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- 出産手当金の基礎知識。(「出産手当金支給申請書」書き方ガイド付)
従業員の出産に伴い、企業にはさまざまな手続や対応が求められます。 健康保険にも数々の給付がありますが、その一つに出産手当金があります。 今回の記事は、協会けんぽの出産手当金の制度概要や手続きの流れについて説明します。 出産手当金とは 出産手当金とは、健康保険の被保険者である従業員が 出産のために仕事を休み、そのあいだに給与の支払いを 受けられない場合に生活保障として受けることができるお金です。 出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日) 以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までの 休んだ期間、出産手当金が支給されます。 出産が予定日より遅れた場合は、その遅れた期間についても出産手当金が支給されます。 なお、出産日は産前期間に含まれます。 (出典)協会けんぽ『協会けんぽ GUIDE BOOK』P51 出産手当金の支給条件と支給額の計算方法 出産手当金の支給条件や支給額の計算方法を説明します。 【支給条件】 以下のすべての条件を満たす場合は、出産手当金が支給されます。 (出典)協会けんぽ『健康保険 出産手当金支給申請書 記入の手引き』 【1日あたりの支給額の計算方法】 出産手当金の支給額は、支給開始日を含んだ月以前の 継続した12か月間の標準報酬月額をもとに、1日あたりの金額を計算します。 1日あたりの支給額の計算には、以下のようなパターンがあります。 例1 支給開始日以前の継続した12か月間の標準報酬月額がすべて同じだった場合 ① 28万円 ÷ 30日 = 9,333.333 ≒ 9,330円(1の位を四捨五入) ② 9,330円 × 2/3 =6,220円 1日あたりの支給額:6,220円 例2 支給開始日以前の12か月間で標準報酬月額が変更している場合の1日あたりの支給額 ①(26万円 × 5か月 + 28万円 × 7か月)÷ 12か月 ÷ 30日 = 9,055.555円 ≒ 9,060円 ② 9,060円× 2/3 = 6,040円 1日あたりの支給額:6,040円 例3 支給開始日以前の期間が12か月に満たない場合 入社まもない従業員など、支給開始日以前の被保険者期間が12か月に満たないときは、次の(A)と(B)を比べていずれか低い方の標準報酬月額を使用して計算します。 (A)支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額を平均した額 28万円 × 7か月 ÷ 7 = 28万円 (B)当該年度の前年度9月30日時点における全被保険者の標準報酬月額を平均した額 30万円(2022年度の9月30日時点における全被保険者の標準報酬月額の平均額) ※年度により平均額が変更となりますので、協会けんぽのサイトにて確認ください。 (A)と(B)を比べて低い方の標準報酬月額を計算に使用→28万円 ① 28万円 ÷ 30日 = 9,333.333 ≒ 9,330円(1の位を四捨五入) ② 9,330円 × 2/3 =6,220円 1日あたりの支給額:6,220円 出産手当金の申請手続の流れ 1 従業員の出産予定日と産後休業期間を確認する 従業員に出産予定日を聞いて、産前産後休業期間を計算します。 法令で定められた産前産後休業は、産前42日(6週間)から産後56日(8週間)です。 【例】 出産予定日:2023年10月4日 産前休業期間:8月24日~10月4日 産後休業期間:10月5日~11月29日 産前産後休業期間の確認は、以下のサイトをご活用ください。 参考 | 厚生労働省『産休・育休はいつから?産前・産後休業、育児休業の自動計算』 産前休業は従業員の申出により開始されます。 体調がよければ出産日近くまで働くことを希望する従業員もいます。 また、母子の健康状態によっては主治医から法令等の基準よりも 早めに休業に入るよう指示を受ける場合があり、 そのときは指示に従い産前休業を取得させる必要があります。 産前産後休業申請書など、書面(任意書式)で提出してもらうと聞き間違いなどを防止できるためおすすめです。 参考・ダウンロード | 産前・産後休業申請書 2 出産手当金の申請書を準備する 「出産手当金支給申請書」は3枚で1セットです。 産後休業終了1週間前までに、従業員へ「健康保険出産手当金申請書」の1 枚目(被保険者記入用)、2枚目(被保険者・医師・助産師記入用)を渡します。 申請書2枚目は医師・助産師の証明が必要になるため 従業員が医療機関に持参し、医師等に記入してもらいます。 出産手当金を産前分で申請をするときは、「よくある質問 3 出産手当金の分割申請」をご覧ください。 3 出産日を確認し、申請書を作成する 従業員から出産の連絡を受けたら、出産日を確認し、産後休業期間を確定させます。 そして、2で渡した「健康保険出産手当金申請書」2枚を 従業員から受け取り、3枚目(事業主記入用)を作成し申請書を完成させます。 4 協会けんぽに申請する 「健康保険出産手当金申請書」の3枚すべての記入ができたら、以下の方法で申請します。 申請期限:出産のため働くことができなかった日ごとにその翌日から2年以内 申請先:協会けんぽ 申請方法:郵送 企業控が必要なときは、コピー1部と切手を貼った 返信用封筒を同封しておきます。 窓口でも受付をしていますが、時期によっては混雑することがあるため 郵送での手続をおすすめします。 5 支給開始 申請してから支給決定までは、約1〜2か月かかります。 支給決定がされたら、従業員本人の自宅に通知書が届き、 支給決定から1週間以内には従業員の振込口座に出産手当金が振り込まれます。 ただし、年末年始などの混み合う時期は遅れる可能性があるため注意が必要です。 よくある質問 出産手当金の申請のときに、企業や従業員が悩むポイントを3つご紹介します。 1 退職後の継続給付 退職後であっても、以下3つの要件をすべて満たす場合は、出産手当金の支給を受けることができます。 ①被保険者の資格喪失日の前日(退職日)までに、継続して1年以上の被保険者期間がある ただし「継続して1年以上」の被保険者期間に、任意継続被保険者であった期間は含みませんのでご注意ください。 ②被保険者の資格喪失日の前日(退職日)が、出産手当金の支給期間内である 出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までに退職していれば、退職後の継続給付の対象になります。 ③被保険者の資格喪失日の前日(退職日)に働いていないこと 退職日当日に働いていた場合は、退職後の継続給付を受けることはできません。つまり退職日当日は、欠勤や有給休暇などで仕事を休んでいれば、継続給付の対象になります。 参考 | 協会けんぽ『協会けんぽ GUIDE BOOK』P51 2 傷病手当金との調整 妊娠時の体調には個人差があり、母子の健康状態により主治医から 法令等の基準よりも早めに休業に入るよう指示を受ける場合があります。 産前休業前に休業するときは、傷病手当金が申請できます。 ただし、傷病手当金と出産手当金は併給できず、出産手当金が優先して支給されます。 出産手当金の額が傷病手当金の額よりも少ない場合には 傷病手当金を申請することにより、出産手当金との差額が支給されます。 3 出産手当金の分割申請 出産手当金は、産前分、産後分など複数回に分けて申請できます。 ただし、事業主の証明欄については、申請ごとに証明が必要です。 なお、1回目の申請が出産後、かつ申請書2枚目の 「医師・助産師の証明」により出産日などが確認できるときは、 2回目以降の申請で「医師・助産師の証明」を省略することができます。 協会けんぽの「出産手当金支給申請書」の書き方 2023年1月より、協会けんぽの17の各種申請書(届出書)が変更となり、 出産手当金についても新様式が発表されています。 出産手当金支給申請書は、旧様式と比べてさまざまな箇所が変更となっています。 新様式に対応した「出産手当金支給申請書の書き方ガイド」を活用し、スムーズな手続を行ってください。 参考・ダウンロード|『健康保険 出産手当金支給申請書 書き方ガイド』 なお、旧様式での申請も可能ですが、新様式を使用したときと比べて 事務処理等に時間を要することがあるため、新様式での申請をおすすめします。 まとめ 出産に伴う手続や対応は多岐に渡りますが、出産手当金は 手続きの流れをおさえれば難しいものではありません。 今まで出産手当金の手続がなかった企業や男性従業員のみの企業でも、 女性従業員を雇用した際は、手続の可能性が出てきます。 この記事や書き方ガイドを活用いただき、日々の業務にお役立てください。
- 2023年4月、中小企業も月60時間超の時間外労働の割増賃金率が引き上げになります。
2010年4月の改正労働基準法により、 1か月60時間超の時間外労働の割増賃金率は 25%から50%に引き上げられました。 ただし、割増賃金の引き上げが適用となったのは大企業のみで 中小企業は2023年3月31日まで適用が猶予されています。 この猶予措置の期間が終了し、2023年4月1日以降からは 中小企業でも割増賃金の引き上げが適用されます。 (出典)厚生労働省『月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます』 猶予措置が終了する中小企業 猶予措置が終了する中小企業は、以下の①②のいずれかを満たす企業です。 事業所単位ではなく企業単位で判断します。 (出典)厚生労働省『月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます』 時間外労働が1か月60時間を超えたときの企業対応 1か月60時間超の対象となる時間外労働とは 原則1日8時間、週40時間を超えた労働時間です。 法定休日に働いた労働時間は、1か月60時間に含めません。 「猶予措置が終了する中小企業」に該当する企業では 従業員の時間外労働を1か月の起算日から累計して 60時間に達した時点より後に行われた時間外労働に対して いずれかの対応が必要です。 1 割増賃金率を50%以上へ引き上げる 60時間に達した時点より後に行われた時間外労働分から 割増賃金率50%以上の残業代を支払います。 【計算例】1か月70時間の時間外労働の残業代 (1か月の所定労働時間160時間、月給32万円の従業員) 〈2023年3月31日まで〉 32万円÷160時間=2,000円(時間単価) 70時間×2,000円×125%=175,000円 残業代合計 175,000円の支払 〈2023年4月1日以降〉 32万円÷160時間=2,000円(時間単価) 60時間までの残業 :60時間×2,000円×125%=150,000円 60時間を超えた残業:10時間×2,000円×150%=30,000円 残業代合計 180,000円の支払 2 代替休暇制度を設定する 代替休暇制度とは、1か月60時間を超え 25%から50%以上に引き上げられた割増賃金の代わりに 有給の休暇を付与する制度です。 労使協定の締結が必要です。 代替休暇制度を検討する場合は、以下パンフレットの2ページ以降を参考にしてください。 参考|福井労働局『令和5年4月1日から中小企業(※)も 時間外労働の割増賃金率を引き上げる必要があります!』 2023年4月以降、考えられる割増賃金率パターン 法令で定められている労働時間の限度時間は 原則1日8時間、週40時間です。 企業が原則の限度時間を超えての 労働や休日労働を従業員に命じるときは 事前に届出している36協定で定めた 時間外・休日労働の範囲内で労働させることができます。 2023年4月1日以降の割増賃金率は以下のとおりです。 上記の割増賃金率が複雑に組み合わさる計算例をご紹介します。 【計算例】1か月70時間の時間外労働、 うち5時間は60時間を超えて深夜勤務をした残業代 1か月所定労働時間160時間、月給32万円の従業員) 〈2023年4月1日以降〉 32万円÷160時間=2,000円(時間単価) 60時間までの残業 :60時間×2,000円×125%=150,000円 60時間を超えた残業:5時間×2,000円×150%=15,000円 60時間を超えた深夜残業:5時間×2,000円×175%=17,500円 残業代合計 182,500円 給与を正しく計算するために 割増賃金率の引き上げの対象となる時間外労働を 労働時間から正しく抽出する必要があります。 1か月60時間の労働時間管理の起算日は 1か月の起算日は、就業規則で定めることにより 「毎月1日」「賃金計算期間の初日」 「36協定における一定期間の起算日」などの設定ができます。 なお、就業規則で1か月の起算日の定めがない場合には 賃金計算期間の初日を起算として取扱います。 基本給の賃金計算期間と割増賃金の 賃金計算期間が異なる場合は、 割増賃金の計算期間の初日を起算日として差し支えありません。 施行日をまたぐ1か月の60時間はどうカウントするのか 賃金計算期間は末日締めばかりではありません。 15日締めや20日締めなど企業によってさまざまです。 そのため、賃金計算期間が 2023年4月1日の施行日をまたぐ中小企業も出てきます。 施行日をまたぐ1か月については 2023年4月1日から時間外労働を累積し 60時間を超えるか確認します。 たとえば、賃金計算期間が毎月21日から20日である場合 2023年4月1日から2023年4月20日までの時間外労働が 60時間を超えた部分について50%の割増賃金を支払います。 2023年4月までに企業が行うこと 1 現状の時間外労働の実態把握をする 割増賃金率の引き上げは、長時間労働の抑制、 従業員の健康の保持、労働環境の整備などの 課題の解消のために行われています。 時間外労働の実態を把握し 業務内容や工程に発生する ムリ・ムダ・ムラがないかの見直しと 時間外労働になっている要因の 洗い出しや残業抑制のための 業務改善を検討ください。 2 就業規則を改定する 就業規則(賃金規程)では 賃金の計算方法や支払方法に関する事項を定めています。 割増賃金率の変更に伴い、料率の変更を行ってください。 【記載例】 3 労働条件通知書や雇用契約書を変更する 労働条件通知書や雇用契約書には 賃金の計算方法や支払方法に関する事項があります。 割増賃金率の変更のためだけに 労働条件通知書等を作成する必要はありません。 2023年4月1日以降に締結する労働契約より 労働条件通知書や雇用契約書の割増賃金率が 正しく明示されるように対応ください。 【記載例】 4 勤怠システムの設定を変更する 適正な時間管理のため、 1か月60時間超の対象となる時間外労働を 実労働時間から正しく抽出する必要があります。 勤怠管理システムを利用しているときは 60時間超の時間外労働が集計され、 設定項目に反映されるか確認ください。 勤怠システムによっては時間外労働のアラート機能もあります。 長時間労働者を自動検知したアラートが出せれば 企業や部署内の残業抑制の指導や 人員配置の見直しにも役立ちます。 5 給与計算ソフトの設定を変更する 給与計算が複雑化し、給与計算ミスや 給与計算工数が増加するリスクも考えられます。 給与計算ソフトを利用しているときは、 1か月60時間超の割増率が初期値で設定されているものは少ないため 対象となる給与計算前に割増賃金率の設定を変更してください。 計算された残業代が給与明細へ正しく反映されるかも確認ください。 まとめ 2023年4月1日以降、中小企業も60時間超の割増賃金率が50%になります。 時間外労働は、事前に届出している36協定で定めた 時間外・休日労働の範囲内で労働させられます。 現在、1か月の時間外労働の上限を 60時間を超えて設定している企業は 割増賃金率の対応が必要になります。 計算例にもあるように、残業代がアップすることになり 企業の経済的負担も大きくなります。 1か月の時間外労働を60時間以下に設定すると 割増賃金率は今までどおり25%となるため、 複雑な労働時間管理や給与計算をする必要はなくなります。 長時間労働の見直しを行う機会にもなりますので 後回しにせず、早めに準備をすすめてください。
- 従業員代表者の選任方法と、不適切な選任によるリスク。
従業員代表者とは、法令等上での「従業員の過半数を代表する者」を指します。 労使協定の締結は、原則として労働者の過半数で組織する労働組合と締結しますが、その労働組合がないときに選出するのが従業員代表者です。 法令で定められた方法で選出しなければ企業にリスクが生じるため、労務担当者は正しい知識を持っておく必要があります。 ●従業員代表者の役割 従業員代表者は、労働組合がない企業の従業員の意見を取りまとめる役割です。 就業規則を作成・変更したときに労働基準監督署へ届出時に添付する「意見書」への意見の記載なども行います。 労使の集団的合意が必要なときは、従業員代表者と企業が話し合いを行い、署名または記名・押印をして労使協定を締結します。 法令等上で締結する労使協定は様々(※)ですが、よく知られているのは「時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)」です。 ※企業と従業員代表者が締結する労使協定等の種類 ・時間外労働・休日労働に関する協定(36協定) ・就業規則の意見書 ・年次有給休暇の計画的付与 ・賃金控除 ・育児・介護休業の適用除外 ・一斉休憩の適用除外 など ●従業員代表者になれる人 従業員代表者は、正社員、契約社員、パート、アルバイトなど雇用形態にかかわらず、事業場の全従業員の過半数の支持を受ける従業員から選出されます。 管理監督者や使用者が一方的に選出した従業員は、選出対象にはなれません。 従業員代表者は「事業場単位」での選任が必要です。 事業場とは、工場、鉱山、事務所、店舗等の一定の場所において密接に関連する組織のもとに継続的に行なわれる作業の一体をいいます。 原則として、同一場所にあるものは一つの事業場、場所的に分散しているものは別の事業場と考えられます。 しかし工場内の診療所や食堂など、同じ場所にあっても労働の状態や業態が大きく異なっているときは、別の事業場となります。 また別の場所にあっても、規模が小さいときや一つの事業場としての独立性がないときは、組織的な関連や事務能力などを勘案し、直近上位の事業場とまとめて一つの事業場として扱います。 ●従業員代表者の選出方法 従業員代表者の選出方法には法令等上の定めがあり、労使協定に規定する内容を明確にして選出をしなければなりません。 そのうえで、従業員の話し合いや選挙による投票、持ち回りなど、従業員の過半数から支持されていることが明確な、民主的な方法で選出を行ってください。 使用者が「従業員代表者は〇〇さんで進めてほしい」など選出に意見を述べたり、使用者の意向に沿って選出されたときは、適切に選出されていないと判断されます。 使用者は選任された従業員代表者がスムーズに役割を遂行できるよう、社内のインターネットの使用や事務機器の貸与、事務スペースの提供などの配慮を行う必要があります。 また従業員代表者になろうとした者、従業員代表者として正当な行為をした者に対し、賃金の減額や降格などの不利益な取扱いをしてはいけません。 ●適正に従業員代表者が選出されていないときのリスク 労使協定が適正に締結されることにより、企業は法令等違反についての罰則を免除されます。 労使協定が適正に締結されていないと評価されるケースの多くが、「適正に労働者代表者が選出されていない」です。 つまり、適正に従業員代表者を選出しないこと自体についての罰則はありませんが、適正に従業員代表者を選出していなければ労使協定が無効となり、結果として企業は何らかの罰則を受ける結果になってしまいます。 なお、労使協定を締結できる内容は無制限ではありません。 労使協定の締結によって法令上の制限をなくすことができる事項は、法令等で定められたものに限られます。 【例】36協定が無効になったとき 労働基準法違反:罰則6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 労働基準法上、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えての労働(時間外労働)や、休日労働(法定休日労働)はできないと定められており、違反すると上記の罰則が適用される可能性があります。 しかし36協定(労使協定)を締結すれば、法定労働時間を超えて労働させたとしても罰則の適用が免除されます。 しかし締結時の従業員代表者の選出が不適切であったと判断されたり、限度時間(月45時間、年間360時間)を超える36協定は無効となり、罰則が適用されます。 ※36協定は労使協定を締結後、管轄の労働基準監督署へ届出が必要です。 ●従業員代表者と締結した労使協定の効力はどこまであるのか 労使協定の効力は「免罰効果」に留まります。 免罰効果とは、法令違反があったとしても「罰則は適用しない」ということです。 36協定を締結したからといって、当たり前のように残業命令ができるわけではありません。実際に残業命令をするためには、個別の契約で同意をとるか、就業規則に「労使協定に定めた範囲内の時間で残業をさせることがある」などの定めを設ける必要があります。 まとめ 労働組合がない企業にとって、従業員代表者の選出は労使協定を締結するうえで必要です。そのため、企業が優位に労使協定を結べるように、従業員代表者を指名して選出しているケースが見受けられます。 しかし労使協定は従業員の労働環境に影響を及ぼす大切な約束です。従業員が安心して働ける職場づくりのためにも、従業員代表者を適正に選出し、従業員側からの意見を反映できるようにされることをおすすめします。
- 2023年1月より新様式となった、協会けんぽの「傷病手当金支給申請書」を徹底解説。(「傷病手当金支給申請書」書き方ガイド付)
2023年1月、協会けんぽは「より分かりやすくすること」「より記入しやすくすること」「より迅速に給付金が支払されること」を目的とし、17の各種申請書(届出書)に関する様式を変更しました。 その中でも大幅に変更があった申請書が「傷病手当金支給申請書」です。 今回の記事では、新様式となった協会けんぽの「傷病手当金支給申請書」の変更点と申請のポイントをお伝えします。 傷病手当金の申請手続の流れ 今回の変更点は申請書の様式のみとなり、傷病手当金の手続自体に変更はありません。 傷病手当金の基本的な申請手続の流れは、以下のとおりです。 1 「健康保険傷病手当金支給申請書」を用意し、従業員に渡す 「傷病手当金支給申請書」は4枚で1セットです。 従業員より傷病手当金の申請依頼を受けたら、「傷病手当金支給申請書」の1枚目(被保険者記入用)、2枚目(被保険者記入用)、4枚目(療養担当者記入用)の計3枚を渡します。 4枚目は、従業員が病院に持参し、療養担当者(医師等)に記入してもらいます。 その際、従業員には申請ごとに医師の証明が必要になること、証明の為に病院でかかる費用は従業員が支払うことを伝えます。 なお、医師の証明にかかる費用は、健康保険の対象です。傷病手当金意見書交付料の診療報酬は100点のため、70歳未満の従業員であれば自己負担額は300円です。 参考・ダウンロード|協会けんぽ『健康保険傷病手当金支給申請書』 2 申請書を作成する 従業員から1で渡した「傷病手当金支給申請書」3枚を受け取り、3枚目(事業主記入用)を作成し申請書を完成させます。 3 協会けんぽに申請する 「傷病手当金支給申請書」の4枚すべての記入ができたら、以下の方法で申請します。 申請期限: 療養のため働くことができなかった日ごとにその翌日から2年以内 申請先:協会けんぽ 申請方法:郵送 企業控が必要なときは、コピー1部と切手を貼った返信用封筒を同封してください。 窓口でも受付をしていますが、時期によっては混雑することがあるため、郵送での手続をおすすめします。 4 支給開始 申請してから支給決定までは、約1〜2か月かかります。 支給決定がされたら、従業員本人の自宅に通知書が届き、支給決定から1週間以内には、従業員の振込口座に傷病手当金が振り込まれます。 ただし、年末年始などの混み合う時期は遅れる可能性があるため注意が必要です。 様式の変更点 新様式は、マス目化した記入欄へ変更され、記入方法も記述式からチェックボックス形式に見直されました。 2023年1月以降に使用する新様式と、2022年12月以前の旧様式を比較しながら変更点をご確認ください。 【1枚目】被保険者記入用 従業員氏名、住所、生年月日や振込口座といった基本情報を従業員が記入します。 (被保険者情報) ①申請回数(※申請書タイトル横):削除 ②氏名(カタカナ):マス目化した欄へ記入 新様式では、氏名(カタカナ)は振込手続のときに使用されます。 (振込先指定口座) ③預金種別:普通預金に指定 ④口座名義・区分:削除 ⑤受取代理人:削除 新様式では、被保険者本人へ振込する仕様に変更となったため、④口座名義・区分、⑤受取代理人の欄は削除されました。 【2枚目】被保険者記入用 従業員が申請内容や確認事項を記入します。 (申請内容) ⑥傷病名:チェックボックス形式 ⑦傷病の原因:新設 ⑧初診日:削除 ⑨該当の傷病について(病気かケガか):削除 ⑥傷病名は、申請書4枚目(療養担当者記入用)に記入されている「傷病名」と合っているかを確認し、同じであればチェックを入れる形式となりました。 相違する場合は、別途その病気やケガに対する療養担当者の証明を受ける必要があります。 (確認事項) ⑩報酬の証明:チェックボックス形式 【3枚目】事業主記入用 企業が、病気やケガで働くことができなかった期間(申請期間)の勤務状況、賃金支給状況を記入します。 新様式で大きく変更のあった箇所が、申請書3枚目(事業主記入用)です。 旧様式では、申請期間に対する勤務状況と賃金内訳をすべて記入していましたが、審査処理のスピードをあげる目的で簡素化されました。 (事業主が証明するところ) ⑪被保険者氏名(カタカナ):マス目化した欄へ記入 ⑫申請期間の勤務状況:出勤した日のみ(所定労働時間の一部を働いた日も含む)〇を記入 ⑬申請期間の報酬等(賃金)欄:出勤しなかった日に給与が発生した場合に記入 ⑭申請期間の賃金支給の有無/給与の種類/賃金計算:削除 ⑫申請期間の勤務状況、⑬申請期間の報酬等(賃金)欄について、大幅に変更されたため補足説明します。 旧様式の⑫申請期間の勤務状況では出勤日「〇」に加え、有給休暇「△」、公休日「公」、欠勤「/」の記号を記入していました。 新様式では、有給休暇、公休日、欠勤の記入が不要となりました。 所定労働時間の一部を働いた日には、遅刻早退や、午前に出勤し午後に半日有給を取得した日なども含まれます。 ⑬申請期間の報酬等(賃金)欄は、申請期間の出勤しなかった日に給与支給があれば記入をしてください。 【出勤しなかった日の給与支給例】 ・有給休暇 ・出勤せず半日有給のみ取得 ・一定期間分を一括して支給した場合の通勤手当 ・出勤等の有無にかかわらず支給した扶養手当 など ※⑫申請期間の勤務状況、⑬申請期間の報酬等(賃金)欄の記入方法については、以下「傷病手当金支給申請書の書き方ガイド」の3ページ目に記入例がありますのでご覧ください。 参考 | 協会けんぽ 兵庫支部『事業所ご担当者様へ 新様式版 傷病手当金申請書の注意点について』 【4枚目】療養担当者(医師等)が記入 傷病名や初診日、治療内容などの療養担当者(医師等)の意見を記入してもらうため、企業や従業員が記入することはありません。 参考として変更点をご確認ください。 ⑮被保険者氏名:マス目化した記入欄(カタカナ記入) ⑯傷病名/初診日:記入欄の簡素化 ⑰症状や経過、治療内容など:記入スペースの拡大 以下、削除された項目です。 ・入院期間 ・療養費用の別 ・転記 ・診療実日数 ・診療及び入院していた日 ・手術/退院年月日 ・医学的所見 ・人工透析や人工臓器について 傷病手当金支給申請書の書き方ガイド 傷病手当金支給申請書は、旧様式と比べてさまざまな箇所が変更となっています。 新様式に対応した、こちらの傷病手当金支給申請書の書き方ガイドを活用し、スムーズな手続を行ってください。 参考・ダウンロード|『健康保険 傷病手当金支給申請書 書き方ガイド』 なお、旧様式での申請も可能ですが、新様式を使用したときと比べて事務処理等に時間を要することがあるため、新様式での申請をおすすめします。 申請時の注意点 1 申請書の印刷および提出 協会けんぽは、提出された申請書等をスキャナーに読み込むことで、審査業務の効率化を図っています。 特に申請書3枚目(事業主記入用)は、申請期間や賃金支給状況により、用紙が複数枚に渡る場合があります。 印刷および提出時は、以下の内容に注意してください。 (出典)協会けんぽ 群馬支部『新様式の申請書の印刷方法と提出方法について』 2 申請日の日付 傷病手当金の支給は、実際に休んだ期間に対して行うため、未来の日付で申請することはできません。 申請書3枚目(事業主記入用)、および申請書4枚目(療養担当者記入用)の証明日の日付に誤りがないか注意してください。 3 診断書の代用 企業へ提出する診断書を、4枚目の療養担当者(医師等)の証明に代用することはできません。 企業の休職制度のルールとして、休職申請書のほかに休職の根拠となる書類を求めるときは、傷病手当金申請書の書類以外に主治医の診断書などを提出するようにお伝えください。 まとめ 今回の協会けんぽ「傷病手当金支給申請書」の新様式において、申請書3枚目(事業主記入用)が大幅に変更になりました。 一見すると理解しづらい変更にも見えますが、賃金の細かな記入やその他の確認作業が減ることとなり、労務担当者の事務負担が軽減される仕様となっています。 手続でも多くみられる傷病手当金については、こちらの記事や書き方ガイドを活用していただき、日々の業務にお役立てください。
- 2023年1月より、協会けんぽ申請書の様式が変更されました。
協会けんぽに対して傷病手当金や出産手当金等の各種給付を申請するとき、これまでは協会けんぽが指定する様式を利用していました。 この様式が2023年1月より変更になりました。 様式が変更になる申請書は、下記となります。 (出典)協会けんぽ『様式変更に関するリーフレット』 今回の記事では、協会けんぽの様式変更のポイントと、企業の証明(以下、事業主証明)が必要な様式について紹介します。 また、あまり知られていない健康保険証の通称名記載および旧姓併記についてもお伝えします。 様式変更のポイント 新様式は、「より分かりやすくすること」「より記入しやすくすること」「より迅速に給付金が支払されること」を目的としてつくられています。 文字の読み取り精度の向上と、迅速な事務処理のため、マス目化した記入欄が増え(ポイント①)、記入方法を分かりやすくするため記述式から選択式に変更(ポイント②)するなどの工夫が行われています。 (出典)協会けんぽ『様式変更に関するリーフレット』 2023年1月以降の申請について 2023年1月以降は、新様式で申請を行います。 従業員自身が申請書を用意するときも新様式を使用するように伝えてください。 旧様式での申請も可能ですが、新様式を使用したときと比べて事務処理等に時間を要することがあるため、新様式での申請をおすすめします。 協会けんぽの申請書で事業主証明が必要なもの 協会けんぽの申請書には、従業員自身で申請を完結できるものと、事業主証明が必要なものがあります。 事業主証明は、従業員から申出があった場合は速やかな対応が必要です。 ここでは、事業主証明が必要な4つの申請書を紹介します。 【健康保険傷病手当金支給申請書】 傷病手当金とは、業務外の理由による病気やケガで仕事を休んだ日について、企業から給与の全額または一部が支払われないときに支給されます。 従業員から申出があれば、企業は傷病手当金支給申請書の3ページ目(事業主記入用)に、従業員氏名・勤務状況・賃金支給状況・事業所名称等を記載します。 押印は不要です。 参考・ダウンロード|協会けんぽ『健康保険傷病手当金支給申請書』 【健康保険出産手当金支給申請書】 出産手当金とは、健康保険の被保険者である女性従業員が、出産のため休んだ期間(出産日以前42日から出産日翌日以降56日までの範囲内)で、給与の支払がなかった期間を対象に支給されます。 企業は、出産手当金申請書の3ページ目(事業主記入用)に、従業員氏名・勤務状況・賃金支給状況・事業所名称等を記載します。 押印は不要です。 参考・ダウンロード|協会けんぽ『健康保険出産手当金支給申請書』 【健康保険被保険者証再交付申請書】 健康保険証(被保険者証)の印字が見にくくなったり、紛失したときに協会けんぽに提出し、健康保険証を再発行します。 企業を通じて健康保険被保険者証再交付申請書を提出する必要があるため、企業は従業員から申出があったら作成を行い提出をします。 参考・ダウンロード|協会けんぽ『健康保険被保険者証再交付申請書』 【健康保険埋葬料(費)支給申請書】 埋葬料とは、被保険者である従業員が業務外の事由により亡くなった場合、亡くなった被保険者により生計を維持されていた埋葬を行う方に「埋葬料」として5万円が支給されるものです。 埋葬料を受けられる方がいない場合は、実際に埋葬を行った方に、実際に埋葬に要した費用が「埋葬費」として支給されます(埋葬料5万円の範囲内)。 また被扶養者が亡くなったときは、被保険者に「家族埋葬料」として5万円が支給されます。 企業は、埋葬料(費)支給申請書の2ページ目の事業主記入欄に、死亡した方の氏名・死亡年月日・事業所名称等を記載します。 押印は不要です。 参考・ダウンロード|協会けんぽ『健康保険埋葬料(費)支給申請書』 健康保険証の通称名記載および旧姓併記について 健康保険証の氏名欄には、原則戸籍上の氏名が表記されます。 しかし、性同一性障害を有する方が通称名を希望する場合や結婚などで姓が変わった方が旧姓の併記を希望する場合は、健康保険証の氏名等記載変更に係る申出により、氏名等の記載を変更した健康保険証の交付を受けることができます。 1 健康保険証に通称名を記載する場合 性同一性障害を有する方が、健康保険証に通称名の記載を申出し、協会けんぽがやむを得ないと判断した場合に、健康保険証に通称名等が記載されます。 【健康保険証への記載について】 表面 氏名欄:「通称名」を記載、性別欄:「裏面参照」と記載 裏面 備考欄:「戸籍上の氏名」と「性別」を記載 (出典)協会けんぽ『被保険者証通称名記載及び旧姓併記の取扱い』 【申出に必要な書類】 ・被保険者証への通称名記載に関する申出書 ・医師の診断書など性同一性障害を有することを確認できる書類 ・通称名が社会生活上、日常的に用いられていることを確認できる書類 ・健康保険被保険者証再交付申請書 2 健康保険証に旧姓を併記する場合 社会保険の各種手続・届出において、原則は戸籍上の氏で記載されることになっていますが、申出により健康保険証に旧姓が併記されます。 【健康保険証への記載について】 表面 氏名欄:戸籍上の氏と名の間に「括弧書きで旧姓」を記載 裏面 備考欄:「氏名欄の括弧内は旧姓」と記載 (出典)協会けんぽ『被保険者証通称名記載及び旧姓併記の取扱い』 【申出に必要な書類】 ・被保険者証氏名欄の旧姓併記に関する申出書 ・旧姓を併記した住民票の写し、戸籍謄(抄)本等の旧姓と戸籍姓が確認できる書類のいずれか1点 ・健康保険被保険者証再交付申請書 通称名記載、旧姓併記についての詳細は以下のサイトをご確認ください。 参考・ダウンロード|協会けんぽ『被保険者証通称名記載及び旧姓併記の取扱い』 まとめ 健康保険の手続にはさまざまな申請書が存在し、手続の種類によって提出先が協会けんぽ・日本年金機構と異なります。 手続の煩雑さを軽減すべく、公的機関も様式や制度自体の見直しを行うことがあります。 手続をより早く正確に完了させるためにも、最新の情報を把握した上で、手続をすすめてください。 次回の記事では、よくある手続のひとつである「傷病手当金支給申請書」を取り上げ、今回の様式変更に伴うポイントなどをお伝えします。
- 職場の受動喫煙に関する基本知識と、求人票への明示。
受動喫煙とは、他人の喫煙によって発生したタバコ(加熱式タバコも含む)から発生する煙に、自分の意思とは関係なくさらされることをいいます。 タバコの煙には大きく3種類あります。 【主流煙】吸い口のフィルター部分から吸い込んだ煙 【副流煙】タバコの先端から発生する煙 【呼出煙】喫煙者が喫煙後に吐き出す煙 これらの煙にはニコチンやタール、一酸化炭素など多くの有害化学物質も含まれており、喫煙者への影響はもちろんのこと、受動喫煙による健康への影響も科学的に証明されています。 受動喫煙は、肺がんや脳卒中、虚血性心疾患などの疾患の原因となったり、死亡や障害を引き起こすなど、健康上や子どもの発育上のリスクを高めます。 今回の記事では、学校や病院、行政機関を除く企業や個人事業主等(以下、企業等)に求められる、受動喫煙に関する基本知識や求人票への明示について解説します。 2020年4月、原則屋内喫煙禁止 2020年4月に全面施行された改正健康増進法では、のぞまない受動喫煙をなくすため、2人以上が同時または入れ替わり利用するオフィス、事務所、工場、飲食店などで、一定の基準を満たす場所を除き屋内での喫煙を禁止しています。 なお、改正健康増進法には罰則があります。 喫煙禁止場所での喫煙や喫煙器具・設備等の撤去がなされていないときや、一定の基準を満たさない喫煙室を設置しているときなどの義務違反時には、法令等で指導や命令等、50万円以下の過料が課せられる可能性があります。 企業が行う施設・設備面での受動喫煙防止策 企業には、敷地内全面禁煙、屋内全面禁煙のほか、事業内容や経営規模への配慮をもとにした空間分煙などの喫煙室の設置が認められており、いずれかを選択します。 現状にあわせて、施設・設備面の対策を検討ください。 1 敷地内全面禁煙 企業等の屋外も含めて、敷地内すべてを禁煙にします。 受動喫煙を完全に防止でき、設備投資が不要というメリットがあります。 喫煙者である従業員への周知と理解が必要になります。 2 屋内全面禁煙(屋外喫煙所の設置) 法令等では、企業等の施設は原則屋内禁煙になっていますが、敷地内は禁止ではないため、屋外喫煙所の設置は可能です。 喫煙室を設けるよりも受動喫煙防止の効果は高いです。 しかし、屋外に喫煙所を設ける必要があるため、タバコの煙が屋内や近隣への流入や、就業場所からの距離があることで労働時間ロスが発生しないかなどを考え、設置場所には注意が必要です。 3 喫煙専用室(すべての企業等の施設で可能) 受動喫煙防止のため、施設内の一部で一定の基準を満たし、空間分煙をする方法です。 設備投資や換気装置の電気代などの維持費が必要になりますが、喫煙者と非喫煙者の双方の理解を得やすいです。 喫煙専用室は、オフィス、事務所、工場、飲食店などでタバコの煙の流出防止にかかる技術的基準を満たせば施設の一部に設置できます。 喫煙はできますが、喫煙専用室内での飲食はできません。 【タバコの煙の流出防止にかかる技術的基準】 (出典)厚生労働省 なくそう!望まない受動喫煙。『改正法のポイント3 たばこの煙の流出防止にかかる技術的基準』 4 加熱式タバコ専用喫煙室(すべての企業等の施設で可能) 喫煙専用室と同じく空間分煙をする方法です。 加熱式タバコ専用喫煙室は、加熱式タバコのみの喫煙に限定し、オフィス、事務所、工場、飲食店などで加熱式タバコの煙の流出防止にかかる技術的基準を満たせば、施設の一部に設置できます。飲食を行うことも認められています。 加熱式タバコの煙の流出防止にかかる技術的基準は、喫煙専用室の技術的基準と同様です。 5 喫煙目的室 (喫煙をする場所を提供することを主な目的の施設のみ可能) 喫煙目的室は、喫煙をする場所の提供を主な目的としているシガーバーや、店内で喫煙可能なタバコ販売店、公衆喫煙所をいいます。 施設の営業のために広告や宣伝を打つときは、喫煙目的室設置施設であることを明らかにしなければなりません。 飲食を行うこともできますが、米飯類、パン類、麺類など主食と認められる食事はできません。 6 喫煙可能室(既存特定飲食提供施設のみ可能) 規模の小さい飲食店については、飲食を提供できる喫煙可能室を設置できるという経過措置があります。 喫煙可能室の設置は、以下のすべてに該当する飲食店のみです。 ①2020年4月1日時点で、営業している飲食店である ②個人または資本金 5,000万円以下の中小企業が経営している ➂客席面積が100㎡以下である 施設の営業のための広告や宣伝を打つときは、喫煙可能施設であることを明らかにしなければなりません。 また、既存特定飲食提供施設の要件に該当することを証明する書類を備え、保存しなければなりません。 (出典)政府広報オンライン『屋内は原則禁煙!受動喫煙防止のルールを守りましょう』 (出典)厚生労働省 なくそう!望まない受動喫煙。『各種喫煙室早わかり』 20歳未満の従業員は喫煙室へは立入禁止 いずれの喫煙室へも20歳未満は立入禁止です。 タバコには依存性があり、喫煙開始年齢が低いほど健康への悪影響が大きくなります。 来店客のほか、従業員であっても接客や清掃など喫煙を目的としない業務を理由に喫煙室に立ち入らせることはできません。20歳未満の従業員を雇用する企業等は、勤務シフトや勤務フロア、導線など喫煙区域に立ち入る必要のないように工夫が必要です。 20歳未満の者の喫煙室への立入禁止に違反した場合は、行政指導や助言の対象になります。 施設内に喫煙室を設置するときは標識の掲示が義務付け 施設内に喫煙室を設置する企業等は必ず「施設内の喫煙室」「施設に喫煙室があること」を示す標識の提示をしなければなりません。 【「施設内の喫煙室」を示す標識】 喫煙室の出入口の扉の表側など、見やすい箇所に掲示してください。 【「施設に喫煙室があること」を示す標識】 施設に入るときに掲示された標識が目につくよう、受付や施設玄関横の外壁部分などの箇所に掲示してください。また、喫煙可能エリアへの20歳未満立入禁止の表示もあわせて表示ください。 必要事項が識別できれば、施設の様態にあわせた独自の配色で作成しても差し支えありません。 しかし、紛らわしい標識の提示や標識の汚損等については禁止されており、罰則(指導および50万円以下の過料)の対象になります。 以下のサイトの標識を参考にしてください。 参考・ダウンロード|厚生労働省 なくそう!望まない受動喫煙。『標識の一覧』 すべての企業等は求人票には受動喫煙防止対策の明示が必要 すべての企業等は、求人票に就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項を明示する必要があります。 屋内禁煙にしている企業も含みます。 (出典)厚生労働省『求人申込書の書き方』 【特記事項への記載例】 ・施設の敷地内または屋内を全面禁煙としている ・施設の敷地内または屋内を原則禁煙とし、喫煙専用室を設けている ・施設の屋内で喫煙が可能である など 参考|厚生労働省『「受動喫煙防止」のための取組を明示してください』 働く従業員への受動喫煙対策 改正健康増進法や労働安全衛生法では、企業に対し受動喫煙防止のための措置が求められています。 【受動喫煙防止対策の取組例】 ・企業内の喫煙に関する実情の把握 ・職場の受動喫煙防止推進計画の策定 ・企業の状況に応じて喫煙禁止場所の特定、喫煙室の検討 ・喫煙や受動喫煙による健康への影響など講習会 ・禁煙外来の費用補助の制度化 ・勤務シフト、施設内レイアウトの工夫 など 参考|厚生労働省『職場における受動喫煙防止のためのガイドライン』 まとめ 2019年の厚生労働省の調査によれば、20歳以上の人のうち、16.7%の人たちが習慣的に喫煙しています。 健康への意識の高まりもあり、喫煙者数は10年前の23.4%に比べ減少傾向にあります。 今回は、2020年4月に全面施行された改正健康増進法をもとに、受動喫煙の基本知識をご紹介しました。 企業内の喫煙者と非喫煙者がともに働きやすい職場環境となるよう、受動喫煙についての正しい知識を身につけ、企業内での受動喫煙防止にお役立てください。
- ライフスタイルの変化に伴うさまざまな扶養認定ケース。
近年、ライフスタイルや家族構成の変化によって、さまざまなケースでの扶養認定が増えています。 2018年10月、健康保険被扶養者の認定手続きが変更になり身分確認や生計維持確認が厳格に行われるようになりました。 また、2020年4月には国内居住要件が加わり、原則日本に住民票がある方のみ扶養が認められるようになっています。 扶養認定が厳しくなる中、従業員への必要書類のアナウンスに悩むこともあります。 今回はさまざまな扶養認定ケースを厳選して10選お伝えします。 従業員から扶養追加の連絡を受けてからの手続と、健康保険証が発行されるまでの基本的な流れは前回の記事で確認ください。 前回の記事 『社会保険の扶養範囲と、健康保険証発行の基本的な流れ。』 【今回ご紹介するケース】 ・退職して失業保険を申請中の家族を扶養する ・退職後に健康保険から傷病手当金を受給している家族を扶養する ・住民票が別の同居している配偶者を扶養する ・別居している親を扶養する ・海外留学中の子どもを扶養する ・海外赴任へ帯同する配偶者を扶養する ・海外赴任先で生まれた子どもを扶養する ・姓が異なる子どもを扶養する ・事実婚の相手を扶養する ・夫婦共働きによる共同扶養の場合で子どもを扶養する ①退職して失業保険を申請中の家族を扶養する 扶養認定の多くに、退職した家族を扶養するケースがあります。 退職後、無職・無収入であれば扶養に入れることができます。また、失業保険を申請していても、退職の翌日から受給するまでの待機期間中で収入がないときは扶養に入れることができます。 注意が必要なのは、失業保険の受給が始まったときです。 失業保険の基本手当日額が3,612円以上(60歳以上または障害年金受給者は5,000円以上)となるときは、収入基準である年間収入130万円未満(60歳以上または障害年金受給者は180万円未満)を超えるため、扶養に入れません。 失業保険の受給が終わってから扶養に入れることになります。 失業保険の基本手当日額は、失業保険の雇用保険受給資格者証で確認できます。 また、高年齢求職者給付(一時金)、短期雇用特例被保険者の求職者給付(特例一時金)、再就職手当(一時金)は、扶養対象者の収入にはなりますが、一定の状態が続く収入ではないため年間収入には含めません。 【失業保険の雇用保険受給資格者証 例】 ②退職後に健康保険から傷病手当金を受給している家族を扶養する 療養のため退職し、退職後も健康保険から傷病手当金を受給している家族を扶養にするケースです。 傷病手当金は、退職日までに1年以上の被保険者期間があり、退職日に傷病手当金の支給を受けているときは、退職後も引き続き通算して1年6か月分まで支給されます。 退職後に傷病手当金を受給している家族を扶養にするときは、傷病手当金支給決定通知書の支給期間と支給決定金額を確認してください。 日額を算出し、3,612円以上(60歳以上または障害年金受給者は5,000円以上)となるときは、収入基準である年間収入130万円未満(60歳以上または障害年金受給者は180万円未満)を超えるため扶養に入れません。 傷病手当金の受給が終わってから扶養に入れることになります。 ③住民票が別の同居している配偶者を扶養する ケースは少ないですが、さまざまな理由により同居している配偶者と住民票が異なる場合があります。 同居の事実が住民票で証明できないときは、民生委員等に「同居の証明」を書面(任意書式)で発行してもらい、証明します。 民生委員等には、事業主、町内会長、自治会長、大家なども含まれます。 民生委員とは、地域にて住民の相談などを受け行政や専門機関につなぐパイプ役などをしている非常勤の地方公務員です。 地域の民生委員については、市役所・区役所などで確認ができます。 ④別居している親を扶養する 実親であれば、別居していても扶養に入れることができます。 義親である場合は同居が扶養の条件になり、別居の場合は扶養に入れることはできません。 また、別居している扶養家族の収入基準は、以下すべてに該当しなければなりません。 ・年間収入が130万円未満(60歳以上または障害年金受給者は180万円未満) ・被扶養者の年収が被保険者からの仕送り額未満 そのため、仕送りの事実と仕送り額が確認できる書類の添付が必要です。 たとえば、振込みで仕送りしているときは預金通帳の写し、現金書留で仕送りしているときは現金書留の控えが必要です。 振込元、振込先、振込額(依頼主、届出先、送金額)が確認できるように準備します。 証明が難しいのは、現金の手渡しや現物支援(食料、衣料等)、世帯用のクレジットカードを使用させているなどのケースです。 合理的に認められる証明には、手渡しする現金を口座から引き出したことがわかる預金通帳の写しなどがあげられますが、スムーズに扶養認定をしたいときは、振込みや現金書留に切り替えての証明をおすすめします。 ⑤海外留学中の子どもを扶養する 留学している子どもを扶養にするケースです。 国内居住要件により、原則日本に住民票がある方のみ扶養が認められています。 ただし留学生や海外赴任に同行する家族など、日本国内に生活の基礎があると認められるときは、国内居住要件の例外として扶養者の認定が可能となっています。 海外留学中の家族を被扶養者にするときは、以下のいずれかの書類の写しが必要です。 ・ビザ(査証) ・学生証 ・在学証明証 ・入学証明証 など 留学のほか、ボランティア活動など就労以外の目的で一時的に海外渡航する家族など、ケースによって必要な書類が異なります。以下のサイトを参考にしてください。 参考|日本年金機構『健康保険法等の一部改正に伴う国内居住要件の追加』 ⑥海外赴任へ帯同する配偶者を扶養する 海外赴任が決まった従業員の配偶者が、退職して帯同するケースがあります。 留学するケースと同様に、国内居住要件の例外として扶養者の認定が可能となっています。 海外赴任に同行する家族を被扶養者にするときは、以下のいずれかの書類の写しが必要です。 ・ビザ(査証) ・海外赴任辞令 ・海外の公的機関が発行する居住証明書の写し など また、40歳以上65歳未満の被保険者が海外赴任することになったときは「介護保険適用除外等該当・非該当届」の届出を行います。 帯同する家族も同様の届出が必要です。 同行する家族が40歳以上65歳未満のときは、被保険者と被扶養者と2枚の届出を行います。 海外赴任の場合は、企業が被保険者の代わりに届書を記入して提出することができます。 参考|日本年金機構『介護保険第2号被保険者に該当したとき、該当しなくなったとき』 ⑦海外赴任先で生まれた子どもを扶養する 海外赴任している間に子どもが生まれ扶養にするケースです。 生まれた子どもとの続柄確認のため、以下のいずれかの書類の写しが必要です。 ・出生を証明する書類 ・赴任先の国の公的機関が発行する続柄確認できる公的な証明書 など 上記の書類が外国語で記載されているときは、日本語の翻訳文を添付します。 出生のほか、赴任先で婚姻した配偶者を扶養にするときは、続柄確認以外に生計維持を確認するための収入確認も必要になります。 赴任先の国によって、戸籍謄本や住民票、課税証明書など日本のような公的な証明書が取得できなかったり、時間を要することがあります。 公的な証明書の取得が難しい場合は、お早めに管轄の年金事務所にご相談ください。 ⑧姓が異なる子どもを扶養する 結婚や離婚、養子縁組など、姓の変更により姓が異なる子どもを扶養するケースがあります。 被扶養者の範囲内であれば扶養できますが「親子(家族)であることを証明できる書類」を添付する必要があります。 婚姻により、旧姓の父母を扶養にする場合であれば、本人の戸籍謄本の取得により親子関係の証明ができます。 そのほか、離婚により戸籍が別になった子どもを扶養にする場合は、本人(親)の戸籍謄本と子の戸籍謄本、世帯全員の住民票の取得により親子関係の証明ができます。 ⑨事実婚の相手を扶養する 事実婚や入籍前の同居から、扶養にするケースがあります。 この場合、「内縁関係であることを証明できる書類」と「同居していることがわかる書類」を添付します。重婚確認をするために、本人と事実婚の相手双方の戸籍謄本および世帯全員の住民票により証明をする必要があります。 ⑩夫婦共働きによる共同扶養の場合で子どもを扶養する 2021年8月より、健康保険上の共働き世帯の被扶養者の認定基準の取扱いが明確化されています。 共働きが当たり前になりつつあり、夫婦の年収が同程度となる世帯も増えてきています。 夫婦の年間収入について、年間収入の差額が年間収入の多い方の1割以内であるときは、届出により主に生計維持する方の被扶養者とします。 ここでいう年間収入は、過去・現時点・将来の収入等から今後1年間の収入を見込んだものです。 まとめ 今回は扶養認定について厳選した10選をお伝えしました。 扶養手続は、働き方やライフスタイルの変化に伴い特殊なケースも増えており、ひとつひとつの場合に応じて必要書類を準備した対応が必要です。 扶養認定の最終判断は管轄の年金事務所になりますので、特殊な扶養手続の場合は事前に必要書類についてご相談されることをおすすめします。 また、定年再雇用する従業員の同日得喪手続時の被扶養者異動届の提出忘れが見受けられます。 健康保険証を急がれている年齢の方を扶養家族としているケースも多いので、同日得喪時は扶養家族の手続もセットで覚えておいてください。
- 社会保険の扶養範囲と、健康保険証発行の基本的な流れ。
扶養には税法上の扶養と社会保険上の扶養の2種類があります。 この記事では、全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)に加入しているときの社会保険上の扶養について説明をしています。 婚姻や出産、配偶者や親族を扶養にしたいときなど、従業員から連絡を受けてからの手続と、健康保険証が発行されるまでの基本的な流れをお伝えします。 基本的な扶養手続の流れ 1 従業員・役員から扶養追加の依頼を受ける 婚姻や出産などの理由により、配偶者や親族を扶養追加したいと連絡があったときは、扶養情報を確認します。 扶養家族の氏名や異動日の間違い防止のためにも、以下の確認事項を記載した任意書式(扶養家族異動届など)を準備し、提出してもらうことをおすすめします。 また、年金事務所へ届出をするときは、扶養家族のマイナンバーがあると手続がスムーズです。 扶養追加する人のマイナンバーの収集も行ってください。 【扶養情報の確認事項】 ①扶養追加日 ②扶養追加の理由 ③扶養追加したい人の名前(ふりがな) ④生年月日 ⑤性別 ⑥従業員本人との続柄 ⑦同居の有無 ※別居時は住所の確認をしてください。 扶養家族が海外に留学しているときなどは「日本に住んでいない理由」を確認ください。 ⑧扶養者の職業と年間収入 ⑨夫婦共働きにより共同扶養のときは、共同扶養者の今後1年間の年間収入見込み 2 扶養家族に該当するかを確認する 健康保険では、被保険者(従業員本人)に扶養されている家族を被扶養者といいます。 被扶養者に該当するには「被扶養者の範囲」と「被扶養者の収入基準」のいずれも満たす必要があります。 【被扶養者の範囲】 被保険者の収入により生計を維持する、以下のいずれかに該当する家族です。 ・配偶者(内縁関係含む) ・子ども、孫、兄弟、姉妹 ・本人の父母、祖父母(配偶者の父母、祖父母は含みません。) ・同居の3親等内の親族 (伯叔父母、甥姪とその配偶者など) ・同居の内縁関係の配偶者の父母および子ども 【被扶養者の収入基準】 年間収入が130万円未満(60歳以上または障害年金受給者は180万円未満)で、かつ、同居の有無に応じて以下に該当する家族です。 同居のとき:被扶養者が被保険者の収入の半分未満 別居のとき:被扶養者の年収が被保険者からの仕送り額未満 ※被扶養者の年間収入に何が入るかは、以下「被扶養者の年間収入に含まれるもの」をご覧ください。 3 必要書類の案内をする 被保険者に、年金事務所へ届出するときに必要な書類を案内します。 【続柄確認ができるもの】 被扶養者の90日以内に発行された戸籍謄(抄)本、または住民票 (コピー不可、マインナンバーの記載がないもの) ※住民票は、被保険者が世帯主で扶養者と同居のときに限ります。 ただし被保険者、被扶養者のマイナンバーが届出できるときは必要ありません。 【被扶養者の年間収入がわかるもの】 ①年金額がわかる書類(年金額の改定通知書など) ②課税(非課税)証明書 ③給与明細書 ④離職票 など 同居で、被扶養者が学生のときや所得税法上の扶養親族(年収103万円以下)のときは、証明は必要ありません。 また、別居のときは、仕送り額がわかる書類(現金書留の控えや銀行の通帳のコピーなど)が別途必要です。 4 扶養家族の書類を作成し届出する 情報が集まったら、届出に必要な「健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)」を作成し、管轄の年金事務所または事務センターに届出をします。 手続は事実発生から5日以内となっており、手続が遅れると健康保険証の発行が遅れます。 参考・ダウンロード|年金事務所『従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き』 5 健康保険証と通知書が企業へ届く 1~2週間で、協会けんぽから企業宛に「健康保険証」が届きます。 到着後、健康保険証を従業員へ渡してください。健康保険証を紛失したときなどにスムーズに手続するためにも、健康保険証の番号を控えておくことをおすすめします。 3月4月の入退社が多い時期は年金事務所の処理も混雑します。ステップ4の扶養手続の届出日までにステップ1から3の対応を行っておくと、健康保険証をお急ぎの従業員への対応もスムーズにすすめることができます。 被扶養者の年間収入に含まれるもの 被扶養者の収入基準は、年間収入130万円未満(60歳以上または障害年金受給者は180万円未満)です。被扶養者の年間収入は、働いて得た収入以外にも失業保険、育児休業給付金、年金、不動産収入、障害・遺族年金、傷病手当金など、非課税対象の収入も含まれます。 以下を例に、被扶養者の収入に応じた必要書類を依頼してください。 【給与収入】 直近3か月の給与明細、雇用契約書 など 【事業収入等】 自営業による収入、不動産収入の直近の確定申告書 など 【その他の収入】 失業保険の雇用保険受給資格者証、育児休業給付金支給決定通知書、年金、障害・遺族年金、傷病手当金など受取金額の確認ができる通知書、課税(非課税)証明書 など 毎年確認が行われる「被扶養者状況リスト」とは 協会けんぽでは、毎年、被扶養者資格の再確認を実施しています。 今年は2022年10月上旬から11月上旬にかけて「健康保険被扶養者状況リスト」が企業宛に送付されており、対象は2022年9月10日現在の被扶養者(同年4月1日時点18歳以上)です。 本年の提出期限は2022年11月30日で、多くの企業は対応済みです。 毎年の定例業務のひとつになるため、労務担当者は定期的に従業員の扶養状況を確認することをおすすめします。とくに、大学生だった子どもが社会人になったときなどは、扶養解除の手続きに漏れが生じることがありますのでよくご確認ください。 参考|協会けんぽ『令和4年度被扶養者資格再確認について』 まとめ 今回は、社会保険上の扶養追加の基本についてお伝えしました。 近年、ライフスタイルや家族構成の変化によって、さまざまなケースでの扶養が増えています。 扶養認定が厳しくなる中、従業員への必要書類のアナウンスに悩むこともあります。 次回の記事では、ケース別の必要書類などをお伝えします。
- 賞与計算方法の基本。
初めて賞与を支給するときに知っておきたい、計算方法の基本を解説します。 賞与とは、毎月定期的に支給される給与とは別に、年1~2回、臨時で支給される賃金です。一般に「ボーナス」と呼ばれることも多いです。 賞与は通常の給与とは計算方法が異なるため、違いを理解することが必要です。 給与と賞与の違い 毎月の給与と賞与は、どちらも「賃金」になります。 給与と賞与の大きな違いは、「企業が支払義務を負うか否か」という点になります。 給与は、法令等で「毎月1回以上」「一定期日に」「全額を」「通貨で」「従業員に直接」支払わなければならないとされています。 月に一度支払日を定めて、その日に給与を支払うことは企業の義務です。 対して賞与には法的な支払義務はありません。 賞与を設けていない、賞与を支給しないとしても、法令違反とはなりません。 ただし、就業規則の給与規程や雇用契約書に「毎年6月末日と12月末日に、賞与を全従業員に支払う」など明確な規定がある場合は、企業は従業員に対する賞与の支払義務を負います。 これまで賞与を支給していた企業が、業績悪化によって賞与の支給時期を延期したり、不支給としても問題はありません。 その際は、あらかじめ「会社の業務状況などにより支給時期の延期、または支給しないことがある」などの規定が必要です。 賞与計算の基本 賞与計算の基本的な流れです。 1 賞与の支給額を決定する 企業において賞与で支給できる資金(賞与の原資額)を決定します。 次に賃金規程等に基づき、基本給や査定期間中の企業・個人の業績などに応じた査定を行います。 すべての従業員が納得できる評価制度を整備し、公正に実行することが重要です。 2 社会保険料を計算する 賞与支給時に控除する社会保険料は、給与計算時と一部異なります。 社会保険料を計算する際には、「標準賞与額」を使用します。 標準賞与額とは、総支給額(社会保険・税金などを控除する前)から1,000円未満の端数を切り捨てた額です。 (例)賞与総支給額:525,500円 標準賞与額 :525,000円 健康保険料(介護保険料)と厚生年金保険料は、従業員と企業が半額ずつ保険料を負担します。 ここからは、従業員負担分についての計算方法を説明します。 【健康保険料(介護保険料含む)】 標準賞与額に健康保険料率を掛けて計算します。 賞与支払月に40歳以上の従業員に対しては、賞与からも介護保険料を徴収する必要があります。 健康保険料率(介護保険料率含む)は、加入している健康保険の種類や都道府県などによって異なります。 都道府県ごとの保険料率、介護保険料率は、以下サイトの保険料額表よりご確認ください。 参考・ダウンロード|協会けんぽ『都道府県ごとの保険料額表』(令和4年3月分から) (大阪府の場合) 【厚生年金保険料】 標準賞与額に厚生年金保険料率(現在は18.3%)を掛けて計算します。 端数処理は、健康保険料(介護保険料)と厚生年金保険料ともに、原則50銭以下は切り捨て、50銭を超える場合は切り上げです。 ただし、労使間でこれまで慣習的な取り扱いなど特約がある場合は、すべて切り捨てしても差し支えありません。 【雇用保険料】 雇用保険料については、賞与支給額に雇用保険料率を掛けて求めます。 雇用保険料率は、通常の給与支給時と同じものになります。 3 所得税の計算をする 源泉徴収税率は、「前月の給与の総支給額から社会保険料を差し引いた金額」と「扶養人数」によって決まるため、人によって異なります。 源泉徴収税率は、国税庁のホームページに掲載されています。 参考|国税庁『賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表』 (例) 所得税を計算する人の情報 ① 前月の給与の総支給額-社会保険料を差し引いた金額を求める 300,000円-44,280円=255,720円 ② 255,720円と扶養人数2人の条件を満たす場合の源泉徴収税率を、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で確認をする ③(525,500円-26,827円-48,037円-2,627円)×2.042%=9,148円←所得税 算出した所得税に小数点以下の端数が出た場合、1円未満の端数は切り捨てます。 賞与計算時の注意点 賞与計算時の注意点と対応についてご紹介します。 1 退職予定者・退職者がいる場合の社会保険料の取扱い 退職を予定している従業員や、すでに退職している従業員に賞与を支払う場合には、退職日や支給日によっては健康保険料と厚生年金保険料を徴収しないことがあります。 企業が賞与から健康保険料と厚生年金保険料を徴収しなければならないのは、従業員の資格喪失日が属する月の前月までとなっています。 資格喪失日とは、退職日の翌日です。 退職が月末の場合、資格喪失日は翌月1日となり、それ以前に支給される賞与からは健康保険料と厚生年金保険料を徴収します。 退職が月末以外の場合には、退職月に支給される賞与からの保険料徴収は不要です。 (例1)賞与支給日:8月5日 退職日:8月20日 資格喪失日が8月21日になるため、8月5日に支払われる賞与から社会保険料を徴収しない (例2)賞与支給日:8月5日 退職日:8月31日 資格喪失日が9月1日になるため、8月5日に支払われる賞与から社会保険料を徴収する 賞与支払届については、資格喪失日までに支払われた賞与については届出をしてください。 雇用保険料については、退職のタイミングにかかわらず、退職予定者や賞与支払時点で退職している従業員からも徴収をします。 2 産前産後休業・育児休業中の従業員に賞与を支払う場合 2022年9月30日以前に開始した産前産後休業・育児休業の場合、休業期間に末日が含まれる月に支給された賞与については、社会保険料は企業・従業員ともに徴収されませんでした。 2022年10月1日以降に開始した育児休業等については、賞与の支払った月の末日を含んだ連続した1か月を超える育児休業を取得したとき、賞与の社会保険料が免除になります。 1か月を超えるかは暦日で判断し、土日等の休日も期間に含みます。 (出典)日本年金機構『育児休業等期間中の社会保険料免除要件が見直されます。』 3 賞与を年4回以上支給する場合 年4回以上賞与を支給する場合は、標準報酬月額の対象になります。 通常の賃金と合わせて社会保険料の計算を行う必要があるため、「被保険者報酬月額算定基礎届」を作成する際は注意する必要があります。 詳細は、以下をご覧ください。 参考|日本年金機構『算定基礎届の記入・提出ガイドブック ケース⑥賞与などが年4回以上支給されたとき』P11 4 社会保険料計算時の賞与額の上限の確認 社会保険料がかかる賞与の上限額が法令等で定められています。 【健康保険料(介護保険料):4月1日~翌年3月31日までの賞与の累計額573万まで】 (例) 8月200万円、12月300万円、3月100万円の賞与を支給する場合 8月200万円+12月300万円+3月100万円=600万円 →600万円ー573万円(上限額)=23万円 累計573万円を超えているため3月支給分のうち23万円には、健康保険料(介護保険料)はかかりません。 【厚生年金保険料:1か月の賞与額150万円まで】 (例) 8月200万円、12月300万円、3月100万円の賞与を支給する場合 ①8月200万円-上限額150万円=50万円 ②12月300万円ー上限額150万円=150万円 8月、12月は上限額150万円を超えているため、①50万円分、②150万円分には厚生年金保険料がかかりません。 賞与支払届については、社会保険料計算時の賞与額の上限を超えていても、支払った金額で届出をしてください。 まとめ 賞与は毎月の給与と違い支給回数が少ないため、計算時に基本の流れと注意点を確認しながら進められれば、難しいものではありません。 現在では給与計算ソフト等で処理を進めることもできますが、従業員から質問が来た際にスムーズに回答ができるよう、基本の流れについて改めて確認されることをおすすめします。
- 【2022年度版】流行前のインフルエンザ対策について。
毎年、季節性インフルエンザが流行しています。 一般的な風邪と違い、インフルエンザウイルスの感染でかかる病気です。 高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の症状が突然現れます。 季節性インフルエンザは流行性があり、いったん流行が始まると短期間で職場内感染が広がるケースも見受けられます。 今回の記事では、季節性インフルエンザ(以下、インフルエンザ)の流行前に企業がおさえておくべきポイントについてお伝えします。 流行前に企業が決めておくこと 一般的に、インフルエンザ発症前日から発症後3〜7日間は鼻やのどからウイルスを排出する時期といわれています。 この時期は人に感染させるリスクが高まりますが、インフルエンザには出勤停止期間を定める法律がないため、企業のルールを就業規則に定めておく必要があります。 インフルエンザの欠勤連絡を受ける度に異なる対応になったり、対応の遅れで業務への支障が出ないよう事前の対策をおすすめします。 【流行前に決めておきたい項目】 ・出勤停止期間 ・従業員やその家族がインフルエンザに感染したときの企業への申告方法 ・有給休暇の当日・事後取得の可否 ・発熱した従業員へのインフルエンザ検査の命令基準 ・受診命令した時の賃金支払いや受診料の負担 ・休業時の連絡方法 ・業務の引継ぎ方法 など インフルエンザに感染した従業員が、出勤停止期間の早い段階で熱が下がり、症状が快復することもあります。 働ける健康状態であっても、感染防止のため出社を控えてもらうときは休業手当の支払が必要になります。 出勤停止期間を検討するうえで、学校保健安全法の出席停止期間も参考になります。 厚生労働省のインフルエンザQ&A(Q17)をご覧ください。 参考|厚生労働省サイト『令和4年度インフルエンザQ&A』(Q17) 休んだときに利用できる傷病手当金 インフルエンザに感染して仕事ができないとき、社会保険の被保険者は傷病手当金の支給対象になります。 ここでは、協会けんぽの傷病手当金について記載しています。 傷病手当金とは、業務外の理由による病気やケガで仕事ができず、企業から給与の支払いがないときに、健康保険から生活保障として支給される手当です。 支給を受けられるのは、休業している期間が4日以上あるときです 欠勤した日から最初の3日間(待期期間)は支給されず、4日目から支給されます。 支給額は以下の計算式で算出した額になります。 【傷病手当金の支給額の計算】 (出典)全国健康保険協会サイト『病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)』 傷病手当金は同一の疾病に対して通算1年6か月支給されます。 しかし、インフルエンザは原因となるウィルスが複数あるため、感染するたびに「別の疾病」の扱いになり、感染の都度、傷病手当金を受けられます。 有給休暇と傷病手当金のどちらを取得するのか 同じ日に有給休暇と傷病手当金の両方を選択することはできません。 どちらを取得するかは企業が一方的には決められず、企業のルールを踏まえ、最終的には本人の判断に委ねられます。 判断のポイントは以下の通りです。支給額や支給される日が異なります。 【有給休暇】 取得日ごとに1日分の賃金が企業から支給されます。 企業の公休日は有給休暇を取得できないため、賃金の支給はありません。 【傷病手当金】 1日分の賃金より低い額になります(上記【傷病手当金の支給額の計算】を参照)。 企業の公休日も支給されます。 有給休暇を事前申請としている企業では、当日申請や事後申請を受け付けていないケースもありますので、有給休暇のルールは就業規則を確認してください。 有給休暇がない従業員は、傷病手当金の申請を進めることになります。 待期期間の3日間を有給休暇、4日目から傷病手当金など組み合わせることもできます。 家族がインフルエンザにかかったとき 本人ではなく同居している家族がインフルエンザに感染するケースがあります。 対応例については以下の通りです。 【対応例】 ・一定期間、休業をさせる(業務命令の休業になるため休業手当の支払が必要) ・テレワークが対応可能か検討する ・特別休暇を取得させる ・本人の希望があれば有給休暇を取得させる ・小学校就学前の子どもが感染したときは「子の看護休暇」の利用を推奨する など 感染予防のための企業内周知 何より、インフルエンザに感染しないことが大切です。 1人1人が「感染しない」「感染させない」意識を持ち、咳エチケットや手洗いなどを徹底しましょう。 疲労が溜まっていたり、睡眠不足のときは免疫力が低下します。 普段から十分な睡眠とバランスのよい食事を心がけることで免疫力も高まり、感染予防に繋がります。 厚生労働省の「今冬のインフルエンザ総合対策」のサイトでは、感染防止やワクチンなどの情報がまとめて掲載されており、予防啓発のためのポスターも用意されています。 参考|厚生労働省サイト『令和4年度 今冬のインフルエンザ総合対策について』 参考|厚生労働省『咳エチケット』 参考|厚生労働省『正しい手の洗い方』 まとめ インフルエンザは感染力も強く、毎年約10人に1人が感染しています。 インフルエンザで急に欠勤する従業員が出たときのため、業務の引継ぎや連絡方法などをあらかじめ決めておくと、従業員の不安も軽減されます。労務担当者として、事前に対応策を準備しておくことをおすすめします。
- 【保存版】有給休暇にまつわる疑問の解消と基本対応。
年次有給休暇(以降、有給休暇)は、出勤日に労働を免除する制度です。 有給休暇を付与する対象者と、付与する日数は法令等により定められています。 従業員は有給休暇を取得した日にも賃金が支払われます。 2019年4月、有給休暇の改正がありました。有給休暇の年5日の取得義務化です。 有給休暇が年10日以上付与される従業員に休暇を5日以上取得させることは、人手不足が深刻な中小企業にとっては人員配置や管理面で負担の大きな改正となりました。 しかし有給休暇取得は、法律で定められた従業員の権利です。 今回の記事では、改めて有給休暇の基本を解説します。 長い記事ですが、保存版としてお役立てください。 有給休暇を付与する対象者 有給休暇を付与する対象者は、正社員、パート、アルバイトなどの雇用形態に関係なく、以下のいずれにも該当する従業員です。 ①入社して6か月を経過している ②有給休暇の付与日前の1年間(初回は半年間)の全労働日の8割以上を出勤している 要件②の「8割以上の出勤率」は、以下の計算式で算出します。 出勤率は、「日」単位で計算するため、遅刻や早退した日は出勤した日とします。 また、実際の出勤日数には、以下の出勤したとみなす日も含めて出勤率を算定します。 【出勤したとみなす日】 ・有給休暇を取得した日 ・業務中の労災で休業した日 ・産前産後の休業を取得した日 ・育児休業、出生時育児休業、介護休業を取得した日 出勤予定日数から除く日にも注意が必要です。 【出勤予定日数から除く日】 ・企業の都合により休業した日 ・休日出勤をさせた日(法定休日、企業で決めている休日) ・正当なストライキ、その他の正当な争議行為により労務が全くなされなかった日 付与日数と保有について 有給休暇の付与日数は、入社してからの継続勤務年数によって異なります。 入社後6か月経過した翌日が、はじめての有給休暇の付与日です。 以降、初回付与日が基準日(この記事では、付与基準日とします。)となり、1年ごとに付与日数が増えていきます。 付与日数は、正社員と所定労働日数が少ないパート・アルバイト等で異なります。 原則の付与日数となる正社員に対し、所定労働日数が少ないパート・アルバイト等の付与日数は、所定労働日数に応じて比例付与されます。 また、有給休暇の時効は2年です。 業員は、前年度分の未使用分と本年度に付与された有給休暇を足した日数を保有することになります。 【正社員(原則)】 正社員以外であっても、以下1つ以上該当する場合は上記の表をご覧ください。 ・週の所定労働日数が5日 ・週の所定労働時間が30時間以上 ・年間の所定労働日数が217日以上 【所定労働日数が少ないパート・アルバイト等(比例付与)】 以下のすべてに該当する場合は、上記の「週の所定労働日数」の欄をご覧ください。 ・週の所定労働日数が4日以下 ・週の所定労働時間が30時間未満 また、所定労働日数が少ないが、週の所定労働日数が決まっていない働き方をする場合は、上記の「1年間の所定労働日数」の欄をご覧ください。 原則、有給休暇の付与時点で予定されている今後1年間の所定労働日数に応じた日数で判断します。 しかし、月や季節によって勤務シフトがさまざまで、予定されている所定労働日数を算出しがたいときがあります。そ のようなときは有給休暇の付与直前の実績を考慮して算出することとして差し支えありません。 有給休暇を取得したときの賃金 有給休暇の賃金は、以下の3つから選択できます。どの計算方法で支払うかを決めたら、就業規則に記載します。 ①その日に働く予定だった通常の賃金 ②平均賃金 ③(社会保険に加入している場合)標準報酬日額 有給休暇の賃金では①がよく使われます。 月給であれば、有給休暇を取得した日は賃金控除をしません。 時給のときは「出勤していれば勤務していた時間 × 時間給」になります。 ②の平均賃金は、過去3か月間に支払った賃金を合計し、その期間の歴日数で割って計算します。 時給制の従業員のときは、AまたはBのどちらか高い方になります。 A 賃金総額/歴日数 B 賃金総額/労働日数×60% ③の標準報酬日額は、健康保険で決められている報酬月額を1/30した金額です。 こちらの方法を選択するためには企業と従業員代表者と労使協定書(有給休暇の賃金に関する協定書など)を結ぶ必要があります。 社会保険に加入していないアルバイト・パート従業員には使えません。 有給休暇の管理方法 有給休暇の管理は、有給休暇管理簿(任意書式)で行います。 企業には有給休暇管理簿の作成と保管が義務付けられており保管期間は、有給休暇を付与した期間および期間満了から5年(当分の間3年)です。 有給休暇の取得や付与を行った場合は、都度、有給休暇管理簿に記録します。 有給休暇は、労働基準監督署の定期調査で調査項目のひとつとなることも多いため、日頃から適正に管理することで、調査時にも焦らず準備ができます。 【有給休暇管理簿に必要な記載項目】 ・付与基準日(従業員に有給休暇を付与した日) ・取得日数(従業員が有給休暇を取得した日数、半日休暇、時間単位も含む) ・取得時季(従業員が有給休暇を取得した日付) 必要なときにいつでも出力ができる状態であれば、勤怠管理システム上で管理を行っても差し支えありません。 また、勤怠管理システムを利用する場合、上記の記載項目が必ずしも同じ帳票内で表示されている必要はありません。 必要な記載項目を出力し組み合わせて確認できる状態であれば、有給休暇管理簿を作成していると認められます。 参考・ダウンロード|福井労働局『年次有給休暇管理台帳』 有給休暇にまつわる疑問を解消 よくある疑問と対応をご紹介します。 1 パートタイマーが付与基準日直前で正社員に変更になったときの付与日数 有給休暇は、付与基準日時点の所定労働日数で付与日数を判断します。 出勤率を判定する有給休暇の付与基準日前の1年間がパートタイマーで、所定労働日数が少なかったとしても、付与基準日時点で正社員であれば原則の付与日数の表を適用します。 2 有給休暇の取得は、前年度分と本年度分どちらから取得するか 有給休暇の取得のとき、前年度分と本年度分のどちらから消化させるかは、企業が定めるルールによります。 多くの企業は前年度分から消化するというルールをとっています。 就業規則に記載をすれば本年度分(後に付与されたもの)から消化することもできます。 3 有給休暇の買取りはできるか 有給休暇の目的は、従業員が仕事を離れ、心身の疲労の回復などを行えることにあります。そのため、有給休暇の取得を阻害する有給休暇の買い取りは原則できません。 ただし、以下の買い取りは法令等に違反するものではないとされています。 ①法定を超えた日数の有給休暇 ②退職時に消化できなかった有給休暇 ③有給休暇の付与日から2年経過し時効で消滅した有給休暇 買い取るかどうか、買い取ったときの金額は企業が自由に決められます。 ➂については、毎年付与される有給休暇を取得しない従業員が増え、有給休暇の目的から外れてしまう可能性が高くなるのでおすすめしません。 4 付与基準日より前に有給休暇の前借りはできるか 付与基準日より前に有給休暇の前借りはできません。 前借りした有給休暇の日数を付与基準日に付与される有給休暇から差し引くと法令違反になります。 前借りに似たような言葉に「前倒し」があります。 有給休暇を付与基準日より前倒しにして付与することはできます。 有給休暇の前倒しを行ったときの1年間の付与基準日は、前倒しを行った日になります。 5 有給休暇の申請のとき理由を必ず提出させることはできるか 有給休暇の理由を必ず提出させることはできません。 有給休暇は従業員の権利のため、取得理由によって企業が取得できるかを判断したり、理由を強制することはできません。 しかし、理由を聞いてはいけないわけではないため、有給休暇申請時に理由欄を設けることは問題ありません。 有給休暇を取得しやすくするための取り組み事例 有給休暇を取得しやすくするための方法をご紹介します。 【半日単位年休の導入】 有給休暇は、1日単位での取得が原則です。1日とは午前0時から24時を指します。 法令等上、半日単位で付与する義務はありませんが、企業が就業規則で半日休暇の運用を認めることで、短時間で利用したい従業員の有給休暇の促進に繋がります。 半日単位年休を導入するときは「半日」の基準は企業が決めることができます。以下、参考にしてください。 ・1日の所定労働時間を按分する方法(例:9:00~13:00、14:00~18:00) ・正午を半休の境として決める方法(例:9:00~12:00、13:00~18:00) また、有給休暇の年5日の取得義務日数にも0.5日として含めることができます。 【時間単位年休の導入】 半日単位年休と同じく、法令等上、時間単位で付与する義務はありませんが、労使協定を締結すれば、年5日の範囲内で時間単位での取得が可能となります。 半日単位よりもさらに短い単位での利用が可能となるため、通院や学校行事などを必要とする従業員に喜ばれます。 ただし、有給休暇の年5日の取得義務日数には含めることができませんのでご注意ください。 就業規則や労使協定の締結については、以下を参考にしてください。 参考|厚生労働省『時間単位の年次有給休暇制度』 【計画的付与の導入】 計画的付与とは、企業が前もって計画的に休暇取得日を割り振りし有給休暇を取得させることを指します。 労務管理面でも計画的に有休消化が進むというメリットがあり、従業員はためらいを感じることなく休暇を取得できます。 計画的付与は、従業員の付与日数から5日を除いた残りの日数を対象にできます。 企業全体の一斉付与、交代制、個人別付与方式などがあります。 夏季や年末年始に計画的付与を組み合わせ、大型連休とすることもできます。 (出典)厚生労働省『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』P14 計画的付与の導入時には、就業規則の変更や労使協定の締結が必要になります。 以下を参考にしてください。 参考|厚生労働省『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』P18 【取得推奨日の設定】 有給休暇を取得しにくい環境で、休むことをためらう傾向がある従業員がいる場合は、取り組みの一つとして、企業が有給休暇の取得推奨日を設定することもおすすめです。 (有給休暇の取得推奨日 例) ・夏季休業や年末年始休暇の前後 ・暦日の関係で休日が飛び石となっているとき、休日の間にある平日 ・企業の閑散期の土曜出勤日 ・従業員や配偶者、扶養家族の誕生日をアニバーサリー休暇とし推奨する など 【付与基準日の統一】 法令等では、入社後6か月経過した翌日が有給休暇の付与基準日になります。 従業員ごとに入社日が異なるため、従業員数が多い企業では有給休暇の取得状況の管理が大変です。 全社的に付与基準日を統一すれば、統一的な有給管理が可能となります。 また部署ごとの取得計画や実施状況を確認しやすくなるため、取得できていない従業員がいるときは、所属長への確認や改善がしやすくなります。 (付与基準日の統一 例) ・年始(1月1日) ・年度初め(4月1日) ・企業カレンダーの初日 ・企業の給与計算期間(勤怠)の初日 など 付与基準日を統一するときは、就業規則の変更が必要です。 また統一した初年度のみ、有給休暇の年5日の取得義務化のカウント方法が異なりますのでご注意ください。 参考|厚生労働省『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』P9 まとめ 有給休暇の取得が進んでいる企業は、人員配置の面での業務効率化や業務の属人化の解消、チーム内情報共有などの取り組みも同時に進められていることが多いでしょう。 有給休暇を取得しやすい職場は、仕事と生活のバランスが取りやすく、従業員の定着にも繋がります。 記事を参考に、有給休暇の管理方法の確認と、企業の有給休暇の取得率向上にお取り組みください。
- 労務担当者が知っておくべき退職時に必要な手続と注意点。
従業員の退職時にはさまざまな手続があり、退職者とのトラブルを避けるためにも正しい流れでの手続が必要です。 しかし退職時の手続は退職者がコントロールできることではありません。 法令で決まっていることも多くあるため、企業内の労務担当者の知識が求められます。 この記事では退職時に必要な手続と、注意点を解説します。 退職届を提出してもらう 退職届の提出は、法令等では義務ではありません。 しかし従業員から退職の意思を明確に受け取り、トラブルを防止するという観点からも、提出を求めてください。 退職届は任意書式のため、あらかじめフォーマットを作成し、就業規則で退職届の提出日(退職日の〇日前)を明確にしておきます。 従業員から退職届を受け取った後は、退職日や引継ぎのスケジュールなどを決めて進めていきます。 退職理由欄に「一身上の都合」と記載してくるケースが多く見られますが、妊娠、育児、介護、疾病などが理由のときは、その旨を記載してもらいます。 離職票作成時に退職理由の記載が必要となり、理由によっては失業保険をもらえる日数などが優遇される場合があるからです。 退職時に貸出している備品などの返却してもらう 退職する従業員に貸与している備品や、名刺・社員証など従業員であることを証明するものを返却をしてもらいます。 その際、会社支給のパソコンや携帯電話などが返却されていないことを理由に、最後に支給する給与などから一方的な備品費用の控除はできません。 事前に労使協定で「退職時にパソコンを返却しなかったときは〇〇円支払う」などの合意を取っていたとしても、法令違反となります。 雇用保険の手続 雇用保険に加入していた従業員の退職時には、雇用保険の資格喪失と離職票の発行の手続が必要ですが、本人が希望しないときは離職票を発行しなくても差し支えありません。 しかし退職時に59歳以上のときは、本人が希望しなくても発行が必要です。 雇用保険の資格喪失手続は退職日の翌日から10日以内に管轄のハローワークで行います。 最終月の給与が確定していない(未計算)ときでも手続は進められます。 社会保険の手続 社会保険(厚生年金・健康保険)に加入していた従業員の退職時は、社会保険の資格喪失の手続が必要です。 手続は退職日の翌日から5日以内に管轄の年金事務所または事務センターで行います。 健康保険は退職日の翌日から20日以内に本人が手続を行えば「任意継続」でき、 今までと同じ保険者(協会けんぽなど)に加入できます。 ただし、厚生年金には任意継続の制度がないため、退職後は転職先の厚生年金または国民年金に加入になります。 退職証明書 退職証明書は、退職者(退職予定者)から希望があったときに企業が発行する書類(任意書式)です。 証明の項目は以下になり、本人が希望した項目のみ証明します。 本人から発行の依頼があれば退職後2年間は対応しなければなりません。 企業が発行を拒んだときは法令等違反となり30万円以下の罰金に課せられる可能性があります。 【退職証明の項目】 ・ 使用期間 ・ 業務の種類 ・ その業務における地位 ・ 賃金 ・ 退職の事由(解雇のときはその理由) 源泉徴収票 年度途中で退職した従業員には源泉徴収票を発行する必要があります。 本人が発行を希望しなくても、退職日から1か月以内に発行し、本人へ渡さなければなりません。 企業が源泉徴収票の発行を行わなかったときは法令等違反となり、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられる可能性があります。 住民税 住民税の納付方法は2種類あり、毎月の給与から控除して本人に代わって市町村に納付する「特別徴収」と、本人が直接市町村に納付する「普通徴収」があります。 特別徴収がされているときは、退職月などによって処理が異なります。 【1月1日~5月31日の間に退職するとき】 本人の希望の有無にかかわらず、残りの住民税を退職時の給与や退職金などから一括徴収し、本人に代わり企業が市町村に納付します。 ただし、一括徴収する額が給与や退職金などを超えるときは、普通徴収に切り替えることができます。 【6月1日~12月31日の間に退職するとき】 退職月の翌月以降は普通徴収になるため、企業が市町村に納付しなくてもよくなります。 ただし本人が退職時に希望すれば翌年5月までの住民税を一括徴収し、企業が市町村に納付することもできます。 【退職後、すぐに就職するとき】 すでに転職先が決まっている従業員から「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」の発行を依頼されるケースがあります 発行された「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を転職先の会社から市区町村へ提出してもらうと、特別徴収が継続されるため、転職後の住民税の納付がスムーズになります。 発行依頼があったときは、作成し渡すようにしてください。 退職手続で注意すべきこと 1 有給休暇の買い取りはしなければならないのか 有給休暇の買い取りは原則できません。 ただし、退職日が決まっており、退職の申出から退職日までのあいだに有給休暇の残日数分の出勤日がなく、有給休暇を取得しきれなかったときは企業が取得しきれなかった有給休暇を買い取ることは可能です。 2 退職代行を使われたときの注意点 最近、従業員の代わりに退職意思を企業に伝える「退職代行」が増えています。 退職代行の運用者は、弁護士、労働組合(ユニオン)、民間企業の3つに分けられます。 退職代行から連絡があったときは、まずは弁護士かどうかを確認してください。 弁護士であれば退職手続(有給休暇の消化、退職日、退職金などの条件)の話ができますが、それ以外のときは手続の話ができません。 弁護士以外の退職代行業者ができるのは、本人の退職意思を伝える使い(使者)の範囲です。 弁護士以外が退職の条件交渉などの行為を行うことは、法令等違反にあたります。 弁護士かどうかを確認した後は、退職の意思をもつ従業員が誰かと、本人からの依頼かどうかの確認(書面で提出してもらうなど)を行い、退職届を郵送、FAXなどで本人から提出してもらってください。 まとめ 退職時は手続や確認項目が多いため、スケジュール表やチェックリストを作成し、管理をしておくと便利です。 手続が遅れると、退職者にとっては、次の就職先へ必要な情報が提供できず、国民健康保険などへの手続が遅れるなどの不利益が生じます。