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建設業における墜落・転落の防止対策。




厚生労働省がまとめた令和4年の労働災害発生状況によると、

休業4日以上の死傷者数は過去20年で最多の132,355人となり

一方、死亡者数については過去最少の774人となりました。


このように死亡者数は全体的に減少していますが、内訳をみると「墜落・転落」による

死亡者数は10年以上変わらず高いままです。

さらに、これらの事故は10年以上連続で全体の中で最も多い割合を占めています。

また、休業4日以上の死傷者数においても「転倒」「動作の反動・無理な動作」に次いで

「墜落・転落」が多い結果となっています。


今回の記事では、この「墜落・転落」の発生件数が多い建設業における、墜落・転落の

防止対策を解説します。



墜落・転落、建設業での発生が依然として最多



労働災害で毎年発生件数の上位に位置する「墜落」「転落」「転倒」。

これらの事故はニュースでもよく耳にするワードです。

なかでも「墜落・転落」は、先述のとおり死亡などの大きな事故につながる

非常に危険な災害です。


1 墜落・転落・転倒の違い

「墜落」「転落」「転倒」は、一般的には以下のような違いがあります。


【墜落】

こう配が40度以上の斜面から、身体が完全に宙に浮いた状態で落ちること


【転落】

階段や坂道など、こう配が40度未満の斜面に身体を接しながら落ちること


【転倒】

ほぼ平面で転ぶ場合のことで、つまずきや滑りにより倒れること



2 建設業の墜落・転落、いまだ横ばいの状況

死亡者が発生した労働災害(以下、死亡災害)を業種別にみると、「墜落・転落」による

死亡者数が最も多いのは建設業です。

厚生労働省の発表によると、建設業の死亡災害のうち、「墜落・転落」による災害が

占める割合はここ数年も減少することなく、毎年40%前後で推移しています。


建設業は、他の業種に比べ、高所作業や重機などを扱う危険な環境での作業が多いことが、このような結果につながっているといえます。



事業者が対応すべきこと



事業者は、法令等に基づき、労働災害防止のための必要な措置を講じなければなりません。そのため、建設業においても以下のような対応が求められます。


1 安全衛生教育の実施

従業員に対し、安全や衛生に対する意識づけのための教育を実施しなければなりません。

すべての業種で実施が必要とされる「雇入れ時」「作業内容の変更時」における教育の

ほか、建設業では、以下の要件に該当する場合は必要な教育を実施しなければなりません。


・特別教育:危険・有害な業務に従業員を新たに就かせるとき

・職長教育:職長や現場で指揮監督する者として、新たに従業員を就かせるとき


2 健康診断の実施

すべての業種で、常時雇用する従業員に対し、原則1年以内ごとに1回、定期的に健康診断を

受診させなければなりません。


また、特に有害である一定の業務に常時従事する従業員に対しては、6か月以内ごとに1回、

特定業務従事者の健康診断」を受診させる必要があります。

なお、この対象となる一定の業務には深夜業(※)も含みます。そのため、夜間工事などを

行う従業員は受診対象となる可能性があります。

※深夜業(22時~5時):週に1回以上または月に4回以上行う場合が対象


3 作業環境測定の実施

従業員の健康被害を防ぐため、作業場の有害物質などを定期的に測定しなければ

なりません。なお、法令等にて10種類の作業に対し測定が義務づけられています。

詳しくは、以下の厚生労働省のサイトを参考にしてください。


4 リスクアセスメントの実施

リスクアセスメントとは、労働災害などの発生要因となるような危険性または

有害性などの調査を行い、その結果に基づいてリスクの低減を図る取り組みのことです。

職場に潜むリスクを認識して対策することは、労働災害などの発生防止や快適な

職場環境づくりに役立ちます。


5 長時間労働の解消

建設業では、深刻な人材不足などにより、長時間労働が常態化している現場も少なく

ありません。

長時間労働は、従業員の肉体的・精神的ストレスを生み、労働災害につながることも

あります。今後は工期の見直しや業務効率化などにも取り組みながら、従業員の

長時間労働の問題を解消する必要があります。


6 現場における安全対策

当然のことながら、実際の作業現場における安全対策は非常に重要です。

法令等においても、「墜落・転落」についての安全対策が定められています。


詳しくは、後述の「建設業における墜落・転落の安全対策」でご紹介します。


【発注者や元請事業者の責務】

建設業では、発注者から仕事を請け負った元請事業者が、その全部または一部を

下請事業者に依頼するという形態が一般的によくみられます。

この場合は、発注者だけではなく元請事業者にも労働災害防止のための責務があります。


発注者の責務

施行方法や工期など、労働安全衛生を損なうおそれのある条件などを附さないよう

配慮する


元請事業者の責務

元請や下請の従業員が混在する現場での労働災害防止のため、連絡調整、指導、作業場の

巡視、下請事業者に使用させる機械などの安全確保などを行う



建設業における墜落・転落の安全対策



建設業における死亡災害を、「墜落・転落」が発生した場所別にみると、屋根などの端や

開口部が約3割、足場が約2割となっています。そのほか、近年増加傾向にあるはしごや

脚立、そして木造建設工事における梁(はり)や桁(けた)といった場所による災害も

毎年一定数を占めています。


労働災害を防ぐためにも、災害の発生要因をふまえ、それぞれの現場で適切な対策を

行うことが大切です。


【墜落・転落の発生要因の例】

・手すりなどの設置がされていない

・足場などの安全点検が行われていない

・墜落制止用器具が適切に使用されていない

・はしごや脚立が適切に使用されていない

・知識不足や誤った作業方法 など




1 作業床などによる墜落防止措置

高さ2メートル以上の現場で墜落のおそれがある場合は、足場を組み立てるなどして

作業床を設置しなければなりません。


作業床とは、高所作業や機械の点検など、作業のために設置された床のことで、法令等に

よる基準を満たしたものでなければなりません。

なお、作業床の端や開口部などには、囲いや手すり、覆いなどの設置も必要とされて

います。


2 墜落制止用器具の使用

作業床や開口部の囲いなどの設置が難しいときは、要求性能墜落制止用器具

(以下、墜落制止用器具)を使用しなければなりません。


法令等の改正により、現在は、原則フルハーネス型の墜落制止用器具を使用することと

なっています。

フルハーネス型とは、身体が器具から抜け出てしまったり、身体を過大に圧迫するなどの

リスクが低減されるよう、肩や腿、胸などの複数のベルトで構成された器具です。

(高さが6.75メートル以下の作業場では、胴ベルト型(一本つり)を使用することも可能)



3 足場における墜落防止措置(2023年10月以降)

法令等により足場からの墜落防止措置が強化され、2023年10月以降は以下の措置を

順次講じなければなりません。


点検者の指名(2023年10月から)

足場の点検を行うときは、あらかじめ点検者を指名しなければなりません。


点検者の氏名の記録・保存(2023年10月から)

足場の組立て、一部解体、変更などの後の点検後、点検者の氏名を記録・保存しなければ

なりません。


一側足場の使用範囲の明確化(2024年4月から)

幅が1メートル以上の場所で足場を使用するときは、原則、本足場(※1)を使用しなければ

なりません。

(ただし一定の状況により本足場を使用することが困難なときは、一側足場(※2)を使用することも可)

※1 本足場とは、垂直方向に伸びる支柱が2本の構造

※2 一側足場とは、垂直方向に伸びる支柱が1本の構造(安定度は本足場より劣る)


詳しくは、以下のリーフレットを参考にしてください。



おわりに



建設業では危険度の高い環境での作業も多いことから、他の業種に比べ、労働災害の

発生率が高くなっています。

従業員がより安全に作業できるよう事業者は日頃から安全対策を行い、従業員とともに

労働災害に対する意識を高く持って行動することが非常に大切です。

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