2010年4月の改正労働基準法により、
1か月60時間超の時間外労働の割増賃金率は 25%から50%に引き上げられました。
ただし、割増賃金の引き上げが適用となったのは大企業のみで
中小企業は2023年3月31日まで適用が猶予されています。
この猶予措置の期間が終了し、2023年4月1日以降からは
中小企業でも割増賃金の引き上げが適用されます。
猶予措置が終了する中小企業
猶予措置が終了する中小企業は、以下の①②のいずれかを満たす企業です。
事業所単位ではなく企業単位で判断します。
時間外労働が1か月60時間を超えたときの企業対応
1か月60時間超の対象となる時間外労働とは
原則1日8時間、週40時間を超えた労働時間です。
法定休日に働いた労働時間は、1か月60時間に含めません。
「猶予措置が終了する中小企業」に該当する企業では
従業員の時間外労働を1か月の起算日から累計して
60時間に達した時点より後に行われた時間外労働に対して
いずれかの対応が必要です。
1 割増賃金率を50%以上へ引き上げる
60時間に達した時点より後に行われた時間外労働分から
割増賃金率50%以上の残業代を支払います。
【計算例】1か月70時間の時間外労働の残業代
(1か月の所定労働時間160時間、月給32万円の従業員)
〈2023年3月31日まで〉
32万円÷160時間=2,000円(時間単価)
70時間×2,000円×125%=175,000円
残業代合計 175,000円の支払
〈2023年4月1日以降〉
32万円÷160時間=2,000円(時間単価)
60時間までの残業 :60時間×2,000円×125%=150,000円
60時間を超えた残業:10時間×2,000円×150%=30,000円
残業代合計 180,000円の支払
2 代替休暇制度を設定する
代替休暇制度とは、1か月60時間を超え
25%から50%以上に引き上げられた割増賃金の代わりに
有給の休暇を付与する制度です。
労使協定の締結が必要です。
代替休暇制度を検討する場合は、以下パンフレットの2ページ以降を参考にしてください。
2023年4月以降、考えられる割増賃金率パターン
法令で定められている労働時間の限度時間は
原則1日8時間、週40時間です。
企業が原則の限度時間を超えての
労働や休日労働を従業員に命じるときは
事前に届出している36協定で定めた
時間外・休日労働の範囲内で労働させることができます。
2023年4月1日以降の割増賃金率は以下のとおりです。
上記の割増賃金率が複雑に組み合わさる計算例をご紹介します。
【計算例】1か月70時間の時間外労働、
うち5時間は60時間を超えて深夜勤務をした残業代
1か月所定労働時間160時間、月給32万円の従業員)
〈2023年4月1日以降〉
32万円÷160時間=2,000円(時間単価)
60時間までの残業 :60時間×2,000円×125%=150,000円
60時間を超えた残業:5時間×2,000円×150%=15,000円
60時間を超えた深夜残業:5時間×2,000円×175%=17,500円
残業代合計 182,500円
給与を正しく計算するために
割増賃金率の引き上げの対象となる時間外労働を
労働時間から正しく抽出する必要があります。
1か月60時間の労働時間管理の起算日は
1か月の起算日は、就業規則で定めることにより
「毎月1日」「賃金計算期間の初日」
「36協定における一定期間の起算日」などの設定ができます。
なお、就業規則で1か月の起算日の定めがない場合には
賃金計算期間の初日を起算として取扱います。
基本給の賃金計算期間と割増賃金の
賃金計算期間が異なる場合は、
割増賃金の計算期間の初日を起算日として差し支えありません。
施行日をまたぐ1か月の60時間はどうカウントするのか
賃金計算期間は末日締めばかりではありません。
15日締めや20日締めなど企業によってさまざまです。
そのため、賃金計算期間が
2023年4月1日の施行日をまたぐ中小企業も出てきます。
施行日をまたぐ1か月については
2023年4月1日から時間外労働を累積し
60時間を超えるか確認します。
たとえば、賃金計算期間が毎月21日から20日である場合
2023年4月1日から2023年4月20日までの時間外労働が
60時間を超えた部分について50%の割増賃金を支払います。
2023年4月までに企業が行うこと
1 現状の時間外労働の実態把握をする
割増賃金率の引き上げは、長時間労働の抑制、
従業員の健康の保持、労働環境の整備などの
課題の解消のために行われています。
時間外労働の実態を把握し
業務内容や工程に発生する
ムリ・ムダ・ムラがないかの見直しと
時間外労働になっている要因の
洗い出しや残業抑制のための
業務改善を検討ください。
2 就業規則を改定する
就業規則(賃金規程)では
賃金の計算方法や支払方法に関する事項を定めています。
割増賃金率の変更に伴い、料率の変更を行ってください。
【記載例】
3 労働条件通知書や雇用契約書を変更する
労働条件通知書や雇用契約書には
賃金の計算方法や支払方法に関する事項があります。
割増賃金率の変更のためだけに
労働条件通知書等を作成する必要はありません。
2023年4月1日以降に締結する労働契約より
労働条件通知書や雇用契約書の割増賃金率が
正しく明示されるように対応ください。
【記載例】
4 勤怠システムの設定を変更する
適正な時間管理のため、
1か月60時間超の対象となる時間外労働を
実労働時間から正しく抽出する必要があります。
勤怠管理システムを利用しているときは
60時間超の時間外労働が集計され、
設定項目に反映されるか確認ください。
勤怠システムによっては時間外労働のアラート機能もあります。
長時間労働者を自動検知したアラートが出せれば
企業や部署内の残業抑制の指導や
人員配置の見直しにも役立ちます。
5 給与計算ソフトの設定を変更する
給与計算が複雑化し、給与計算ミスや
給与計算工数が増加するリスクも考えられます。
給与計算ソフトを利用しているときは、
1か月60時間超の割増率が初期値で設定されているものは少ないため
対象となる給与計算前に割増賃金率の設定を変更してください。
計算された残業代が給与明細へ正しく反映されるかも確認ください。
まとめ
2023年4月1日以降、中小企業も60時間超の割増賃金率が50%になります。
時間外労働は、事前に届出している36協定で定めた
時間外・休日労働の範囲内で労働させられます。
現在、1か月の時間外労働の上限を
60時間を超えて設定している企業は
割増賃金率の対応が必要になります。
計算例にもあるように、残業代がアップすることになり
企業の経済的負担も大きくなります。
1か月の時間外労働を60時間以下に設定すると
割増賃金率は今までどおり25%となるため、
複雑な労働時間管理や給与計算をする必要はなくなります。
長時間労働の見直しを行う機会にもなりますので
後回しにせず、早めに準備をすすめてください。
Comments