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「」に対する検索結果が110件見つかりました

  • ドライバーの労働時間等の改善基準が変わります。

    2024年4月1日、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が改正されます。 これは、同じく4月の法改正でトラック、バス、タクシーなどの自動車運転者 (以下、ドライバー)の時間外労働の上限規制が適用されることを踏まえての見直しと なります。 ドライバーを雇用する企業は働き方の見直しをはじめ、人手不足などさまざまな問題に 直面しており、対応が急がれています。 なかでも、ドライバーを多く抱える物流・運送業の状況は「2024年問題」とも呼ばれ、 2023年の「新語・流行語大賞」のノミネート語にも選ばれるなど、深刻な問題となって います。 今回の改正はドライバーを雇用する企業以外でも、多くの企業に影響をおよぼす可能性が あるため、すべての企業が自分事として対応に取り組むことが求められます。 今回は、この改善基準告示の改正内容と、物流・運送業をはじめとしたドライバーを 雇用する企業およびそれ以外の企業がそれぞれ取り組むべきことを解説します。 改善基準告示とは 「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下、改善基準告示)は、 ドライバーの労働条件をより良くするため、拘束時間の上限や休息時間など労働時間等の 基準を定めたものです。 ドライバーの長時間労働を防ぐことは、ドライバー自身の健康確保はもちろんのこと、 交通事故の予防など国民の安全確保の観点からも大切です。 【対象業種】 物流・運送業に限らず、ドライバーを雇用するすべての事業に適用されます。 【対象者】 物や人を運搬するため、自動車を運転する時間が労働時間の半分を超えることが見込まれる 従業員が対象です。 そのため、以下のような従業員も対象となります。 (例) トラック運転者:工場など製造業における配達部門のドライバー バス運転者:旅館の送迎用のバスやスクールバスのドライバー なお、企業の役員や個人事業主(以下、個人事業主等)は改善基準告示の対象では ありません。 しかし、道路運送法などの法令等では、ドライバーの過労死防止等の観点からドライバーの 労働時間等についての規定があり、その基準として改善基準告示が引用されています。 この規定はドライバーが個人事業主等である場合も適用されるため、実質的に改善基準告示 に留意する必要があります。 ここからは、トラック運転者、バス運転者、タクシー・ハイヤー運転者ごとに改正内容を 解説します。 ドライバーの労働時間等の定義 ドライバーは、目的地によっては長時間拘束されたり、荷主等の都合による待機時間 (以下、荷待ち時間)や仮眠時間などがあるなど、一般的な労働時間とは異なる時間も 発生します。 以下は、ドライバーの労働時間等の定義です。 ①拘束時間 始業から終業までの、企業に拘束される時間です。(労働時間+休憩時間) ・労働時間:運転や整備、発送準備などの作業時間(荷待ち時間も含む) ・休憩時間:労働時間の合間でドライバーや運行管理者が自己判断で身体を休める時間 (食事や仮眠時間も含む) (出典)厚生労働省『トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント』P3 ②休息時間 業務から解放され、次の業務まで完全に自由に過ごすことができる時間です。 睡眠時間を含む、ドライバーの生活時間にあたります。 ③運転時間 労働時間のうち、ドライバーが運転している時間です。 トラックおよびバスの運転者の1日、1週の運転時間を算定するにあたり、以下のように 考えます。 ・1日:2日を平均した1日あたりの時間 ・1週:2週間(バスは4週間)を平均した1週あたりの時間 ④休日 ドライバーの休日の取扱いは「休息時間+24時間」の連続した時間をいいます。 なお、休日は30時間を下回ることはできません。 【トラック運転者】改正後のポイント 物流・運送業では、トラック運転者の人手不足が深刻化しています。 インターネットの通信販売の利用増加による宅配の取扱い個数の増加や再配達の増加、 当日配達サービスなどサービスの高度化により、配達ドライバーが長時間労働をせざるを 得ない状況も一因です。 【改正後の改善基準告示】 ①拘束時間 ・1年:原則3,300時間以内(※1) ・1か月:原則284時間以内(※1) ・1日:原則13時間以内(上限15時間)(※2、※3) ※1:労使協定により、年間3,400時間、1か月310時間まで延長可 (ただし、1年のうち6か月まで。かつ284時間超は連続3か月まで) ※2:14時間を超える回数をできるだけ少なくする。(週2回までが目安) ※3:長距離の貨物運送で宿泊を伴う場合、週2回に限り上限16時間まで延長可能の場合あり なお、1か月の時間外労働および休日労働の合計時間数が、100時間未満となるよう努める 必要があります。 (出典)厚生労働省『トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント』P4 ②休息時間 基本的に継続11時間以上与えるよう努め、継続9時間を下回ってはいけません。 ただし、長距離の貨物運送で宿泊を伴う場合、週2回に限り継続8時間以上でも可能な場合が あります。 (継続9時間未満になった後は継続12時間以上の休息期間が必要) (出典)厚生労働省『トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント』P7 ③運転時間 運転時間は2日平均で1日あたり9時間以内、2週平均で1週あたり44時間以内です。 また、連続する運転時間は4時間以内とします。4時間を超えるまでに、1回がおおむね 10分以上かつ合計30分以上の休憩が必要です。 ④時間外労働および休日労働 時間外労働や休日労働により、①の拘束時間を超えてはいけません。また、休日労働は 2週間に1回までです。 ⑤予期し得ない事態が発生したとき 災害や事故など予測不能な事態により運行が遅延したとき、拘束時間、運転時間から その対応時間を除くことができます。 そのほか厚生労働省のリーフレットも参考にしてください。 参考|厚生労働省『トラック運転者の改善基準告示が改正されます!』 【バス運転者】改正後のポイント バス運転者もトラック運転者同様に不足しています。 このような状況でも路線バスなどが日々のダイヤに合わせた人員配置をするためには、 運転者に長時間労働を強いることとなり、その結果さらに人手不足を招くという悪循環と なっています。 【改正後の改善基準告示】 ①拘束時間、休息時間 労務管理などの実態に応じて、拘束時間は「1年・1か月」「52週・4週平均1週(※)」 いずれかの基準を選択します。 ※4週間を平均した1週あたりの時間 (出典)厚生労働省『バス運転者の改善基準告示が改正されます!』P2 ②運転時間 運転時間は2日平均で1日あたり9時間以内、4週平均で1週あたり40時間以内です。 また、連続する運転時間は4時間以内とします。4時間を超えるまでに1回がおおむね10分 以上かつ合計30分以上の休憩が必要です。 ③時間外労働および休日労働 時間外労働や休日労働により、①の拘束時間を超えてはいけません。また、休日労働は 2週間に1回までです。 そのほか厚生労働省のリーフレットも参考にしてください。 参考|厚生労働省『バス運転者の改善基準告示が改正されます!』 【タクシー・ハイヤー運転者】改正後のポイント 1 タクシー運転者 タクシー運転者には、以下のような勤務形態があります。 ・日勤勤務:1日の所定労働時間が8時間など一般的な勤務形態です。 昼日勤や夜日勤があります。 ・隔日勤務:2日間を1単位とした勤務形態です。1回の乗務が長時間であるため1日おきに勤務します。 【改正後の改善基準告示】 ①拘束時間、休息時間 (出典)厚生労働省『タクシー・ハイヤー運転者の改善基準告示が改正されます!』P2 ②車庫待ち等 「車庫待ち等」は、車庫で待機し、顧客からの呼び出しに応じて出庫する営業形態です。 このうち、一定の要件を満たす場合は「車庫待ち等の自動車運転者」として、以下の拘束 時間が適用されます。 (出典)厚生労働省『タクシー・ハイヤー運転者の改善基準告示が改正されます!』P2 2 ハイヤー運転者 ハイヤーは完全予約制で運転手付きの貸切乗用車です。要人や役員などの移動手段に 利用されることも多く、上質なサービスが提供されます。 勤務形態がタクシー運転者とは異なるため、タクシー運転手の拘束時間や休息期間などの 基準は適用されず、以下のように定められています。 (出典)厚生労働省『タクシー・ハイヤー運転者の改善基準告示が改正されます!』P2 そのほか厚生労働省のリーフレットも参考にしてください。 参考|厚生労働省『タクシー・ハイヤー運転者の改善基準告示が改正されます!』 ドライバーを雇用する企業が対応すべきこと 1 36協定届の様式変更 36協定の対象者にドライバーを含む場合、2024年4月より36協定届の様式が変わります。 ・一般条項のみ:様式第9号の3の4 ・特別条項あり:様式第9号の3の5 (ドライバーの上限は年960時間以内、それ以外の業務は年720時間以内) (出典)静岡労働局『自動車運転者についても、時間外労働の上限規制が適用されます』P1 なお、対象者にドライバーを含まない場合、物流・運送業であっても36協定届は様式 第9号(一般条項のみ)または様式第9号の2(特別条項あり)となります。 様式は以下のサイトからダウンロードできます。 参考・ダウンロード|厚生労働省『主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)』 2 業務効率化のためのシステム導入 配車計画システム、ドライバーの勤務形態に対応できる労務管理システムなどの導入に より、時間コストの削減や人的ミスの防止を図ります。 3 配送形態の見直しなど長時間労働対策 1人のドライバーによる長距離運送は、長時間労働の一因につながります。 複数のドライバーがリレー方式で運送するなどの体制の見直しは、従業員の負担軽減に 有効です。 また、健康診断だけでなく、気軽に利用できる相談窓口の設置や日頃の声かけなど、 ドライバーの心身の健康状態の把握に努めることも大切です。 ドライバーが自身の疲労状態を自覚するための「労働者の疲労蓄積度自己診断チェック リスト」などの活用もおすすめします。 参考・ダウンロード|厚生労働省『労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト(2023年改正版)』 4 ドライバーの人材確保 ドライバーは、長時間労働や休日の少なさなどから若年層に敬遠される傾向にあり、 人手不足および高齢化に拍車をかけています。 給与体系の見直しや有給休暇を取得しやすい職場環境づくり、福利厚生の充実などを行い、 人材確保に努めることが必要です。 また、時短勤務など働き方の多様化を進めることは、女性や副業を希望する方などの新たな 層の採用にもつながる可能性があります。 5 荷主への協力要請 ドライバーの長時間労働の問題は、物流・運送業者である企業の努力だけでは対処しきれないこともあります。 荷主と協力しながら取引環境の改善に向けた取り組みが必要です。 荷主企業への影響、協力できること 「2024年問題」の影響は物流・運送業者だけに限るものではありません。 多くの企業が、荷主として荷物の配送依頼をしたり(発荷主)、荷物を受け取ったり (着荷主)しています。 今後、荷主への影響として「指定した日時に荷物が届かない」「配送を断られる」など、 これまでにない状況が発生する可能性も考えられます。 こうした懸念への対策には荷主の協力が欠かせません。 ドライバーの労働時間の削減や労働環境の改善は、サービス向上にもつながり、荷主にも メリットをもたらします。 物流・運送業者と連携しながら2024年問題に取り組むことが大切です。 なお、長時間の荷待ちがいつまでも改善されない状況が続くなど改善基準告示の違反を 疑われる場合、労働基準監督署から荷主等に対して「要請」が行われる可能性があります。 (出典)厚生労働省『トラックドライバーの新しい労働時間規制が始まります!』P4 おわりに 改善基準告示の違反による罰則はないものの、労働基準監督署の指導を受けたり、 状況によっては国土交通省の行政処分を受ける可能性があります。 ドライバーを雇用する企業だけでなく、荷主企業も含めたあらゆる企業が自社ですべき ことを検討し早急に取り組むことが求められています。

  • 厚生労働省から、労働に関する現状や課題についての発表がありました。

    厚生労働省は前年の労働に関する現状や課題をまとめた「労働経済の分析」を 毎年発表しています。 2023年9月に、2022年のデータが発表されました。 今回は、「持続的な賃上げに向けて」をテーマに分析が行われています。 新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着き、求人倍率や転職者数などの雇用情勢は 2019年以前の水準に迫っています。 一方で、賃金に関しては1990年代後半以降伸び悩んでいます。 このマガジンでは、厚生労働省の発表を基に、雇用情勢や企業が人手不足に対応 するためのポイントをまとめています。 現在の雇用情勢 1 雇用の過不足の状況 雇用の過不足の状況を産業別に見てみると、2021年以降はすべての産業で人手が 足りていない状況であることが分かります。 新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言の発出などの影響で経済が停滞 したことにより、2020年・2021年には特に事業の継続が困難だった「宿泊・飲食 サービス」や「製造業」を中心に大量の離職者が発生しました(完全失業率の増加)。 その後完全失業率は低下していますが、現在もこの大量離職の反動で人手不足が 続いています。 (出典)厚生労働省『令和5年版 労働経済の分析』P36 (出典)厚生労働省『令和5年版 労働経済の分析』P15 2 非正規雇用 雇用者に占める非正規雇用者の割合は増加の傾向にあり、2022年には36.9%を記録 しました。 ただし、2020年・2021年は非正規雇用者数が前年に比べて減少していることからも、 新型コロナウイルス感染症による大量離職の影響を見て取ることができます。 (出典)厚生労働省『「非正規雇用」の現状と課題』P1 3 転職者数(求職者数) 2022年の転職者数は、3年ぶりに増加に転じました。 新型コロナウイルス感染症の影響で離職を余儀なくされた労働者が、経済活動の再開に 伴い、新たな仕事に就き始めたことが分かります。 特に転職者に人気なのは「一般事務の職業」で、求人数に対して求職申込件数が大きく 上回っています。 (出典)厚生労働省『令和5年版 労働経済の分析』P40 (出典)厚生労働省『令和5年版 労働経済の分析』P38 4 消費者物価指数 消費者物価指数とは、消費者が日常的に購入する商品やサービスの価格の変動を 示す指標です。 2022年の消費者物価指数はすべての月で前年度から上昇し、12月の上昇率は4%と なりました。 上昇した背景には、ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響で原材料を輸入する コストが増加したことがあげられます。 特に、「食料工業製品」「電気・都市ガス・水道」は大きな影響を受けています。 (出典)厚生労働省『令和5年版 労働経済の分析』P68 賃金の動向 日本の賃金は、名目賃金(※1)・実質賃金(※2)ともに1990年代後半から横ばいで 推移しています。 賃金が伸び悩んでいる背景には、パート・アルバイトを含む非正規雇用の増加があります。 働く時間の短い非正規雇用者が増えることは、働いた時間に応じて貰える賃金が減少する ことにつながります。 また、実質賃金が伸び悩む背景には、物価の上昇が関係しています。 賃金の上昇率が物価の上昇率と比べて大きくないため、実質賃金は伸び悩んでいます。 ※1 名目賃金とは、支払われた給与額そのものを指します。 ※2 実質賃金とは、名目賃金から物価の上昇率を考慮して算出したものを指します。 (出典)厚生労働省『令和5年版 労働経済の分析』P80 人手不足に対応していくための企業の取り組み 人手不足の現状に対応するために、以下の2つに取り組むことをおすすめします。 1 賃上げを行う 「求人条件による被紹介状況への影響(フルタイム)」の表でも現れているとおり、 企業が求人を行うときに、最低賃金よりも5%以上高い賃金を設定すると、3か月以内に 労働者からの応募を受ける可能性が10%程度上昇します。 また賃金のほかにも、「完全週休2日あり」や「ボーナスあり」などの条件を設定する ことも、労働者からの応募の可能性を上昇させます。 さらに、賃上げは新しい人材を獲得しやすくなる効果だけではなく、既存の従業員に 対しても良い影響を与えます。 1年前より年収が増加した従業員は仕事への満足度が高まる傾向にあります。 また、賃上げを行った企業の約20%が従業員の離職率が低下したと回答しています。 このように、賃金を上げることは新たな人材の獲得と既存の従業員の定着に効果があり、 人手不足への対応策となります。 (出典)厚生労働省『【概要】令和5年版 労働経済の分析』P11 2 企業の安定性をアピールする 新型コロナウイルス感染症の影響で離職または転職を行った方は、雇われても、 またすぐに雇用調整の観点から勤務日数を減らされたり、退職を余儀なくさせられたり することを避けようと、安定した企業を探します。 そのため求人を出すときは離職率が低いことや、毎年の昇給実績があることなどでの アピールが有効です。 まとめ 新型コロナウイルス感染症の影響により発生した大量離職の反動で、労働市場全体で 人材不足が深刻です。 また、離職を余儀なくされた労働者は再び職を失わずに安定して働けることを求めて います。 そのため、賃金は労働者が企業を選ぶときの重要なポイントになります。 もちろん働き甲斐や働きやすさなども重視はされますが、昨今は物価高の影響が大きく、 労働者にとって賃金は重要な要素となります。 企業としても、賃金アップは新たな人材の確保だけでなく、既存の従業員のモチベーション 向上・離職率の低下にもつながります。 しかし、企業も物価高の影響で財政的に厳しい局面を迎えていることから、人件費を簡単に 増やすことは簡単ではありません。 コロナを経て社会情勢が大きく変化した今、賃金体系や人事評価制度の見直しなど 「ヒト」に関する仕組みを新しく構築することを検討してください。

  • 【2024年版】人事労務担当者のための実務カレンダー(法改正付き)

    人事労務担当者は、給与計算など毎月の定例業務のほか、年に1回~数回発生する 年間業務、さらには随時発生する多くの業務にも対応しなくてはいけません。 そのためにも年間の実務スケジュールを把握し、段取りよく業務を進めることが大切です。 今回の記事では、人事労務担当者の業務について、2024年の法改正も交えながら月別に 解説します。 またマガジンの最後にはダウンロード可能な実務カレンダーも添付しておりますので お役立てください。 1月の業務 【法定調書の提出】 2023年の年末調整業務の完了後、源泉徴収票や支払調書などの法定調書を法定調書合計表と ともに提出します。 (提出期限)2024年1月31日(水) (提出先)管轄の税務署 【給与支払報告書の提出】 2023年の年末調整業務の完了後、給与支払報告書を総括表とともに提出します。 (提出期限)2024年1月31日(水) (提出先)2024年1月1日現在(退職の場合は退職日現在)における従業員の住所地の市区町村 【労働保険料の納付期限(第3期)】 労働保険料を3回に分割して納付する企業は、第3期の労働保険料を支払います。 (納付期限)2024年1月31日(水)(※1) (納付場所)管轄の都道府県労働局、労働基準監督署、金融機関など(※2) ※1 労働保険事務組合に委託している場合は、事務組合から連絡される納付の日付を ご確認ください。 ※2 口座振替や電子納付も可能 【労働者死傷病報告の提出(10月〜12月分)】 休業4日未満の労働災害が発生した場合、様式第24号を提出します。 (提出期限)2024年1月31日(水) (提出先)管轄の労働基準監督署 【源泉所得税の納期の特例(7月~12月分)】 従業員10人未満で、納期の特例制度の適用を受けている企業は、7月~12月分の源泉所得税を納付します。 (納付期限)2024年1月22日(月)(※) (納付場所)管轄の税務署、金融機関、キャッシュレス納付 ※原則1月20日。土日祝にあたる場合はその翌日 【36協定の届出】※時期は企業による 36協定の有効期限を迎える場合、再締結および届出を行います。 (届出期限)あらたな有効期間の開始日(例:1月1日) (届出先)管轄の労働基準監督署 3月の業務 【健康保険料率・介護保険料率の改定】 3月分から、健康保険料および介護保険料の料率が変わります。 協会けんぽなど各保険者から発表されるあらたな料率を確認し、給与計算システムの 設定の見直しを行います。 4月の業務 【雇用保険料率の改定】 4月分から、雇用保険料の料率が変わります。 【労働者死傷病報告の提出(1月〜3月分)】 休業4日未満の労働災害が発生した場合、様式第24号を提出します。 (提出期限)2024年4月30日(火) (提出先)管轄の労働基準監督署 【新入社員の入社手続】※時期は企業による ・社会保険・雇用保険の資格取得手続 ・労働条件通知書や労働者名簿などの作成 ・雇入れ時の健康診断の実施 など 【人事異動、昇進や昇格などの対応】※時期は企業による ・辞令交付の準備 ・昇進や昇格・降格などに伴う給与改定 ・社会保険・雇用保険の手続 (転勤などで勤務する事業所が変更したとき。ただし、一括適用されている事業所は 手続不要) 【定期健康診断の実施】※時期は企業による 定期健康診断は、毎年1回従業員に受診させる義務があります。 従業員が50人以上の企業は労働基準監督署に結果報告が必要です。 なお、以下の健康診断も実施義務があるためご留意ください。 (有害な業務を行う従業員には、さらに別の健康診断が必要な場合があります。) (出典)厚生労働省『労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~』 【法改正情報】 2024年4月には、以下の法改正が実施されます。 5月の業務 【障害者雇用納付金の申告および納付、障害者雇用調整金などの申請】 従業員が100人を超える企業は、2024年5月15日(水)までに申告・申請および納付が 必要です。(下図の赤枠部分参照) 6月の業務 【労働保険の年度更新】 労働保険料について以下の手続を行います。 ・前年度の確定保険料の申告および概算保険料の精算 ・新年度の概算保険料の申告および納付 (申告および保険料納付の期間)2024年6月3日(月)から2024年7月10日(水) (※1、※2) (申告書の提出先)管轄の都道府県労働局、労働基準監督署、金融機関 (納付場所)管轄の都道府県労働局、労働基準監督署、金融機関など(※3) ※1 原則6月1日から7月10日。土日祝にあたる場合はその翌日 ※2 労働保険料の納付を3回に分割して支払う企業は、第1期の労働保険料を支払います。 ※3 口座振替やe-Govなどによる電子納付も可能 【住民税額の更新】 住民税は、前年の所得にもとづいて1年間の税額が決められます。各市区町村から 「特別徴収税額の決定通知書」が企業に届き、通知された年税額は、6月から翌年5月の 12か月に分けて給与から徴収します。 そのため、あらかじめ給与計算システムの住民税額を更新しておきます。 【住民税の納期の特例(前年12月~5月分)】 従業員10人未満で、納期の特例制度の適用を受けている企業は、前年12月~5月分の 住民税を納付します。 (納付期限)2024年6月10日(月) (納付場所)金融機関、キャッシュレス納付 【高年齢者雇用状況報告書・障害者雇用状況報告書の提出】 毎年6月1日現在の高年齢者や障害者の雇用状況を報告します。 2024年4月の法定雇用率の引上げにより、障害者雇用状況報告の提出対象は、従業員40人 以上の企業に変わります。 (提出期間)2024年7月16日(火)(※) ※原則7月15日。土日祝にあたる場合はその翌日 【新規高卒者のハローワークによる求人申込の受付開始】 来春高校卒業予定者の採用を考えている企業は、毎年厚生労働省から発表される 採用選考期日を参考に採用計画を立てることをおすすめします。 (出典)厚生労働省『令和6年3月新規高等学校卒業者の就職に係る採用選考期日等を取りまとめました』 7月の業務 【算定基礎届の届出(定時決定)】 健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額と現在の報酬とのあいだに大きな差が生じない ように、毎年4月〜6月の報酬月額を届出し、その内容をもとに標準報酬月額の見直しが 行われます。 (届出期限)2024年7月10日(水) (届出先)事務センター、管轄の年金事務所 【賞与の支給、賞与支払届の届出】※時期は企業による 賞与を支払った企業は、「被保険者賞与支払届」を提出します。なお、賞与が不支給 だった場合は、賞与不支給報告書の提出が必要です。 (届出期限)賞与支払日から5日以内 (届出先)事務センター、管轄の年金事務所 【労働者死傷病報告の提出(4月〜6月分)】 休業4日未満の労働災害が発生した場合、様式第24号を提出します。 (提出期限)2024年7月31日(水) (提出先)管轄の労働基準監督署 【源泉所得税の納期の特例(1月~6月分)】 従業員10人未満で、納期の特例制度の適用を受けている企業は、1月~6月分の源泉所得税を 納付します。 (納付期限)2024年7月10日(水) (納付場所)管轄の税務署、金融機関、キャッシュレス納付 【報奨金、特例給付金などの申請】 従業員100人以下の企業は、2024年7月31日(水)までに申請が必要です。 (下図の赤枠部分参照) 9月の業務 【社会保険料の改定(定時決定の結果反映)】 定時決定により見直しされた標準報酬月額は、9月分の社会保険料から適用されます。 ただし、7月~9月の随時改定に該当する場合は、随時改定による標準報酬月額が優先 されます。 10月の業務 【地域別最低賃金の改定による賃金の見直し】 地域別最低賃金を下回る従業員がいる場合は、最低賃金以上への引上げが必要です。 【労働者死傷病報告の提出(7月〜9月分)】 休業4日未満の労働災害が発生した場合、様式第24号を提出します。 (提出期限)2024年10月31日(木) (提出先)管轄の労働基準監督署 【労働保険料の納付期限(第2期)】 労働保険料を3回に分割して納付する企業は、第2期の労働保険料を支払います。 (納付期限)2024年10月31日(木)(※1) (納付場所)管轄の都道府県労働局、労働基準監督署、金融機関など(※2) ※1 労働保険事務組合に委託している場合は、事務組合から連絡される納付の日付を ご確認ください。 ※2 口座振替や電子納付も可能 【法改正情報】 2024年10月には、以下の法改正が実施されます。 11月の業務 【被扶養者状況リストの提出】※時期は保険者による 従業員の健康保険上の扶養家族について、収入など現在の状況を確認してまとめたリストを 提出します。 なお、協会けんぽは毎年11月頃に実施しますが、健康保険組合の実施時期は組合ごとに よって異なります。 (提出先)協会けんぽや健康保険組合などの保険者 12月の業務 【年末調整】 年末調整の業務は、従業員に提出を求める申告書が数種類あり、添付書類も従業員によって 異なるなど大変煩雑です。 多くの人事労務担当者にとって1年で一番忙しい時期になることから、早めの準備を おすすめします。 【住民税の納期の特例(6月~11月分)】 従業員10人未満で、納期の特例制度の適用を受けている企業は、6月~11月分の住民税を 納付します。 (納付期限)2024年12月10日(火) (納付場所)金融機関、キャッシュレス納付 【賞与の支給、賞与支払届の提出】※時期は企業による 賞与を支払った企業は、「被保険者賞与支払届」を提出します。なお、賞与が不支給だった 場合は、賞与不支給報告書の提出が必要です。 (提出期限)賞与支払日から5日以内 (提出先)事務センター、管轄の年金事務所 【ストレスチェックの実施】※時期は企業による メンタルヘルスの不調を未然に防ぐため、従業員50人以上の企業に対し、ストレスチェック の実施が義務付けられています。 【法改正情報】 2024年12月には、以下の法改正が実施される予定です。 毎月の定例業務、随時発生する業務 ここまで年間の業務を解説しましたが、当然ながら毎月の定例業務も平行して行わなければ なりません。 さらに人の動きや人事制度の変更、法改正等に伴い随時発生する業務も数多くあります。 人事労務の実務カレンダー 抜け漏れなく業務を行うため、月ごとおよび1年の見通しをたてながら作業を進める必要が あります。 以下は人事労務の実務カレンダーです。2024年の法改正も記載していますので参考に してください。 参考・ダウンロード|『人事労務 実務カレンダー(2024年法改正付き)』 おわりに 人事労務担当者は、企業そして従業員を支える縁の下の力持ち的な役割を担っています。 法令等の専門的な知識も求められ、細かな作業や提出期限のある手続も多く発生し、 日々目まぐるしく業務を行うことも多いかと思います。 年間の実務スケジュールを把握し、2024年も円滑に業務を進めていきましょう。

  • 『年収の壁・支援強化パッケージ』企業が押さえておきたいポイント

    2023年10月から厚生労働省より「年収の壁・支援強化パッケージ」が開始されました。 これは「年収の壁」の解消に向けた支援策です。 「年収の壁・支援強化パッケージ」の理解と活用は、人手不足の解消や優秀な人材確保に 有効です。 今回の記事では、支援策の内容を中心に、企業が押さえておきたいポイントを解説します。 なお、年収の壁のしくみや課題については前回の記事をご確認ください。 前回の記事『企業が知っておきたい「年収の壁」。』 「年収の壁・支援強化パッケージ」の目的と背景 少子高齢化による生産年齢人口の減少や時間外労働の上限規制などにより、 人手不足が慢性化している企業も少なくありません。 対応が急がれるものの、現状は年収の壁を要因とした就業調整が障壁のひとつと なっています。 2021年の厚生労働省の調査によると、配偶者がいる女性の短時間労働者の21.8%が 就業調整をしており、理由は57.3%が「130万円の壁」、21.4%が「106万円の壁」と 回答しています(複数回答)。 この調査結果からも、年収の壁が就業調整の大きな要因となっていることが伺えます。 そこで、当面の対応として年収の壁を気にせず働けるよう、2023年10月から 「年収の壁・支援強化パッケージ」が実施されています。 ここからは、企業が理解しておくべき支援策の内容を解説します。 事業主の証明による被扶養者認定の円滑化【130万円の壁への対応】 社会保険の被扶養者となるためには年収130万円未満(※1)の収入要件があります。 年収130万円以上になると扶養から外れ、130万円の壁により「社会保険加入(※2) による手取り額の減少」が発生する場合があります。 ※1:60歳以上または障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者は180万円未満 ※2:または国民健康保険加入および国民年金第1号被保険者に該当 そのため、人手不足の企業では以下のような状況が見受けられます。 【従業員側】もっと働きたい気持ちはあるが、年収130万円を超えると扶養から 外れてしまうため、これ以上勤務時間は増やせない 【企業側】離職されると困るため、年収130万円以上にならないよう配慮が必要で、 残業させたくてもさせられない この対応策として、一時的な収入増加(※)により年収130万円以上になったのであれば、 事業主証明の提出により被扶養者として認定されることとなりました。 (この措置は、同一の被扶養者につき原則として連続2回までです。) ※後述③による収入増加であること この事業主証明が必要であると想定されるのは以下のようなときです。 従業員の家族が勤務する企業に証明書を求める場合と、自社が発行する場合があります。 証明書は厚生労働省のサイトからダウンロードできますのでご利用ください。 参考・ダウンロード|厚生労働省『被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動」に係る事業主の証明書』 (出典)厚生労働省『「年収の壁」への当面の対応策』P9 なお、留意事項は以下のとおりです。 ①開始日 2023年10月20日から ②対象者 ・新たに扶養の認定を受けようとする従業員 ・現在扶養されている従業員(毎年実施される被扶養者資格の再確認を想定) ※継続的に年収130万円以上であることが雇用契約書などで明らな場合は対象外 ③対象となる収入 人手不足による労働時間の延長等に伴い一時的に増加した給与収入 ※企業と雇用関係がないフリーランスや自営業者などの収入は対象外 ④「一時的な収入変動」と認められる上限額 具体的な上限額は定められていません。 上限を設けるとその金額があらたな年収の壁になりかねないためです。 そのため、協会けんぽや健康保険組合などの保険者が、雇用契約書の内容なども 踏まえながら一時的な収入の増加であるかを判断します。 なお、被扶養者の年収(※)が被保険者の年収を上回る場合、一時的な収入増加とは 認められず、被扶養者認定が取り消しになる可能性があるためご注意ください。 ※または被保険者が被扶養者へ援助した額 社会保険適用促進手当の創設【106万円の壁への対応】 106万円の壁を要因とした「社会保険加入による手取り額の減少」の対応策として、 社会保険適用促進手当が創設されました。(手当支給は企業の任意) 社会保険適用促進手当の大きな特徴は、社会保険料の計算の基礎である標準報酬月額や 標準賞与額から除外されることです。 つまり、社会保険適用促進手当の支給により、企業と従業員ともに社会保険料の負担が 上がることなく従業員の収入増加を図ることができます。 なお、この措置は特定適用事業所に限らず、すべての事業所が対象です。 (出典)厚生労働省『「年収の壁」への当面の対応策』P6 1 支給要件など ①開始日 2023年10月以降の手当を支給する月から ②算定除外期間 標準報酬月額や標準賞与額からの除外は最大2年間 ※2年経過後は、通常の手当と同じく社会保険料に反映されます。 ③対象者 あらたに社会保険に加入した標準報酬月額が10.4万円以下の従業員 ※すでに社会保険に加入している従業員でも、就業場所や労働条件が同じで、同水準の 社会保険適用促進手当を支給する場合は、従業員間の公平性を考慮して対象者となります。 (ただし、2023年9月以前の社会保険加入者は、後述の「キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コース」は対象外) ④標準報酬月額や標準賞与額から除外される上限額 上限額は、健康保険、厚生年金保険、介護保険にかかる従業員負担分の社会保険料相当額 です。 そのため、協会けんぽや健康保険組合など加入している保険者、標準報酬月額、介護保険料の負担の有無などによって従業員ごとに上限額が異なります。 ※この上限を超えた額は標準報酬月額や標準賞与額に含まれます。 その場合、随時改定に該当する可能性もあります。 【上限額の例】 (出典)厚生労働省『「年収の壁」への当面の対応策』P8 ⑤支給方法 毎月支給や数か月まとめて支給など企業が決めます。 ⑥手当の名称 基本的には「社会保険適用促進手当」という名称にしてください。のちに行政機関による 確認が必要となったとき、算定除外できる手当であるか判断しやすくなります。 そのため、④の上限額を超える部分は別の名称で支給してください。 2 将来の年金額に反映されるのか 社会保険適用促進手当は標準報酬月額や標準賞与額から除外するため、従業員の厚生年金の給付額には反映されません。 3 就業規則等の対応 社会保険適用促進手当を支給する場合、就業規則等への定めが必要です。 以下は、厚生労働省のサイトで紹介されている規定例です。参考にしてください。 (出典)厚生労働省『キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)のご案内(パンフレット)』P6 なお、支給している手当の取りやめは原則として不利益変更となります。 しかし、社会保険適用促進手当が標準報酬月額や標準賞与額から除外されるのは 最大2年間です。 そのため、この措置の終了にあわせて社会保険適用促進手当の支給も終了したいと考える 企業もあるかと思います。 この場合、あらかじめ就業規則等に一定期間に限り支給する旨を定めておくことを おすすめします。 4 実務上、企業が留意すべきこと 企業は、社会保険以外の取扱いについても理解をしておく必要があります。 以下の図を参考にしてください。 キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」の新設 【106万円の壁への対応】 2023年10月以降、短時間労働者の新たな社会保険の加入とともに収入増加の取り組みを 行った企業に対し、最大50万円が助成されます。 具体的には、以下の3つのメニューがあります。 ①手当等支給メニュー 社会保険適用促進手当の制度を活用し、短時間労働者の収入増加に取り組んだ場合に 助成されます。 (ただし、3年目は社会保険適用後6か月間の基本給と比較して、18%以上の基本給等の 増額が必要) (出典)厚生労働省『キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)のご案内(パンフレット)』P3 ②労働時間延長メニュー 所定労働時間を延長して短時間労働者に社会保険を適用させた場合に助成されます。 (出典)厚生労働省『キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)のご案内(パンフレット)』P4 ③併用メニュー ①と②のメニューを組み合わせたものです。(1年目は①、2年目は②) (出典)厚生労働省『キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)のご案内(パンフレット)』P4 配偶者手当への対応 短時間労働者が就業調整をする理由として、106万円の壁や130万円の壁以外に 「配偶者の企業から配偶者手当が支給されなくなる」という回答が挙げられています。 以前は専業主婦の世帯が多くみられましたが、2000年ごろからは共働き世帯が増加し、 その差は広がる一方です。 さらには未婚率の上昇など、過去と比べて従業員の世帯状況が変化しています。 こうした状況から、配偶者を扶養する従業員に限定した配偶者手当を見直し、さまざまな 従業員を対象とした賃金制度に変えていくことは、従業員のモチベーションを高め、 あらたな人材確保にも繋がるため、企業にも大きなメリットがあります。 (出典)厚生労働省『図表1-1-3 共働き等世帯数の年次推移』 なお、配偶者手当を見直すためのフローチャートや具体例が厚生労働省のサイトで 紹介されています。参考にしてください。 参考|厚生労働省『配偶者手当を見直して若い人材の確保や能力開発に取り組みませんか?』 おわりに 短時間労働者の社会保険の加入は、従業員の保障が手厚くなるだけではなく、 従業員の健康保持や労働生産性の向上、さらには優秀で働くことに意欲的な人材の確保に つながるというメリットが期待できます。 年収の壁の支援策を上手く活用し、短時間労働者が年収の壁を意識せず働ける環境づくりに 取り組むことをおすすめします。

  • 企業が知っておきたい「年収の壁」

    パート・アルバイトなどの中には、配偶者などの扶養の範囲内で働きたいと 考えている人も多くいますが、その主な理由は「年収の壁」を超えないように するためです。 今回の記事は「年収の壁」とは何か、そしてこの壁による影響や課題について 解説します。 なお次回の記事では、2023年10月から開始された社会保険関連の年収の壁に対する 支援強化策を中心に、企業が押さえておきたいポイントを解説します。 年収の壁の種類 パート・アルバイトなど(以下、短時間労働者)で収入が一定額より少ない従業員は、 健康保険料と年金保険料(以下、保険料)や税金の負担がありません。 しかし、一定の収入を超えてしまうと、扶養から外れて保険料の負担が発生したり 税金の課税対象になるなど、手取り額が減少する場合があります。 このように負担が発生する年収ラインを年収の壁といいます。 年収の壁による影響と課題 「年収の壁」は従業員だけに影響するものではありません。 企業の人手不足にも影響しています。 1 企業が抱える問題「人手不足」 近年、人手不足は深刻化しています。少子高齢化による生産年齢人口の減少や 時間外労働の上限規制などにより、人手不足が慢性化している企業も少なくありません。 このような状況のなか、現在雇用している短時間労働者の労働時間の延長は 解決策のひとつといえます。 2 短時間労働者が「就業調整」せざるを得ない現状 企業が短時間労働者の労働時間延長を求める一方、短時間労働者は就業調整 (年収や労働時間の調整)をしながら働いている状況がしばしば見受けられます。 この就業調整をする理由のひとつが「年収の壁」です。 いくつかある年収の壁のなかでも、健康保険や年金(以下、保険)にかかわる 「106万円の壁」と「130万円の壁」は短時間労働者がもっとも意識する壁です。 これらの壁を超えると、配偶者などの扶養から外れ、その後は短時間労働者自身が 保険料を負担することになります。 このとき問題となるのが、収入の増加額より保険料が高くなるケースです。 つまり、労働時間を増やしたにもかかわらず、手取り額が減少するという、 働きがいを感じられない状況が発生してしまう可能性があるのです。 2021年の厚生労働省の調査によると、配偶者がいる女性の短時間労働者のうち、 何らかの理由で就業調整をしている人は21.8%でした。 その理由として57.3%が「130万円の壁」、21.4%が「106万円の壁」と回答しています。(複数回答) この調査結果からも、年収の壁を意識して収入を増やさないように調整している人達が 一定数いることが伺えます。 人手不足の解消が急がれるなか、こうした就業調整は大きな課題といえます。 企業側と短時間労働者側の相容れない状況を打破するためにも、年収の壁の解消が 求められています。 106万円の壁とは 「106万円の壁」は保険の壁のひとつです。 社会保険の適用拡大により、被保険者数101人以上(※)の事業所(特定適用事業所)に 勤務する短時間労働者は、以下の要件のすべてに該当するとき、協会けんぽや健 康保険組合などの社会保険(以下、社会保険)の被保険者となります。 ※2024年10月からは51人以上 ①週の所定労働時間が20時間以上 ②所定内賃金が月額8.8万円以上(8.8万円×12か月≒年収106万円) ③継続して2か月を超える雇用の見込みがある ④学生ではない 社会保険の被扶養者として認定される収入基準は年収130万円未満です。 しかし、たとえ年収130万円未満でも勤務先が特定適用事業所の場合、 年収106万円以上になり、上記の要件に該当すると社会保険に加入して 扶養から外れなければなりません。 つまり社会保険料の負担が発生します。これが106万円の壁です。 そしてこの壁で一番問題とされるのは、壁を超えると収入の増加額より 社会保険料の額が大きくなり手取り額が減少してしまう場合があることです。 なお、年収106万円の壁の年収(②の所定内賃金月額)には、以下の賃金は含まれません。 ・賞与などひと月を超える期間ごとまたは臨時に支払われる賃金 ・時間外労働、休日労働および深夜労働による割増賃金 ・通勤手当や家族手当など最低賃金に算入されない賃金 130万円の壁とは 「130万円の壁」も106万円の壁とおなじく保険の壁です。 (60歳以上または障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者は、130万円を すべて180万円に読み替えます。) 年収130万円は社会保険の被扶養者として認定される収入基準です。 そのため、年収130万円以上になると扶養から外れなければなりません。 そして、以下の①または②に切り替わるため保険料の負担が発生します。 これが130万円の壁です。 ①勤務先の社会保険の加入要件に該当する場合は社会保険に加入。 ②それ以外は国民健康保険に加入。さらに配偶者の扶養(国民年金第3号被保険者) だった場合は国民年金第1号被保険者に変更。 130万円の壁も106万円の壁と同じように、壁を超えると収入の増加額より 保険料の額が大きくなり、手取り額が減少してしまう可能性があります。 なお、106万円の壁の年収には、賞与や割増賃金、通勤手当などは含まれませんが、 130万円の壁の年収にはいずれも含まれるため注意が必要です。 また、給与収入以外にも老齢年金、不動産収入、さらに非課税対象の収入( 失業保険、育児休業給付金、傷病手当金、障害・遺族年金など)も含まれます。 そのほかの年収の壁 ここまで保険の壁について解説しましたが、年収の壁はほかにもあります。 これらは税金の壁といわれ、「100万円の壁」「103万円の壁」「150万円の壁」 「201万円の壁」があります。 なお、税金の壁の年収には通勤手当は非課税であるため含まれません。 (一部、非課税限度額を超えた通勤手当は含みます。) 1 100万円の壁とは 「100万円の壁」は住民税の壁です。 住民税は、前年の所得金額に応じて負担する所得割と、所得金額にかかわらず 定額を負担する均等割があります。 この所得割、均等割のどちらも課税されない年収ラインが100万円のため「100万円の壁」 といわれています。 ただし、自治体によって非課税限度額が異なり、年収100万円の基準を下回る場合も あります。 2 103万円の壁とは 年収103万円を超えると以下のような影響があります。 (ただし、年金受給者や勤労学生など一部基準が異なる場合もあります。) 【例:夫に扶養されている妻の年収が103万円を超えたとき】 ・妻に所得税の支払義務が発生する ・夫が配偶者控除を受けられなくなる (ただし、配偶者特別控除を受けられる可能性あり) 【例:親に扶養されている子の年収が103万円を超えたとき】 ・子に所得税の支払義務が発生する ・親が扶養控除を受けられなくなる つまり、自身の所得税の支払義務が発生するだけではなく、配偶者や家族の所得税や 住民税も増額される可能性があります。 3 150万円の壁、201万円の壁とは 上記2の例の場合、妻の年収が103万円を超えると夫は配偶者控除を受けられなく なりますが、妻の年収が150万円以下であれば夫は配偶者控除と同じ額の配 偶者特別控除を受けることができます。 ただし、妻の年収が150万円を超えると夫の配偶者特別控除の額は段階的に減少します。 これが150万円の壁です。 さらに妻の年収が201万6千円以上になると、夫は配偶者特別控除を受けられなくなります。これが201万円の壁です。 なお、夫の年収が1195万円(所得1000万円)を超えると、妻の年収にかかわらず 配偶者控除および配偶者特別控除のどちらも受けることができません。 (出典)財務省『主な人的控除制度の概要(現行)』 おわりに もっと働きたい意欲はあるものの、年収の壁により就業調整せざるを得ない 短時間労働者は意外と多くいます。 年収の壁を意識せず働くことができる環境づくりは、人手不足の解消や優秀な 人材確保にもつながります。 そのためにも、労務担当者は年収の壁のしくみを理解しておくことをおすすめします。 次回の記事では、2023年10月から開始された社会保険関連の年収(106万円・130万円) の壁に対する政府の支援強化策および企業が対応すべきポイントを解説します。

  • 【2023年度版】今冬のインフルエンザ対策

    インフルエンザは、毎年流行を繰り返し、健康に対して大きな影響を与える 最大の感染症のひとつです。 一般的に12月~3月がインフルエンザの流行のシーズンとされていますが、 今年は5月頃から季節外れの流行が見られるなど、全国各地で予期せぬ状況に 直面しました。 新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けは2023年5月に5類に移行したものの コロナ禍で免疫力が低下したことによる流行ともいわれており、今冬も感染対策の 徹底が引き続き求められます。 今回の記事では、季節性インフルエンザ(以下、インフルエンザ)の特徴や、流行に対して企業が押さえておくべきポイントをお伝えします。 インフルエンザとは インフルエンザは、インフルエンザウイルスの感染でかかる病気です。高熱のほか、 頭痛・関節痛・筋肉痛など全身の症状が突然現れることも特徴です。 なお、インフルエンザと風邪の主な違いは以下のとおりです。 インフルエンザの発生に備える企業対応 一般的に、インフルエンザ発症前日から発症後3〜7日間は鼻やのどからウイルスを排出する 時期といわれています。 この時期は人に感染させるリスクが高まりますが、インフルエンザには出勤停止期間を 定める法令等はないため、就業規則に企業のルールを定めておく必要があります。 インフルエンザによる欠勤連絡を受けるたびに異なる対応になったり、対応の遅れで 業務への支障が出ないよう事前の対応をおすすめします。 【発生に備えて決定しておきたい項目】 ・出勤停止期間 ・従業員やその家族がインフルエンザに感染したときの企業への申告方法 ・有給休暇の当日、事後取得の可否 ・発熱した従業員へのインフルエンザ検査の命令基準 ・受診命令した時の賃金支払や受診料の負担 ・休業時の連絡方法 ・業務の引継ぎ方法 ・特別休暇や病気休暇などを設ける場合は就業規則の変更 など インフルエンザに感染した従業員が、出勤停止期間の早い段階で熱が下がり、 症状が快復することもあります。働ける健康状態であっても、感染防止のために出社を 控えてもらうときは休業手当の支払が必要です。 出勤停止期間を検討するうえで、学校保健安全法の出席停止期間も参考になります。 インフルエンザ罹患後の外出時期については、以下のサイトをご確認ください。 参考|厚生労働省『令和5年度インフルエンザQ&A』Q17 インフルエンザと傷病手当金 インフルエンザに感染して仕事ができない場合、健康保険の被保険者は傷病手当金の 支給対象になります。ここでは、協会けんぽの傷病手当金について記載しています。 傷病手当金とは、業務外の理由による病気やケガで仕事ができず、企業から給与の支払が ないときに、健康保険から生活保障として支給される手当です。業務外の理由による 病気やケガの療養のため、仕事を休んだ日が連続して3日間(一般的に「待期期間」 という)の後、4日目以降の仕事に就けず、給与の支払がなかった日に対して支給されます。 ただし、給与の支払があっても、給与の日額が傷病手当金の日額より少ない場合、 その差額が傷病手当金として支給されます。 支給額は以下の計算式で算出した額になります。 なお、支給開始日以前の期間が12か月に満たない場合は、別の計算方法で支給額を 求めます。詳細は以下のサイトをご確認ください。 参考|協会けんぽ『病気やケガで会社を休んだとき』 傷病手当金は同一の疾病に対して通算1年6か月支給されます。 しかし、インフルエンザは原因となるウイルスが複数あるため、感染するたびに 「別の疾病」の扱いになり、感染の都度、傷病手当金を受けることが可能です。 有給休暇と傷病手当金のどちらを選択するのか 基本的に、同じ日に有給休暇と傷病手当金の両方を選択することはできません。 ただし、仕事に就いていない日で、有給休暇による賃金日額が傷病手当金の日額より 少ない場合、その差額が傷病手当金として支給されることはあります。 また、どちらを選択するかは企業が一方的に決定することはできず、企業のルールを 踏まえ、最終的には本人の判断に委ねられます。 判断のポイントは以下のとおりです。支給額や支給される日が異なります。 【有給休暇】 取得日ごとに1日分の賃金が企業から支給されます。 企業の公休日は有給休暇を取得できないため、賃金の支給はありません。 【傷病手当金】 1日分の賃金より低い額になります(上記【傷病手当金 1日あたりの支給額の計算方法】 を参照)。 また、企業の公休日も支給されます。 有給休暇を事前申請としている企業では、当日申請や事後申請を受け付けていないケースも あるため、有給休暇のルールは就業規則を確認してください。 家族がインフルエンザにかかったとき 本人ではなく同居している家族がインフルエンザに感染するケースがあります。 対応例については以下のとおりです。 【対応例】 ・一定期間、休業をさせる(業務命令の休業になるため、休業手当の支払が必要) ・テレワークが対応可能か検討する ・特別休暇を取得させる ・本人の希望があれば有給休暇を取得させる ・小学校就学前の子どもが感染したときは「子の看護休暇」の利用を推奨する など 職場のインフルエンザ対策 インフルエンザは流行性があるため、ひとたび流行が始まると短期間で職場内感染が 広がるケースも見受けられます。 インフルエンザの感染経路は「飛沫感染」と「接触感染」のふたつです。 従業員が安心して働くことができる職場づくりのひとつとして、以下のような感染予防対策 を行うことをおすすめします。 1 こまめな換気 限られた空間に多くの人が集まることが多い職場では、空気中にただようウイルスを外に 排出することが大切です。 また、新型コロナウイルス対策としても、十分な換気は重要です。 外へ出たウイルスは日光(紫外線)により不活化するため、こまめな室内の換気は ウイルス濃度の低下につながります。 2 適度な湿度の保持 空気が乾燥すると、気道粘膜の防御機能が低下し、インフルエンザにかかりやすくなります。 インフルエンザは湿度の高い環境に弱いため、適切な湿度(50〜60%)を保つことが 重要です。 職場内に加湿器を設置するなどの対応も効果的です。 感染予防のための企業内周知 職場内の感染予防と同様に、1人ひとりが「感染しない」「感染させない」意識を持ち、 咳エチケットや手洗いなどを徹底することも大切です。 疲労が溜まっていたり、睡眠不足のときは免疫力が低下します。普段から十分な睡眠と バランスのよい食事を心がけることで免疫力も高まり、感染予防につながります。 厚生労働省の以下のサイトでは、感染防止やワクチンなどの情報がまとめて掲載されて おり、予防啓発のためのポスターも用意されています。 参考|厚生労働省『令和5年度 今シーズンのインフルエンザ総合対策について』 参考|厚生労働省『咳エチケット』 参考|厚生労働省『正しい手の洗い方』 まとめ インフルエンザは感染力も強く、毎年約10人に1人が感染しています。 いつ誰が感染するかは分からないため、急に欠勤する従業員が出た場合の業務の引継ぎ方法 や連絡方法などをあらかじめ決めておくと、従業員の不安も軽減されます。 労務担当者として、関連する手続を把握し、対応策を準備しておくことが大切です。

  • カスタマーハラスメントから従業員を守るために。

    近年、社会的な問題としてカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)が ニュースで取り上げられるようになりました。 2023年9月には、精神疾患の労災認定基準にカスハラが追加されたことなどからも、 被害が深刻であることが伺えます。 しかしカスハラに対する認知度は高まってきているものの、十分な対策が あまりできていない企業も多いようです。 今回は、カスハラの具体的な内容や企業が対応すべきことについて解説します。 カスハラとはなにか カスハラとは、顧客や取引先がその立場を利用して、相手先企業やその従業員に 理不尽な要求をする行為です。 ただし、クレームのすべてがカスハラとなるわけではありません。 クレームには、商品やサービスの改善などの正当なものもあります。 カスハラは、不当な言いがかりや過剰な要求を行う悪質なクレームなど 社会通念上不相当なものを指します。 厚生労働省が公表した企業および従業員への調査によると、過去3年間にハラスメントを 受けた従業員の割合ではカスハラが2番目に多く、そして企業への相談件数は カスハラが3番目に多いという結果となっています。 参考|令和2年度 厚生労働省委託事業『職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)』 なお、カスハラは、個人客によるハラスメントといったイメージを持たれがちですが、 取引先も対象となります。 そのため、企業は業種を問わずカスハラの被害にあう可能性がある一方、逆にカスハラの 加害者となる可能性もあります。 カスハラの判断基準 カスハラの判断基準は法令等では定められていません。 そのため、企業は自社の判断基準を明確化し、その考え方や対応を十分に社内周知 しておく必要があります。 なお、考え方のひとつとして、以下の①②による観点で判断基準を決めることもできます。 ①顧客や取引先の要求内容に妥当性はあるか 自社サービスの過失や商品の欠陥などがあれば、改善を求めるクレームや苦情は妥当です。一方で、顧客の主張と事実を確認したとき、自社サービスや商品に過失が認められない などの事実無根の要求には妥当性がないと判断します。 ②要求する手段などが社会通念上相当な範囲か クレームの妥当性があったとしても、行き過ぎた要求や従業員の就業環境を害するもの など、社会通念上不相当なものはカスハラとなります。 たとえば、暴言や脅迫、長時間または執拗に繰り返されるクレームなどです。 状況次第では、傷害罪、暴行罪、脅迫罪、恐喝罪など、法令等に抵触する可能性も あります。 【カスハラとなる可能性のある行為例】 (出典)厚生労働省『カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル』P9 カスハラがもたらす被害 カスハラは従業員にとって大きなストレスとなり、心身の不調を引き起こし、 休職や離職の原因になることもあります。 企業にとっても、クレーム対応にかかる時間コストの増加、休職や離職による人員不足、 それに伴う生産性の低下など、経営に大きくかかわります。 このようにカスハラは企業や従業員に大きな悪影響をもたらすため、カスハラ対策は 急務であるといえます。 (出典)厚生労働省『カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル』P13 カスハラと労災認定 2023年9月、精神疾患の労災認定基準が改正されました。 この改正により「業務による心理的負荷評価表」に、カスハラとして 「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という項目が 追加されました。 この評価表は精神疾患の労災認定に用いられ、心理的負荷の出来事や強度などが 示されています。 詳しくは、厚生労働省の通達の別表1を参考にしてください。 参考|厚生労働省『心理的負荷による精神障害の認定基準について』別表1 業務による心理的負荷評価表』 カスハラ対応の難しさ カスハラが、カスハラ以外のハラスメントと大きく違うのが、 ハラスメントの行為者が自社の役員や従業員ではない 点です。 ここにカスハラ対応の難しさがあります。 1 社内だけの対応では不十分 ハラスメントの行為者が自社の従業員の場合、ハラスメントであると判断されれば 指導や懲戒など適切な対応を速やかに行うことができます。 しかし、カスハラは行為者が自社以外の者であるため、行為者に直接措置を取ることは 簡単ではありません。 現場や人事労務部門など社内の関係部署だけでなく、状況によっては取引先や弁護士、 警察など外部との連携も重要になります。 (出典)厚生労働省『カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル』P40 2 取引先との関係 取引先との関係では、お互いの立場の違いにより力関係に差が生じることもあります。 (例) ・業務の受注側よりも発注側が優位 ・企業規模が大きい側が優位 など このような力関係を利用し、立場の強い側が相手側に対し、過大な要求や不当な取引の 強制をすることはカスハラとなります。 さらに状況次第では、独占禁止法で禁止されている優越的地位の濫用などにより、 刑事罰や行政処分を受ける可能性もあります。 こうした事態にならないよう、取引先とは日頃から健全で良好な関係を維持しておくことが 重要です。 3 取引先との間で発生したカスハラ対応 ①取引先からカスハラを受けた場合 まずは、自社の被害を受けた従業員やその上司、周囲の従業員などから発生状況を確認 したうえで、取引先にハラスメント行為の事実確認を依頼します。 状況によっては、取引先の担当者と一緒に、ハラスメント行為の疑いがある従業員に 対して事実確認を行うことも考えられます。 ②自社の従業員が取引先にカスハラを行った場合 自社の従業員が、取引先へカスハラを行った疑いが発生した場合、速やかに事実確認を 行います。 カスハラが事実であると判断したときは、就業規則等に基づき懲戒処分などの対応を します。 取引先には、途中経過や決定事項の報告、謝罪、今後の再発防止など、真摯に向き合い 対応することが大切です。 企業が対応すべきこと カスハラが発生しているにもかかわらず、企業が適切な対応をとらなかった場合、 安全配慮義務違反となる可能性もあります。 さらには、被害を受けた従業員から責任を追及される可能性もあり、実際に損害賠償請求を 認めた裁判例もあります。 ①賠償責任が認められた事例 ②賠償責任が認められなかった事例 (出典)厚生労働省『カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル』P17 カスハラ発生時の対策はもちろんのこと、日頃から予防対策をとっておくことは 従業員のみならず企業を守るためにも重要です。 ここからは、カスハラ対策の例を紹介します。 1 カスハラ対策の基本方針や姿勢などの明確化 企業が、カスハラに屈することなく従業員を守る姿勢を示すことで、従業員が安心して 働ける職場環境を目指します。 2 カスハラ発生時の対応方法や手順を決めておく 現場ですぐに適切な対応ができるよう、対応方法や手順などの社内ルールを決めて おきます。マニュアルを作成することも有効な対策です。 3 相談体制の整備 相談窓口を設置するなど、迅速かつ適切に対応できる社内体制を整備します。 なお、カスハラ用に特別に窓口を設ける必要はありません。 2020年にパワハラ防止のため設置が義務化されたハラスメント相談窓口で カスハラの相談もできるように体制を整えておく方法もあります。 また、相談窓口の担当者は、一次対応者として事実関係の把握、被害を受けた 従業員への配慮など、慎重な対応が求められます。 カスハラに該当するか判断がつかない場合も含めて幅広い相談に応じるためにも 担当者向けの教育を定期的に行うことも大切です。 4 従業員の教育、研修 従業員への、カスハラに対する意識付けを定期的に行います。 ・カスハラに関する知識 ・対応方法など社内ルールの周知 ・相談窓口などの周知 ・自身が加害者側にならないための教育 など 5 被害従業員への配慮 被害を受けた従業員だけにカスハラ対応を続けさせることのないよう、 複数名または組織的に対応します。 そのほか、プライバシー配慮などカスハラから従業員を守ることを最優先します。 6 再発防止への取り組み 定期的に社内体制や社内ルールの見直しを行い、適切な体制づくりを継続的に行います。 【カスハラ対策チェックシート】 厚生労働省より、「カスタマーハラスメント対策チェックシート」が公開されています。企業用、従業員用の2種類があります。カスハラ対策にご活用ください。 参考|厚生労働省『カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル』P52~P54 おわりに 日頃からカスハラ対策に取り組んでいる企業の従業員からは、「カスハラ行為者に対して 落ち着いて対応ができた」「安心して働けるようになった」「企業にとって好ましくない顧客が来にくくなった」などの声も聞かれます。 カスハラ対策は従業員、そして企業を守ります。積極的に取り組むことをおすすめします。

  • 【2023年度版】賞与計算のポイント

    毎月の給与とは別に臨時に支給する年3回以内の賃金のことを賞与といい、 一般的にはボーナスとも呼ばれます。 賞与は通常の給与とは計算方法が異なり、注意すべき点も多くあるため 違いを理解することが必要です。 今回は、賞与を支給するときに知っておきたい、基本的な計算手順や その注意点を解説します。 賞与とは 賞与とは、給与・俸給・手当・賞与など、どのような名称であるかを問わず、 労働の対償として支給するすべてのもののうち、3か月を超える期間ごとに 支給する賃金です。 業種によっては、年末年始手当などの繁忙期のみに手当を支給する企業も 多くありますが、支給回数によってはこちらも賞与と判断されます。 新たな施策、「社会保険適用促進手当」と賞与について 人手不足への対応が切迫した課題となるなかで、短時間労働者が「年収の壁」を 意識せず働ける環境づくりを支援するため、2023年10月、厚生労働省にて 「年収の壁・支援強化パッケージ」による支援が開始されました。 そのひとつの施策として発表されたものが「社会保険適用促進手当」です。 これは、短時間労働者への社会保険の適用を促進するため、従業員が社会保険に 加入するにあたって、従業員の社会保険料の負担を軽減するために 企業が支給する手当です。 最大2年間の時限措置とされていますが、給与・賞与とは別に支給するものとし、 保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定には考慮しないとされています。 参考|厚生労働省『「年収の壁」への当面の対応策』P8 「年収の壁・支援強化パッケージ」に関する詳細は、今後の労務マガジンで 解説する予定です。 賞与計算の基本 賞与計算の基本的な流れです。 1 賞与の支給額を決定する 賞与を支給できる資金(賞与の原資額)を決定します。 賃金規程などに基づき算定基準を確認したあと、企業や従業員の業績などに応じ て査定を行い、従業員ごとの支給額を決定します。 2 社会保険料を計算する 賞与支給時に控除する社会保険料は、給与計算時と一部異なります。 社会保険料を計算するときには、「標準賞与額」を使用します。 標準賞与額とは、総支給額(社会保険料・税金などを控除する前)から 1,000円未満の端数を切り捨てた額です。 【例】 賞与総支給額:525,500円 標準賞与額 :525,000円(※1,000円未満切り捨て) 健康保険料(介護保険料含む)と厚生年金保険料は、従業員と企業が半額ずつ 保険料を負担します。ここからは、従業員負担分についての計算方法を説明します。 【健康保険料(介護保険料含む)】 標準賞与額に健康保険料率を掛けて計算します。賞与支払月に40歳以上65歳未満の 従業員に対しては、賞与からも介護保険料を徴収する必要があります。 健康保険料率(介護保険料率含む)は、加入している健康保険の種類や都道府県によって 異なります。 協会けんぽの都道府県ごとの健康保険料率・介護保険料率・厚生年金保険料率は 以下のサイトの保険料額表よりご確認ください。 参考・ダウンロード|協会けんぽ『令和5年度保険料額表(令和5年3月分から)』 【例 大阪府の健康保険・厚生年金保険料率】 【厚生年金保険料】 標準賞与額に厚生年金保険料率(現在は18.3%)を掛けて計算します。 被保険者負担分の端数処理は、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料とも、 原則50銭以下は切り捨て、50銭を超える場合は切り上げです。 ただし、労使間でこれまで慣習的な取扱いなど特約がある場合は、すべて切り捨てて しまっても差し支えありません。 【例】 50銭以下の場合:15,300.50円 ⇒ 15,300円を控除 50銭超えの場合:15,300.51円 ⇒ 15,301円を控除 【雇用保険料】 雇用保険料については、賞与支給額に雇用保険料率を掛けて求めます。 雇用保険料率は、通常の給与支給時と同じものになります。 3 所得税の計算をする 源泉徴収税率は、「前月の給与の総支給額から社会保険料を差し引いた金額」と 「扶養人数」によって決まるため、人によって異なります。 源泉徴収税率は、国税庁のホームページに掲載されています。 参考・ダウンロード|国税庁『賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和5年分)』 【例】 ①「前月の給与の総支給額-社会保険料」を求める 340,000円-53,737円=286,263円 ②扶養人数と①の金額を「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」にあてはめ、 源泉徴収率を求める 扶養人数2人で①の金額が「286,263円」の場合、269,000円~312,000円未満の行に 該当 ⇒源泉徴収税率は4.084% ③賞与の総支給額から社会保険料等を差し引いた額に、②で求めた源泉所得税率をかける (732,500円-44,323円-66,978円-4,395円)×4.084%=25,190円(所得税) 算出した所得税に小数点以下の端数が出た場合は、1円未満の端数を切り捨てます。 賞与計算時の注意点 賞与計算時の注意点と対応についてご紹介します。 1 退職予定者・退職者がいる場合の社会保険料の取扱い 退職を予定している従業員や、すでに退職している従業員に賞与を支払う場合、 退職日や支給日によっては社会保険料を徴収しないことがあります。 企業が賞与から社会保険料を徴収する必要があるのは、従業員の資格喪失日 (退職日の翌日)の属する月の前月までです。 退職が月末の場合、資格喪失日は翌月1日となり、退職日以前に支給される賞与からは 社会保険料を徴収します。 退職が月末以外の場合、退職月に支給される賞与からの社会保険料の徴収は不要です。 【例1 賞与支給日:12月10日 退職日:12月20日】 資格喪失日が12月21日になるため、12月10日に支払われる賞与から社会保険料を 徴収しない 【例2 賞与支給日:8月5日 退職日:8月31日】 資格喪失日が9月1日になるため、8月5日に支払われる賞与から社会保険料を 徴収する 資格喪失日までに支払われた賞与については、支給日から5日以内に賞与支払届を 届出してください。 雇用保険料は、退職のタイミングにかかわらず、退職予定者や賞与支払時点で 退職している従業員からも徴収をします。 2 産前産後休業・育児休業中の従業員に賞与を支払う場合 産前産後休業・育児休業中に賞与を支給するときでも、社会保険料は免除の対象と なります。 なお、2022年10月1日以降に開始した育児休業等については、賞与を支払った月の 末日を含む連続した1か月を超える育児休業を取得した場合、賞与の社会保険料が 免除になります。1か月を超えるかどうかは暦日で判断し、土日などの休日も期間に 含みます。 【例】 参考|日本年金機構『育児休業等期間中の社会保険料免除要件が見直されます。』 3 賞与を年4回以上支給する場合 年4回以上賞与を支給する場合は、賞与ではなく報酬として扱われるため、 標準報酬月額の対象になります。 通常の賃金と合わせて社会保険料を計算しなければならないため、随時改定 (月額変更)や定時決定(算定基礎)のときは注意が必要です。 4 社会保険料計算時の賞与額の上限の確認 社会保険料がかかる賞与の上限額は法令等で定められています。 【健康保険:4月1日~翌年3月31日までの賞与の累計額573万まで】 <例 8月 200万円、12月 300万円、3月 100万円の賞与を支給する場合> 8月 200万円+12月 300万円+3月 100万円=600万円 →600万円ー573万円(上限額)=27万円 累計573万円を超えているため3月支給分のうち27万円には、健康保険料はかかりません。 【厚生年金保険:1か月の賞与額150万円まで】 <例 8月 200万円、12月 300万円、3月 100万円の賞与を支給する場合> ①8月200万円-上限額150万円=50万円 ②12月300万円ー上限額150万円=150万円 8月、12月は上限額150万円を超えているため、①50万円分、②150万円分には 厚生年金保険料はかかりません。 賞与支払届については、社会保険料計算時の賞与額の上限を超えていても 支払った金額で届出をしてください。 5 「前月の給与がない」または「前月給与の10倍を超える」場合 賞与から徴収する所得税の計算では、産前休業に入った従業員に賞与を支給するときの ように「前月の給与がない」場合や、ケガや病気により欠勤が多かったことから 前月給与が少ない従業員に賞与を支給するときなど、賞与の総支給額が「前月給与の 10倍を超える場合」は、法令等に定められた通常とは異なる方法により、所得税の 計算を行わなければなりません。 以下のサイトを参考に、正しい所得税の計算を行ってください。 参考|国税庁『賞与に対する源泉徴収』 まとめ 賞与は毎月の給与と違い支給回数が少ないため、計算時に基本の流れと注意点を 確認しながら進めることができれば、難しいものではありません。 現在では給与計算ソフトなどで処理を進めることもできますが、従業員から質問が 来たときにスムーズな回答ができるよう、基本の流れについて改めて確認されることを おすすめします。

  • 【2023年9月】精神疾患の労災認定基準が改正

    厚生労働省のまとめによると、2022年度の精神疾患に関する労災請求件数は2,683件、 労災支給決定件数は710件となっています。 過去20年の推移をみても、請求件数および支給決定件数のどちらも年々増加しており 支給決定件数は、統計を開始した1983年度以降、過去最多を4年連続で更新しました。 そのため、業務を原因とした精神疾患への対策が急がれています。 (出典)厚生労働省『精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書』P8 このような状況のなか、2023年9月に精神疾患の労災認定基準が改正されました。 今回は、精神疾患の労災認定基準の改正に関するポイントおよび企業の対策について 解説します。 精神疾患とは 精神疾患は、「心理的負荷」と「個体側要因」の関係により発病するといわれています。 ・心理的負荷:仕事やプライベートの出来事などによるストレス ・個体側要因:ストレスに対する個人ごとの反応のしやすさ つまり、同じ出来事によるストレスであっても、同時に複数発生したり、もともと本人が ストレスに反応しやすい性質であるなど、さまざまな要因が絡まり合い精神疾患が発病する ということです。 精神疾患が労災認定されるまでの流れ 精神疾患は、業務による強いストレスが発病の要因であると判断されたときに限り 労災認定されます。 具体的には、以下の3つの要件すべてに該当するかで判断されます。 ①認定基準の対象となる精神疾患を発病していること 精神疾患のうち認定基準の対象となるのは、「疾病及び関連保健問題の国際統計分類 第10回改訂版(ICD-10)」の「精神及び行動の障害」に分類される疾病です。 疾病の種類は以下の表のとおりで、業務に関連して発病する可能性のある精神疾患は、 おもにF2からF4に分類されるものです。 (出典)厚生労働省『精神障害の労災認定 過労死等の労災補償Ⅱ』P2 ②認定基準の対象となる精神疾患の発病前おおむね6か月のあいだに、業務による 強い心理的負荷が認められること 精神疾患の発病前の6か月間に、業務上の出来事が発病に強く影響を及ぼしたと 判断されることが必要です。具体的には、「業務による心理的負荷評価表」により 心理的負荷の強度が「強」と評価される場合です。 この評価は、業務による心理的負荷評価表に基づいて、心理的負荷が極度なものや 極度の長時間労働など「特別な出来事」に該当する場合は「強」となります。 また、「特別な出来事以外」である場合は、業務による心理的負荷評価表にある 「具体的出来事」の具体例やその出来事だけでなく出来事後の状況や経緯などの事実関係を もとに総合的に判断します。 なお、対象疾病に関与する業務による出来事が複数になる場合は、それぞれの出来事で 評価を行い、総合的に判断します。 「業務による心理的負荷評価表」は、厚生労働省の通達の別表1を参考にしてください。 参考|厚生労働省『心理的負荷による精神障害の認定基準について』別表1 業務による心理的負荷評価表』 なお、精神疾患の発病は、従業員本人の個体的要因にも影響されます。 そのため、心理的負荷の評価は、精神疾患を発病した従業員がどのように受け止めるか ではなく、その従業員の職種や年齢、経験、業務上の責任などが同じ程度である 他の従業員がどのように受け止めるかという一般的な観点から評価をします。 ③業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと 【業務以外の心理的負荷の評価】 業務以外で発病に影響を及ぼしたと考えられる出来事について、「業務以外の心理的 負荷評価表」により心理的負荷の強度を確認します。 「強度Ⅲ」に該当する項目がある場合、それが発病の原因という判断が妥当であるかを 慎重に判断します。 「業務以外の心理的負荷評価表」は、厚生労働省の通達の別表2を参考にしてください。 参考|厚生労働省『心理的負荷による精神障害の認定基準について』別表2 業務以外の心理的負荷評価表』 【個体側要因】 個体側要因は、ストレスに対する個人ごとの反応のしやすさや性格などによるものです。 過去に精神疾患を発病していたり、アルコール依存などの状況がある場合などは その影響も考えられるため、医学的な発病の主因であるかの妥当性も含めて慎重に 判断します。 精神疾患の労災認定基準の改正ポイント 2023年9月、精神疾患の労災認定基準が改正されました。 ここからは、改正内容について主なポイントを解説します。 1 業務による心理的負荷評価表に「カスタマーハラスメント」を追加 カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)は、顧客などからの著しい迷惑行為のこと です。 厚生労働省が公表した企業および従業員への調査によると、過去3年間にハラスメントを 受けた従業員の割合ではカスハラが2番目に多く、そして企業内での相談件数はカスハラが 3番目に多いという結果となりました。 参考|令和2年度 厚生労働省委託事業『職場のハラスメントに関する実態調査』 このように、カスハラが社会問題化されている状況を受け、業務による心理的負荷評価表の 具体的出来事に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」が 追加されました。 2 業務による心理的負荷評価表に「感染症などの危険性が高い業務」を追加 医療現場や介護施設など、新型コロナウイルスをはじめとした感染症に罹患する恐れが 一般より高い職場では、従業員は日々相当な心理的負担を抱えながら業務に従事することに なります。 そのため、業務による心理的負荷評価表の具体的出来事に「感染症等の病気や事故の 危険性が高い業務に従事した」が追加されました。 3 業務による心理的負荷評価表における「パワーハラスメント」の具体例を拡充 業務による心理的負荷評価表について、パワーハラスメント(以下、パワハラ)による 心理的負荷強度「強」の具体例として、以下の内容が明記されました。 ・パワハラの6類型すべて (人格否定発言、強い叱責、仲間外れ、過大な要求、過少な要求、プライバシー侵害) ・性的指向や性自認に関する精神的攻撃などを含むこと パワハラは、2022年度の精神疾患の労災支給決定件数のなかで一番多く、深刻な状況です。 今後は、パワハラの具体例が拡充されたことにより、パワハラの労災請求がこれまで以上に 適切に調査および評価され、労災認定される可能性が高まると予想されています。 4 精神疾患の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し 業務外ですでに発病していた精神疾患の悪化について、労災認定できる範囲が見直し されました。 今後は、特別な出来事がない場合でも、精神疾患の悪化前に、業務による強い心理的負荷が あったと医学的に判断されたときは、労災認定される可能性があります。 (出典)厚生労働省『精神障害の労災認定 過労死等の労災補償Ⅱ』P11 企業が対応すべきこと 企業は、労災を防ぐためにも、業務によるストレスから従業員を守り、ストレスの原因の 減少に努めることが大切です。 おわりに 業務による精神疾患は、発病した従業員本人の心身のつらさはもちろんのこと、 他の従業員への心理的影響、休業者の業務をカバーするための長時間労働の発生など 職場環境の悪化を招きます。 職場環境の整備は企業の責任とされています。働きやすい職場環境づくりのためにも、 業務によるストレス対策を継続的に行うことをおすすめします。

  • アルコール検知器の使用が義務化されます。

    2022年4月1日の道路交通法施行規則の改正に伴い、白ナンバー(マイカーや業務の移動・ 自社の荷物運搬を目的とする社有車など)の自動車を使用する企業に対し、 酒気帯びの有無を確認するアルコールチェックが義務化されました。 当初の計画では、2022年4月からアルコール検知器によるアルコールチェックも義務化 される予定でした。 しかし、アルコール検知器の需要が急激に増加し供給不足となったことから2022年10月に延期され、さらに2022年10月でも半導体不足やコロナ禍の物流停滞などの理由から 2度目の延期となっていました。 そして2023年12月1日、ついにアルコール検知器の使用が義務化されます。 今回の記事は、アルコール検知器によるアルコールチェックおよび企業が対応すべき ことについて解説します。 アルコールチェックの義務化とは 2021年6月、千葉県八街市にて、下校中の小学生の列に飲酒運転のトラックが衝突。 5名が死傷する大変痛ましい事故が発生しました。 当時、緑ナンバー(バスやタクシーなどの事業用自動車)の自動車に対しては アルコール検知器によるアルコールチェックが義務付けられていたものの、 白ナンバーの自動車には義務付けされておらず、このとき事故を起こしたトラックは 白ナンバーでした。 こうした背景のもと、警察による酒気帯び運転および酒酔い運転(以下、飲酒運転)の 根絶に向けた取り組みが強化されてきました。 その施策のひとつが、白ナンバーの自動車を使用する企業に対するアルコールチェックの 義務化です。 これにより、2022年4月から業務の乗車前後に安全運転管理者によるアルコールチェックが 義務付けられ、「目視等による酒気帯びの有無」「確認記録の保存」が実施されることと なりました。 【2023年12月から厳格化】 2022年4月から義務化されたアルコールチェックでは、目視等による酒気帯び確認でよいと されてきました。 しかし、この確認方法は2023年12月から厳格化され、以下の2つが安全運転管理者の業務に 追加されます。 ①運転者の酒気帯びの有無の確認を、目視等のほかアルコール検知器を使用して行うこと ②アルコール検知器を常時有効に保持すること 対象は「安全運転管理者」の選任事業所 義務化の対象となるのは、安全運転管理者を選任しなければならない事業所です。 選任は企業単位ではなく、事業所単位(本店、支店、営業所など)で行います。 安全運転管理者は、事業所で使用する乗車定員が11名以上の自動車が1台以上、 または乗車定員に限らず5台以上のときに選任が必要です。 安全運転管理者には、選任後15日以内に事業所を管轄する警察署への届出と、 毎年1回の講習が義務付けられています。 (自動車を20台以上使用しているときは、安全運転管理者以外に副安全運転管理者の選任も必要です。) 参考|警察庁『安全運転管理者制度の概要』 【安全運転管理者の選任基準】 (出典)警察庁・都道府県警察『令和4年4月より改正道路交通法施行規則が順次施行されます』P2 企業が理解・対応すべきこと これまで目視等による確認を実施してきた企業も、2023年12月に向けた準備が必要です。以下に解説します。 1 アルコール検知器の準備 アルコール検知器は、以下の機能があるものを使用しなければなりません。 ・呼気中のアルコールを検知する機能 ・呼気中のアルコールの有無または濃度を警告音、警告灯、数値などで示す機能 なお、メーカーや機種の指定・推奨はされていません。持ち運びできるもの、データを 集約し記録簿を作成できるもの、データをクラウド管理できるものなどさまざまな機能を 持つ検知器が各メーカーから発売されています。 よく検討し、自社にあった機種の購入をおすすめします。 2 検知器は常時有効に 2023年12月からは、アルコール検知器を常時有効に保持することが求められます。 「常時有効に保持」とは、常に正常に作動し、故障がない状態で保持しておくことを いいます。 アルコール検知器は適切に使用および管理し、定期的に故障の有無を確認しなければ なりません。 3 アルコールチェックの方法 確認方法は対面が原則です。安全運転管理者が目視等およびアルコール検知器により 確認します。 ・目視等:運転者の顔色、呼気の臭い、応答の声の調子などを確認 ・アルコール検知器:呼気中のアルコール濃度などを測定 運転前のアルコールチェックによりアルコールが検知された場合、当然ながら 運転させることはできません。 運転以外の業務を指示してください。 【アルコールチェックの対象者】 業務として運転を開始しようとする人と、運転を終了したすべての人が対象です。 役員や従業員にかかわらず、業務目的の運転であれば、社有車、マイカー、リース車など すべての自動車の運転者が対象となります。 ただし、通勤や私用のためにマイカーを運転する人や、業務として終日運転しない人は 対象外です。 【対面での確認が難しいとき】 直行直帰など対面での確認が難しいときは、それに代わる方法で確認します。 (例) 携帯電話やカメラ、モニターなどを利用して、安全運転管理者が運転者の顔色、 応答の声の調子などを確認する。 さらに、運転者に携帯型アルコール検知器を携行させて測定し、その結果を確認する。 また、安全運転管理者が休日などによる不在でアルコールチェックができない場合、 安全運転管理者業務の補助者や副安全運転管理者が確認してもかまいません。 【確認するタイミング】 運転の直前や直後である必要はなく、始業時や終業時でもかまいません。 また、日に何度も運転する場合、その都度確認を行う必要はありません。 (出典)和歌山県警察本部『安全運転管理者等による酒気帯びの有無の確認Q&A』P2 4 アルコールチェックの記録・保存 安全運転管理者が行ったアルコールチェックの記録は、1年間保存する義務があります。 保存方法は特に定められていないため、紙やデータなど自社にあった保存方法で かまいません。 なお、記録しなければならない項目は以下のとおりです。 ①確認者名 ②運転者名 ③運転者の業務に係る自動車のナンバーまたは識別できる記号、番号など ④確認の日時 ⑤確認の方法(対面でない場合は具体的な方法など) ⑥酒気帯びの有無 ⑦指示事項 ⑧その他必要な事項 5 アルコールチェックを怠ったときの罰則 安全運転管理者がアルコールチェックなど業務を怠ったことに対する罰則はありませんが、 安全な運転が確保されていないと判断されたときは、都道府県公安委員会により 安全運転管理者の解任を命じられる場合があります。 なお、アルコールチェックの実施の有無にかかわらず、実際に運転者である役員や 従業員が飲酒運転を行った場合、運転者だけではなく、企業も車両提供者として罰則を 科されるおそれがあります。 (出典)千葉県・千葉県警察・千葉県交通安全対策推進委員会『飲酒運転をしない・させない・許さない』P2 就業規則や社内規程の見直し アルコールチェックを適切に行うためには、従業員への十分な周知が欠かせません。 そのためにも、就業規則や社内規程の見直しを行い、アルコールチェックに関する内容を 定めておくことは非常に重要です。 以下は、規定内容の例です。 (アルコールチェックの実施方法) ・酒気帯びの有無の確認方法 ・記録・保存方法 ・アルコールが確認されたときの対応 など (服務規律) ・飲酒運転や飲酒運転ほう助の禁止 ・業務中の飲酒について ・業務時間外に飲酒をする場合、次の出勤時に体内にアルコールが残らないよう配慮 など (懲戒処分) ・飲酒運転や飲酒運転ほう助をしたとき ・アルコールチェックを拒否したとき など また、アルコールチェックだけではなく、安全運転管理者の選任や社用車の保守点検・ 整備、事故時の対応、マイカーの業務利用、法令遵守などをまとめた規程 (車両管理規程など)を作成することもおすすめします。 従業員への教育 アルコールチェックの重要性や飲酒運転の防止に向けた取り組みを一人ひとりが 十分に理解するためにも、従業員教育は欠かせません。 社内研修のほか、各地の自動車学校などが実施している企業向けの研修を利用する 方法もあります。 また、警察庁や都道府県などの行政機関が発行する飲酒運転防止のリーフレットを 社内に掲示するなど、啓発ツールを活用することもおすすめします。 (出典)警察庁・都道府県警察『飲酒運転根絶のリーフレット(表)』 (出典)警察庁・都道府県警察『飲酒運転根絶のリーフレット(裏)』 おわりに アルコールチェックは、運転者である役員や従業員、そして他者の大切な命を守るための 取り組みです。 また、業務中に役員や従業員が飲酒運転を起こした場合、企業も社会的信頼を失うおそれが あります。 そのためにも、アルコールチェックの徹底および従業員教育などを十分に行うことが 大切です。

  • 【2023年度版】被扶養者資格の再確認について

    毎年度実施されている、全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)の 「被扶養者資格の再確認」が今年度も行われます。 協会けんぽのまとめによると、2022年度の被扶養者資格を再確認した結果、 約7.8万人が被扶養者から削除となり、約9億円の前期高齢者納付金の負担削減効果が 見込まれています。 こうした数字からも分かるように、被扶養者資格の再確認は、保険給付の適正化や 保険料負担の軽減を図るための非常に大切な手続です。 今回の記事では、協会けんぽに加入している企業の実務担当者が理解しておくべき ポイントを解説します。 なお、健康保険組合でも同様に被扶養者資格の再確認が実施されますが、実施時期や 確認方法はご加入の健康保険組合にご確認ください。 被扶養者状況リストの到着 2023年10月25日から11月13日にかけて、協会けんぽから企業宛に被扶養者状況リストなどの書類が届く予定です。 企業はこの被扶養者状況リストをもとに、被扶養者資格の再確認を進めていきます。 再確認ができない状態が続く被扶養者については、法令等により被保険者証が無効となる 可能性もありますので必ず提出してください。 なお、再確認の対象となる被扶養者がいない事業所には書類は発送されないため、 今回の再確認および提出は不要です。 1 再確認の対象となる被扶養者 対象は、2023年9月16日現在の被扶養者です。 ただし、以下の被扶養者は対象外のため再確認は不要です。 (被扶養者状況リストの備考欄に「確認不要」の印字がされています。) ・2023年4月1日において18歳未満の被扶養者 ・2023年4月1日以降に被扶養者となった人 2 書類の種類 届く書類は以下のとおりです。このうち記入および提出が必須なものは被扶養者状況リスト です。 ①被扶養者状況リスト(2枚複写) ②リーフレット ③被扶養者調書兼異動届 ④被扶養者現況申立書 ⑤返信用封筒 3 提出期限 2023年12月8日(金) 再確認の実施方法 リーフレットに再確認の手順が記載されています。大まかな流れは以下のとおりです。 ①確認区分の確認 ②認定要件の確認 ③確認結果を被扶養者状況リストに記入 ④提出書類の準備 ⑤提出書類の郵送 確認区分の確認 協会けんぽでは、マイナンバー情報の照会により取得した被扶養者情報をもとに、 被扶養者を6種類の区分(「同居」「別居」「要同居」「海外在住」「資格重複」 「判定不能」)に分けています。 この区分を確認区分といいます。 確認区分は、被扶養者状況リストの「確認区分」欄に記載されています。 記載の確認区分が現在の状況と異なる場合、二重線で抹消のうえ、正しい確認区分を 記入してください。 (出典)協会けんぽ『被扶養者資格の再確認とご提出のお願い』 認定要件の確認 被扶養者認定要件(以下、認定要件)とは、今後も継続して被扶養者となるために 確認が必要な要件です。 認定要件は確認区分によって異なります。被扶養者ごとに、どの認定要件を確認しなければ ならないか把握し、被保険者である従業員に対し、文書または口頭により必要事項を 確認してください。 なお、協会けんぽより、文書で確認するときに使用できる調査票が紹介されていますので 参考にしてください。 参考・ダウンロード|協会けんぽ『被扶養者資格再確認調査票 表(Excel)』 参考・ダウンロード|協会けんぽ『被扶養者資格再確認調査票 裏(PDF)』 ここからは、確認区分ごとに認定要件の内容を解説します。 1 確認区分:同居の場合 被扶養者の今後の見込み年収額を確認してください。今後も継続して被扶養者となるため には、年収が以下の範囲内であることが必要です。 被扶養者の年収が、「130万円未満」かつ「被保険者の年収の1/2未満」 2 確認区分:別居の場合 被扶養者の今後の見込み年収額を確認してください。今後も継続して被扶養者となるためには、その年収が以下の範囲内であることが必要です。 被扶養者の年収が、「130万円未満」かつ被保険者からの「仕送り額より少ない」 3 確認区分:要同居の場合 被扶養者が、以下の続柄以外の場合、被保険者と同居していることが必要です。 同居・別居の確認をしてください。 ・配偶者(事実婚含む) ・被保険者の直系尊属(※) ・子、孫、兄弟姉妹 ※直系尊属とは、父母、祖父母など自分より前の世代で、直通する系統の親族のこと なお、事実婚(内縁関係)の配偶者は同居・別居を問いませんが、事実婚の配偶者の父母 および子は同居していることが必要です。 (出典)協会けんぽ『被扶養者資格の再確認とご提出のお願い』 4 確認区分:海外在住の場合 留学生や海外赴任に同行する家族など、以下の海外特例要件を満たす人については、 日本国内に生活の基礎があると認められ、継続して被扶養者となることができます。 (出典)協会けんぽ『被扶養者資格の再確認とご提出のお願い』 5 確認区分:資格重複の場合 被扶養者自身が被保険者として健康保険に加入していないか確認してください。 (例) ・子どもが、就職などにより新たに健康保険の資格を取得している ・配偶者が、以前加入していた国民健康保険を脱退していなかった など 6 確認区分「判定不能」の場合 まず、被扶養者の現在の状況(収入額、同居か、他の保険に加入しているか、など)を 確認し、どの確認区分に該当するかを判断します。 つぎに、その確認区分に従って認定要件の確認を行ってください。 確認結果を被扶養者状況リストに記入 被扶養者の認定要件を確認後、その結果を被扶養者状況リストに記入します。 1 認定要件を満たすとき 「変更なし」の欄にチェックを入れてください。 なお確認区分が「判定不能」の被扶養者が以下に該当する場合は、該当項目にもチェックを 入れます。 ①被扶養者が被保険者と別居の場合:「被保険者と別居している」にチェック ②被扶養者が海外に在住(国内に住民票なし)の場合:「海外に在住している」にチェック 2 認定要件を満たさなかったとき 「解除となる」の欄にある以下のいずれかにチェックを入れてください。 ①今回扶養から解除となる場合:「被扶養者調書兼異動届を添付」にチェック ②すでに「被扶養者異動届」または「資格喪失届」を提出済の場合:「日本年金機構へ届出済」にチェック 【被扶養者状況リスト】 (出典)協会けんぽ『被扶養者資格の再確認とご提出のお願い』 提出書類の準備 提出書類は、認定要件の確認結果(「変更なし」または「解除となる」)や 被扶養者の確認区分によって異なります。 下図を参考に、被扶養者ごとに必要な提出書類を準備してください。 ①「変更なし」にチェックを入れたときの提出書類 ②「解除となる」にチェックを入れたときの提出書類 ここからは、各提出書類について解説します。 1 被扶養者状況リスト ここまで解説した手順に従って、リストを作成してください。 なお、このリストは2枚複写です。 1枚目を提出し、2枚目は事業主控として保管してください。 2 被扶養者現況申立書 被扶養者が以下に該当するときに、現在の状況を申し立てる書類です。 ・被保険者と別居 ・海外在住 ・世帯分離をしているとき 参考・ダウンロード|協会けんぽ『被扶養者現況申立書』 3 仕送りの事実と仕送り額が確認できる書類 送金者名、受取人名および仕送り額が確認できる書類を提出します。(直近1か月分) なお、学生は省略可能です。 ・振込の場合:預金通帳等の写し、振込明細書など ・送金の場合:現金書留の控えなど 4 被保険者と被扶養者の住民票 世帯分離をしているとき、確認区分が「要同居」と判定されることがあります。 その場合、同じ住所に住んでいることを証明するため、住民票を提出します。 5 海外特例の該当が確認できる書類 該当する海外特例要件ごとに定められた書類を提出します。 (出典)協会けんぽ『被扶養者資格の再確認とご提出のお願い』 6 被扶養者調書兼異動届、被保険者証 確認の結果、扶養解除となる被扶養者がいる場合、被扶養者調書兼異動届を記入のうえ 提出します。 このとき、被扶養者の被保険者証も返却となるため添付してください。 (高齢受給者証や特定疾病療養受療証なども交付されている場合、これらも返却となるため添付) 参考・ダウンロード|協会けんぽ『被扶養者調書兼異動届』 なお、被保険者証を返却できない場合、健康保険被保険者証回収不能届を 添付してください。 参考・ダウンロード|協会けんぽ『健康保険被保険者証回収不能届』 提出書類の郵送 被扶養者状況リストの記入および提出書類の準備ができたら、同封の返信用封筒にて 協会けんぽにご提出ください。【提出期限:2023年12月8日(金)】 なお、2023年12月20日まで、被扶養者資格再確認業務専用ダイヤル (電話番号:0570-023-123)が設置されています。 不明な点などがあれば、専用ダイヤルまたは協会けんぽ都道府県支部へご相談ください。 おわりに 本来、被扶養者が扶養の要件に該当しなくなったときは、その都度、被保険者である 従業員が企業に報告しなければなりません。 しかし、扶養から外す報告は忘れてしまいがちな報告のひとつです。 そのためにも、たとえば卒業・就職などライフスタイルが変わる人の多い4月前後には 扶養の外し忘れがないよう社内周知するなど、従業員の扶養に関する認識を高めることを おすすめします。

  • 2024年4月から労働条件の明示ルールが改正されます

    企業は、従業員との労働契約の締結時や更新時には、法令等で定められた労働条件を 従業員に明示しなければならず、これをしなかった場合には罰金が科せられることが あります。 2024年4月には、法令等上明示しなければならない労働条件の項目が増えるため、 従業員に交付する労働条件通知書の項目を見直す必要が出てきました。 今回の記事では、労働条件通知書の概要と運用方法や、2024年4月からの変更点を 紹介します。 労働条件通知書とは 労働条件通知書とは、労働契約の締結時や更新時に従業員に交付する、賃金や 労働時間などの法令等で定められた労働条件を記載した書類です。 正社員やアルバイトなどの名称にかかわらず、全ての従業員が交付対象となります。 派遣労働者の場合は、派遣元の会社が労働条件通知書を書面で交付する必要があります。 労働条件の明示 現時点での法令等上、明示しなければならない労働条件は以下のとおりです。 「企業にその制度がある場合には明示しなければならない項目」については、 企業にその制度がある場合のみ明示しなければなりません。 また昇給に関することは、正社員に対しては口頭でもよいとされていますが、 アルバイトなどの有期契約労働者には書面で明示しなければならないため、 正社員にも書面で通知できるよう準備をおすすめします。 【法令等上明示しなければならない項目】(2024年3月末日まで) 労働条件通知書の運用方法 労働条件通知書は、雇用契約書の交付で代替ができます。 ただし、雇用契約書には法令等上明示することを義務付けられている項目が 記載されていなければなりません。 労働条件通知書の交付は、従業員が希望した場合に限って、FAXや電子メール、 SNSのメッセージ機能などでも行うこともできます。 ただし、書面にするためにプリントアウトができる方法でなければなりません。 万が一、労働契約の締結時や更新時に企業側が労働条件の明示を行わなかった場合や、 従業員が希望していないにもかかわらず電子メールなどのみを用いて労働条件の明示を 行った場合は、罰金が科せられることがあります。 2024年4月からの変更点について 2024年4月から、明示しなければならない労働条件の項目が追加されます。 追加される項目は、以下の1から4です。 1 就業場所・業務の変更の範囲 働く場所や業務内容だけではなく、将来的に変更の可能性がある範囲を明示する必要が あります。 人事異動や配置転換をする可能性がある場合には、必ず記載しなければなりません。 2 更新上限の明示(有期契約労働者の場合のみ) 有期契約労働者との労働契約の締結時と更新時に、有期労働契約の通算期間または 有期労働契約を更新できる回数に上限がある場合については、その内容の明示が 必要になります。 【更新上限の明示の例】 ・契約期間は通算4年を上限とする ・契約の更新回数は3回まで など 3 無期転換申込機会の明示(有期契約労働者の場合のみ) 無期転換申込権が発生する更新(※)のたびに、希望をすれば無期労働契約へ 変更できる旨について明示する必要があります。 4 無期転換後の労働条件の明示(有期契約労働者の場合のみ) 無期転換申込権が発生する更新(※)のたびに、無期労働契約へ変更した後の 労働条件について明示する必要があります。 ここで明示する必要のある労働条件は、通常明示する必要のある項目と同様です。 ※無期転換申込権が発生する更新とは 更新によって、同一企業との労働契約の通算期間が5年を超えることです。 以上の4項目はいずれも書面での明示が必要となる項目です。以下のパンフレットや Q&Aも参考にしながら、事前に労働条件通知書のつくり直しをおすすめします。 参考|厚生労働省『2024年4月からの労働条件明示のルール変更、備えは大丈夫ですか?』 参考|厚生労働省『令和5年改正労働基準法施行規則等に係る労働条件明示等に関するQ&A』 おわりに 労働条件の明示および労働条件通知書の交付は、従業員との労働契約の締結時や 更新時に必ず行う大切な手続です。 書面で交付を行う必要がある項目は法令等上では限られていますが、 労働条件はなるべく書面で確認できる方がよいでしょう。 契約内容を明確にすることは、労使間のトラブル防止にも繋がります。 また、労働条件通知書を作成するときには、就業規則との関係を念頭に置く 必要があります。 労働条件通知書に記載した労働条件が、就業規則に定めた労働条件より下回る場合、 労働条件通知書の内容は無効となり、就業規則の内容が優先されます (労働条件通知書の労働条件が就業規則の労働条件を上回る場合は、労働条件通知書の 内容が優先されます)。 労働条件通知書を作成する際は、必ず就業規則の内容と見比べることをおすすめします。

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