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「」に対する検索結果が141件見つかりました

  • 【2024年度版】暑さに慣れる暑熱順化と熱中症対策

    熱中症のピークは8月です。 しかし近年では、5月や6月など気温が高くない時期から熱中症患者が発生しています。 熱中症は野外だけでなく室内でも発症するため、熱中症リスクはすべての従業員が 持っています。 この記事では、企業が実施できる従業員の熱中症予防と、労災になったときの手続について 解説しています。 熱中症とは 熱中症とは、高温多湿な環境に身体が慣れずに体内の水分や塩分のバランスが崩れ、 体内の調整機能が破綻して発症する症状の総称です。 一般的な症状に、めまい、吐き気、意識障害などがあります。 熱中症の重症度は、Ⅰ度からⅢ度に分かれています。Ⅰ度は軽度の症状とされており、 現場での適切な対応があれば重症化が防げ、症状改善ができる段階です。 症状が改善しないⅡ度以降は医療機関への搬送が必要です。 (出典)厚生労働省『働く人の今すぐ使える熱中症ガイド』P7 暑さに慣れる暑熱順化 人間は、多少ですが、暑さに慣れることができます。 身体の機能が暑さに適応することを「暑熱順化(しょねつじゅんか)」といい、 暑さに慣れるための期間を設けることで熱中症の予防につなげられると考えられています。 暑熱順化には個人差があり数日から2週間程度かかるため、梅雨に入る今の時期から、 暑さに強い⾝体をつくることの従業員への呼びかけをおすすめします。 暑熱順化のポイントは、汗をかくことです。 適度な運動や入浴などを日常生活にうまく取り入れることで対応ができます。 暑さに慣れた身体になると、早く汗が出るようになり、体温の上昇を⾷い⽌められるように なります。 (出典)厚生労働省『働く人の今すぐ使える熱中症ガイド』P85 ただし暑熱順化の効果に持続性はなく、数⽇間でも暑い作業から離れると暑熱順化の効果は 減少します。 入社したてや長期休暇明けの従業員などには、改めて暑さに慣れてもらうことが重要です。熱中症対策が必要な9月頃までは、従業員へ暑熱順化の声掛けをしてください。 職場での熱中症予防対策 熱中症は屋内や屋外に関係なく、暑ければどこでも発症する可能性があるため、 職場での熱中症対策はすべての業種・職種で重要です。 以下、職場での熱中症予防策をまとめましたので、参考にしてください。 1 作業時間の短縮や休憩所の設置 簡易な屋根の設置、通風または冷房設備やミストシャワーなどの設置により、WBGT値を 下げる方法を検討し、作業場所の近くに冷房を備えた休憩場所や日陰のある涼しい休憩場所 を確保してください。 WBGT値が高いときは単独作業を控え、WBGT値に応じた作業の中止や、こまめな休憩取得 などの工夫を行ってください。 厚生労働省によると、熱中症による死傷者数が多い時間帯は14時、15時台となっており、 その時間帯は屋外の作業をできるだけ避けることや、休憩時間の工夫などもおすすめ します。 【WBGT値(暑さ指数)とは】 WBGT値(暑さ指数)は人体と外気との熱のやりとりに着目した指標で、人体の熱収支に 与える影響の大きい ①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温 の3つを取り入れています。 WBGT値(暑さ指数)が、28℃を超えるときは熱中症にかかりやすくなります。 以下の厚生労働省のサイトでは、作業に対応したWBGT値や実測の仕方などが記載されて います。 参考|厚生労働省 職場における熱中症予防情報『暑さ指数について』 2 通気性の良い服装の着用 通気性のよい作業着を準備し、冷却機能をもつ服の着用の検討を行ってください。 3 汗で不足しがちな塩分と水分の補給 休憩場所に飲料水や塩飴などを用意します。 大量に発汗すると体内の塩分が消失するため、水分補給のみでは不十分です。 水分と塩分を補給してください。こまめな休憩とともに、喉が渇いていなくても水分と 塩分を定期的に補給するように促してください。 スポーツ飲料や経口補水液の塩分は製品によって成分量が異なりますが、「栄養成分表示」 を確認するとよいでしょう。 (出典)厚生労働省『働く人の今すぐ使える熱中症ガイド』P39 4 従業員の異変に気付く観察 熱中症は身近な災害です。普段から従業員同士で声をかけ合い、現場管理者や部署のマネージャーが異変に気付けるように、今の時期から従業員の健康観察や安全確保に努めてください。 初期症状が出ていても「仕事を一旦止めて休む」ことを選択せず、無理に仕事を続けることで重度化するケースがあります。いつもと違うと感じたら熱中症を疑ってみることも大切です。 (出典)厚生労働省『働く人の今すぐ使える熱中症ガイド』P6 普段から自身や周囲の異変に気付けるように、熱中症「応急手当」カードなどもご活用 ください。 (出典)厚生労働省『働く人の今すぐ使える熱中症ガイド』P11 5 熱中症に関する健康状態自己チェックリストの利用 業務中に熱中症の症状が起きたときは、労災を申請することになりますが、労災の認定要件 のひとつに、本人の身体の状況があります。熱中症は、体調不良や不摂生、睡眠不足で発症 リスクが高まります。 発症の原因が本人の体調等による要素が大きい場合、労災認定されない場合もあるため、 従業員は日常的に自身の体調管理に努める必要があります。 また、持病のある従業員は熱中症リスクも高まります。定期健康診断や持病確認などを 行い、必要に応じて産業医や主治医に対応方法を確認しておきましょう。 熱中症予防のための体調自己チェックリストなどを参考に、朝礼時や作業前の従業員の健康 状態の確認をすすめてください。 参考・ダウンロード|大阪労働局『熱中症予防のための体調自己チェックリスト(例)』 6 高齢の従業員の体調管理 高年齢者の熱中症にも注意が必要です。高年齢者は暑さや喉の渇きを感じにくく、体温を 下げるための身体反応が弱くなっていることがあります。 エアコンがなくても平気だった昔と比べ、昨今は異常な暑さです。 高齢の従業員の体調変化を観察し、体調確認や水分補給など積極的な声掛けをして ください。 参考|厚生労働省『高齢者のための熱中症対策』 熱中症が疑われる従業員の応急処置 気温が本格化する前の6月でも熱中症で救急搬送される方がいます。 従業員の熱中症が疑われる場合は、呼びかけに応答するか確認し、その反応に応じた 適切な処置を行ってください。 【意識があるとき】 ・涼しい場所へ移動させ、身体を楽な姿勢にさせる ・スポーツドリンクや薄い食塩水など水分と塩分を摂取する (ただし、水分を吐くときは無理に飲ませてはなりません) ・衣服をゆるめ、身体を冷やす 症状が悪化する可能性もありますので、ひとりで休ませることはせず必ず誰かが付き添って ください。 水分を自力で摂取できないときや症状がよくならないときは、従業員の様子がおかしく なったときの状況を知っている者が付き添い、医療機関を受診してください。 【意識がないとき】 ・呼びかけて反応がないときは、すぐに救急車を呼ぶ ・涼しい場所へ移動させ、身体を横にする ・衣服をゆるめ、首、わきの下、太もものつけ根を集中的に冷やす 意識がないときに水を飲ませると窒息する危険があるので、飲ませてはなりません。 おわりに 企業側が熱中症対策を怠ってはならないのはもちろんですが、暑熱順化や体調管理には 従業員自身の意識向上も必要です。 暑熱順化のポイントは汗をかくこととお伝えしましたが、始業前にラジオ体操を行うだけ でも汗をかくことができます。 危険性や、簡単にできる自衛方法などを周知して、全社の熱中症リスクを回避しましょう。

  • 【知っておきたい】任意継続被保険者制度とは

    従業員が退職や労働条件の変更で社会保険の加入要件を満たさなくなった場合、 その従業員は社会保険の資格を喪失します。 日本では、国民すべてが国民健康保険や勤務先の社会保険などいずれかの健康保険 (公的医療保険)に加入する「国民皆保険制度」が採用されています。 そのため、会社で加入していた社会保険を失った後は、国民健康保険、任意継続制度、 ご家族の健康保険(被扶養者)という3つの選択肢からいずれかを選んで健康保険に 加入する必要があります。 今回は、その中でも任意継続制度について詳しく紹介します。 なお、この記事では協会けんぽの任意継続制度の活用を前提に解説を進めます。 任意継続制度とは 任意継続制度は、健康保険の被保険者が資格を喪失した後も最長2年間、同じ健康保険に 引き続き加入できる制度です。 保険料は在職時の基準に基づいて計算され、退職後も同じように健康保険の給付 (傷病手当金、出産手当金等を除く)や健康保険証の利用を続けることが可能です。 家族も引き続き被扶養者として加入できるため、医療費負担を抑えられるメリットも あります。 任意継続制度に加入できる人 任意継続被保険者となるためには、以下の2つの条件を満たしている必要があります。 ①資格喪失日の前日(退職日)までに「継続して2か月以上の被保険者期間」があること 入社間もない退職で、被保険者期間が2か月未満の場合であっても、1日もあいだを開ける ことなく前職の協会けんぽの被保険者期間から通算して2か月以上あれば、任意継続制度に 加入することができます。 ②資格喪失日(退職日の翌日)から「20日以内」に自宅住所地を管轄する協会けんぽ都道府県支部へ申請すること 20日目が土日・祝日の場合は、翌営業日になります。窓口での手続も可能ですが、窓口が 込み合うことがあるため郵送で申請されるケースが多いです。 郵送での申請の場合でも20日以内に必着となるため、配達日数を考慮して手続きする必要が あります。 (例)退職日が1月31日の場合 資格喪失日は2月1日となるため、2月20日までに申請する必要があります。 任意継続被保険者の保険料 任意継続被保険者の保険料は、以下のいずれか少ない標準報酬月額に被保険者の住所がある 都道府県の保険料率を乗じた額となります。 在職中には保険料の半分は企業負担となっていますが、任意継続制度では被保険者が 企業負担分も含めて全額負担することになります。 なお、保険料は、原則2年間変わりません。 任意継続制度における保険料の納付方法 任意継続制度の保険料の納付方法は、以下の3通りです。 納付期日までに保険料を納付しなかった場合、納付期日の翌日で任意継続被保険者の資格を 喪失し、保険給付が受けられなくなります。 ①毎月納付書により納付する方法 毎月月初めに送付される納付書を使い、その月の10日(10日が土日・祝日の場合は、 翌営業日)までに納付します。 初回保険料の納付期日については、保険者の指定した日となります。 保険料は、金融機関の窓口や金融機関のATM、コンビニエンスストア、インターネット バンキングで納付できます。 ②一定期間分を一括して事前に納付書により納付する方法(前納) 4月分から9月分、10月分から翌年3月分までの6か月分、または4月分から翌年3月分までの 12か月分を一括して先に納めることができます。 前納を希望する場合は、協会けんぽに前納の申込みを行う必要があります。 なお、前納制度を利用すると保険料の割引があります。 ③毎月口座振替により納付する方法 協会けんぽに口座振替の申込みを行うことで、口座振替で保険料を納付することが できます。 希望するときは「保険料預金口座振替依頼書・自動払込利用申込書」を提出します。 ただし、振替による前納はできません。 参考|協会けんぽ『保険料預金口座振替依頼書・自動払込利用申込書』 任意継続制度の加入手続き 任意継続制度への加入は、「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」を記入し、 資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に自宅住所地を管轄する協会けんぽ都道府県支部 に提出します。 参考|協会けんぽ『健康保険任意継続被保険者資格取得申出書』 その際、退職日が確認できる書類の添付、または申出書の健康保険資格喪失証明欄への 記載を行うことで、新しい保険証の受取までの期間が通常より短くなります。 なお添付・記載は任意ですので、添付・記載がない場合でも申請できます。 また、口座振替により保険料の納付を希望する場合には「保険料預金口座振替依頼書・ 自動払込利用申込書」も同時に提出します。 さらに、家族に任意継続制度の被扶養者となる方がいる場合には、申出書の2ページ目に 被扶養者の情報を記入し、以下に該当する確認書類を添付します。 (出典)協会けんぽ『被扶養者がいる場合に必要な確認書類』 (確認書類の具体例) ①続柄を証明する書類:戸籍謄(抄)本、または、世帯全員が記載されている住民票 ②収入を証明する書類:所得証明書、非課税証明書、給与証明書、離職票のコピー、直近の 年金額改定(振込)通知のコピー、確定申告書のコピー など ※16歳未満の場合は添付不要(学生の場合でも16歳以上の方は添付が必要) ③同居していることを証明する書類:同居が確認できる、世帯全員が記載されている住民票 ④仕送りの事実と1回あたりの仕送り額が確認できる書類:預金通帳のコピー、現金書留 控えのコピー など 任意継続被保険者の資格喪失 任意継続制度の加入期間は2年間ですが、以下のいずれかの事項に当てはまるときには、 期間の途中でも被保険者の資格を喪失します。 ②③④のときには、被保険者は「任意継続被保険者資格喪失申出書」に保険証を添付 します。 新たな企業に就職した場合は②に該当しますので、喪失申出書の提出を忘れないように 注意が必要です。 参考|協会けんぽ『任意継続被保険者資格喪失申出書』 加入期間の2年を満了したときや、保険料を期日までに納付しなかったこと等により 資格を喪失した場合には、国民健康保険、または家族の健康保険(被扶養者)へ加入する ことになります。 任意継続制度におけるその他の注意事項 1 被保険者側 申出書を提出してから保険証が送付されるまでの期間に診療を受ける場合にも、保険給付の 対象となります。 その期間に診療を受けて医療費を負担した場合には、保険証が送付された後に「療養費支給 申請書」を提出することで保険負担分を後から受け取ることができます。 2 企業側 企業は従業員が退職する際に従業員から保険証を回収し、その保険証を添付した「被保険者 資格喪失届」を退職日から5日以内に管轄の年金事務所または事務センター(日本年金 機構)に提出します。 また、新たな保険証を通常より早く受け取るために必要な「退職日が確認できる書類※)」 と「申出書の健康保険資格喪失証明欄への記載」は企業側が用意するため、退職前に任意 継続制度を希望しているかを確認し、従業員から書類を求められたら迅速に対応できる ように準備しておくことをおすすめします。 ※退職日が確認できる書類 退職証明書のコピー、雇用保険被保険者離職票のコピー、健康保険被保険者資格喪失届の コピー、事業主または公的機関が作成した資格喪失の事実が確認できる書類 など おわりに 退職後、すぐに再就職しない従業員にとって任意継続制度はひとつの選択肢です。 そのため、退職する従業員の必要に応じて案内できるよう、あらかじめ理解しておくことが 大切です。 任意継続制度についてのスムーズな案内は、退職する最後の最後まで良好な関係を築く ことにつながります。

  • 年調減税事務の流れと定額減税のQ&A

    2024年6月から、2024年分の所得税および住民税について定額減税が実施されます。 実務担当者は、毎月の給与および賞与の計算時だけではなく、年末調整時も対応が 必要です。 今回の記事は、年末調整時における所得税の定額減税(以下、年調減税)の実務ポイントや 月次減税・年調減税に関する質問と対応について解説します。 なお、定額減税の仕組みや給与・賞与計算時(月次減税)の実務ポイントについては、 以前の記事をご確認ください。 以前の記事『定額減税制度の仕組みと月次減税。(従業員向け概要説明資料付)』 所得税の定額減税 1 月次減税と年調減税 所得税の定額減税には、月次減税と年調減税があります。 2 年調減税の流れ 今回の記事で解説する年調減税の対応の流れは以下となります。年末調整の時期までに各作業の内容を理解したうえで、早めにスケジュールを立てることをおすすめします。 年調減税の対象従業員の確認 年調減税が適用される従業員を確認します。 原則として、年末調整の対象となる従業員には年調減税が適用されますが、 一部対象外となる場合があります。 詳細については、下記も参考にしてください。 参考|国税庁『令和6年分所得税の定額減税Q&A』P8 【合計所得金額が1,805万円を超える従業員について】 合計所得金額が1,805万円を超える従業員は定額減税の対象外のため、 年調減税額の控除を行いません。 しかし、給与等からは月次減税額が控除されている状態のため、年末調整で精算します。 年末調整では、後述の「年調減税額の計算」「年調減税額の控除」は行わず、 通常の年末調整と同じ流れで処理を行います。 ただし、源泉徴収票の記載は通常と異なります。 後述の「源泉徴収票への表示」をご覧ください。 なお、合計所得金額が1,805万円を超えるかどうかの確認は「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の左側にある「給与所得者の基礎控除申告書」の記載内容で判断します。 【年末調整の対象とならない従業員について】 年末調整の対象外の従業員のうち、月次減税による控除を受けている人 (または途中まで受けていた人)は、確定申告で月次減税額を精算します。 年調減税額の計算 年調減税が適用される従業員について、年調減税の計算対象となる同一生計配偶者や扶養親族がいるかどうかを確認します。 具体的には、2024年の年末調整時に提出された以下の申告書に基づき、年調減税の計算対象となるか判断します。 各申告書の確認ポイントは下図のとおりです。 確認後、計算対象となる同一生計配偶者や扶養親族の人数をもとに「計算対象者の人数✕30,000円」を算出します。 (計算対象者数は従業員自身も1人としてカウントします。)この金額を年調減税額といい、最終的に確定された定額減税額です。 ただし、この年調減税額の全額が年末調整時に控除されるわけではありません。 多くの従業員は、2024年6月以降に支給された給与等で、月次減税として定額減税額の一部または全額がすでに減税されています。 そのため年末調整では年調減税額と月次減税額との差額が精算されます。 また、2024年6月2日以降に入社した従業員や、扶養の増減が発生した従業員などの減税額も年末調整時に精算されます。 年調減税額の控除 年調減税額の控除は、以下の流れで行います。 ①年調所得税額の算出 住宅借入金等特別控除後の所得税額(以下、年調所得税額)の算出までは、通常の年末調整と同じ手順で計算します。 ②年調減税額の控除 ①の年調所得税額から、上述「年調減税額の計算」で算出した年調減税額を控除します。 ただし、年調減税額が①の年調所得税額を上回る場合、控除できるのは年調所得税額までが限度です。 ③年調年税額の算出、過不足の精算 年調減税額控除後(上記①-②)の金額に102.1%を乗じ、復興特別所得税を含めた 年調年税額を算出します。 この年調年税額と、2024年中に給与等から源泉徴収した所得税との差額を計算し 過不足の精算をします。 (出典)国税庁『給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた』P11 【年末調整計算シート】 年末調整計算シートとは、給与等の支給額や扶養親族の人数など各種情報の入力で、 年末調整の税額計算を効率よく行うことができるExcelシートです。 年調減税にも対応した計算シートは、国税庁のサイトからダウンロードできます。 参考|国税庁『年末調整計算シート』 参考・ダウンロード|国税庁『年末調整計算シート(令和6年用)』(Excel) (出典)国税庁『給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた』P12 源泉徴収票への表示 年末調整後に作成する「令和6年分 給与所得の源泉徴収票」(以下、源泉徴収票)の 「摘要」欄に年調減税の内容を表示します。 【合計所得金額が1,805万円を超える場合】 定額減税の対象外ですが、年末調整の対象者であるため源泉徴収票に定額減税額に 関する記載が必要です。 「源泉徴収時所得税減税控除済額0円、控除外額0円」と記載してください。 【年末調整を行わない場合】 年の途中で退職した場合や給与の収入金額が2,000万円超の場合など、年末調整を 行わないときは、源泉徴収票の「摘要」欄に年調減税の内容を記載する必要はありません。 定額減税(月次減税・年調減税)に関するQ&A 1 6月2日以降に入社した従業員の定額減税はどのように対応すればよいですか? 2024年6月2日以降に入社した従業員は、甲欄適用者であっても月次減税の対象と なりません。 年末調整時に年調減税を行います。 2 6月1日以降に退職した従業員の定額減税はどのように対応すればよいですか? 月額減税額が控除された場合であっても、年の途中に退職する場合は年末調整を 行わないため年調減税も行いません。源泉徴収票の「摘要」欄の記載も不要です。 (「源泉徴収税額」欄には、控除前税額から月次減税額を控除した後の源泉徴収額を記載。) ただし、12月支給分の給与等が支給された後に退職した従業員や死亡により退職した 従業員は、年末調整および年調減税を行います。 源泉徴収票の「摘要」欄にも年調減税の内容を記載します。 3 7月に子どもが出生した場合、月次減税額は途中で変更になりますか? 月次減税額が途中で変更になることはありません。月次減税額の計算対象となる同一生計 配偶者や扶養親族の人数は、2024年6月1日以後最初の月次減税事務を行うまでに提出 された扶養控除等申告書や定額減税のための申告書に基づき確定します。 以降、人数の増減があった場合でも月次減税額は変更されません。 なお、2024年12月31日時点でその子どもが扶養親族であれば年調減税額の計算に含めて 年末調整時に精算します。(年末調整を行わない従業員は確定申告で精算) 4 5月に亡くなった扶養親族は月次減税額の計算対象になりますか? 2024年6月1日以後最初の給与等の支給日より前に死亡した扶養親族であっても、 2024年1月1日時点および死亡日時点で扶養親族であった場合は月次減税額の計算対象と なります。 5 6月2日以降、税区分が甲欄から乙欄に変更した従業員の定額減税はどのように対応すればよいですか? 税区分が甲欄の従業員が、2024年6月2日以降、他の企業に扶養控除等申告書を提出した ため乙欄となった場合、それ以降は月次減税の対象から外れます。 なお、2024年12月31日時点も乙欄の場合、年調減税も行いません。 (甲欄側の企業で年調減税が行われます。) 6 従業員から月次減税額を控除しないでほしいと申出がありました。控除しなくてもよいですか? 従業員が月次減税額を控除しないよう希望した場合でも、月次減税の対象従業員であれば 月次減税額を控除しなければなりません。 たとえば合計所得金額が1,805万円を超えることが明らかな場合も、従業員の希望により 月次減税額の控除をする・しないを選択することはできません。 7 休職中の従業員は月額減税の対象となりますか? 2024年6月1日現在、甲欄適用者であれば休職中でも月次減税の対象となります。 月次減税額は、復職後の給与等にかかる所得税から控除します。 8 「前月の給与支給額の10倍を超える賞与」を支給するときに源泉徴収税額を計算する 場合、どの金額を「前月の給与に係る源泉徴収税額」として計算すればよいですか? 「前月の給与支給額(※)の10倍を超える賞与(※)」を支給する場合、「月次減税額を 控除する前の所得税額」を「前月の給与に係る源泉徴収税額」として源泉徴収額を計算 します。 ※社会保険料等を差し引いた金額 9 同一生計配偶者や扶養親族の氏名等の提出は、扶養控除等申告書など所定の様式でなければなりませんか? 扶養控除等申告書や配偶者控除等申告書、定額減税のための申告書以外の様式で同一生計 配偶者や扶養親族の氏名等の提出を受けても差し支えありません。 ただし、法令等で定められたすべての事項が記載されていることが必要です。 10 「控除外額」として源泉徴収票に記載された金額が給付金として支給されるのですか? 源泉徴収票に記載された「控除外額」は、給付金の計算に用いられます。 ただし、扶養に該当する場合やそのほかの状況によっては控除外額と給付金の支給額が 必ずしも一致するとは限りません。 11 退職所得から所得税を源泉徴収する場合、定額減税の対象となりますか。 退職所得にかかる所得税は定額減税の対象にはなりません。 なお、控除しきれなかった定額減税額がある場合、退職した従業員本人が確定申告を行う ことで、退職所得を含めた合計所得金額にかかる所得税について、定額減税の適用を受ける ことができます。 おわりに 年末調整の事務についての詳細は、2024年9月頃から国税庁のサイトで公開される予定 です。 そのほか定額減税に関する最新情報なども以下の特設サイトから随時確認できるため、参考にしてください。 参考|国税庁『定額減税特設サイト』 なお、住民税(特別徴収)の定額減税については、実務担当者が年末調整時に計算を行う ことはありません。従業員に課税している各自治体が計算します。 ただし、自治体は給与支払報告書などの情報をもとに計算するため、漏れのないよう 源泉徴収票・給与支払報告書を作成してください。

  • 【2024年度版】 労働保険の年度更新の申告が始まります

    2024年6月3日(月)、労働保険の年度更新申告の受付が開始されます。 年度更新とは、毎年6月1日から7月10日までのあいだに労働保険料を計算し、納付を行う 毎年定例の手続です。 厚生労働省から企業宛てに、年度更新の申告書および納付書が同封された緑色(青色)の 封筒が5月末から6月初旬に到着するように発送されます。 本年の申告・納付期限は、7月10日(水)です。 今回の記事では、年度更新の基本情報に2024年度の変更点を盛り込んでお伝えします。 労働保険の年度更新とは 労働保険は、労災保険と雇用保険の2つの保険の総称です。 年度更新は、従業員を雇用するすべての企業が実施しなければならない手続です。 前年度に従業員に支払った賃金を月ごとに集計し、業種ごとに定められた保険料率を 掛けて保険料を計算します。 賃金を集計する期間は、前年度4月1日から3月31日のあいだの労働に対し、支払が確定した 分の賃金です。 労働保険は、事業の種類により「一元適用事業」と「二元適用事業」に区分されます。 一元適用事業は、労災保険と雇用保険をあわせてひとつの労働保険の保険関係として 取り扱い、労働保険料の申告・納付を行います。 緑色の封筒が届き「二元適用事業以外のすべての事業」がこれに該当します。 二元適用事業は、労災保険と雇用保険を別々の保険関係として労働保険料の申告・納付を 行います。 以下の事業が二元適用事業に該当し、緑色(労災保険)と青色(雇用保険)の封筒が届きます。 ・農林水産の事業 ・土木、建設の事業 ・港湾運輸の事業 ・都道府県、市区町村などの事業 2024年度の年度更新手続の変更点 2024年度の年度更新に関する保険料率や様式の変更点をお伝えします。 1 年度更新に関する保険料率 【雇用保険料率(事業主負担、従業員負担)】 2024年度の雇用保険料率は2023年度と同じ保険料率のため、改定はありません。 参考|厚生労働省『令和6年度の雇用保険料率について』 【労災保険率等(事業主負担のみ)】 労災保険率は原則として3年ごとに改定されるため、2024年4月より労災保険率が 改定されました。 労災保険率は事業の種類ごとに定められています。 2024年度の概算保険料は新しい料率(労災保険率表の「新」列)で、2023年度の確定保険料はこれまでの料率(労災保険率表の「旧」列)で保険料を計算します。 なお、建設事業の労務費率や第2種特別加入保険料率についても2024年4月より改定されました。 以下のパンフレットで確認してください。 参考|厚生労働省『労災保険の料率が変わります』P2 【一般拠出金率(事業主負担のみ)】 一般拠出金は、2018年度以降改定はありません。 業種を問わず、一律「0.02/1,000」です。 2 年度更新申告書や算定基礎賃金集計表の様式が変更になっています。 雇用保険料率が2022年度の途中で変更されたことへの対応として、昨年の年度更新では 前期(4月~同年9月)と後期(10月~翌年3月)に分けて保険料額のもととなる算定基礎 賃金を集計する必要があり、年度更新申告書や算定基礎賃金集計表の様式も一部変更されて いました。 今年の年度更新は、4月〜翌年3月までの1年間の算定基礎賃金をもとに計算するため、 例年通りの様式に戻っています。 【年度更新申告書の変更箇所】 年度更新申告書の下段「期間別確定保険料算定内訳」欄が削除されています。 【確定保険料一般拠出金算定基礎賃金集計表の変更箇所】 2023年4月〜3月の1年間の算定基礎賃金を集計する様式に変更されています。 また、算定基礎賃金集計表の下段「確定保険料算定内訳」欄が削除されています。 3 2024年度に対応した年度更新申告書支援ツールが公開 毎年、年度更新の申告書にあわせた計算支援ツールが厚生労働省から公開されます。 Excelで作成されているため使いやすくなっています。 以下からダウンロードしてください。 参考・ダウンロード|年度更新申告書支援ツール(継続事業用) 年度更新申告書支援ツール(雇用保険用) 年度更新申告書支援ツール(建設事業用) 年度更新申告書を作成するときのチェックポイント 1 労働保険の対象者 労働保険の対象者は、労災保険と雇用保険で異なります。 従業員の月ごとに支払うすべての賃金を集計するときに、正しい対象者を選定しないと 保険料が正しく計算できません。 【労災保険】 時間・日数・期間を問わず、労働の対償として賃金を受け取るすべての従業員が対象です。 役員や事業主と同居している親族は対象外です。(派遣従業員は、派遣元事業場での適用) 【雇用保険】 正社員や契約社員、パート・アルバイトなど雇用形態にかかわらず、すべての雇用保険の 被保険者が該当します。 役員で雇用保険に加入している兼務役員も含まれます。 雇用保険の被保険者とは、1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上雇用される ことが見込まれる従業員です。 (雇用保険マルチジョブホルダー制度による65歳以上の被保険者も対象) 2 労働保険料の計算に含める賃金、含めない賃金 従業員へ月ごとに支払う賃金には、労働保険料の計算に含める賃金と含めない賃金が あります。 賃金、手当、賞与など名称にかかわらず、労働の対償として支払うすべてのものが 対象となります。 【含める賃金】 基本給、各種手当、賞与、通勤費(定期券)、休業手当 など 【含めない賃金】 役員報酬、慶弔見舞金、退職金、解雇予告手当、休業補償費 、実費弁償的な費用  など 3 年度更新書類に同封されている申告書の確認 年度更新書類に同封されている申告書には、企業の労働保険料に関する重要な情報が 記載されています。 登録情報を確認してから手続を始めるようにしてください。 電子申請や年度更新申告書支援ツールを使用するときは、登録情報を入力して手続を進めてください。 また、企業側で管理している情報と登録情報が異なるときは、年度更新の封筒に記載されて いる管轄の都道府県労働局にお問い合わせください。 ① 労働保険番号 ② 申告済概算保険料額 ③ 各種区分 ④ 保険料率 ⑤ 口座振替の有無 (口座振替の申込手続が完了しているときは「●口座振替●」と印字されています) ⑥ 電子申請対象の有無 (電子申請義務化の対象となる企業(※)は「●電子申請対象●」と印字されています) ⑦ メリット制の有無(メリット制の適用となる企業は印字されています) ※資本金、出資金が1億円を超える法人など一定要件を満たす法人は、電子申請による 手続が義務化されています。 参考|厚生労働省『2020年4⽉から特定の法人について電子申請が義務化されます。』 年度更新を効率よく対応するために 1 登録情報の確認 年度更新は、前年度4月1日から3月31日までの従業員の月ごとに支払うすべての賃金を 集計することから始まります。 給与ソフトで年度更新用の賃金を集計作業ができるものもありますが、入社日や退職日、 雇用保険の加入有無、労働保険の対象となる賃金設定などに誤りがあると、正しい保険料が 計算できません。 毎月の給与計算を確実に行っていれば、急な対応を避けることができます。 2 電子申請による申告書の提出 電子申請には、前年度の情報を取り込めたり、入力チェック機能や自動計算機能を効率よく 使えるというメリットがあります。 提出先である労働局や労働基準監督署の窓口に出向く必要もなく、申告書記入漏れや 記入ミスも防止できます。 参考|厚生労働省『労働保険は電子申請』 3 保険料の口座振替 口座振替に手数料はかかりません。口座振替による納付で、毎回金融機関の窓口に行く 手間や待ち時間が解消されます。 納付漏れも防止でき、延滞金の心配がありません。 納付期限についても、納付書で保険料を納付するよりも、保険料の引き落としに最大2か月 のゆとりができます。 なお、2024年度より対象金融機関に「ゆうちょ銀行」が加わっています。 2024年度の全期または第1期の申込締切は終了しています。 新たに口座振替を検討したり口座情報を変更する場合は、第2期の申込締切日(8月14日) までに口座振替依頼書を金融機関の窓口にご提出ください。 (出典)厚生労働省『労働保険料は口座振替が便利です!』 「水力発電施設、ずい道等新設事業」の元請工事がある場合 建設事業のうち、2018年(平成30年)4月1日から2021年(令和3年)1月31日までのあいだ に開始した元請工事について、業種番号31「水力発電施設、ずい道等新設事業」がある 場合は、すでに申告している保険料額等に変更が出る可能性があります。 すでに厚生労働省から連絡済みの事業以外で、該当する元請工事がある場合は管轄の 都道府県労働局へ連絡をしてください。 詳しくは、以下のリーフレットをご確認ください。 参考|厚生労働省『「水力発電施設、ずい道等新設事業」の元請工事がある場合の注意点』 まとめ 年度更新は、毎年必ず行う手続です。 慌てないよう、早めに必要な情報を集めるようにしてください。 申告期限の7月10日(水)は、労働保険料の計算だけではなく、納付期限でもあります。 納付が難しいときは管轄の労働局または労働基準監督署に相談し、分割などの対策を 取るようにしてください。 期限までに納付ができず滞納の状態になると、延滞金などが発生することがあるため、 計画的な手続をおすすめします。

  • 定額減税制度の仕組みと月次減税(従業員向け概要説明資料付)

    2024年、政府は税制改正を行い、2024年分の所得税および2024年度分の住民税で 定額による特別控除が実施されることとなりました。これを定額減税といいます。 原則、給与や役員報酬を支払う企業は定額減税の対応をしなければなりません。 そのため、多くの人事労務担当者は定額減税の制度内容の理解が求められます。 今回の記事は、定額減税の仕組みや給与・賞与計算時(月次減税)の実務の ポイントについて解説します。 なお、今後は年末調整時の対応(年調減税)や定額減税に関する質問などを解説した 記事の公開を予定しています。 定額減税の概要 1 背景と目的 近年、賃金の上昇が物価の上昇に追いつかない状況が続いています。 家計の負担はますます大きくなり、国民の生活や経済に悪影響をおよぼしています。 こうした背景から、国民の負担を緩和する必要があると判断され、定額減税が実施される こととなりました。 定額減税は、所得の種類によって減税方法が異なります。この記事では、従業員や役員 (以下、従業員)など給与所得者の定額減税について解説します。 2 制度内容 ①実施時期 2024年6月以降に支給する給与および賞与(以下、給与等)から ②対象者 合計所得金額の対象には退職所得も含まれていることに留意してください。 ③定額減税額 なお、年間の合計所得金額が48万を超える配偶者や親族は計算対象外です。 配偶者や親族自身が納税者となり、各自の所得税において定額減税の控除が行われます。 【控除対象配偶者以外の同一生計配偶者について】 2024年度の住民税額が計算される時点では、課税する自治体はまだ控除対象配偶者以外の 同一生計配偶者の情報を把握できていません。 そのため、控除対象配偶者以外の同一生計配偶者がいる場合、2025年度に配偶者分(10,000円)が減税されます。 減税の方法 定額減税は、所得税と住民税で減税方法が異なります。 【住民税(特別徴収)の定額減税の計算】 住民税の定額減税は、従業員に課税する自治体が計算します。 計算後、企業には定額減税分が反映された住民税決定通知書が届きます。 定額減税の対象者は2024年6月分の特別徴収はありません。 実務担当者は、住民税決定通知書に記載された7月分以降の特別徴収税額を 毎月の給与から控除します。 なお、定額減税の対象外の従業員(2023年の合計所得金額が1,805万円超の従業員や 均等割・森林環境税のみ課税される従業員など)は、通常どおり2024年6月分から 特別徴収されます。 【所得税の定額減税の計算】 所得税の定額減税は、実務担当者が計算します。 準備段階からとても煩雑となるため、制度内容を十分に理解して効率良く対応する必要があります。 ここからは、所得税の定額減税について解説します。 所得税の定額減税とは 所得税の定額減税には、月次減税と年調減税があります。 毎月の給与等から月次減税を行い、最終的に年末調整時に精算(年調減税)します。 所得税の月次減税の大まかな流れは以下のとおりです。 各作業の内容を理解したうえで、早めにスケジュールを立てることをおすすめします。 事前準備①(月次減税の対象従業員の確認) 月次減税が行われる従業員を確認します。 対象となるのは、2024年6月1日現在、「令和6年分 給与所得者の扶養控除等(異動) 申告書」を提出している従業員(甲欄適用者)です。 【合計所得金額が1,805万円超の従業員に注意】 月次減税の対象要件に、合計所得金額の上限下限はありません。 合計所得金額が1,805万円を超える従業員も、6月1日現在で甲欄適用者であれば 月次減税の対象です。 一方、上述の「定額減税の概要」の解説のとおり、合計所得金額が1,805万円を超える 従業員は定額減税の対象外です。 定額減税の対象外であっても月次減税は必要なため注意してください。 なお、月次減税により控除した額は年末調整時に精算します。 (ただし、給与収入が2,000万円を超えるなど年末調整の対象外の従業員は確定申告で精算) 事前準備②(同一生計配偶者・扶養親族の確認) 月次減税が行われる従業員について、月次減税額の計算対象となる同一生計配偶者や 扶養親族を確認します。 具体的には、2024年6月1日以後最初の月次減税事務を行うまでに提出された以下①②の 申告書に基づき、月次減税の計算対象となるかを判断します。 ①「扶養控除等申告書」の再確認 すでに提出されている扶養控除等申告書を再度提出してもらう必要はありません。 ただし、記載内容の変更について報告漏れがないか従業員に確認します。 報告漏れがあった場合は速やかに扶養控除等申告書を修正してもらいます。 ②「定額減税のための申告書」の配布 ①の扶養控除等申告書に記載していない以下の家族について確認するため、「定額減税の ための申告書」を配布します。 ・2024年中の所得金額の見積額が900万円超である従業員の同一生計配偶者 ・①の扶養控除等申告書に記載のない16歳未満の扶養親族 後日申告書を回収し、記載された家族について以下の内容を確認します。 (出典)国税庁『<記載例>令和6年分 源泉徴収に係る定額減税のための申告書』 「定額減税のための申告書」および記載例は国税庁のサイトからダウンロードできます。 必要事項がすべて確認できるのであれば任意の様式でも差し支えありません。 参考・ダウンロード|国税庁『令和6年分 源泉徴収に係る定額減税のための申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書』 参考・ダウンロード|国税庁『<記載例>令和6年分 源泉徴収に係る定額減税のための申告書』 【源泉控除対象配偶者に注意】 計算対象となる配偶者および扶養親族は年間の合計所得金額が48万円以下です。 扶養控除等申告書に記載されている源泉控除対象配偶者すべてが計算対象となるわけでは ないことに注意してください。 事前準備③(従業員への周知) 従業員に対し、定額減税の実施を周知しなければなりません。 周知するタイミングで、上述「事前準備②」で解説した「①扶養控除等申告書の再確認」「②定額減税のための申告書の配布」もあわせて行うと効率よく進めることができます。 以下は、従業員への周知文書のサンプルです。従業員向けの概要説明資料も添付資料として あわせて利用してください。 参考・ダウンロード|『定額減税の実施について』(word) 参考・ダウンロード|『2024年6月から定額減税が実施されます』(従業員向け概要説明資料) 月次減税額の計算 「扶養控除等申告書」および「定額減税のための申告書」をもとに、以下の図を参考にして 計算対象者の人数をカウントしてください。 従業員ごとに「計算対象者の人数✕30,000円」を算出し、6月以降の給与等にかかる 所得税から控除する月次減税額を決定します。 なお、その後人数の増減があった場合でも、月次減税額は変更されません。 最終的に年調減税で精算されます。 月次減税額の控除 ①給与等の計算 給与等の計算を行い、月次減税額を控除する前の所得税額(以下、控除前税額)を確定 します。 ②定額減税額の控除 控除前税額から上記「月次減税額の計算」で算出した月次減税額を控除します。 控除しきれない金額は次回の給与等に繰り越し、控除しきれるまで毎月繰り返します。 月次減税後の対応 ①給与支払明細書への表示 従業員が控除した月次減税額を確認できるように、給与支払明細書(賞与支払明細書を含む。以下同じ)に表示します。 給与支払明細書への表示が難しい場合は、別紙に記載しても差し支えありません。 (例)「定額減税額(所得税)✕✕円」「定額減税✕✕円」など (出典)国税庁『給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた』P9 ②各人別控除事績簿の作成 各人別控除事績簿とは、従業員ごとに月次減税額や各月の控除額などを管理するための表です。 作成は任意のため、控除しきれなかった額などを適切に管理できるのであれば必ずしも作成する必要はありません。 また、各人別控除事績簿が作成できる給与計算システムもあります。 (出典)国税庁『各人別控除事績簿』 各人別控除事績簿は国税庁のサイトからもダウンロードできます。 参考・ダウンロード|国税庁『各人別控除事績簿』(PDF) 参考・ダウンロード|国税庁『各人別控除事績簿』(Excel) ③源泉徴収簿への記入 源泉徴収簿とは、給与等から徴収した所得税額などを従業員ごとに記録しておく帳簿です。(作成は任意) 月次減税を行ったときの源泉徴収簿の記入方法は、国税庁のサイトを確認してください。 参考|国税庁『給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた』P6~8 ④納付書の記載と納付 「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」(以下、納付書)の書き方は以下のとおりです。 月次減税額を控除したことにより「本税」欄が0円となった場合も、納付書の各欄の記入を行い管轄の税務署に提出する必要があります。 (出典)国税庁『給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた』P9 おわりに 月次減税の実施が間近に迫っています。スムーズに実施するためにも、実務担当者は早めに事前準備を行うことをおすすめします。 定額減税の概要や月次減税の事務など、国税庁のサイトで解説動画が公開されています。ぜひ活用してください。 参考|国税庁『定額減税に係る源泉徴収事務(動画)』 今後、年末調整時の対応(年調減税)や定額減税に関する質問などを解説した記事の公開を予定しています。

  • 厚生労働省から、2023年の障害者・高年齢者の雇用状況について発表がありました

    国は、障害の有無にかかわらず誰もが地域で自立した生活を送り、その能力と適性、年齢にかかわりなく働き続けることができるような社会を目指しています。 その一環として、厚生労働省は毎年6月1日時点での障害者や高年齢者の雇用状況の集計や 公表を行っています。 2023年12月に発表された集計結果では、障害者、高年齢者ともに雇用が推進していることが見受けられ、国が目指す社会の実現に少しずつ近づいています。 障害者の適性や高年齢者のこれまでの経験などを上手に活かすことは、企業にとっても大きなメリットがあります。 この記事では、障害者・高年齢者の雇用状況の集計結果や、雇用による企業への効果などについて紹介します。 障害者雇用状況について 1 集計結果とそこから分かること 2023年の集計結果によると、民間企業で雇用されている障害者の数は前年から4.6%増えて642,178人となり、過去最高を更新しました。 また実雇用率も2.33%で、こちらも過去最高を記録しています。 さらに、法定雇用率を達成している企業の割合も50.1%と前年から増加しています。 これらの結果から、企業が障害者を貴重な戦力と捉え、積極的に雇用していることが分かります。 【民間企業における雇用状況】 (出典)厚生労働省『令和5年 障害者雇用状況の集計結果』P4 【実雇用率と雇用されている障害者の数の推移】 (出典)厚生労働省『令和5年 障害者雇用状況の集計結果』P6 法定雇用率未達成企業のうち、不足数が0.5人または1人である企業は66.7%を占め、障害者を1人も雇用していない企業も58.6%にのぼります。 特に従業員数が100人未満の企業ではどちらも90%を超える数字となっており、1人目を雇用するハードルが高いことが分かります。 【障害者不足数階級別の法定雇用率未達成企業数】 (出典)厚生労働省『令和5年 障害者雇用状況の集計結果』P18 2 制度の案内と注意点 障害者雇用で企業が注意しなければならないことは、法定雇用率制度です。 この制度は、従業員が一定数以上いる企業に対して、従業員に占める身体・知的・精神障害者の割合が法定雇用率以上となるよう義務付けるものです。 令和6年4月から法定雇用率が2.5%に引き上げられ、従業員が40人以上いる企業では障害者を1人以上雇用しなければなりません。 法定雇用率を達成できない企業にはハローワークから行政指導が行われます。 また、従業員が100人を超える企業の場合には、法定雇用率より不足する障害者数に応じて1人につき月額5万円の納付が必要なため、注意してください。 3 企業として行うべきこと 法定雇用率が未達成の企業は、達成できるように障害者雇用の推進を行ってください。 法定雇用率を達成できている企業でも、従業員が100人を超える場合には、超えて雇用している障害者数に応じて1人につき月額2万9千円が支給されますので、さらなる雇用の推進を図ることをおすすめします。 法定雇用率は、単に達成するだけでなく、障害者それぞれの能力や適性が発揮でき、生きがいを持って働けるような環境づくりが大切です。 そのためには障害者の適性や希望を踏まえた処遇や業務の割り振り、障害の特性に応じた就業環境の整備などを心掛けることが重要です。 4 障害者を雇用することによる企業のメリット 障害者を雇用するメリットは、企業のイメージ向上が期待できることです。 近年、社会的公正への配慮などを謳うCSR(企業の社会的責任)が注目されていますが、障害者が自立して生活できることを目指す障害者雇用は、まさにCSRの観点からも重要です。積極的な障害者雇用は、取引先や株主などからの信頼を高めることにもつながります。 また、障害者が貴重な戦力となることもメリットのひとつです。 障害の種類や程度は人それぞれであり、就労できる業務もさまざまです。 たとえば、肢体不自由の方であればデスクワークは問題なくこなすことができたり、精神疾患の方であれば特定の分野を非常に得意としていることもあります。 このように、障害者それぞれの状況や適性を見極めれば貴重な戦力となり、売上の向上も期待できます。 高年齢者雇用状況について 1 集計結果とそこから分かること 2023年の集計結果によると、65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%となっており、そのうち継続雇用制度の導入を行っている企業が69.2%と大半を占めています。 【雇用確保措置の内訳】 (出典)厚生労働省『令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します』P3 また、70歳までの高年齢者就業確保措置を実施済みの企業は29.7%となっています。一方、実際に70歳以上まで働ける制度を整備している企業は41.6%となっており、高年齢者を戦力として重要視していることが分かります。すでに70歳以上の従業員を4割程度雇用していることを踏まえると、これから就業確保措置を制度として導入する企業はさらに増えると思われます。 【就業確保措置の内訳】 (出典)厚生労働省『令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します』P5 【70歳以上まで働ける制度のある企業の状況】 (出典)厚生労働省『令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します』P8 2 制度の案内と注意点 高年齢者雇用の観点で企業が注意しなければならないことは、「高年齢者雇用確保措置」と「高年齢者就業確保措置」です。 高年齢者雇用確保措置とは、定年を65歳未満に定めている企業が実施しなければならないものです。企業は以下のいずれかの措置を講じる必要があります。措置を講じていない場合には、ハローワークから指導が行われる可能性がありますので注意が必要です。 また、高年齢者就業確保措置とは、定年を65歳以上70歳未満に定めている企業、または継続雇用制度を導入している企業がいずれかの措置の実施に努める必要があるものです。 努力義務のため、措置の対象者を限定することもできますが、従業員と十分に協議をしたうえで実施してください。 3 企業として行うべきこと 法令では、高年齢者の雇用は65歳までは必須、70歳までは努力義務として定められており、自社の制度がどうなっているか今一度確認することをおすすめします。 そのうえで、法令で定められている措置は必ず実施し、働き続けたいと考えている高年齢者が働きやすい制度や環境の整備が大切です。特に、高年齢者は健康面に不安を抱えている場合もあり、これまでと同様の働き方では安全衛生上問題となる可能性もあります。短時間勤務制度など、健康に配慮した就業環境の整備をおすすめします。 4 高年齢者を雇用することによる企業のメリット 高年齢者の雇用では、これまで培ってきた経験やスキルを引き続き発揮してもらうことが期待できます。少子化などで人手不足が深刻となる中、働く意欲とスキルのある人が定年退職してしまうことは大きな損失です。定年後の継続雇用は、従業員の活躍の場を設けられるだけでなく、企業のパフォーマンスにも直接影響します。 また、高年齢者の従業員がこれまでどおり第一線で活躍できないとしても、経験やノウハウを若手従業員に教えられることは大きなメリットです。若手従業員の成長や高年齢従業員のやりがいにつながるだけでなく、企業そのものの成長にもつながります。 おわりに 障害者や高年齢者の雇用は年々推進されています。法令の定める基準達成のために雇用することも大切ですが、障害者や高年齢者を雇用することのメリットや意義を理解したうえでの雇用は、障害者・高年齢者と企業の双方により大きな意味のあるものとなります。 そのときは従業員の希望に合わせることも大切なため、しっかりとコミュニケーションをとり、進めていくことをおすすめします。

  • 正社員化コースの拡充と育休代替支援、電子申請で手軽に

    企業を対象とした助成金のうち、厚生労働省が提供する雇用関係助成金には、 雇用の安定、職場環境の改善、仕事と家庭の両立支援、従業員の能力向上などを 目的とした多種類の助成金があります。 なかでも、キャリアアップ助成金や両立支援等助成金は企業が活用しやすい助成金です。 今回の記事は、2024年に改正された助成金のうち、キャリアアップ助成金「正社員化コース」と両立支援等助成金「育休中等業務代替支援コース」について解説するとともに、 助成金の電子申請についてもご紹介します。 キャリアアップ助成金「正社員化コース」の拡充 キャリアアップ助成金とは、有期雇用や無期雇用の契約社員、パート・アルバイトなど 非正規雇用の従業員(以下、有期雇用労働者等)に対し、企業内でキャリアアップ促進の ための取り組みを実施した企業に支給される助成金です。 正社員化コースは、有期雇用労働者等を正社員に転換した場合に支給される助成金です。 正社員化コースでは、今回の改正で以下の4点が変更となりました。 2024年の支給申請は、変更前・変更後のどちらの支給要件が適用されるか確認のうえ 申請してください。 【変更の適用開始時期】 2023年11月29日以降に正社員化した従業員の支給申請から 【変更内容】 ・支給対象期間と支給額の変更 ・対象となる有期雇用労働者の要件緩和 ・正社員転換制度の導入に対する加算措置の新設 ・多様な正社員制度規定に関する加算額の増額 ここからは、変更内容について解説します。 1 支給対象期間と支給額の変更 支給対象期間の延長とともに、支給額が変更されました。また、支給申請が2期制となります。 【支給対象期間の延長】 正社員化した日から起算する支給対象期間が、6か月から12か月に延長されました。 正社員化した従業員の確実な定着を目的としています。 【支給額の変更】 有期雇用の契約社員やパート・アルバイト(以下、有期雇用労働者)を正社員に転換した 場合の支給額が、1人あたり57万円から80万円に増額されました。 (さらに一定の要件を満たすと加算措置が適用されます。) 今回は、新たに加算措置の新設や加算額の増額も行われています。 (「3 正社員転換制度導入に対する加算措置の新設」「4 多様な正社員制度規定に関する加算額の増額」を参照) 【支給申請が2期制へ】 今後は支給対象期間12か月分の申請を2期に分けて行います。 ・第1期の支給申請期間:正社員転換後6か月分の賃金支給日の翌日から2か月以内 ・第2期の支給申請期間:第1期後の6か月分の賃金支給日の翌日から2か月以内 2 対象となる有期雇用労働者の要件緩和 有期雇用労働者から正社員に転換する場合、これまで助成金の対象者は雇用期間が 「6か月以上3年以内の者」に限られていました。これが改正により要件緩和され、 今後は「6か月以上の者」となります。 3 正社員転換制度の導入に対する加算措置の新設 正社員転換制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合の企業への支援を強化 するため、加算措置が新設されました。 1人目の対象者に対する支給額に加算されます。 4 多様な正社員制度規定に関する加算額の増額 多様な正社員制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合の企業への加算額が 増額されました。 多様な正社員制度とは、勤務地限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員への転換制度です。 選択肢を設けることで、従業員のより確実な定着を図ります。 参考|厚生労働省『キャリアアップ助成金「正社員化コース」を拡充しました!』 なおキャリアアップ助成金の申請には、これまでと同様に、あらかじめキャリアアップ 計画書を管轄の都道府県労働局へ提出する必要があります。 キャリアアップ計画書は2023年10月よりチェックボックス式に変更され、記載方法が 簡素化されています。 支給申請書および計画書などの様式は、以下の厚生労働省のサイトからダウンロード できます。 様式は取り組み時期などによって異なるためご注意ください。 参考|厚生労働省『キャリアアップ助成金』 両立支援等助成金「育休中等業務代替支援コース」の新設 (対象:中小企業) 育児休業の取得者や育児のための短時間勤務制度(以下、育児短時間勤務制度)の利用者が いる職場では、他の従業員の仕事が増えるなど周囲に大きな負担がかかっているケースも 見受けられます。 育児休業や育児短時間勤務制度を利用しやすくするためには、制度を利用する従業員の 業務を代替する体制の整備が欠かせません。 こうした職場環境の整備に取り組む企業の支援を強化するため、2024年1月より両立支援等助成金に「育休中等業務代替支援コース」が新設されました。 支給対象となる企業は中小企業のみとなっています。 【適用開始時期および対象】 2024年1月1日以降に開始された育児休業(産後休業から引き続き休業する場合は産後休業)または育児短時間勤務 【コースの種類】 ・業務代替者への手当支給等(育児休業) ・業務代替者への手当支給等(短時間勤務) ・業務代替者の新規雇用(育児休業) 【支給の上限】 上記3つのコースをあわせて支給の上限があります。 ・1事業主につき、一年度で育児休業取得者または育児短時間勤務者をあわせて10人まで ・初回の対象者が出てから5年以内 1 業務代替者への手当支給等(育児休業) 育児休業取得者の業務を代替する従業員(以下、業務代替者)に手当を支給した場合に 助成金が支給されます。さらに「4 支給額の加算」に該当する場合は支給額が加算されます。 業務代替者への手当の規定など、あらかじめ就業規則等の整備も必要です。 2 業務代替者への手当支給等(短時間勤務) 育児短時間勤務中の業務代替者に手当を支給した場合に助成金が支給されます。 さらに「4 支給額の加算」に該当する場合は支給額が加算されます。 業務代替者への手当の規定など、あらかじめ就業規則等の整備も必要です。 3 業務代替者の新規雇用(育児休業) 育児休業取得者の業務代替者を新規雇用した場合に助成金が支給されます。 派遣による新たな受け入れも対象です。さらに「4 支給額の加算」に該当する場合は 支給額が加算されます。 4 支給額の加算(すべてのコース共通) 以下の要件に該当した場合、支給額が加算されます。 ①有期雇用労働者加算 育児休業取得者または育児短時間勤務者が有期雇用の場合、支給額に1人あたり10万円が 加算されます。(ただし、業務代替期間が1か月以上であること) ②育児休業等に関する情報公表加算 育児休業取得状況等に関する情報を指定のサイト上で公表した企業に対し、支給額に1 回限り2万円が加算されます。 参考|厚生労働省『令和6年1月から両立支援等助成金に「育休中等業務代替支援コース」を新設しました』 【そのほかの両立支援等助成金について】 両立支援等助成金では、2024年4月から「柔軟な働き方選択制度等支援コース」も 新設されています。 この助成金は、育児を行いながら働く従業員がより柔軟な働き方を選択できるよう支援することを目的としています。 参考|厚生労働省『2024(令和6)年度 両立支援等助成金のご案内』5 柔軟な働き方選択制度等支援コース 助成金も電子申請が可能に 2023年度から、キャリアアップ助成金や両立支援等助成金など雇用関係助成金で、 電子申請ができるようになりました。 1 電子申請のメリット 電子申請の一番のメリットは時間短縮による業務の効率化です。そのほか、業務の ペーパーレス化、通信費や用紙代などのコスト削減なども図ることができます。 現在申請中の助成金の進捗状況や過去の申請履歴なども確認できるため、助成金の管理が しやすくなります。 (出典)厚生労働省『雇用関係助成金を電子申請しませんか?』 2 電子申請の手順 電子申請は、厚生労働省のサイト「雇用関係助成金ポータル」から行います。 参考|厚生労働省『雇用関係助成金ポータル』 助成金の申請を検討する段階で、その助成金は計画届の提出が必要か確認します。 (例) ・キャリアアップ助成金:計画届(キャリアアップ計画書)の提出が必要 ・両立支援等助成金:計画届の提出は不要 計画届の提出の要・不要により電子申請の手順が異なります。 (出典)厚生労働省『雇用関係助成金ポータル電子申請マニュアル』P8 【GビズIDの取得】 電子申請の準備で必要となるのがGビズIDの取得です。 と、ひとつのID・パスワードでさまざまな行政サービスにログインできるようになります。 参考|デジタル庁『gBizIDで行政サービスへのログインをかんたんに』 【企業、社会保険労務士どちらでも申請が可能】 助成金の電子申請は、企業だけでなく企業から申請代行の依頼を受けた社会保険労務士も 行うことができます。 申請準備(GビズIDの取得も含む)から助成金の支給申請までの詳しい操作手順に ついては、厚生労働省のマニュアルや動画を参考にしてください。 参考|厚生労働省『雇用関係助成金ポータル電子申請マニュアル』 おわりに 助成金の活用は、資金調達だけではなく、職場環境の改善や優秀な人材確保にもつなげられます。 ただし助成金を申請するためには、就業規則等の整備や適切な労務管理などが必要です。 不十分である場合は、速やかに労務整備を行うことをおすすめします。

  • 【知っておきたい】試用期間後の本採用見送りのリスクと対応方法

    試用期間とは、面接だけでは把握できない業務適性を確認するために 実際に働いてもらう期間をいいます。 本採用をするかどうかを最終決定するための期間であり、試用期間中の 勤務状況によっては本採用を見送る判断もあり得ます。 しかし試用期間中の勤務態度や業績が基準に満たなかったとしても、 本採用見送りが法的に認められることはあまりありません。 ただし適切に運用をすれば、本採用の見送りが認められる場合もあります。 今回の記事では、運用が難しく、労使紛争や法令等違反につながる恐れのある 試用期間の概要や導入・運用方法について紹介します。 試用期間の概要 試用期間では、実際に一定期間従業員を就労させて、適性があるかどうかを判断します。 試用期間には、新しく入社する従業員の成長意欲を促せるというメリットもあります。 試用期間中に達成してほしい目標を具体的に示すことで、力を入れて取り組むポイントを 明確にできるためです。 試用期間中は「本採用されないかも」という不安を抱えながら働く従業員にとって、 評価される項目が明確で、頑張りの方向性が分かっていることは重要です。 制度の透明性を高め、試用期間制度を有意義に活用してください。 試用期間の法的性質 注意点は、試用期間中も労働契約は締結されており、独立した「お試し期間」 ではないということです。 つまり「本採用を見送る」という扱いをしたとしても、「解雇」であると判断されます。 解雇はさまざまなリスクの原因となるため、本採用を見送る場合には、解雇が認められるか という観点で検討をしなければなりません。 解雇の有用性の判断は裁判所が下します。 その際、試用期間が適性や能力を見るための期間であるということが完全に無視される わけではありません。 試用期間の趣旨を踏まえ、一般的な能力不足による解雇よりは少しだけ緩やかな基準で 判断されることが多いです。 正式採用の前に試用期間としての有期雇用契約を締結し、能力や適性が合格基準に 達しているという場合には、有期契約の終了後に無期契約を締結するというケースも 見られます。 しかし、有期雇用契約を締結した目的が「従業員の適性を判断するため」であったときは、 試用期間と判断されてしまいます。 つまり有期契約はなく、最初から無期契約を締結したと見なされます。 能力や適性がないと判断し、有期契約が満了しても無期契約などを締結せずに契約関係を 終了させた場合でも、当初から無期契約が締結されていたものとして、違法な解雇をした と判断されてしまいます。 試用期間満了後の本採用拒否 試用期間の終了後、従業員の適性を考慮し本採用を見送りたい場合の契約解除(解雇)は、 通常の解雇と比べると企業側に認められる自由度は大きいと考えられていますが、 実際には認められることはほぼありません。 【認められる可能性があるケース】 ・面接では見抜くことができない事情があり、その事情を知っていれば採用をしなかった ・同業種の他社でも、同様の扱いをする可能性がある 事情については極めて厳格に判断されることから、本採用を見送ったことについて争った 事案では、会社が敗訴してしまう、または高額な和解金を支払わなければならないケースが 多くみられます。 とくに、新卒採用者の場合は、極めて難しいといわれています。 そのため、安易に本採用を見送ることはできないものと考えておくことを推奨します。 ケース別 本採用見送りの対応について 試用期間中や試用期間満了をもって本採用を見送りたいときの、試用期間導入前に 押さえておきたいことと、本採用見送りを考えた際に対応すべきことをケース別に ご紹介します。 ①業務を行う能力や適性がないと判断した場合 その業務にどのような能力や適性が必要なのかを、企業自身が把握し明確化しておく必要が あります。 企業が判断基準を持っていないにもかかわらず、能力不足を理由にした本採用見送りは、 労使紛争に至った場合に敗訴または高額な和解金の支払の要因になりかねません。 試用期間に入る前に評価項目と評価基準を作成し、従業員にどのような基準で判断するかを 説明してください。 また能力不足であると感じた場合にも、改善を図るよう指示しきちんと教育をする姿勢を とりましょう。 企業には従業員を育成する義務があります。 どのような基準で評価するかを決めたうえで、しっかりと研修や指導を行い、 それでも一定のレベルに達せず、かつ今後も改善の見込がないという場合に 本採用見送りが認められる可能性があります。 新卒採用者の場合は育成が前提になっているため、能力不足を理由に試用期間だけで 本採用を見送るということは、ほぼ認められません。 ②勤務態度が悪い場合 書面などの記録で証拠を残すことが大切です。 欠勤や遅刻の勤怠記録を付けることはもちろん、欠勤や遅刻の回数が多い場合には書面で 指導してください。 また、業務命令に違反した場合にも同じように書面で命令を行い、指導を行った証拠を 残してください。 また、遅刻のような記録に残しやすいものではなく、上司や同僚等への態度が悪いなどの 理由で本採用を見送る場合には、「いつ」「誰に対して」「どのような状況で」 「どのような言動を行い」「その言動に対してどのような指導をし」「態度が変わったのか否か」ということを、詳細にメモで残すことが重要です。 この場合にも、指導は書面でも行ってください。 ③勤務成績が悪い場合 試用期間前に、企業が設定している目標を具体的に共有してください。 そのうえで本採用を見送る場合には、目標にどの程度届かなかったのか、 届かなかった理由は何だったのかも具体的に説明しましょう。 重要なのは「具体的に」という点です。 可能な限り数値目標を設定し、そのうえで達成できるように必要な指導や研修を 行ってください。 数値目標が採用したての新人にとってそもそも無茶な内容であった場合には、 本採用を見送り後に労使紛争に至ったとき、敗訴または高額な和解金の支払の要因に なりかねません。 以上のように、トラブルを避けるためには労務管理の記録をしっかりと残すこと、 改善のために企業が努力をすることが求められます。 また、就業規則に「試用期間の内容によっては解雇する可能性があること」や、 採用基準などを具体的に記載しておくことも大切です。 試用期間の長さと延長 試用期間の長さは法令等上定められていません。 しかし、あまり長い期間になると従業員の地位を不安定にさせるため、適性判断に必要な 期間以上の試用期間を設けることは無効とされる恐れがあります。 また従業員に対して「冷遇されているのではないか」と疑念を生じさせてしまい、 モチベーション低下にもつながる恐れがあります。 そのため、職種ごとによって期間は変わりますが、最長でも6か月が理想的です。 最初の試用期間で適性を判断できず、期間を延長したい場合には、十分な措置を講じる 必要があります。 具体的には就業規則に定めを置き、個別に合意を取ってください。 その際、延長することを伝えるだけではなく、本採用のレベルに届かなかった部分は どこか、何ができたら合格となるのか、そのために企業が指導する内容は何かをしっかり 従業員に伝えることが大切です。 おわりに 試用期間後の本採用見送りは、企業のリスクが高くなります。 しかし本採用自体に組織運営上のリスクがあると判断するケースもあるでしょう。 こういった場合には本採用を見送るのではなく、労使間でしっかりと話し合い、 双方合意のうえで退職してもらうことが重要です。 その従業員に、能力や適性が不足していること、勤務態度が悪いということを 理解してもらうためにも、従業員とのやり取りを適切に行い、記録を残す必要が あるのです。 しかし人材育成という観点では、適切な試用期間には大きなメリットがあります。 リスクを下げつつ、新たに迎える従業員にスキルアップしてもらうためにも 試用期間制度をうまく活用してみてください。

  • 労災保険の特別加入制度~手続と流れ~

    労災保険の特別加入制度とは、一定の要件を満たす中小事業主等や一人親方等を従業員に準じて保護するための制度です。 加入は任意ですが、特別加入することにより、業務や通勤が原因でケガや病気をしたときも治療費の負担はありません。 さらに治療や療養のために働けなくなったときは、その期間の生活の安定を図るための給付金が支給されます。 このほか、障害が残ったときの給付や、死亡したときの遺族への給付などもあり、 万が一に備え、安心して働くことができるのも特別加入のメリットのひとつです。 今回の記事では、特別加入制度の中で加入者が最も多い「中小事業主等」、 それに次ぐ「一人親方等」を中心に、特別加入の手続や保険料、給付基礎日額について解説します。 なお、補償の対象範囲や保険給付等については、以前の記事をご確認ください。 以前の記事『労災保険の特別加入制度とは。(対象者や補償の範囲)』 特別加入するための手続 中小事業主等、一人親方等それぞれの加入手続について解説します。 1 労働保険事務組合と特別加入団体 特別加入制度の加入手続は、以下の組合や団体を通じて行います。 ・中小事業主等:労働保険事務組合 ・一人親方等 :特別加入団体 ①労働保険事務組合とは 労働保険事務組合(以下、事務組合)とは、厚生労働大臣の認可を受けた団体です。 中小事業主等に代わり、労働保険事務の手続を行います。 特別加入を希望する場合だけでなく、「人手不足で事務処理に困っている」 「手続の時間が取りにくい」など事務処理が負担になっているときも、事務組合への委託が可能です。 委託する事務組合をお探しの場合は、都道府県労働局または労働基準監督署にお問い合わせください。 (出典)京都労働局『労働保険事務組合制度をご存知ですか』 ②特別加入団体とは 特別加入団体とは、都道府県労働局長の承認を受けた団体です。 一人親方等の特別加入は、「特別加入団体を事業主」 「一人親方等を従業員」とみなして労災保険を適用します。 そのため、一人親方等は特別加入団体の構成員になる必要があります。 なお、特別加入団体ごとに対応できる地域や業種が異なるため、加入の申込前に居住地や業種が対象であるかご確認ください。 お近くの特別加入団体をお探しの場合は、都道府県労働局または労働基準監督署にお問い合わせください。 2 手続の流れ 中小事業主等は事務組合、そして一人親方等は特別加入団体に特別加入の申込をします。(申込方法は、インターネット・郵送・FAXなど組合や団体によって異なります。) 申込を受けた事務組合や特別加入団体は、都道府県労働局(労働基準監督署経由)に特別加入の届出を行います。 なお、加入日は、事務組合や特別加入団体が都道府県労働局に届出した日(※)の翌日から30日以内のうち、中小事業主等や一人親方等が希望する日です。 申請日からさかのぼって加入することはできないため、日数に余裕を持って特別加入の申込をしてください。 ※中小事業主等や一人親方等が特別加入の申込を行った日ではないためご注意ください。 【特別加入証明書】 特別加入証明書とは、特別加入していることを証明する書類です。 近年、建設現場などで提示を求められる場合が増えています。 万が一の事故に備え、特別加入していない者には業務をさせない方針の元請企業もあり、特別加入証明書がない場合は現場に入場できない可能性もあります。 特別加入証明書は、中小事業主等は事務組合、一人親方等は特別加入団体が発行します。 特別加入の手続完了とともに自動的に発行される場合や依頼しなければ発行されない場合など、発行方法は加入する組合や団体によって異なります。 3 加入時健康診断 中小事業主等や一人親方等が、以下の表にある業務を過去に一定期間従事していた場合、特別加入の申請時に健康診断を受けなければなりません。 この健康診断を加入時健康診断といい、適正な保険給付を行うために実施します。 病気などが発症したとき、発症の要因が特別加入の申請前と申請後のどちらの業務によるものか判断するための大切な診断です。 なお、健康診断を受診した結果、以下に該当する場合は特別加入が認められなかったり、保険給付を受けられない可能性があります。 給付基礎日額について 給付基礎日額とは、特別加入の保険料や給付額などを算定するときの基礎となるものです。 給付基礎日額は3,500円~25,000円の中から、中小事業主等や一人親方等が金額を選択します。 給付基礎日額が低いほど保険料が下がりますが、それだけ給付額も低くなります。 保険料と補償内容とのバランスを考慮しながら給付基礎日額を選択することをおすすめします。 1 年間保険料 特別加入の年間保険料は以下の計算により算出されます。 保険料率は事業ごとに定められています。2024年4月より保険料率が改定され、最新の保険料率は厚生労働省のサイトから確認することができます。 (中小事業主等は「第一種特別加入保険料率」、一人親方等は「第二種特別加入保険料率」を適用) 参考|厚生労働省『特別加入保険料率表(令和6年4月1日施行)』 【給付基礎日額・保険料率一覧表】 以下の一覧表は、給付基礎日額に対する年間保険料です。 自身が適用される保険料率をあてはめ、給付基礎日額を選択するときの参考にしてください。 参考|厚生労働省『特別加入制度のしおり<一人親方その他の自営業者用>』P9 2 補償内容(保険給付・特別支給金) 以下の一覧のうち、赤枠で囲まれた保険給付や特別支給金は、給付基礎日額が支給額に反映されます。 参考|厚生労働省『特別加入制度のしおり<一人親方その他の自営業者用>』P13 労働災害の発生から給付手続までの流れ 労働災害が発生した場合、以下のように対応します。 ①医療機関を受診し、以下のことを伝える ・業務中または通勤途中の災害であること ・特別加入していること なお、受診先が労災病院、労災指定病院、労災指定薬局の場合、治療等を無償で受けることができます。 それ以外の医療機関を受診するときは、病院や薬局の窓口で治療費等を立替えて支払い(10割負担)、後日費用の請求手続を行うと立替えた費用が支給されます。 ②保険給付の請求書を作成 保険給付の請求手続(特別支給金の申請手続を含む)は、事務組合や特別加入団体が行うことができません。 そのため、中小事業主等や一人親方等が自身で請求手続を行う必要があります。 (一人親方等は特別加入団体の証明が必要) ただし、請求書の作成サポートなどを行う事務組合や特別加入団体もあるため、まずは加入先の事務組合や特別加入団体にお問い合わせください。 なお、社会保険労務士は請求手続の提出代行が可能です。 日頃から労務管理などを依頼している社会保険労務士がいる場合は、社会保険労務士に請求手続の代行を依頼するのもひとつの方法です。 ③保険給付の請求書を提出 保険給付の請求書(特別支給金の申請書を含む)を提出します。 提出先は、医療機関や労働基準監督署など給付の種類により異なります。 その他注意事項 ①支給制限 中小事業主等や一人親方等の故意または重大な過失によって発生した災害や、保険料の滞納期間中に生じた災害では、支給制限(全部または一部)が行われる可能性があります。 ②【中小事業主等】包括加入および脱退 中小事業主等が特別加入する場合、家族従事者(事業主と同居している家族でその事業に従事している者)や役員(法人の場合)など従業員以外でその事業に従事している者がいるときは、原則として全員が加入することとなります。 これを包括加入といいます。 また、中小事業主等が特別加入から脱退する場合、包括加入した者も全員脱退することとなります。 なお、例外として、以下に該当すると認められた事業主は包括加入の対象から除くことができます。 ・就業実態のない事業主(例:病気療養中や高齢など) ・事業主本来の業務のみ行う事業主 (例:株主総会や役員会など会議出席のみ行い、実際の業務執行は他の役員が行っている場合など) ③【中小事業主等】健康保険の特例は対象外 被保険者数が5人未満の企業において、中小事業主等が被ったケガや病気が、従業員と同様の業務を行っていたときの災害によるものと認められたときは健康保険が適用されます。 ただし、特別加入している中小事業主等は労災保険を適用するため対象外です。 よくある質問 中小事業主等や一人親方等の特別加入について、よくあるご質問と回答を紹介します。 おわりに 労働災害の備えには、特別加入制度のほか、民間保険(障害保険など)もあります。 民間保険も商品によって内容はさまざまで、特別加入制度より手厚い補償の商品もあります。 ただし、民間保険は特別加入制度とくらべ、保険料が高い傾向にあります。 特別加入制度はコストを抑えつつ、療養や休業、傷病、遺族、介護など幅広く補償される点もメリットのひとつです。 内容を十分に理解したうえで、加入の検討をしてください。

  • 労災保険の特別加入制度とは ~対象者や補償の対象範囲~

    労災保険は正式名称を「労働者災害補償保険法」といい、従業員が業務や通勤により 被った災害(病気、けが、障害、死亡など)に対し、保険給付を行う制度です。 従業員や遺族を保護することを目的としているため、事業主や役員など従業員以外の者は 原則として対象外です。 しかし、建設現場の作業などでは、事業主等が従業員と同様の業務を行うこともめずらしくありません。 こうしたときの災害の発生リスクは従業員と変わらないため、一定の要件を満たす場合は、 事業主等についても特別に労災保険への加入が認められています。 これを特別加入制度といいます。 今回の記事では、特別加入制度の中でも加入者が最も多い「中小事業主等」、それに次ぐ「一人親方等」を中心に、補償の対象範囲や保険給付などについて解説します。 今後、加入手続や保険料、給付額の算定基準について解説した記事の公開を予定しています。 今後の記事『労災保険の特別加入制度。(手続およびその後の流れ)』 特別加入制度の対象者 1 加入の対象区分 特別加入制度の対象者は大きく分けて4種類です。 ①中小事業主等 以下に定める従業員数を常時雇用する事業主や役員、事業主の家族でその事業に従事している者(以下、家族従事者) ②一人親方等 従業員を雇用せず、常態として以下の事業を行う一人親方や自営業者、および家族従事者 (従業員を雇用していても雇用する日数が年間延べ100日未満のときは、一人親方等の対象) 詳しくは、厚生労働省のパンフレットを参考にしてください。 参考|厚生労働省『特別加入制度のしおり<一人親方その他の自営業者用>』P3 ③特定作業従事者 以下の特定の業務に取り組む者 ・特定農作業従事者 ・指定農業機械作業従事者 ・国や地方公共団体が実施する訓練従事者 ・家内労働者およびその補助者 ・労働組合等の一人専従役員 ・介護作業従事者および家事支援従事者 ・芸能関係作業従事者 ・アニメーション制作作業従事者 ・ITフリーランス など ④海外派遣者 労災保険の対象は、日本国内の事業所に勤務する従業員です。 転勤などで海外の事業所に派遣される従業員は対象外となり、原則として派遣先の国の 災害補償制度が適用されます。 しかし補償内容が十分とはいえない国もあることから、以下に該当する従業員は特別加入 することができます。 ・日本国内の事業主から、海外事業の従業員または海外の中小事業主等として派遣される者 ・技術協力の事業を行う団体から派遣され、開発途上地域の事業に従事する者 なお、海外派遣者については、今後公開の記事で詳しくお伝えする予定です。 2 下請の場合はどうなるのか 建設現場などでは、重層的な請負契約関係により、元請、下請、孫請など複数の企業の 従業員が一体となって作業します。 そのため一般的な労災保険の適用とは異なり、元請の企業が下請・孫請の従業員も含めて 現場全体の労災保険に加入します。 つまり、下請・孫請の従業員が現場で労働災害にあったときは、元請企業の労災保険が 適用されます。 一方、中小事業主等や一人親方等は、元請の労災保険は適用されません。 そのため労災保険の補償を受けるためには、あらかじめ自身で特別加入する必要があります。 3 今後の見通し 近年、特別加入制度の対象が順次拡大されています。2021年から2022年の2年間だけでも、 以下の事業を行う者が新たに対象となりました。 ・芸能関係作業従事者 ・アニメーション制作作業従事者 ・柔道整復師 ・創業支援等措置に基づき事業を行う者 ・自転車を使用して貨物運送事業を行う者 ・ITフリーランス ・あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゅう師 ・歯科技工士 その背景には、働き方の多様化があります。 なかでもフリーランスの増加による影響は大きく、2023年にはフリーランス新法が成立し、 2024年秋頃に施行予定です。 こうした動きに伴い、労働政策審議会においても、一定の要件を満たすフリーランスを 特別加入制度の新たな対象者として加える方向性が示されています。 特別加入のメリット・デメリット 特別加入は任意加入の制度です。メリットとデメリットを知ったうえで、加入の判断を することをおすすめします。 1 メリット ①業務または通勤による災害を受けたときに補償が受けられる 業務や通勤が原因で病気やけがをした場合、治療費などを負担する必要がありません。 さらに、治療や療養で働けなくなったときは、その期間の生活の安定を図るための給付金が 支給されます。 このほか、障害が残ったときの給付や、死亡したときの遺族への給付などもあります。 ②保険料を自分で設定できる 特別加入の保険料は保険料一覧の中から加入者が選択します。補償の手厚さ、事業の経営状況などのバランスを見ながら保険料を設定することができます。 2 デメリット ①会費や手数料などの費用が発生する 特別加入は、労働保険の事務処理を行う労働保険事務組合や特別加入団体などを通じて 加入しなければなりません。 加入先で定められた費用(入会金や会費、委託手数料など)を負担する必要があります。 ②業務上の災害がすべて補償の対象とはならない 特別加入は従業員に準じて保護される制度です。業務中の災害は、従業員と同様の業務を 行っていた場合に補償対象となります。 そのため、事業主の立場で行う事業主本来の業務を行っていたときの災害については 補償されません。 補償の対象範囲 特別加入における補償は、「業務災害」 「複数業務要因災害」 「通勤災害」の3つに 大別されます。 1 業務災害 業務災害とは、業務が原因となった病気やけが、障害、死亡のことです。 病気やけがなどの発生が、業務と因果関係があるかどうかで業務災害であるか判断されます。 中小事業主等、一人親方等による具体的な対象範囲は以下のとおりです。 参考|厚生労働省『特別加入制度のしおり<一人親方その他の自営業者用>』P10 2 複数業務要因災害 近年、働き方の多様化により副業や兼業など複数の企業で働く人が増えています。 こうした状況を踏まえ、2020年9月からの労災認定については、事業主が同一ではない 複数の企業で働く従業員を対象に、すべての勤務先で発生する業務上の負荷(労働時間や ストレスなど)を総合的に評価して判断されることとなりました。 こうして認定された災害を複数業務要因災害といいます。 (対象疾病:脳・心臓疾患や精神障害など) 特別加入者の複数要因災害は以下のとおりです。 3 通勤災害 通勤災害とは、通勤途中の事故などによるけがや病気、障害、死亡のことです。 特別加入者の通勤災害は以下のとおりです。 保険給付・特別支給金の種類 特別加入者の被った事故が、業務災害、複数業務要因災害、通勤災害であると認定された場合、保険給付や特別支給金が支給されます。なお、特別加入者の健康診断の受診は自主性に任されているため、特別加入者は二次健康診断等給付の対象とはなりません。 【保険給付】 被災した従業員または死亡した従業員の遺族に対して支給されます。 【特別支給金】 社会復帰促進等事業として保険給付とあわせて支給されるものです。保険給付の種類によっては特別支給金がない場合もあります。 以下は、保険給付や特別支給金の一覧です。 なお、「給付基礎日額」とは、保険料や給付額を算定する基礎となるものです。詳しくは、今後の記事『労災保険の特別加入制度。(手続およびその後の流れ)』で解説します。 参考|厚生労働省『特別加入制度のしおり<一人親方その他の自営業者用>』P13 おわりに 特別加入制度に加入して万が一に備えることは、働く中小事業主等や一人親方等だけでなく家族にとっても安心感を与えられます。メリットとデメリットを前もって理解したうえで、加入の検討をしてください。 今後の記事では、特別加入制度の加入手続や負担すべき保険料、給付額の算定基準について解説します。 また、特別加入の対象のひとつである「海外派遣者」についても、今後詳しくお伝えする予定です。

  • 知っておきたい労災保険料の基礎知識(2024年4月から労災保険率改定)

    労災保険制度は、すべての従業員の保護を目的とした公的な保険制度です。 そして、この制度の適正な運営を確保するための重要な財源が、労災保険料です。 2024年4月から労災保険率が改定されます。 労務担当者は、改定後の自社の労災保険率を把握してください。 今回の記事は、労災保険料のしくみや計算方法のほか、2024年4月に改定される労災保険率も紹介します。 労災保険料とは 労災保険は、従業員が業務中または通勤途中の事故などで被ったケガや病気などに対して、保険給付が受けられる制度です。 あわせて、被災した従業員の社会復帰促進や援護(遺族も含む)などの社会復帰促進等事業も行います。 労災保険制度を運営するための財源を大きく占めるのが労災保険料で、以下のような内容に使われます。 【労災保険料の負担について】 労働基準法は、事業主の災害補償責任を定めています。業務災害が発生した場合、 どの事業主でも被災した従業員や、従業員が死亡した場合には遺族に対し、 損害賠償の責任を負わなければなりません。 事業主の故意や過失の有無にかかわらず責任が発生します。 (従業員の重大な過失により労働基準監督署長の認定を受けた場合の休業補償および障害補償を除く。) しかし業務災害が発生した場合、療養や休業、障害、遺族に対する補償など、すべての補償を行う資金がない事業主もいます。 この場合、被災した従業員や遺族に対して十分な補償ができない可能性があります。 そこで事業主の災害補償を代行し、従業員や遺族が補償を受けることができるよう定められたのが労働者災害補償保険法(以下、労災保険法)です。労災保険による給付が行われると、事業主は労働基準法の災害補償責任を免れることとなります。 このような労働基準法と労災保険法との関係から、1人でも従業員を雇用する場合は労災保険の成立手続を行い、労災保険料は事業主が全額負担することとなっています。 労災保険料の計算 ここからは労災保険料の計算について解説します。なお、この記事で解説する労災保険料は、従業員に対して適用される通常の労災保険にかかる保険料です。 中小事業主や一人親方等が特別加入している場合の特別加入保険料は別途計算されます。 1 労災保険料の計算式 労災保険料の計算式は以下のとおりです。 労災保険は、企業単位ではなく事業所単位で加入します。そのため、労働保険番号を複数もつ企業はそれぞれの労働保険番号ごとに労災保険料の計算をします。 (継続事業の一括をしている場合はまとめて計算) ①賃金総額とは 賃金総額とは、すべての従業員に対し労働の対償として支払ったものです。 4月1日から翌年3月31日の勤務分の賃金が対象で、税金や社会保険料などを控除する前の総支給額をいいます。 なお、役員報酬は対象外ですが、兼務役員に対し従業員部分として支払われた賃金は対象になります。 (出典)厚生労働省『労働保険対象賃金の範囲』 ②労災保険率とは 労災保険率は事業の種類ごとに定められています。 過去3年間の災害発生率などを考慮して定められ、危険な作業が多い事業ほど労災保険率は高くなります。 また、同じ企業で複数の事業を展開するなど、事業所によって主たる事業の種類が異なる場合もあります。 この場合、それぞれの事業所の主たる事業の種類ごとに労災保険率が決まります。 【2024年4月、労災保険率が改定されます】 労災保険率は原則として3年ごとに改定され、次回は2024年4月に改定されることが公表されています。 改定後の労災保険率は、以下の厚生労働省のサイトで確認できます。 参考|厚生労働省『労災保険率表(令和6年4月1日施行)』 ③労災保険料の計算例 以下は、労災保険料の計算例です。 2 賃金総額の特例(建設業) 下請や孫請など数次の請負による建設業の場合、元請が下請や孫請の従業員も含めて現場全体の労災保険に加入します。 しかし、元請が現場全体の従業員の賃金総額を正確に把握することが困難な場合も多く見受けられます。 困難であると認められた場合、特例として、請負金額に労務費率を乗じた額を賃金総額とみなして計算することができます。 この特例による労災保険料の計算式は以下のとおりです。 ①労務費率とは 労務費率とは、工事の請負金額に占める賃金総額の割合です。 事業の種類ごとに定められています。 【2024年4月、労務費率が改定されます】 労務費率は2024年4月に改定されることが公表されています。 具体的な率は厚生労働省のサイトで確認できます。 参考|厚生労働省『労務費率(令和6年4月1日施行)』 ②労務費率を使用した労災保険料の計算例 以下は、特例により労務費率を使用した労災保険料の計算例です。 3 現場労災と事務所労災(建設業) 建設業には、現場で働く従業員のほか、事務員など現場以外で働く従業員もいます。 この場合、労災保険は別々に加入するため労災保険料も分けて計算します。 【現場労災】 現場で働く従業員の労災保険です。 上述のとおり数次の請負による建設現場の場合、元請が加入するため労災保険料も元請が計算します。 【事務所労災】 事務員など現場以外で働く従業員の労災保険です。雇用する事業主が加入します。 なお従業員によっては、現場作業と、資料作成など現場以外の業務を兼務する人もいます。 こうした従業員については、現場以外の業務中の災害に備えて事務所労災にも加入します。 この場合、現場と現場以外の労働時間の割合により現場以外にかかる賃金総額を算出して労災保険料を計算します。 4 メリット制 安全衛生への取り組みや快適な職場環境づくりの意識は、企業によって異なります。 事業の種類が同じであっても、こうした企業の努力や姿勢により業務災害の発生率に差が生じます。 そこで、企業の災害防止の努力を推進するため、適用要件を満たす事業所については、業務災害の発生が多い少ないに応じ、一定の範囲内で労災保険率または労災保険料額を増減させます。 この制度をメリット制といいます。 適用要件は、継続事業、一括有期事業、単独有期事業により異なります。 以下の図は、継続事業の場合の適用要件です。 なお、一定の安全衛生措置を講じた中小企業事業主を対象に、通常のメリット制よりもさらに増減率が大きくなる特例メリット制も設けられています。 労働保険料の申告および納付 労災保険料は、雇用保険料とあわせて労働保険料と呼ばれます。 労働保険料は、年に1回行う年度更新により申告および納付をします。 【年度更新とは】 毎年6月1日から7月10日のあいだに行う以下の手続です。 ・前年度の確定保険料を申告・納付するとともに概算保険料を精算 ・新年度の概算保険料を申告・納付 なお単独有期事業では、年度更新ではなくひとつの事業(工事など)ごとに労働保険料の申告および納付をします。 ・事業を開始した日から20日以内に概算保険料を申告・納付 ・事業が終了した日から50日以内に確定保険料を申告・納付するとともに概算保険料を精算 労災保険の加入手続や労働保険料の納付を怠ったとき 労災保険の加入手続や労働保険料の納付を怠った企業に対し、以下のような徴収が行われます。 1 労災保険の加入手続(成立手続)を怠った場合 ①加入勧奨に従わないとき 加入手続を行わない企業に対し、行政機関から加入手続の指導が行われる可能性があります。 再三の加入勧奨にも従わない場合、職権により強制的に加入手続が行われ、最大2年間さかのぼった労働保険料と10%の追徴金が徴収されます。 ②未加入期間中に災害が発生したとき 労災保険の加入手続を行っていない期間中に、企業の故意または重大な過失により労働災害が発生した場合、最大2年間さかのぼった労働保険料と10%の追徴金を徴収されるとともに、下図のように保険給付に要した費用の100%または40%が徴収されます。 (出典)厚生労働省『ひとりでも労働者を雇ったら、労働保険(労災・雇用)に入る義務があります。』P4 2 労働保険料を滞納した場合 労災保険の加入手続は行っているものの労働保険料を滞納した場合、以下のように延滞金や保険給付に要した費用の一部が徴収されます。 (出典)福井労働局『保険料を滞納すると?』 おわりに 労働保険料の納付は企業の義務です。 2024年4月から労災保険率や労務費率が改定されるため、労務担当者は留意しながら正しく労働保険料の計算をしてください。 また、事情により労働保険料を一時に納付できない企業は、一定の要件に該当すると猶予制度を受けられる場合があります。 詳しくは、都道府県労働局または労働基準監督署にご相談ください。

  • 人事異動におけるトラブルを回避するためには

    企業はさまざまな人事権を持っており、人事異動も人事権を根拠に行われます。 そのため、基本的に人事異動の裁量権は企業側にあります。 しかし、完全に企業側の自由というわけではなく、契約上の根拠がなかったり、従業員の 個別の状況を考えないまま人事異動を命じてしまうと、労使紛争の火種となる恐れが あります。 一方、正しく運用ができれば企業には業務の属人化の防止や組織の活性化というメリットが 生まれ、従業員にはキャリア形成やスキルアップなどのメリットが生まれます。 この記事では、人事異動を企業と従業員の双方にプラスのものとするため、人事異動の 基本や、トラブル回避のための方法を紹介します。 人事異動とは 人事異動とは、企業が従業員に対して、勤務地や役職、職種などの変更を命じることです。 別の事業場に勤務地を変更する転勤や、職種を変更する職種変更など、人事異動にはさまざまな種類があります。 基本的に、就業規則などの根拠規定が定められている場合には、ほとんどの人事異動で 企業側の裁量権が認められます。 特に、新卒採用や期間の定めなく採用された正社員は、人事異動を前提にした採用である ことが多く、その場合は企業の決定した人事異動が認められるケースが多いです。 人事異動によるメリットとデメリット 人事異動には、企業と従業員の双方にメリットがあると同時に、デメリットもあります。 ここでは、それぞれを簡単に紹介したいと思います。 1 メリット 企業にとってのメリットとして、経営方針に合わせた人材の配置ができることがあります。 力を入れたい事業の人員を増員する際、新たに従業員の採用を行うと費用がかかります。 しかし人事異動ができれば、企業内の人員だけで対処することができます。 また、企業が従業員の適性を踏まえて人事異動を行うことで、適材適所の配置が実現し、 従業員の生産性の向上も期待できます。 人事異動の従業員側のメリットは、キャリア形成やスキルアップにつながるという点です。人事異動で新たな業務に就労することは、新たなスキルを獲得する機会や、その後のキャリアを考えるきっかけにもなります。このことは従業員のやる気やモチベーションの向上につながります。 2 デメリット 人事異動には、デメリットもあります。企業と従業員の双方にとって有益なものとなるため には、人事異動を正しく運用する必要があり、正しく運用できなかった場合には、従業員の モチベーションや生産性の低下が生じます。 従業員のモチベーション低下は離職の原因になり、企業の戦力ダウンにもつながって しまいます。 さらに、従業員のキャリア形成を不当に侵害するような人事異動をしたり、従業員の 家族状況等に一切配慮をしない人事異動をしてしまうと、労使間での紛争が生じてしまいます。 その人事異動が不当であると認められてしまうと、多額の賠償金を支払わなければならない というリスクも発生します。 近年の傾向と対策 これまでは、転勤や職種の変更を含む人事異動が企業の一存で決められることが多く ありました。 しかし、近年ではワークライフバランスの考え方が浸透し、法律でもワークライフバランス に配慮した契約の締結が求められています。 また、育児や介護を行う従業員に対して転勤を命じるときには、企業が養育や介護の状況に 配慮する必要もあります。 さらに、ワークライフバランスを求めて、労働契約を締結する時点で勤務地や職種などを 限定する「多様な正社員」といわれる雇用区分を希望する労働者も増えてきています。 企業側に大きな裁量権があるという人事異動の原則は変わっていませんが、時代背景に 応じて裁量権がだんだんとせまくなっていることには注意が必要です。 人事異動は従業員の私生活に少なからず影響を及ぼすことから、可能な限りしっかりと 説明をしたうえで、個別に合意を得ることをおすすめします。 人事異動におけるリスクやトラブルを避けるため、企業が取り組むべきことは2つ あります。 1 自社の制度や従業員との契約内容を確認する 就業規則に人事異動についての定めをしているか、従業員との契約内容はどのようになって いるのかなどについて、改めて確認することをおすすめします。 特に契約内容については、2024年4月からは契約の締結や更新時に、就業場所や業務の変更 の範囲を労働者に明示する必要があります。 この改正に沿って契約を結ぶことで、就業場所や業務(職種)が限定されているのかを はっきりさせることができ、人事異動を命じる際のトラブル防止につなげられます。 2 従業員とのコミュニケーションを取る 法的に問題がないからといって、一方的に人事異動を命令するのではなく、従業員としっかりコミュニケーションを取ることが大切です。 事異動は、従業員にとって労働環境が変わる大きなイベントです。本人の希望やライフプラン、キャリアの展望などを聞き、従業員が納得できる人事異動の実現を目指しましょう。 仮に従業員の希望通りの人事異動を実現できないとしても、その人事異動によって従業員に どのようなメリットや成長の機会が生まれるのかを説明し、理解してもらうことが大切 です。 人事異動にあたっての法的観点での注意点 基本的に企業に広い裁量権が認められる人事異動ですが、従業員に与える影響が大きすぎる 場合は法的に問題となる場合があります。 法的に問題になるかどうかの基準は、人事異動の種類によって変わってきますので注意が 必要です。 人事異動の種類に分けて、基準を説明します。 1 配置転換 配置転換には、転勤・配置替え・職種変更があります。 これらの配置転換では、「契約上の根拠があること」と「権利濫用に当たらないこと」の 2点をクリアする必要があります。 まず、契約上の根拠として、配置転換を命じることをあらかじめ就業規則に明記する必要が あります。 ただし、就業規則に定めをおいたとしても、「多様な正社員」に対しては個別の契約で 限定されている労働条件の変更を命じることはできませんので注意が必要です。 そのうえで、以下の場合には権利の濫用となってしまう可能性がありますので、注意をして ください。 ①業務上の必要性がないにもかかわらず配置転換を行った場合 ②不当な動機・目的で配置転換が行われた場合 ③従業員の私生活に著しい不利益がある配置転換を行った場合 2 降格 降格とは、一般的には企業内での組織上の地位が下がることを指す言葉であり、多義的に 使用されています。 したがって、役職を外された場合や、職務等級制度などにおける等級の引下げなども 「降格」と言われます。 この降格については、降格に伴い賃金の引下げが行われているか(いわゆる、降給を伴う 降格)が重要です。 降給を伴う降格が行われた場合には、降格前の賃金との差額の賃金の支払をめぐって労使紛争になることが多いです。このような紛争になった際の重要な争点は、降格について合理性があるかどうかであり、人事評価制度が適切に運用されていなかった場合には降格について合理性がないと判断され、降格前の賃金との差額の支払を命じられてしまいます。 3 出向 出向には、もとの企業に在籍しながら他の企業で就業する在籍出向と、もとの企業との契約 を終了して他の企業と新たに契約を結ぶ転籍出向の2つがあります。 在籍出向は、もとの企業との契約関係が残ることから、就業規則に在籍出向の可能性がある 旨を記載しておけば個別合意がなくとも出向させることは可能です。 ただし、出向期間中の労働条件について変更する場合は、就業規則等に明示する必要が あります。 そのうえで、出向元、出向先そして従業員とで、労働条件の設定について協議を重ねること が重要になります。 転籍出向の場合は、出向元の企業との雇用関係が解消されてしまうことから、退職類似の 関係となってしまいかねません。 特に、出向期間について期限の定めがない場合には、実質的に会社を辞めさせられることに なってしまいます。 したがって転籍出向の場合には、就業規則に出向がある旨を定めるだけでは足らず、 原則として、転籍出向をさせる従業員と個別に同意を得る必要があります。 出向を命じる可能性がある場合には、あらかじめ制度を構築しておくことが重要です。 勤務する企業が変わるということは、他の人事異動と比べても従業員に与える影響は 大きくなるため、在籍出向の場合であっても個別の同意を得ることをおすすめします。 なお、配置転換同様、業務上の必要性がない出向や、不当な目的で行われた出向について も、権利濫用となってしまうことに注意が必要です。 おわりに 人事異動の最終決定権は企業側にありますが、ワークライフバランスを含む働き方に対する 意識が変化しているなか、各従業員の状況や契約内容などを考慮した人事異動を行わなければ労使間のトラブルや法的な問題につながる可能性もあります。 一方で、正しく運用すれば従業員の生産性やモチベーションを最大化する方法にもなり得ます。 適材適所の観点で人事異動を行い、従業員のパフォーマンスを引き上げる施策として活用 することをおすすめします。

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