随時改定(月額変更届)は、社会保険料や傷病手当金、将来受け取る年金額にも
影響する大切な手続です。
そのため実務担当者は随時改定(月額変更届)のしくみを十分に理解しておくことが
必要です。
しかし、賃金の変動は基本的なパターンばかりではなく、判断に迷うケースが発生する
可能性もあります。
今回の記事では、随時改定(月額変更届)の実務を行ううえで「誤りやすい」
「判断に迷いやすい」などさまざまな事例の対応について解説します。
なお、随時改定(月額変更届)の基礎知識や手続の流れについては、以前の記事を
ご確認ください。
以前の記事『随時改定(月額変更届)基礎知識と手続き』
随時改定の基本
以下の3つの要件すべてを満たした場合、随時改定の対象となります。
ただし、以下の場合は随時改定の対象にはなりません。
①固定的賃金は増加したが、非固定的賃金が減少したため標準報酬月額が
2等級以上さがった場合
②固定的賃金は減少したが、非固定的賃金が増加したため標準報酬月額が
2等級以上あがった場合
以下の表を参考に、随時改定の対象になるかを確認してください。
ここからは、さまざまな事例をご紹介します。
【今回ご紹介する事例】
・複数の固定的賃金が変動したとき(増額と減額が同時に発生など)
・非固定的賃金が新設または廃止されたとき
・単価や支給率を変更したとき
・給与計算期間の途中で固定的賃金が変動したとき
・制裁により減給が行われたとき
・給与形態(月給、日給、時給など)を変更したとき
・所定労働時間を変更したとき
・被保険者区分が変更になったとき
・休職したとき
・一時帰休により休業手当を支給したとき
・一時帰休を解消したとき
複数の固定的賃金が変動したとき(増額と減額が同時に発生など)
同じ月に複数の固定的賃金が変動した場合、変動した固定的賃金の総額を確認します。
総額が増額か減額かで、以下にしたがって随時改定の対象かを判断します。
・総額が増額:標準報酬月額が2等級以上あがると随時改定の対象
・総額が減額:標準報酬月額が2等級以上さがると随時改定の対象
非固定的賃金が新設または廃止されたとき
非固定的賃金は勤務状況や成績などにより支給額が変わるため、増額や減額があっても
随時改定の対象となりません。
ただし、非固定的賃金の新設または廃止は「給与体系の変動」です。
そのため、固定的賃金の変動となり随時改定の判断が必要です。
・非固定的賃金の新設:標準報酬月額が2等級以上あがると随時改定の対象
・非固定的賃金の廃止:標準報酬月額が2等級以上さがると随時改定の対象
単価や支給率を変更したとき
上述のとおり、非固定的賃金は支給額が変動しても随時改定の対象にはなりません。
ただし、非固定的賃金の単価や支給率が変わった場合は固定的賃金の変動となるため、
随時改定の判断が必要です。
給与計算期間の途中で固定的賃金が変動したとき
給与計算期間の途中で固定的賃金が変動した場合、変動後の固定的賃金が1か月分
確保された月、つまり翌月を変動月として随時改定の判断をします。
制裁により減給が行われたとき
素行不良や職場秩序を乱すなど問題行為があった従業員に対し、就業規則の定めにより
減給の制裁を行うことがあります。減給の制裁は固定的賃金の変動ではないため、
随時改定の対象とはなりません。
給与形態(月給、日給、時給など)を変更したとき
「時給から月給」「月給から時給」などの給与形態の変更は固定的賃金の変動となるため、随時改定の判断が必要です。
所定労働時間を変更したとき
所定労働時間を変更した場合は固定的賃金の変動となるため、随時改定の判断が必要です。
なお、時給単価や被保険者区分などの変更は問いません。
画像ファイル(.jpg、.jpeg、.png)を選択
被保険者区分が変更になったとき
特定適用事業所における従業員の被保険者区分の変更は、所定労働時間の変更により
発生します。
上述のとおり所定労働時間の変更は固定的賃金の変動となるため、随時改定の判断が
必要です。
休職したとき
休職したときの随時改定の判断は、状況によって異なります。
(会社都合による休業は、後述の「一時帰休により休業手当が支給されたとき」を
ご覧ください。)
①休職により給与が減額になったとき
休職による基本給や諸手当などの減額は、ノーワーク・ノーペイの原則により
勤務していない日の賃金が不支給になり減額されたものです。
固定的賃金の変動ではないため随時改定の対象にはなりません。
②休職により低額の休職給を受けたとき
傷病等により休職している従業員に対し、休職給を支給する会社もあります。
以下のいずれも満たす休職給(以下、低額の休職給)の支給は固定的賃金の変動に
あたらないため、随時改定の対象にはなりません。
・通常の基本給や諸手当とは別のもので、休職という事由に対して支給される賃金
・通常の賃金よりも低額
③固定的賃金の変動後3か月のあいだに、休職により低額の休職給が支給されたとき
固定的賃金の変動月以降3か月間、いずれの月も支払基礎日数が17日以上(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上。以下同じ)あるか確認します。
支払基礎日数が17日以上ある場合、変動月の翌月または翌々月に低額な休職給が支給されて
いたとしても随時改定の判断が必要です。
④低額の休職給が支給されている休職期間中に固定的賃金の変動が発生したとき
休職給では固定的賃金の変動を反映した賃金とはいえません。
そのため、休職が終了して通常の賃金支給に戻った月以降3か月間に支給された賃金の
平均月額をもとに、随時改定の判断をします。
一時帰休により休業手当を支給したとき
一時帰休とは、業績悪化や事業の縮小など会社の都合により従業員を休業させることです。休業した日は、平均賃金の6割以上の賃金を従業員に支払わなければなりません。
通常の賃金よりも低額の休業手当等が連続3か月を超えて支払われた場合、固定的賃金の
変動となり、随時改定の判断が必要です。
なお、一時帰休により休業手当等が支給された日は支払基礎日数に含みます。
一時帰休を解消したとき
一時帰休が解消され、通常の賃金が連続3か月を超えて支払われた場合、固定的賃金の
変動となり随時改定の判断が必要です。
おわりに
固定的賃金の変動は、会社の辞令に伴う基本給や諸手当の変更(昇給や昇格など)だけで
なく、従業員個人の環境の変化に伴う諸手当の変更(通勤手当や家族手当の変更など)も
あります。
実務担当者は、給与計算後など毎月定期的に随時改定の可能性がないか確認することをおすすめします。
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