の上限を通算する
例1)A事業場と先に労働契約を締結後、B事業場と新たに労働契約を締結し副業している
A事業場の所定労働時間:月曜日から金曜日まで1日8H
A事業場の法定外労働時間の上限の設定:1月20H
B事業場の所定労働時間:1月20H
B事業場の時間外労働時間の上限の設定:1月5H
→A事業所の法定外労働時間の上限とB事業所の所定労働時間・時間外労働時間の上限の
合計が、単月100時間未満、複数月平均80時間を超えない範囲で設定されているので管理モデルの適用ができ、副業先の労働時間管理の把握は不要です。
割増賃金は、管理モデルの通算ステップに従います。A事業場は、すでに所定労働時間が
1週の法定労働時間に達しているため、所定労働時間を超えて働く時間はすべて
法定外労働時間となります。
B事業場も、A事業場の所定労働時間と法定外労働時間の上限の通算が1週の法定労働時間に達しているため、B事業場で働く時間はすべて法定外労働時間となります。
副業・兼業をする従業員の健康管理
企業は、従業員が健康に働けるように健康状況を把握し、健康管理に努める必要があります。そのため法令等により、健康診断やストレスチェックの実施が義務付けられています。
実施義務は、従業員の所定労働時間を基準に判断しますが、副業・兼業先の労働時間は
通算せず判断します。
副業・兼業をする従業員が、自社と副業・兼業先の労働時間を通算し対象となる労働時間となっていても、健康診断やストレスチェックの実施義務はありません。
しかし、副業・兼業をする従業員は、長時間労働になる可能性が高いため、働きすぎと
ならないように、労使の話合いをもとに健康確保のための措置の実施をおすすめします。
また、中高年齢者にあたる45歳以上は、加齢に伴う心身機能の変化と無理な行動により
労働災害の発生リスクも高まります。
法令等でも中高年齢者の労災防止の就業上の配慮が求められています。
副業・兼業を条件付きで認めるときに、直近の健康診断の結果が業務遂行に問題がないことなどの基準を設けることもおすすめします。
【健康確保のための措置 例】
・健康保持のための自己管理を行うように指示する
・自らの健康状態の報告を義務とする
・メンタルヘルスや健康相談できる相談窓口を設置する
・時間外・休日労働の免除、制限を行う など
まとめ
多様な働き方を選択したり、パートタイマーとして複数の企業で働くなど副業・兼業をする方が増えてきています。
2020年9月には、複数の企業で働く労働者が安心して働ける環境整備として、労災保険給付の改正もありました。労災保険給付の基礎賃金をすべての就業先の賃金を合算するという内容です。また、1つの企業で労災認定できない場合は、複数の企業の業務上の負荷など総合的に評価して労災認定する仕組みもできました。
2022年1月には、複数の企業で勤務する65歳以上の労働者が、2つの企業での労働時間を合計して雇用保険の要件を満たすとき、労働者の希望により雇用保険の被保険者になれる雇用保険マルチジョブホルダー制度が新設されました。制度の試行実施状況の把握・検証を行い、さまざまな年齢層のマルチジョブホルダーの雇用保険の適用が検討されます。
今後も、副業・兼業の普及促進のため新たな実効性のある政策の検討が進みます。
今回の記事を参考に、副業・兼業を検討するときに適切な雇用管理にお役立てください。
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