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「」に対する検索結果が112件見つかりました

  • 従業員の新型コロナウイルス感染での、企業対応。

    新型コロナウイルス感染症の流行は続いています。 この記事では、従業員が陽性者や濃厚接触者になったときや、業務により感染したときなどで、企業が認識しておくべき内容についてお知らせいたします。 (出典)厚生労働省サイト『データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-国内発生動向』 職場で陽性者・濃厚接触者が発生したときの対応 従業員から「新型コロナウイルス感染症の陽性や濃厚接触の判定がされた」と連絡が来た ときの企業対応についてお伝えします。 【陽性の連絡が来たとき】 従業員が新型コロナウイルス感染症の陽性の判定がされたときは、以下を参考に確認と 対応を行ってください。 (陽性者となった従業員に確認すること) ・症状発生日、検査日等 ・療養予定期間(復帰予定日) ・症状が発生する2日前の勤務状況 ・濃厚接触者になりうる従業員や取引先がいないか ・休業中の勤怠 など (企業対応すること) ・休業中の業務引継ぎ ・欠勤をする場合の傷病手当金の案内 ・陽性者のデスク周りや共用部分の消毒 など 【濃厚接触の連絡が来たとき】 新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者は、陽性となった人と一定の期間に接触があった人をいいます。 一定の期間とは、陽性者に症状が出た日の2日前(症状が出ない場合は陽性者が検体採取した時から2日前)から、療養が終了するまでの期間をいいます。 参考|厚生労働省サイト『新型コロナウイルス最前線』Q1 濃厚接触の疑いがある状態で、企業が出勤停止命令を発令したときは、休業手当の支払いが必要ですが、濃厚接触者になった場合は休業手当の支払いは不要です。 そのため、濃厚接触者と判断されたときは、欠勤になります。 濃厚接触者でPCR検査の結果が陰性のときは、傷病手当金も支給されませんので、有給休暇の取得を推奨する企業も多いです。 テレワークが導入されていれば自宅で業務してもらうこともできます。 濃厚接触者の待期期間の見直しなども行われていますが、新型コロナウイルス感染症は現在も増加傾向にあり、それに伴い濃厚接触者も増えています。 濃厚接触者となった従業員が出社できなくなることを想定して、早めに業務の見直しや対応を決めておくことをおすすめします。 労災保険給付の対象となる場合 業務によって新型コロナウイルス感染症に感染したときは、療養補償給付や休業補償給付など労災保険給付の対象となります。 【対象になる人】 ・感染経路が業務によることが明らかな場合 ・感染経路が不明の場合でも、感染リスクが高い業務に就き、それにより感染した可能性が高い場合 例)複数の感染者が確認された労働環境下での業務 例)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下の業務 ・医師・看護師や介護の業務に従事される方々については原則として対象(業務外で感染したことが明らかな場合を除く) ・症状が持続し(罹患後症状があり)療養等が必要と認められる場合 など 詳細は、以下のリーフレットをご確認ください。 参考|厚生労働省『業務によって感染した場合、労災保険給付の対象となります』 傷病手当金の対象となる場合 社会保険の被保険者は、新型コロナウイルス感染症に感染して仕事ができないときは 傷病手当金の支給対象になります。 ここでは、協会けんぽの傷病手当金について記載しています。 傷病手当金とは、業務外の理由による病気やケガで仕事ができず、企業から給与の支払いがないときに、健康保険から生活保障として支給される手当です。 支給を受けられるのは、休業している期間が4日以上あるときです。欠勤した日から最初の3日間(待期期間)は支給されず、4日目から支給されます。 支給額は以下の計算式で算出した額になります。 【傷病手当金の支給額の計算】 また、ご家族や事業所内で感染者が発生し濃厚接触者となり欠勤しているときも、PCR検査の結果『陽性』または『自覚症状があり労務困難な場合』のいずれかに該当するときは支給の対象になります。 【傷病手当金の支給対象者】 ・陽性者の方 ・発熱などの自覚症状があり労務困難で仕事を休んでいる方 ・自覚症状はないが検査の結果、『陽性』となった方 支給の対象になるかどうかは以下の図を参考にしてください。 (出典)協会けんぽ 大阪支部サイト『新型コロナウイルス感染症にかかる傷病手当金について』 当面の間、傷病手当金の医師証明の添付が不要 通常、傷病手当金申請書を申請する際は医師の意見書の添付が必要になります。 ただし、新型コロナウイルス感染により傷病手当金を申請する場合は、以下の方法により 当面の間医師の意見書の添付は不要となります。 【医師の意見書の添付を不要とするときの記載方法】 傷病手当金支給申請書(2ページ目 被保険者記入用)の「発病時の状況の欄」に発症年月日、発症時の症状等を記入します。 <協会けんぽの場合の記載例> 申請期間が14日以上の場合は、「療養状況申立書(新型コロナウイルス感染症用)」の添付が必要になる場合があります。 参考|協会けんぽ「療養状況申立書(新型コロナウイルス感染症用)」 <公的な通知書 例> ・My HER―SYSからプリントアウトした「療養証明書」 ・医療機関が発行した「PCR検査の結果通知」「抗原検査結果通知」写し ・任意でPCR検査・抗原検査を行った場合、検査機関より交付された陽性の検査結果通知書写し など (出典)厚生労働省『療養証明書の表示方法』 国民健康保険加入者の新型コロナウイルスによる傷病手当金申請について 協会けんぽ以外の健康保険に加入されているときは、加入されている健康保険の窓口へ お問合せをお願いします。 また、国民健康保険には傷病手当金の制度はありませんが、給与の支払いを受けている方(事業主、無職などの方は対象外)を対象に、新型コロナウイルス感染症に限り傷病手当金を期限つきで支給している市区町村があります。 該当するときはお住まいの市区町村へお問合せください。 まとめ 新型コロナウイルス感染により仕事を休まれた方や濃厚接触者の方への対応方法は感染状況により変化しています。 感染による欠勤はどの企業にでも起こり得ます。陽性者や濃厚接触者が発生してから対応を考えるのではなく、事前に対応方法を考え、従業員に速やかに案内できるように しておきましょう。 各都道府県で対応方法が異なる場合がありますので、都道府県のホームページで事前に 確認されることをおすすめします。

  • 2022年10月の改正内容のまとめ。

    2022年10月にはさまざまな改正が予定されており、企業に直接影響がある改正では 手続きの流れの見直しなどが必要になります。 この記事では10月改正の概要をまとめています。 1⃣最低賃金法 2022年10月から最低賃金が上がります。 全国加重平均31円の引き上げとなり、過去最高となっています。 前年と比べると引き上げ率は3.3%で、1日8時間、週40時間の企業であれば月額換算すると5,000円以上変わってきます。 最低賃金は、正社員・パート・アルバイトなど雇用形態に関係なくすべての従業員に 適用されるため、企業の負担も増えます。 最低賃金額や改定日は都道府県により異なります(以下の「令和4年度地域最低賃金改定状況」を参照)ので、いつから変更になるか、いくらになるかなどを確認し、最低賃金を下回らないようにしてください。 【令和4年度地域別最低賃金改定状況】 (参考)厚生労働省サイト『令和4年度地域別最低賃金改定状況』 2⃣職業安定法 2022年10月1日から職業安定法が改正され、求人を行うすべての企業・募集情報等提供 事業者(求人情報などを提供する事業者)で求人等にかかわる情報の的確な表示が必要になり、虚偽や誤解を生じさせる表示も禁止されます。 求人にかかわるトラブルは毎年報告されており、「基本給に残業代が含まれていた」 「正社員募集の認識だったが契約社員の募集だった」「求人票より低い賃金を提示された」「就業場所が求人票と違う場所だった」などがあります。 このようなことが起きないよう、的確な労働条件の記載が求められます。 スム-ズに採用を進めるためにも、求人票に記載する労働条件と実際の勤務に相違が ないよう見直しを進めてください。 この他に求人サイトや、複数の求人をまとめた検索サービスなどを行っている募集情報提供事業者については、届出の義務化と、求職者の個人情報収集にあたり本人に対して収集目的などの明示が義務付けられます。 【職業安定法 改正のポイント】 (参考)厚生労働省『職業安定法 改正のポイント』 3⃣育児・介護休業法 2022年10月1日より育児・介護休業法の改正があり、新しく「出生時育児休業(通称、産後パパ育休)」ができます。 産後パパ育休は子どもの出生後8週間以内に4週間(28日間)取得でき、2回まで分割取得が可能です。 育児休業中(産後パパ育休含む)の就業は原則禁止(緊急・突発的な就業は可能)されていますが、産後パパ育休中は労使協定を締結すれば休業中の就業が認められます。 これまで育児休業の取得は原則1回でしたが、10月1日以降は2回まで分割取得ができるようになります。 また1歳以降の休業についても特別な事情(別の子どもの産前・産後休業の終了など)があるときは再取得できるようになり、仕事と育児の両立が進むよう柔軟に育児休業が取得できる制度に変わります。 (出典)厚生労働省『育児・介護休業法 改正ポイントのご案内』 4⃣雇用保険法 2022年10月1日から、雇用保険の料率の変更、育児・介護休業法の改正に伴う育児休業給付金、出生時育児休業給付金(新設)の改正などが行われます。 【雇用保険料率の変更】 雇用保険料率の変更は給与計算にかかわってくるので、給与システムの設定や従業員への周知などが洩れないようにしてください。 (出典)厚生労働省『令和4年度雇用保険料率のご案内』 【育児休業給付金、出生時育児休業給付金(新設)】 1歳までの育児休業の分割取得(2回まで)ができるようになったため、分割した育児休業ごとに育児休業給付金が受給できるようになりました。 また、産後パパ育休に対応した「出生時育児休業給付金」ができました。 出生時育児休業給付金も分割取得(2回まで)が可能ですが、手続きはまとめて1回で行います。 育児休業給付金、出生時育児休業給付金の支給額は同じですが、申請期限などが異なります。以下のリーフレットをご覧ください。 (出典)厚生労働省『令和4年10月から育児休業給付金制度が変わります』 5⃣厚生年金保険法、健康保険法 2022年10月1日、厚生年金保険法、健康保険法の改正も行われます。大きくは3つです。 1 育児・介護休業法改正に伴う、育児休業中の社会保険料免除 同月内に育児休業(出生時育児休業含む)を14日以上取得したときは、その月の社会保険料が免除されます。 月をまたいで育児休業を取得したときは、従来とかわらず月末に育児休業を取得している月の社会保険料が免除になります。 また、賞与の社会保険料の免除は1か月を超えて育児休業を取得していないと適用されません。 (出典)日本年金機構『育児休業等期間中における社会保険料の免除要件が改正されます。』 2 厚生年金、健康保険加入の2か月みなしの適用除外 2か月の期間を定めて雇用される従業員への社会保険(厚生年金、健康保険)適用の取扱いが変わります。 今までは、2か月を超えて雇用継続が「見込まれる」従業員の社会保険の加入は適用除外(加入しなくていい)とされていましたが、今後、雇用継続が見込まれるときは初めから社会保険への加入が必要になります。 雇用契約書に「更新をしない」旨が明確になっているとき以外(「更新する場合がある」など)は、社会保険加入が必要です。 ※労働時間、勤務日数が社会保険加入要件を満たしている従業員が対象です。 3 101人以上の企業のパート・アルバイトへの社会保険適用拡大 社会保険加入の適用者(※)が101人以上の企業(法人番号単位)に勤務する一定の要件を満たす短時間労働者(パート・アルバイトなど)に対して、社会保険の加入要件が拡大されます。 社会保険は従業員や企業が加入する・しないを決められないため、対象になる短時間労働者への周知や手続きなどを漏れなく進めてください。 ※適用者とは、正社員の所定労働時間および労働日数の3/4以上の短時間労働者です。 【短時間労働者の社会保険の加入要件】 (出典)厚生労働省『社会保険適用拡大ガイドブック』 6⃣アルコール機器を使用したアルコールチェックの延期 2022年4月1日から、運転前・後の目視によるアルコールチェックおよびその記録の保存が義務付けされています。 2022年10月1日からアルコール検知器を使ったアルコールチェックの義務付けが予定されていましたが、こちらは延期になりました。 目視によるアルコールチェックは、今後もかわらず実施が必要です。 なお、アルコールチェックの対象は乗車定員11名以上の自動車1台以上または乗車定員にかかわらず、5台以上の自動車を保有する事業所です。 7⃣高年齢者医療確保法 2022年10月1日から、75歳以上で一定以上の所得がある方の医療費の窓口負担が2割になります。2割負担になるかどうかはフローチャートで確認ができます。 2割負担になった方は、外来医療の窓口負担割合の引上げに伴い1か月の負担増加額を3,000円までに抑える措置が2025年(令和7年)9月30日まで実施されます。 【窓口負担割合についてのフローチャート】 (出典)厚生労働省『後期高齢者医療制度の見直しについて』 8⃣確定拠出年金法 企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入している方がiDeCoに加入するには、企業との労使の合意が必要でしたが、2022年10月1日より原則加入できるようになります。 マッチング拠出(企業と本人が掛金を拠出)を導入している企業DCのときは、マッチング拠出とiDeCoの両方への掛金の拠出はできません。どちらにするかは本人が選択できます。マッチング拠出は企業の掛金を下回る額でないと本人が拠出できず、企業の掛金と合わせて55,000円以下にしなければなりません。iDeCoの掛金は最大20,000円まで拠出できます。 つまり、企業の掛金が20,000円未満のときはiDeCoの方が本人の掛金を多く拠出でき、 企業の掛金が20,001円以上35,000円未満のときは、マッチング拠出の方が多く拠出できます。 (出典)厚生労働省『令和4(2022)年10月から 企業型DC加入者がiDeCoを利用しやすくなります』 まとめ 改正はまだまだ続きます。 2023年4月1日からは60時間を超える法定時間外労働の割増率が50%(大企業は適用済み)になるなど、企業の負担が増すものもあります。 事前に対策をしておかないと対応が難しい改正もありますので、早めに準備を進められるよう計画を立てることをおすすめします。

  • 企業が副業・兼業を許可する前に知っておくポイント。

    国は、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」にて副業・兼業を希望する労働者の 健康確保や労働時間管理のルールを明確にし、副業・兼業の普及を促進しています。 厚生労働省が公開している統計によると、全面禁止している企業も多いですが、条件付きも含め半数近くは認めていることがわかります。 出典)厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドラインの改定案について』P5 副業・兼業を行う従業員は、複数の収入源を得られるだけでなく、一つの仕事では 出会えなかった人や、本業以外での経験から得た広い視野を持って仕事に取り組めるようになります。企業側も、副業・兼業で得られた経験やスキルを本業へ活用してもらう期待が持てます。 今回の記事では、企業が副業・兼業を検討するときに知っておくべき、労働時間管理や 健康管理のポイントについてお伝えします。 副業・兼業は認めないといけないのか 従業員が、労働時間以外の時間をどのように利用するかは従業員の自由です。 そのため従業員の希望に応じ、原則副業・兼業を認める方向での検討が望ましいとされています。 しかし、企業には副業・兼業を認めるうえで懸念もあるはずです。そのため副業・兼業が本業にどのような支障をもたらすかを今一度精査した上で副業・兼業を認めない、条件付きで認める等の判断をする必要があります。 【副業・兼業を認めない・認めるときは条件付きとする理由】 ・本業の仕事への支障 ・働きすぎによる心身の健康負荷 ・業務上の秘密などの情報漏えい ・競業による自社利益の侵害 ・企業の名誉や信頼を損なう行為 など 企業の方針が決定したら、トラブルやリスク対策のため、就業規則の規程整備や 労務管理上の仕組みづくりを検討します。 副業・兼業に関する就業規則の規定や社内様式は、以下のサイトを参考にしてください。 参考|厚生労働省『副業・兼業』 副業・兼業に関する情報の公表 2022年7月、副業・兼業の促進に関するガイドラインが改定されています。 今までのガイドラインでは、安心して副業・兼業に取り組めるように、副業・兼業を 行うときの労働時間管理や健康管理等について示されていました。 今回の改定で、多様なキャリア形成など副業・兼業を希望する労働者が、職業選択の参考にできるよう、企業サイトや会社案内、採用パンフレットなどでの副業・兼業に関しての 情報公開の推奨が追加されました。 参考|厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン』 情報公開するときの記載例です。 【副業・兼業を認めている(条件なし)】 【副業・兼業を認めている(条件付き)】 副業・兼業する従業員の労働時間 副業・兼業での労務管理では、労働時間に注意する必要があります。 法令等では、自社と副業・兼業先の労働時間を通算するものと通算しないものがあります。 【労働時間を通算するもの】 法令で定められている労働時間の限度時間は、原則1日8時間、週40時間です。 このルールは複数の事業場で働く従業員にも適用されるため、自社と副業・兼業先の労働時間を通算します。 さらに、従業員個人の実労働時間を規制する目的の「時間外労働の上限規制(時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内)」も適用されるため 自社と副業・兼業先の労働時間を通算します。 そのため、副業・兼業を行う従業員においては、副業・兼業先の労働時間も確認したうえで労働時間管理をする必要があります。 【労働時間を通算しないもの】 事業場ごとに締結される36協定の延長できる限度時間は、事業場ごとに延長時間の範囲内であるか確認するため、労働時間は通算しません。 また労働基準法が適用されない役員やフリーランス、労働基準法が適用されるが労働時間規制の適用除外となっている業種や管理監督者などの場合は通算しません。 どのように労働時間管理を行うのか 副業・兼業をする従業員の労働時間は、自社の労働時間と従業員の申告により把握した 副業・兼業先の労働時間を通算して計算します。 自社の労働時間と副業・兼業先の労働時間を通算して1日8時間、週40時間(特例措置対象事業場のときは44時間)を超える部分が時間外労働となります。 原則的な労働時間管理と、簡便な労働時間管理の2通りをご紹介します。 1 原則的な労働時間管理の方法 所定労働時間と時間外労働となる部分の2段階で通算を行います。 給与計算期間ごとに従業員に副業・兼業先の労働時間を申告してもらって労働時間の通算を確認します。 ステップ1 所定労働時間を労働契約を締結した先後の順番で通算する ステップ2 時間外労働の発生した順番で時間外労働時間を通算する 例1)A事業場と先に労働契約を締結後、B事業場と新たに労働契約を締結し副業している A事業場の所定労働時間:1日8H B事業場の所定労働時間:1日2H →先に労働契約しているA事業場は、法定労働時間内のため割増賃金の支払はありません。B事業場は、A事業場での労働時間が1日の法定労働時間に達しているため、B事業場で 働く時間はすべて法定外労働時間となります。 B事業場で働く2時間は割増賃金の支払が必要です。 労働契約を締結した先後の順番で通算するため、以下の図のように1日の中での労働時間の順番が前後しても割増賃金の支払は、後に労働契約をしたB事業場となります。 例2)A事業場と先に労働契約を締結後、B事業場と新たに労働契約を締結し副業しており、A事業場は所定労働時間を超え5時間働いた A事業場の所定労働時間:1日4H B事業場の所定労働時間:1日4H A事業場で行った時間外労働時間:1H →A事業場とB事業場で労働契約のとおり労働した場合、1日の労働時間は8時間なので 法定労働時間内の労働となります。 A事業場とB事業場の所定労働時間を通算して8時間に達しているため、いずれの事業場も 所定労働時間を超えて働いた時間は、すべて法定外労働時間となります。 A事業場で行った時間外労働時間は、割増賃金の支払が必要です。 2 簡便な労働時間管理の方法(管理モデル) 原則的な労働時間管理は、従業員にとっては毎月複数の事業場へ労働時間の申告、 事業場にとっては労働契約や毎月の労働時間の通算管理が必要となり、双方にとって負担となります。 厚生労働省は副業・兼業の促進に関するガイドラインで、簡便的な労働時間管理として 「管理モデル」という考え方を示しています。 管理モデルは、副業・兼業の開始前にあらかじめ「自社の法定外労働時間の上限」と 「副業・兼業先の所定労働時間・時間外労働時間の上限」を設定し、その範囲内で 働くことで、自社以外の労働時間を把握しなくても法令等違反にならない仕組みです。 労働時間の上限は、自社と副業・兼業先の合計が 単月100時間未満、複数月平均80時間を超えない範囲で設定します。 管理モデルは、従業員と副業・兼業先に導入を求め、応じてもらう必要があります。 導入後のトラブル防止のため、管理モデル実施のための書面を自社、副業・兼業先、従業員の三者間で共有することをおすすめします。 ※割増賃金の支払義務の考え方が、原則的な労働時間管理の通算のステップとは異なるため 注意ください。 ステップ1 先に労働契約を締結した事業場の所定労働時間と時間外(所定外・法定外) 労働時間の上限を通算する ステップ2 ステップ1で通算した労働時間に、後に労働契約を締結した事業場の 所定労働時間と時間外労働時間の上限を通算する 例1)A事業場と先に労働契約を締結後、B事業場と新たに労働契約を締結し副業している A事業場の所定労働時間:月曜日から金曜日まで1日8H A事業場の法定外労働時間の上限の設定:1月20H B事業場の所定労働時間:1月20H B事業場の時間外労働時間の上限の設定:1月5H →A事業所の法定外労働時間の上限とB事業所の所定労働時間・時間外労働時間の上限の 合計が、単月100時間未満、複数月平均80時間を超えない範囲で設定されているので管理モデルの適用ができ、副業先の労働時間管理の把握は不要です。 割増賃金は、管理モデルの通算ステップに従います。A事業場は、すでに所定労働時間が 1週の法定労働時間に達しているため、所定労働時間を超えて働く時間はすべて 法定外労働時間となります。 B事業場も、A事業場の所定労働時間と法定外労働時間の上限の通算が1週の法定労働時間に達しているため、B事業場で働く時間はすべて法定外労働時間となります。 副業・兼業をする従業員の健康管理 企業は、従業員が健康に働けるように健康状況を把握し、健康管理に努める必要があります。そのため法令等により、健康診断やストレスチェックの実施が義務付けられています。 実施義務は、従業員の所定労働時間を基準に判断しますが、副業・兼業先の労働時間は 通算せず判断します。 副業・兼業をする従業員が、自社と副業・兼業先の労働時間を通算し対象となる労働時間となっていても、健康診断やストレスチェックの実施義務はありません。 しかし、副業・兼業をする従業員は、長時間労働になる可能性が高いため、働きすぎと ならないように、労使の話合いをもとに健康確保のための措置の実施をおすすめします。 また、中高年齢者にあたる45歳以上は、加齢に伴う心身機能の変化と無理な行動により 労働災害の発生リスクも高まります。 法令等でも中高年齢者の労災防止の就業上の配慮が求められています。 副業・兼業を条件付きで認めるときに、直近の健康診断の結果が業務遂行に問題がないことなどの基準を設けることもおすすめします。 【健康確保のための措置 例】 ・健康保持のための自己管理を行うように指示する ・自らの健康状態の報告を義務とする ・メンタルヘルスや健康相談できる相談窓口を設置する ・時間外・休日労働の免除、制限を行う など まとめ 多様な働き方を選択したり、パートタイマーとして複数の企業で働くなど副業・兼業をする方が増えてきています。 2020年9月には、複数の企業で働く労働者が安心して働ける環境整備として、労災保険給付の改正もありました。労災保険給付の基礎賃金をすべての就業先の賃金を合算するという内容です。また、1つの企業で労災認定できない場合は、複数の企業の業務上の負荷など総合的に評価して労災認定する仕組みもできました。 2022年1月には、複数の企業で勤務する65歳以上の労働者が、2つの企業での労働時間を合計して雇用保険の要件を満たすとき、労働者の希望により雇用保険の被保険者になれる雇用保険マルチジョブホルダー制度が新設されました。制度の試行実施状況の把握・検証を行い、さまざまな年齢層のマルチジョブホルダーの雇用保険の適用が検討されます。 今後も、副業・兼業の普及促進のため新たな実効性のある政策の検討が進みます。 今回の記事を参考に、副業・兼業を検討するときに適切な雇用管理にお役立てください。

  • 2023年度の健康経営優良法人の認定受付は10月で終了です。

    「健康経営優良法人」は、経済産業省が2016年度から実施している認定制度です。 この制度は「健康経営」に取り組む優良な法人の「見える化」を行い、求職者、従業員や 関連企業、金融期間などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として認知・評価される環境整備を目標としています。 大企業、中小企業で要件が異なり、認定を受けるためには申請が必要で、今年度の締め切りは2022年10月21日(大企業は2022年10月14日)となっています。 この記事では中小企業対象の「健康経営優良法人」の内容を記載しています。 健康経営の必要性 健康経営とは、「健康管理」と「経営」を統合させ企業に必要な従業員等の健康管理を 経営的な視点から戦略的に実践することをいいます。 健康経営の取り組みにより、従業員の健康維持・増進、生産性向上や業績アップ、 組織の活性化などの効果が期待されます。 (出典)経済産業省『必須の企業戦略としての「健康経営」』 健康経営優良法人の最近の状況 健康経営優良法人の認定申請は年々増加しており、健康経営の推進に向け社内で明文化を している企業は増えています。また、健康経営の普及を進めるため、独自の取り組みを行う自治体(商工会議所、市区町村など)もあります。 【健康優良法人(中小規模法人部門)申請・認定状況】 (出典)経済産業省『健康経営の推進について』P18 健康経営優良法人は業種を問わず認定されており、建設業、製造業、運輸業が上位を占めています。 都道府県別では、大阪府、愛知県、東京都の順に多く、鳥取県、徳島県、茨城県、和歌山県は前年度と比較すると2倍以上に増加しています。 健康経営優良法人の顕彰制度、優遇制度とは 健康経営優良法人に認定されると顕彰制度や優遇制度があり、都道府県や自治体によって 内容は異なります。 内容はさまざまで、企業だけではなく、認定を受けた企業に勤務する従業員が優遇制度 (個人ローンの金利優遇など)を受けられることもあり、法人には以下のような顕彰制度や優遇制度があります。 詳細は、各自治体や顕彰制度・優遇制度の実施機関へお問い合わせください。 【顕彰制度・優遇制度】 ・金融機関からの支援(融資) ・公共調達加点評価(入札参加資格) ・融資利率割引 ・取組に対する表彰 ・取組に対する相談・支援  など 企業のメリット・デメリット 健康経営優良法人の認定を取得したときのメリット・デメリットを以下にまとめています。 【メリット】 ・健康経営優良法人の認定マークの使用 ・ハローワークの求人に認定マークが掲載 ・企業のブランドイメージの向上 ・顕彰制度、地域のインセンティブ措置を利用 ・離職率が低下 ・社内コミュニケーション活性化 ・モチベーションの向上 ・従業員の健康意識が向上 ・従業員の疾患リスク低下 など 【デメリット】 ・認定申請がインターネット(郵送など不可) ・認定申請の書類作成などに時間が必要 ・効果が見えにくい ・健康データなどの収集・管理に時間が必要 ・認定申請料がかかる など 健康経営優良法人の認定基準とは 健康経営優良法人認定の申請ができるのは「法人(法人番号が付与あり)」のみとなる ため、個人事業主は申請ができません。 認定基準は「経営理念」「組織体制」「制度・施行実行」「評価・改善」「法令遵守・リスクマネジメント」の5つの大項目に分類されており、大企業も中小企業も同じですが 中項目以降は異なります。 また、健康経営を実施した結果を元に申請を行うため、今年の申請は来年度(2023年度)の認定分になります。 (出典)経済産業省サイト『健康経営優良法人2023(中小規模法人部門)認定要件』 ※ブライト500とは「健康経営優良認定制度」における中小企業のうち上位500の企業です。 健康経営優良法人認定の流れ 健康経営優良法人認定の申請を進めるにあたり、加入している健康保険(協会けんぽ、健康保険組合など)に「健康宣言」を行なわなければなりません。 健康宣言とは、企業の健康経営の方針に基づき、従業員の健康づくりへの取組などを社内、社外に宣言することです。 健康宣言については、加入している健康保険へお問合せください。 認定は更新制となっており、健康経営優良法人認定の継続には毎年申請が必要です。 また、申請には1件あたり15,000円(税抜き)の「認定申請料」がかかります。 11月上旬にメールと郵送で請求書が届き、12月9日までに振込みが必要です。 申請期限:2022年10月21日(金)17時(大企業は2022年10月14日(金)17時まで) 申請方法:「ACTION!健康経営」サイトから申請(郵送不可) ※IDの発行が必要になります。サイト内の「新規ID発行サイト」かお手続きを行ってください。 ID、申請先のURLなどがメールで届きます。 参考|「ACTION!健康経営」サイト 【健康経営優良法人の認定申請の流れ (出典)経済産業省サイト『健康経営優良法人の申請について』 まとめ 健康経営を実践している企業はまだまだ少なく、取り組みには時間やコストがかかります。しかし、健康経営への取組みは、従業員の健康改善や維持だけではなく、企業が従業員を 大切にしてることが伝わり、「安心」に繋がります。 従業員が安心して健康に働ける職場づくりのためにも、健康経営についての検討をおすすめします。

  • 2022年10月、産後パパ育休の申出に対応するために。

    産後パパ育休とは「出生時育児休業」の通称で、男性の育児休業の取得促進を目的として2022年10月1日より新設される制度です。(この記事では、産後パパ育休とします。) 産後パパ育休を取得できるのは法令等上「労働者」に限定されているため 役員は取得できません。 また、産後パパ育休は産後休業を取得した従業員は取得できないため 対象者は主に男性になりますが、養子縁組や里親制度など法律の要件を満たす場合は女性であっても対象となります。 今回の記事では、今後産後パパ育休の申し出があったときにスムーズに対応できるよう 企業内での準備やポイントを解説しています。 産後パパ育休制度に対応するために企業が準備すること 1 産後パパ育休を知る 産後パパ育休と育児休業は、休業の対象期間や取得できる日数、申出期限が異なります。 今回新設される産後パパ育休が、子どもが生まれてから8週間以内に最長4週間(28日間)まで休業を取得できる制度であるのに対し 育児休業は原則として1歳までの子どもを養育するために休業できる制度です。 2022年10月以降、産後パパ育休と育児休業どちらも2回まで分割して取得できます。 産後パパ育休はまとめて、育児休業は取得ごとに申出が必要です。 また、産後パパ育休の特徴として、労使協定を締結している場合に限り休業中に就業できます。 (出典)厚生労働省『育児・介護休業法 改正ポイントのご案内』 2 自社の対応を検討する 産後パパ育休には原則のルールがありますが、「申出期限」「休業中の就業」は労使協定を締結すると企業にあわせたルールにできます。 以下を参考に、自社ルールについて検討ください。 【申出期限】 産後パパ育休の申出期限は原則2週間前までとなっており 通常の育児休業(1か月前までに申出)よりも休業開始日の間際まで申出が可能となっています。 しかし、シフト調整や業務引継ぎなどが必要な企業では 休業開始日の間際の申出となると、人員調整が厳しいこともあるはずです。 そのようなときは、労使協定を締結すると申出期限を1か月前に延長できます。 【休業中の就業】 産後パパ育休は、原則、育児休業と同じく休業中の就業はできません。 ただし、産後パパ育休は主に男性の子育てと仕事の両立を目的とした制度です。 そのため労使協定を締結することで、休業中の就業が可能になります。 詳細は、記事後半の「産後パパ育休中に就業するときの具体的な手続き」でお伝えします。 3 就業規則を改定する 産後パパ育休の規程整備は、産後パパ育休の対象者がいるいないに限らず すべての企業で対応が必要です。 申出対象となる子には、養子縁組や里親制度も含まれており、従業員の年齢にかかわらず 育児休業の申出を行う可能性があります。 規程整備については、厚生労働省サイトのほか兵庫労働局が公開している 解説入り規程がおすすめです。 参考|厚生労働省『育児・介護休業等に関する規則の規定例』 参考|兵庫労働局 改正育児・介護休業法特設ページ『育児・介護休業等に関する規則(解説入り全文)』 4 書式の変更をする 産後パパ育休を取得する項目について、書式の変更や追加が必要になります。 現在使用している書式をもとに、必要箇所の修正をしてください。 参考|厚生労働省『育児・介護休業等に関する規則の規定例 05社内様式例』 5 周知する 2022年4月より、子どもが生まれてくる従業員に対し、育児休業に関する個別周知と意向確認が義務になっています。 2022年10月からは、産後パパ育休も対象になります。 (出典)厚生労働省『育児・介護休業法 改正ポイントのご案内』 【2022年10月以降、個別周知に追加すること】 ・産後パパ育休、育児休業との違い ・産後パパ育休の企業への申出期限や申出方法 ・出生時育児休業給付金の受給要件 ・2022年10月以降、社会保険料の取扱いの変更 など 産後8週間「産後パパ育休」と「育児休業」どちらを取得するのか 「産後パパ育休」と「育児休業」は別制度です。 子どもが生まれてからの8週間については、対象となる従業員はどちらかの制度を 選んで休業を取得します。 8週以降は育児休業のみ取得できます。 産後パパ育休は新たな制度です。 育児休業との違いを従業員も理解できておらず、どちらを取得したらよいか 相談があるかもしれません。 企業は従業員の取得する制度を一方的に決められません。 制度内容や違いを説明し、本人にどちらかを決めて申出するように促してください。 参考までに、子どもが生まれてからの8週間について、産後パパ育休を取得すると「できること」をお伝えします。 【産後パパ育休を取得するとできること】 ・配偶者が休業していても取得できる ・産後パパ育休後に育児休業の取得ができ、最大4回分割して取得できる ・休業中に就業ができる(労使協定必要) ・産後パパ育休は原則2週間前に申出できる(労使協定締結により1か月前) 数週間単位など「産後パパ育休」「育児休業」を細かく分割して取得(最大4回取得)するか、 数か月〜子どもが1歳になるまで「育児休業」で長く取得するかという視点で考えると、 どちらか決めてもらいやすいです。 必要になる産後パパ育休の管理 産後パパ育休と育児休業のそれぞれの制度を正しく取得できるよう 出生時育児休業管理簿や育児休業管理簿の作成をおすすめします。 特に2022年10月以降、いずれの休業も2回までの分割取得が可能になり 育児休業期間中の社会保険料の免除要件が変更になるため、 産後パパ育休や育児休業の取得により要件を満たしているかを確認し、 手続きや給与計算に反映する必要があります。 育児休業期間中の社会保険料の免除要件についてです。 2022年9月30日までは、社会保険の対象月の末日が育児休業期間中であれば、その月の給与と賞与の社会保険料が免除になっていました。 しかし、2022年10月1日以降は、以下のとおり給与と賞与で社会保険料の免除要件が異なります。 【給与の社会保険料の免除要件】 いずれかの要件を満たすとき給与の社会保険料が免除になります。 ① 社会保険料の対象月となる末日が育児休業期間中であるとき ② 同一月内に育児休業を取得(開始・終了)し、その日数が14日以上のとき 【賞与の社会保険料の免除要件】 連続して1か月を超える育児休業を取得したとき、賞与の社会保険料が免除になります。 (出典)日本年金機構『令和4年10月から育児休業等期間中における社会保険料の免除要件が改正されます。』 産後パパ育休中に就業するときの具体的な手続き 産後パパ育休を取得する従業員が休業期間中に就業を可能とするには、就業できる従業員の範囲(全員、事務職など)を定め、労使協定を締結します。 労使協定締結後の具体的な手続きの流れは以下のとおりです。 (出典)厚生労働省『育児・介護休業法の改正について』P28 休業中の就業日数に上限があるのでご注意ください。 【休業中の就業日数の上限】 ・休業期間中の所定労働日の半分・所定労働時間の半分まで ・休業開始・終了予定日を就業日とするときは、その日の所定労働時間数未満まで また、産後パパ育休中に就業する従業員には、 出生時育児休業給付金や育児休業期間中の社会保険料の免除について 就業日数次第でその要件を満たさなくなる可能性があることを あわせて説明するよう留意してください。 産後パパ育休中の就業の詳細や労使協定例は、以下を参考にしてください。 参考|厚生労働省『育児・介護休業法 令和3年改正内容の解説』P17~20 まとめ 産後パパ育休は、男性の育児休業取得の促進を目的として作られた制度です。 2021年度では、女性育児休業取得率85.1%に対し、男性育児休業取得率は 13.97%に留まっていますが、今後、男性の育児休業の取得増加も予想されます。 ただ、企業内で男性育児休業の理解が進まないと、上司や同僚から 「男のくせに育児休業を取るなんてあり得ない」や「迷惑だ、自分なら取得しない」など 男性従業員へのハラスメントが起こる可能性があります。 産後パパ育休の申出や取得、産後パパ育休中の就業の申出・同意をしないことを理由に 不利益な取扱いは禁止されてます。 産後パパ育休や育児休業に関する研修や相談窓口の設置など実施し、男女とも従業員が安心して育児休業できる職場環境づくりをおすすめします。

  • 定期健康診断の実施と実施後の適正な対応について

    企業は、従業員が健康に働けるように 健康状況を把握し、 健康管理に努める必要があります。 そのため法令等により、 医師による健康診断の実施が労使双方に義務付けされています。 企業に実施が義務付けられている健康診断には、 「一般健康診断」と「特殊健康診断」があります。 一般健康診断は、 一般的な健康の確保を目的としており、 雇入れ時や雇入れ後定期的に行う健康診断と、 深夜業などの特定業務を行う方が対象です。 特殊健康診断は、 法令等で定める、 リスクの高い業務や有害な物質を取り扱う業務を行う方が対象となっています。 今回の記事では、一般健康診断のうち定期健康診断を中心にお伝えします。 定期健康診断とは、1年に1回、企業が義務として行う、従業員の健康診断のことです。 (出典)厚生労働省『労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう』 法令等で決まっている健診項目とは 定期健康診断の健診項目は、以下のとおりです。 (出典)厚生労働省『労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~』 ※2 自覚症状や既往歴等を勘案し医師が総合的に判断をした結果、 必要でないと認めるときは省略ができます。 健康診断の対象者 定期健康診断の対象者は、 常時使用する労働者で、 正社員、正社員以外(パート、アルバイトなど)にかかわらず、 以下のすべての要件をみたす従業員をいいます。 企業規模に関係なく、1人でも対象となる従業員がいるときは健康診断の実施が必要です。 【健康診断の対象者(常時使用する労働者)】 1 期間の定めのない雇用契約であること (有期契約労働者のときは1年以上の雇用見込みがあること) 2 所定労働時間が正社員の3/4以上であること 【「常時使用する労働者」の判断時期】 「常時使用する労働者」に該当するかどうかは、健康診断実施日において判断します。 企業が定期健康診断を実施する時期に育児休業中や 休職中の従業員がいるときは、 その従業員へは健康診断を受けさせなくても差し支えありません。 ただし、育児休業や休職から復職後、 速やかな健康診断の実施が必要です。 そのため、対象者の復職が近づいてきたら、 健康診断の日程についても検討することをおすすめします。 企業がおさえておくべき3つのポイント 定期健康診断を実施するにあたり、 企業がおさえておくべき3つのポイントをお伝えします。 【労働時間中の受診】 健康診断を受けている時間や、 休日に健康診断を受けたときの賃金を支払うかどうかは企業で決められます。 しかし、厚生労働省の文書によると、 従業員の健康確保は事業の円滑な運営に必要なものであり、 受診時間の賃金は企業が支払うことが望ましいと示されています。 健康診断を受けるように指示しても賃金を支払わないとした場合、 受けてもらえないことがあります。 健康診断は、対象者に該当すれば必ず受けるものです。 そのため、確実に健康診断を受けてもらうために就業時間中の受診を設定し、 賃金を支払っているケースが多いです。 また、企業が義務付けられている健康診断のうち「特殊健康診断」は、 業務遂行との関連が高い健康診断であるため、 所定労働時間内に行うことが原則となっており、 時間外に行われたときは、賃金の支払をする必要があります。 【健康診断の費用負担】 健康診断の費用は、全額、企業で負担しなければいけません。 ただし、健康増進等の目的で法令等で決まっている 健康診断の項目以外(がん検診など)を受けるときは、 その部分については企業は負担しなくてもかまいません。 【健康診断結果の取扱い】 健康診断の結果は、 労働者個人の心身の健康に関する健康情報を含む要配慮個人情報です。 企業は、健康診断の結果を従業員の健康確保に必要な範囲を超えて利用してはならず、 本人に対する不利益な取り扱いや差別に繋がらないように慎重な取扱いが必要です。 法令等で決まっている健康診断の項目以外(がん健診など)の健診結果は、 従業員の同意がないときは健診結果を収集・利用することはできません。 医療機関によっては、 法令等で決まっている健診項目とそれ以外の項目を一覧にして企業に送られてくることがあります。 あらかじめ本人に健診結果の利用目的や取扱方法について説明をし、 同意を得る必要があります。 そのため、健康診断結果の適正な保管など取扱いについての ルールを明確にしておくことをおすすめします。 参考|厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規定を策定するための手引き』 健康診断を実施しなかったときの企業リスク 健康診断の未実施や、従業員に健康診断の結果を通知しない、 健康診断の結果を保管していないときは、 それぞれ50万円以下の罰金が課される可能性があります。 また、企業の健康診断の未実施や、 実施後の措置を怠った結果で労働災害が発生したり、 従業員の疾病を悪化させたときは、企業は安全配慮義務違反を問われる可能性もあります。 健康診断を拒否する従業員がいたときは 従業員は健康診断の受診を拒否することはできません。 新型コロナウイルス感染症への感染の懸念から、 健康診断の受診を拒否したいと申し出る従業員が出ることも考えられます。 健康診断を実施する機関は換気や消毒などの感染防止対策に務めていること、 従業員自身の健康管理・健康保持などに必要であるなど、 健康診断の趣旨を説明し受診を促してください。 それでも健康診断の受診を拒否するときは、 拒否理由などを書面(任意書式)で提出してもらってください。 就業規則に健康診断の受診がないときは懲戒処分するなどのルールがあれば、 就業規則に沿って処分できます。 健康診断実施後の措置とは 健康診断実施後の企業の対応は以下のとおりです。 1 健康診断結果に基づく健康診断個人票の作成、保存 健康診断個人票とは、健康診断結果を個人ごとに記録した書類です。 法令等では、企業には健康診断個人票の作成義務があり、 5年間の保存が求められています。 医療機関から受け取る企業保管用の健診結果によっては、 健康診断個人票の記載項目を満たしている様式になっており、 個人票とすることができます。 様式については、こちらよりダウンロードください。 参考・ダウンロード|厚生労働省『労働安全衛生規則関係様式』健康診断個人票 2 医師等の意見聴取と就業上の措置 健康診断の結果、異常の所見のあると診断された従業員については、 医師に就業に関する意見を聞く必要があります。 医師は、「通常勤務・就業制限・要休業」のいずれかの判断を行います。 「就業制限・要休業」とされた従業員に対しては、 実情を考慮し、必要な措置を講じなければなりません。 【健康を保持するために必要な措置の例】 ・就業場所や職務内容の変更 ・労働時間の短縮(時間外・休日労働の制限や禁止、就業時間の制限など) ・深夜業の回数の減少 など 健康診断結果に基づく医師の意見聴取は、 従業員の健康状態と作業内容などを把握している産業医に意見を聞くことが適当です。 産業医の選任義務のない従業員数50人未満の企業では、 労働基準監督署の管轄ごとに設置されている地域産業保健センターで、 無料で医師の意見聴取を受けることができます。 (出典)厚生労働省 愛知労働局『労働安全衛生法の定める健康診断事後措置等のあらまし』 3 健康診断結果の通知 健康診断を受けた従業員に、健康診断の結果を渡します。 異常の所見の有無にかかわらず、必ず従業員へ渡さなければなりません。 健康診断の結果は要配慮個人情報になりますので、 渡し間違いがないよう注意してください。 4 医療機関の受診、保健指導、二次健康診断の勧奨 健康診断の結果、「異常の所見」があると診断されることがあります。 異常の所見とは、 医師から「要医療等」「要再検査、精密検査」などの判定をされることです。 健康診断結果をみて、異常の所見があるときは、 医療機関の受診や保健指導をすすめてください。 また、健康診断の結果、 脳・心臓疾患に関連する次の4項目すべてにおいて異常の所見があるときは、 脳・心臓疾患の状態を把握するために必要な 二次健康診断や保健指導を受けることができます。 4項目のうち、異常なしと診断された場合でも、産業医等の意見により対象となることがあります。 ①血圧検査 ②血中脂質検査 ➂血糖検査 ④腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定 労災保険の「二次健康診断等給付」の提出をすることで、 企業や本人の費用負担は発生しません。 二次健康診断の健診は義務ではありませんが、 脳・心臓疾患の予備軍になっている可能性がありますので、 二次健康診断の対象になっている従業員がいるときは健診をすすめてください。 二次健康診断の詳細については、厚生労働省の以下のパンフレットをご覧ください。 参考|厚生労働省『二次健康診断等給付の請求手続』 健康診断結果に基づく保健指導は、 受診した病院の医師や産業医のほか、 産業医の選任義務のない従業員数50人未満の企業については、 地域産業保健センターを活用できます。 5 管轄の労働基準監督署長への報告(従業員数50人以上の企業のみ) 従業員数50人以上の企業は、定期健康診断を実施したあと、 管轄の労働基準監督署へ定期健康診断結果報告書を届出する必要があります。 届出様式:定期健康診断結果報告書 添付書類:なし 届出先:管轄の労働基準監督署 届出方法:郵送または持参 参考・ダウンロード|厚生労働省『定期健康診断結果報告書』 まとめ 従業員の健康管理や、健康保持増進の取組みは、 従業員の活力向上や生産性向上など、組織の活性化を実現します。 厚生労働省では、毎年9月を「職場の健康診断実施強化月間」としています。 新型コロナウイルス感染症の影響等により健康診断実施機関の予約が取れないなど、 法令等で定められている期日までに健康診断実施が困難なこともあります。 健康診断を確実に実施できるよう、実施計画を立てることもおすすめです。

  • 2022年度、最低賃金は過去最高の引き上げとなる予定です。

    最低賃金には、都道府県ごとの物価等に合わせて定められる「地域別最低賃金」と、特定の産業で定められる「特定最低賃金」の2種類があります。 今回の記事は、毎年改定が行われている地域別最低賃金についてです。 先日、2022年度の地域別最低賃金の引上げ額が、地域によって30円~33円になる予定であると発表されました。 正式な公示はまだ先ですが、改定日については10月1日から10月中旬の間に順次発表される予定です。 その他、47都道府県の地域別最低賃金の答申状況は以下をご確認ください。 参考|厚生労働省『令和4年度 地域別最低賃金 答申状況 』 2022年度の全国加重平均額は31円で、過去最高の引き上げ額となり、大変注目が集まっています。 全国加重平均額とは、都道府県ごとの労働者数×地域最低賃金で計算した、全国の合計を総労働者数で割った額です。 ◆最低賃金とは 最低賃金とは、法令で定められている、労働に対して支払わなければならない1時間あたりの最低限度の賃金をいいます。 企業は、正社員、パート、アルバイトなどの雇用形態に関係なく、すべての従業員に最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。 最低賃金を下回る賃金を支払っていたときは、50万円以下の罰金が課せられることもあります。 ◆最低賃金に含まれる賃金とは 月給制や月額手当があるときは、1時間あたりの賃金を計算し、最低賃金を上回っているかを確認する必要があります。 最低賃金の計算に含まれる賃金は、従業員に毎月決まって支払われる基本給や各種手当です。 ただし、以下の賃金は最低賃金の計算から除外されます。最低賃金と残業代とでは含める賃金が異なりますのでご注意ください。 【最低賃金から除外される賃金】 ①慶弔手当など臨時的に支払われるもの②賞与 ➂残業手当(固定残業代)、休日手当、深夜手当 ④精皆勤手当 ⑤通勤手当 ⑥家族手当 1時間あたりの賃金計算は、残業代の計算にも使用しますが、残業代の賃金計算のときは、④を含めます。 また、④~⑥の賃金について、従業員に一律で支給しているときは最低賃金と残業代いずれの賃金にも含めます。 (例) ・遅刻、早退、欠勤などがあっても精皆勤手当を満額支給(減額なし)している ・扶養家族がいる、いないにかかわらず家族手当を支給している など ◆最低賃金で企業がおさえておく3つのポイント 1 最低賃金の発行(改定)年月日をまたぐ勤務について 3交代勤務制などでは、夜勤シフトの従業員が最低賃金の改定日をまたいで勤務することがあります。 最低賃金は、都道府県ごとの発行(改定)年月日以降に勤務する給与から適用します。 そのため、最低賃金の改定日をまたいで勤務をしたときは、0時より新しい最低賃金の適用となるように給与を計算してください。 (例)勤務日:9月30日 勤務時間:21:00 ~ 翌朝5:00 最低賃金改定日:10月1日 改定前の最低賃金を適用する時間:21:00 ~ 0:00 改定後の最低賃金を適用する時間:0:00 ~ 5:00 2 遠方で自宅テレワークする従業員の最低賃金について インターネットの普及や新型コロナウイルス感染症の影響により、企業の所在地から離れた自宅でテレワーク勤務している従業員もいます。 最低賃金の適用は事業場の場所によって決まりますが、事業を行う独立性を有する一つの事業場と認められないときは、所属する事業場の所在地を対象と考えます。 そのため、自宅でテレワーク勤務を行う従業員に適用する最低賃金は、テレワークを行う場所がどこかにかかわらず、テレワーク勤務を行う従業員の所属する事業場の所在地がある都道府県になります。 (例)企業の所在地:大阪府 テレワーク勤務者の自宅:沖縄県 最低賃金の適用:大阪府の最低賃金 3 毎月、所定労働時間が変動する場合の月給者の最低賃金の計算方法について 暦日数の関係やシフト制、変形労働時間制を適用している場合など、1か月の所定労働時間が変動することがあります。 月給者の最低賃金は、1年間における1か月の平均所定労働時間を使い計算してください。 また、1か月の平均所定労働時間に少数点以下の端数がでたときは、端数の切り上げ・切り捨てを行わず、計算の結果算出された時間を使って最低賃金を計算します。 ◆最低賃金の減額の特例許可制度とは 最低賃金には、特定の従業員について最低賃金を下回る賃金を支払うことができる減額の特例許可制度が定められています。 申請先は、管轄の労働基準監督署です。 減額できる対象者は以下になります。 ・精神または身体の障害により著しく労働能力が低い者 ・試の使用期間中の者 ・基礎的な技能および知識を習得させるための職業訓練を受ける者 ・軽易な業務に従事する者 ・断続的労働に従事する者 いずれも一定の条件を満たす必要があります。また、許可は、対象となる従業員の労働条件を特定してから行いますが、最低賃金をどこまで減額ができるかは、それぞれ異なります。以下のサイトに対象ごとのリーフレットがありますので参考にしてください。 参考・ダウンロード|厚生労働省『最低賃金の減額の特例許可申請書様式・記入要領』 減額を検討するときは、事前に管轄の労働基準監督署へご相談ください。 ◆業務改善助成金(通常コース)の活用 事業場内の賃金の引き上げに伴い、生産性の向上の効果が認められる設備などを導入したときに経費の一部が助成されます。 賃金の引き上げによって助成率が異なり、30万円〜最大600万円支給されます。 (出典)厚生労働省『令和4年度 業務改善助成金(通常コース)のご案内』 ◆業務改善助成金(通常コース)の対象と流れ 業務改正助成金は事業場ごとに申請をします。 事業場とは企業全体ではなく、本社、支社、店舗など一定の範囲で業務を独立して行っている場所です。 業務改善助成金の対象や申請の流れは以下の通りです。 【対象事業場】 対象となる事業場は以下のすべてを満たす必要があります。 ・地域別最低賃金と事業場内最低賃金の差が30円以下 ・申請時点での事業場規模が100人以下 ・以下の表のいずれかに該当する中小企業 (出典)厚生労働省『申請マニュアル』P3 【対象となる経費】 生産性や労働能率向上の効果が認められる以下の設備などです。 (出典)厚生労働省『申請マニュアル』P6 【賃金引上げの対象労働者】 入社から3か月経過している従業員 【申請期限など】 業務改善助成金は、交付申請(計画書)以外にも報告などが必要です。 (出典)厚生労働省『令和4年度 業務改善助成金(通常コース)のご案内』 1 交付申請(計画書の提出) 2023年1月31日 どのような設備を導入するのか、どの従業員にいくら賃金を引き上げるかなど、期間を決めて計画書を提出します。 ※申請期限内に予算がなくなったときは、申請を早めに打ち切られることがあります。 ※設備などを導入する1か月前までには提出をしてください。 2 事業実施報告(計画書の報告) 以下のいずれか早い方です。 a. 計画完了後1か月以内 b. 2023年4月10日 ※1の交付申請時に届出した計画の完了後1か月以内になります。 3 支払請求書 事業実施報告書を提出後、労働局で審査を行い助成額を確定します。 その後、企業へ交付額確定通知書が届きます。 受け取り後は速やかに支払請求書を労働局へ提出します。 提出後、労働局より助成金が支給されます。 【業務改善助成金の届出・相談先】 業務改善助成金は、就業規則の変更も必要になります。 導入する設備などが対象になるかどうかも含め、申請を検討されるときや助成金に関する不明点があるときは、業務改善助成金コールセンターへお問合せください。 (出典)厚生労働省『令和4年度 業務改善助成金(通常コース)のご案内』 業務改善助成金の申請先は、各都道府県労働局の雇用環境・均等室です。 (出典)厚生労働省『申請マニュアル』P9 ◆まとめ 最低賃金の引き上げにより賃金が上がると、労働保険料(労災保険、雇用保険)、社会保険料(健康保険、厚生年金保険)の負担も増えます。 どのくらい負担が増えるのか早めに確認をして、対策を検討してください。 また毎年、労働基準関係法令違反での送検や、企業名の公表が行われています。 公表されている中には「賃金が最低賃金以上の金額で支払われておらず行政指導に応じない」などの事案もあります。 今回の記事を参考に、最低賃金が適正に支払われるようにご対応ください。

  • 障がい者雇用が増えている今、企業が対応すべきこと。

    厚生労働省では、毎年「障害者雇用状況」の集計を行っています。 障害者雇用はすべての企業規模で増加しています。法令等では従業員数に応じて一定数の障害者雇用を義務づけしていますが、2021年6月1日時点で企業の達成割合は47%です。 障害者雇用の増加により、2021年度にハローワークに寄せられた合理的配慮の提供に関する相談件数は増加(前年度比:6.8%増)していますが、障害者差別に関する相談は減少(前年度比:20.3%減)しています。 ◆企業を取り巻く障害者雇用の環境 従業員が一定数以上いる企業は、法令等で定められた従業員数に占める障害者の割合(法定雇用率)以上の雇用義務があります。 障害者を募集・採用するときや雇用時にはルールを守り、障害を理由に他の従業員との「差別」が行われないようにしなければなりません。 【募集・採用について】 募集・採用時には、障害を理由に求人への応募を認めない、業務上必要でない条件をつけて障害者に応募機会を与えないなどの差別的な行為は禁止されています。 障害がある、ないにかかわらず、募集・採用では均等な機会を与えなければいけません。 障害を理由に応募を断ったり、採用基準を満たしている中から障害がない人を優先的に採用を行うことなども、均等な機会を与えているとはいえず、障害について差別的な取り扱いをしていることになります。 【採用後について】 障害を理由に、業務上必要な能力を適正に判断せず、賃金、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用などの待遇で他の従業員と異なる差別的取扱いをすることは禁止されています。 採用後に差別と考えられる事例は以下になります。 ・障害を理由に賞与を支給しない ・障害を理由に昇格をさせない ・業務遂行能力等に沿って判断せず、障害を理由に障害者のみ配置転換を実施 ・業務遂行能力等にかかわらず障害を理由に雇用形態の変更(正社員から契約社員など) ・障害を理由に労働契約の更新をしない ・昇給にあたり障害者のみ試験を実施 など 業務を行う上での必要な能力や知識、技術などを適切に判断しなければいけません。 【法定雇用率】 2021年3月1日以降、民間企業の法定雇用率は2.3%です。従業員数43.5人以上雇用している企業は障害者を1人以上雇用しなければなりません。 法令等で定められた法定雇用率に含まれる障害者は、身体障害者、知的障害者、精神障害者です。他の障害者については法定雇用率に含められません。 業種によっては障害者雇用が難しいケースもあるため、一定の業種(建設、運送業、医療業など)には法令等で除外率が定められています。 従業員数が100人を超える企業が法定雇用率を満たさないときは納付金(障害者雇用納付金)の支払いが発生します。 逆に法定雇用率を超えているときは超えている人数に応じて給付金(障害者雇用調整金)が支給されます。給付金は申請が必要です。 詳細については以下を参考にしてください。 参考|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構『事業主の皆様へ 令和4年度版ご案内』 ◆障害の特性は様々 【法定雇用率】 障害の特性は様々で、先天性だけではなく後天的に障害者になることもあります。 脳梗塞などが原因の運動障害や高次脳機能障害や、腎臓、膀胱、直腸などの内臓器官の機能が通常のように働かない内部障害、緑内障による視覚障害などがあります。 どのような障害があるのかは、見た目ではわからないこともあります。 また障害の特性や等級などが同じでも、個人ごとの状況は異なります。 そのため企業は、採用や募集、採用後に必要な措置(合理的配慮)を講じなければなりません。 【合理的配慮とは】 募集や採用時に、障害者とそうでない人との均等な機会を保つための措置です。採用後、業務を行う上で支障になっている事情を確認し、支障を取り除いて能力を発揮してもらえる措置が必要です。措置は特性に応じて話合いで決めますが、企業に過重な負担(費用面や、施設の状況上設置が難しい設備など)がない範囲で実施をします。 (募集・採用時の措置例) ・労働条件を読み上げる ・質疑応答時間を長くする ・入社試験の時間を長くする ・面接試験の場所がわかるよう入口に目立つ物を置く など (採用後の措置例) ・時差出勤を認める ・社内レイアウトの変更 ・危険箇所が目立つようにシールを貼る ・柔軟な休憩・休暇の取得 など 障害者の雇用や、設備の購入などは、助成金の対象になることがあります。 雇入れや継続雇用を目的とする助成金の窓口は、都道府県労働局やハローワークです。設備や障害者支援を目的とする助成金の窓口は、独立行政法人 高齢・障害・求職者支援機構となり、異なるので注意が必要です。 ◆障害者雇用を進める上で行うこと 障害者雇用を進めるためには、準備が必要です。 障害者雇用についての相談や課題の分析などは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の地域障害者センター(各都道府県にあります)で行われています。 (相談例) ・障害の特性の理解 ・個人情報の保護 ・社内研修 ・担当者の選定 ・相談窓口の設置 ・就業規則の整備(賃金体系含む) など 相談先は、以下になります。 参考|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構『地域障害者職業センタ―』 ◆合理的配慮に必要な設備など助成金があります 障害者の雇用や、設備の購入などは、助成金の対象になることがあります。 雇入れや継続雇用を目的とする助成金の窓口は、都道府県労働局やハローワークです。 設備や障害者支援を目的とする助成金の窓口は、独立行政法人 高齢・障害・求職者支援機構となり、異なるので注意が必要です。 障害者雇用でよく使われているのは以下の助成金です。 【特定求職困難者雇用開発助成金】 原則ハローワーク経由で障害者を雇用したときに対象になる助成金です。6か月ごとに申請を行います。申請書類はハローワークから企業へ郵送で届きます。 受給額は80万円(30万円)〜240万円(100万円)※です。 ※( )は中小企業以外の企業に対する受給額です。 合理的配慮やバリアフリーのための設備の導入などに使える助成金は以下になります。内容に応じて細かく分かれており、表記以外の助成金もありますので、検討されるときは助成金窓口へご相談ください。 参考|厚生労働省サイト『事業主の方のための雇用関係助成金』 助成金は細かな要件がありますので、進めるときは助成金窓口へご相談ください。 (雇用に関する助成金窓口) 参考|雇用関係各種給付金申請等受付窓口一覧 (設備等に関する助成金窓口) 参考|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 都道府県支部 ◆最低賃金の減額申請ができます 最低賃金は原則雇用形態(正社員、パートなど)にかかわらず事業場で働くすべての従業員に適用されますが、障害が業務遂行に直接支障を与えるときなどは、最低賃金の減額申請(特例許可申請)が認められることがあります。ただし支障が軽度のときなどは認められません。 手続きは所定様式(精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者の最低賃金の減額の特例許可申請書(様式第1号))に必要事項を記載の上、管轄の労働基準監督署へ提出をしてください。 詳細については、管轄の労働基準監督署または社会保険労務士へご相談ください。 参考|厚生労働省『最低賃金の減額の特例許可申請書様式・記入要領』 ◆まとめ 合理的配慮は障害者の方が能力を発揮するための対策に見えますが、他の従業員の働きやすさにつながったり、負担が軽減されるなど、副次的なメリットが生まれるケースもあります。 障害をひとつの個性とみなせば、少しの配慮やサポートで能力を発揮してもらえ、継続勤務も可能になります。少しの配慮やサポートは、お互いを助け合える職場環境づくりにおいても大切なことです。 採用を検討されるときは、ハローワークに専門の窓口がありますのでご相談ください。

  • 新卒採用と、採用内定後に求められる企業対応。

    新卒採用のメリットは若手労働力の確保だけではありません。 地域特性を活かし、企業の魅力を伝える採用活動を行えば、企業文化の継承や組織活性化をはかることも可能です。 専門性を重視する業種では、高等専門学校生や専門学校生など、実践的分野に特化した学生を率先して採用する企業もあります。 今回は、新卒採用の募集・採用・内定後の対応を行ううえで、企業が求められる措置やポイントについてお伝えします。 ◆新規採用時の募集から入社までの流れ 新卒採用では、求める人物像や採用人数などの新卒採用計画から始まります。 その後、求人票での募集、学生の応募、採用選考、内定者を決定、入社手続き、というステップが一般的です。 おおまかな流れを整理しました。 【検討する】新卒採用計画をもとに求人票を作成 【募集する】ハローワークや採用サイトでの求人票公開、企業説明会の実施 【選考する】面接などの採用選考 【内定する】応募者の中から内定者の確定、通知、承諾 【準備する】入社までの手続きのやりとり、入社前研修などの実施 【入社する】入社 【募集する】について、大学等(大学、短大、高等専門学校、専修学校等)では3月頃から採用サイト運用や企業説明会の実施が始まり、高校生については6月からハローワークでの求人票受付が開始されます。 新卒採用を検討される場合は、2月頃から次年度の採用計画を立てることをおすすめします 。 また、高校生の採用には独自のルールがあります。 たとえば求人票はハローワークでの受付が必要で、選考開始から一定期間は、1人1社制の応募・推薦となっています。求人票は、通常の様式と異なり「求人申込書(高卒)」を使います。 参考・ダウンロード|厚生労働省 高卒就職情報WEB提供サービス『求人申込書(高卒)』 参考・ダウンロード|厚生労働省 高卒就職情報WEB提供サービス『求人申込書(高卒)の書き方のポイント』 ◆募集・選考で企業に求められる措置 1 募集時の労働条件明示と取得する個人情報の取扱い 企業は、学生が適切に職業選択を行い、安定的に働くことができるように、労働条件などを文書で明示しなければなりません。 業務内容などは平易な言葉で的確に表示するほか、虚偽や誇大な内容になっていないか注意が必要です。 また、法令等では、応募者からの個人情報の収集・保管・使用については、募集業務等の目的達成に必要な範囲内で行わなければならないと決まっています。 (出典)厚生労働省『公正採用選考啓発リーフレット』 最近は、応募はエントリーシートで入力するなど応募書類のデジタル化も進んでいます。 いずれにしても、多くの個人情報が記載されているため、個人情報保護法も適用されます。採用者だけでなく、不採用者や応募辞退者から取得した個人情報についても、適正な取扱いを行ってください。 2 求められる公正な採用選考 公正な採用選考を行うことは、新卒採用にかぎったことではありません。ポイントは、応募について広く門戸を開き、家族状況や生活環境といった、応募者の適性・能力とは関係ない事柄で採否を決定しないということです。 (出典)厚生労働省『公正採用選考啓発リーフレット』 面接時に場を和ませるつもりで聞いた質問も、応募者の基本的人権を侵害する行為や職業差別となることもあるのでご注意ください。 3 採用活動前のインターンシップ 学生と社会での経験を結びつけるキャリア形成支援のひとつに、職場体験ができるインターンシップがあります。 採用活動前に職業への理解を深め、優秀な人材の発掘が行えることや、仕事内容や職場の雰囲気を感じてもらうというメリットから、積極的に実施している企業もあります。 (出典)厚生労働省『『働くこと』と『労働法』~大学・短大・高専・専門学校生等に教えるための手引き~』P82 直接生産活動に従事するなど、インターンシップ中の活動が企業の利益に繋がり、企業と学生との間に使用従事者関係が認められるときは、労働基準法などの法令が適用されます。 活動内容が労働に該当するかなど不明な点がある場合は、社会保険労務士やハローワークにご相談ください。 参考|厚生労働省『『働くこと』と『労働法』~大学・短大・高専・専門学校生等に教えるための手引き~』P91 4 採用活動やインターンシップ中のハラスメント行為 国は、採用活動やインターンシップ中の言動でハラスメントになる可能性のある行為について、企業や学生に注意を促しています。SNSへの書き込みによる炎上などが企業経営を脅かすこともありますので、採用活動中の学生への言動は気を付けてください。 参考|厚生労働省『就職活動やインターンシップ中のハラスメントに関するお悩みは都道府県労働局にぜひご相談ください!』 ◆内定とは 募集があれば、採用選考を進めて採否を行い、内定者を決定します。内定者が決定したら、応募者に対し内定を通知し承諾を得ます。 新卒採用においての内定とは、企業の採用に応募した労働者と企業が、卒業後に入社を約束する契約をすることです。これを解約権留保付きの労働契約といいます。 解約権留保付きの労働契約は、卒業できなかったり、内定以前に採用に関わる情報を知ることができなかったときなど、通常の解雇のように「合理的な理由かつ社会通念上相当」な事由がなければ解約できません。 解約権留保付きの労働契約を成立するために、企業は応募者に対し内定決定後、書面で労働条件を明示します 。また、応募時の労働条件に変更や削除があるときは、本人に説明し合意が必要です。応募者の内定承諾は口頭でも構いませんが、承諾の意思を明確にするために内定承諾書を書面で提出してもらいます。 以下のようなとき、内定から入社日までの期間、解約権留保付きの労働契約が成立していないとみなされることがあるため、ご注意ください。 【解約権留保付きの労働契約が成立していないとみなされる例】 ・入社後の労働条件を明示していない ・内定通知に対し、内定承諾の意思表示が明確に行われていない ・企業が入社に向けた手続きを行わず、応募者も入社の誓約をしていない など 参考|厚生労働省『採用内定時に労働契約が成立する場合の労働条件明示について』 学生にとっては、はじめての内定から入社までの手続きです。入社に対して不安を抱かせないためにも、企業がコミュニケーションを取りながら先導し必要書類を確実に回収してください。 【内定決定後に内定者へ通知・回収する書類】 (入社前に労働契約を成立するための書類) ・内定通知書 ・労働条件通知書 ・内定承諾書 など (内定承諾後に、入社準備として提出してもらう書類) ・雇用契約書 ・入社承諾書 ・身元保証書 ・住民票記載事項証明書 ・銀行口座申請書 ・マイナンバー ・健康診断書 ・卒業証明書(卒業見込証明書) ・必要に応じて免許や資格の証明書 など ◆採用内定後に取り消しはできるのか 採用内定者が入社日までに卒業できなかったり、内定を取り消すべき事由が判明したときは入社日前に労働契約を解消せざるを得ないケースがあります。 ただし、前述のように解約権留保付きの労働契約は「合理的な理由かつ社会通念上相当」な事由がなければ解約できません。 内定者が内定取り消しの無効を裁判で訴えたり、損害賠償請求などに発展すれば、企業のリスクにもなります。内定取り消しを検討するときは、以下を参考にしてください。 【内定取り消しするときは】 1 内定取り消しができるか、取り消し事由と内定通知書にて判断する 2 採用予定部署の変更や内定者研修の実施など、取り消しを回避できないか検討する 3 内定取り消しは、文書だけでなく極力直接伝え、納得してもらうように努力する 4 今後の内定取り消しを回避するために、採用試験や採用計画、解約事由を見直す また、内定承諾時点で、内定取り消し事由についても承諾を得ておきましょう。内定通知書や内定承諾書に、内定を取り消すべき事由について記載することをおすすめします。 【内定通知書・内定承諾書に記載する内定取消し事由の例】 ・採用の前提となる条件(卒業、免許の取得等)が達成されなかったとき ・入社日までに健康状態が採用内定時より低下し、職務に堪えられないと会社が判断したとき ・暴力団員や暴力団関係者その他の反社会的勢力と関わりがあることが判明したとき ・採用選考時の提出書類に偽りの記載、または面接時において事実と異なる経歴などを告知していたことが判明したとき ・採用内定後に犯罪や反社会的行為など信用を失う行為を行ったとき ・採用内定時には予想できなかった会社の経営環境の悪化、事業運営の見直しなどが行われたとき など ◆内定後、入社までに研修などへの参加はできるのか 内定後、スムーズに職場や業務に慣れてもらうために入社までの準備行為として、企業は内定者に対して、以下のような機会を設けることがあります。 ・施設見学 ・内定者前研修 ・入社前の食事会 など 入社までの準備行為のうち、会社の指揮命令・参加が強制される場合などは労働時間となり、賃金が発生するためご注意ください。業務に慣れてもらうために入社前にアルバイトとして働いてもらうときは、アルバイトとしての労働契約を締結する必要があります。 まとめ 今回は、新卒採用の募集から内定後の対応についてお伝えしました。 昨今、複数の内定をもらう学生が増えており、内定辞退をする学生もいます。内定辞退を防ぐために、企業は正しい募集・採用・内定後の対応を労働法に沿って行う必要があります。 また、内定を得てから入社までの学生期間に卒業旅行をする学生も多く見られます。 新型コロナウイルス感染症の影響を案じて、入社前の海外等への卒業旅行の自粛を求める企業もありますが、要請に応じないからといって内定取り消しや不利益な取扱いはできません。 自粛を要請するときは、感染に十分に注意してほしい旨を理解いただいた上で、卒業旅行の時期や場所を検討してもらうことをおすすめします。 新卒採用は、優秀な人材確保や企業のイメージアップだけでなく、社内の教育体制の見直しや働く環境の整備など、すべての従業員にメリットをもたらします。 現在、新卒採用をしていない企業も、今後の採用計画時には今回の記事を参考にして検討を進めてください。

  • 台風や豪雨など自然災害時の企業対応とは

    近年、全国各地で台風や豪雨などの自然災害が増えています。 被災地以外に事業場がある企業であっても、 自然災害で鉄道や道路等が途絶することなどにより、 原材料や製品等の流通に支障が生じ、業務に影響が出ることもあります。 また企業は、従業員が安全かつ健康に働くことができる 職場環境への配慮や対策をおこなう「安全配慮義務」を負っていますが、 台風や豪雨などの災害発生時についても同様です。 そのため、自然災害が起きたときに、 従業員の安全を第一に考え休業を指示するケースもあります。 そして災害直後に業務量が急増したり、 従業員本人が被災し給与面で相談を受けるケースなども想定しておくべきです。 今回の記事では、自然災害が起きたときに考えられる企業対応についてお伝えします。 ■自然災害が起きたときの出勤判断について 自然災害が起きたときの出勤では、 企業の判断で自宅待機や休業を命じるケースと、 本人の判断で出勤しないケースがあります。 地震など発生タイミングが予測できない自然災害もありますが、 台風や豪雨などはニュースなどの情報から 事前に自然災害の可能性を把握できることもあります。 そのため、事前もしくは災害直後に従業員へ企業方針を迅速に伝えるためにも、 災害時の出勤について決めておくことをおすすめします。 以下を参考にしてください。 1 企業の判断で休業をするとき 自然災害が起き、事業活動が行える状態で企業都合による休業を命じるときは、 従業員の安全確保のために取った措置だとしても、 従業員に対して平均賃金60%以上の休業手当の支払が必要です。 ただし、台風や豪雨により事業場の建物倒壊や器物破損など 施設や設備が直接的な被害を受け、 出社しても事業活動を行える状態でないときなどは、 天災事変等の不可抗力による休業となり、 企業都合の休業とは判断されず、休業手当の支払の必要はありません。 2 本人の判断で出勤しないとき 以下の例のように本人の判断で出勤しないときや 自然災害の影響により出勤できなかったときは、 休業手当の支払の必要はなく、欠勤扱いとなります。 このようなとき、本人に負担なく休む判断をしてもらうためにも、 有給休暇の取得を推奨する企業も多いです。 (例) ・通信回線の障害などにより、職場と連絡がとれず自主的に自宅にいることにした ・台風や大雨による浸水のため、職場まで行ける状態ではなかった など 自然災害は必ずしも、事業が行えないほどの影響があるとは限りません。 企業都合の休業や有給休暇取得の推奨以外の対応例についてもご紹介します。 【企業対応例】 ・災害休暇などの特別休暇を設ける ・振替休日として対応する(就業規則への記載が必要) ・時差出勤を活用をする ・テレワーク勤務を推奨する など ■従業員の安全確保や事業継続のため企業が検討しておくこと 自然災害が発生すると、通常業務が困難になります。 そのため、事前に自然災害の発生被害を想定して、 従業員の安全確保と、 速やかに事業を復旧させるための対応を検討しておくことをおすすめします。 【従業員の安全確保】 ・災害時の連絡方法(メール・SNS等)の従業員への周知 ・避難場所の把握と周知 ・事業場内の避難経路の確保 ・建物・社内設備の安全確認 ・非難訓練や必要品備蓄の見直し など 【企業の事業継続のための取組】 ・テレワークの導入 ・災害時の優先業務の選定 ・災害時の出勤者の選定 ・出勤が不可能になる可能性のある従業員の業務引継ぎ方法 ・電気、ガス、水道、通信など障害が起きた時の緊急対応 など ■自然災害後の業務量増加のときの時間外・休日労働 法令で定められている労働時間の限度時間は、 原則1日8時間、週40時間です。 企業が原則の限度時間を超えての労働や休日労働を従業員に命じるときには、 事前に届け出ている36協定で定めた 時間外・休日労働の範囲内で労働させることができます。 自然災害直後も、過重労働による健康障害を防止するため、36協定で定めた時間外・休日労働を遵守します。 しかし、例外として、企業や被災地域の被災による早期復旧のための対応や、 事業運営を不可能とさせるような施設・設備故障の修理やシステム障害復旧など、 緊急かつ臨時の必要があるときなどは、 労働基準監督署の許可を得て、時間外・休日労働の上限規制に関わらず、 必要な限度においての時間外・休日労働が認められるケースがあります。 緊急事態のため許可を受ける時間がないときには、事後の届出でもよいとされています。 例外の認定は、緊急性や必要性について個別かつ具体的に判断されます。 単なる業務の繁忙などは認められません。 災害その他避けることのできない事由に当たるかの判断については、 以下リーフレットを参考のうえ、管轄の労働基準監督署へ相談ください。 参考|厚生労働省『災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等について』 ■給与の非常時払いとは 従業員本人や従業員の家族が被災し、 住居の変更を余儀なくされる場合など、災害による急な出費が必要になることがあります。 給与は毎月一回以上、一定の期日を定めて支払いをします。 しかし、例外として、従業員が非常時の出費を必要とするときは、 給与の支払日前であってもすでに労働した分の給与を払うように法令等で定められています。 非常時のケースには、出産、疾病、結婚、長期帰郷、 そして「災害をうけたとき」があり、災害には、大雨や台風による自然災害も含まれます。 この給与の非常時払いは、 すでに行った労働に対しての給与の支払であって、 これから行う予定の労働分に対しての給与(前借り)に応じることを求めるものではありません。 ■まとめ 例年、台風は7月から10月にかけて最も多くなります。 自然災害の影響は、 全国各地、いつ、どこで起こるか分かりません。 災害時は誰しもが心理的な不安や焦りを感じます。 災害発生時に、企業の落ち着いた対応があれば、従業員も安心できるはずです。 今回の記事を参考に、災害時の企業対応について検討されることをおすすめします。

  • 労働基準監督署の調査対応について

    労働基準監督署は、労働基準法だけではなく、労働安全衛生法や最低賃金法、労災保険法など雇用にかかわる法律を担当し、調査や指導を行っています。 残業の未払いはないか、法律で定められた帳票類は正しく作成されているのか、健康診断は実施されているかなどを調査し、違反が発覚したときは企業に対して改善を行うよう是正勧告を行います。 今回は労働基準監督署の調査の1つ、定期監督について紹介します。 労働基準監督署の調査の種類 労働基準監督署の調査は4種類あり、実施後、必要に応じて企業へ改善等の是正勧告を行います。 改善等に応じず、重大・悪質な事案と判断されると司法処分(以下、送検)が行われます。 ①定期監督 年度ごとに重点課題や項目などを定めて行う調査です。 直接、企業に出向く立入調査や、資料を労働基準監督署に持参するよう求められる呼び出し調査などがあります。 ②申告監督 従業員から労働基準監督署へ、賃金の未払いや不当解雇などの申告があったときに行う調査です。 ③災害時監督 一定規模(死亡、身体障害者等級第7級以上など)の労働災害が起きたときに行う調査です。労働災害の原因や再発防止の指導を行います。 ④再監督 過去に是正勧告を受けたが労働基準監督署へ報告書を提出していない、是正勧告に従わないなど、企業の対応が悪質と判断されたときに行う調査です。 【2020年1月1日~12月31日までの各調査の実施件数】 (引用)厚生労働省『2020年労働基準監督年報』P9 調査の内容はどのように決められるのか 調査方針は年度ごとに厚生労働省が発表している「地方労働行政運営方針(以下、運営方針)」がもとになっています。 運営方針には、労働関係の重点課題や対策が記載されており、各都道府県労働局はそれらを元に雇用・失業の状況変化や多様な人材活用の促進、労災事故などを考慮し、調査の計画方針を定めます。 各労働基準監督署は、労働局の計画方針に基づき、管轄内の状況などを考慮し調査の計画を決めていきます。 2022年度に調査が入りやすい業界はどこか 運営方針では、全国的に取り組むべき重点課題のひとつである長時間労働の抑制の観点から「自動車運送業」「建設業」「情報サービス業」を勤務環境の改善対象にしています。 支援なども含め、重大な問題があると考えられるところから調査や指導が行われる可能性があります。 また、業種を問わず以下については重点課題とされています。 1 長時間労働の抑制および過重労働による健康障害防止 2 中小企業を中心とする法改正の周知および支援等 3 労働災害発生状況等に応じた労働災害の防止 労働基準監督署の是正勧告とは 労働基準監督署の調査後、法令違反があれば改善を行う「是正勧告」が書面で渡されます。 企業が是正勧告を受けたときは、改善内容を「是正報告書(任意書式)」にまとめ、労働基準監督署へ報告を行います。 是正勧告は行政指導にあたるため強制力はなく、労働基準監督署の指導に従うかどうかは企業が決められますが、従わないということは法令違反を放置している状態ということです。改善を促すための再調査の実施や、重大・悪質な事案については送検されることもあります。 司法処分(送検)されると企業名などが公表される 各都道府県労働局が、労働基準関係法令違反で公表した企業名や法令違反の内容などをまとめています。 また、送検を行った企業名、違反内容などはサイトで公表されることがあります。 公表されている中には、「36協定の延長時間を超える違法な残業」や「賃金が最低賃金以上の金額で支払われておらず行政指導に応じない」などの事案もあります。 企業名が公表されると今後の事業継続に影響が出る可能性もありますので、是正勧告を受けたときは速やかな改善をおすすめします。 (出典)厚生労働省『労働基準関係法令違反に係る公表事案』 労働基準監督署の調査時に準備するもの 労働基準監督署の定期調査は、事前に書面で企業に知らされます。 日時と当日の準備資料が指定されるので、それに沿って準備を行います。 まれに、書面の前に電話連絡があるケースや連絡なしで調査に来るケースもあります。 準備に時間がかかる、指定日時に予定があり対応ができないときは、早めに労働基準監督署に調査日時変更の相談をしてください。 当日の主な準備資料は以下になります。 ・労働者名簿 ・雇用契約書 ・出勤簿(タイムカード) ・賃金台帳 ・就業規則、諸規定 ・労使協定書(36協定など) ・年次有給休暇管理簿 ・健康診断の結果(健康診断個人票) など 「調査を拒みたい」という企業もありますが、拒めません。 調査を拒む、虚偽の陳述をする、虚偽の帳簿書類を提出するなどの行為は法令違反となり、30万円以下の罰金が科せられることもあります。 法令違反のままだと採用にも影響があります 求人者が安心して仕事を探せるよう、ハローワークは法令違反がある企業の求人を受理しないことができると法律で定められています。 これを求人不受理といいます。 ハローワークは求人の申し込みに対し、不受理の対象となる求人かどうかを確認するため、求人者に対して自己申告書を求めています。 申告の書式は決まっているので、管轄のハローワークにご確認ください。 (出典)厚生労働省サイト『改正職業安定法(求人不受理)について』 まとめ 労働基準監督署の調査や是正勧告は、法令違反などの改善を促すためです。 罰則を科すことが目的ではありませんので、是正勧告を受けた項目は改善に向けた対策を検討してください。 調査時に是正勧告の改善期日を指定されますが、期日までに改善が難しいときは事前に労働基準監督署へご相談されることをおすすめします。 是正勧告の内容の改善を行わなかったり、労働基準監督署へ是正報告(改善内容の提出など)を行わないときは、再監督(再調査)や送検されるケースもあるためです。 調査があるないに関わらず、法令違反があると採用や職場環境などにも影響がでてきます。 従業員が安心して働ける環境づくりは企業の責務です。 できるところから少しずつ対応を進めることをおすすめします。

  • 【2022年度版】7月11日までに社会保険の定時決定の届出が必要です。

    定時決定は、毎月の社会保険料の基準となる標準報酬月額を見直す1年に1回の機会です。 毎年7月1日から7月10日の間に、社会保険に加入している役員・従業員(以下、社会保険被保険者といいます)の4、5、6月に支給された役員報酬・賃金(以下、賃金といいます)を届出する定例の手続きです。 定時決定の届出には、算定基礎届という書類を使います。算定基礎届が同封された茶色の封筒が、6月初旬から中旬にかけて日本年金機構から企業宛に発送されています。 2022年の届出期限は、7月11日(月)です。 提出方法や届出様式に変更はありません。 今回の記事では、毎年1度の算定の基礎知識として、対象者や標準報酬の決定方法を改めてお伝えします。 なぜ、定時決定が必要なのか 社会保険料は、賃金に見合うよう計算されています。 しかし賃金に変動があると、実際の賃金と社会保険料の基準となる標準報酬月額に大きな差がでてくることがあります。 そのため、1年に1回見直しを行い、賃金にあった標準報酬月額を決める必要があります。 標準報酬月額は、年金額や傷病手当金などの保険給付の計算にも使われるため、正しく届出をしなければなりません。 定時決定の対象者 【定時決定の対象者】 ・7月1日に在籍している社会保険被保険者 以下の社会保険被保険者も定時決定の対象になります。 届出が漏れやすいので注意してください。 ・育児休業中の人 ・介護休業中の人 ・私傷病で休職中の人 ・70歳以上の人 ・二事業勤務者 ・出向者(賃金の支払いがあるとき) 【定時決定の対象外となる人】 ・6月に社会保険に加入した人 ・7月に随時改定(※1)する人 ・8、9月に随時改定をする予定の人(※2) ・6月30日以前に退職する人 ※1 随時改定とは、固定的賃金(基本給、諸手当など)が変更になり、標準報酬月額に2等級以上差がでたときに行う手続きです。 ※2 8、9月に随時改定をする予定の人は、算定基礎届の提出対象となりますが、届出時において随時改定が予定されているときは、算定基礎届の届出を省略できます。 参考|日本年金機構サイト『8月、9月の随時改定予定者にかかる算定基礎届の提出について』 標準報酬月額の決定方法 毎年4、5、6月に支給する3か月間の賃金を報酬総額とし、報酬月額を決定します。 報酬総額に含める賃金は、支払基礎日数(※1)が1か月に17日以上ある月の賃金です。 短時間労働者で17日以上の支払基礎日数が1月もないときは、支払基礎日数が15、16日の月のみ報酬総額とします。 ただし特例適用事業所(※2)の短時間労働者は11日以上です。 届出された報酬月額は、健康保険・厚生年金保険の保険料額表に沿って標準報酬月額が確定します。確定された標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月まで適用されます。 その後、標準報酬月額に都道府県ごとの保険料率をかけることで毎月の社会保険料が決まります。 ※1 支払基礎日数とは、賃金支払が発生する労働日、有給休暇、休業日などを合計した日数です。 ※2 特例適用事業所とは、従業員数501名以上の企業です。週20時間以上から社会保険の加入が必要になります。 (出典)日本年金機構サイト 『定時決定(算定基礎届)』 【例】北海道 (出典)全国健康保険協会サイト『健康保険・厚生年金保険の保険料額表』 定時決定に含まれる賃金とは 労働に対して支払われているすべての賃金が含まれます。出張費など、実費として支給されるものは含まれません。 また、年4回以上の賞与があるときは、前年6月から7月の間に支給された賞与の総合計を12か月で割り、各月の賃金に足して定時決定を行います。 (出典)日本年金機構サイト『算定基礎届の記入・提出ガイドブック』P3,4 4、5、6月に一時帰休(休業)があるときの定時決定 新型コロナウィルス感染症の影響で、一時帰休(休業)をしている企業が未だ多くあります。休業をし、休業手当を支給しているときは、支払基礎日数および賃金に含めて定時決定を行います。 一時帰休(休業)を含めて定時決定を行ったときは、一時帰休(休業)が解消したあとに随時改定を行います。一時帰休(休業)が解消されているかどうかの判断は定時決定と随時改定で以下のように異なります。 【定時決定】 7月1日時点で休業手当の支払いが行われていない、または今後も行う予定がないとき 【随時改定】 3か月を超える間に休業がないとき なお、7、8、9月のいずれかに一時帰休(休業)による随時改定を行うときは、定時決定の対象とはなりません。詳しくは、以下の表を参考にしてください。一時帰休(休業)がある企業で書類を作成するとき、どの期間で届出を行うか判断が難しいときは、管轄の年金事務所へお問合せください。 (出典)日本年金機構サイト 『定時決定(算定基礎届)〈一時帰休による休業手当等が支給された場合の定時決定等の例〉』 定時決定の届出 定時決定の届出は以下の通りです。 届出様式:健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届/70歳以上被用者 算定基礎届 添付書類:なし 届出期限:2022年7月1日(金)~2022年7月11日(月) 届出先:事務センターまたは管轄の年金事務所 届出方法:郵送、電子申請、電子媒体(CD・DVD)、持参 算定基礎届に係る総括表は、2021年度から廃止されたため届出の必要はありません。 郵送のときは、日本年金機構から送付されてくる茶色の封筒に同封された返信用封筒を使って届出してください。また、電子媒体(CD・DVD)で届出をするときは、電子媒体届出書総括票の添付が必要です。 参考・ダウンロード|健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届/70歳以上被用者 算定基礎届 企業で準備を行うこと 定時決定は、毎年決まった時期に必ず行う手続です。 年間の業務スケジュールに入れておくことをおすすめします。 また、届出期間が、7月1日から7月11日と短いので、6月支給の賃金が確定したら手続き準備を進めてください。 日本年金機構では、定時決定の流れについての動画も提供しています。ぜひ参考にしてください。 参考|日本年金機構サイト『令和4年度 算定基礎届事務説明動画』

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