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  • 厚生労働省発表:厚生労働行政の現状や今後の見通しについて

    2024年8月、厚生労働省から2024年版(令和6年版)の厚生労働白書が発表されました。 今回の白書は、第1部では「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる 社会に」をテーマに、こころの健康に関する対策や支援の現状および今後の方向性が 示されており、第2部は厚生労働省の施策をまとめた構成となっています。 このマガジンでは、主に第2部第2章「女性、若者、高齢者等の多様な働き手の参画」を取り上げながら、労務担当者が理解しておくべき雇用の現状、法改正など政府の取組について解説します。 厚生労働白書とは 厚生労働白書は、厚生労働行政の現状や今後の見通しなどについて、広く国民に伝える ことを目的に、厚生労働省が毎年公表しているものです。 そして第1部では、毎年テーマが設定され、掘り下げが行われています。 今年の第1部は、近年精神疾患の外来患者数が増加していることなどを踏まえた、 こころの健康 がテーマとなっています。 【精神疾患を有する外来患者数】   (出典) 厚生労働省『令和6年版厚生労働白書(概要)』P9 ライフステージごとに直面する現代社会のストレス要因の多様さについて考察したうえで、 こころの不調を抱える「当事者の意思の尊重と参加」を理念とした、こころの健康を保つ ための地域や職場、社会の取り組みが紹介されています。 企業にとって、従業員のこころの健康は重要な問題です。 2022年度の精神障害の労災認定件数は710件と、過去最多となりました。 従業員のこころの健康を確保することは、労災のリスクを減らすことにつながるだけでは なく、生産性の向上といった組織の活性化にもつながります。 このように、従業員の健康保持・増進に取り組み、健康管理を経営的な視点から考え、 戦略的に実践することを 健康経営 といいます。 健康に関する講習会や人間ドックの費用負担、社内イベントやワークショップなどの 従業員とのコミュニケーション機会の創出など、健康経営に積極的に取り組むことを おすすめします。 少子高齢化と労働人口の減少 日本では現在少子高齢化が進んでいます。厚生労働省が公表した人口動態統計によると、2023年の合計特殊出生率は1.20となっています。 これは、統計を開始した1947年以降過去最低を記録し、長期的な少子化傾向が続いて います。 【人口ピラミッドの推移】   (出典) 厚生労働省『令和6年版厚生労働白書』P176 また、2030年には65歳以上の人口が全人口の3割を占めると予想され、生産年齢人口の 減少などにより引き起こされる問題、いわゆる2030年問題が懸念されています。 このような労働力の減少で、企業は人材不足や人材獲得競争の激化、人件費の高騰などに 今まで以上に悩まされる可能性があります。 これらの現状を踏まえて、厚生労働省は働く世代の子育て支援や、希望するスタイルで 働けるようにするための改革などの取り組みを行っています。 労務担当者が押さえておきたい政府の取り組み 1 仕事と家庭の両立支援策の推進 仕事と子育てや介護の両立を支援することは、少子高齢化社会における労働者の継続就業や、女性の活躍などを推し進めるだけではなく、日本経済の活力維持の観点からも重要に なるとして、政府は 仕事と家庭の両立支援 に力を入れています。 これまでも育児・介護休業などの制度が整備されてきましたが、男性の育児休業取得率が 女性に比べて伸び悩んでいることや、出産・育児により離職する女性が一定数いること などの現状を踏まえ、さらなる推進が図られています。 2025年4月には、仕事と家庭の両立支援策の一環として、改正育児・介護休業法と改正雇用 保険法の施行が予定されています。 育児・介護休業法と雇用保険法の詳しい改正内容については、以前の記事をご確認ください。 以前の記事 『 【2024年改正】育児・介護休業法ポイント 』 また、厚生労働省は、従業員の育児休業の取得および育児休業後の円滑な職場復帰を支援 するための「育休復帰支援プラン」や、介護離職を防ぐための「介護支援プラン」の普及や 策定の支援も行っています。 さらに、仕事と家庭の両立のための企業の取り組みを促進することを目的に、両立支援等 助成金を支給しています。ぜひご活用ください。 参考| 厚生労働省『両立支援等助成金(令和6年度)』 2 長寿社会に対応した労働環境の整備 政府は、仕事と家庭の両立支援だけではなく、働く意欲のある高年齢者が生涯現役で 活躍できる社会の実現も目指しています。 企業には、高年齢者の雇用の安定を目的に、希望者全員に対し65歳までの雇用を確保する 措置(高年齢者雇用確保措置)を講じることが義務付けられています。 また、70歳までの就業機会を確保するための措置(高年齢者就業確保措置)についても 努力義務とされています。 2023年6月時点で、21人以上規模の企業で高年齢者雇用確保措置を実施している企業は 99.9%にのぼる一方、高年齢者就業確保措置を実施している企業は29.7%に留まって います。 65歳以降の高年齢者の雇用を推進する制度としては、「65歳超雇用推進助成金」があります。 業がこの助成金を活用することによる、高年齢者の雇用推進や企業の人材確保などが期待 されています。 参考| 厚生労働省『令和6年度65歳超雇用推進助成金のご案内』 3 治療と仕事の両立支援の推進 病気を抱え通院しながら働く人は、約3人に1人を占めます。 定年の延長や高齢化で、病気を抱えながら働く人は今後ますます増えると予想されること から、政府は 治療と仕事の両立支援 にも力を入れています。 高年齢者や病気を抱える人であっても、働く意欲や高い能力を持つ人がいます。 そのような人々が定年や病気で離職することは、企業にとって大きな損失となります。 企業は、本人の希望や主治医の意見を聞きながら、希望をすれば働くことができる環境を あらかじめ整えておくことが大切です。 また、ハローワークでは長期間の治療などのために離職を余儀なくされた求職者の就職支援 にも取り組んでいます。 治療と仕事の両立支援の詳しい内容については、以前の記事をご確認ください。 以前の記事 『 企業が知っておきたい、治療と仕事の両立支援と環境整備 』 4 若者が能力を発揮できる環境の整備 在学中に内定に至らない者や未就職のまま卒業する者、学校から社会・職業に円滑に移行できない者など、若者の雇用に関する課題が発生しています。 そのような若者が能力を有効に発揮できる環境を整備するために、厚生労働省はさまざまな 取り組みを行っています。 若者と中小企業とのマッチングを強化するために、若者の採用や育成に積極的で、若者の 雇用管理の状況が優良な中小企業を「ユースエール認定企業」として認定し、認定企業の 情報発信を行っています。 また「わかものハローワーク」ではフリーターの正社員就職の促進を、「地域若者サポート ステーション」ではニート等の職業的自立支援の強化にも取り組んでいます。 若者の雇用は、長期間にわたって就労する人材の獲得と同意です。 少子化が進む現状において、積極的な若者の雇用は大きなメリットとなるでしょう。 5 就職氷河期世代への集中支援 1993年から2004年頃に卒業を迎えた就職氷河期世代は、バブル経済崩壊後の雇用環境が 厳しい時期に就職活動を行った結果、現在でも不本意ながら非正規として雇用されていたり、職に就けていない人もいます。 これを踏まえて、政府は2020年から集中的な支援に乗り出しています。 ハローワークでは、正規雇用への転換を目指す就職氷河期世代の支援を目的に、「就職氷河期世代専門窓口」を設置しています。 また、企業の就職氷河期世代の正社員雇用を促すために、正社員未経験者や正社員経験が 少ない方を正社員として雇用する企業に対して「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期 世代安定雇用実現コース)」の支給を行っています。 参考| 厚生労働省『「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」のご案内』 6 雇用のセーフティーネットの拡充 雇用保険は、働く人が失業したときや育児休業等を取得したときなどに給付を行い、 生活や雇用の安定を図ることが目的とされています。 2024年5月には、多様化する働き方やライフスタイルに対応するために、適用要件の拡大、 教育訓練などの充実、出生後休業支援給付・育児時短就業給付の創設などを含んだ改正雇用 保険法が成立しました。 改正雇用保険法については、以前の記事で適用要件の拡大など企業や従業員への影響が 特に大きい改正内容について解説しています。 以前の記事 『 2024年改正雇用保険法、企業と従業員に与える影響とは? 』 企業に求められる対応策 少子高齢化と労働人口の減少によって懸念される企業の人材不足に対応するためには、 早い段階から対応を行うことが大切です。 国内の現状、そして企業内に生じている、もしくは生じる可能性が高い問題を意識しながら、雇用環境の整備に取り組むことをおすすめします。 雇用環境の整備に積極的な企業イメージは、優秀な人材獲得や人材流出の防止につながる 可能性があります。 おわりに 厚生労働白書では、現在、日本が抱えている問題や政府が力を入れている取り組みが 取り上げられています。 白書を読むことで、今後どのような問題が生じるのか、どのように対応すればよいのかに ついて理解を深めることができます。

  • 【2025年4月】継続雇用制度の経過措置終了と高年齢雇用継続給付の縮小

    少子高齢化の急速な進展に伴い日本の総人口は減少傾向となり、総人口に占める 65歳以上の割合は上昇しています。 労働力不足が課題となっている中、働く意欲があり豊かな経験やスキルを持つ 高年齢者の労働力は、企業にとって必要性が増していきます。 今回の記事では60歳以降の就業意欲の動向や、2025年4月の「継続雇用制度の 経過措置の終了」と「高年齢雇用継続給付の縮小」について解説していきます。 60歳以降の就業意欲 内閣府が2024年2月に実施した調査によると、 60歳未満の現役世代 では、生涯を通じた 就業意向について全体の7割が60歳以降も働き続けたいと回答しています。 【現役世代の生涯を通じた就業意向(60歳未満)】   (出典) 内閣府 政策統括官『満足度・生活の質に関する調査報告書2024』P9 次に、 60歳以上 の就業意向については、年齢を重ねる程に就労を希望する割合が 低くなるものの、性別に限らず 7割以上 が60歳〜64歳まで、 半数近く が65歳〜69歳までの 就業を希望すると回答しています。 【男女別の就業意向(60歳以上)】   (出典) 内閣府 政策統括官『満足度・生活の質に関する調査報告書2024』P9 以上から、いずれの世代においても多くの人々が60歳以降も働き続ける意向を持っている ことが分かります。 高年齢者を雇用するときの3つのルール 働く意欲がある誰もが、年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が 活躍できる環境整備を図る法律に、「高年齢者雇用安定法(正式名称:高年齢者等の雇用の 安定等に関する法律)」があります。 この法律では「高年齢者」を55歳以上と定義されており、雇用する労働者が充実した 高齢期における職業生活を選択し、実現できるように労働者の多様な特性やニーズを 踏まえ、改正が進められてきました。 高年齢者雇用安定法のうち、企業が押さえておきたい3つのルールをご紹介します。 【60歳未満の定年禁止(義務)】 定年制とは、従業員が就業規則に定められた一定の年齢に達したことを理由に、自動的に 労働契約が終了する制度です。 法令等により、企業には 60歳未満の定年年齢 を設けることが 禁止 されています。 就業規則で定年を定める場合は、定年年齢を60歳以上としなければなりません。 【65歳までの高年齢者雇用確保措置(義務)】 高年齢者雇用確保措置 は、従業員が希望すれば65歳までの雇用が確保されることを 目的としています。 具体的には、定年を65歳未満に定めている企業に対して、次のいずれかの措置を講じる ことが義務付けられています。 当面のあいだ、60歳以上の従業員が発生しない企業であっても、高年齢者雇用確保措置に よるいずれかの措置を講じなければなりません。 なお2023年の高年齢者雇用状況等報告の集計結果によれば、65歳までの高年齢者雇用確保 措置の実施済みの割合は、21人以上規模の企業のうち99.9%となっており、そのうち7割 近くの企業が継続雇用制度を導入しています。 【70歳までの高年齢者就業確保措置(努力義務)】 高年齢者就業確保措置 は、個々の労働者の多様な特性やニーズを踏まえ、70歳までの就業 機会を確保することを目的としています。 具体的には、定年を65歳以上70歳未満に定めている企業および65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く。)を導入している企業は、次のいずれかの 措置を講じることが努力義務とされています。   なお、2023年の高年齢者雇用状況等報告の集計結果によれば、70歳までの高年齢者就業 確保措置の実施済み割合は21人以上規模の企業のうち、3割程度となっています。 継続雇用制度の経過措置の終了 継続雇用制度とは、従業員本人の希望があれば、会社が定める期間は定年後も引き続き 雇用する制度です。おもに再雇用制度と勤務延長制度があります。 今までは 、65歳までの高年齢雇用確保措置で「65歳までの継続雇用制度の導入」を講じて いる企業には、経過措置として 労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を 定めること が認められていました。 しかし、 2025年3月31日をもって 、この経過措置は終了します。 経過措置の終了により65歳までの定年の引上げが義務になるわけではありませんが、 2025年4月1日以降は継続雇用制度の対象者を限定するような基準を設けることはできず、 希望するすべての従業員 の65歳までの雇用を確保するための措置を講じる必要があります。 (出典) 厚生労働省『経過措置期間は2025年3月31日までです 4月1日以降は別の措置により、高年齢者雇用確保措置を講じる必要があります』 現在、経過措置を講じており、経過措置終了前の就業規則において「経過措置終了後には 希望者全員を65歳まで継続雇用する」旨が定められていない場合は、2025年4月1日以降は 別の措置で高年齢者雇用確保措置を講じなければならず、就業規則の変更が必要となり ます。 高年齢雇用継続給付の縮小 高年齢雇用継続給付は、高齢者が働く意欲の維持と、65歳までの雇用継続を支援・促進する ことを目的として、一定の要件を満たす対象者に対して賃金の補助として支給されるもの です。 高年齢雇用継続給付には「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の 2種類があります。 いずれの給付金も、被保険者期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満であるなど、それぞれ の給付金に関する受給資格の要件を満たした労働者が、各月の賃金が60歳時点の賃金額に 比べて75%未満の支給要件を満たした場合、賃金の低下率に応じて支給されます。 今までの 高年齢雇用継続給付は、60歳時点の賃金額を基準に各月の賃金の低下率に応じて 最大15%が給付されていました。 しかし、 2025年4月1日から 新たに60歳を迎える労働者(受給資格要件を満たす方)は、 賃金の低下率に応じて給付率が最大10%へ縮小されます。 【対象者】 2025年4月1日から新たに60歳を迎える労働者(受給資格要件を満たす方) 【給付率】 なお、2025年3月31日までは、賃金の低下率が61%以下の場合に最大の給付率が適用 されますが、2025年4月1日からは賃金の低下率が64%以下の場合に最大の給付率が 適用されます。 高年齢雇用継続給付の縮小に伴い、高年齢者のモチベーションの低下が懸念されます。 高年齢者の就業意欲を高めるためにも、高年齢者の能力、知識、経験などが十分に活かせる 職域の拡大や、高年齢者の職業能力を評価する仕組みや制度の整備を進めることが重要 です。 おわりに 高年齢者が活躍できる職場は、幅広い世代が活躍できる職場の提供にもなり、多様な人材の 活用の促進にもつながります。 また、高年齢者がこれまでのキャリアで蓄積してきた技能や知識などを若い世代に継承し、 教育や指導を行うことは、企業にとっても大きなメリットといえます。 あわせて、働く高年齢者の年齢上昇と身体面や体力面の衰えを踏まえ、職場の安全衛生対策 の強化も求められていきます。 具体的な対策については、以下のガイドラインも参考にしてください。 参考| 厚生労働省『エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)』 65歳以上の人口の増加に伴い、就業を希望する高年齢者の増加が想定されるため、労務担当 者として高年齢者の環境整備に取り組むことが大切です。

  • 【2024年度】地域別最低賃金 全国加重平均額が1,055円に

    2024年度の最低賃金が改定されます。 すべての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされ、全国加重平均額は1,055円と なりました。 47都道府県で50円〜84円の引上げとなり、全国加重平均額の引上げ額51円は 目安制度が始まった1978年度以降の過去最高額です。 最低賃金には、都道府県ごとの労働者の生計費や賃金、通常の事業の賃金支払能力を 考慮して定められる「地域別最低賃金」と、特定の産業で定められる「特定最低賃金」の 2種類があります。 今回の記事は、毎年10月ごろに改定が行われる地域別最低賃金(以下、最低賃金)について 解説します。 47都道府県の最低賃金額と改定(発効)年月日は以下を確認してください。 参考| 厚生労働省『地域別最低賃金の全国一覧』 なお全国加重平均額とは、都道府県ごとの労働者数×地域別最低賃金で計算した 全国の合計を、総労働者数で割った額です。 最低賃金とは 最低賃金とは、法令等で定められている、労働に対して支払わなければならない 1時間あたりの最低限度の賃金をいいます。 企業は、正社員、パート・アルバイトなどの雇用形態に関係なく、すべての従業員に 最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。 雇用契約書が最低賃金を下回っていたとしてもその部分は無効となり、法令等で定めている 最低賃金が適用されます。 最低賃金を下回る賃金を支払った場合は、50万円以下の罰金が課せられることもあり ます。  最低賃金に含まれる賃金とは 最低賃金の計算に含まれる賃金は、従業員に毎月決まって支払われる基本給や各種手当 です。 ただし、以下の賃金は最低賃金の計算から除外されます。 【最低賃金から除外される賃金】 ①慶弔手当など臨時的に支払われるもの ②賞与など1か月を超える期間ごとに支払われるもの ③所定労働時間を超える時間の労働に対する賃金(残業手当、固定残業代など) ④所定労働日以外の労働に対する賃金(休日手当など) ⑤午後10時から午前5時までのあいだの労働に対する割増賃金(深夜手当など) ⑥精皆勤手当 ⑦通勤手当 ⑧家族手当 1時間あたりの賃金計算は割増賃金の計算にも使用しますが、最低賃金と割増賃金の 基礎となる賃金とでは「含まれる賃金」「除外される賃金」が異なるため注意して ください。 たとえば、割増賃金の計算では、⑥の「精皆勤手当」を含めますが、最低賃金の計算では 除外されます。 一方、割増賃金の計算では除外される「住宅手当」は、最低賃金がその地域における 従業員の生活の安定確保も目的のひとつとなっているため、最低賃金の計算には含まれ ます。 なお、⑥〜⑧については手当の名称にかかわらず実質によって取り扱います。 以下の例のように、従業員への一律支給などその手当の本来の趣旨から外れた運用を している場合は、最低賃金の計算に含めます。 【例】 ・遅刻、早退、欠勤などがあっても一律で精皆勤手当を支給している ・通勤距離や通勤に要した費用にかかわらず一律の金額で通勤手当を支給している ・扶養家族の有無にかかわらず家族手当を支給している など 1時間あたりの賃金の計算方法 支払われる賃金が最低賃金額以上であるかの確認は、1時間あたりの賃金を計算し、 最低賃金額と比較します。 1時間あたりの賃金の計算方法は給与形態によって異なります。 【1時間あたりの賃金の計算方法】 時給制のとき:時給額 日給制のとき:日給額 ÷ 1日の所定労働時間 月給制のとき:月給額 ÷ 1か月平均所定労働時間 歩合給のとき:歩合給 ÷ 1か月の総労働時間 以下のサイトで具体的な計算事例が紹介されています。 参考| 厚生労働省『最低賃金のチェック方法は?』 複数の給与形態によって賃金が支払われる場合、それぞれの給与形態ごとに1時間あたりの 賃金を算出し、合算額が最低賃金を下回っていないか確認します。 【例】 基本給が日給制(1日8,000円/日)、資格手当が月給制(20,000円/月)の場合 (年間所定労働日数:240日、1日の所定労働時間:8時間とする)  ・1か月平均所定労働時間:240日✕8時間÷12か月=160時間  ・基本給の時間換算額  :8,000円÷8時間=1,000円  ・資格手当の時間換算額 :20,000÷160時間=125円  ・合計の時間換算額   :1,000円+125円=1,125円 よって、1時間あたりの賃金は1,125円となります。 最低賃金の減額の特例許可制度とは 最低賃金には、特定の従業員について最低賃金を下回る賃金を支払うことができる 減額の特例許可制度が定められています。 申請先は、管轄の労働基準監督署です。減額できる対象者は以下になります。 ・精神または身体の障害により著しく労働能力が低い者 ・試用期間中の者 ・基礎的な技能および知識を習得させるための職業訓練を受ける者 ・軽易な業務に従事する者 ・断続的労働に従事する者 いずれも一定の条件を満たす必要があります。 また、許可は対象となる従業員の労働条件を特定してから行いますが、最低賃金を どこまで減額ができるかはそれぞれ異なります。 以下のサイトに対象ごとのリーフレットがあるため、参考にしてください。 参考・ダウンロード| 厚生労働省『最低賃金の減額の特例許可申請書様式・記入要領』 減額を検討するときは、管轄の労働基準監督署へ相談してください。 企業が対応すべきこと 最低賃金の引上げにより、企業は必要に応じて以下のような対応を行います。 ①最低賃金を下回る従業員の確認および賃金の見直し 最低賃金を下回る従業員がいないか確認します。 下回る従業員は最低賃金以上になるよう賃金の見直しが必要です。 ②人件費の増加額の試算 賃金が上がると、労働保険料(労災保険、雇用保険)、社会保険料(健康保険、厚生年金 保険)の負担も増えます。 最低賃金の引上げにより、人件費がどの程度増加するか試算しておくことをおすすめ します。 ③賃金引上げに対する取り組みなどの検討 厚生労働省では、賃金引上げに向けた取り組み事例や地域・業種・職種ごとの平均的な 賃金を検索できるツールを盛り込んだ特設サイトを公開しています。 中小企業向けの業務改善助成金や補助金、税制などの情報や、最低賃金・賃金引上げ 支援のマニュアルも公開しています。 (出典) 厚生労働省『賃金引き上げ特設ページ』 参考・ダウンロード| 厚生労働省・中小企業庁『最低賃金・賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援施策紹介マニュアル(令和6年8月版)』 よくある質問 1 最低賃金の改定(発効)年月日をまたぐ勤務の最低賃金はどうなるか 3交代勤務制などでは、夜勤シフトの従業員が最低賃金の改定(発効)年月日をまたいで 勤務することがあります。 最低賃金は、都道府県ごとの改定(発効)年月日以降に勤務する賃金から適用します。 そのため、最低賃金の改定(発効)年月日をまたいで勤務をしたときは、0時より新しい 最低賃金の適用となるように賃金を計算してください。 【例】 勤務日    :9月30日 勤務時間   :21:00~翌朝5:00 最低賃金改定日:10月1日 改定前の最低賃金を適用する時間:21:00~0:00 改定後の最低賃金を適用する時間:0:00~5:00 2 複数の都道府県に事業所を持つ企業の最低賃金はどうなるか 複数の都道府県に事業所を持つ企業の場合、それぞれの事業所の所在地の最低賃金が 適用されます。 転勤などにより最低賃金が下回ることのないよう注意が必要です。 例外として、規模が小さく事務機能がないなどひとつの事業所としての独立性がない 事業所については、直近上位の事業所(※)と同一のものとみなされ、直近上位の 事業所の最低賃金が適用されます。 ※直近上位の事業所:組織上、ひとつ上に位置する事業所 【例】 本社Aが大阪府、出張所Bが兵庫県で出張所Bは営業部員が2名のみの場合 →出張所Bは独立性がないとして、本社Aの所在地である大阪府の最低賃金が適用される 3 学生アルバイトも最低賃金が適用されるか 最低賃金は年齢やパート・アルバイトなどの雇用形態によって変わるものではありません。学生アルバイトであっても最低賃金は適用されます。(特例許可制度の対象者を除く) 4 インターンシップも最低賃金が適用されるか インターンシップにおける実習が、見学や体験的なものであり、企業から業務に関する 指揮命令を受けていないなど使用従属関係が認められない場合は、法令等上の「労働者」に 該当しないため最低賃金は適用外となります。 5 派遣労働者は派遣元企業、派遣先企業のどちらの最低賃金が適用されるか 派遣労働者については、派遣元企業の所在地にかかわらず、派遣先企業の所在地の 最低賃金が適用されます。 おわりに 毎年、労働基準関係法令違反での送検や、企業名の公表が行われています。 公表されている中には「賃金が最低賃金以上の金額で支払われておらず、行政指導に 応じない」などの事案もあります。 今回の記事を参考に、最低賃金が適正に支払われるように対応してください。

  • 企業が知っておきたい在職老齢年金の仕組み

    65歳までの安定した雇用の確保は企業の義務ですが、 70歳までの就業機会の確保についても努力義務となっており 今後は働く高齢者がますます増えることが想定されます。 厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方としては、 44.4%の方が「年金額が減らないように、就業時間を調整しながら働く」と 回答しています。 賃金を貰いながら老齢厚生年金を受給する従業員が増えるため、 労務担当者は賃金が年金の受給に与える影響の理解が求められます。 今回の記事では、高年齢の従業員が働きながら年金を受け取ることができる 在職老齢年金の基本的な仕組みについて解説していきます。 在職老齢年金とは 在職老齢年金とは、厚生年金の受給対象となった60歳以上の従業員が、 会社で働いて賃金を貰いながら年金を受け取れる制度です。 ただし、60歳以上の厚生年金受給者であっても、一定以上の賃金を得ている場合は 厚生年金の一部または全部が支給停止になります。 【在職老齢年金制度の背景】 従来の厚生年金制度では、在職中は年金を支給しないことが原則でした。 しかし、高齢者は低賃金のケースが多く、賃金だけでは生活が困難だったため 在職者にも支給される年金として昭和40年に制度が創設されました。 それ以降、会社で働きながら年金を受給することが不利にならないようにという点と 現役世代とのバランスを調整しながら、都度見直しが行われています。 【在職老齢年金の種類】 在職老齢年金は、従業員の年齢によって以下の2種類に分かれます。 ①60歳〜64歳を対象とした「 低所得者在職老齢年金 (以下、「低在老」という)」 ②65歳以上を対象とした「 高年齢者在職老齢年金 (以下、「高在老」という)」 低在老 については、老齢厚生年金の支給開始年齢の段階的な引き上げの完了後 (男性は2025年度、女性は2030年度)は終了するため、今回の記事では 高在老 について取り上げます。 年金を受け取りながら働く65歳以上の従業員にとっての関心事項は どのくらい賃金を貰うと年金が一部または全額支給停止となってしまうのかということです。 労務担当者は、在職老齢年金について従業員から相談を受けることも考えられるため 制度の概要を理解しておく必要があります。 在職老齢年金の計算方法 在職老齢年金の対象者は、会社で働き賃金を貰いながら年金を受給している人です。 在職老齢年金の支給は、 年金 と 賃金 の合計額を 支給停止調整額 の基準で判定します。 なお、 支給停止調整額 は年度によって変動し、2024年度の支給停止調整額は 50万円 のため、この記事では 50万円 を前提に記載していきます。 在職老齢年金の計算方法としては、 年金 と 賃金 の合計額が 50万円 を上回る場合 年金の一部または全部が支給停止となります。 在職老齢年金の制度では、年金を「 基本月額 」、賃金を「 総報酬月額相当額 」としています。 基本月額と総報酬月額相当額の定義は以下の通りです。   基本月額 :老齢厚生年金(年額)を12で割った額を指します。      加給年金額、繰下げ加算額、経過的加算額は除きます。 総報酬月額相当額 :毎月の賃金(標準報酬月額)と1年間の賞与(標準賞与額)を          12で割った額を足したものを指します。 年金の停止額の計算方法は、一部停止の場合と全額停止の場合に分かれます。 【一部停止】 基本月額と総報酬月額相当額の合計額が50万円を超えた場合は 超えた額の2分の1の年金が支給停止となります。 【全額停止】 総報酬月額相当額のみで50万円を超えた場合は、年金の全額が支給停止となります。 停止額の計算については、以下の具体例も参考にしてください。   年金の停止額の変更は、総報酬月額相当額が変わった月または退職日の翌月(※)に 変更されます。 ※退職して1か月以内に再就職し、厚生年金保険に加入した場合は除きます。 なお、在職老齢年金の計算では、以下の2点に注意してください。 ①老齢基礎年金の受給 老齢基礎年金は在職老齢年金の対象となりません。 そのため、総報酬月額相当額の金額にかかわらず、老齢基礎年金は全額支給されます。 ②加給年金(※)の受給 在職老齢年金による調整の結果、老齢厚生年金が一部支給停止の場合は加給年金は 全額支給されますが、老齢厚生年金が全額支給停止となった場合は加給年金は 全額不支給となるため、注意が必要です。 ※老齢厚生年金の被保険者が65歳に達した際、65歳未満の配偶者や子ども (18歳到達年度の末日まで、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子)などを 扶養している場合に、老齢厚生年金に追加する形で支給される年金 在職定時改定と退職改定 在職老齢年金の停止額を確認する上で知っておきたい制度に、「在職定時改定」と 「退職改定」があります。 どちらも年金の受給権が発生した後の厚生年金の被保険者期間が厚生年金額に反映される 制度で、基本月額が変更されることで在職老齢年金の停止額の計算結果も変わることが あります。 そのため、労務担当者は在職定時改定と退職改定についても把握しておく必要があります。 【在職定時改定】 在職定時改定とは、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている65歳以上70歳未満の 従業員が、毎年9月1日(基準日)に被保険者であるとき、翌月の10月分から受給する 老齢厚生年金の金額が見直される制度です。 具体的には、前年9月から当年8月までの被保険者期間が算定され、受給する老齢厚生年金の金額の見直しに反映されます。 【退職改定】 退職改定とは、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている70歳未満の従業員が 70歳に到達したとき、70歳に到達した翌月分から受給する老齢厚生年金の金額が見直される 制度です。 なお、70歳以上の従業員に関しては、厚生年金に加入しないため、受給する老齢厚生年金の 金額の再計算には反映されません。 また、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給している70歳未満の従業員が 退職して1か月を経過したときも、退職した翌月分から受給する老齢厚生年金の金額が 見直されます。   (出典) 日本年金機構『令和4年4月から在職定時改定制度が導入されました』 【在職老齢年金への影響】 厚生年金の被保険者の期間が厚生年金額に反映されることで在職老齢年金が受ける 影響としては、基本月額が変更となることです。 以下の図のように、年金の停止を回避することを目的に賃金と年金をあわせて 50万円となるように賃金を設定していた場合、在職定時改定により基本月額が変更され、 知らないあいだに年金の一部停止対象になっていたということも考えられます。 労務担当者は、高年齢の従業員から賃金と年金について相談をされた際は 在職定時改定や退職改定も踏まえて回答することが重要です。 おわりに 2025年3月31日をもって、65歳までの雇用確保義務のうち継続雇用制度に設けられていた 経過措置は終了します。 2025年4月からは65歳までの継続雇用の希望者全員を雇用しなければならず、これから ますます高年齢で働き続ける方が増えていきます。 従業員からも働きながらの年金受給についてや、賃金の調整のための勤務時間などの 相談も増えてくるでしょう。 そのようなときに労務担当者として対応できるように、在職老齢年金の制度について 理解を深めておきましょう。

  • 【2024年版】台風や豪雨などの自然災害時の企業対応

    近年、全国各地で台風や豪雨などの自然災害が増えています。 企業は、従業員が安全かつ健康に働ける職場環境への配慮や対策のための 「安全配慮義務」を負っていますが、これは台風や豪雨などの災害発生時にも 同様に適用されます。 自然災害発生時に、従業員の安全を第一に考え、企業側が休業を指示するケースも 増えてきました。 今回の記事では、自然災害が起きたときの企業対応と、事前の備えについてお伝えします。 自然災害が起きたときの出勤判断と休業手当 自然災害時の出勤では、企業の判断で自宅待機や休業を命じるケースと、 従業員本人の判断で出勤しないケースがあります。 自然災害はいつ発生するか予測できないことも多くあります。 あらかじめ自然災害時の出勤について決めておくことをおすすめします。 なお、状況によっては休業手当の支払が必要になる場合もあります。 1 企業の判断で休業をするとき 自然災害が起き、事業活動が行える状態にもかかわらず会社都合により 休業を命じるときは、それが従業員の安全確保のための措置だとしても 従業員に対して平均賃金の60%以上の休業手当の支払が必要です。 ただし台風や豪雨による事業所の建物倒壊や器物破損など、施設や設備が 直接的な被害を受け出社しても事業活動を行える状態でないときなどは、 天災事変等の不可抗力による休業となり、会社都合の休業とは判断されず 休業手当の支払の必要はありません。 2 本人の判断で出勤しないとき 以下の例のように本人の判断で出勤しないときや、自然災害の影響により 出勤できなかったときは、休業手当の支払の必要はなく欠勤扱いとなります。 (例) ・通信回線の障害などにより、職場と連絡がとれず自主的に自宅にいることにした ・台風や大雨による浸水のため、職場まで行ける状態ではなかった など このようなときに本人に負担なく休んでもらうためにも、有給休暇の取得を推奨したり 振替休日や災害休暇などの特別休暇を就業規則に設けている企業もあります。 給与の非常時払いとは 従業員本人や従業員の家族が被災し、住居の変更を余儀なくされる場合など 災害による急な出費が必要になることがあります。 給与は毎月一回以上、一定の期日を定めて支払をします。 しかし例外として、従業員が非常時の出費を必要とするときは、給与の支払日前であっても すでに労働した分の給与を支払うように法令等で定められています。 非常時のケースには、出産、疾病、結婚、長期帰郷、そして「災害をうけたとき」があり、 災害には、大雨や台風による自然災害も含まれます。 この給与の非常時払いは、 すでに行った労働に対しての給与の支払 であって これから行う予定の労働分に対しての給与(前借り)に応じることを求めるものでは ありません。   企業における事前の災害対策 自然災害が発生したとき、企業は従業員・物・資金・情報・時間・知的財産といった 経営資源を守り、事業を継続あるいは復旧させなければなりません。 そのため、事前に災害対策を講じることが重要です。 事前の災害対策には、「防災対策」と「事業継続」の大きく分けて二つの取り組みが あります。 1 防災対策 企業内の防災対策は、従業員の安全確保や物的被害の軽減を目的とします。 【従業員の安全確保のための対策 例】 ・事業所内の避難経路の確保 ・事業所周辺のハザードマップや防災マップにて被害リスクや避難場所の確認 ・災害時における指揮命令などの体制整備 ・緊急連絡網の作成と更新 ・安否確認のルール作成 ・救急セットの準備 ・非常用品の備蓄(飲料・食料、毛布などの衣料、懐中電灯・電池・トイレットペーパーなどの生活用品、ラジオ など) ・従業員への安全教育、防災訓練等の実施 など 【物的被害の軽減のための対策 例】 ・事業所の耐震化 ・事業所内の機械設備・家具などの転倒防止対策 ・火気使用・危険物などの安全対策 ・電気、ガス、水道、通信など障害発生時の緊急対応(二次災害防止) など 2 事業継続 自然災害が、必ずしも事業が行えないほどの影響を引き起こすとは限りません。 自然災害が起きても少ない人数で事業を継続できるよう、以下のような対策の検討を おすすめします。 【事業継続のための検討 例】 ・災害時の緊急性の高い業務の整理 ・出勤しなくても業務ができる体制づくり(テレワーク、振替休日 など) ・出勤者の災害リスク回避(宿泊場所の確保 など) ・出勤できない可能性のある従業員の業務引継ぎ方法 ・仕入先を複数確保 ・工場など代替生産できる拠点の確保 など テレワーク活用企業の自然災害時の備え 新型コロナ対策で導入が進んだテレワークは、自然災害時の事業継続にも有効な 手段となっています。 しかし、テレワークであっても最悪の事態は起こります。 たとえば台風や大雨、落雷などによる停電、過電流、インターネット接続不良などです。 具体的なケースとして、給与計算業務は停電やインターネット接続不良が起きると 業務がストップしてしまい、振込期日に間に合わない事態が想定されます。 そのため、非常時にもパソコンが稼働できるようにモバイルバッテリーを貸出したり、 インターネットの接続が途切れた場合のために自宅の主回線以外にも別のモバイル回線 (ポケットWi-Fiや会社スマートフォンでのテザリングなど)を用意しておくなど、 テレワーク環境でも業務をスムーズに続けるための備えが必要です。 【テレワーク活用企業の備え 例】 ・非常時のパソコンバッテリーの確保 ・インターネットのバックアップ回線の確保 ・通信状況の急変に対する優先業務の整理 ・データのクラウドバックアップ ・コミュニケーション手段の多様化(チャットツールの導入など) ・会議などの調整 など 自然災害後の業務量増加のときの時間外・休日労働 法令で定められている労働時間の限度時間は、原則1日8時間、週40時間です。 この時間を超える労働を命じる場合は、事前に届け出ている36協定で定めた 時間外・休日労働の範囲内である必要があります。 自然災害直後も、過重労働による健康障害を防止するため、36協定で定めた 時間外・休日労働を遵守します。 しかし 例外 として、企業や被災地域の早期復旧や、施設・設備故障の修理、 システム障害復旧など緊急かつ臨時の必要がある場合は、 労働基準監督署の許可を得て 、 時間外・休日労働の上限規制を超えて働くことが認められるケースがあります。 緊急事態のときは、事後届出も可能です。   例外の認定は、個別かつ具体的に判断され、単なる業務の繁忙などは認められません。 以下のリーフレットを参考のうえ、管轄の労働基準監督署へ相談してください。 参考| 厚生労働省『災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等について』 自然災害による労災保険(業務災害・通勤災害) 自然災害の発生により、従業員が業務中や通勤途中に被災する可能性もあります。 自然災害発生時のケガなどが、業務災害や通勤災害として認められるのかについては 以下を参考にしてください。 ①業務災害 自然災害により被災した場合、原則として業務災害とは認められません。 ただし、作業場所の立地条件や作業条件、作業環境、事業所施設の状況などにより 自然災害を被りやすい事情があると認められたときは、業務災害として認定される ケースもあります。 ②通勤災害 通勤途中に自然災害により被災した場合、原則として通勤災害が認められます。 ただし、企業が休業を命じたにもかかわらず、従業員の独断で出勤しようとしていた ときに被災した場合などは私的行為とみなされる可能性があり、通勤災害に認定されない ケースもあります。 相当な損失を受けたときの労働保険料・社会保険料の納付猶予 自然災害により、財産に 相当な損失 を受けた企業は、申請することにより 労働保険料や社会保険料の納付が猶予される場合があります。 「相当な損失」とは災害による被害額が全財産額のおおむね20%以上といわれています。 要件や申請方法など、詳しくは各行政機関のサイトを確認してください。 【社会保険料】 参考| 日本年金機構『厚生年金保険料等の納付の猶予』 【労働保険料】 参考| 厚生労働省『労働保険料等を一時に納付できない方のための猶予制度について』 おわりに 例年、台風は7月から10月にかけて最も多くなります。 また、地震は全国各地で頻繁に発生しています。 自然災害は、全国各地、いつ、どこで発生するか分かりません。 自然災害時は誰しもが心理的な不安や焦りを感じますが、企業の落ち着いた対応があれば 従業員も安心できるはずです。 今回の記事を参考に、自然災害時の企業対応について検討されることをおすすめします。

  • 【2025年1月義務化】労働者死傷病報告などの電子申請

    2025年1月より、労働者死傷病報告や定期健康診断結果報告など 労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます。 企業規模に関係なくすべての事業場が対象となるため、労務担当者は 義務化の時期や対象となる手続について理解しておくことが必要です。 また、今回の改正では、労働者死傷病報告の報告事項も一部変更されることとなりました。 今回の記事は、改正による電子申請の義務化および労働者死傷病報告の 報告事項について解説します。 電子申請の義務化の背景 厚生労働省は、社会保険および労働保険分野において、企業が継続的に行う 手続を中心に、オンライン利用(電子申請)の促進に取り組んでいます。 電子申請は時間や場所にとらわれることなく手続が可能なため、企業としては 業務負担の軽減やコストの削減などを図ることができます。 労働安全衛生関係の手続もオンライン化が進められています。 たとえば労働者死傷病報告は、労働災害の発生状況などの統計や分析のための 重要なデータであり、行政機関はその集計作業に一定の時間を要します。 電子申請による手続は、行政機関にとってもメリットがあり、作業時間の大幅な 短縮や統計・分析作業の効率化ができるといえます。 こうした理由から、2025年1月1日より労働安全衛生関係の手続の一部の電子申請が 義務化されることとなりました。 電子申請が義務化となる手続とは 電子申請が義務化となる手続について解説します。 【義務化となる日】 2025年1月1日 【義務化となる事業場】 対象の手続を行うすべての事業場 【義務化となる手続】 以下に続く①〜⑦の手続内容や対象を確認し、自社がどの手続の電子申請の義務化に 対応すべきか確認してください。 ①労働者死傷病報告 (様式第23号、様式第24号のいずれか) 従業員が労働災害により死亡または休業した場合、「労働者死傷病報告」で 労働基準監督署に報告します。 すべての事業場が報告の対象です。 報告の様式は、休業日数などによって変わります。 参考| 厚生労働省『労働者死傷病報告の提出の仕方を教えて下さい。』 (出典) 仙台労働基準監督署『労働者死傷病報告の提出はお済みですか?』 ②総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告 (様式第3号) 事業場の規模や業種などが一定要件に該当する場合、総括安全衛生管理者や安全管理者、 衛生管理者、産業医をそれぞれ選任しなければなりません。 選任したときは、「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」 により労働基準監督署に報告します。(変更手続も同じ様式を使います。) 参考| 厚生労働省『総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告』 なお労働安全衛生法上、事業場の規模を判断をするときの「常時使用する労働者数」は、 正社員だけでなく、契約社員、パート・アルバイト、日雇労働者等の数を含め、 常態として使用する労働者の数をいいます。 【選任しなければならない事業場の規模】 参考| 東京労働局『共通 3 「総括安全衛生管理者」 「安全管理者」 「衛生管理者」 「産業医」のあらまし』 ③定期健康診断結果報告 (様式第6号) 定期健康診断は、1年以内ごとに1回、正社員や正社員以外(パート・アルバイトなど)に かかわらず常時使用する労働者を対象に実施します。 常時使用する労働者が50人以上の事業場で定期健康診断を実施したときは 「定期健康診断結果報告書」により労働基準監督署に報告します。 参考| 厚生労働省『各種健康診断結果報告書』 ④心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告 (様式第6号の3) この検査はストレスチェックとも呼ばれ、従業員がストレスに関する質問に回答し、 その分析結果から従業員がどの程度のストレス状態にあるかを調べる検査です。 事業場の労働者が常時50人以上の場合、1年以内ごとに1回、ストレスチェックを 実施しなければなりません。 実施後は「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」により労働基準監督署 に報告します。(当面のあいだ50人未満の事業場のストレスチェック実施は努力義務) 参考| 厚生労働省『心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書』 ⑤有害な業務に係る歯科健康診断結果報告 (様式第6号の2) 歯科医師による健康診断は、歯等に有害な業務に従事する従業員を対象に 以下の時期に実施します。 (「歯等に有害な業務」とは、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りんその他 歯またはその支持組織に有害な物のガス、蒸気または粉じんを発散する場所における 業務のこと) ・雇入れたとき ・歯等に有害な業務に配置替えしたとき ・その後6か月以内ごとに1回 歯科医師による健康診断を実施したときは、事業場の規模にかかわらず「有害な業務に 係る歯科健康診断結果報告書」により労働基準監督署に報告します。 参考| 厚生労働省『各種健康診断結果報告書』 ⑥有機溶剤等健康診断結果報告 (様式第3号の2) 有機溶剤等健康診断は、屋内の作業場等で有機溶剤業務に従事する従業員を対象に 以下の時期に実施します。 ・雇入れたとき ・屋内の作業場等での有機溶剤業務に配置替えしたとき ・その後6か月以内ごとに1回 有機溶剤等健康診断を実施したときは、事業場の規模にかかわらず「有機溶剤等健康診断 結果報告書」により労働基準監督署に報告します。 参考| 厚生労働省『各種健康診断結果報告書』 ⑦じん肺健康管理実施状況報告 (様式第8号) じん肺健康診断は、粉じん作業に従事する従業員を対象に実施します。 (過去に粉じん作業に従事し、現在は粉じん作業に従事していない従業員も含みます。) じん肺健康診断を実施したときは、事業場の規模にかかわらず「じん肺健康管理実施状況 報告」により労働基準監督署に報告します。 参考| 厚生労働省『各種健康診断結果報告書』 【その他の手続について】 義務化されるもの以外にも多くの手続が電子申請可能となっています。 以下を参考にしてください。 参考・ダウンロード| 厚生労働省『電子申請が可能な労働安全衛生法等の手続一覧』 労働者死傷病報告の報告事項が変わります 電子申請の義務化とともに、労働者死傷病報告の報告事項も2025年1月1日に 改正されます。 1 様式第23号の報告事項 様式第23号は、死亡または休業4日以上の労働災害について報告する様式です。 変更となるのは下図の5項目です。 (出典) 厚生労働省『労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化※されます』 【事業の種類】 (上図の①) 現在はテキスト入力ですが、コード入力方式に変更となります。 (日本標準産業分類の細分類項目を選択) 参考| 総務省『日本標準産業分類(令和5年7月告示)分類項目名、説明及び内容例示』 【職種】 (上図の②) 現在はテキスト入力ですが、コード入力方式に変更となります。 (日本標準職業分類の小分類項目を選択) 【傷病名、傷病部位】 (上図の③) 現在はテキスト入力ですが、コード入力方式に変更となります。 (該当する傷病名、傷病部位をそれぞれ選択) 【災害発生状況及び原因】 (上図の④) 漏れなく報告できるよう、現在の記載欄を以下のように1〜5に分割します。 これにより、災害の発生状況や原因などを的確に把握しやすくなります。   【国籍・地域・在留資格】 (上図の⑤) 現在はテキスト入力ですが、コード入力方式に変更となります。 (該当する国籍・地域・在留資格をそれぞれ選択) 2 様式第24号の報告事項 様式第24号は、休業4日未満の労働災害について報告する様式です。 報告事項を今後さらに活用するため、以下の事項が追加されます。 ・労働保険番号 ・被災者の経験期間 ・国籍・在留資格 ・親事業場等の名称 ・災害発生場所の住所 など 入力支援サービスの利用 入力支援サービス(正式名称:労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る 入力支援サービス)とは、労働安全衛生法関係の帳票作成や労働基準監督署への 届出を支援するサービスです。 画面に必要事項を入力すると簡単に帳票が作成でき、e-Govを介して電子申請を 行うこともできます。 2024年8月1日現在、このサービスの対象は2025年1月より電子申請が義務化となる 手続(上述の「電子申請が義務化となる手続とは」で解説した手続)に限られていますが、今後対象手続が拡大される予定です。 また、以下のような便利な機能もあります。 ・未入力や誤入力に対しエラーメッセージが表示され、入力不備を防ぐことができる ・入力したデータを保存することにより、次回あらたに報告書を作成するときに 共通部分の入力を簡素化できる 事前申請や登録は不要で、以下から利用することができます。 参考| 厚生労働省『労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス』 入力支援サービスを利用した電子申請の流れや操作の説明については、以下のマニュアルに 分かりやすく記載されています。参考にしてください。 参考| 厚生労働省『労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス 電子申請サービス利用方法』 【操作説明イメージ】 (出典) 厚生労働省『労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス 電子申請サービス利用方法』P7 3 スマートフォン等への対応 入力支援サービスは、今後はパソコンだけでなく、スマートフォンからも 電子申請が可能となります。 パソコン、スマートフォン等を所持していない企業については、労働基準監督署に 設置のタブレットを利用して電子申請を行うことができるよう体制の整備が 進められています。 おわりに 電子申請の義務化は、2025年1月以降に労働基準監督署に提出するものから 対象となります。 たとえば「じん肺健康管理実施状況報告」は毎年12月末までの実施状況を 翌年2月末までに報告するため、次回の報告は電子申請をしなければなりません。 電子申請の対応がまだの企業は早めに準備することをおすすめします。

  • 【2025年4月】建設業における安全衛生対策に関する保護措置の対象拡大

    建設業の労働災害による2023年の死亡者数は、ここ約50年のあいだで過去最少と なりました。 しかし死亡者数は減少しているものの、全産業に占める割合は以前として 最も高いことに変わりはありません。 2025年4月から、建設業における安全衛生対策に関する保護措置の対象が拡大されます。 従業員のみならず、現場で働くさまざまな人々を守るための法改正です。 今回の記事は、建設業における安全衛生対策や法改正の内容、事業者の対応について 解説します。 危険が伴う建設現場での作業 1 死亡者数は全業種の中で最多 建設業の2023年の労働災害による死亡者数は223人で、全業種の約29.5%を占めています。(新型コロナウイルス感染症への罹患による労働災害を除く) 建設現場には、重機などの建設機械を使用したり、山間部や河川などの危険な場所や、 高所など足場の不安定な場所での作業も多くあります。 そこで働く人々の多くは、常に危険と隣り合わせの環境で作業をしているといえます。 2 複数の事業者による現場作業 建設業では、発注者からゼネコンなどに仕事が発注され、その仕事の一部をさらに別の 事業者が請け負うことがしばしば見られます。 そのためひとつの事業者が単独で作業する現場だけでなく、複数の事業者が作業する 現場も多くあります。 発注者から仕事を受けた事業者を元請事業者、元請事業者から仕事を請け負う事業者を 下請事業者といいます。 ときには下請事業者の仕事の一部をさらに別の事業者が請け負い、二次下請事業者、 三次下請事業者等によって作業が行われることもあります。 このような請負関係を「 数次(すうじ)の請負 」といいます。   建設現場での作業は危険度が高いことに加え、こうした数次の請負による施行体制の 複雑化で、施工管理や安全管理面への影響や弊害が生じるおそれもあります。 3 建設現場の安全衛生管理体制 業種や従業員数に応じて、安全や衛生に関する管理者などの選任が法令等によって 定められています。 こうして確立された体制を安全衛生管理体制といいます。 事業者には、安全衛生管理体制の確立のほか、労働災害を防止するための具体的な措置の 実施など、従業員の安全と健康の確保が義務づけられています。 建設現場には、数次の請負により複数の事業者が作業する現場が多くあります。 こうした現場の安全衛生管理体制では、元請事業者が統括安全衛生責任者や元方安全衛生 管理者を選任し、下請事業者が安全衛生責任者を選任します。 作業によっては、下請事業者による作業主任者や作業指揮者、誘導者などの選任も 必要となる場合があります。 建設業における安全衛生対策 1 2024年度の安全衛生対策 建設現場は、「墜落・転落」や「はさまれ・巻き込まれ」などの生死にかかわる重篤な 労働災害が発生しやすい環境にあります。 政府は毎年度、労働災害の未然防止や減少に向け、建設業の安全衛生対策や各対策に 対する事業者の取り組みなどを公表しています。 2024年度の建設業における安全衛生対策は以下のとおりです。 以下のサイトでは、各対策に関する参考資料が紹介されています。 参考| 東京労働局『令和6年度 建設業における安全衛生対策の推進について』 2 2025年4月、保護措置の対象拡大 事業者には雇用する従業員の安全と健康を確保する義務があります。 そして当然ながら、従業員だけではなく、現場で働くすべての人の安全と健康も 最大限尊重しなければなりません。 そのため2025年4月から、事業者には従業員だけではなく同じ現場で働くすべての人に 対し、危険箇所等での作業に対する措置を行うことが義務化されます。 なお、従業員に対する義務については今後も変更ありません。 【改正内容①】保護する対象範囲の拡大 2025年4月からの建設業における安全衛生対策に関する主な改正内容は2つあります。 ひとつ目の改正内容は、危険箇所等での作業に対する措置(退避、危険箇所への立入禁止等、火気使用禁止、悪天候時の作業禁止など)における、 保護の対象範囲の拡大 です。 1 改正後の保護対象 現在は、自社の従業員に対し、危険箇所等での作業に対する措置を行う義務があります。 今後は従業員だけでなく、 同じ現場で働くすべての人 (一人親方や他社の従業員、資材搬入業者、警備員など)に対して措置を行わなければなりません。 2 改正後の事業者対応 保護の対象範囲が拡大されることにより、これまで従業員に対して行っていた措置を、 以下のように同じ現場で働くすべての人を対象に含めて行っていくことになります。 【複数の事業者が作業を行う現場での措置】 事業者は危険箇所等での作業に対する措置を行う義務がありますが、同じ現場で複数の 事業者が作業を行う場合、立入禁止などの表示や掲示をそれぞれの事業者ごとに行う必要は ありません。 共同で行うことも可能です。 【事業者の義務の範囲】 事業者が以下のような措置を適切に行ったにもかかわらず、同じ現場で働く従業員以外の 人がそれを無視した行動を行った場合、事業者にその責任を求めるものではありません。 ・立入禁止や火気の使用禁止を明確に表示等しているにもかかわらず、立ち入ったり 火気を使用したとき ・明確に退避を求めたにもかかわらず、退避しなかったとき 【改正内容②】下請事業者や一人親方への周知の義務化 2つ目の改正内容は、作業の一部を請け負わせる下請事業者や一人親方に対する保護具等の 使用に関する周知の義務です。 立入禁止等の措置を行う危険箇所等では、例外的に作業を行わせるため、従業員に保護具等 を使用させる義務が発生する場合があります。 この作業の一部を下請事業者や一人親方に行わせるとき、事業者は今後、下請事業者や 一人親方に対して保護具等を使用する必要があることを周知しなければなりません。 (事業者は下請事業者や一人親方に対して指揮命令を行うことはできないため「周知」と いう形になります。) 周知方法は以下のとおりです。 (出典) 厚生労働省『2025年4月から事業者が行う退避や立入禁止等の措置について、以下の1、2を対象とする保護措置が義務付けられます』 また、下請事業者や一人親方が適切な保護具等を選択できるよう、事業者は保護具等の 種類や性能などについての情報を提供することが望ましいとされています。 【そのほか推奨すべき周知】 事業者が下請事業者や一人親方に以下の作業を行わせる場合、今後は「保護具等の使用」や 「特定の手順や方法により作業を行うこと」が必要な旨を周知することが推奨されます。 ・従業員に適切な保護具等を使用させることが義務付けられている作業を行わせるとき ・特定の手順や方法が義務付けられている作業を行わせるとき 【周知はどこまでの範囲に対して必要か】 事業者は請負契約の相手方に対して周知を行う必要があります。たとえば、一次から三次 までの下請事業者がいる現場では、一次下請事業者は二次下請事業者に対して周知義務が あるものの、三次下請事業者への周知義務はありません。 三次下請事業者への周知義務は二次下請事業者にあります。   【事業者の義務の範囲】 事業者は、下請事業者や一人親方に対し、保護具等の使用について確実に分かりやすく 周知することが重要です。 そのうえで、下請事業者や一人親方の判断で防護具を使用しなかった場合は、事業者に その責任を求めるものではありません。 おわりに 事業者には、従業員の安全と健康の確保が義務付けられています。 あわせて、自社の従業員だけでなく同じ現場で働くすべての人々の安全と健康を守る意識を 持って行動することは、労働災害の未然防止や減少、労働安全衛生の質の向上につながると 期待されます。

  • 従業員の育児休業から復帰手続き

    従業員が育児休業から復職するときには、企業は社会保険の手続が必要となります。 今回の記事では、その中でも従業員からの申出を確認しなくてはならない 「育児休業等終了時の月額変更」と「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」に ついて、基礎知識と手続の流れを解説します。 育児休業等終了時の月額変更とは 復職後の残業免除や減少、短時間勤務の取得などで育児休業前と働き方が異なる場合、 育児休業前よりも給与が下がることがあります。 そのとき、随時改定の要件をすべて満たしていれば、月額変更届を提出することで低下した 給与に応じて標準報酬月額が改定され、負担する社会保険料も下がります。 しかし、育児休業からの復職後は、随時改定の要件をすべて満たさないために対象と ならず、標準報酬月額の改定が行われないことが少なくありません。 そこで、育児をしながら働く従業員の社会保険料の負担を少しでも軽減する制度として「 育児休業終了時の月額変更」があります。 育児休業等終了時の月額変更の要件 3歳未満の子どもを養育している従業員が申出をし、以下の要件をすべて満たした場合、 育児休業等終了時の月額変更の対象となります。 なお、育児休業等終了時の月額変更では、随時改定の要件である固定的賃金の変動や 賃金体系の変更は伴う必要はありません。 育児休業等終了時の月額変更の要件について詳しく説明します。 1 支払基礎日数が17日以上ある月が1か月以上ある 復職日が属する月以降3か月間で、支給された給与の支払基礎日数が17日以上ある月が 少なくとも1か月以上あることが必要です。 【復職日が属する月以降3か月間とは】 復職日が属する月以降3か月間とは、復職日が属する月、復職日が属する月の翌月、 復職日が属する月の翌々月を指します。 復職日が月中である場合でも、復職日が属する月を1か月とします。 (例)10月5日に復職する場合 復職日が属する月    :10月 復職日が属する月の翌月 :11月 復職日が属する月の翌々月:12月 この場合、復職日が属する月以降3か月間は「10月」「11月」「12月」となります。 【支払基礎日数とは】 支払基礎日数とは、賃金計算の対象となる日数です。完全月給制や日給月給制、週給制の 場合は 暦日数 、日給制や時給制の場合は 出勤日数 (年次有給休暇なども含む)が支払基礎 日数となります。 ただし、日給月給制で欠勤があった場合は、就業規則等で定められた日数から欠勤日数を 差し引いた日数になります。 育児休業等終了時の月額変更においては、支払基礎日数が17日以上ある月が少なくとも 1か月以上 あることが必要です。 2 標準報酬月額に1等級以上の差がある 「従前の標準報酬月額」と「改定後の標準報酬月額」の等級差が 1等級以上 ある場合には 育児休業等終了時の月額変更の対象となります。 【等級差が1等級以上ある】 「従前の標準報酬月額」と「改定後の標準報酬月額」をくらべて1等級以上の差が生じた か確認します。 確認は以下①②の手順で行います。 ①「改定後の標準報酬月額」を確認する (1)復職日が属する月以降の3か月間に支給された給与の支払基礎日数が17日以上の月の 報酬月額を算出します。 (2)報酬月額を加入する保険者の保険料額表にあてはめ、該当する行の標準報酬月額が 「改定後の標準報酬月額」となります。 ②等級の差を確認する 保険料額表により、「改定後の標準報酬月額」と「従前の標準報酬月額」をくらべます。 1等級以上の差が生じていれば要件に該当します。 育児休業等終了時の月額変更の手続 育児休業時等終了時の月額変更の要件を満たした従業員が発生した場合、従業員本人に 届出の希望を確認します。従業員本人が届出を希望した場合は、日本年金機構に届出を します。 提出時期:速やかに 届出様式:健康保険・厚生年金保険 育児休業等終了時報酬月額変更届  添付書類:なし 届出先 :事務センターまたは管轄の年金事務所 届出方法:郵送または管轄の年金事務所へ持参、電子申請(事務センターのときは 郵送のみ) 参考・ダウンロード| 『健康保険・厚生年金保険 育児休業等終了時報酬月額変更届/厚生 年金保険 70歳以上被用者育児休業等終了時報酬月額相当額変更届(PDF)』 改定後の標準報酬月額の適用は、復職日の属する月の 4か月後 からとなります。 育児休業終了時の月額変更のメリットとデメリット 従業員にとって、育児休業等終了時の月額変更にはメリットとデメリットがあります。 手続の中で従業員本人の希望を確認する理由があるのも、メリットとデメリットを踏まえた 上で従業員本人の意向を反映させるためです。 労務担当者は、制度の内容だけではなくメリットとデメリットを従業員へ説明し、 従業員の希望に合わせて届出を行うことが大切です。 なお、デメリットである将来受け取るはずの年金額が少なくなる点は、「養育期間の従前 標準報酬月額のみなし措置」を利用することで解消できます。 「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」については次の章で詳しく説明します。 養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置とは 残業の免除や減少、短時間勤務の取得などで育児休業前よりも給与が下がり、育児休業等 終了時の月額変更で標準報酬月額が下がると、将来受け取る年金額も下がります。 育児で報酬月額が下がった場合でも将来受け取る年金額を下げずに安心して育児をして もらうために、「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」の制度があります。 具体的には、子どもが3歳になるまでのあいだで標準報酬月額が下がっても、将来受け取る 年金額については、従前の標準報酬月額の社会保険料を支払ったものとみなすことができる 制度です。 養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置の対象となるのは、3歳未満の子どもを養育する 従業員が申出をした場合です。 3歳未満の子を養育する従業員には、子を出産し養育する従業員本人はもちろん、配偶者が 出産した従業員も含まれます。 したがって、子の出生日以降であればいつでも申請は可能です。 養育開始月の前月より前1年以内に前職を退職し、養育開始後に就職した従業員で あっても、対象となります。 なお、育児休業等終了時の月額変更の対象とならなくても、3歳未満の子どもを養育して いる期間中に標準報酬月額が低下した場合は、この特例は適用されます。 養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置の手続 養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置の対象者が発生した場合、従業員本人が希望した 場合は、日本年金機構に届出をします。 提出に期限はなく、申出が遅れても養育開始月の証明書類を添付することで申出日の 前月までの2年間以内であればさかのぼることができます。 提出時期:被保険者から申出があったとき 届出様式:厚生年金 養育期間標準報酬月額特例申出書 添付書類:戸籍謄本または戸籍記載事項証明書、住民票の写し 届出先 :事務センターまたは管轄の年金事務所 届出方法:郵送または管轄の年金事務所へ持参、電子申請(事務センターのときは 郵送のみ) 参考・ダウンロード| 『厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書・終了届(PDF)』 【戸籍謄本または戸籍記載事項証明書について】 従業員が世帯主の場合は、従業員と養育する子どもの身分関係が確認できる住民票の 写しでも代用可能です。 なお、法改正により、2025年1月1日からは企業が従業員と子どもの身分関係を確認した 場合、「戸籍謄本または戸籍記載事項証明書」の 添付が省略可能 となります。 【住民票の写しについて】 育児休業終了日の翌日が属する月の初日以降で、申出日からさかのぼって90日以内に 発行されたものに限ります。 なお、申出書に従業員と子どものどちらもマイナンバーを記載している場合は、添付不要 です。 おわりに 育児休業から復職した従業員は、育児と仕事の両立で戸惑うことも多く、職場のサポートが 不可欠となります。 特に育児休業からの復職が初めての場合は、申出が必要となる養育中の社会保険の制度を 知らない従業員も多いため、丁寧に制度内容の説明を行い、メリットとデメリットを 踏まえたうえで手続を進めていく必要があります。 従業員の状況に応じて、今回紹介した制度を上手に活用していきましょう。

  • 【2024年12月】健康保険証が廃止 マイナ保険証に一本化

    2024年12月2日、現行の健康保険証が廃止されます。 現在は、健康保険証または健康保険証の利用登録をしたマイナンバーカード (以下、マイナ保険証)のどちらでも医療機関や薬局を利用できますが 今後はマイナ保険証に一本化されます。 今回の記事では、マイナ保険証の概要やメリット、企業が知っておくべきことについて 解説します。 健康保険証の廃止 マイナンバーカードと健康保険証の一体化を進める政府の方針に基づき 2024年12月2日に健康保険証が廃止 されます。 これ以降、新たに健康保険証は発行されず、マイナ保険証を基本とする仕組みに 移行されます。   (出典) 協会けんぽ『健康保険証とマイナンバーカードの一体化(マイナ保険証)に関する制度のポイント』 【1年間の経過措置】 2024年12月2日から2025年12月1日までの1年間、経過措置として、現行の健康保険証が 利用できます。 ただし退職などで資格喪失となった場合、その時点で健康保険証は利用できなくなります。 マイナ保険証とは マイナンバーカードは、個人番号(マイナンバー)が記載された顔写真付のICカードです。本人確認のための身分証明書や個人番号を証明する書類として利用したり、さまざまな 行政サービスを受けることができます。 このマイナンバーカードを健康保険証として利用登録したものが マイナ保険証 です。 1 マイナ保険証のメリット マイナ保険証を利用すると、これまで以上によりよい医療を受けることができます。 たとえば服用中の薬の情報や診療情報など、 本人が提供に同意した情報 に基づき 医師から総合的な診断を受けることができるようになります。 マイナ保険証の利用には、以下のようなメリットがあります。 2 注意すべきこと マイナ保険証を利用するときの注意点として、以下のようなことが挙げられます。   マイナ保険証の準備および利用方法 2024年12月2日以降、医療機関等の受診時には原則としてマイナ保険証を利用します。 マイナ保険証を持っていない従業員は、早めに準備しておく必要があります。 マイナ保険証の準備から利用までの詳しい方法は、以下の厚生労働省のサイトを ご覧ください。 参考| 厚生労働省『マイナンバーカードの健康保険証利用方法』  画像ファイル(.jpg、.jpeg、.png)を選択 (出典) 厚生労働省『マイナンバーカードの健康保険証利用方法』 「資格確認書」の発行および利用方法 「医療機関等のカードリーダーの故障」「マイナンバーカードを持っていない」 「マイナンバーカードを健康保険証として利用登録していない」などの理由から、 マイナ保険証を利用できないときがあります。 この場合、医療機関等への「 資格確認書 」の提示で保険診療を受けることができます。 ただし、上述の「マイナ保険証とは」で解説したマイナ保険証のメリットを受けることは できません。 【資格確認書の記載内容、イメージ】 (出典) 協会けんぽ『【事業所ご担当者様用】健康保険証とマイナンバーカードの一体化(マイナ保険証)に関する制度説明資料』P13 資格確認書の発行対象者および発行の流れは以下のとおりです。 健康保険の新規加入時に申請したり、マイナ保険証を持っていない従業員に自動発行 されるなど、いくつかパターンがあります。 (資格確認書には4~5年の有効期間があります。) (出典) 協会けんぽ『健康保険証とマイナンバーカードの一体化(マイナ保険証)に関する制度のポイント』P5 企業が知っておくべきこと①:「資格情報のお知らせ」が届きます 2024年9月および2025年1月下旬ごろ、健康保険のスムーズな手続を目的として 保険者から企業に対し「資格情報のお知らせ」が届きます。 なお、この記事では、協会けんぽからの送付に関する対応を解説します。 健康保険組合に加入している企業は、各健康保険組合へ問い合わせしてください。 1 「資格情報のお知らせ」が企業に届く 「資格情報のお知らせ」とは、スムーズに健康保険の手続をするための書類です。 健康保険の被保険者である従業員宛(およびその被扶養者宛)に企業経由で届きます。 ①送付対象者 健康保険の被保険者である従業員全員およびその被扶養者(日雇特例被保険者および その被扶養者を除く) ②送付時期 健康保険の加入時期に応じて2回に分かれて届きます。 ③送付方法 被保険者宛および被扶養者宛の封筒がまとめて企業に届きます。 特定記録郵便で送付される予定です。 ④送付されるもの ・資格情報のお知らせ ・説明チラシ ・マイナ保険証説明チラシ なお、協会けんぽ側で個人番号の登録ができていない従業員には、マイナンバー登録申出書と返信用封筒も同封されます。 (出典) 協会けんぽ『資格情報のお知らせ及び加入者情報(マイナンバー下4桁)の送付等について』P6 【「資格情報のお知らせ」の記載内容】 (出典) 協会けんぽ『資格情報のお知らせ及び加入者情報(マイナンバー下4桁)の送付等について』P3 2 従業員に封筒を配布する 被保険者宛および被扶養者宛の封筒を従業員に配布します。 (出典) 協会けんぽ『資格情報のお知らせと加入者情報(マイナンバーの下4桁)の配布をお願いします。』 3 従業員に「資格情報のお知らせ」について説明を行う 「2」で従業員に封筒を配布するとともに、「資格情報のお知らせ」について説明します。記載内容の確認も行うよう周知してください。 (出典) 協会けんぽ『資格情報のお知らせ及び加入者情報(マイナンバー下4桁)の送付等について』P4 【上段:資格情報の確認】 健康保険の資格情報を確認してください。 【中段:個人番号(マイナンバー)下4桁の確認】 医療保険のデータベースに登録されている個人番号の下4桁が表示されています。 正しい番号が表示されているか確認してください。 【下段:「資格情報のお知らせ」の保管】 2024年12月2日以降、給付金等の申請や医療機関等の受診時に利用できます。 切り取って大切に保管してください。 「資格情報のお知らせ」は、マイナ保険証とセットで提示することにより、カードリーダーが利用できないときにも保険診療が可能となります。 【マイナ保険証、資格確認書、資格情報のお知らせの違い】 健康保険証の廃止後、医療機関等を受診するときは「マイナ保険証」「資格確認書」 「資格情報のお知らせ」の3種類のカードのいずれかを利用します。 その違いは以下のとおりです。   (出典) 協会けんぽ『健康保険証とマイナンバーカードの一体化(マイナ保険証)に関する制度のポイント』P7 企業が知っておくべきこと②:社会保険の手続その他の対応について 2024年12月2日以降の企業の対応について、人事労務担当者は以下の内容を理解しておく 必要があります。 1 資格取得、被扶養者の異動(該当)があったとき ①資格確認書の申請 従業員が資格確認書の発行を希望する場合、資格取得届の提出とあわせて 資格確認書の申請も行います。 (資格取得届に資格確認書の希望有無欄が追加される予定) ②健康保険証について 健康保険証は発行されません。 代わりに「資格情報のお知らせ」が交付されます。(申請は不要です。) ③その他注意事項 届出時に誤った個人番号を記載した場合、従業員がマイナ保険証を利用して 医療機関等を受診したときに支障が出る可能性があるため注意してください。 2 資格喪失、被扶養者の移動(非該当)があったとき 今後は従業員からの健康保険証の回収が不要となります。 資格確認書には4~5年の有効期間があります。資格確認書が発行されている場合、 資格喪失や被扶養者の異動(非該当)が有効期間内のときは資格確認書の回収が必要です。(有効期間後は自己破棄も可能) 3 在籍している従業員の健康保険証 2024年12月2日以降も引き続き被保険者である従業員の、健康保険証の取扱いは 以下のとおりです。 企業が健康保険証を回収する必要はありません。 ①1年間の経過措置 経過措置として、2025年12月1日までの1年間、退職などで資格喪失にならないかぎり 現行の健康保険証が利用できます。 (その場合、②の自己破棄はしないよう注意してください。) ②自己破棄可能 2024年12月2日以降、現行の健康保険証は従業員自身で破棄しても差し支えありません。 (出典) 協会けんぽ『【事業所ご担当者様用】健康保険証とマイナンバーカードの一体化(マイナ保険証)に関する制度説明資料』P7 4 保険証の再発行について ①健康保険証 2024年12月2日以降は再発行されません。 そのため企業による再発行の手続はなくなります。 ②マイナ保険証 万が一紛失した場合、従業員自身が利用一時停止を行ってください。 利用一時停止の受付:24時間365日フリーダイヤル(0120-95-0178) 参考| デジタル庁『よくある質問:マイナンバーカードの健康保険証利用について』Q6 おわりに 健康保険証の廃止前後は、人事労務担当者への問い合わせが増えることも予想されます。 なかには、マイナンバーカードを持っていなかったり、マイナンバーカードを 健康保険証として利用登録していない従業員もいるかもしれません。 義務ではないため強制はできませんが、登録を忘れている従業員などに対して 案内をするなど、一本化に向けた準備を進めておくことをおすすめします。

  • 人事労務担当者必読!書類の保存期間

    人事労務担当者は、従業員や会社情報などの機密情報を含む書類を多く取り扱います。 こうした書類の保管や保存も担当者の重要な役割ですが、増える一方の書類をいつまで 管理すべきか悩む場面もよく見受けられます。 今回の記事は、人事労務担当者が取り扱う書類の保存期間や、保存するうえで留意すべき 点について解説します。 書類の保存について 1 保管と保存の違い 人事労務関係の書類は、法令等により保管や保存期間が定められているものが多く あります。 保管と保存は似ていますが、異なる意味を持ちます。 ①保管 :ある場所に置いて保持すること。一時的なものであり、必要な時に取り出して 使用したりすることができる ②保存 :永続的に保持すること。長期間にわたり保持が見込まれる この記事では、保管と保存をあわせて「保存」と表現し解説します。 2 法定保存文書とは 書類には、法令等により一定の期間保存することが義務付けられている書類があります。 これを 法定保存文書 といいます。 人事労務関係の書類は、法定保存文書に該当するものも多くあります。 この後の解説のとおり、法令等により保存期間もさまざまなので、適正に把握しておきましょう。 労働基準法に関する書類 従業員の雇用や退職、労働条件など、労働関係の書類の 保存期間は5年 (経過措置として 当分のあいだは3年 )です。   【2020年3月以前の書類について】 2020年4月1日の法改正により、「完結の日」を起算日とする書類については、この記録に かかる「賃金支払日」が「完結した日」より遅い場合、賃金支払日を起算日とすることと なりました。 たとえば、タイムカードなど2020年3月31日以前に完結したものであっても、賃金支払日が 2020年4月1日以後の場合は、賃金支払日から起算して保存することとなるため留意して ください。 (出典) 厚生労働省『改正労働基準法等に関するQ&A』P9 安全衛生に関する書類 健康診断の記録や安全衛生委員会など、安全衛生に関する書類の多くの 保存期間は5年も しくは3年 です。 ただし、特殊健康診断など、長期間保存しなければならない書類もあります。   参考| 東京労働局『労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう』 【特定健康診断個人票のイメージ】   (出典) 厚生労働省『長期保存が必要な健康診断結果等の取扱について』 労働保険料の徴収等に関する書類 労働保険の保険関係の成立や消滅、労働保険料の徴収等に関する書類の 保存期間は 3年 です。 ただし、雇用保険被保険者関係届出事務等処理簿のみ 保存期間は4年 となっています。 労災保険に関する書類 労災保険に関する書類の 保存期間は3年 です。 労働保険料の徴収等については、「労働保険料の徴収等に関する書類」をご覧ください。) 雇用保険に関する書類 雇用保険に関する書類の 保存期間は2年 です。 ただし、被保険者に関する書類の 保存期間は4年 となっています。   社会保険に関する書類 社会保険(健康保険、厚生年金保険)に関する書類の 保存期間は2年 です。   年末調整、退職金に関する書類 年末調整や退職金の源泉徴収に関する書類の 保存期間は7年 です。 法定保存文書以外の書類の保存期間 書類の保存が必要なのは法定保存文書だけではありません。それ以外の書類でも、 企業にとって重要な書類は保存しておく必要があります。 あらかじめ書類の保存期限を決めておくことが、適切な管理につながります。 保存期間が過ぎた書類はどうするか 書類の保存期間が経過した場合、速やかに廃棄処分を行います。 ただし、廃棄には十分な注意が必要です。 廃棄を誤ると個人情報の流出や法令等の違反など大きなトラブルにつながる恐れがあります。 ①廃棄前の確認 誤って保存期間前に廃棄することのないよう、ダブルチェック体制をつくるなどの対策を します。 ②確実な廃棄 シュレッダーによる裁断など、個人情報などが外部に漏れない確実な方法で廃棄します。 廃棄書類が多い場合は、書類を溶解処分する業者への依頼もおすすめします。 文書管理規程などのルール化 書類の適切な保存を怠ると、法令等の違反や情報漏洩などさまざまな問題が発生する 可能性が生まれます。 文書管理規程など、企業内のルールを定めておくことをおすすめします。 ①書類の範囲 :法定保存文書やそれ以外の書類など保存する書類の範囲 ②書類の保存期間 :法定保存文書およびそれ以外の書類の保存期間 ③責任の明確化 :書類の保存に関する責任者や担当部署など責任所在の明確化 ④管理方法 :保存場所や施錠の管理、コピーや持ち出しを希望する場合の対応など ⑤廃棄方法 :廃棄前の確認や廃棄の方法など 保存期間の定めに違反したとき 法令等により定められた保存期間が過ぎる前の書類廃棄など、法令等に違反した場合、 罰則が課せられる可能性があります。 労働基準法に関する書類の保存期間に違反したとき :30万円以下の罰金 など 書類の保存期間一覧 以下は人事労務関係書類の保存期間をまとめた一覧です。 適正な書類保存や業務の効率化のため、参考にしてください。 参考・ダウンロード| 『人事労務にかかる書類の保存期間一覧』 おわりに e-文書法(正式名称:民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に 関する法律)により、一定の要件を満たした場合、紙だけでなくデータによる書類の保存も 可能となっています。 労働基準法や労働安全衛生法、そのほか労働保険・社会保険に関する法令等で保存が 義務付けられている書類も対象です。 (ただし、緊急時などにすぐに読める状態が必要な書類など一部の書類を除く) 業務の効率化、ペーパーレス化なども図りながら、適切に書類を保存することをおすすめします。

  • 企業に求められる安全配慮義務

    企業には守らなければならない義務がさまざまありますが、そのなかのひとつに 安全配慮義務があります。 しかし、具体的に何をすべきか理解しづらいと感じる労務担当者も多いかと思います。 今回の記事では、安全配慮義務の概要や事例、企業の対応方法について解説します。 安全配慮義務とは 安全配慮義務とは、従業員の生命や身体の安全、心身の健康などを確保して働けるよう 配慮する義務のことです。 職場での労働災害を未然に防ぐための、安全衛生管理上の義務ともいえます。 企業は雇用契約上、従業員に賃金を支払う義務を負います。 しかし、ただ賃金を支払う義務を負うだけでなく、付随して従業員への安全配慮義務も 負います。 従業員が危険に遭遇し、たとえケガなどの被害がなかったとしても、事前の対策や 予防を怠っていただけで契約違反(債務不履行)となり、損害賠償責任を問われる ケースもあります。 安全配慮義務違反の事例および防止対策 企業が配慮しなければならない内容について、特定の措置などの定めはありませんが、 従業員の職種や業務内容、就業場所など具体的な状況に応じた必要な配慮が求められます。 以下①〜③は、安全配慮義務違反となった事例です。 ①〜③は典型的なケースですが、④⑤は働き方や環境の変化によって、新たに安全配慮義務 違反とならないように気を付けなければならないケースです。 各ケースとその対策例を参考に、安全配慮義務の取り組みに役立ててください。 ①事故・災害 製麺会社で働く従業員が製麺機に左手を巻き込まれて骨折した事例です。 製麺機の刃にカバーをかぶせるなどの対策を行っていなかったことや、製麺機の危険性に ついて十分な教育を行っていなかったことから、安全配慮義務の違反が認められました。 ただし、従業員側にも落ち度があるなどの事情も考慮されたため、従業員の過失割合が 3割と認定され、企業は損害額の7割の賠償責任を負うこととなりました。   なお、厚生労働省のサイトに、業種別の安全対策に関する資料が紹介されています。 参考にしてください。 参考| 福岡労働局『パンフレット・リーフレット(安全対策関係)』 ②過重労働 月100時間を超える時間外労働が長期間行われていた事例です。 実際に体調を崩していない状況にも関わらず、安全配慮義務の違反が認められました。 長期間に渡り長時間労働をさせているにもかかわらず、労働時間の減少のための対策を 講じなかったことによる責任です。 一般的に、過重労働による安全配慮については、従業員に何らかの病気や精神障害などが 発症し、その要因が長時間労働であると判断されたことにより義務違反が認められますが、 この事例は、疾病の発症が判断とはなっていません。 長時間労働が従業員の健康に危険を及ぼすことは周知の事実です。 だからこそ、企業による労働時間の管理や長時間労働などの対策は非常に重要です。 過労死ラインとされる「2~6か月の平均残業時間が80時間」「1か月の残業時間が100時間」の水準を超えていなくても、これに近い残業を行っている場合は義務違反となる 可能性が高くなります。 なお、過重労働は労働時間の長さだけで判断されるものではありません。 長時間労働以外の要因による大きな負荷がかかっていなかったかなども考慮して 判断されます。 ③ハラスメント 暴言や暴行などのパワーハラスメントを受けて後遺症が残った事例です。 ある従業員がパワーハラスメントを受けていることを上司が認識しているにもかかわらず、 企業が何の対応も行わなかったことに対して、安全配慮義務の違反が認められました。   参考| 厚生労働省『職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です︕』 ④在宅勤務 在宅勤務では直接従業員の様子を確認できないため、労働時間の管理が難しく、労働時間が 長時間になる傾向があります。 労働時間の管理が不完全であったり、長時間労働による心身の不調が見られた場合、安全 配慮義務違反となる可能性もあります。   ⑤副業・兼業 従業員の副業や兼業を認めている企業では、副業や兼業先での労働時間も考慮する必要が あります。 適切な対応を行わなかったことにより従業員が体調を崩してしまった場合など、安全配慮 義務違反となる可能性もあります。 なお、従業員が個人事業主として事業を行っている場合の兼業については注意が必要です。 個人事業主は労働基準法が適用されないため法定労働時間の問題は生じません。 そのため個人事業主として兼業している従業員への配慮は不要と考えられがちです。 しかし、企業はその従業員を雇用している以上、心身の疲労など健康への安全配慮を 行わなければなりません。 個人事業主であっても定期的に勤務状況などを報告させることをおすすめします。 時間の把握を行うとともに、心身の不調などが見られる場合は適切な措置を行う必要が あります。 安全配慮義務を怠ったときの罰則 ①労働契約法 安全配慮義務が定められている労働契約法では、義務を怠ったことによる罰則の定めは とくにありません。 ただし、安全配慮義務を怠ったことにより何らかの問題が発生した場合など、状況によって は民事上の責任(債務不履行、不法行為責任、使用者責任など)として多額の損害賠償を 請求される可能性もあります。 ②労働安全衛生法 労働安全衛生法には、従業員の安全と健康を守るために企業が取り組まなければならない 義務などが定められています。 義務を怠った場合には罰則があります。 労働安全衛生法はあくまでも最低限守るべき基準です。 この基準を満たすだけで足りるというものではなく、個別の状況に応じた最低基準以上の 必要な対策を行うことが安全配慮義務では求められています。 労働安全衛生法上の罰則を免れられたからといって、必ずしも民事上の損害賠償責任が ないとはいえません。 おわりに 安全配慮義務違反による罰則が適用されなかったとしても、違反を問われるような状況が 起きれば、従業員だけではなく企業の社会的信頼も失いかねません。 その結果、取引先からの信用失墜、優秀な人材の流出など、大きなダメージを受ける可能性 もあります。 安全配慮義務は、従業員の危険をあらかじめ予測し対策を行うものです。 どのように取り組むべきか分かりにくい場合があるかもしれません。 労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタントなどの、労働安全や労働衛生の専門家に 相談するのもひとつの方法です。

  • 【2024年改正】育児・介護休業法ポイント

    2024年5月31日、 改正育児・介護休業法等 が公布されました。 この改正では、育児・介護と仕事の両立を目的に、特に多様化する育児期の 働き方のニーズや介護の両立支援制度の認知度向上に対応するための制度が 拡充されました。 それに伴い、就業規則や労使協定の見直しが必要な場合もあるため注意が必要です。 今回の記事では、2024年の改正法の内容と、企業が注意すべきポイントを解説します。 育児と仕事の両立支援 今回の改正では、主に3歳以降の子をもつ従業員を対象とした制度の新設・変更が 行われています。 背景としては、既存の制度が3歳までを対象としているものが多いことや、子の成長に 合わせてフルタイムで働きながら両立を行いたいというニーズが増えることなどが 挙げられ、これらに対応するための改正となっています。 改正に合わせて、就業規則や育児・介護休業規程などの見直しも必要となりますので、 注意してください。   【育児①】子の看護休暇の見直し(2025年4月施行) 病気やケガ、予防接種など、子の世話を行う従業員に与えられる「子の看護休暇」の要件が 2025年4月1日 から拡大されます。 新型コロナウイルスの流行による学校等の休校や学級閉鎖に伴い、仕事を休まざるを 得なかった従業員も多くいたことから、取得事由に 感染症による学級閉鎖 や 入園式・ 卒園式・入学式の参加 が追加されます(詳細は今後の省令で公表されます)。 これに伴い、名称が「 子の看護等休暇 」に変更されます。 また、休暇を取得できる子の年齢も 小学校3年生の修了まで に延長されます。   なお、現在の制度では労使協定の締結により、子の看護休暇の取得が適用除外と されている範囲は以下のとおりです。 ・継続して雇用された期間が6か月に満たない従業員 ・1週間の所定労働日数が2日以下の従業員 しかし、2025年4月1日以降は、労使協定の適用除外の範囲のうち「継続して雇用された 期間が6か月に満たない従業員」は撤廃されます。 施行日以前に当該労使協定を結んでいる企業は、見直しが必要となりますので注意して ください。 【育児②】残業免除(所定外労働の制限)の延長(2025年4月施行) 子を養育する従業員が残業の免除(所定外労働の制限)を受けることができる制度の 対象が2025年4月1日から拡大されます。 3歳未満の子をもつ従業員から、 小学校入学前の子をもつ従業員 へと拡大され、 さらに柔軟な働き方に対応できるようになります。 【育児③】柔軟な働き方のための措置の義務化(施行日未定) 子の年齢に応じて、育児と仕事を両立しながらフルタイムで働くニーズが増えていく ことを踏まえ、既存の制度では対応できていない 3歳から小学校入学前の子をもつ 従業員に対し、柔軟な働き方を実現するための措置が義務化 されます。 企業は、以下の制度から 2つ以上を選択して措置を講じる必要 があります。 なお、詳細は今後省令で公表されます。   2022年の調査では、育児のための所定労働時間の短縮措置等の制度を導入している 企業の71.6%が短時間勤務制度を実施しています。 今回の改正では、フルタイムの労働と育児の両立が大きな目的とされていますので、 短時間勤務制度に加えて他の措置の導入も積極的に検討されることをおすすめします。 【注意点】 企業が措置を選択するときには、従業員の過半数労働組合または過半数代表者に 意見を聴く必要があります。 また、 3歳になるまでの適切な時期 に、企業は 従業員への制度の周知と利用の意向を 確認するための面談などの措置 を講じる必要があります。 加えて、制度の利用中にも従業員のニーズを把握するため、継続的に面談などを行う ことをおすすめします。 【育児④】個別の意向聴取・配慮の義務化(施行日未定) 従業員の仕事と育児の両立支援の多様なニーズに対応するため、 個別の意向確認と配慮 が 企業に義務付けられます。 意向確認を行う時期は、従業員から妊娠・出産の申出があったときに行う 「育児休業などの取得確認のための面談等(2022年4月施行)」のときと、 3歳になるまでのあいだに行う「柔軟な働き方のための措置」の周知や意向確認の ための面談等のときです。 企業は、育児と仕事の両立困難による従業員の離職を防ぐため、勤務地などの 別の意向を確認し、自社の状況に応じて配慮を行う必要があります。   法定の時期以外にも、育児休業からの復帰時や従業員から申出があったときには その都度意向を確認することが大切です。 さらに障害をもつ子を養育する場合やひとり親の場合には、従業員の希望に応じ、 より柔軟な制度運用が望まれます。 【育児⑤】テレワークの努力義務化(2025年4月施行) 2025年4月1日から、育児を行う従業員がテレワークを選択できるように取り組むことが 企業の努力義務 となります。 対象となる従業員は、3歳未満の子を養育する従業員です。 【育児⑥】育児休業の取得状況の公表義務の拡大(2025年4月施行) 男性の育児休業の取得を促進するため、2023年4月から従業員数が1,000人を超える 企業には男性従業員の育児休業の取得状況の公表が義務付けられています。 今回の改正により、 2025年4月1日から従業員数が300人を超える企業 へと 対象が拡大されます。 【育児⑦】育児休業などの状況把握・数値目標設定の義務化(2025年4月施行) 仕事と育児の両立支援に関する企業の取り組みを促進する目的で、 2025年4月1日から 従業員数が100人を超える企業には一般事業主行動計画の策定時に以下のことが 義務 付けられます。 義務化の対象となる行動計画は、施行日以降に開始されるものとなります。 介護と仕事の両立支援 介護休業や介護休暇など、介護と仕事の両立支援制度は法律で定められています。 しかし、介護を理由に離職した人の中には、仕事を続けたかったにもかかわらず 両立支援制度を利用できずに離職した人が一定数います。 このような状況を防ぐために、今回の改正では、企業が両立支援制度の周知や 雇用環境の整備を行うことが盛り込まれています。 【介護①】個別の周知・意向確認の義務化(2025年4月施行) 育児休業制度の個別周知・意向確認の仕組み(2022年4月施行)のように、 介護に関する両立支援制度についても、家族の介護に直面した 従業員の申出があった場合、 制度の個別周知と意向確認が2025年4月1日から 企業に義務付けられます。 面談や書面の交付などが予定されていますが、詳細は省令で公表されます。 なお、個別周知と意向確認は、従業員に利用を控えさせるような形で行わないように 注意してください。 【介護②】制度に関する早期の情報提供の義務化(2025年4月施行) 従業員が介護に直面する前に両立支援制度について知り、内容を理解するため、 40歳等の早い段階で情報提供を行うこと が 2025年4月1日から 企業に義務付けられます。 【介護③】雇用環境の整備の義務化(2025年4月施行) 両立支援制度の利用の円滑化のため、 2025年4月1日から 企業は両立支援制度に関して、 研修や相談窓口設置など一定の措置の中からいずれかを講じる必要があります。 (詳細は省令で公表されます。) 【介護④】介護休暇の労使協定に関する変更(2025年4月施行) 要介護状態の家族を介護するための介護休暇は、労使協定を締結することで 雇用期間が6か月未満の従業員を対象から除外できますが、日常的な介護のニーズは 雇用期間にかかわらず存在するため、 2025年4月1日からこの仕組みは廃止 されます。 【介護⑤】テレワークの努力義務化(2025年4月施行) 育児と仕事の両立支援制度と同様に、 2025年4月1日から、介護を行う従業員が テレワークを選択できるように取り組むことも企業の努力義務 となります。 対象となる従業員は、要介護状態の家族を介護する従業員です。 おわりに 今回の改正では多くの制度が新設・変更されていますので、既存の社内制度を 今一度確認し、必要があれば就業規則などの変更の準備を行ってください。 現時点で、企業が独自に法を上回る内容を定めている場合でも、改正により、 その内容レベルまで義務の基準が引き上げられることも考えられます。 これを機に社内制度の見直しを図ることは、さらなる職場環境の充実に効果的といえます。

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