企業は、従業員が健康に働けるように
健康状況を把握し、
健康管理に努める必要があります。
そのため法令等により、
医師による健康診断の実施が労使双方に義務付けされています。
企業に実施が義務付けられている健康診断には、
「一般健康診断」と「特殊健康診断」があります。
一般健康診断は、
一般的な健康の確保を目的としており、
雇入れ時や雇入れ後定期的に行う健康診断と、
深夜業などの特定業務を行う方が対象です。
特殊健康診断は、
法令等で定める、
リスクの高い業務や有害な物質を取り扱う業務を行う方が対象となっています。
今回の記事では、一般健康診断のうち定期健康診断を中心にお伝えします。
定期健康診断とは、1年に1回、企業が義務として行う、従業員の健康診断のことです。
法令等で決まっている健診項目とは
定期健康診断の健診項目は、以下のとおりです。
※2 自覚症状や既往歴等を勘案し医師が総合的に判断をした結果、
必要でないと認めるときは省略ができます。
健康診断の対象者
定期健康診断の対象者は、
常時使用する労働者で、
正社員、正社員以外(パート、アルバイトなど)にかかわらず、
以下のすべての要件をみたす従業員をいいます。
企業規模に関係なく、1人でも対象となる従業員がいるときは健康診断の実施が必要です。
【健康診断の対象者(常時使用する労働者)】
1 期間の定めのない雇用契約であること
(有期契約労働者のときは1年以上の雇用見込みがあること)
2 所定労働時間が正社員の3/4以上であること
【「常時使用する労働者」の判断時期】
「常時使用する労働者」に該当するかどうかは、健康診断実施日において判断します。
企業が定期健康診断を実施する時期に育児休業中や
休職中の従業員がいるときは、
その従業員へは健康診断を受けさせなくても差し支えありません。
ただし、育児休業や休職から復職後、
速やかな健康診断の実施が必要です。
そのため、対象者の復職が近づいてきたら、
健康診断の日程についても検討することをおすすめします。
企業がおさえておくべき3つのポイント
定期健康診断を実施するにあたり、
企業がおさえておくべき3つのポイントをお伝えします。
【労働時間中の受診】
健康診断を受けている時間や、
休日に健康診断を受けたときの賃金を支払うかどうかは企業で決められます。
しかし、厚生労働省の文書によると、
従業員の健康確保は事業の円滑な運営に必要なものであり、
受診時間の賃金は企業が支払うことが望ましいと示されています。
健康診断を受けるように指示しても賃金を支払わないとした場合、
受けてもらえないことがあります。
健康診断は、対象者に該当すれば必ず受けるものです。
そのため、確実に健康診断を受けてもらうために就業時間中の受診を設定し、
賃金を支払っているケースが多いです。
また、企業が義務付けられている健康診断のうち「特殊健康診断」は、
業務遂行との関連が高い健康診断であるため、
所定労働時間内に行うことが原則となっており、
時間外に行われたときは、賃金の支払をする必要があります。
【健康診断の費用負担】
健康診断の費用は、全額、企業で負担しなければいけません。
ただし、健康増進等の目的で法令等で決まっている
健康診断の項目以外(がん検診など)を受けるときは、
その部分については企業は負担しなくてもかまいません。
【健康診断結果の取扱い】
健康診断の結果は、
労働者個人の心身の健康に関する健康情報を含む要配慮個人情報です。
企業は、健康診断の結果を従業員の健康確保に必要な範囲を超えて利用してはならず、
本人に対する不利益な取り扱いや差別に繋がらないように慎重な取扱いが必要です。
法令等で決まっている健康診断の項目以外(がん健診など)の健診結果は、
従業員の同意がないときは健診結果を収集・利用することはできません。
医療機関によっては、
法令等で決まっている健診項目とそれ以外の項目を一覧にして企業に送られてくることがあります。
あらかじめ本人に健診結果の利用目的や取扱方法について説明をし、
同意を得る必要があります。
そのため、健康診断結果の適正な保管など取扱いについての
ルールを明確にしておくことをおすすめします。
健康診断を実施しなかったときの企業リスク
健康診断の未実施や、従業員に健康診断の結果を通知しない、
健康診断の結果を保管していないときは、
それぞれ50万円以下の罰金が課される可能性があります。
また、企業の健康診断の未実施や、
実施後の措置を怠った結果で労働災害が発生したり、
従業員の疾病を悪化させたときは、企業は安全配慮義務違反を問われる可能性もあります。
健康診断を拒否する従業員がいたときは
従業員は健康診断の受診を拒否することはできません。
新型コロナウイルス感染症への感染の懸念から、
健康診断の受診を拒否したいと申し出る従業員が出ることも考えられます。
健康診断を実施する機関は換気や消毒などの感染防止対策に務めていること、
従業員自身の健康管理・健康保持などに必要であるなど、
健康診断の趣旨を説明し受診を促してください。
それでも健康診断の受診を拒否するときは、
拒否理由などを書面(任意書式)で提出してもらってください。
就業規則に健康診断の受診がないときは懲戒処分するなどのルールがあれば、
就業規則に沿って処分できます。
健康診断実施後の措置とは
健康診断実施後の企業の対応は以下のとおりです。
1 健康診断結果に基づく健康診断個人票の作成、保存
健康診断個人票とは、健康診断結果を個人ごとに記録した書類です。
法令等では、企業には健康診断個人票の作成義務があり、
5年間の保存が求められています。
医療機関から受け取る企業保管用の健診結果によっては、
健康診断個人票の記載項目を満たしている様式になっており、
個人票とすることができます。
様式については、こちらよりダウンロードください。
参考・ダウンロード|厚生労働省『労働安全衛生規則関係様式』健康診断個人票
2 医師等の意見聴取と就業上の措置
健康診断の結果、異常の所見のあると診断された従業員については、
医師に就業に関する意見を聞く必要があります。
医師は、「通常勤務・就業制限・要休業」のいずれかの判断を行います。
「就業制限・要休業」とされた従業員に対しては、
実情を考慮し、必要な措置を講じなければなりません。
【健康を保持するために必要な措置の例】
・就業場所や職務内容の変更
・労働時間の短縮(時間外・休日労働の制限や禁止、就業時間の制限など)
・深夜業の回数の減少 など
健康診断結果に基づく医師の意見聴取は、
従業員の健康状態と作業内容などを把握している産業医に意見を聞くことが適当です。
産業医の選任義務のない従業員数50人未満の企業では、
労働基準監督署の管轄ごとに設置されている地域産業保健センターで、
無料で医師の意見聴取を受けることができます。
3 健康診断結果の通知
健康診断を受けた従業員に、健康診断の結果を渡します。
異常の所見の有無にかかわらず、必ず従業員へ渡さなければなりません。
健康診断の結果は要配慮個人情報になりますので、
渡し間違いがないよう注意してください。
4 医療機関の受診、保健指導、二次健康診断の勧奨
健康診断の結果、「異常の所見」があると診断されることがあります。
異常の所見とは、
医師から「要医療等」「要再検査、精密検査」などの判定をされることです。
健康診断結果をみて、異常の所見があるときは、
医療機関の受診や保健指導をすすめてください。
また、健康診断の結果、
脳・心臓疾患に関連する次の4項目すべてにおいて異常の所見があるときは、
脳・心臓疾患の状態を把握するために必要な
二次健康診断や保健指導を受けることができます。
4項目のうち、異常なしと診断された場合でも、産業医等の意見により対象となることがあります。
①血圧検査
②血中脂質検査
➂血糖検査
④腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定
労災保険の「二次健康診断等給付」の提出をすることで、
企業や本人の費用負担は発生しません。
二次健康診断の健診は義務ではありませんが、
脳・心臓疾患の予備軍になっている可能性がありますので、
二次健康診断の対象になっている従業員がいるときは健診をすすめてください。
二次健康診断の詳細については、厚生労働省の以下のパンフレットをご覧ください。
健康診断結果に基づく保健指導は、
受診した病院の医師や産業医のほか、
産業医の選任義務のない従業員数50人未満の企業については、
地域産業保健センターを活用できます。
5 管轄の労働基準監督署長への報告(従業員数50人以上の企業のみ)
従業員数50人以上の企業は、定期健康診断を実施したあと、
管轄の労働基準監督署へ定期健康診断結果報告書を届出する必要があります。
届出様式:定期健康診断結果報告書
添付書類:なし
届出先:管轄の労働基準監督署
届出方法:郵送または持参
参考・ダウンロード|厚生労働省『定期健康診断結果報告書』
まとめ
従業員の健康管理や、健康保持増進の取組みは、
従業員の活力向上や生産性向上など、組織の活性化を実現します。
厚生労働省では、毎年9月を「職場の健康診断実施強化月間」としています。
新型コロナウイルス感染症の影響等により健康診断実施機関の予約が取れないなど、
法令等で定められている期日までに健康診断実施が困難なこともあります。
健康診断を確実に実施できるよう、実施計画を立てることもおすすめです。
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