熱中症のピークは8月です。
しかし近年では、5月や6月など気温が高くない時期から熱中症患者が発生しています。
熱中症は野外だけでなく室内でも発症するため、熱中症リスクはすべての従業員が
持っています。
この記事では、企業が実施できる従業員の熱中症予防と、労災になったときの手続について
解説しています。
熱中症とは
熱中症とは、高温多湿な環境に身体が慣れずに体内の水分や塩分のバランスが崩れ、
体内の調整機能が破綻して発症する症状の総称です。
一般的な症状に、めまい、吐き気、意識障害などがあります。
熱中症の重症度は、Ⅰ度からⅢ度に分かれています。Ⅰ度は軽度の症状とされており、
現場での適切な対応があれば重症化が防げ、症状改善ができる段階です。
症状が改善しないⅡ度以降は医療機関への搬送が必要です。
暑さに慣れる暑熱順化
人間は、多少ですが、暑さに慣れることができます。
身体の機能が暑さに適応することを「暑熱順化(しょねつじゅんか)」といい、
暑さに慣れるための期間を設けることで熱中症の予防につなげられると考えられています。
暑熱順化には個人差があり数日から2週間程度かかるため、梅雨に入る今の時期から、
暑さに強い⾝体をつくることの従業員への呼びかけをおすすめします。
暑熱順化のポイントは、汗をかくことです。
適度な運動や入浴などを日常生活にうまく取り入れることで対応ができます。
暑さに慣れた身体になると、早く汗が出るようになり、体温の上昇を⾷い⽌められるように
なります。
ただし暑熱順化の効果に持続性はなく、数⽇間でも暑い作業から離れると暑熱順化の効果は
減少します。
入社したてや長期休暇明けの従業員などには、改めて暑さに慣れてもらうことが重要です。熱中症対策が必要な9月頃までは、従業員へ暑熱順化の声掛けをしてください。
職場での熱中症予防対策
熱中症は屋内や屋外に関係なく、暑ければどこでも発症する可能性があるため、
職場での熱中症対策はすべての業種・職種で重要です。
以下、職場での熱中症予防策をまとめましたので、参考にしてください。
1 作業時間の短縮や休憩所の設置
簡易な屋根の設置、通風または冷房設備やミストシャワーなどの設置により、WBGT値を
下げる方法を検討し、作業場所の近くに冷房を備えた休憩場所や日陰のある涼しい休憩場所
を確保してください。
WBGT値が高いときは単独作業を控え、WBGT値に応じた作業の中止や、こまめな休憩取得
などの工夫を行ってください。
厚生労働省によると、熱中症による死傷者数が多い時間帯は14時、15時台となっており、
その時間帯は屋外の作業をできるだけ避けることや、休憩時間の工夫などもおすすめ
します。
【WBGT値(暑さ指数)とは】
WBGT値(暑さ指数)は人体と外気との熱のやりとりに着目した指標で、人体の熱収支に
与える影響の大きい ①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温
の3つを取り入れています。
WBGT値(暑さ指数)が、28℃を超えるときは熱中症にかかりやすくなります。
以下の厚生労働省のサイトでは、作業に対応したWBGT値や実測の仕方などが記載されて
います。
2 通気性の良い服装の着用
通気性のよい作業着を準備し、冷却機能をもつ服の着用の検討を行ってください。
3 汗で不足しがちな塩分と水分の補給
休憩場所に飲料水や塩飴などを用意します。
大量に発汗すると体内の塩分が消失するため、水分補給のみでは不十分です。
水分と塩分を補給してください。こまめな休憩とともに、喉が渇いていなくても水分と
塩分を定期的に補給するように促してください。
スポーツ飲料や経口補水液の塩分は製品によって成分量が異なりますが、「栄養成分表示」
を確認するとよいでしょう。
4 従業員の異変に気付く観察
熱中症は身近な災害です。普段から従業員同士で声をかけ合い、現場管理者や部署のマネージャーが異変に気付けるように、今の時期から従業員の健康観察や安全確保に努めてください。
初期症状が出ていても「仕事を一旦止めて休む」ことを選択せず、無理に仕事を続けることで重度化するケースがあります。いつもと違うと感じたら熱中症を疑ってみることも大切です。
普段から自身や周囲の異変に気付けるように、熱中症「応急手当」カードなどもご活用
ください。
5 熱中症に関する健康状態自己チェックリストの利用
業務中に熱中症の症状が起きたときは、労災を申請することになりますが、労災の認定要件
のひとつに、本人の身体の状況があります。熱中症は、体調不良や不摂生、睡眠不足で発症
リスクが高まります。
発症の原因が本人の体調等による要素が大きい場合、労災認定されない場合もあるため、
従業員は日常的に自身の体調管理に努める必要があります。
また、持病のある従業員は熱中症リスクも高まります。定期健康診断や持病確認などを
行い、必要に応じて産業医や主治医に対応方法を確認しておきましょう。
熱中症予防のための体調自己チェックリストなどを参考に、朝礼時や作業前の従業員の健康
状態の確認をすすめてください。
参考・ダウンロード|大阪労働局『熱中症予防のための体調自己チェックリスト(例)』
6 高齢の従業員の体調管理
高年齢者の熱中症にも注意が必要です。高年齢者は暑さや喉の渇きを感じにくく、体温を
下げるための身体反応が弱くなっていることがあります。
エアコンがなくても平気だった昔と比べ、昨今は異常な暑さです。
高齢の従業員の体調変化を観察し、体調確認や水分補給など積極的な声掛けをして
ください。
熱中症が疑われる従業員の応急処置
気温が本格化する前の6月でも熱中症で救急搬送される方がいます。
従業員の熱中症が疑われる場合は、呼びかけに応答するか確認し、その反応に応じた
適切な処置を行ってください。
【意識があるとき】
・涼しい場所へ移動させ、身体を楽な姿勢にさせる
・スポーツドリンクや薄い食塩水など水分と塩分を摂取する
(ただし、水分を吐くときは無理に飲ませてはなりません)
・衣服をゆるめ、身体を冷やす
症状が悪化する可能性もありますので、ひとりで休ませることはせず必ず誰かが付き添って
ください。
水分を自力で摂取できないときや症状がよくならないときは、従業員の様子がおかしく
なったときの状況を知っている者が付き添い、医療機関を受診してください。
【意識がないとき】
・呼びかけて反応がないときは、すぐに救急車を呼ぶ
・涼しい場所へ移動させ、身体を横にする
・衣服をゆるめ、首、わきの下、太もものつけ根を集中的に冷やす
意識がないときに水を飲ませると窒息する危険があるので、飲ませてはなりません。
おわりに
企業側が熱中症対策を怠ってはならないのはもちろんですが、暑熱順化や体調管理には
従業員自身の意識向上も必要です。
暑熱順化のポイントは汗をかくこととお伝えしましたが、始業前にラジオ体操を行うだけ
でも汗をかくことができます。
危険性や、簡単にできる自衛方法などを周知して、全社の熱中症リスクを回避しましょう。
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