中小企業こそ公益通報制度の導入をおすすめします。



消費者庁が行った調査では、社内の不正発見のきっかけの58.8%は「従業員からの内部通報」であるという結果が出ています。

公益通報とは、企業内で働く従業員等(退職から1年以内の退職者、役員を含む)が、企業の法令違反となるような不正が発生したとき、または発生する可能性を通報窓口や外部の機関に通報することです。


2022年10月、改正公益通報者保護法が施行されました。 これによって、従業員が301人以上の企業には公益通報窓口の設置が義務付けられました。

従業員が300人以下の企業については努力義務ですが、300人以下だとしても公益通報制度をないがしろにする姿勢は時代に乗り切れていないといっても過言ではありません。


今回は公益通報制度について、導入のコツや注意点を交えて解説します。



導入するメリットとデメリット



公益通報制度導入のメリットとデメリットを紹介します。


【公益通報制度のメリット】


1 不正の予防および早期発見


公益通報制度を導入すると不正の予防ができ、不正が行われていても早期に対処できます。現代社会における「不正」は経営上の甚大なリスクなので、大きなメリットといえます。


2 従業員および取引先の信頼獲得


公益通報制度の導入は、公正さが求められる現代社会においては、信頼獲得の重要な手段となります。

公益通報者保護法に沿った制度の導入は従業員の安心や、よい人材の確保にもつながります。

また、消費者庁の調査結果では8割近くの企業が取引先の選定にあたって公益通報制度および運用状況を「考慮している」「将来的に考慮することを検討している」と回答しています。

取引の相手が不正を行った場合、自社もリスクを負う可能性もあるので、やはり取引先が公益通報制度を導入しているかどうかは重要な検討材料のようです。


3 外部への情報漏洩の防止と風評被害リスクの回避


公益通報制度を導入すると従業員の通報先の選択肢に自社が選定した通報窓口が含まれます。

しかし公益通報制度を設けていない場合、従業員の公益通報の通報先は官公庁かマスコミになり、企業の機密情報が外部に漏洩してしまうリスク、マスコミの報道によって企業の信用および評価が損なわれてしまうリスクが生まれます。


4 制度の導入の過程における企業のレベルアップ


公益通報制度の導入では、公益通報とは何か、通報対象となる不正とは何か、通報されないような体制を構築するにはどうしたらよいか、不正が発覚した場合にどのようなフローで対処を行うかなど考えることがたくさんあります。


自社だけで公益通報制度の導入は難しいため、弁護士などの外部専門家と関わる機会が増え、結果企業のガバナンスやコンプライアンスの強化は促進されます。


【公益通報制度のデメリット】


1 コストがかかる


新たな制度を導入するためには、従業員の労働力を割く必要もあります。

また、制度設計にあたっては専門家への相談が必須ですが、専門家に制度設計を委託するにあたっての報酬等の費用も発生します。

つまり、公益通報制度の導入には経済的にも時間的にも大きな出費が伴います。


2 運用を誤るとリーガルリスクを負う


公益通報制度で取り扱う情報は繊細なものが多く、運用を誤るとさまざまなリーガルリスクがともないます。たとえば、従業員に訴えられるリスクや、官公庁から立ち入り調査をされてしまうリスクです。

また、通報された事実がハラスメントに関する事項であった場合、その取扱いを誤ると甚大なプライバシー侵害につながります。



2022年6月1日施行の公益通報制度の改正内容



2022年6月1日、改正公益通報者保護法が以下のとおり施行されています。

※ 通報対象事実とは、公益通報者保護法に定める法令に対し法令違反となるような事実をいいます。大まかにいえば、各種法令に定められている罰則規定の対象となる行為は通報対象事実です。

参考|消費者庁『通報対象となる法律一覧』



公益通報制度を導入するには



公益通報制度の導入はリーガルリスクの逓減だけでなく、企業の価値向上にもつながります。具体的な導入方法についてお伝えします。


1 就業規則での制定


新たな制度の導入は、従業員にとって労働条件の変更になります。

したがって、就業規則に公益通報制度を定める必要があります。

「通報窓口を設ける」という定めを置くだけでは意味がありません。制度運用が分かる程度に詳細に定めを置く必要があります。


【就業規則への記載内容 例】

・制度導入の趣旨

・具体的な通報窓口

・情報の取扱い

・通報があった場合の企業対応 など


2 担当部門の設置


公益通報の窓口となる部門の設立が必要です。

窓口には、企業の人事(または総務)か、外部の弁護士などの専門家に委託するという方法があります。

通報者にとっては、人事や総務という企業の中枢を窓口とされるより、外部の弁護士など中立な立場の法律家の方が通報はしやすく、制度導入の効果は高くなると考えられます。


外部の弁護士などを検討するときは、従来の顧問弁護士等を窓口と設定すると、中立性を欠いてしまったり、場合によっては利益相反関係になりかねないので、既に顧問になっている弁護士等は避ける方が好ましいです。


また外部に委託した場合でも、その専門家と企業との窓口が必要になるので、いずれにせよ企業の担当者を定める必要があります。


3 担当部門での情報の取扱指針の構築


通報対象事実には、プライバシー性の高い繊細な情報や、企業の事業場の重大な機密が含まれます。


公益通報者保護法では、担当者の過失による情報漏洩等が起きないよう、情報の取扱指針の構築と周知が義務付けられています。情報漏洩があったときには罰則(30万円以下の罰金)があります。


また、万が一情報漏洩をさせてしまった場合は、漏洩させてしまった者だけでなく企業も損害賠償責任を負う可能性があります。


4 従業員への周知


就業規則に規定を設け、担当部門または外部通報先を設置して、担当部門内での情報の取扱指針を構築後、従業員に説明をしてください。

公益通報制度の実行性を高めるため、誤った運用により企業外に情報が漏洩したりプライバシー侵害を生じさせないためにも、制度趣旨だけでなく、運用方法について理解してもらう必要があります。



公益通報制度を効果的に導入するには



公益通報制度を効果的に導入するときのポイントは以下のとおりです。


1 専門家との連携


情報漏洩、風評被害リスク、プライバシー侵害などのリスクの顕在化を最小限にするためにも、導入から運用のすべての段階において専門家に相談をし、連携を図ることをおすすめします。


2 制度担当者への定期的な研修の実施


定期的に研修を行うなど、制度担当者の過失による情報漏洩等を回避するための措置が重要です。

特に、新たな制度を導入した場合、社内で制度趣旨の説明を求められる可能性もあります。制度担当者は制度や運用方法に答えられるようにしておくことが従業員からの信用獲得につながります。

万が一情報漏洩等が生じた場合、企業が義務懈怠を追及されないようにするという観点からも、定期的な研修の実施が必要です。


3 不利益な取扱を行わないことの徹底


公益通報をしたことによる解雇や減給、嫌がらせ、退職の強要などの不利益な取扱いは禁止されています。不利益な取扱いが行われれば、従業員等の心理的安全性が保たれず制度が正しく運用されません。

経営陣や担当者が公益通報制度の趣旨と意義を理解し、公正な事業運営を行うことが制度運用および事業の成功の鍵となります。


4 通報があった場合の体制確立と公表


実際に通報があった際には、あらかじめ定めたフロー通りの運用を徹底します。就業規則にフローを定めても、ケースごとに対応が異なると従業員の信用も損ね、公益通報制度の実効性も担保できません。

また、せっかく通報をしても、もみ消しが可能な余地を残してしまっては公益通報制度を導入した意味がありません。通報内容やその後の企業対応については、原則全従業員に対して公表しなければなりません。


ただしハラスメントに関する通報など公表が被害者のプライバシー侵害を招く場合には、公表する情報の制限も求められます。制度の実効性とプライバシー侵害の回避とのバランスを取るのは難しいので、公表にあたっても必ず専門家に相談してください。



まとめ



公益通報制度の導入では、制度導入の過程で企業を成長させるという恩恵もあります。不正のないクリーンな事業を心がけ、取引先や消費者の信用を獲得して成長を遂げた企業も多くあります。


また、あらゆる消費者がネットを媒介にして企業の不正を糾弾できる現代においては、公益通報者保護法制定当時よりも不正がもたらすリスクは大きくなっています。

公益通報制度の導入に後ろ向きな思いや迷いがある企業ほど、導入する意義はあるのかもしれません。


大企業だけでなく、これから成長をしようとする中小企業にとっても公益通報窓口の設置は大変意義があるものです。これを機にぜひ前向きに導入を考えてみてはいかがでしょうか。