2024年、政府は税制改正を行い、2024年分の所得税および2024年度分の住民税で
定額による特別控除が実施されることとなりました。これを定額減税といいます。
原則、給与や役員報酬を支払う企業は定額減税の対応をしなければなりません。
そのため、多くの人事労務担当者は定額減税の制度内容の理解が求められます。
今回の記事は、定額減税の仕組みや給与・賞与計算時(月次減税)の実務の
ポイントについて解説します。
なお、今後は年末調整時の対応(年調減税)や定額減税に関する質問などを解説した
記事の公開を予定しています。
定額減税の概要
1 背景と目的
近年、賃金の上昇が物価の上昇に追いつかない状況が続いています。
家計の負担はますます大きくなり、国民の生活や経済に悪影響をおよぼしています。
こうした背景から、国民の負担を緩和する必要があると判断され、定額減税が実施される
こととなりました。
定額減税は、所得の種類によって減税方法が異なります。この記事では、従業員や役員
(以下、従業員)など給与所得者の定額減税について解説します。
2 制度内容
①実施時期
2024年6月以降に支給する給与および賞与(以下、給与等)から
②対象者
合計所得金額の対象には退職所得も含まれていることに留意してください。
③定額減税額
なお、年間の合計所得金額が48万を超える配偶者や親族は計算対象外です。
配偶者や親族自身が納税者となり、各自の所得税において定額減税の控除が行われます。
【控除対象配偶者以外の同一生計配偶者について】
2024年度の住民税額が計算される時点では、課税する自治体はまだ控除対象配偶者以外の
同一生計配偶者の情報を把握できていません。
そのため、控除対象配偶者以外の同一生計配偶者がいる場合、2025年度に配偶者分(10,000円)が減税されます。
減税の方法
定額減税は、所得税と住民税で減税方法が異なります。
【住民税(特別徴収)の定額減税の計算】
住民税の定額減税は、従業員に課税する自治体が計算します。
計算後、企業には定額減税分が反映された住民税決定通知書が届きます。
定額減税の対象者は2024年6月分の特別徴収はありません。
実務担当者は、住民税決定通知書に記載された7月分以降の特別徴収税額を
毎月の給与から控除します。
なお、定額減税の対象外の従業員(2023年の合計所得金額が1,805万円超の従業員や
均等割・森林環境税のみ課税される従業員など)は、通常どおり2024年6月分から
特別徴収されます。
【所得税の定額減税の計算】
所得税の定額減税は、実務担当者が計算します。
準備段階からとても煩雑となるため、制度内容を十分に理解して効率良く対応する必要があります。
ここからは、所得税の定額減税について解説します。
所得税の定額減税とは
所得税の定額減税には、月次減税と年調減税があります。
毎月の給与等から月次減税を行い、最終的に年末調整時に精算(年調減税)します。
所得税の月次減税の大まかな流れは以下のとおりです。
各作業の内容を理解したうえで、早めにスケジュールを立てることをおすすめします。
事前準備①(月次減税の対象従業員の確認)
月次減税が行われる従業員を確認します。
対象となるのは、2024年6月1日現在、「令和6年分 給与所得者の扶養控除等(異動)
申告書」を提出している従業員(甲欄適用者)です。
【合計所得金額が1,805万円超の従業員に注意】
月次減税の対象要件に、合計所得金額の上限下限はありません。
合計所得金額が1,805万円を超える従業員も、6月1日現在で甲欄適用者であれば
月次減税の対象です。
一方、上述の「定額減税の概要」の解説のとおり、合計所得金額が1,805万円を超える
従業員は定額減税の対象外です。
定額減税の対象外であっても月次減税は必要なため注意してください。
なお、月次減税により控除した額は年末調整時に精算します。
(ただし、給与収入が2,000万円を超えるなど年末調整の対象外の従業員は確定申告で精算)
事前準備②(同一生計配偶者・扶養親族の確認)
月次減税が行われる従業員について、月次減税額の計算対象となる同一生計配偶者や
扶養親族を確認します。
具体的には、2024年6月1日以後最初の月次減税事務を行うまでに提出された以下①②の
申告書に基づき、月次減税の計算対象となるかを判断します。
①「扶養控除等申告書」の再確認
すでに提出されている扶養控除等申告書を再度提出してもらう必要はありません。
ただし、記載内容の変更について報告漏れがないか従業員に確認します。
報告漏れがあった場合は速やかに扶養控除等申告書を修正してもらいます。
②「定額減税のための申告書」の配布
①の扶養控除等申告書に記載していない以下の家族について確認するため、「定額減税の
ための申告書」を配布します。
・2024年中の所得金額の見積額が900万円超である従業員の同一生計配偶者
・①の扶養控除等申告書に記載のない16歳未満の扶養親族
後日申告書を回収し、記載された家族について以下の内容を確認します。
「定額減税のための申告書」および記載例は国税庁のサイトからダウンロードできます。
必要事項がすべて確認できるのであれば任意の様式でも差し支えありません。
参考・ダウンロード|国税庁『<記載例>令和6年分 源泉徴収に係る定額減税のための申告書』
【源泉控除対象配偶者に注意】
計算対象となる配偶者および扶養親族は年間の合計所得金額が48万円以下です。
扶養控除等申告書に記載されている源泉控除対象配偶者すべてが計算対象となるわけでは
ないことに注意してください。
事前準備③(従業員への周知)
従業員に対し、定額減税の実施を周知しなければなりません。
周知するタイミングで、上述「事前準備②」で解説した「①扶養控除等申告書の再確認」「②定額減税のための申告書の配布」もあわせて行うと効率よく進めることができます。
以下は、従業員への周知文書のサンプルです。従業員向けの概要説明資料も添付資料として
あわせて利用してください。
参考・ダウンロード|『定額減税の実施について』(word)
参考・ダウンロード|『2024年6月から定額減税が実施されます』(従業員向け概要説明資料)
月次減税額の計算
「扶養控除等申告書」および「定額減税のための申告書」をもとに、以下の図を参考にして
計算対象者の人数をカウントしてください。
従業員ごとに「計算対象者の人数✕30,000円」を算出し、6月以降の給与等にかかる
所得税から控除する月次減税額を決定します。
なお、その後人数の増減があった場合でも、月次減税額は変更されません。
最終的に年調減税で精算されます。
月次減税額の控除
①給与等の計算
給与等の計算を行い、月次減税額を控除する前の所得税額(以下、控除前税額)を確定
します。
②定額減税額の控除
控除前税額から上記「月次減税額の計算」で算出した月次減税額を控除します。
控除しきれない金額は次回の給与等に繰り越し、控除しきれるまで毎月繰り返します。
月次減税後の対応
①給与支払明細書への表示
従業員が控除した月次減税額を確認できるように、給与支払明細書(賞与支払明細書を含む。以下同じ)に表示します。
給与支払明細書への表示が難しい場合は、別紙に記載しても差し支えありません。
(例)「定額減税額(所得税)✕✕円」「定額減税✕✕円」など
②各人別控除事績簿の作成
各人別控除事績簿とは、従業員ごとに月次減税額や各月の控除額などを管理するための表です。
作成は任意のため、控除しきれなかった額などを適切に管理できるのであれば必ずしも作成する必要はありません。
また、各人別控除事績簿が作成できる給与計算システムもあります。
(出典)国税庁『各人別控除事績簿』
各人別控除事績簿は国税庁のサイトからもダウンロードできます。
参考・ダウンロード|国税庁『各人別控除事績簿』(PDF)
参考・ダウンロード|国税庁『各人別控除事績簿』(Excel)
③源泉徴収簿への記入
源泉徴収簿とは、給与等から徴収した所得税額などを従業員ごとに記録しておく帳簿です。(作成は任意)
月次減税を行ったときの源泉徴収簿の記入方法は、国税庁のサイトを確認してください。
④納付書の記載と納付
「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」(以下、納付書)の書き方は以下のとおりです。
月次減税額を控除したことにより「本税」欄が0円となった場合も、納付書の各欄の記入を行い管轄の税務署に提出する必要があります。
おわりに
月次減税の実施が間近に迫っています。スムーズに実施するためにも、実務担当者は早めに事前準備を行うことをおすすめします。
定額減税の概要や月次減税の事務など、国税庁のサイトで解説動画が公開されています。ぜひ活用してください。
今後、年末調整時の対応(年調減税)や定額減税に関する質問などを解説した記事の公開を予定しています。
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