従業員が退職や労働条件の変更で社会保険の加入要件を満たさなくなった場合、
その従業員は社会保険の資格を喪失します。
日本では、国民すべてが国民健康保険や勤務先の社会保険などいずれかの健康保険
(公的医療保険)に加入する「国民皆保険制度」が採用されています。
そのため、会社で加入していた社会保険を失った後は、国民健康保険、任意継続制度、
ご家族の健康保険(被扶養者)という3つの選択肢からいずれかを選んで健康保険に
加入する必要があります。
今回は、その中でも任意継続制度について詳しく紹介します。
なお、この記事では協会けんぽの任意継続制度の活用を前提に解説を進めます。
任意継続制度とは
任意継続制度は、健康保険の被保険者が資格を喪失した後も最長2年間、同じ健康保険に
引き続き加入できる制度です。
保険料は在職時の基準に基づいて計算され、退職後も同じように健康保険の給付
(傷病手当金、出産手当金等を除く)や健康保険証の利用を続けることが可能です。
家族も引き続き被扶養者として加入できるため、医療費負担を抑えられるメリットも
あります。
任意継続制度に加入できる人
任意継続被保険者となるためには、以下の2つの条件を満たしている必要があります。
①資格喪失日の前日(退職日)までに「継続して2か月以上の被保険者期間」があること
入社間もない退職で、被保険者期間が2か月未満の場合であっても、1日もあいだを開ける
ことなく前職の協会けんぽの被保険者期間から通算して2か月以上あれば、任意継続制度に
加入することができます。
②資格喪失日(退職日の翌日)から「20日以内」に自宅住所地を管轄する協会けんぽ都道府県支部へ申請すること
20日目が土日・祝日の場合は、翌営業日になります。窓口での手続も可能ですが、窓口が
込み合うことがあるため郵送で申請されるケースが多いです。
郵送での申請の場合でも20日以内に必着となるため、配達日数を考慮して手続きする必要が
あります。
(例)退職日が1月31日の場合
資格喪失日は2月1日となるため、2月20日までに申請する必要があります。
任意継続被保険者の保険料
任意継続被保険者の保険料は、以下のいずれか少ない標準報酬月額に被保険者の住所がある
都道府県の保険料率を乗じた額となります。
在職中には保険料の半分は企業負担となっていますが、任意継続制度では被保険者が
企業負担分も含めて全額負担することになります。
なお、保険料は、原則2年間変わりません。
任意継続制度における保険料の納付方法
任意継続制度の保険料の納付方法は、以下の3通りです。
納付期日までに保険料を納付しなかった場合、納付期日の翌日で任意継続被保険者の資格を
喪失し、保険給付が受けられなくなります。
①毎月納付書により納付する方法
毎月月初めに送付される納付書を使い、その月の10日(10日が土日・祝日の場合は、
翌営業日)までに納付します。
初回保険料の納付期日については、保険者の指定した日となります。
保険料は、金融機関の窓口や金融機関のATM、コンビニエンスストア、インターネット
バンキングで納付できます。
②一定期間分を一括して事前に納付書により納付する方法(前納)
4月分から9月分、10月分から翌年3月分までの6か月分、または4月分から翌年3月分までの
12か月分を一括して先に納めることができます。
前納を希望する場合は、協会けんぽに前納の申込みを行う必要があります。
なお、前納制度を利用すると保険料の割引があります。
③毎月口座振替により納付する方法
協会けんぽに口座振替の申込みを行うことで、口座振替で保険料を納付することが
できます。
希望するときは「保険料預金口座振替依頼書・自動払込利用申込書」を提出します。
ただし、振替による前納はできません。
任意継続制度の加入手続き
任意継続制度への加入は、「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」を記入し、
資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に自宅住所地を管轄する協会けんぽ都道府県支部
に提出します。
その際、退職日が確認できる書類の添付、または申出書の健康保険資格喪失証明欄への
記載を行うことで、新しい保険証の受取までの期間が通常より短くなります。
なお添付・記載は任意ですので、添付・記載がない場合でも申請できます。
また、口座振替により保険料の納付を希望する場合には「保険料預金口座振替依頼書・
自動払込利用申込書」も同時に提出します。
さらに、家族に任意継続制度の被扶養者となる方がいる場合には、申出書の2ページ目に
被扶養者の情報を記入し、以下に該当する確認書類を添付します。
(確認書類の具体例)
①続柄を証明する書類:戸籍謄(抄)本、または、世帯全員が記載されている住民票
②収入を証明する書類:所得証明書、非課税証明書、給与証明書、離職票のコピー、直近の
年金額改定(振込)通知のコピー、確定申告書のコピー など
※16歳未満の場合は添付不要(学生の場合でも16歳以上の方は添付が必要)
③同居していることを証明する書類:同居が確認できる、世帯全員が記載されている住民票
④仕送りの事実と1回あたりの仕送り額が確認できる書類:預金通帳のコピー、現金書留
控えのコピー など
任意継続被保険者の資格喪失
任意継続制度の加入期間は2年間ですが、以下のいずれかの事項に当てはまるときには、
期間の途中でも被保険者の資格を喪失します。
②③④のときには、被保険者は「任意継続被保険者資格喪失申出書」に保険証を添付
します。
新たな企業に就職した場合は②に該当しますので、喪失申出書の提出を忘れないように
注意が必要です。
加入期間の2年を満了したときや、保険料を期日までに納付しなかったこと等により
資格を喪失した場合には、国民健康保険、または家族の健康保険(被扶養者)へ加入する
ことになります。
任意継続制度におけるその他の注意事項
1 被保険者側
申出書を提出してから保険証が送付されるまでの期間に診療を受ける場合にも、保険給付の
対象となります。
その期間に診療を受けて医療費を負担した場合には、保険証が送付された後に「療養費支給
申請書」を提出することで保険負担分を後から受け取ることができます。
2 企業側
企業は従業員が退職する際に従業員から保険証を回収し、その保険証を添付した「被保険者
資格喪失届」を退職日から5日以内に管轄の年金事務所または事務センター(日本年金
機構)に提出します。
また、新たな保険証を通常より早く受け取るために必要な「退職日が確認できる書類※)」
と「申出書の健康保険資格喪失証明欄への記載」は企業側が用意するため、退職前に任意
継続制度を希望しているかを確認し、従業員から書類を求められたら迅速に対応できる
ように準備しておくことをおすすめします。
※退職日が確認できる書類
退職証明書のコピー、雇用保険被保険者離職票のコピー、健康保険被保険者資格喪失届の
コピー、事業主または公的機関が作成した資格喪失の事実が確認できる書類 など
おわりに
退職後、すぐに再就職しない従業員にとって任意継続制度はひとつの選択肢です。
そのため、退職する従業員の必要に応じて案内できるよう、あらかじめ理解しておくことが
大切です。
任意継続制度についてのスムーズな案内は、退職する最後の最後まで良好な関係を築く
ことにつながります。
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