厚生労働省は前年の労働に関する現状や課題をまとめた「労働経済の分析」を
毎年発表しています。
2023年9月に、2022年のデータが発表されました。
今回は、「持続的な賃上げに向けて」をテーマに分析が行われています。
新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着き、求人倍率や転職者数などの雇用情勢は
2019年以前の水準に迫っています。
一方で、賃金に関しては1990年代後半以降伸び悩んでいます。
このマガジンでは、厚生労働省の発表を基に、雇用情勢や企業が人手不足に対応
するためのポイントをまとめています。
現在の雇用情勢
1 雇用の過不足の状況
雇用の過不足の状況を産業別に見てみると、2021年以降はすべての産業で人手が
足りていない状況であることが分かります。
新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言の発出などの影響で経済が停滞
したことにより、2020年・2021年には特に事業の継続が困難だった「宿泊・飲食
サービス」や「製造業」を中心に大量の離職者が発生しました(完全失業率の増加)。
その後完全失業率は低下していますが、現在もこの大量離職の反動で人手不足が
続いています。
2 非正規雇用
雇用者に占める非正規雇用者の割合は増加の傾向にあり、2022年には36.9%を記録
しました。
ただし、2020年・2021年は非正規雇用者数が前年に比べて減少していることからも、
新型コロナウイルス感染症による大量離職の影響を見て取ることができます。
3 転職者数(求職者数)
2022年の転職者数は、3年ぶりに増加に転じました。
新型コロナウイルス感染症の影響で離職を余儀なくされた労働者が、経済活動の再開に
伴い、新たな仕事に就き始めたことが分かります。
特に転職者に人気なのは「一般事務の職業」で、求人数に対して求職申込件数が大きく
上回っています。
4 消費者物価指数
消費者物価指数とは、消費者が日常的に購入する商品やサービスの価格の変動を
示す指標です。
2022年の消費者物価指数はすべての月で前年度から上昇し、12月の上昇率は4%と
なりました。
上昇した背景には、ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響で原材料を輸入する
コストが増加したことがあげられます。
特に、「食料工業製品」「電気・都市ガス・水道」は大きな影響を受けています。
賃金の動向
日本の賃金は、名目賃金(※1)・実質賃金(※2)ともに1990年代後半から横ばいで
推移しています。
賃金が伸び悩んでいる背景には、パート・アルバイトを含む非正規雇用の増加があります。
働く時間の短い非正規雇用者が増えることは、働いた時間に応じて貰える賃金が減少する
ことにつながります。
また、実質賃金が伸び悩む背景には、物価の上昇が関係しています。
賃金の上昇率が物価の上昇率と比べて大きくないため、実質賃金は伸び悩んでいます。
※1 名目賃金とは、支払われた給与額そのものを指します。
※2 実質賃金とは、名目賃金から物価の上昇率を考慮して算出したものを指します。
人手不足に対応していくための企業の取り組み
人手不足の現状に対応するために、以下の2つに取り組むことをおすすめします。
1 賃上げを行う
「求人条件による被紹介状況への影響(フルタイム)」の表でも現れているとおり、
企業が求人を行うときに、最低賃金よりも5%以上高い賃金を設定すると、3か月以内に
労働者からの応募を受ける可能性が10%程度上昇します。
また賃金のほかにも、「完全週休2日あり」や「ボーナスあり」などの条件を設定する
ことも、労働者からの応募の可能性を上昇させます。
さらに、賃上げは新しい人材を獲得しやすくなる効果だけではなく、既存の従業員に
対しても良い影響を与えます。
1年前より年収が増加した従業員は仕事への満足度が高まる傾向にあります。
また、賃上げを行った企業の約20%が従業員の離職率が低下したと回答しています。
このように、賃金を上げることは新たな人材の獲得と既存の従業員の定着に効果があり、
人手不足への対応策となります。
2 企業の安定性をアピールする
新型コロナウイルス感染症の影響で離職または転職を行った方は、雇われても、
またすぐに雇用調整の観点から勤務日数を減らされたり、退職を余儀なくさせられたり
することを避けようと、安定した企業を探します。
そのため求人を出すときは離職率が低いことや、毎年の昇給実績があることなどでの
アピールが有効です。
まとめ
新型コロナウイルス感染症の影響により発生した大量離職の反動で、労働市場全体で
人材不足が深刻です。
また、離職を余儀なくされた労働者は再び職を失わずに安定して働けることを求めて
います。
そのため、賃金は労働者が企業を選ぶときの重要なポイントになります。
もちろん働き甲斐や働きやすさなども重視はされますが、昨今は物価高の影響が大きく、
労働者にとって賃金は重要な要素となります。
企業としても、賃金アップは新たな人材の確保だけでなく、既存の従業員のモチベーション
向上・離職率の低下にもつながります。
しかし、企業も物価高の影響で財政的に厳しい局面を迎えていることから、人件費を簡単に
増やすことは簡単ではありません。
コロナを経て社会情勢が大きく変化した今、賃金体系や人事評価制度の見直しなど
「ヒト」に関する仕組みを新しく構築することを検討してください。
Comments