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従業員50人以上の事業場に求められる、労働安全衛生法上の衛生管理



事業規模が大きくなると、これまで以上に従業員の健康状態を

維持するための労働環境の管理が必要になります。


必要な管理は「労働安全衛生法」という法律で定められており、

常時使用する従業員が50人以上になると、以下の6つの義務が求められます。


・衛生委員会の設置 

・衛生管理者の選任

・産業医の選任、届出

・ストレスチェックの実施と結果報告

・定期健康診断実施と結果報告

・休養室・休養所の設置

(常時50人以上または常時30人以上の女性従業員を使用する事業場)


今回は、上記の義務に対応するために必要な段取りと、その内容を解説します。



常時50人以上の労働者を使用する事業場とは 



労働安全衛生法上の「労働者」とは、職業の種類にかかわらず、

事業または事業所に使用される者で、賃金を支払われる者をいいます。

この「労働者」には、パート・アルバイトや日雇い労働者などの

臨時的な働き方をする者も含まれます。


基本的には労働基準法の考え方と同じで、同居の親族のみを使用する

事業や家事使用人は「労働者」に該当しません。


また、原則同じ場所にあるものをひとつの事業場としますが、

以下の場合は事業場の単位に注意が必要です。


【例外1 同じ場所にある場合でも業務内容が大きく異なるとき】

それぞれを別の事業場とする。(営業部門と工場部門、本社と店舗など)


【例外2 場所が異なる場合でも事業規模が著しく小さく、事業に独立性がないとき】

直近上位にあたる事業場と一括してひとつの事業場とする。(出張所、支局など)



衛生委員会の設置(罰則あり)



衛生委員会とは、従業員の健康を守り、衛生面から発生する労働災害を

防止するための委員会です。

常時使用する従業員が50人以上の事業場では

全業種に衛生委員会の設置が求められます。


衛生委員会は事業場ごとに毎月1回以上開催しなければならず、

開催の都度、議事録を作成し、議事の概要を従業員に周知する必要があります。

また、議事録は3年間保存しなければなりません。


毎月の衛生委員会では、熱中症やインフルエンザなどの季節特有の健康問題、

健康診断の実施やハラスメント対策など、従業員の健康管理や職場環境を

向上させるテーマについて話し合います。


衛生委員会は以下のメンバーで構成されます。委員数に定めはありません。



衛生委員会を設置しなければならない事業場が設置を怠った場合、

50万円以下の罰金が科せられます。


なお、常時使用する従業員が50人以上の事業場の場合、業種(建設業、運送業など)や

事業場の規模によっては、安全委員会の設置も必要です。




衛生管理者の選任(罰則あり) 



衛生管理者とは、職場で働く人の健康障害や労働災害防止のために

活動を行う、労働安全衛生法で定められた国家資格です。

全業種の従業員50人以上の事業場で、専属の衛生管理者を選任しなければなりません。


選任すべき事由(事業場の常時使用する従業員が50人に達したときなど)が

発生した日から14日以内に、常時使用する従業員数に応じて定められた人数の

衛生管理者を選任し、遅滞なく、管轄の労働基準監督署に報告する必要があります。



選任された衛生管理者は、少なくとも毎週1回は作業場などを巡視しなければなりません。設備や作業方法、衛生状態に有害の恐れがある場合は、直ちに必要な措置を取る必要があります。


衛生管理者になるためには、事業場の業種に応じた選任要件が定められています。


なお、衛生管理者の選任義務のある事業場が衛生管理者を選任しなかった場合、

50万円以下の罰金が科せられます。



産業医の選任、届出(罰則あり)



職場での従業員の健康管理や衛生教育を正しく効果的に行うためには

医学の専門知識が不可欠です。

そのため、常時使用する従業員が50人以上の全業種の事業場では、

医師のうちから産業医を選任し、従業員の健康管理などを行わなければなりません。


選任すべき事由(常時使用する従業員が50人に達したときなど)が

発生した日から14日以内に、常時使用する従業員数に応じて定められた人数の

産業医を選任し、遅滞なく、管轄の労働基準監督署に報告する必要があります。



選任された産業医は、従業員の健康管理などを行うために、少なくとも毎月1回

作業場などの巡視が必要です。(産業医が事業者から毎月1回以上、

所定の情報提供を受けており、事業者の同意を得ている場合は少なくとも

2か月に1回の巡視でも可能)


設備や作業方法、衛生状態に有害の恐れがある場合は、直ちに必要な措置を

とる必要があります。


なお、産業医の選任義務のある事業場が産業医を選任しなかった場合、

50万円以下の罰金が科せられます。



ストレスチェックの実施と結果報告(罰則あり) 



ストレスチェックとは、ストレスに関する質問票に従業員が記入し、

質問項目を集計・分析することで、自身のストレスがどのような状態にあるかを

調べるための検査のことです。

正式名称を「心理的な負担の程度を把握するための検査」といいます。


2014年6月に改正労働安全衛生法が公布され、2015年12月に従業員の

メンタルヘルス不調の未然防止を目的とした「ストレスチェック制度」が新設されました。


これにより、常時使用する従業員が50人以上の事業場では、1年以内ごとに1回

医師等によるストレスチェックの実施および面接指導の結果報告を

管轄の労働基準監督署へ行うことが義務付けられました。

(従業員数50人未満の事業場は当分の間、努力義務)



ストレスチェック制度の実施手順は以下のとおりです。



報告の対象となる事業場(常時使用する従業員が50人以上の事業場)が

複数あったとしても、事業場ごとに報告しなければなりません。

企業単位や複数の事業場を本社でまとめて報告することはできないため

注意してください。


なお、ストレスチェックの未実施に対する罰則はありませんが、

結果報告を怠ったり、虚偽の報告をした場合は50万円以下の罰金が

課せられることもあります。




定期健康診断の実施と結果報告(罰則あり)



前提として、事業場の規模にかかわらず、1年以内ごとに1回、

従業員の定期健康診断を実施しなければなりません。


常時使用する従業員が50人以上になったときは、定期健康診断の実施だけでなく、

管轄の労働基準監督署への定期健康診断の結果報告も義務となります。


なお、報告義務の対象となる事業場の「常時使用する50人以上の従業員」とは、

パート・アルバイトや日雇い労働者も含みますが、定期健康診断の受診対象となる

「常時使用する従業員」には、1年以上使用される予定の者かつ週の労働時間が

正社員の4分の3以上であるパート・アルバイトなどの短時間労働者が該当します。


監督署への報告義務の対象となる人数と、実際に定期健康診断を受診する人数は

一致する訳ではないため、注意してください。



なお、定期健康診断の実施・報告義務の対象である事業場が、実施・報告を

怠った場合は、50万円以下の罰金が科せられます。



休養室・休養所の設置



病弱者や生理日の女性などが一時的に使用するためのスペースとして、

常時50人以上または常時30人以上の女性従業員を使用する事業場は

休養室または休養所を男性用・女性用に区別して設置しなければなりません。


なお、長時間の休養などが必要となる場合、速やかに医療機関に搬送または

従業員を帰宅させることが基本となるため、随時利用できる機能が確保されていれば

専用の設備である必要はありません。


また、2021年12月に職場における労働衛生基準が変更となり、休養室を設置する場合の

ポイントが新たに追加されました。


休養室または休養所では体調不良の従業員が横になって休むことが想定されており、

利用者のプライバシーと安全が確保されるよう、設置場所の状況などに応じた

以下のような配慮が求められます。


・入口や通路から直視されないように目隠しを設ける

・関係者以外の出入りを制限する

・緊急時でも安全に利用が可能 など



なお、休養室または休憩室を設置しなければならない事業場が設置を怠った場合の

罰則はありませんが、法令で定められた義務ではあるため、対象となった場合は

必ず設置をしてください。



従業員50人未満の事業場でも必要な衛生管理業務



常時使用する従業員が50人未満の事業場の場合でも、以下の衛生管理業務を

行う必要があります。




おわりに 



従業員の健康と安全の確保は、従業員のためだけではなく生産性の向上にも繋がります。

今回解説した6つの義務の中には罰則がある規定もあるため、「法律を知らなかった」では済まされないこともあります。

労務管理担当者は制度を理解し、事業場の現状把握と、求められる対応の確認を

おすすめします。

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