新卒採用のメリットは若手労働力の確保だけではありません。
地域特性を活かし、企業の魅力を伝える採用活動を行えば、企業文化の継承や組織活性化をはかることも可能です。
専門性を重視する業種では、高等専門学校生や専門学校生など、実践的分野に特化した学生を率先して採用する企業もあります。
今回は、新卒採用の募集・採用・内定後の対応を行ううえで、企業が求められる措置やポイントについてお伝えします。
◆新規採用時の募集から入社までの流れ
新卒採用では、求める人物像や採用人数などの新卒採用計画から始まります。
その後、求人票での募集、学生の応募、採用選考、内定者を決定、入社手続き、というステップが一般的です。
おおまかな流れを整理しました。
【検討する】新卒採用計画をもとに求人票を作成
【募集する】ハローワークや採用サイトでの求人票公開、企業説明会の実施
【選考する】面接などの採用選考
【内定する】応募者の中から内定者の確定、通知、承諾
【準備する】入社までの手続きのやりとり、入社前研修などの実施
【入社する】入社
【募集する】について、大学等(大学、短大、高等専門学校、専修学校等)では3月頃から採用サイト運用や企業説明会の実施が始まり、高校生については6月からハローワークでの求人票受付が開始されます。
新卒採用を検討される場合は、2月頃から次年度の採用計画を立てることをおすすめします
。
また、高校生の採用には独自のルールがあります。
たとえば求人票はハローワークでの受付が必要で、選考開始から一定期間は、1人1社制の応募・推薦となっています。求人票は、通常の様式と異なり「求人申込書(高卒)」を使います。
参考・ダウンロード|厚生労働省 高卒就職情報WEB提供サービス『求人申込書(高卒)』
◆募集・選考で企業に求められる措置
1 募集時の労働条件明示と取得する個人情報の取扱い
企業は、学生が適切に職業選択を行い、安定的に働くことができるように、労働条件などを文書で明示しなければなりません。
業務内容などは平易な言葉で的確に表示するほか、虚偽や誇大な内容になっていないか注意が必要です。
また、法令等では、応募者からの個人情報の収集・保管・使用については、募集業務等の目的達成に必要な範囲内で行わなければならないと決まっています。
最近は、応募はエントリーシートで入力するなど応募書類のデジタル化も進んでいます。
いずれにしても、多くの個人情報が記載されているため、個人情報保護法も適用されます。採用者だけでなく、不採用者や応募辞退者から取得した個人情報についても、適正な取扱いを行ってください。
2 求められる公正な採用選考
公正な採用選考を行うことは、新卒採用にかぎったことではありません。ポイントは、応募について広く門戸を開き、家族状況や生活環境といった、応募者の適性・能力とは関係ない事柄で採否を決定しないということです。
面接時に場を和ませるつもりで聞いた質問も、応募者の基本的人権を侵害する行為や職業差別となることもあるのでご注意ください。
3 採用活動前のインターンシップ
学生と社会での経験を結びつけるキャリア形成支援のひとつに、職場体験ができるインターンシップがあります。
採用活動前に職業への理解を深め、優秀な人材の発掘が行えることや、仕事内容や職場の雰囲気を感じてもらうというメリットから、積極的に実施している企業もあります。
直接生産活動に従事するなど、インターンシップ中の活動が企業の利益に繋がり、企業と学生との間に使用従事者関係が認められるときは、労働基準法などの法令が適用されます。
活動内容が労働に該当するかなど不明な点がある場合は、社会保険労務士やハローワークにご相談ください。
4 採用活動やインターンシップ中のハラスメント行為
国は、採用活動やインターンシップ中の言動でハラスメントになる可能性のある行為について、企業や学生に注意を促しています。SNSへの書き込みによる炎上などが企業経営を脅かすこともありますので、採用活動中の学生への言動は気を付けてください。
◆内定とは
募集があれば、採用選考を進めて採否を行い、内定者を決定します。内定者が決定したら、応募者に対し内定を通知し承諾を得ます。
新卒採用においての内定とは、企業の採用に応募した労働者と企業が、卒業後に入社を約束する契約をすることです。これを解約権留保付きの労働契約といいます。
解約権留保付きの労働契約は、卒業できなかったり、内定以前に採用に関わる情報を知ることができなかったときなど、通常の解雇のように「合理的な理由かつ社会通念上相当」な事由がなければ解約できません。
解約権留保付きの労働契約を成立するために、企業は応募者に対し内定決定後、書面で労働条件を明示します
。また、応募時の労働条件に変更や削除があるときは、本人に説明し合意が必要です。応募者の内定承諾は口頭でも構いませんが、承諾の意思を明確にするために内定承諾書を書面で提出してもらいます。
以下のようなとき、内定から入社日までの期間、解約権留保付きの労働契約が成立していないとみなされることがあるため、ご注意ください。
【解約権留保付きの労働契約が成立していないとみなされる例】
・入社後の労働条件を明示していない
・内定通知に対し、内定承諾の意思表示が明確に行われていない
・企業が入社に向けた手続きを行わず、応募者も入社の誓約をしていない など
学生にとっては、はじめての内定から入社までの手続きです。入社に対して不安を抱かせないためにも、企業がコミュニケーションを取りながら先導し必要書類を確実に回収してください。
【内定決定後に内定者へ通知・回収する書類】
(入社前に労働契約を成立するための書類)
・内定通知書
・労働条件通知書
・内定承諾書 など
(内定承諾後に、入社準備として提出してもらう書類)
・雇用契約書
・入社承諾書
・身元保証書
・住民票記載事項証明書
・銀行口座申請書
・マイナンバー
・健康診断書
・卒業証明書(卒業見込証明書)
・必要に応じて免許や資格の証明書 など
◆採用内定後に取り消しはできるのか
採用内定者が入社日までに卒業できなかったり、内定を取り消すべき事由が判明したときは入社日前に労働契約を解消せざるを得ないケースがあります。
ただし、前述のように解約権留保付きの労働契約は「合理的な理由かつ社会通念上相当」な事由がなければ解約できません。
内定者が内定取り消しの無効を裁判で訴えたり、損害賠償請求などに発展すれば、企業のリスクにもなります。内定取り消しを検討するときは、以下を参考にしてください。
【内定取り消しするときは】
1 内定取り消しができるか、取り消し事由と内定通知書にて判断する
2 採用予定部署の変更や内定者研修の実施など、取り消しを回避できないか検討する
3 内定取り消しは、文書だけでなく極力直接伝え、納得してもらうように努力する
4 今後の内定取り消しを回避するために、採用試験や採用計画、解約事由を見直す
また、内定承諾時点で、内定取り消し事由についても承諾を得ておきましょう。内定通知書や内定承諾書に、内定を取り消すべき事由について記載することをおすすめします。
【内定通知書・内定承諾書に記載する内定取消し事由の例】
・採用の前提となる条件(卒業、免許の取得等)が達成されなかったとき
・入社日までに健康状態が採用内定時より低下し、職務に堪えられないと会社が判断したとき
・暴力団員や暴力団関係者その他の反社会的勢力と関わりがあることが判明したとき
・採用選考時の提出書類に偽りの記載、または面接時において事実と異なる経歴などを告知していたことが判明したとき
・採用内定後に犯罪や反社会的行為など信用を失う行為を行ったとき
・採用内定時には予想できなかった会社の経営環境の悪化、事業運営の見直しなどが行われたとき など
◆内定後、入社までに研修などへの参加はできるのか
内定後、スムーズに職場や業務に慣れてもらうために入社までの準備行為として、企業は内定者に対して、以下のような機会を設けることがあります。
・施設見学
・内定者前研修
・入社前の食事会 など
入社までの準備行為のうち、会社の指揮命令・参加が強制される場合などは労働時間となり、賃金が発生するためご注意ください。業務に慣れてもらうために入社前にアルバイトとして働いてもらうときは、アルバイトとしての労働契約を締結する必要があります。
まとめ
今回は、新卒採用の募集から内定後の対応についてお伝えしました。
昨今、複数の内定をもらう学生が増えており、内定辞退をする学生もいます。内定辞退を防ぐために、企業は正しい募集・採用・内定後の対応を労働法に沿って行う必要があります。
また、内定を得てから入社までの学生期間に卒業旅行をする学生も多く見られます。
新型コロナウイルス感染症の影響を案じて、入社前の海外等への卒業旅行の自粛を求める企業もありますが、要請に応じないからといって内定取り消しや不利益な取扱いはできません。
自粛を要請するときは、感染に十分に注意してほしい旨を理解いただいた上で、卒業旅行の時期や場所を検討してもらうことをおすすめします。
新卒採用は、優秀な人材確保や企業のイメージアップだけでなく、社内の教育体制の見直しや働く環境の整備など、すべての従業員にメリットをもたらします。
現在、新卒採用をしていない企業も、今後の採用計画時には今回の記事を参考にして検討を進めてください。
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