今回の記事では、フレックスタイム制の労働時間の考え方、さまざまな場面での対応方法
など、実務対応を中心に解説します。
なお、フレックスタイム制の仕組みや導入方法については、前回の記事をご確認ください。
フレックスタイム制における労働時間
フレックスタイム制が適用されている従業員は、設定された総労働時間分の労働を
しなければなりません。
総労働時間とは、清算期間における所定労働時間で、以下の法定労働時間の総枠の範囲内で
設定します。
フレックスタイム制における時間外労働の考え方
フレックスタイム制において発生する時間外労働には、以下の2種類があります。
1 法定労働時間の総枠を超えた時間外労働
フレックスタイム制では、清算期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間が
時間外労働となります。
日々の始業・終業時刻、労働時間は、原則として従業員が自由に決めることができます。(コアタイムなどを除く)そのため、1日の所定労働時間という概念がなく、たとえ1日
8時間を超えてもただちに時間外労働が発生することはありません。
2 清算期間が1か月を超える場合の時間外労働
清算期間は1か月を超えて設定することもできます。繁忙月は労働時間を増やし、そのほか
の月は早めに帰宅させるなど、総労働時間の範囲内で労働時間の調整が可能となります。
しかし総労働時間の範囲内であっても、従業員の健康を守るため、極端な長時間労働になる月を設定することはできません。
以下の①②どちらも満たすように労働時間を調整する必要があり、いずれかの時間を超える
と時間外労働となります。
(上記1の法定労働時間の総枠を超えた時間も時間外労働となります。)
フレックスタイム制における休憩、休日、深夜労働
フレックスタイム制が適用されている場合でも、休憩、休日、深夜労働については通常の
勤務と同じく労働基準法の規定が適用されます。
1 休憩
・労働時間が6時間を超える場合:少なくとも45分
・労働時間が8時間を超える場合:少なくとも1時間
原則として、休憩は一斉に与えなければならないため、コアタイムの時間帯に休憩を与え
ます。(適用対象外の事業を除く)
ただし、労使協定の締結により、休憩する時間帯を従業員にゆだねることもできます。
2 休日
法定休日として、少なくとも週に1回または4週を通じ4日以上の休日を与えなければなり
ません。
法定休日に労働した時間は、総労働時間や時間外労働とは分けて取扱います。
そして、35%以上の割増率で計算した割増賃金の支払が必要です。
3 深夜労働
22時〜翌日午前5時の深夜時間に労働した場合、25%以上の割増率で計算した割増賃金の
支払が必要です。
従業員の深夜労働ができるだけ発生しないよう、深夜時間を避けたフレキシブルタイムを
設定する企業も見受けられます。(例:7時~22時など)
給与計算の流れ
フレックスタイム制における給与計算の流れを解説します。
1 勤怠情報の集計
実労働時間を集計するとともに、時間外労働や休日労働、深夜労働の時間数を確認します。
とくに、清算期間が1か月を超える場合の時間外労働の集計は煩雑です。
上述「フレックスタイム制における時間外労働」や以下の図を参考にしながら正しく
集計してください。
2 実労働時間と総労働時間の過不足による清算
清算期間における「実労働時間」と「総労働時間」をくらべて過不足があった場合、
以下のように対応します。
【実労働時間が総労働時間を超えた場合】
①「法定労働時間の総枠を超えた時間」は、時間外労働として割増賃金を支払います。
②「総労働時間を超えているが法定労働時間の総枠は超えていない時間」は、法定内残業
となります。
法定内残業は通常の賃金の支払が必要ですが、割増賃金の支払は不要です。
ただし、就業規則等に法定内残業も割増賃金を支払う定めがある場合は規定に従います。
【実労働時間が総労働時間より少なかった場合】
以下のいずれかの方法により対応します。どちらの方法を採用するかは企業の任意ですが、
その都度対応が変わることのないよう、あらかじめ労使協定や就業規則等に対応方法を
定めておくことをおすすめします。
①不足した実労働時間分を賃金から控除する
②不足した実労働時間分を翌月に労働させる(翌月の総労働時間に加算)(※)
※ただし「翌月の総労働時間+加算した時間」が法定労働時間の総枠内であること
3 賃金の計算
基本給や諸手当、および上記1、2で算出した時間外労働や休日労働、深夜労働による
割増賃金などを計算します。
以下は、時間外労働と法定内残業が発生したときの計算例です。
【シーン別】このようなときどう対応するか
フレックスタイム制を運用するなかでは、判断に迷う状況が発生することもあるはずです。ここからは、よくある質問のなかからシーン別に対応方法を解説します。
1 遅刻・早退、欠勤したとき
①遅刻・早退
コアタイムを設定していない企業では、遅刻・早退の概念がないため発生しません。
一方、コアタイムが設定されている場合、設定された時間帯のうち労働できなかった
時間は、遅刻や早退扱いとなります。
ただし、フレックスタイム制の場合、遅刻・早退が発生しても、清算期間内の実労働時間が
総労働時間を満たしている場合、賃金控除はできないため注意が必要です。
②欠勤
欠勤の場合、出勤すべき日に勤務をしなかったときは欠勤扱いになります。
ただし、遅刻・早退と同様、清算期間内の実労働時間が総労働時間を満たしている場合は
賃金控除はできません。
【不足時間の対応】
遅刻・早退、欠勤により実労働時間が総労働時間に満たなかった場合、企業で定めたルール
に従って不足時間の対応をします。
詳しくは、上述「給与計算の流れ」の「2 実労働時間と総労働時間の過不足による清算」
を参考にしてください。
【遅刻などを繰り返す従業員への対応】
遅刻・早退や欠勤を繰り返す従業員に対して何らかの措置を取りたい場合、以下のような
対応が考えられます。
2 清算期間の途中に入社・退職があるとき
①清算期間が1か月を超える場合
以下の期間の実労働時間を平均し、週40時間を超えると時間外労働となり、割増賃金を
支払います。
・途中入社:入社日~清算期間の末日
・途中退職:清算期間の起算日~退職日
②清算期間が1か月以内の場合
法令等による明確な定めはありませんが、実務上、以下のいずれかの対応が考えられます。
・入社日または退職日を含む清算期間中はフレックスタイム制を適用せず、通常の労働
時間制とする
・上記①の「清算期間が1か月を超える場合」の対応を準用し、週の平均労働時間が40時間
を超えた時間に対し割増賃金を支払う
なお、①②ともに、清算期間の途中の入社・退職における対応については、労使協定に定
めておくことをおすすめします。
3 清算期間の途中に産前産後休業や育児休業などの開始・終了があるとき
清算期間の途中に、産前産後休業や育児休業、介護休業、休職などの開始日または終了日を
含む場合、上述「2 清算期間の途中に入社・退職があったとき」の対応を準用します。
4 時間管理ができない従業員がいるとき
欠勤や総労働時間の不足を繰り返すなど、怠惰により時間管理ができない従業員にフレックスタイム制を適用し続けることは、企業にとって弊害となることもあります。
労使協定にフレックスタイム制の適用解除を定め、当該従業員を通常の労働時間制にすると
いった方法も対策のひとつです。
5 年次有給休暇を取得したとき
年次有給休暇を取得した場合、その日の賃金は、労使協定で定めた「標準となる1日の
労働時間」を働いたものとみなして賃金を計算します。
6 休日労働したとき(法定休日、法定外休日)
①法定休日に労働した場合
法定休日に労働した時間は、総労働時間とは分けて取扱い、35%以上の割増率で計算した
割増賃金の支払が必要です。
②法定外休日(所定休日)に労働した場合
法定外休日(所定休日)に労働した時間は、総労働時間に含めます。これにより、総労働時間が清算期間における法定労働時間の総枠を超えると時間外労働となり、割増賃金の支払が必要です。
7 会議の出席を命じたいとき
コアタイムの時間帯であれば、企業は会議の出席を命じることができます。
一方、コアタイムを設定していない場合や、コアタイムの時間帯以外については、
会議の出席を命じることはできません。従業員に出席を依頼することは可能ですが、強
制することはできないため出席は従業員の任意となります。
8 残業を命じたいとき
始業・終業時刻の決定は従業員にゆだねるため、企業が残業を命じることはできません。
9 パート・アルバイトもフレックスタイム制で働かせたいとき
パート・アルバイトでも対象労働者に含めることで、フレックスタイム制を適用させることができます。ただし業務の性質上、パート・アルバイトはシフト制のほうが適していることが多い傾向にあります。業務指示の出しやすさなども考慮しながら適用すべきか判断することをおすすめします。
おわりに
フレックスタイム制による柔軟な働き方は、従業員のワークライフバランスを向上させ、
人生をより豊かにすることが期待されます。企業にとっても、優秀な人材確保、生産性の
向上、ひいては企業の発展へと繋がる可能性があります。
フレックスタイム制の効果を最大限に高められるよう、実務担当者は制度を熟知すると
ともに、従業員にしっかりと理解を促しながら運用することをおすすめします。
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