従業員の退職時に離職票の交付を希望された場合、
企業は離職証明書を作成し、ハローワークへ届け出なければなりません。
今回は自己都合退職した従業員の用紙での申請を例に
離職証明書の書き方や記入に至る背景を解説しながら、
具体的なパターンを説明していきます。
離職票発行の流れと、離職証明書の基本的な書き方は
過去の記事をご確認ください。
過去の記事『離職票発行の流れと基本の書き方』
離職証明書について
離職証明書とは、企業が離職票発行のために
ハローワークへ提出する書類です。
離職証明書の用紙左側は
従業員の離職日以前の賃金支払い状況を記入し、
用紙右側は
離職理由を記入する仕様になっています。
特に用紙左側は従業員の勤務形態や在職時の勤務状況によって
書き方が大きく異なるため、正確な手続のためにも
労務担当者は離職証明書の書き方をおさえておく必要があります。
この記事では、用紙左側に該当する
「離職日以前の賃金支払い状況」の欄について紹介しています。
離職証明書では各記入欄に番号が振られています。
記事内でも実際の番号に従って紹介していきますので
以下の内容をご参考ください。
【離職証明書左側の見本】
⑧欄:被保険者期間算定対象期間
⑨欄:被保険者期間算定対象期間における賃金支払基礎日数
⑩欄:賃金支払対象期間
⑪欄:賃金支払対象期間の基礎日数
⑫欄:賃金額
⑬欄:備考
⑭欄:賃金に関する特記事項
日給月給制で欠勤があったとき
給与体系にはさまざまな種類があります。
月給制にも完全月給制や日給月給制などがあり、
遅刻や欠勤をした場合に給与から控除する方法が異なるため
離職証明書への記入にも注意が必要です。
たとえば、従業員が体調不良などの理由で欠勤した場合、
日給月給制であれば基本給から欠勤分を減額します。
「⑨欄」「⑪欄」には歴日数から欠勤日数を除いた日数を記入し、
「⑫欄」には欠勤による減額後の賃金額
「⑬欄」には欠勤日数を記入しなければなりません。
離職証明書の記入例は以下のとおりです。
なお、離職月の賃金が確定していない場合、
「⑬欄」に「未計算」と記入することで
ハローワークへ提出が可能になります。
離職日の翌日に応答する日が各月にないとき
離職証明書は、離職日や離職日の翌日に応答する日をもとに
雇用保険の被保険者期間が離職日を含む以前の
2年間で12か月以上
(特定理由離職者と特定受給資格者は離職日を含む以前1年間で6か月以上)を
確認するために月日を記入しなければなりません。
従業員が「1月、3月、5月、7月、8月、10月、12月の30日」に
退職した場合、離職日の翌日は各月の31日となります。
離職証明書の「⑧欄」は、離職日から1か月ずつさかのぼって記入するため、
離職日の翌日に応答する日で31日がない月(2月、4月、6月、9月、11月)は
その月の末日を記入してください。
また、記入する年がうるう年のときは、末日の日付に注意してください。
離職証明書の記入例は以下のとおりです。
残業代のみ翌月に支払うとき
集計作業などの事務負担を減らすため、
固定給は当月に支払い、残業代などの変動給は
翌月に支払うケースもあります。
離職証明書は支払いベースではなく、
あくまでもその期間の実労働分の賃金を記入しなければなりません。
そのため、残業代などの変動給部分は実際に残業をした期間に
割り戻して賃金額を記入します。
(10月分の給与が確定する前に提出するときは、「⑬欄」に未計算と記入します)
上記のケースにおける離職証明書の記入例は以下のとおりです。
月給制から日給制に変更となったとき
企業の人員配置や業務内容の変更、または従業員からの
雇用形態の変更希望などの理由から、
給与の支払い形態を変更することがあります。
たとえば、月給制から日給制に支払い形態が変更になると
「⑨欄」「⑪欄」の基礎日数も変わるため、記入の際は注意が必要です。
「⑫欄」にはA欄B欄の2つの記入欄がありますが
月給制の期間はA欄に記入し、
日給制に切り替わる月以降は月決め手当をA欄に記入し、
それ以外の日額や残業代はB欄に分けて記入してください。
変更後の支払い形態が分かるように
支払い形態が変更された月の「⑬欄」に
「日給制へ切替」と記入してください。
離職証明書の記入例は以下のとおりです。
給与の締切日に変更があったとき
給与の締切日が変更になることは多くはありませんが
事業拡大で従業員が増加したことにより
給与計算や支給の管理が煩雑になるような場合に、
給与の締切日を変更することがあります。
【給与の締切日が変更となるケース】
・事業拡大で従業員が増加したことにより、給与計算や支給の管理が煩雑になるとき
・企業の再編や合併により、新しい企業の給与締切日にあわせるとき
・締切日から支給日までの日数が少なく、給与担当者の業務負担が大きいとき など
この場合、「⑩欄」は締切日ごとに、
「⑪欄」の日数が11日以上ある完全月※を6か月分記入します。
「⑪欄」「⑫欄」も対象期間の基礎日数と賃金額を記入してください。
また、締切日が変更された期間が分かるように「⑬欄」へ「締切日変更」と記入します。
離職証明書の記入例は以下のとおりです。
※完全月とは
給与締切日の翌日から次の給与締切日までの期間が満1か月であり、
かつ賃金支払基礎日数が11日以上ある月のことです。
以下のときは、完全月に含まれないため、注意してください。
・給与締切日の途中で入社した場合の入社月
・給与締切日の途中で離職した場合の離職月
(上記【例】9月21日~離職日10月15日)
・給与締切日の途中で給与の支払い形態の変更があった月
・給与締切日の変更により、完全な1か月ではない月
(上記【例】8月1日~8月20日)
・欠勤や休職、産休育休の取得により、賃金支払基礎日数が10日以下のとき
ケガや病気で給与の支払いが30日以上なかったとき
従業員がケガや病気で仕事を休んだ場合、
労災保険の休業補償や健康保険の傷病手当金などの
生活保障を受けることがありますが、
企業では欠勤扱いとなり、給与の支払いがないことがほとんどです。
離職証明書の手続において、原則離職日を含む以前の2年間までが算定対象期間ですが、
そのあいだにケガや病気、出産などの理由で、
引き続き30日以上給与の支払いを受けられなかったときは
その日数を算定対象期間に加算することができます(最長4年間)。
長期欠勤の期間があると離職証明書へ記入する期間も多くなりますが、
給与支払いがなかった期間の事実を証明する書類を添付できるときは
「⑧〜⑫欄」の記入を省略できます。
この場合、医師の診断書や傷病手当金支給申請書などの写しの添付が必要です。
「⑬欄」には、「給与支払いがなかった期間」「日数」
および「その原因」を記入します。
離職証明書の記入例は以下のとおりです。
賃金支払対象期間について、「⑬欄」への記入と傷病手当金支給申請書などの
写しを添付することで、以下の青枠「⑧〜⑫欄」(2023年2月21日~2023年10月20日)を
省略しています。
なお、「⑧〜⑫欄」1段目の離職日までの最後の期間
(上記2023年10月21日~離職日11月20日)の記入は省略できません。
傷病により長期欠勤のまま退職するケースもあるため、
その場合「⑨欄」「⑪欄」は0日、「⑫欄」は0円と記入してください。
産休育休で給与の支払いが30日以上なかったとき
厚生労働省の実施した令和3年度の雇用均等基本調査によると、
過去1年間に育児休業を終了し、復職した女性の9割以上が
6か月以上の育児休業を取得しています。
キャリア形成の観点から仕事と育児の両立に関する制度の見直しが進み、
多くの従業員が産前産後休業、育児休業を取得しています。
離職日を含む以前の2年間までの算定対象期間に、
産休育休の取得により給与の支払いがなかった場合も
ケガや病気で給与の支払いが30日以上なかったときと同様に
離職証明書を作成してください。
離職証明書の記入例は以下のとおりです。
なお、「⑧〜⑫欄」1段目の離職日までの最後の期間
(上記2023年8月1日~離職日8月31日)の記入は省略できません。
「⑨欄」「⑪欄」は0日、「⑫欄」は0円として記入してください。
また、省略期間に育児休業をしていた子どもの育児休業給付金を受給していた場合、
ハローワークで事実確認ができるため添付書類は原則不要です。
ただし、産休育休取得後に雇用保険に加入したため
育児休業給付金を受給していなかったなどの場合は、
母子健康手帳の写しや産前産後休業申請書(任意様式)など、生日と休業期間が証明できる書類を添付してください。
まとめ
今回の記事では、パターン別の離職証明書の書き方と記入例をご紹介しました。
離職証明書は、従業員の勤務状況や賃金額を証明する書類であり、
失業保険を受給する際の支給額に大きく影響します。
離職証明書は労働者にとっても、労務担当者にとっても重要な役割を持つものです。
スムーズな手続が求められるため、正確かつ丁寧な作成を心掛けましょう。
用紙での申請では以下の作成ツールなどを使い、用紙への転記などにお役立てください。
参考・ダウンロード | ハローワーク名古屋東『離職証明書記入見本作成ツール(excelファイル)』
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