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「」に対する検索結果が141件見つかりました

  • 建設業における墜落・転落の防止対策。

    厚生労働省がまとめた令和4年の労働災害発生状況によると、 休業4日以上の死傷者数は過去20年で最多の132,355人となり 一方、死亡者数については過去最少の774人となりました。 このように死亡者数は全体的に減少していますが、内訳をみると「墜落・転落」による 死亡者数は10年以上変わらず高いままです。 さらに、これらの事故は10年以上連続で全体の中で最も多い割合を占めています。 また、休業4日以上の死傷者数においても「転倒」「動作の反動・無理な動作」に次いで 「墜落・転落」が多い結果となっています。 今回の記事では、この「墜落・転落」の発生件数が多い建設業における、墜落・転落の 防止対策を解説します。 墜落・転落、建設業での発生が依然として最多 労働災害で毎年発生件数の上位に位置する「墜落」「転落」「転倒」。 これらの事故はニュースでもよく耳にするワードです。 なかでも「墜落・転落」は、先述のとおり死亡などの大きな事故につながる 非常に危険な災害です。 1 墜落・転落・転倒の違い 「墜落」「転落」「転倒」は、一般的には以下のような違いがあります。 【墜落】 こう配が40度以上の斜面から、身体が完全に宙に浮いた状態で落ちること 【転落】 階段や坂道など、こう配が40度未満の斜面に身体を接しながら落ちること 【転倒】 ほぼ平面で転ぶ場合のことで、つまずきや滑りにより倒れること 2 建設業の墜落・転落、いまだ横ばいの状況 死亡者が発生した労働災害(以下、死亡災害)を業種別にみると、「墜落・転落」による 死亡者数が最も多いのは建設業です。 厚生労働省の発表によると、建設業の死亡災害のうち、「墜落・転落」による災害が 占める割合はここ数年も減少することなく、毎年40%前後で推移しています。 建設業は、他の業種に比べ、高所作業や重機などを扱う危険な環境での作業が多いことが、このような結果につながっているといえます。 事業者が対応すべきこと 事業者は、法令等に基づき、労働災害防止のための必要な措置を講じなければなりません。そのため、建設業においても以下のような対応が求められます。 1 安全衛生教育の実施 従業員に対し、安全や衛生に対する意識づけのための教育を実施しなければなりません。 すべての業種で実施が必要とされる「雇入れ時」「作業内容の変更時」における教育の ほか、建設業では、以下の要件に該当する場合は必要な教育を実施しなければなりません。 ・特別教育:危険・有害な業務に従業員を新たに就かせるとき ・職長教育:職長や現場で指揮監督する者として、新たに従業員を就かせるとき 2 健康診断の実施 すべての業種で、常時雇用する従業員に対し、原則1年以内ごとに1回、定期的に健康診断を 受診させなければなりません。 また、特に有害である一定の業務に常時従事する従業員に対しては、6か月以内ごとに1回、 「特定業務従事者の健康診断」を受診させる必要があります。 なお、この対象となる一定の業務には深夜業(※)も含みます。そのため、夜間工事などを 行う従業員は受診対象となる可能性があります。 ※深夜業(22時~5時):週に1回以上または月に4回以上行う場合が対象 3 作業環境測定の実施 従業員の健康被害を防ぐため、作業場の有害物質などを定期的に測定しなければ なりません。なお、法令等にて10種類の作業に対し測定が義務づけられています。 詳しくは、以下の厚生労働省のサイトを参考にしてください。 参考|厚生労働省 職場のあんぜんサイト『作業環境測定』 4 リスクアセスメントの実施 リスクアセスメントとは、労働災害などの発生要因となるような危険性または 有害性などの調査を行い、その結果に基づいてリスクの低減を図る取り組みのことです。 職場に潜むリスクを認識して対策することは、労働災害などの発生防止や快適な 職場環境づくりに役立ちます。 参考|厚生労働省 職場のあんぜんサイト『建設業におけるリスクアセスメントのすすめ方』 5 長時間労働の解消 建設業では、深刻な人材不足などにより、長時間労働が常態化している現場も少なく ありません。 長時間労働は、従業員の肉体的・精神的ストレスを生み、労働災害につながることも あります。今後は工期の見直しや業務効率化などにも取り組みながら、従業員の 長時間労働の問題を解消する必要があります。 6 現場における安全対策 当然のことながら、実際の作業現場における安全対策は非常に重要です。 法令等においても、「墜落・転落」についての安全対策が定められています。 詳しくは、後述の「建設業における墜落・転落の安全対策」でご紹介します。 【発注者や元請事業者の責務】 建設業では、発注者から仕事を請け負った元請事業者が、その全部または一部を 下請事業者に依頼するという形態が一般的によくみられます。 この場合は、発注者だけではなく元請事業者にも労働災害防止のための責務があります。 ①発注者の責務 施行方法や工期など、労働安全衛生を損なうおそれのある条件などを附さないよう 配慮する ②元請事業者の責務 元請や下請の従業員が混在する現場での労働災害防止のため、連絡調整、指導、作業場の 巡視、下請事業者に使用させる機械などの安全確保などを行う 建設業における墜落・転落の安全対策 建設業における死亡災害を、「墜落・転落」が発生した場所別にみると、屋根などの端や 開口部が約3割、足場が約2割となっています。そのほか、近年増加傾向にあるはしごや 脚立、そして木造建設工事における梁(はり)や桁(けた)といった場所による災害も 毎年一定数を占めています。 労働災害を防ぐためにも、災害の発生要因をふまえ、それぞれの現場で適切な対策を 行うことが大切です。 【墜落・転落の発生要因の例】 ・手すりなどの設置がされていない ・足場などの安全点検が行われていない ・墜落制止用器具が適切に使用されていない ・はしごや脚立が適切に使用されていない ・知識不足や誤った作業方法 など (出典)厚生労働省 職場のあんぜんサイト『労働災害事例集』 1 作業床などによる墜落防止措置 高さ2メートル以上の現場で墜落のおそれがある場合は、足場を組み立てるなどして 作業床を設置しなければなりません。 作業床とは、高所作業や機械の点検など、作業のために設置された床のことで、法令等に よる基準を満たしたものでなければなりません。 なお、作業床の端や開口部などには、囲いや手すり、覆いなどの設置も必要とされて います。 (出典)厚生労働省『足場(作業床)の設置』 2 墜落制止用器具の使用 作業床や開口部の囲いなどの設置が難しいときは、要求性能墜落制止用器具 (以下、墜落制止用器具)を使用しなければなりません。 法令等の改正により、現在は、原則フルハーネス型の墜落制止用器具を使用することと なっています。 フルハーネス型とは、身体が器具から抜け出てしまったり、身体を過大に圧迫するなどの リスクが低減されるよう、肩や腿、胸などの複数のベルトで構成された器具です。 (高さが6.75メートル以下の作業場では、胴ベルト型(一本つり)を使用することも可能) (出典)厚生労働省『安全帯が「墜落制止用器具」に変わります!』 3 足場における墜落防止措置(2023年10月以降) 法令等により足場からの墜落防止措置が強化され、2023年10月以降は以下の措置を 順次講じなければなりません。 ①点検者の指名(2023年10月から) 足場の点検を行うときは、あらかじめ点検者を指名しなければなりません。 ②点検者の氏名の記録・保存(2023年10月から) 足場の組立て、一部解体、変更などの後の点検後、点検者の氏名を記録・保存しなければ なりません。 ③一側足場の使用範囲の明確化(2024年4月から) 幅が1メートル以上の場所で足場を使用するときは、原則、本足場(※1)を使用しなければ なりません。 (ただし一定の状況により本足場を使用することが困難なときは、一側足場(※2)を使用することも可) ※1 本足場とは、垂直方向に伸びる支柱が2本の構造 ※2 一側足場とは、垂直方向に伸びる支柱が1本の構造(安定度は本足場より劣る) 詳しくは、以下のリーフレットを参考にしてください。 参考|千葉労働局『足場からの墜落防止措置が強化されます』 おわりに 建設業では危険度の高い環境での作業も多いことから、他の業種に比べ、労働災害の 発生率が高くなっています。 従業員がより安全に作業できるよう事業者は日頃から安全対策を行い、従業員とともに 労働災害に対する意識を高く持って行動することが非常に大切です。

  • 2023年度、地域別最低賃金の全国加重平均が1,004円に

    先日、2023年度の最低賃金額と改定(発行)年月日が正式発表されました。 全国加重平均額が1,004円となり、はじめて1,000円を超えました。 全国加重平均額の引上げ額は43円で、前年を上回る過去最高の引上げ額です。 最低賃金には、都道府県ごとの物価などに合わせて定められる「地域別最低賃金」と、 特定の産業で定められる「特定最低賃金」の2種類があります。 今回の記事は、毎年10月ごろに改定が行われている地域別最低賃金 (以下、最低賃金)についてです。 47都道府県の最低賃金額と改定(発行)年月日は以下をご確認ください。 参考|厚生労働省『地域別最低賃金の全国一覧』 なお、全国加重平均額とは、都道府県ごとの労働者数×地域別最低賃金で計算した 全国の合計を、総労働者数で割った額です。 最低賃金の引上げはなぜ必要 最低賃金は、従業員の賃金の保障や労働条件の改善、 生活の安定の確保のためだけではなく、企業間の取引条件を改善し 公正な競争を促すためにも必要です。 2016年6月2日の「ニッポン一億人総活躍プラン」では、 年率3%程度を目途として、全国加重平均額1,000円を目指すと閣議決定されていました。2023年度でついに政府の目標は達成され、全国加重平均額が 1,000円を超えることになりました。 最低賃金とは 最低賃金とは、法令で定められている、労働に対して支払わなければならない 1時間あたりの最低限度の賃金をいいます。 企業は、正社員、パート・アルバイトなどの雇用形態に関係なく、 すべての従業員に最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。 雇用契約書が最低賃金を下回っていたとしてもその部分は無効となり、 法令等で定めている最低賃金が適用されます。 最低賃金を下回る賃金を支払っていた場合は、50万円以下の罰金が 科せられることもあります。 最低賃金に含まれる賃金とは 支払われる賃金が最低賃金額以上であるかの確認は、1時間あたりの賃金を計算し、 事業場の最低賃金額と比較します。 最低賃金の計算に含まれる賃金は、従業員に毎月決まって支払われる基本給や 各種手当です。 【1時間あたりの賃金の計算方法】 時給制のとき:時給額 日給制のとき:日給額 ÷ 1日の所定労働時間 月給制のとき:月給額 ÷ 1か月の所定労働時間 歩合給のとき:歩合給 ÷ 1か月の総労働時間 以下のサイトで具体的な計算事例が紹介されています。 参考|厚生労働省『最低賃金のチェック方法は?』 暦日数の関係やシフト制、変形労働時間制を適用している場合など、 1か月の所定労働時間が変動することがあります。 月給制で月によって所定労働時間が変動するときは、1年間における 1か月の平均所定労働時間を使い計算してください。 また、1か月の平均所定労働時間に少数点以下の端数がでたときは、 端数処理は行わず計算の結果算出された時間を使って最低賃金を計算します。 【事業場の最低賃金額】 以下のサイトで事業場の最低賃金額をご確認ください。 参考|厚生労働省『地域別最低賃金の全国一覧』 ただし、以下の賃金は最低賃金の計算から除外されます。 【最低賃金から除外される賃金】 ①慶弔手当など臨時的に支払われるもの ②賞与 ③残業手当(固定残業代)、休日手当、深夜手当 ④精皆勤手当 ⑤通勤手当 ⑥家族手当 1時間あたりの賃金計算は残業代の計算にも使用しますが、 最低賃金と残業代とでは「含まれる賃金」「除外される賃金」が異なりますので ご注意ください。 残業代の賃金計算のときは、④を含めます。反対に、残業代の賃金計算では除外される 「住宅手当」は、最低賃金が地域における従業員の生活の安定の確保も目的のひとつと なっているため、最低賃金には含まれます。 また、④〜⑥の賃金について、従業員に一律で支給しているときは最低賃金と 残業代いずれの賃金にも含めます。 【例】 ・遅刻、早退、欠勤などがあっても精皆勤手当を満額支給(減額なし)している ・扶養家族がいる、いないにかかわらず家族手当を支給している など 最低賃金で企業がおさえておく3つのポイント 1 最低賃金の改定(発行)年月日をまたぐ勤務について 3交代勤務制などでは、夜勤シフトの従業員が最低賃金の改定(発行)年月日を またいで勤務することがあります。 最低賃金は、都道府県ごとの改定(発行)年月日以降に勤務する賃金から適用します。 そのため、最低賃金の改定(発行)年月日をまたいで勤務をしたときは、 0時より新しい最低賃金の適用となるように賃金を計算してください。 【例】 勤務日:9月30日 勤務時間:21:00 ~ 翌朝5:00 最低賃金改定日:10月1日 改定前の最低賃金を適用する時間:21:00 ~ 0:00 改定後の最低賃金を適用する時間:0:00 ~ 5:00 2 遠方で自宅テレワークする従業員の最低賃金について 企業の所在地から離れた自宅を就業場所として、テレワーク勤務をしている従業員もいます。 最低賃金の適用は事業場の場所によって決まりますが、 事業を行う独立性を有する一つの事業場と認められないときは 所属する事業場の所在地を対象と考えます。 そのため、自宅でテレワーク勤務を行う従業員に適用する最低賃金は テレワークを行う場所がどこかにかかわらず、テレワーク勤務を行う従業員の 所属する事業場の所在地がある都道府県になります。 【例】 企業の所在地:大阪府 テレワーク勤務者の自宅:沖縄県 最低賃金の適用:大阪府の最低賃金 3 最低賃金の従業員への周知 最低賃金は、従業員へ周知しなければならないと法令等で定められています。 周知方法は、作業場の見えやすい場所に掲示する、書面で従業員へ交付するなどです。 【最低賃金に関する周知内容】 ・最低賃金の適用を受ける従業員の範囲 ・最低賃金の適用を受ける従業員にかかる最低賃金額 ・最低賃金から除外される賃金 ・改定(発行)年月日 周知していないときは、30万円以下の罰金が科せられることもあります。 例年、以下のサイトで都道府県別の周知用リーフレットが更新されます。 9月20日時点では2022年度のリーフレットとなっています。 年度を確認のうえ、ぜひご活用ください。 参考|厚生労働省『最低賃金 都道府県別広報ツール一覧』 最低賃金の減額の特例許可制度とは 最低賃金には、特定の従業員について最低賃金を下回る賃金を支払うことができる 減額の特例許可制度が定められています。 申請先は、管轄の労働基準監督署です。 減額できる対象者は以下になります。 ・精神または身体の障害により著しく労働能力が低い者 ・試用期間中の者 ・基礎的な技能および知識を習得させるための職業訓練を受ける者 ・軽易な業務に従事する者 ・断続的労働に従事する者 いずれも一定の条件を満たす必要があります。 また、許可は、対象となる従業員の労働条件を特定してから行いますが 最低賃金をどこまで減額ができるかは、それぞれ異なります。 以下のサイトに対象ごとのリーフレットがあるため参考にしてください。 参考・ダウンロード|厚生労働省『最低賃金の減額の特例許可申請書様式・記入要領』 減額を検討するときは、事前に管轄の労働基準監督署へご相談ください。 最低賃金・賃金引上げの支援策 最低賃金の引上げにより賃金が上がると、労働保険料(労災保険、雇用保険)、 社会保険料(健康保険、厚生年金保険)の負担も増えます。 最低賃金の引上げに伴う対象従業員、企業の負担差額などは早めに確認をして 賃金引上げに向けての準備をしてください。 厚生労働省では、賃金引上げに向けた取組事例や地域・業種・職種ごとの 平均的な賃金を検索できるツールを盛り込んだ特設サイトを設けたり、 中小企業向けに業務改善助成金や補助金、税制など、最低賃金・賃金引上げ支援の マニュアルを公開しています。 (出典)厚生労働省『賃金引き上げ特設ページ』 参考・ダウンロード|厚生労働省・中小企業庁「最低賃金・賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援施策紹介マニュアル(令和5年4月版)」 おわりに 毎年、労働基準関係法令違反での送検や、企業名の公表が行われています。 公表されている中には「賃金が最低賃金以上の金額で支払われておらず、 行政指導に応じない」などの事案もあります。 今回の記事を参考に、最低賃金が適正に支払われるようにご対応ください。

  • 従業員10人以上の事業場に求められる労務管理。

    事業が発展し、従業員数が10人以上になると、税務面や労務管理で いくつかの重要なステップが必要になります。 今回の記事では労務面で対応すべき点を説明します。 【従業員数が10人以上となった場合に労務面で対応すべきこと】 ・安全衛生推進者等の選任 ・就業規則の作成・届出(罰則あり) ・法定労働時間の特例の非該当 ※一定の業種に限る ・男女別トイレの設置 ※従業員数が11人以上となった場合 なお、従業員数が50人以上となった場合は、別の法令が適用されます。 過去の記事をご確認ください。 過去の記事『従業員50人以上の事業場に求められる、労働安全衛生法上の衛生管理。』 常時10人以上の労働者を使用する事業場とは 労働安全衛生法上の「労働者」とは、職業の種類にかかわらず、 事業または事業場に使用される者で、賃金を支払われる者をいいます。 この「労働者」には、パート・アルバイトや日雇労働者などの 臨時的な働き方をする者も含まれます。 基本的には労働基準法の考え方と同じで、同居の親族のみを使用する事業や 家事使用人は「労働者」に該当しません。 また、原則同じ場所にあるものをひとつの事業場としますが、 以下の場合は、事業場の単位に注意が必要です。 【例外1 同じ場所にある場合でも業務内容が大きく異なるとき】 それぞれを別の事業場とする。(営業部門と工場部門、本社と店舗など) 【例外2 場所が異なる場合でも事業規模が著しく小さく、事業に独立性がないとき】 直近上位にあたる事業場と一括してひとつの事業場とする。(出張所、支局など) 安全衛生推進者等の選任 中小規模の事業場は、大企業と比べると労働災害の発生率が高い傾向があるため、 職場環境に合わせた正しい安全衛生指導を行う必要があります。 そのため常時使用する従業員が10人以上49人以下の事業場では、 職場の安全衛生水準の向上を図る役割として、事業場に専属の衛生推進者、 また一定の業種においては安全衛生推進者(以降、「安全衛生推進者等」とする)を選 任しなければなりません。 ただし、労働安全コンサルタントや労働衛生コンサルタントなどから選任する場合は、 専属である必要はありません。 参考|厚生労働省『安全衛生推進者(衛生推進者)について教えて下さい。』 選任すべき事由(事業場の常時使用する従業員が10人に達したときなど)が 発生した日から14日以内に、安全衛生推進者等を選任します。 その後、作業場の見やすい場所に掲示するなどの方法により、安全衛生推進者等の氏名を 事業場内の関係労働者へ周知しなければなりません。 安全管理者や衛生管理者と異なり、選任した旨を労働基準監督署長に報告する義務はなく、 罰則もありませんが、衛生推進者の選任は法令で定められた義務のため、 対象となった場合は必ず対応してください。 就業規則の作成・届出(罰則あり) 就業規則とは、従業員の賃金や労働時間などの労働条件に関することや、 職場内の規律などについて定めた職場における規則集です。 就業規則を作成することで、労使間での誤解やトラブルを防止できるほか スムーズな労務管理が実現できます。 常時使用する従業員数が10人以上となった事業場では、就業規則を作成し、 過半数組合または従業員の過半数代表者からの意見書を添付したうえで 事業場を管轄する労働基準監督署長へ届出をしなければなりません。 「常時使用する従業員数」には、パート・アルバイトも含まれており、 雇用形態にかかわらず、事業場に所属している従業員が通常10人以上いる場合が 作成対象です。 そのため、繁忙期などの一時的に雇用している従業員は、常時使用する人数に含みません。 作成基準は、企業単位ではなく事業場単位です。 人数のカウントや手続の漏れがないように注意が必要です。 また就業規則には、必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)、 当該事業場で定めをする場合に記載しなければならない事項 (相対的必要記載事項) および、任意的記載事項の3つがあります。 就業規則を作成し届出をした後は、従業員がいつでも閲覧できる状態にしておくことが 必要です。 【就業規則の閲覧方法 例】 ・PDF化して社内の共有サーバーなどに保管し、いつでも見られる状態にしておく ・印刷して、見やすい場所へ掲示または事業所へ備え付ける ・印刷して、従業員へ配布する など 作成や届出を怠った場合、30万円以下の罰金が科せられるため、適切に手続を 行ってください。 法定労働時間の特例の非該当 労働基準法では、法定労働時間を「1日8時間、1週40時間」と定めていますが、 一定の業種で常時使用する従業員が1~9人の規模の事業場では 特例として法定労働時間を「1日8時間、1週44時間」と定めています。 これを特例措置対象事業場といいます。 【特例措置対象事業場】 ・商業    :卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業 ・映画演劇業 :映画の映写、演劇、その他興業の事業(映画の製作の事業を除く) ・保健衛生業 :病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業 ・接客娯楽業 :旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業 そのため、特例措置事業場で常時使用する従業員が10人以上となった場合、 週の法定労働時間は原則の週40時間が適用されます。 なお、事業場とは工場、支店、営業所などの個々の事業場を指すため 原則の法定労働時間もしくは特例措置が適用されるかは、個々の事業場で判断されます。 【例】A店舗:常時使用する従業員数 12人、 B店舗:常時使用する従業員数 8人の場合 (いずれも理美容業) ・A店舗:常時使用する従業員数が10人以上のため、原則の法定労働時間 (1日8時間、1週40時間)を適用 ・B店舗:常時使用する従業員数が9人以下のため、特例措置の法定労働時間 (1日8時間、1週44時間)を適用 特例措置対象事業場から除外となった場合は、雇用契約書や就業規則などを見直し、 適宜変更してください。 男女別トイレの設置 事業場に設置するトイレの基準についても、法令できちんと定められています。 現在、事業場の規模や業種にかかわらず、男性用・女性用と区別したトイレを 設けなければなりません。 ただし、小規模な事業場では、建物の構造や配管の敷設状況などの理由により、 男女別のトイレを設けることが困難な場合もあります。 この現状を鑑み、2021年12月に法令等の改正により労働衛生基準が変更となり、 事業場で同時に勤務する従業員が常時10人以内である場合は、男女共用の独立個室型の トイレを設置した場合に限り、例外的に男女別による設置は要しないものと定められました。 【独立個室型のトイレの例】 (出典)厚生労働省『ご存知ですか?職場における労働衛生基準が変わりました』 そのため、事業場で同時に勤務する従業員が常時11人以上となる場合は 原則どおり男性用と女性用に区別したトイレを設置しなければなりません。 設置を怠った場合は法違反となり、罰則が適用される可能性もあるため、 将来的に人員を増加する可能性や事業場を変更する予定がある場合は 適切な環境に変更する必要があります。 おわりに 働きやすい職場の基盤は、法令に基づいた労働環境によって築かれます。 今回解説した4つの義務の中には罰則がある規定もあるため、「法律を知らなかった」では済まされないこともあります。 従業員数が増加しても組織が円滑に機能するために、労務担当者は適切な手続を行い 正確な労務知識を理解しておくことが大切です。

  • 2024年10月、さらなる社会保険の適用拡大に向けて

    パート・アルバイトをはじめとした短時間労働者に対する社会保険の適用では 2022年10月からの適用範囲の拡大が記憶に新しいところではありますが、 2024年10月には適用がさらに拡大されます。 短時間労働者の中には、配偶者の扶養の範囲内で勤務時間を調整するなど 家庭とのバランスを考慮しながら働く従業員もいます。 そのため、2024年10月からの適用拡大により新たに社会保険に加入することとなる 従業員には、あらかじめ十分に説明しておく必要があります。 今回の記事では、2024年10月からのさらなる社会保険の適用拡大について解説します。 社会保険の被保険者とは 社会保険における被保険者(以下、被保険者)とは、 厚生年金の適用事業所(以下、事業所)に勤務している 70歳未満の従業員を指します。 具体的には、次のいずれかに該当する従業員で、正社員や契約社員、 パート・アルバイトなどの名称は問いません。 ➀フルタイムの従業員 ②週の所定労働時間および月の所定労働日数がフルタイムの3/4以上の従業員 ③上記②の時間数または日数が3/4未満であるが、一定の条件を満たす従業員 この③に該当する従業員を、社会保険上における短時間労働者といいます。 この③の「一定の条件」が以前より段階的に緩和され、 被保険者の適用範囲が拡大されています。 2024年10月から新たに適用対象となる従業員 2024年10月の適用拡大により新たに被保険者となるのは 以下の条件のすべてに該当する短時間労働者です。 1 一定の規模以上の事業所に勤務している 2024年10月から、適用対象となる事業所の規模が「被保険者数51人以上」となります。 この適用事業所のことを「特定適用事業所」といい、その規模は以前より段階を踏んで 範囲が拡大されてきました。 2 週の所定労働時間が20時間以上 雇用契約上の所定労働時間が20時間以上であることが必要です。 (残業時間は含みません。) ただし、所定労働時間が20時間未満の場合であっても、2か月連続で 実際の労働時間が週20時間を超え、今後も引き続き週20時間を超えると 見込まれる従業員については、3か月目から被保険者となります。 3 所定内賃金の月額が8.8万円以上 所定内賃金とは、基本給および諸手当の合計額のことで、以下のものは含みません。 ・割増賃金など時間外や休日、深夜の労働に対する賃金 ・賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 ・最低賃金に含めない賃金(通勤手当、家族手当、精皆勤手当など) 4 学生ではない 大学や高校、専修学校、各種学校などの学生は適用対象外です。 ただし、以下のいずれかに該当する方は被保険者となります。 ・卒業前に就職し、卒業後も同じ事業所に勤務予定の学生 (卒業見込証明書を有すること) ・休学中の学生 ・大学の夜間学部や高校の夜間定時制などの学生 5 2か月を超える雇用の見込みがある 雇用期間が2か月以内であっても、有期契約労働者の雇用契約書に 「更新する場合がある」などの明示があるときは、2か月を超えて 雇用が見込まれると判断され、最初の2か月の雇用契約期間から被保険者となります。 適用拡大に向けた準備 社会保険の適用拡大の対象となる特定適用事業所は、適用拡大が開始された当初は 被保険者数が501人以上の事業所、いわゆる大企業が対象でした。 そのためこの制度は、多くの中小企業にとって自社に関係のない制度と 捉える傾向にありました。 しかし、これからはより多くの事業所が、自社に関係する可能性があることを認識し、 今後の適用拡大の対応に向けて理解し、あらかじめ準備をしておくことをおすすめします。 1 新たな社会保険の加入対象者の把握 適用拡大により加入対象となる可能性のある短時間労働者を洗い出します。 2 適用拡大について社内周知 新たに加入対象となる可能性のある短時間労働者に対し 社会保険の適用拡大について周知します。 また、必要に応じて説明会や個人面談などを行い、社会保険の加入メリットをはじめとした制度内容を分かりやすく伝えたり、今後の労働時間について話し合うなど、 十分に理解してもらうための時間が大切です。 (出典)厚生労働省・日本年金機構『従業員数100人以下の事業主のみなさまへ』 3 書類の作成・届出 2024年10月になると、被保険者資格取得届の届出が必要になります。 届出までの流れは以下のとおりです。 ①日本年金機構からのお知らせ 新たに特定適用事業所となる事業所については、2024年8~9月頃に「特定適用事業所該当事前のお知らせ」、2024年10月頃に「特定適用事業所該当通知書」が届く予定です。 ②「被保険者資格取得届」の作成 新たに被保険者に該当した短時間労働者についての届書を作成します。 ③「被保険者資格取得届」の届出 2024年10月になったら届書を事務センターまたは管轄の年金事務所に届出します。 適用拡大後の手続について 社会保険の被保険者となった短時間労働者がいる事業所では、社会保険の手続について 以下のような点を理解しておく必要があります。 1 定時決定、随時改定 定時決定や随時改定は、原則、報酬の支払基礎日数が17日以上ある月を対象月として 確認します。 しかし短時間労働者については、17日以上ではなく11日以上ある月が対象月となります。(あわせて、備考欄の「3.短時間労働者の取得(特定適用事業所等)」を〇で囲む) これは標準報酬月額の決定に関わる重要なポイントであるため、特に理解が必要です。 2 資格取得 短時間労働者が社会保険に加入するときは、一般の被保険者※と同じく「被保険者資格取得届」を提出します。 (このとき、備考欄の「3.短時間労働者の取得(特定適用事業所等)」を〇で囲む) ※一般の被保険者:正社員または週の所定労働時間・日数が正社員の3/4以上の従業員のこと 参考・ダウンロード|日本年金機構『健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届/厚生年金保険 70歳以上被用者該当届』 3 区分変更 雇用契約の変更などにより被保険者区分が変更となる場合、「被保険者区分変更届」の提出が必要です。 (例)週の所定労働時間が20時間の従業員が30時間(一般被保険者)になった場合 「短時間」→「一般」に被保険者区分を変更 (例)週の所定労働時間が30時間の従業員が20時間(短時間労働者)になった場合 「一般」→「短時間」に被保険者区分を変更 参考・ダウンロード|日本年金機構『健康保険・厚生年金保険 被保険者区分変更届/70歳以上被用者区分変更届』 この被保険者区分は、定時決定や随時改定でも利用される重要な区分です。 そのため、区分変更の届出や上述2の資格取得時での備考欄の記入については 忘れないよう留意してください。 4 複数の事業所勤務 短時間労働者のなかにはダブルワークなど複数の事業所で勤務する従業員がいることも想定されます。 社会保険の加入は、それぞれの事業所において要件を満たすかを判断されるため、 複数の事業所で被保険者となる可能性もあります。 その場合、「所属選択・二以上事業所勤務届」を提出し、主となる事業所を選択します。 なお、この手続は、原則従業員本人が行うため、企業は従業員に対し周知をしておくことが必要です。 また、従業員が「所属選択・二以上事業所勤務届」を提出すると「二以上事業所勤務被保険者決定及び標準報酬決定通知書」が事業主に届きます。 給与計算の際はこの通知書に記載された社会保険料を控除してください。 (この社会保険料は按分した額のため、通常の保険料額表の金額に当てはまりません。) なお、被保険者証については、後日新しい被保険者証が届きます。 参考・ダウンロード|日本年金機構『健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届』 5 特定適用事業所の該当 2024年10月時点での被保険者数が50人以下の事業所が、その後、 被保険者数が51人以上となった場合は特定適用事業所となり、「特定適用事業所該当届」の提出が必要です。 ただし、適用拡大となる2024年10月時点で、事前に適用拡大の対象となる通知書類が 日本年金機構から届いている事業所については、該当届の提出は不要となる可能性があります。 詳しくは、2024年9月頃に届く通知書類をご確認ください。 【提出先】事務センターまたは管轄の年金事務所 参考・ダウンロード|日本年金機構『健康保険・厚生年金保険 特定適用事業所該当/不該当届』 おわりに 短時間労働者の社会保険適用では、企業には新たな手続やさらなる 社会保険料の負担などが発生します。 一方で、パート・アルバイトなどの従業員にとっては年金保障や 医療保険の充実といったメリットもあります。 この社会保険の適用拡大が、従業員のモチベーションアップやキャリアアップなどに 繋がれば、長期的な就業や優秀な人材の確保、職場の活性化など 長期的な視点でのメリットも期待できます。

  • 仕事と介護の両立を支援するために、企業ができること

    従業員から「家族の介護をすることになった」という申出を受けたとき、 企業によっては体制がまだととのっていないことも多いのではないでしょうか。 仕事と介護の両立には「介護休業を取得する」という方法が浮かびますが、 それ以外にも支援制度は数多く存在します。 介護離職をなくすためにも、企業の担当者が介護に関する知識を持っておくことは これからの時代において重要です。 今回は介護者となった従業員が安心して仕事と介護を両立できるようにするための 企業でできる取り組みについて解説します。 ※介護休業については、過去の記事で詳しく解説しています。 合わせてお役立てください。 過去の記事『企業が知っておきたい、介護休業の基本。』 介護を行うための社会資源 企業による仕事と介護の両立支援は重要ですが、介護者本人・企業の 取り組みだけでは限界があります。 そのため従業員の仕事と介護の両立支援を考えるうえでも、 どのような社会資源があるのかの理解が必要です。 社外には、下記のような社会資源があります。 【相談機関】 地域包括支援センター、市(区)役所・町村役場、居宅介護支援事業所 など 【医療機関】 病院・診療所 【生活支援】 介護事業所(訪問看護、通所介護、介護老人保健施設、介護老人福祉施設) など 介護者である従業員は、家族・親族、介護事業者等、行政、企業と連携をはかり チームとして介護体制を作っていきます。 企業も、介護体制をつくるという点ではそのチームの一員です。 介護者本人にどのような制度を提供できるかを念頭に置き 連携を取っていく必要があります。 介護はいつ発生するか予測ができず、かつ緊急であることが多いです。 介護に直面する従業員がまだいなくても、あらかじめ両立支援の取り組みを 行っておくことで、実際に介護者となる従業員がでた際には 上司や同僚の理解・協力を得ながら仕事と介護の両立体制を スムーズにつくることができます。 介護保険制度の基本 介護保険の被保険者が要介護認定を受けた場合、介護保険制度による 介護サービスを利用することができます。 企業で手続が発生することはありませんが、介護保険制度の基本や 介護保険サービス利用の流れを知っておくことで、介護を行う従業員が どのような状況で仕事と介護を両立しようとしているかの理解を深めることができます。 【介護保険被保険者】 ・第1号被保険者(65歳以上の人) 原因を問わず介護や日常生活の支援が必要となったときは 市区町村の認定を受け、介護サービスを利用できます。 ・第2号被保険者(40歳以上65歳未満で医療保険に加入している人) 加齢が原因とされる病気(特定疾病)により介護や日常生活の支援が 必要となったときは、市区町村の認定を受け、介護サービスを利用できます。 (出典)厚生労働省『-企業のための-仕事と介護の両立支援ガイド』P24 【介護保険サービス利用の流れ】 1 要介護(要支援)の申請 市区町村の介護保険課の担当窓口で申請をします。 地域包括支援センターや、居宅介護支援事業所などに申請を 代行してもらうこともできます。 2 要介護(要支援)認定 訪問調査と主治医の意見をもとに、審査・認定が行われ、 要介護・要支援の程度が決定します。調査には、状況に応じて家族が 立ち会うこともできます。 要介護・要支援度は、要支援1・2、要介護1~5の7段階に分かれており、 段階によって利用できるサービスや月々の利用限度額が異なります。 3 ケアプラン作成 要介護者本人の意向や家族の意向、専門職の助言をふまえ、 どのようなサービスをどのくらい利用するかなどを決めるケアプランを 原則ケアマネジャーが作成します。 ケアプランの作成は、10割保険給付され、自己負担はありません。 介護者が仕事をしている場合は、日頃の働き方やどのように介護に携わりたいかなど、 仕事と介護の両立の希望をケアマネジャーに伝えることが大切です。 4 サービスの利用 介護保険サービスを提供する事業者(訪問看護、通所介護など)と契約を結び、 サービスを利用します。 利用にあたっては、費用の1~3割や居住費・食費などが自己負担となります。 サービスの契約にあたっては、要介護者は要介護状態によっては正常な判断が できないこともあります。 介護者が立ち会うことをおすすめします。 5 更新手続 要介護・要支援認定には有効期間(※)があります。継続してサービスを利用するためには、有効期間が終了する前に、更新の手続が必要となります。 ※有効期間は原則として初回認定6か月、更新認定12か月となります。 【利用できるサービス】 介護保険は、利用者が事業者を選択して介護保険サービスを利用する仕組みです。 企業としてどのような介護サービスがあるかを知っておくことで、 従業員の介護問題に寄り添い、より適切に対応することができます。 法定の支援制度 家族の介護を行う従業員の仕事との両立を支援する法律として 育児・介護休業法があります。 ここでは、法律で定められている制度についてご紹介します。 企業によって法律を上回る内容の制度を整備している場合は 自社の制度を優先させてください。 【介護休業】 従業員からの申出により、要介護状態にある対象家族1人につき通算93日まで、 3回を上限として、介護休業を分割して取得できます。 【介護休暇】 要介護状態にある対象家族が1人であれば年に5日まで、2人以上であれば年に10日まで、 1日単位または時間単位で取得できます。 【所定労働時間の短縮等の措置】 介護休業とは別に、利用開始から3年間で2回以上の利用が可能で 以下の4つの中から企業がどの措置を講じるかを選択します。 ・所定労働時間の短縮措置(短時間勤務) ・フレックスタイム制度 ・始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(時差出勤の制度) ・介護サービスを利用する場合、従業員が負担する費用を助成する制度 【所定外労働の制限】 所定外労働の制限を請求することができます。 請求できる回数に制限はなく、介護終了までの必要な時に利用することが可能です。 (1回の請求につき1か月以上1年以内の期間) 【時間外労働の制限】 1か月に24時間、1年に150時間を超える時間外労働の制限を請求することができます。 請求できる回数に制限はなく、介護終了までの必要な時に利用することが可能です。 (1回の請求につき1か月以上1年以内の期間) 【深夜業の制限】 深夜業(午後10時~午前5時までの労働時間)の制限を請求することができます。 請求できる回数に制限はなく、介護終了までの必要な時に利用することが可能です。 (1回の請求につき1か月以上6か月以内の期間) 【転勤に対する配慮】 事業主は、就業場所の変更を伴う配置転換を行う場合、その就業場所の変更によって 介護が困難になる従業員に対して、介護の状況に配慮しなければなりません。 【不利益取扱いの禁止】 介護休業などの制度の申出や取得を理由として、解雇・雇止め・降格などの不利益な 取扱いを行ってはいけません。 【ハラスメントの防止】 介護休業などの制度利用や申出に関して、従業員の就業環境が害されることがないよう、 ハラスメント防止対策を行うことは企業の義務です。 法定制度と合わせて企業が活用できる取り組み例 法定の支援制度だけではなく企業独自で制度導入を行うことで、より一層の仕事と介護の 両立支援ができます。 【取り組み例1】休暇制度の見直しや勤務時間の調整を行う 介護においては、通院への付き添いや、介護保険サービスの契約、ケアマネジャーの 面談など、平日に介護者が対応しないといけないケースが多くあります。 必要な時間は1~2時間程度となり、休みを丸1日取らなくてもよい場合が多いため、 有給休暇(半日単位、時間単位)の導入や中抜けの取得を認めるといった勤務時間の 調整を行えば、両立しやすい環境をつくることができます。 【取り組み例2】在宅勤務(テレワーク)制度の導入 在宅介護は家事の手伝いや通院の援助が容易になり、事故やケガの心配をすることが ないというメリットがあります。 また、実家など遠方の介護が必要となった場合の介護離職の防止にも役立ちます。 ただし、介護中の在宅勤務(テレワーク)にはデメリットもあり、要介護者が 目の前にいることにより仕事に集中できなかったり、要介護者が就寝した夜中や休日に 仕事をすることになってしまう場合があります。 在宅勤務(テレワーク)制度を導入する際には、メリット・デメリットを把握のうえ 検討されることをおすすめします。 参考・ダウンロード|厚生労働省『テレワーク活用の好事例集』 おわりに 「2023年には団塊の世代の7割が後期高齢者となる」といわれてきました。 その年を迎え、今後は特に働き盛りの団塊ジュニアが介護の問題を抱える時代に 突入します。 そのとき職場環境がととのっていなければ、介護離職という選択をする従業員も 増えていくでしょう。 望まない介護離職を減らすためにも、企業としてできることを検討する必要が出てきます。ただし介護の状況は人によって違い、介護者本人にも予測不可能なことがほとんどです。 個別の事情を理解し、最適な支援を行うためにも、企業側の理解を深めておくことを おすすめします。

  • 【2023年版】台風や豪雨など、自然災害時の企業対応とは。

    近年、全国各地で台風や豪雨などの自然災害が増えています。 企業は、従業員が安全かつ健康に働ける職場環境への配慮や 対策のための「安全配慮義務」を負っていますが、 これは台風や豪雨などの災害発生時にも同様に適用されます。 自然災害では従業員の安全を第一に考え、企業側が休業を指示する ケースも増えてきました。 今回の記事では、自然災害が起きたときの企業対応と、事前の備えについてお伝えします。 自然災害が起きたときの出勤判断と休業手当 自然災害時の出勤では、企業の判断で自宅待機や休業を命じるケースと、 本人の判断で出勤しないケースがあります。 状況に応じて休業手当の支払が必要になります。 1 企業の判断で休業をするとき 自然災害が起き、事業活動が行える状態にもかかわらず 会社都合による休業を命じるときは、それが従業員の安全確保のための 措置だとしても、従業員に対して平均賃金の60%以上の休業手当の支払が必要です。 ただし、台風や豪雨による事業場の建物倒壊や器物破損など 施設や設備が直接的な被害を受けて出社しても事業活動を行える状態でないときなどは、 天災事変等の不可抗力による休業となり、会社都合の休業とは判断されず 休業手当の支払の必要はありません。 2 本人の判断で出勤しないとき 以下の例のように本人の判断で出勤しないときや、自然災害の影響により 出勤できなかったときは、休業手当の支払の必要はなく欠勤扱いとなります。 (例) ・通信回線の障害などにより、職場と連絡がとれず自主的に自宅にいることにした ・台風や大雨による浸水のため、職場まで行ける状態ではなかった など このようなときに本人に負担なく休んでもらうためにも、 有給休暇の取得を推奨したり、振替休日や災害休暇などの特別休暇を 就業規則に設けている企業も多くあります。 自然災害時の事業継続にむけて事前検討 自然災害が必ずしも、事業が行えないほどの影響を引き起こすとは限りません。 従業員が休業すると事業がストップするため、従業員に出勤を強要するケースも 見受けられますが、無理な出勤は強風や大雨による災害に巻き込まれたり、 帰宅困難者となるリスクがあります。 気象予測の正確性が増し、ニュースなどで事前に台風経路や豪雨情報などを 把握できるケースも増えてきました。 自然災害が起きても、少ない人数で事業を継続できるよう以下のような 対応の検討をおすすめします。 【企業の事業継続のための検討 例】 ・災害時の緊急性の高い業務の整理 ・出勤しなくても業務ができる体制づくり(テレワーク、振替休日 など) ・出勤せざるを得ない場合の出勤者の選定 ・出勤者の災害リスク回避(宿泊場所の確保) ・出勤できない可能性のある従業員の業務引継ぎ方法 ・緊急連絡網の作成と更新 ・電気、ガス、水道、通信など障害が起きた時の緊急対応(二次災害防止) など 以下のサイトでは、台風情報や大雨危険度などが地域ごとに確認できます。 参考|気象庁『全国の防災情報』 テレワーク活用企業の自然災害時の備え 新型コロナ対策により導入の進んだテレワークは、自然災害時の事業継続にも 有効な手段となっています。 しかし、テレワークであっても最悪の事態は起こります。 たとえば台風や大雨、落雷などによる停電、過電流、インターネット接続不良などです。 具体的なケースとして、給与計算業務であれば停電やインターネット接続不良が 起きると業務がストップしてしまい、振込期日に間に合わない事態が想定されます。 そのため、非常時にもパソコンが稼働できるようにモバイルバッテリーを貸出したり、 インターネットの接続が途切れた場合のために自宅の主回線以外にも 別のモバイル回線(ポケットWi-Fiや会社スマートフォンでのテザリングなど)を 用意しておくなど、テレワーク環境でも業務をスムーズに続けるための備えが必要です。 【テレワーク活用企業の備え 例】 ・非常時のPCバッテリーの確保 ・インターネットのバックアップ回線の確保 ・通信状況の急変に対する優先業務の整理 ・データのクラウドバックアップ ・コミュニケーション手段の多様化(チャットツールの導入など) ・会議などの調整 など 防災の日と企業の対策 9月1日は、防災の日です。 日本は自然災害が多く発生する国であり、地震などの予測困難な災害も少なくありません。いざという時の従業員の安全確保のため、企業それぞれの防災対策を検討してみてはいかがでしょうか。 【企業の防災対策 例】 ・防災マニュアルの作成 ・災害時の防災対策メンバーの選定 ・災害時の連絡方法(メール・SNSなど)の従業員への周知 ・避難場所の把握と周知 ・公共交通機関の運航停止による帰宅困難者対策 ・事業場内の避難経路の確保 ・建物・社内設備の安全確認 ・非常時持ち出し品のリスト整理と責任者選定 ・毎年一回の避難訓練 ・定期的な必要品備蓄の見直し など 以下のサイトでは、防災マニュアル作成の留意点が紹介されています。 参考|愛知労働局『防災マニュアル作成の手引き』 自然災害後の業務量増加のときの時間外・休日労働 法令で定められている労働時間の限度時間は、原則1日8時間、週40時間です。 この時間を超える労働を命じる場合は、事前に届け出ている36協定で定めた 時間外・休日労働の範囲内で労働してもらうことができます。 自然災害直後も、過重労働による健康障害を防止するため、36協定で定めた 時間外・休日労働を遵守します。 しかし例外として、企業や被災地域の早期復旧や、施設・設備故障の修理、 システム障害復旧など緊急かつ臨時の必要がある場合は、労働基準監督署の許可を得て 時間外・休日労働の上限規制を超えて働くことが認められるケースがあります。 緊急事態のときは、事後届出も可能です。 例外の認定は、個別かつ具体的に判断され、単なる業務の繁忙などは認められません。 以下のリーフレットを参考のうえ、管轄の労働基準監督署へご相談ください。 参考|厚生労働省『災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等について』 おわりに 例年、台風は7月から10月にかけて最も多くなります。 自然災害は、全国各地、いつ、どこで起こるか分かりません。 災害時は誰しもが心理的な不安や焦りを感じます。 災害発生時に企業の落ち着いた対応があれば、従業員も安心できるはずです。 今回の記事を参考に、災害時の企業対応について検討されることをおすすめします。

  • 【保存版】派遣先企業が知っておきたい派遣労働者の労務管理

    即戦力の人材がほしい、急な退職者が出てしまったなどの人材不足解消のため 派遣労働者を採用する企業も多いのではないでしょうか。 「派遣」は派遣労働者と派遣会社(いわゆる派遣元)が労働契約を締結しますが、 実際の就業先は派遣先企業(受け入れ先企業)です。 そのため、派遣先企業も労働者派遣について理解しておく必要があります。 派遣には、「登録型派遣」「常用型派遣」「紹介予定派遣」の3種類があります。 派遣の種類など、派遣労働者を受け入れるときに知っておくべき基本情報は 過去の記事をご確認ください。 過去の記事『【保存版】はじめて派遣労働者を受け入れるときのポイント。』 今回の記事では、派遣先企業が登録型の派遣労働者の受け入れ決定後から 受け入れ期間中に求められる対応や、留意すべきポイントについて解説します。 派遣先責任者の選任 派遣先企業は、派遣労働者を受け入れる事業所ごとに、自社の従業員の中から 専属の派遣先責任者を選任しなければなりません。 (ただし、事業所の派遣労働者数と自社の従業員数の合計が5人以下の場合は 選任の必要はありません。) 1 派遣先責任者とは 派遣労働者が適正に就業できるよう、派遣労働者に関する管理を一元的に行います。 派遣契約に基づく就業や環境整備、派遣会社との連絡調整などを担います。 派遣先責任者に必要な資格は特にありませんが、以下の項目に該当する者から 選任するよう努めます。 ・労働関係法令に関する知識を有する者 ・人事・労務管理などについて専門的な知識または相当期間の経験を有する者 ・派遣労働者の就業に関して、一定の決定・変更の権限を有する者 など なお、派遣先責任者として適切な業務を行うために必要な知識などを身につけることを 目的とした「派遣先責任者講習」も有料で実施されています。 参考|厚生労働省『派遣先責任者講習』 2 派遣先責任者の業務 ・指揮命令者※などに対する必要事項の周知 (法令等や派遣契約内容、派遣会社の通知など) ・派遣受入期間の延長通知 ・均衡待遇の確保(教育訓練・福利厚生施設・派遣会社に提供した賃金関係資料の把握) ・派遣先管理台帳の作成、保存および記載事項の通知 ・派遣労働者からの苦情処理 ・安全衛生について派遣会社と連絡調整(健康診断・安全衛生教育・事故時の確認など) ・そのほか派遣会社との連絡調整 ※指揮命令者:派遣労働者に指揮命令する立場の者 労働保険・社会保険の適用確認 派遣先企業は、受け入れの決定した派遣労働者が労働保険・社会保険の 加入対象である場合、派遣会社に労働保険・社会保険の加入状況を 確認しなければなりません。 (派遣会社から派遣先企業に提示された被保険者証の写しなどにより確認) もしも、正当な理由がなく保険に未加入の場合は、派遣会社に対し、派遣労働者を適切に保険加入させてから派遣をするように求める必要があります。 派遣契約の遵守確認 派遣先企業は、派遣労働者の受け入れ期間中に派遣契約が守られているかを 常に確認しておく必要があります。 具体的には、以下の4つの対応を行います。 1 就業条件の周知徹底 指揮命令者などの就業場所の関係者に、派遣契約で定めた就業条件を周知します。 周知方法には、就業条件を記した書面の交付や掲示などがあります。 2 就業場所の巡回 定期的に派遣労働者の就業場所を巡回し、派遣契約に違反した状況ではないか確認します。 3 就業状況の報告 指揮命令者に対し、派遣労働者の就業状況について定期的に報告を求めます。 4 派遣契約の遵守に係る指導 指揮命令者に対し、派遣契約に違反する指示を行うことのないように指導します。 教育訓練・福利厚生施設の提供 2020年、すべての企業に対し、働き方改革の一環として同一労働同一賃金が 適用されました。 これにより、正社員と派遣労働者とのあいだでの、雇用形態の違いを理由とした 待遇差が禁止されました。この待遇差とは賃金はもちろんのこと、 教育訓練や福利厚生施設なども該当します。 【教育訓練の実施】 派遣先企業が自社の従業員に対して業務に関する教育訓練を実施する場合、 同じ業務に従事する派遣労働者に対しても、派遣会社からの求めに応じて 参加できるように対応しなければなりません。 派遣会社が同様の教育訓練を実施する場合はこの限りではありませんが 業務に密接した教育訓練は派遣先企業の方が実施しやすい傾向にあります。 【福利厚生施設の利用】 派遣先企業は、自社の従業員が利用できる福利厚生施設のうち、 休憩室、更衣室、食堂という社内での業務円滑化を目的とした施設においては 派遣労働者にもこれらの施設の利用機会を与えなければなりません。 なお、売店、病院、保養施設などそのほかの施設についても派遣労働者が 利用できるよう配慮する必要があります。 派遣先管理台帳の作成 派遣先企業は、派遣労働者ごとに日々の勤怠内容や教育訓練の実施内容、苦情内容などの 就業実態を把握できるよう「派遣先管理台帳(任意書式)」を作成し、 3年間保存する義務があります。 また、派遣会社に対し、定期的に(1か月に1回以上)、そして派遣会社から 求められたときにも、派遣先管理台帳の記載内容を通知しなければなりません。 派遣先管理台帳の書式について、厚生労働省より記載例が公開されているため ご活用ください。 参考・ダウンロード|厚生労働省『派遣先管理台帳(例)』 苦情の適切な対応 派遣先企業は、派遣労働者からハラスメントや就業条件と異なる実態、 自社従業員とのトラブルなどの苦情を受けた場合、誠意をもって適切かつ迅速な 対応をしなければなりません。 1 派遣会社へ通知 まずは派遣労働者からの苦情を速やかに派遣会社へ通知します。 ただし、派遣先企業において苦情内容の解決が容易かつ速やかに対応できる場合は、 派遣会社への通知は必要ありません。 2 解決に向けた対応 苦情の原因が派遣先企業に関わることのみである場合、派遣先企業の対応だけで 解決できる可能性が高く、派遣先責任者が中心となって対応します。 一方、原因が派遣会社にも関わる場合、派遣先企業と派遣会社がしっかりと 連絡調整しながら解決を図る必要があります。 3 不利益な取扱いの禁止 派遣先企業は、苦情を申出た派遣労働者に対し不利益な取扱いをしてはいけません。 不利益な取扱いの一例としては、不当に業務量を増やす、苦情の申出を理由として 派遣会社に派遣労働者の交代を求めたり派遣契約の更新を拒否する、などが挙げられます。 派遣先企業の責任について 派遣労働においては、原則、派遣労働者と雇用契約関係にある派遣会社が 責任を負う立場にあります。 しかし、派遣先企業が業務について具体的に指揮命令を行い、また就業場所における設備、 機械などの管理も派遣先企業で行っているため、派遣先企業が一部責任を 負うものもあります。 ここでは、派遣先企業が責任を負う主な項目を挙げます。 1 労働基準法関連 ・労働時間・休憩・休日などの管理 ・育児時間の管理 ・公民権行使の保障 など 派遣労働者の日々の勤怠管理の責任は派遣先企業にあります。 ただし、36協定については派遣会社の36協定が適用されます。 そのため、派遣労働者に時間外労働や休日労働をさせるときは、 派遣会社の36協定の範囲内にとどめるよう注意が必要です。 2 労働安全衛生法関連 ・作業環境測定の実施 ・危険または健康障害の防止措置 ・就業制限 ・特殊健康診断の実施 (雇入れ時健康診断および定期健康診断は派遣会社が実施) ・労働者死傷病報告の提出 など 派遣労働者が労働災害により死亡または休業したときは、派遣先企業・派遣会社ともに 労働者死傷病報告の提出が必要です。 なお、派遣先企業は労働者死傷病報告の写しを、遅滞なく派遣会社に送付しなければなりません。 3 男女雇用機会均等法関連 ・妊娠・出産などを理由とする不利益な取扱いの禁止 ・セクシャルハラスメントに関する雇用管理上の措置 など 差別的な取扱いの禁止の責任は主に派遣会社が負いますが、実際の就業先である 派遣先企業にも責任が課されます。 つまり、派遣先企業と派遣会社ともに責任を負うこととなります。 4 労災保険法関連 労働災害については派遣会社が責任を負いますが、派遣先企業には労働災害の証明などの 対応が求められます。 労働災害が発生したときは、派遣先企業は速やかに派遣会社に発生状況などを 連絡してください。 おわりに 適正な派遣労働者の受け入れのためには、派遣会社だけではなく派遣先企業の協力が 必要不可欠です。 派遣先企業は、労働者派遣法をはじめとした法令等、そして派遣契約に関することなどを 押さえておくことが大切です。 また、派遣労働者の受け入れ前については、本記事に記載している事項以外にも、 派遣契約の締結、派遣受入期間の制限、同一労働同一賃金の対応などの様々な対応が 必要となるため、十分に知識を深めておくことが求められます。

  • 【保存版】はじめて派遣労働者を受け入れるときのポイント

    人材不足、採用コストを抑えたい、育成する環境が整っていない などの理由から、派遣労働者の受け入れを検討する企業は多いのではないでしょうか。 今回の記事では、派遣先企業がはじめて派遣労働者を受け入れるときの 受け入れから就業開始前までのポイントについて解説します。 派遣とは 派遣労働者を受け入れるにあたって、まずは 「派遣」「直接雇用」「請負」といった契約の違いを理解しておくことが必要です。 【派遣と直接雇用との違い】 「派遣」は派遣労働者と派遣会社(いわゆる派遣元)が労働契約を締結します。 実際の就業先は派遣先企業(受け入れ先企業)ですが、事業主は派遣会社です。 派遣会社は、賃金の支払や研修実施、相談対応など、 派遣労働者に関するさまざまな対応を行います。 一方、「直接雇用」は就業先の企業と労働契約を締結するため、事業主もその企業です。 正社員や契約社員、パート・アルバイトなどが直接契約にあたります。 【派遣と請負の違い】 「派遣」は派遣先企業の指揮命令を受けて業務を行います。 一方、「請負」は企業から発注された業務を完成させることを 目的としており、完成までに発注企業の指揮命令を受けることはありません。 なお、請負であるにもかかわらず、発注企業が業務の進め方の指示を 出したり時間管理などを行った場合は、指揮命令関係があるものとみなされ 偽装請負と指摘される可能性があります。 派遣の種類 派遣には以下の3種類があります。 1 登録型 オフィスワークで「派遣」と呼ばれるときは、一般的にこの登録型派遣を指します。 派遣労働者はあらかじめ派遣会社に登録し、派遣先企業が決まると 派遣会社と期間の定めがある労働契約を締結します。 派遣期間が終わると、この労働契約は終了し、次の派遣先企業が決まると あらためて労働契約を締結します。 2 常用型派遣 常用型派遣とは、派遣会社に常時雇用される従業員の中から 派遣先企業へ派遣を行うものを指します。 そのため、派遣先企業との派遣期間が終了しても派遣会社との労働契約は 継続します。 なお、この常用型派遣のみ取り扱う特定派遣は 2015年の労働者派遣法改正により廃止されました。 3 紹介予定派遣 紹介予定派遣とは、派遣先企業による直接雇用(正社員、契約社員)を 前提として派遣労働者を最長6か月派遣するものを指します。 派遣契約が終了するタイミングで派遣先企業と派遣労働者双方の合意が 得られると、派遣労働者は派遣先企業に直接雇用されます。 ここからは、派遣先企業が登録型の派遣労働者を受け入れる前に 理解すべき主なポイントを解説します。 派遣労働者を受け入れるまでの流れ 派遣先企業が登録型の派遣労働者を受け入れるまでの 全体の流れは以下のとおりです。 派遣契約の締結 労働者派遣では、派遣会社と派遣先企業が派遣契約を締結します。 派遣先企業は派遣労働者を受け入れる前に派遣契約について 理解しておく必要があります。 1 派遣労働者の特定禁止(事前面接・履歴書送付など) 登録型派遣では、派遣先企業が年齢・性別・経歴などを確認して 派遣労働者を特定すること、つまり選別することは原則禁止されています。 派遣する候補者を選ぶのはあくまで派遣会社です。 派遣先企業が派遣労働者を選別すると、派遣先企業も 事業主のような関係となり、法令等で禁止されている労働者供給事業と みなされる可能性もあります。 ただし、派遣労働者による就業前の派遣先企業への職場見学や 業務内容の確認などを実施することは可能です。 2 過去1年以内に離職した元従業員の受け入れ禁止 派遣先企業は、離職から1年が経過していない元従業員を 受け入れることはできません。 ※60歳以上の定年退職者を除く。 3 労働契約申込みみなし制度 派遣先企業が、以下のような違法派遣であることを知りながら 派遣を受け入れた場合、派遣先企業が派遣労働者に対して 労働契約を申込んだものとみなす制度です。 ただし、派遣先企業が違法であることを知らず、 かつ、過失がない場合は適用されません。 (出典)厚生労働省『労働契約申込みみなし制度の概要』 P2 4 派遣契約の中途解除 登録型派遣の場合、派遣契約期間の途中での契約解除は原則できません。 ただし、派遣先企業がやむを得ず中途解除を希望するケースもあります。 契約内容には、契約を解除するときの派遣先企業が対応すべき 派遣労働者の雇用安定措置を定めます。 【中途解除するときの派遣先企業が対応すべき派遣労働者の雇用安定措置 例】 ・派遣会社へ契約解除の猶予期間をもって申入れを行う ・派遣先企業の関連会社など派遣労働者の新たな就業機会の確保 ・中途解約による派遣会社が生じた損害の賠償 (休業手当、解雇予告手当など) ・中途解約の具体的理由の明示(派遣会社から請求があるとき) など また派遣先企業には、少しでも長く派遣受け入れができるよう努めたり、 離職後も一定期間は社員寮への入居を可能にするなど できる限りの配慮が求められます。 参考|厚生労働省『労働者派遣契約の安易な中途解除はしないでください』 なお、派遣契約期間中は派遣労働者からも中途解除は原則できません。 ただし、ケガや病気などで働くことが困難な場合など、 やむを得ない事情により派遣労働者が中途解除を希望するケースもあります。 解除の申入れがあった場合、派遣会社は速やかに派遣先企業に報告し、 締結中の派遣契約の業務を行うことができる他の派遣労働者を 手配するなどの対応を行います。 5 派遣料金について 派遣労働者への賃金は派遣会社が支払います。 派遣先企業は、その賃金額にマージンを加えた料金を派遣会社に支払います。 マージンには、派遣会社の営業利益だけではなく、派遣会社が負担する 社会保険料や教育訓練費なども含まれています。 マージン率は低ければよいと一概にはいえず、たとえば派遣労働者の スキルアップに力を入れると費用もかかるため、マージン率は上がります。 そのため、マージン率だけではなく教育訓練に関する事項や 派遣労働者の賃金平均額などの派遣実績の情報も考慮しながら、 派遣料金を検討することをおすすめします。 なお、厚生労働省が運営する「人材サービス総合サイト」には 派遣会社の実績などの情報が掲載されていますので参考にしてください。 参考|厚生労働省『人材サービス総合サイト』 派遣受入期間の制限 派遣の受け入れは原則3年までという期間制限があります。 この制限には、「事業所単位」「個人単位」の2種類があります。 ※一部対象外あり(60歳以上の者、派遣会社で無期雇用されている者など) 1 「事業所単位」の期間制限 同一の派遣先企業の事業所における派遣の受け入れは 原則3年が限度と定められています。 この期限が経過した日の翌日を「抵触日」といい、 派遣先企業は抵触日を超えて派遣労働者を受け入れることはできません。 派遣先企業はこの事業所の抵触日を派遣会社に通知する必要があります。 なお、この期間を延長しようとする場合は、過半数労働組合または 従業員代表(労働者代表)に意見を聴く必要があります。 (出典)厚生労働省『派遣社員を受け入れるときの主なポイント』P2 2 「個人単位」の期間制限 同じ派遣労働者を、派遣先企業の同じ組織単位(「課」など)で 受け入れできる期間は、原則3年が限度と定められています。 (出典)厚生労働省『派遣社員を受け入れるときの主なポイント』P2 同一労働同一賃金の対応 2020年には働き方改革の一環として、すべての企業に同一労働同一賃金が 適用されました。 これにより、正社員と派遣労働者とのあいだで、雇用形態の違いを 理由として賃金などの待遇に差をつけることが禁止されています。 この対応は派遣会社に求められ、以下の2つ方式のどちらかを選択します。 派遣先企業は、派遣会社の選択により、待遇に関する情報の提供内容が変わります。 1 派遣先均等・均衡方式 派遣先企業の正社員と派遣労働者との均等・均衡を図ります。 ・均等:「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」が同じであれば同じ待遇であること ・均衡:待遇に差をつける場合、「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」の違いに応じた合理的な差であること 派遣先企業は、派遣労働者の「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」に 最も近い正社員に関する情報を派遣会社に提供しなければなりません。 2 労使協定方式 派遣会社が派遣労働者を含む派遣先企業の過半数労働組合、 または従業員代表と労使協定を結び、派遣労働者の待遇を決定します。 派遣労働者は派遣先企業が変わるごとに賃金水準も変わります。 派遣先企業が変わり、業務の難易度が上がったからといって 賃金が上がるとは限らず、所得が不安定になりがちです。 しかし、この労使協定方式であれば派遣先企業の賃金水準に 影響されないため、能力アップが待遇アップに繋がりやすく 派遣労働者が積極的にキャリアアップを目指すことができるようになります。 派遣先企業は、派遣労働者と同じ業務の正社員に実施する教育訓練や 休憩室・更衣室などの福利厚生施設の情報を、派遣会社に 提供しなければなりません。 助成金の活用 派遣労働者を正社員として派遣先企業が直接雇用した場合、 派遣先企業に助成される制度として「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」があります。 優秀な人材確保や採用後のミスマッチ防止など 長期雇用の促進を図るために活用できる助成金です。 詳しくは、厚生労働省サイトをご覧ください。 参考|厚生労働省『キャリアアップ助成金のご案内(令和5年度版)正社員化コース分割版』P12 おわりに 適正な派遣労働者の受け入れのためには、派遣会社だけではなく 派遣先企業の協力が必要不可欠です。 派遣先企業は、労働者派遣法をはじめとした法令等、 そして派遣契約に関することなどを押さえておく必要があります。 また、派遣労働者の就業開始以降については 本記事に記載している事項以外にも、派遣先企業の責任、 派遣先企業管理台帳の作成、派遣先責任者の選任など さまざまな対応が必要となるため、十分に知識を 深めておくことが求められます。

  • 労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリストが改正されました。

    2023年4月に、中央労働災害防止協会が作成している 「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」と 「家族による労働者の疲労蓄積度チェックリスト」 (以下、併せて「チェックリスト等」といいます。)が改正されました。 このチェックリストは、本人によるものだけではなく 一緒に住んでいる家族の目からはどう見えるかについての チェックリストもある点が特徴的で、疲労度が蓄積していることに 気付きやすい工夫がされています。 改正にあたっては、食欲、睡眠、勤務間インターバルに関する項目を 追加するなどし、今まで以上に疲労度の蓄積度を把握しやすいものとなりました。 長時間労働者への医師の面接指導とは 1か月あたりの残業時間数と休日労働の時間数の合計時間数が80時間を超え、 かつ、疲労の蓄積が認められる方が会社に対して医師の面接指導を受けることを 申し出た場合、企業はその従業員に対して医師の面接指導を受けさせることが 法令上定められています。 著しい時間外労働は、脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患を引き起こす可能性があります。 そこで、時間外労働が一定の時間数を超え、心身の健康状態に違和感がある従業員には 医師に面接指導を受けてもらい、働き方の改善や休養の取得を促したり、 企業が就業環境を変えるきっかけにするための制度です。 労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリストとは 従業員が「医師による面接指導を受けたい」と申し出をするための条件のひとつに、 「疲労の蓄積が認められる」という項目があります。 その確認のために、今回改正されたチェックリスト等が使われています。 このチェックリストでは、従業員本人にイライラしているかどうかや、 身体が重たくないかなどの質問に答えてもらい、回答に応じた点数を合算して 合計点を出します。 その合計点数が一定の点数を超えた場合に「疲労の蓄積が認められる」と取り扱われます。 このチェックリストは、従業員本人用だけでなく、家族向けのチェックリストもあります。本人の視点のみだと気付きにくいことであっても、家族の目から見ると変化があるケースもあります。 従業員本人が心身の健康不良に気付くきっかけになり得ることから、 家族用のチェックリストがつくられました。 質問内容は従業員向けのものとおおよそ同じです。 (出典)厚生労働省『労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト(2023年改正版)』 (出典)厚生労働省『家族による労働者の疲労蓄積度チェックリスト(2023年改正版)』 改正の内容 今回のチェックリスト等の改正は以下のとおりです。 1 長時間労働などによる疲労の蓄積度を確認するための質問項目の改正 疲労の蓄積度を確認するために、以下の項目が追加されました。 ①食欲の有無に関する項目が追加 ②職場・顧客等の人間関係による負担に関する項目が追加 ③時間内に処理しきれない仕事の有無に関する項目が追加 ④自分のペースでできない仕事の有無に関する項目が追加 ⑤勤務時間外においても仕事について意識が向いてしまうかどうかに関する項目が追加 ⑥勤務日の睡眠時間に関する項目が追加 ⑦終業時刻から次の始業時刻のあいだにある休息時間(勤務間インターバル)に 関する項目が追加 2 総合判定方法の改正 以前は「仕事による負担度」という表現にしていましたが、 今回の改正で「疲労蓄積度」という表現に変わりました。 そのうえで、以前は個人の裁量で改善不可能である場合には 上司や産業医に相談し、勤務の状況を改善するよう「努力してください」と 表現していましたが、今回の改正にあたっては、 「上司や産業医に相談してください」という表現に変わりました。 3 家族の視点に関するチェックリストの改正 家族向けのチェックリストについても、「食事量」に関する質問項目が改正されています。また、働き方と休養に関する質問項目についても、質問の表現が変わりました。 改正のポイント チェックリスト等にはさまざまな変更点がありますが なかでも注目すべき点をご案内します。 1 食欲について 本人のチェックリストだけでなく家族用のチェックリストにも 食欲に関する質問項目が加わりました。 これは、精神的な負担が重なった場合の症状に食欲不振があることを踏まえての変更です。 長時間労働は、身体的な不調だけでなく、精神的な不調も招きます。 そこで、精神的な疲労度が重なっていないかどうかの確認のために 食欲に関する質問項目が追加されました。 2 終業時刻から次の始業時刻のあいだにある休息時間について 仕事が終わってから次の日の仕事開始までの時間のことを 「勤務間インターバル」といいます。 勤務間インターバルが短いと、当然ながら十分な休息が取れないことから 近年は「勤務間インターバル」が着目されています。 政府はこの勤務間インターバルについて法令上の規制はしていないものの、 11時間以上の勤務間インターバルを設けることを推奨しています。 3 業務に関するストレスについて 以前のチェックリスト等でも「仕事についての精神的負担」という項目があり、 最高で3点加算されるようなものになっていました。 しかし、今回の改正により、最高点が15点から33点に引き上げられました。 引き上げられた18点のうち、ストレスに関する項目が12点分もあり、 精神的な疲労についても着目されていることがよく分かります。 政府の統計調査によると、仕事のストレスの原因の第1位は「仕事の量」、 第2位は「仕事の失敗、責任の発生等」、第3位は「仕事の質」となっており、 それを踏まえた質問項目として「時間内に処理しきれない仕事」や 「自分のペースでできない仕事」や「勤務時間外でも仕事のことが 気にかかって仕方ない」などの項目が加わりました。 4 人間関係による負担について 先ほど紹介した統計調査によると、仕事のストレスの第4位は「対人関係 (セクハラ・パワハラを含む)」、第5位は「顧客、取引先等からのクレーム」が あげられています。 ハラスメントが大きなストレスを生む原因になることは既に周知のことですが 近年着目されている「顧客などからのハラスメント(いわゆるカスタマーハラスメント)」も、多くの方のストレス原因になっています。 そのためチェックリスト等の質問項目に、「職場」だけでなく 「顧客」も含められた点が特徴的です。 おわりに 法令では、残業などが80時間を超え、かつ疲労度の蓄積が認められる従業員がいても 申出がない限りは医師による面接指導などをする必要はないとしていますが、 企業には従業員の生命や健康を守るための措置を講じる義務が課されています。 今回のチェックリスト等の改正は、身体的な負担だけでなく、精神的な負担によって 仕事ができなくなってしまう方が多い現状を踏まえたものとなっています。 精神的な負担は長時間労働によっても生じますが、政府の統計結果にもあるように 人間関係に起因して負担が生じる場合もあります。 従業員が健康であり続けることは企業の発展のために必要な要素です。 従業員が知らないあいだに疲労度を蓄積させていないかを把握するため、 残業時間数にかかわらず、3か月に1回など定期的にチェックリスト等を 活用してみるのはいかがでしょうか。

  • 従業員50人以上の事業場に求められる、労働安全衛生法上の衛生管理

    事業規模が大きくなると、これまで以上に従業員の健康状態を 維持するための労働環境の管理が必要になります。 必要な管理は「労働安全衛生法」という法律で定められており、 常時使用する従業員が50人以上になると、以下の6つの義務が求められます。 ・衛生委員会の設置 ・衛生管理者の選任 ・産業医の選任、届出 ・ストレスチェックの実施と結果報告 ・定期健康診断実施と結果報告 ・休養室・休養所の設置 (常時50人以上または常時30人以上の女性従業員を使用する事業場) 今回は、上記の義務に対応するために必要な段取りと、その内容を解説します。 常時50人以上の労働者を使用する事業場とは 労働安全衛生法上の「労働者」とは、職業の種類にかかわらず、 事業または事業所に使用される者で、賃金を支払われる者をいいます。 この「労働者」には、パート・アルバイトや日雇い労働者などの 臨時的な働き方をする者も含まれます。 基本的には労働基準法の考え方と同じで、同居の親族のみを使用する 事業や家事使用人は「労働者」に該当しません。 また、原則同じ場所にあるものをひとつの事業場としますが、 以下の場合は事業場の単位に注意が必要です。 【例外1 同じ場所にある場合でも業務内容が大きく異なるとき】 それぞれを別の事業場とする。(営業部門と工場部門、本社と店舗など) 【例外2 場所が異なる場合でも事業規模が著しく小さく、事業に独立性がないとき】 直近上位にあたる事業場と一括してひとつの事業場とする。(出張所、支局など) 衛生委員会の設置(罰則あり) 衛生委員会とは、従業員の健康を守り、衛生面から発生する労働災害を 防止するための委員会です。 常時使用する従業員が50人以上の事業場では 全業種に衛生委員会の設置が求められます。 衛生委員会は事業場ごとに毎月1回以上開催しなければならず、 開催の都度、議事録を作成し、議事の概要を従業員に周知する必要があります。 また、議事録は3年間保存しなければなりません。 毎月の衛生委員会では、熱中症やインフルエンザなどの季節特有の健康問題、 健康診断の実施やハラスメント対策など、従業員の健康管理や職場環境を 向上させるテーマについて話し合います。 衛生委員会は以下のメンバーで構成されます。委員数に定めはありません。 衛生委員会を設置しなければならない事業場が設置を怠った場合、 50万円以下の罰金が科せられます。 なお、常時使用する従業員が50人以上の事業場の場合、業種(建設業、運送業など)や 事業場の規模によっては、安全委員会の設置も必要です。 参考|厚生労働省『安全委員会、衛生委員会について教えてください。』 衛生管理者の選任(罰則あり) 衛生管理者とは、職場で働く人の健康障害や労働災害防止のために 活動を行う、労働安全衛生法で定められた国家資格です。 全業種の従業員50人以上の事業場で、専属の衛生管理者を選任しなければなりません。 選任すべき事由(事業場の常時使用する従業員が50人に達したときなど)が 発生した日から14日以内に、常時使用する従業員数に応じて定められた人数の 衛生管理者を選任し、遅滞なく、管轄の労働基準監督署に報告する必要があります。 参考・ダウンロード|厚生労働省『(様式第3号)総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告』 選任された衛生管理者は、少なくとも毎週1回は作業場などを巡視しなければなりません。設備や作業方法、衛生状態に有害の恐れがある場合は、直ちに必要な措置を取る必要があります。 衛生管理者になるためには、事業場の業種に応じた選任要件が定められています。 なお、衛生管理者の選任義務のある事業場が衛生管理者を選任しなかった場合、 50万円以下の罰金が科せられます。 産業医の選任、届出(罰則あり) 職場での従業員の健康管理や衛生教育を正しく効果的に行うためには 医学の専門知識が不可欠です。 そのため、常時使用する従業員が50人以上の全業種の事業場では、 医師のうちから産業医を選任し、従業員の健康管理などを行わなければなりません。 選任すべき事由(常時使用する従業員が50人に達したときなど)が 発生した日から14日以内に、常時使用する従業員数に応じて定められた人数の 産業医を選任し、遅滞なく、管轄の労働基準監督署に報告する必要があります。 参考・ダウンロード|厚生労働省『(様式第3号)総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告』 選任された産業医は、従業員の健康管理などを行うために、少なくとも毎月1回、 作業場などの巡視が必要です。(産業医が事業者から毎月1回以上、 所定の情報提供を受けており、事業者の同意を得ている場合は少なくとも 2か月に1回の巡視でも可能) 設備や作業方法、衛生状態に有害の恐れがある場合は、直ちに必要な措置を とる必要があります。 なお、産業医の選任義務のある事業場が産業医を選任しなかった場合、 50万円以下の罰金が科せられます。 ストレスチェックの実施と結果報告(罰則あり) ストレスチェックとは、ストレスに関する質問票に従業員が記入し、 質問項目を集計・分析することで、自身のストレスがどのような状態にあるかを 調べるための検査のことです。 正式名称を「心理的な負担の程度を把握するための検査」といいます。 2014年6月に改正労働安全衛生法が公布され、2015年12月に従業員の メンタルヘルス不調の未然防止を目的とした「ストレスチェック制度」が新設されました。 これにより、常時使用する従業員が50人以上の事業場では、1年以内ごとに1回、 医師等によるストレスチェックの実施および面接指導の結果報告を 管轄の労働基準監督署へ行うことが義務付けられました。 (従業員数50人未満の事業場は当分の間、努力義務) 参考・ダウンロード|厚生労働省『心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書』 ストレスチェック制度の実施手順は以下のとおりです。 (出典)厚生労働省『ストレスチェック制度 簡単導入マニュアル』 報告の対象となる事業場(常時使用する従業員が50人以上の事業場)が 複数あったとしても、事業場ごとに報告しなければなりません。 企業単位や複数の事業場を本社でまとめて報告することはできないため 注意してください。 なお、ストレスチェックの未実施に対する罰則はありませんが、 結果報告を怠ったり、虚偽の報告をした場合は50万円以下の罰金が 課せられることもあります。 参考|大阪労働局『ストレスチェックの実施後の報告書の提出について』 定期健康診断の実施と結果報告(罰則あり) 前提として、事業場の規模にかかわらず、1年以内ごとに1回、 従業員の定期健康診断を実施しなければなりません。 常時使用する従業員が50人以上になったときは、定期健康診断の実施だけでなく、 管轄の労働基準監督署への定期健康診断の結果報告も義務となります。 なお、報告義務の対象となる事業場の「常時使用する50人以上の従業員」とは、 パート・アルバイトや日雇い労働者も含みますが、定期健康診断の受診対象となる 「常時使用する従業員」には、1年以上使用される予定の者かつ週の労働時間が 正社員の4分の3以上であるパート・アルバイトなどの短時間労働者が該当します。 監督署への報告義務の対象となる人数と、実際に定期健康診断を受診する人数は 一致する訳ではないため、注意してください。 参考・ダウンロード|厚生労働省『定期健康診断結果報告書様式』 なお、定期健康診断の実施・報告義務の対象である事業場が、実施・報告を 怠った場合は、50万円以下の罰金が科せられます。 休養室・休養所の設置 病弱者や生理日の女性などが一時的に使用するためのスペースとして、 常時50人以上または常時30人以上の女性従業員を使用する事業場は 休養室または休養所を男性用・女性用に区別して設置しなければなりません。 なお、長時間の休養などが必要となる場合、速やかに医療機関に搬送または 従業員を帰宅させることが基本となるため、随時利用できる機能が確保されていれば 専用の設備である必要はありません。 また、2021年12月に職場における労働衛生基準が変更となり、休養室を設置する場合の ポイントが新たに追加されました。 休養室または休養所では体調不良の従業員が横になって休むことが想定されており、 利用者のプライバシーと安全が確保されるよう、設置場所の状況などに応じた 以下のような配慮が求められます。 ・入口や通路から直視されないように目隠しを設ける ・関係者以外の出入りを制限する ・緊急時でも安全に利用が可能 など 参考・ダウンロード|厚生労働省『ご存知ですか? 職場における労働衛生基準が変わりました』 なお、休養室または休憩室を設置しなければならない事業場が設置を怠った場合の 罰則はありませんが、法令で定められた義務ではあるため、対象となった場合は 必ず設置をしてください。 従業員50人未満の事業場でも必要な衛生管理業務 常時使用する従業員が50人未満の事業場の場合でも、以下の衛生管理業務を 行う必要があります。 おわりに 従業員の健康と安全の確保は、従業員のためだけではなく生産性の向上にも繋がります。 今回解説した6つの義務の中には罰則がある規定もあるため、「法律を知らなかった」では済まされないこともあります。 労務管理担当者は制度を理解し、事業場の現状把握と、求められる対応の確認を おすすめします。

  • 経済的負担と健康維持を両立する「代替休暇制度」とは?

    2023年4月1日以降、中小企業でも、1か月60時間を超える 法定外労働に対する割増賃金率が50%以上となりました。 長時間の法定外労働を抑制することが目的です。 しかし、臨時的な事情により、やむを得ず1か月60時間を超える 法定外労働が発生する場合もあります。 その解決策として考えられるのが「代替休暇制度」です。 この制度は、従業員に割増賃金の代わりに休暇を付与するもので 企業の経済的負担の軽減と従業員の健康維持の両立を目指します。 本記事では、代替休暇制度の概要と導入の流れ、運用方法を詳しく解説します。 代替休暇制度とは 代替休暇制度は、1か月60時間を超える法定外労働の引き上げ分の 割増賃金率25%(図、赤斜線部分)の割増賃金の支払いを 有給の休暇に代替できる制度です。 通常の賃金100%や1か月60時間超による引き上げとならない割増賃金率25% (図、黄色斜線部分)は、代替休暇の対象にならず賃金を支払います。 企業が代替休暇制度を導入すると、1か月60時間を超える法定外労働が発生する 従業員ごとに「代替休暇を取得する」もしくは「25%を超える割増賃金を受ける」の いずれかを選択することになります。 選択は対象となった従業員の意思によります。 代替休暇の取得を企業が強制することはできません。 導入するメリットとデメリット 代替休暇制度の導入は、以下のメリット・デメリットを参考に検討してください。 【メリット】 ・企業側の経済的負担の軽減 ・従業員の長時間労働による健康リスクの低減 ・従業員がライフスタイルにあわせて自己選択できる ・従業員の心身のリフレッシュになる など 【デメリット】 ・対象者の意向確認と給与計算の手続負担 ・代替休暇の取得状況の管理業務が必要になる ・従業員が代替休暇を取得する機会を十分に確保できない場合がある など 導入の流れ 以下の手順で、代替休暇制度の導入を進めます。 1 就業規則を変更する 休暇は、就業規則に記載が必要な項目です。 新たに代替休暇制度を導入するときは、制度の対象者、取得要件、 取得手続などを記載します。 就業規則に定めることで、従業員の労働契約の内容となります。 2 労使協定を締結する 代替休暇制度を導入するときは、労使協定の締結が要件となっています。 【労使協定で定める事項】 ・代替休暇の時間数の算定方法 ・代替休暇の単位 ・代替休暇を付与することができる期間 ・代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日 参考|愛媛労働局『代替休暇制度を導入するための労使協定を締結する場合のポイント 』 代替休暇の単位に「半日」を含む場合は、所定労働時間の半日の定義も定めます。 半日は原則所定労働時間の1/2ですが、午前・午後という分け方でも構いません。 また、代替休暇は年次有給休暇のように時季変更権はありません。 取得予定日に業務の都合で出勤する必要が生じた場合の取扱いなども 定めておくことをおすすめします。 3 雇用契約書のひな形を変更する 新たに採用する従業員に対して、代替休暇制度の適用の有無を通知するため 雇用契約書のひな形も変更する必要があります。 休暇の取得要件や取得手続については「詳細は就業規則による」とします。 4 代替休暇の意向確認書や代替休暇管理簿を準備する 代替休暇を取得するか、割増賃金を受けるかは従業員の意思によります。 意向確認は口頭でも構いませんが、従業員の意思を明確に受け取り トラブルを防止するという観点からも、あらかじめ「代替休暇に関する意向確認書 (任意書式)」を作成し提出を求めることをおすすめします。 また、代替休暇を付与することができる期間は、労使協定で 「法定外労働が1か月60時間を超えた給与計算期間の末日の翌日から2か月以内」の 範囲内を定めて運用します。 労使協定で1か月を超える期間としたときは、1か月目と2か月目の代替休暇の時間数を 合算して代替休暇を取得することも考えられます。 代替休暇の取得期限、時間数、意向確認日、取得日の管理ができる 「代替休暇管理簿(任意書式)」の作成をおすすめします。 5 勤怠・給与計算システムの設定を変更する 代替休暇制度の導入に伴い、勤怠管理と給与計算システムの設定を 見直す必要があります。休暇の取得管理、給与の割増賃金率や明細項目など 就業規則のルールに基づき設定します。 とくに所定労働時間が8時間未満の企業は、「法定内労働」「法定外労働」 「法定外労働60時間超」が項目ごとに正確に集計されるよう システム設定をしてください。 6 代替休暇制度の運用方法について社内周知する 代替休暇制度の運用方法を全従業員に周知します。 新しい制度をスムーズに運用するためには、運用方法だけでなく 制度を導入することになった背景や目的、想定質問なども伝える必要があります。 Q&A形式にまとめて伝えるなどの工夫をおすすめします。 代替休暇の時間数(日数)の算定方法 代替休暇制度は、まとまった単位の取得で従業員の休息の機会を つくるという観点から、1日、半日、1日または半日を単位とします。 代替休暇の時間数は、➀換算率を求めた後に、➁の式で算定します。 【具体例:1か月の法定外労働が80時間の場合】 ・1日の所定労働時間:8時間 ・法定外労働をしたとき: 25% ・法定外労働が1か月60時間を超えたとき:50% ・時間単位の年次有給休暇制度:あり ・代替休暇の単位:1日または半日 ➀50% - 25% = 換算率 25% ➁(80時間-60時間)× 換算率 25% = 代替休暇の時間数 5時間 代替休暇の時間数は5時間となり、代替休暇を半日(4時間)取得することができます。 また、端数の1時間については、「割増賃金で支払う」もしくは「本人の請求により 時間単位の年次有給休暇等とあわせて1日、半日の単位として代替休暇を取得する」 のいずれかを選択してもらいます。 代替休暇の運用方法 1 給与計算期間の残業時間を確認する 給与計算期間の残業時間を集計します。残業時間のうち、法定外労働が 1か月60時間を超える従業員が対象となるため、労働時間の正確な管理が不可欠です。 事前に設定した勤怠管理システムが正しく反映されているか確認してください。 2 対象者の代替休暇の時間数(日数)を求める 法定外労働が1か月60時間を超える対象者の代替休暇の時間数(日数)を求めます。 具体的な計算方法は先述の「代替休暇の時間数(日数)の算定方法」を参照してください。 3 対象者に代替休暇の意向確認をする 対象者に対して代替休暇を希望するかどうかを確認します。 給与計算もあるため、給与締切日からできる限り早い時期で確認します。 この時点では、意向の有無のみを確認し、取得予定日は後日決定するという 方法でも構いません。 実際の残業時間、代替休暇の時間数(日数)、意向申出期限を伝え、代替休暇に 関する意向確認書(任意書式)の提出をしてもらいます。 4 残業代を計算する 代替休暇を取得する従業員の残業代は、代替休暇の対象にならない 通常の賃金100%と1か月60時間超による引き上げとならない 割増賃金率25%のみ計算します。給与計算前に設定した給与計算システムについて 給与の割増賃金率や明細項目などが正しく反映されているか確認してください。 5 対象者に代替休暇を取得してもらう 代替休暇管理簿を確認し、代替休暇を希望する従業員には確定した代替休暇日数 (時間数)を適切に取得してもらいます。 代替休暇の取得が遅延すると従業員の過労や労働時間の適切な管理が難しくなるため、 速やかに休暇を取得するよう従業員に促します。 代替休暇が取得期間内に取得できなかったとき 従業員が代替休暇を取得するという希望を出していても、取得予定日は 後日決定する方法をとっているときなどは、代替休暇の取得期間内に 取得できない場合もあります。 代替休暇が期間内に取得できなかった場合は、取得できないことが確定した 給与計算期間の給与支払日に、代替休暇として取得する予定だった割増賃金額を 支払わなければなりません。 【具体例:代替休暇が取得期間内に取得できなかったとき】 ・給与:末日締め翌月15日払い ・代替休暇の取得期間:給与計算期間の末日の翌日より2か月以内 ・対象期間が60時間を超えたことによる意向確認:「意向あり」 法定外労働が1か月60時間を超える従業員は、普段から長時間労働になっている ケースが見受けられます。 代替休暇の取得の機会を逃すと、取得日の検討が後回しになりがちです。 代替休暇制度は、従業員に休息の機会を与えることを目的としています。 代替休暇の意向確認時点で、取得予定日も確定して申出してもらうことをおすすめします。 おわりに 月60時間超の法定外労働の代替休暇制度は一見すると難解なように感じますが、 知識を深め、適切な運用と仕組みを確立することで、過重労働の解消と従業員の 働きやすさの向上に寄与します。 この制度は企業と従業員双方の「働き方改革」を推進するツールとなるべきです。 時代や法令の変化に適切に対応し、よりよい労働環境をつくる制度として 導入をご検討ください。

  • 【2023年度版】賞与支払届と社会保険料計算

    賞与とは、毎月の定期的な給与とは別に支払われる特別な賃金のことです。 賞与支払届は、賃金、給与、手当、賞与など名称にかかわらず、 賞与(年3回まで)を支給したときの手続です。 今回の記事では、賞与にかかる手続や社会保険料の計算についてお伝えします。 届出の対象者は 賞与支払届は、賞与を支給した人のうち、社会保険に加入している すべての役員・従業員について届出しなければなりません。 賞与支払月に社会保険料が免除されている育児休業中の従業員や、 社会保険の資格喪失した従業員も届出が必要です。 届出が不要な賞与とは 賞与支払届の届出が不要な賞与もあります。 7月1日以前の1年間で4回以上支給する賞与は 毎月の社会保険料を決める基準となる標準報酬月額の対象になるため 賞与支払届は必要ありません。 ただし、年の途中で、賞与の支給回数を4回以上とすることの賞与規定を 新設した場合は、次の定時決定(7月、8月または9月の随時改定を含む) までは賞与として取り扱うことになっています。 また労働とは関係なく支給される慶弔見舞金(結婚祝い、出産祝いなど)などは 賞与の対象外となるため届出の必要はありません。 賞与支払届の手続 賞与支払届出書の用紙は、日本年金機構に登録されてい る賞与支払予定月の1か月前に企業へ送付されます。 届出用紙の基礎情報は、賞与支払月の前々月の19日までの 情報を元に年金事務所が作成します。 そのため、社会保険に加入している役員・従業員の氏名の記載が 賞与支払届にないときは、追記をしてください。 賞与支払届の枚数が不足するときは、届出様式をダウンロードして作成します。 【賞与を支給したとき】 賞与を支給したときは、以下の届出をします。 賞与支払届に記載されている被保険者のうち支給がない被保険者がいるときは 賞与支払届の該当者欄に斜線を引いて届出をしてください。 届出様式:健康保険・厚生年金保険 被保険者賞与支払届/厚生年金保険 70歳以上被用者賞与支払届 添付書類:原則なし 届出期限:賞与を支払った日から5日以内 届出先 :事務センターまたは管轄の年金事務所 届出方法:郵送、電子申請、電子媒体(CD・DVD)、持参 参考・ダウンロード|日本年金機構『健康保険・厚生年金保険 被保険者賞与支払届/厚生年金保険 70歳以上被用者賞与支払届』 【賞与不支給のとき】 賞与支払月に事業所全体のすべての役員・従業員の賞与が不支給のときは 以下の届出をします。 届出様式は、賞与支払届と一緒に送付される書類もしくは以下を ダウンロードして使用してください 。 参考・ダウンロード|日本年金機構『健康保険・厚生年金保険 被保険者賞与不支給報告書』 賞与支払月が変更になるときの手続 賞与支払月は日本年金機構に登録されている情報のひとつです。 賞与支払月を変更したときは、5日以内に年金事務所へ 健康保険・厚生年金保険 事業所関係変更(訂正)届の届出が必要です。 届出様式:健康保険・厚生年金保険 事業所関係変更(訂正)届 添付書類:なし 届出期限:変更の事実が発生してから5日以内 届出先 :事務センターまたは管轄の年金事務所 届出方法:郵送、電子申請、持参 参考・ダウンロード|日本年金機構『健康保険・厚生年金保険 事業所関係変更(訂正)届』 賞与支払時の社会保険料の計算方法 賞与を支給するときは、社会保険料を控除しなければなりません。 雇用保険料は給与支給時と同じ計算方法ですが、社会保険料は計算方法が異なります。 社会保険料の計算は以下のとおりです。 【計算式(従業員負担分)】 ①標準賞与額 ×(厚生年金保険料率 ÷ 2) ②標準賞与額 ×(健康保険料率(介護保険料率含む)÷ 2) 標準賞与額は、総支給額(社会保険・税金などの控除する前)から 1,000円未満を切り捨てた額です。 従業員の社会保険料に1円未満の端数がでたときは、 50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げになります。 【標準賞与額の例】 賞与の総支給額:235,600円 標準賞与額  :235,000円 【保険料率】 厚生年金保険料:18.3% 健康保険料  :都道府県によって異なります 介護保険料  :毎年変動します 都道府県ごとの保険料率、介護保険料率は、以下サイトの保険料額表よりご確認ください。 参考|協会けんぽ『都道府県ごとの保険料額表』 介護保険料は、介護が必要な高齢者を支える保険制度です。 賞与の介護保険料は、40歳に到達した日の属する月から保険料の徴収が必要となり、 65歳に到達した日の属する月から保険料の徴収が不要です。 「到達した日」とは、誕生日の前日を指します。 (例)8月15日に40歳の誕生日を迎える従業員の場合/賞与支給日:8月31日 40歳に到達する日は、誕生日の前日の8月14日であるため、介護保険料を徴収します。 (例)12月17日に65歳の誕生日を迎える従業員の場合/賞与支給日:12月20日 65歳に到達する日は、誕生日の前日の12月16日であるため、介護保険料は徴収しません。 1日生まれの従業員は、特に間違いやすいため注意が必要です。 (例)8月1日に40歳の誕生日を迎える従業員の場合/賞与支給日:8月31日 40歳に到達する日は、誕生日の前日の7月31日であるため、介護保険料を徴収します。 (例)9月1日に40歳の誕生日を迎える従業員の場合/賞与支給日:8月31日 40歳に到達する日は、誕生日の前日の8月31日であるため、介護保険料を徴収します。 (例)12月1日に65歳の誕生日を迎える従業員の場合/賞与支給日:12月20日 65歳に到達する日は、誕生日の前日の11月30日であるため、介護保険料は徴収しません。 (例)1月1日に65歳の誕生日を迎える従業員の場合/賞与支給日:12月20日 65歳に到達する日は、誕生日の前日の12月31日であるため、介護保険料は徴収しません。 70歳以上の被保険者は厚生年金保険に加入する資格を失うため 厚生年金保険料の徴収は不要です。 そのほか、賞与の支払月に退職予定(退職日が末日以外のとき)であったり、 産前産後休業・育児休業中のときは社会保険料を徴収しません。 同じ月の支給であっても、以下の例のように給与と賞与の社会保険料の徴収月が 異なるケースもあるため特に慎重に確認してください。 (例)7月15日に産前休業に入る従業員に支払われる給与と賞与の社会保険料/給与:末日締め翌月25日払い、賞与:7月20日支給の場合 産休による社会保険料の免除が始まるのは、産前休業開始となる7月からです。 同じ7月に支払われる給与と賞与であっても、以下のように社会保険料の徴収が異なります。 ・7月25日払い給与 → 6月末締め給与であり、6月分の社会保険料を徴収する ・7月20日払い賞与 → 賞与の社会保険料は徴収なし (産休開始による社会保険料免除の適用) 社会保険料計算時の賞与額の上限 社会保険料がかかる賞与額の上限は、健康保険(介護保険含む)、 厚生年金保険ごとに法令等で定められています。 【健康保険】4月1日から翌年3月31日までの賞与の累計額573万まで 年間(4月1日から翌年3月31日)の賞与額が累計573万円を超えるときは 健康保険 標準賞与額累計申出書を作成し添付してください。 参考・ダウンロード|日本年金機構『健康保険 標準賞与額累計申出書』 年度の途中で転勤・転職などにより、被保険者資格の取得・喪失があった場合の 標準賞与額の累計は、保険者単位(協会けんぽ、健康保険組合など)で行います。 したがって、同一の年度内で複数の被保険者期間がある場合は 同一の保険者である期間に決定された標準賞与額を累計することとなります。 育児休業等による保険料免除期間に支払われた賞与や 資格喪失月に支払われた賞与については保険料の徴収は行われませんが、 決定された標準賞与額も年度の累計額に含まれます。 【厚生年金保険】1回の賞与額150万円まで 同じ月に同じ被保険者に賞与が2回支払われる場合は、2回の賞与の合計額が 150万円に達するまで厚生年金保険料がかかります。 おわりに 6月から8月にかけて、夏季賞与が支給される企業が多くあります。 労務担当者にとっては、年度更新や定時決定、高齢・障害者雇用状況等報告など 1年に1度の手続や報告が密集する期間でもあります。 賞与支払届の提出期限は5日以内と短くなっています。 ミスなく速やかに手続を終了させるため、賞与計算、賞与振込、手続終了までの 計画や対応期限の目安を立て、賞与の支給額が決まり次第、 計画に基づいた対応をお願いします。

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