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ドライバーの労働時間等の改善基準が変わります。





2024年4月1日、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が改正されます。

これは、同じく4月の法改正でトラック、バス、タクシーなどの自動車運転者

(以下、ドライバー)の時間外労働の上限規制が適用されることを踏まえての見直しと

なります。


ドライバーを雇用する企業は働き方の見直しをはじめ、人手不足などさまざまな問題に

直面しており、対応が急がれています。

なかでも、ドライバーを多く抱える物流・運送業の状況は「2024年問題」とも呼ばれ、

2023年の「新語・流行語大賞」のノミネート語にも選ばれるなど、深刻な問題となって

います。


今回の改正はドライバーを雇用する企業以外でも、多くの企業に影響をおよぼす可能性が

あるため、すべての企業が自分事として対応に取り組むことが求められます。


今回は、この改善基準告示の改正内容と、物流・運送業をはじめとしたドライバーを

雇用する企業およびそれ以外の企業がそれぞれ取り組むべきことを解説します。



改善基準告示とは



「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下、改善基準告示)は、

ドライバーの労働条件をより良くするため、拘束時間の上限や休息時間など労働時間等の

基準を定めたものです。


ドライバーの長時間労働を防ぐことは、ドライバー自身の健康確保はもちろんのこと、

交通事故の予防など国民の安全確保の観点からも大切です。


【対象業種】

物流・運送業に限らず、ドライバーを雇用するすべての事業に適用されます。


【対象者】

物や人を運搬するため、自動車を運転する時間が労働時間の半分を超えることが見込まれる

従業員が対象です。


そのため、以下のような従業員も対象となります。

(例)

トラック運転者:工場など製造業における配達部門のドライバー

バス運転者:旅館の送迎用のバスやスクールバスのドライバー


なお、企業の役員や個人事業主(以下、個人事業主等)は改善基準告示の対象では

ありません。


しかし、道路運送法などの法令等では、ドライバーの過労死防止等の観点からドライバーの

労働時間等についての規定があり、その基準として改善基準告示が引用されています。


この規定はドライバーが個人事業主等である場合も適用されるため、実質的に改善基準告示

に留意する必要があります。


ここからは、トラック運転者、バス運転者、タクシー・ハイヤー運転者ごとに改正内容を

解説します。



ドライバーの労働時間等の定義



ドライバーは、目的地によっては長時間拘束されたり、荷主等の都合による待機時間

(以下、荷待ち時間)や仮眠時間などがあるなど、一般的な労働時間とは異なる時間も

発生します。


以下は、ドライバーの労働時間等の定義です。


①拘束時間

始業から終業までの、企業に拘束される時間です。(労働時間+休憩時間)


・労働時間:運転や整備、発送準備などの作業時間(荷待ち時間も含む)

・休憩時間:労働時間の合間でドライバーや運行管理者が自己判断で身体を休める時間

(食事や仮眠時間も含む)


 


②休息時間

業務から解放され、次の業務まで完全に自由に過ごすことができる時間です。

睡眠時間を含む、ドライバーの生活時間にあたります。


③運転時間

労働時間のうち、ドライバーが運転している時間です。

トラックおよびバスの運転者の1日、1週の運転時間を算定するにあたり、以下のように

考えます。


・1日:2日を平均した1日あたりの時間

・1週:2週間(バスは4週間)を平均した1週あたりの時間


④休日

ドライバーの休日の取扱いは「休息時間+24時間」の連続した時間をいいます。

なお、休日は30時間を下回ることはできません。



【トラック運転者】改正後のポイント



物流・運送業では、トラック運転者の人手不足が深刻化しています。

インターネットの通信販売の利用増加による宅配の取扱い個数の増加や再配達の増加、

当日配達サービスなどサービスの高度化により、配達ドライバーが長時間労働をせざるを

得ない状況も一因です。


【改正後の改善基準告示】


①拘束時間

・1年:原則3,300時間以内(※1)

・1か月:原則284時間以内(※1)

・1日:原則13時間以内(上限15時間)(※2、※3)


※1:労使協定により、年間3,400時間、1か月310時間まで延長可

(ただし、1年のうち6か月まで。かつ284時間超は連続3か月まで)


※2:14時間を超える回数をできるだけ少なくする。(週2回までが目安)


※3:長距離の貨物運送で宿泊を伴う場合、週2回に限り上限16時間まで延長可能の場合あり


なお、1か月の時間外労働および休日労働の合計時間数が、100時間未満となるよう努める

必要があります。




②休息時間

基本的に継続11時間以上与えるよう努め、継続9時間を下回ってはいけません。

ただし、長距離の貨物運送で宿泊を伴う場合、週2回に限り継続8時間以上でも可能な場合が

あります。

(継続9時間未満になった後は継続12時間以上の休息期間が必要)





③運転時間

運転時間は2日平均で1日あたり9時間以内、2週平均で1週あたり44時間以内です。

また、連続する運転時間は4時間以内とします。4時間を超えるまでに、1回がおおむね

10分以上かつ合計30分以上の休憩が必要です。


④時間外労働および休日労働

時間外労働や休日労働により、①の拘束時間を超えてはいけません。また、休日労働は

2週間に1回までです。


⑤予期し得ない事態が発生したとき

災害や事故など予測不能な事態により運行が遅延したとき、拘束時間、運転時間から

その対応時間を除くことができます。


そのほか厚生労働省のリーフレットも参考にしてください。



【バス運転者】改正後のポイント



バス運転者もトラック運転者同様に不足しています。

このような状況でも路線バスなどが日々のダイヤに合わせた人員配置をするためには、

運転者に長時間労働を強いることとなり、その結果さらに人手不足を招くという悪循環と

なっています。


【改正後の改善基準告示】


①拘束時間、休息時間

労務管理などの実態に応じて、拘束時間は「1年・1か月」「52週・4週平均1週(※)」

いずれかの基準を選択します。


※4週間を平均した1週あたりの時間



②運転時間

運転時間は2日平均で1日あたり9時間以内、4週平均で1週あたり40時間以内です。

また、連続する運転時間は4時間以内とします。4時間を超えるまでに1回がおおむね10分

以上かつ合計30分以上の休憩が必要です。


③時間外労働および休日労働

時間外労働や休日労働により、①の拘束時間を超えてはいけません。また、休日労働は

2週間に1回までです。


そのほか厚生労働省のリーフレットも参考にしてください。



【タクシー・ハイヤー運転者】改正後のポイント



1 タクシー運転者

タクシー運転者には、以下のような勤務形態があります。


・日勤勤務:1日の所定労働時間が8時間など一般的な勤務形態です。

昼日勤や夜日勤があります。


・隔日勤務:2日間を1単位とした勤務形態です。1回の乗務が長時間であるため1日おきに勤務します。


【改正後の改善基準告示】


①拘束時間、休息時間

 


②車庫待ち等

「車庫待ち等」は、車庫で待機し、顧客からの呼び出しに応じて出庫する営業形態です。

このうち、一定の要件を満たす場合は「車庫待ち等の自動車運転者」として、以下の拘束

時間が適用されます。




2 ハイヤー運転者

ハイヤーは完全予約制で運転手付きの貸切乗用車です。要人や役員などの移動手段に

利用されることも多く、上質なサービスが提供されます。

勤務形態がタクシー運転者とは異なるため、タクシー運転手の拘束時間や休息期間などの

基準は適用されず、以下のように定められています。


 


そのほか厚生労働省のリーフレットも参考にしてください。



ドライバーを雇用する企業が対応すべきこと



1 36協定届の様式変更

36協定の対象者にドライバーを含む場合、2024年4月より36協定届の様式が変わります。


・一般条項のみ:様式第9号の3の4

・特別条項あり:様式第9号の3の5

(ドライバーの上限は年960時間以内、それ以外の業務は年720時間以内)




なお、対象者にドライバーを含まない場合、物流・運送業であっても36協定届は様式

第9号(一般条項のみ)または様式第9号の2(特別条項あり)となります。


様式は以下のサイトからダウンロードできます。


2 業務効率化のためのシステム導入

配車計画システム、ドライバーの勤務形態に対応できる労務管理システムなどの導入に

より、時間コストの削減や人的ミスの防止を図ります。


3 配送形態の見直しなど長時間労働対策


1人のドライバーによる長距離運送は、長時間労働の一因につながります。

複数のドライバーがリレー方式で運送するなどの体制の見直しは、従業員の負担軽減に

有効です。


また、健康診断だけでなく、気軽に利用できる相談窓口の設置や日頃の声かけなど、

ドライバーの心身の健康状態の把握に努めることも大切です。


ドライバーが自身の疲労状態を自覚するための「労働者の疲労蓄積度自己診断チェック

リスト」などの活用もおすすめします。


4 ドライバーの人材確保

ドライバーは、長時間労働や休日の少なさなどから若年層に敬遠される傾向にあり、

人手不足および高齢化に拍車をかけています。

給与体系の見直しや有給休暇を取得しやすい職場環境づくり、福利厚生の充実などを行い、

人材確保に努めることが必要です。


また、時短勤務など働き方の多様化を進めることは、女性や副業を希望する方などの新たな

層の採用にもつながる可能性があります。


5 荷主への協力要請

ドライバーの長時間労働の問題は、物流・運送業者である企業の努力だけでは対処しきれないこともあります。

荷主と協力しながら取引環境の改善に向けた取り組みが必要です。




荷主企業への影響、協力できること



「2024年問題」の影響は物流・運送業者だけに限るものではありません。

多くの企業が、荷主として荷物の配送依頼をしたり(発荷主)、荷物を受け取ったり

(着荷主)しています。


今後、荷主への影響として「指定した日時に荷物が届かない」「配送を断られる」など、

これまでにない状況が発生する可能性も考えられます。


こうした懸念への対策には荷主の協力が欠かせません。

ドライバーの労働時間の削減や労働環境の改善は、サービス向上にもつながり、荷主にも

メリットをもたらします。


物流・運送業者と連携しながら2024年問題に取り組むことが大切です。




なお、長時間の荷待ちがいつまでも改善されない状況が続くなど改善基準告示の違反を

疑われる場合、労働基準監督署から荷主等に対して「要請」が行われる可能性があります。





おわりに



改善基準告示の違反による罰則はないものの、労働基準監督署の指導を受けたり、

状況によっては国土交通省の行政処分を受ける可能性があります。


ドライバーを雇用する企業だけでなく、荷主企業も含めたあらゆる企業が自社ですべき

ことを検討し早急に取り組むことが求められています。

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